保須市。
最近ヒーロー殺し“ステイン”が出没してプロヒーロー“インゲニウム”が負傷したとニュースで話題になっている。
警察やヒーローは巡回や人員を増員して警戒を強めているものの、未だに逮捕どころか発見にも至っていない。
それでも人々の日常は巡っていく。
表向きには平穏、変わらぬ日常を街全体で過ごして居る………
昼までは何ともなかった日常はたった数時間で保須市は非日常へと叩き落された…。
突如として現れた脳無の群れ。
一体一体は雄英高校でオールマイトと戦った
だがそれは比べる対象が強すぎるだけの事。
プロヒーローの多くをオールマイトと比べるようなものだ。
一般人にとってもプロヒーローによっても脅威に成りえるだけの能力は十分に持ち合わせている。
暴れ回る脳無に逃げ惑う人々。
何とか対応しようとする数で勝る警官にヒーロー達。
されど手強い脳無達は広がって広範囲に被害を拡大して、避難誘導だけでも手一杯な状況。
そんな状況の中で路地裏ではヒーロー殺しのステインの凶刃が振るわれようとしていた。
対峙するのは負傷させられた“インゲニウム”を兄に持つ飯田 天哉。
彼は職場体験で保須市で活動しているプロヒーロー“マニュアル”にお世話になっていた。
しかしながらそれはマニュアルから学ぼうという考えではなく、兄に大怪我を負わせたステインへの復讐。
ステインは各地で被害を出しているが毎回四名以上という決まりがあり、まだインゲニウムしか襲っていない為にまだ保須市で活動しているだろうと踏んで職場体験先に選んだのだ。
執念の結果か飯田 天哉は探していたステインを発見する事が出来た。
それも今にも凶刃をプロヒーローに振るわんとしていた矢先に。
飯田 天哉は恨み辛みを胸に
結果は
圧倒的な程の実力差。
この結果は当然というべきであっただろう。
なにせステインは多くのプロヒーローと戦い、勝利を重ねてきた猛者である。
それが加えて子供だからと手加減をすることなく排除すべき対象として対峙し、憎しみに囚われ視野の狭くなったヒーローの卵の相手をしたのだ。
地面に横たわり、身動き一つ出来ない飯田はステインを殺意を込めて睨みつける。
許せない。
インゲニウムと兄弟であるという事も理由の一つであるが、努力を重ねて人々を助ける兄は理想のヒーローで憧れだった。
それを
他に襲われたヒーローは命を奪われたり、再起不能な怪我を負わされたりしているのを考えれば、完治すれば復帰できるインゲニウムはまだ軽い方なのかもしれない。
だからと言って許せる訳も道理もない。
ヒーローの夢を抱かせてくれた兄にあんな目に合わせたヴィランを
「復讐か……ハァ、私欲に駆られた贋者。だから
「黙れ悪党!兄さんは多くの人を助け、導き、救ってきた立派なヒーローなんだ!!」
個性の影響か動かない身体に力を込める。
されと刺された右腕と左肩が痛むばかりで全くと言っていい程に動かない。
どうしてという疑問よりも憎しみで心が満たされていく。
「お前が……潰して良い理由なんてないんだ………!殺してやる!!」
いつもの飯田からは出ないほどの殺意と憎悪の籠った一言が漏れた。
だが向けられたステインはため息一つ吐き出して呆れたと言わんばかりに見下ろす。
「まずアイツを助けろよ」
たった一言。
示された方向には見つけた時に襲われたヒーローが動けずに倒れ込んでいる。
死んではいない。
否、殺される直前でステインを見つけた飯田が割り込んだことでトドメを刺されずにいるが怪我は負っている。
「
思いもしなかっただろう。
ヴィラン…それも兄を傷つけたヴィランにヒーローの何たるかを説かれるなど。
しかしその言葉は荒れ狂った飯田に正しいと理解出来た。
自分は負傷した者を見もしないで、ただただ自身の復讐心を満たす事ばかり考えていた。
事実、誰も救えない。
「じゃあな、正しき社会への
振り上げられた凶刃が自身に向けて振り下ろされる。
脳裏に過るは兄さんが僕にヒーローとして期待を抱いていた光景や友人たちと共に雄英高校でヒーローを目指す日々。
ヒーローを目指していた身としてはあるまじき行為に走った事に後悔しながら、それでも迫る死の恐怖より眼前に居るステインへ憎しみを向ける。
ナニカが爆ぜる音がした。
ソレは風切り音を連れながら、電流のような緑色に光を身体に纏って現れた。
「SMAAAAASSH!!」
物凄い速度で頭上を跳び越えた
さすがに一撃で倒れる事はなかったが吹っ飛ばされただけのダメージは入っている。
自身は掠りもしなかった相手に一撃を入れた。
その事実よりこの場に彼が居る事に心底驚く。
「何故…君がここに…」
「助けに来たよ、飯田君!」
降り立った緑谷 出久はステインへ最大限の警戒を向けながら、周囲で倒れているヒーローと飯田に気を配りながら構える。
いつもなら「助かった」などと口にするところだが、今の飯田には自身の命は悪い意味で勘定に含まれていない。
ただ目的であるステインを自身の手で倒す事しかない。
ゆえにここに居ては駄目なのだ。
ヒーロー殺し“ステイン”を
街中に被害が拡散している中、保須市はある意味で幸運であった。
普段ならここにいる筈のないヒーロー達が脳無による被害に対処しようと動いたのだから。
ナンバー2のプロヒーロー“エンデヴァー”。
彼はヒーロー殺し“ステイン”が保須市に出没してから情報収集を行っており、今までの事件に比べて被害者が少ない事からまだ保須市に潜伏していると判断。
ステインを捕縛する為に訪れていたのだ。
そして緑谷の職場体験先であるグラントリノ。
こちらは本当に偶然であった。
ワン・フォー・オール・フルカウルの感覚を掴み始めた緑谷を鍛えるべく、ヴィラン事件で実戦を詰ませるべく向かった渋谷でのヒーロー活動の帰り、乗っていた新幹線が保須市に差し掛かったところで一体の脳無が突っ込んで来たのだ。
突如襲って来た脳無を相手するには新幹線内は狭すぎる。
乗客にも被害が出る可能性もあり、脳無を押し出す形で保須市に降り立ったグラントリノは被害が広がっている現状から脳無の制圧に乗り出したのだ。
この参戦は非常に有難いものであった。
なにせ脳無一体に対して複数人でようやく相手を出来る状況が、一対一で圧倒出来る実力者が二人も参戦したのだから。
そして職場体験でエンデヴァーの下に訪れていた扇動や焦凍もこの騒動に巻き込まれていた。
ヒーローであろうが市民であろうが無差別に襲い掛かる脳無。
その前に跳び出したのは全身を覆うコスチュームを纏った扇動であった。
狙いを扇動に向けた脳無は殴りかかるも半歩下がって身体を捻る事で簡単に回避され、近づいた所を鳩尾に肘内を叩き込まれてうめき声を漏らす。
隙を逃さぬように心臓部に掌底、顎にアッパーを喰らわしてダメージを与える。
だが、さすが脳無と言うべきかそう簡単に倒れそうにない。
「タフだな。性能テスト相手には充分か」
「無理するなよ扇動!」
扇動も焦凍も保須市でのヒーロー活動に参加できないでいた。
非常に残念な事ではあるが法律上ヒーロー免許を有していない二人が、好き勝手にヒーロー活動を行う事は良しとされてはいない。
特に個性の使用となると厳しく、最悪監督者が責任問題を問われる事態に成り兼ねない。
焦凍はだからと言って放っておけるかと参戦しようとするも、焦る気持ちを扇動が推し留めたのだ。
ルールを無視するのは最終手段。
不必要にルールを破るのはヴィランと変わりなく、それまでは最善の行動を行うべきだと説得した。
とは言っても保須市の地理に詳しい訳でもないので避難誘導は難しく、逃げ遅れた住民の手助けをするのがやっとである。
その最中、扇動は避けられないとして脳無と戦闘を行っている。
扇動が行うのであれば個性の行使はあり得ない。
「俺も手伝うか」
「いらん。これはヒーロー活動じゃねぇ。
「その言い分は警察でなくとも大丈夫なのか?」
「一般市民には捜査権がないだけで逮捕権はあるんだよ。俺の場合は苦しい言い訳程度に使わせて貰っているがな…」
現在扇動はサポートアイテムを満載したコスチュームを使用している。
職場体験で現場に出るかもと言う可能性から発目より実験機である“仮面ライダーG3”の
おかげで脳無相手にも戦え、さらに詳細な戦闘データまで入手出来るのだけど、未だ実験機と言う事で使い辛さや稼働時間が短く実戦向きではない。
逮捕に関しては大丈夫かも知れんが、この装備を使用した件は怒られるかなと苦笑いを浮かべる。
すると二人の携帯が突然鳴り出した。
当然戦闘中の扇動は見れない為に焦凍が確認を取る。
「扇動!緑谷から座標が一斉送信された」
「座標?どこ…だって!」
「この近くだ」
再び襲い掛かって来る脳無の攻撃を流して、急所と呼ばれる部位に打撃を叩き込む。
痛みはあるのか呻きはすれど、決して倒れる様子がない。
何らかの個性かと疑いを持ちながら戦う扇動は焦凍の返しに小首を傾げる。
グラントリノの下へ職場体験をしている事は知っている。
されどグラントリノの事務所はここから遠い筈。
なのに何故と疑問への答えを巡らそうとするも、思案を邪魔するように脳無が襲い掛かって来る。
悪態をつきながら何かを思い立ったのか走り出そうとした焦凍を呼び止める。
「焦凍!
「あぁ、大丈夫だ」
「良いか、必要だと思ったら個性を使えよ。躊躇ってやられるなんて洒落になんねぇからな!」
「行こうとしといてなんだが、お前は大丈夫か?」
「大丈夫そうだから行こうとしたんだろ?なら問題ねぇよ。行け!」
意を決した焦凍は扇動のトランクケースを持って走り出す。
トランクケースには発目が「職場体験に行くんですよね!!」と押し付けてきた
…と、いっても押し付けようとしたのは量が多かったのでかなり選別して少なくしているが…。
「さすがにフォーゼのロケットは持ってこれなかったしなぁ…」
効いていない訳ではないが、それでもかなりタフな脳無を前にしてパワーローダーに持って行くのを禁止されたサポートアイテムを思ってぼやくも無い物は無いで諦めるしかない。
それ以前に戦った感触から雄英高校襲撃時に居た奴よりかなり性能は劣り、再生能力やショック吸収と言った個性を持ち合わせてはいないようで、自身と“仮面ライダーG3”の
稼働時間は残り少なく、エンデヴァかバーニンに念のために緑谷の座標などを伝えておきたいし、変にヒーローが来て止められる前にさっさと片付けなければ。
何が起こっているか分からないがとりあえず緑谷との合流を急ごうと扇動から攻めに出た。
緑谷 出久は困惑していた。
グラントリノと共に渋谷でヴィラン退治を行った帰り、保須市辺りを乗っていた新幹線が通った際に飯田の事が気にかかった所で、雄英高校を襲撃してきた脳無に似た者が突っ込んで来て内部はパニック。
脳無を押し出すように飛び出して行ったグラントリノは「乗ってろ!」と待機を命じたけれど、やっぱり飯田君の事も今の脳無の事も気がかりで跳び出すと街中の至る所で脳無との戦闘や火災などが起こっていた。
どうすべきかも定かではない状況下で一人のヒーローに言葉が耳に停まった。
それは急に居なくなった飯田を探しているプロヒーロー“マニュアル”。
名前を呼びながら探し回っている事と、ここかインゲニウムがヒーロー殺しに負傷させられた事からもしかしてと路地裏を駆け巡った。
その甲斐あって負傷している飯田を見つけ、剣を振り下ろされそうになっていたところを間一髪で助ける事が出来た。
ここまででも街の状況に脳無達などなど困惑する事多くあれど一番は飯田の言動である。
普段の礼儀正しさは消え去った代わりに憎しみを現しするばかりか「君には関係ない!」と言い放つ。
インゲニウムを…お兄さんを傷つけられて頭に来ているのは分かるが、それでも“らしく”なさ過ぎる。
負傷している事から大通りに出てプロの応援を呼んで欲しいところであるが、何やら個性で動けないらしく凌ぐしかない。
対峙してピリピリと肌がひり付くほどの威圧感がステインより放たれ、歯を噛み締めて対峙する。
「助けに来たか……良い言葉だ。だが俺は
ぞわりと背筋が凍り付きそうになる。
襲撃してきたヴィラン連合とは比べ物にならない程の殺気。
生存本能が騒ぎ出すも飯田君たちを見捨てて逃げる選択肢は存在する訳がない。
片手を後ろに回してこっそりと携帯電話で座標を一斉送信しながらステインにニカリと笑いながら返す。
「オールマイトが言ってた。余計なお世話はヒーローの本質なんだって」
何が何でも凌ぎとおす。
誰一人殺させない。
強い意思を抱いて言い返したところ、ステインはその回答にニンマリと笑みを浮かべた。
相手の武器は刀。
遠距離ではないが同じ近距離でも刀の方がリーチがある。
まずはその差を埋めるしかない。
ワン・フォー・オールを全身に流すフルカウル状態で一気に距離を詰めようと突っ込むも、完全に見切られた上にタイミングを合わせて刀を振るわれる。
相手が格上なのは解り切っている。
自分の実力ではオールマイトのように全てを真正面から解決する事など叶わない。
足りないのなら考えろ。
知恵を絞れ!
振られる刀を姿勢を低くすることで避けつつ、ステインの脚の間を潜って背後を取る。
動きを目で追えていたステインは後ろへと刀を振るうがそこには緑谷は居ない。
まるで消えた様に姿を消した事に驚くも次の瞬間には歓喜に包まれていた。
背後に回った緑谷はそれでも駄目だと頭上へと跳んだのだ。
まだまだ若くも確実に倒そうと僅かな間に画策した良い動き。
ステインは自分に拳を振り降ろそうとしている少年に
そんな意図など知ったものかと緑谷は殴りつけ、ステインは殴られた衝撃によって頭から地面に叩き付けられた。
あのヒーロー殺しにも通用したという自信を抱きながら、緑谷は殴った瞬間で避けそこなったナイフによる傷口を確認する。
本当に軽く掠った程度で血が滲んでいる。
戦闘に支障はないと起き上がるステインを睨むも、ステインが掠らせたナイフを舐めた瞬間身体が重く感じてその場に倒れ込む。
「パワーも
飯田も倒れているヒーローも負傷している事。
滲んだ血が付着しているナイフを舐め取ったと同時に身体が重くて動かなくなった。
奴の個性の正体は血を舐める事で対象の動きを止めるもの…。
判明したところで今はどうでも良い。
自分を通り過ぎて飯田の方へと向かって行く。
あの凶刃が振り下ろされそうとしている。
動け、動け、動け!
無理にでも動かそうと身体に力を籠めるも、僅かばかり震えるだけで動くまでは至らない。
今動かなければ彼らが殺されてしまうと焦りながら力を籠める緑谷の真横を冷気と氷が通り過ぎた。
何事かと振り向くより先に頭上を炎が熱気を纏って駆け巡った。
足元を氷結が突然迫った事で飛び退こうとしたステインであったが、その後すぐに炎が放たれていた事に気付いて跳び越える高さを上げる。
氷結に炎…。
目撃した緑谷と飯田は良く知る人物の顔が頭に過る。
「次から次へと―――ッ!?」
炎も跳んで躱したステインであったが、着地地点を見た際に怪訝な顔をする。
先ほどは薄い氷結が走っていたにも関わらず、炎が通り過ぎて見えたのは串刺しにはならなくとも踏めば足裏には突き刺さりそうな剣山状の氷。
最初の氷結を囮に炎を放ち、さらに炎の目暗ましに使って新たに氷結を走らせて罠を張る。
「今のを避けるか……」
「……はぁ、今日はよく邪魔が入るな」
「緑谷、もっと詳しく
左にはあれだけ嫌っていた炎を纏い、右は冷気を漂わしながら轟 焦凍が友人を守るべくステインに向かって立ちはだかる。