なんか風邪が治ったと思ったら、何故か台風が来る度に体調が悪くなって中々書けず、遅くなってしまいました…。
もう具合も良くなったので大丈夫かと。
投稿を再開致します。
職場体験を終えて、通常授業が再開される初日。
ヒーロー科では各々ヒーロー事務所で体験した出来事を語ったり、聞いたりして話題に事欠かない様子。
耳郎は索敵などの後方支援から避難誘導、蛙吹は密航者捕縛に多大な貢献するなど活躍する者の一方で、事件などはなくとも有意義な体験をしたものも多い。
例外としてはMt.レディの下でパシリとして扱われていた峰田が「女は怖いぜ…」と闇落ちしたかのような禍々しい淀んだ空気を纏っていたぐらいだろうか。
有意義な体験を得たというのであれば麗日 お茶子は
ヴィラン事件に遭遇する事が無かっただけに、パトロールなど通常業務を除いては武闘派《バトルヒーロー》ガンヘッドに鍛えられた一週間だったのだから。
元々素質もあってかその成長具合には目を見張るものがあった。
教室内でも気を放ちながら構えを披露しているところだ。
コォオオオオ独特な呼吸音を漏らしながら構えていると視線に気付いて振り返ると、ジッと見つめている扇動と目が合って戸惑うままに構えが崩れる。
戸惑う麗日と目が合おうと観察するように見つめている扇動に気付く者も当然現れる訳で…。
「どうした扇動、そんなに麗日が気になるのか?」
「もう夏間近っていうのに気分は春ってか?」
上鳴と瀬呂がニヤニヤと笑いながら揶揄い、聞きつけた芦戸と葉隠などが興味津々と言った様子で視線を向ける。
対して扇動は動揺する素振りもなく少しばかり頬を緩ませる。
「体幹がしっかりしたなと思ってな」
「た、体幹?」
「分かってた、分かってたけどさぁ…」
「反応も薄くて面白くない~」
「なに求めてんだか」
扇動ゆえにそこまで期待していなかったが、それでももう少し反応が欲しいところだと文句を言うも、ため息交じりに返されてしまう。
そして戸惑っていた麗日は体幹がしっかりしたと言われても自身では気付けていない変化に余計戸惑ってしまっている。。
きょろきょろと確認しようと自身を見て見るも解らずに首を傾げる。
「そんなに変わったかな?」
「あぁ、以前に比べてレベルアップしたように感じ取れる」
「えへへ、そうかなぁ?」
「手合わせして欲しいぐらいに――なぁ」
鷹のような猛禽類を連想させるような鋭い眼光を向けられ、ブルリと悪寒と共に身体を震わした麗日は周りに視線を向けるも、目が合った同じく訓練を受けて来た面子は苦笑を浮かべ、その様子に当てられた上鳴を含めた初参加のメンバーの一部が静かに合掌するのであった。
「見捨てんといてぇ!?」と悲痛な叫びを受け止める者はいなかった訳だが、代わりにふと思い出した峰田が麗日に向けられた話題をぶった切るように間に入る。
かなりお冠のようで今にも血涙を流しそうな形相でだ。
「そういえば扇動!オイラ忘れねぇぞ!!あんな写真送って来やがって!!」
「写真……あー、バーニンとの」
「あのツーショットを見て、オイラがどれだけ惨めだったか!」
「元気にはなっただろ?」
「殺意が湧いたわ!!」
「ツーショットってなんの話?ねぇ、なんの話?」
「喰いつきが良過ぎんだろ」
「ねぇ!どんな写真!」
「別に普通に撮っただけだっての」
「良いから、良いから」
峰田の主張とは別に写真に釣られて恋愛話かと芦戸が早速喰らい付く。
面倒臭いと思いっきり顔に出ていたが、扇動は携帯に保存してある画像フォルダを漁って一枚の画像を見せ付ける。
…ただそこにはバーニンの姿はなく、優し気な微笑を浮かべて眺めているリューキュウと、満面の笑みを浮かべては無理やり気味に扇動を巻き込んで写真と撮ったと思われる
誰もが予想外で困惑する最中、様子がおかしいと思った扇動は肩眉を潜めながら自ら提示した写真を見る。
「どうし……悪い、間違えた」
「扇動テメェ!!」
図らずも峰田には火に油、芦戸達には燃料投下してしまった事で余計に騒ぎが大きくなってしまう。
終いには八百万に「年上が好みなんですの?」などと聞かれる始末。
変に扇動で盛り上がる一方で緑谷達も話題の中心になりつつあった。
正確には緑谷、轟、飯田、扇動の四人が
《ヒーロー殺し》ステインは逮捕されて素性が知れると報道機関はその背景を調べようと躍起になり、数日と経たぬ間にかなりの事柄を調べ上げたのだ。
元々ヒーローを志して育成機関に入学するも自分が思い描く英雄とはかけ離れていた事から一年も経たずに中退。
“ヒーローとは見返りを求めるのではなく、自己犠牲の果てに得る称号”であるという“英雄回帰”を訴えかけるも誰も耳を傾ける者は居らず、それを言葉に力ないと断念すると同時に自らを徹底的に鍛え上げ、彼が言う贋者もヴィランも狩り始めた。
多くのヒーローを手に掛けたのは確かなのであるが、それ以上にヴィランも狩っていただけにステインが現れた地域でのヴィラン事件が激減したという統計したが存在するのも拍車をかけ、その執念と理念と行動を指示・共感する大衆も多い。
同時刻に脳無が襲撃した事もあってヴィラン連合との関係性を疑われたりもして話題性も十分過ぎて連日報道され続いている。
だから事件現場である保須市に居た面々に話を振る者がいるのも当然であった。
大変だったなと労う言葉に収束されたプロヒーローの賞賛が飛び交う中、反応した上鳴が振り向きざまに話題に入った。
「あぁ、ヒーロー殺しって怖ぇけど動画とか観ると一本気というか執念って言うのか、
「上鳴くん!」
「え?――ッ、悪い飯田!」
何気なく言ってしまった言葉がどういう意味を持つか。
事件件数は減少させたし、罪を犯しても己が理念を貫こうとする裏で涙した者は多くいるのだ。
粛清の名目で殺害された者達の親族に、再起不能なほどの大怪我や後遺症を負わされた者など多くの被害を受けている。
そう、報道ではステインを肯定する意見が蔓延する一方で近しい者を失った人は多くいる。
贋者として粛清されたヒーロー達は勿論ながら大小問わず狩られたヴィランの中には悲しむ家族がいる。
どう華々しく飾られようとステインの執念は多くの命を喰らって血で塗装されたモノ。
他に比べれば軽かろうとも負傷させられたインゲニウムを兄に持つ飯田の前で話す内容ではない。
「良いんだ。確かな信念があった。クールだと思う人がいるのも
上鳴の言葉に飯田は己の信念を言い切った。
その決意表明におおと感嘆の声を漏らす者も多く、特に何があったかを知っている緑谷は若干目が潤んでいるようにも伺える。
ふと、芦戸は扇動が静かな事に気付いた。
ヴィラン連合の襲撃後や体育祭では間違った行動には叱った前例があるだけに、今回は何も言わないんだと少しばかり気になった訳だ。
ちらりと視線を向けるも何ら反応がない様子にキョトンと首を傾げてしまう。
「――あ?なんだよ」
「いや、てっきり注意するのかなと思ってさ……」
「飯田が良いって言っている以上俺が口を挟む事じゃあねぇよ……あぁ、そういえば、来週
周りに向けて告げられた扇動の言葉に職場体験云々で忘れかけていた為に、ほとんどが思い出すも何ら準備をしていない事に不安を抱く。
以前汚れて良い服と着替えが必要であるのと集合場所と時間しか伝えられていない。
「必要なものとか本当にないのか?」
「前伝えた通り着替え類以外に身一つで構わねぇよ」
「専門的な知識が必要なのでは?」
「さすがに色々学校行事があんのに覚えれねぇだろ。その辺りはこっちで何とかしといたから問題ねぇよ」
参加する面々は本当に良いのかとまだ疑問形であり、ハッと何かに気付いた峰田が脳裏に浮かんだ疑問を口にする。
「
「オメェに限ってはアウトだ」
言い切る前に即座に否定されるいつもながらの峰田に冷めた眼が向くも、沈みかけた空気は若干の呆れ交じりの笑いもあって薄れ、朝のホームルーム前のチャイムが鳴り始めた事で気持ちを変えて席に戻り始めた。
午後の授業であるヒーロー基礎学は救助訓練と銘打たれた
複雑に入り組んだ密集工業団地の運動場
単なる競争と言うだけでなく、職場体験で得たものを確認する一つでもある。
とは言っても入り組んでいるのは地上の話で空中を進める者にとっては苦ではなく、寧ろ有利過ぎる訓練と言えよう。
四組に分かれた第一組は芦戸に飯田、尾白に瀬呂、緑谷と機動力のある者が偏ったが、個性“セロハン”と個性“尻尾”で上を飛べる瀬呂と尾白が誰の眼にも有利に映る。
逆にスピード重視の個性持ちである飯田と酸によって滑って早い上にアクロバティックな動きが可能な芦戸に比べてパワータイプ
逆に緑谷本人はそんな事は全く抱いてはいない。
寧ろ今の自分にうってつけの訓練だと入り組んだフィールドを眺める。
そして救難信号を受信した瞬間、誰もがスタートを切った。
地面を駆ける飯田に頭上を移動する瀬呂・尾白・
緑色の輝きを漏らし散らしながら駆けては跳ねる。
芦戸に尾白、そして先頭を行っていた瀬呂をあっと言う間に追い抜いて行った。
(イケる!!常に8%――いや、10%でも!!)
自身が得たフルカウルが通用しているという実感から高揚感に満たされる。
そしてその緑谷を見た誰もが驚愕の眼差しを向ける者ばかり。
たった一週間前まで力を振るうと骨折する程の自壊もしていたのがウソのように完全に使いこなせている――様に見えているのだから。
同時に一部の者はその動きに覚えがあって余計に……だ。
個性が違う為に完全に一致と言う訳ではないが、緑谷が意識してか無意識でかは不明ながらも真似ているのは確かだろう。
動きを真似られた爆豪もまた一週間での進歩に驚き睨み、職場体験先のグラントリノではなく爆豪の動きを真似た事に扇動は驚きと共に笑みを零す。
(落ち着け!冷静に、そして緊張を常に保っ―――てぇ?)
満たしていた高揚感が抜けて突如として浮遊感が緑谷を襲う。
何が起こったのかと足元を見ると踏みつけたパイプの丸みに沿う形で足が滑っている。
個性に注意を割き過ぎた結果、足元への注意がお留守になってしまっていたのだ。
足場も手を付く先もない緑谷は手立てもなく落下して行き、後続となった瀬呂が大慌てで落下中の緑谷を受け止める事で事なきは得た…。
(着地地点も考えないと……)
救助側だった筈が救助される側へになってしまった緑谷はランク外となり、一着でゴールを決めたのは
落ち込むどころかすでに思考を巡らして反省点を洗い出す緑谷は頭をわしゃわしゃと撫でられて意識を現実に戻す。
振り返ってみるとやはり扇動がそこに居た。
「成長したな。けど詰めが甘ぇな」
撫でられて恥ずかしさと嬉しさで半々となっていた緑谷であるも、指摘された通り詰めは甘かったのは確かだ。
第三者からの視点での意見、それとアドバイスがあれば聞きたいと思って視線を向けるも、頭から手を離した扇動は次の組へと意識を向けていた。
次の二組目には爆豪が居た。
いつもながらの不機嫌そうな面をしながら睨みを利かせて一瞥向けられた事に、緑谷はブルリと震えながら戸惑いを露わにする。
「か、かっちゃんはどうしたの……?」
「気にすんな。イズクの成長具合に当てられただけだ」
「えっ!そ、そうなの!?」
「一週間前までは超パワーを
言われてそうだと納得するも爆豪の視線はそれだけでは無かったようにも感じる。
扇動もそれは感じ取っているだろうけどあえて口にしない辺り、ナニカあるのだろうと察して問いかける事はしなかった。
もしも聞かれたとしても緑谷に
それよりも扇動としては緑谷の動きの方が興味津々と言ったようだ。
「さっきの動き、爆豪のを真似たな」
「え、うん。
「
クツクツと嗤う様子にキョトンと首を傾げる。
そうしている間に二組目が並びスタートの合図を待つ。
爆豪以外には轟・常闇・青山・切島がいるが圧倒的に上を行ける爆豪が一位である事は疑いようがない。
二位に氷結を利用して移動する轟かダークシャドウで瀬呂みたく上を跳べる常闇のどちらかと予想されていた。
騒がしかったが始まる寸前となると黙してどうなるのかと興味深そうに見つめる。
そして位置についたオールマイトより開始の合図が送られた事で、二組目は一着を目指して跳び出す。
爆豪の個性を考えるなら障害物が一切ない空中を行くのが正解だ。
―――だが、爆破を一度起こすと反動で飛んだものの、急速に降下して密集工業団地内へと降りて行った。
誰も彼もがその行動の意図を察する事が出来ずにただただ困惑しながら見つめるしかなかった。
所狭しと乱立する障害物で溢れる中を爆豪は
爆破の威力を出来るだけ大きくするのではなく、御せる許容範囲を若干超えるぐらいの速度で合間を縫うように飛び、パイプに捕まった際の遠心力を利用して加速したりと流れを重視しての移動方法に魅入る。
無論障害物ガン無視で直線的に進める上を行くより遅いが、それでも後続を寄せ付けない程の速度で目標地点に迫っていた。
「凄い!けどあの動きって…」
「爺ちゃんの動きを取り入れたか。若者の成長速度と言ったら恐ろしいもんがあるな」
「そっか!かっちゃんはむーくんのお爺さんの所に行ったんだったね。だから――――ブツブツブツブツ……」
動きが一週間前とは変わり果てた事の理由を知った緑谷はぶつぶつと呟きながら考えを纏める横で、轟は地面を凍らせながら突き進むもダークシャドウを用いて上を進んだ常闇に後れを取った事に対して険しい顔で眉を潜めるのであった。
「一組目や二組目に比べて差がなさそうだな」
「お!確かに。これ一位獲れっかな」
スタート地点についた三組目には
唯一入学初日に体力テストでバイクを創造した八百万であるも、あまりに入り組んでいる為に同じ手段を講じても障害物に拒まれて早く到着する事は叶わないだろう。
等しく土俵に立ったように見える為に誰もが抱いた。
例外として峰田だけは体育祭のように八百万にくっ付こうなどと邪心を抱いて、目標が変わっている気がしなくもないが…。
「うわぁ…絶対何か企んでるよあの顔。ヤオモモは気を付けなよ」
「えぇ、体育祭で一度やられましたから」
雰囲気から察した耳郎があからさまに嫌悪感を峰田に向けながら、八百万に注意を促すもすでに一度やられただけに警戒しているようだ。
面子は八百万 百に耳郎 響香、上鳴 電気、峰田 実、砂藤 力道。
個性を有用に扱えれば扇動は
ただどちらも
「それに二度も許す程甘くはありませんの」
静かに闘志を燃やす。
すでに前回の情報を持っていて同じ過ちを犯すなら経験を活かせていないという証拠。
扇動曰く、アンという少女は数多くの失敗や過ちを犯すものの、決して繰り返す事は無かったと言う。
起こった出来事をただ流すのではなく、それらを糧に臆せず成長していく。
そんな彼女の話をパーティ会場の片隅でしてくれた当時は感心するばかりだったが、今となってはどれだけ彼女が凄い人なのかが良く解かる。
自身もそうでありたいと思う程に。
意識をレースと称された救助訓練に切り替える。
これは単に一位を目指すだけではいけない。
今回は誰が先につくだけと言う事から前提条件を忘れがちになってしまうが、要救助者が居ると想定されている事から幾らか余力を残しておかなければならなず、早く救助する為に体力は消費しても良いが個性は幾分か残しておく必要性がある。
一位を獲るだけなら簡単だ。
ロケットのような推進装置を創造して一直線に飛んで行けば良いのだ。
しかしそれでは機器の創造と加速に応じての消費され続ける推進剤、さらには到着時に使用する減速装置などなどで消費が大き過ぎる。
「コスト管理がなってないって怒られそうですわね」
「なにか言った?」
「いえ、なんでも」
ぼそりと漏れた独り言に耳郎が反応を示す。
丁度と言えば良いのか配置についたオールマイトより信号が送られ、位置情報が届くと共に救助訓練の開始が宣言された。
駆け出した八百万の選択肢は消費を最低限にしつつ、尚且つ余力を残しつつ一位を獲る事。
最も早く動きを見せたのは峰田であった。
個性“もぎもぎ”によって生み出された球体は粘着力の他に峰田に対しては高い反発性を誇る。
眼前に投げるとそれを踏みつけ上へと跳び上がり、頭上にあったパイプに新たに捥いだもぎもぎを押し当てて話す。
パイプにくっ付くが手を離した事で押し当てられた反発力で吹っ飛ぶように、八百万斜め上から背中目掛けて向かって行く。
すでに手にはまた新たに捥いだもぎもぎを握り締め、八百万の背中にくっ付く用意は万端である。
授業と言う枠組み内であるもオールマイトを拘束した事もあるもぎもぎ。
一度引っ付いたら逃れるのは難しい。
そう……引っ付けれればの話…。
「消えッ!?―――ゴヘッ!!」
貼り付こうとした直前、八百万の姿は消え去った。
いきなり対象者を失った峰田はそのまま地面に張り付く事になり、押し付けられた二つのもぎもぎの反発力で上へと吹っ飛ばされ、後頭部を張り巡らされたパイプにぶつけて悶絶してその場に転がる。
怪我の具合が心配と言えば心配であるが、元々は欲望に寄る自業自得なだけに動いている事だけ確認した他の面子は八百万を目で追う。
創造する物は単純で小さなものであれば消費量は抑える事が出来る。
速度を出す為には上を行くのが最適解で、消費を考えれば使い切りではなく使い回せるものが好ましい。
スタート開始前に靴を脱いで創造するのはバネ。
足の裏に生み出したバネにより一目散に上へと逃げた八百万は、足場となるパイプや壁を蹴って遮蔽物の無い空間へ飛び出る。
次に創造するは燃料なく空中を移動できる簡易的なハンググライダー。
「それありかよ!?」
「やっぱり汎用性高いよな創造って」
「お先に!」
「あっ、負けねぇからな!」
見上げて感想を口にしていた上鳴と砂藤を他所に、耳郎は隙ありと言わんばかりに走り抜いて行った。
出遅れて二人も駆け出す。
一人悶絶したままの峰田をその場に残して…。
結果、三組目は八百万が一位着となる。
続いての四組目は八百万同様に救助対象者が居る前提から自身も急ぐが、誰かが先着する方が優先だと判断した麗日に無重力で浮かばせて上へと押し上げ、蛙吹の協力でオールマイトの方向へと飛ばすやり方で麗日が一位着となった。
本日の授業を終えた相澤 消太は職員会議を終えた後、そのまま明日の準備や作業を行いだした。
いつも通り黙々と合理的なまでに仕事を処理して行く最中、「おや?」っと首を傾げながら
「ヘイヘイ、イレイザー!どうしてここにいるんだ?」
「どうしてもなにも仕事をするならおかしな事はないだろ」
「違うって。放課後の特訓に参加しなくて良いのかって話」
今日放課後に扇動が主催の特訓がある事は教員の大半が知っている。
というのも飛び入りも含めて人数が増えた事もあり、自分だけでは
彼らは生徒の成長の為にと二つ返事で請け負っており、職員室はその分だけ人数は少ない。
話を聞いていた山田は当然のように行っているだろうと思っていただけに、相澤が残って仕事をしているのが不思議で仕方がなかった。
対して相澤は「あぁ、断った」と目線を書類に向け直して仕事を続ける。
「おいおい、良いのか?」
「成長を促すなら俺が参加して口を出す事もないだろう」
淡々と口にした意味に山田は苦笑を浮かべる。
相澤は扇動が嫌いと言う訳ではないが、無個性でヒーローになろうというのは非合理的だという考えには変わりない。
この点に関しては山田も理解出来る。
確かに現時点では同年代でも実力も経験も一歩抜きんでているが、これから成長していけば個性持ちのクラスメイトに追い抜かれていくだろう。
自分でもヒーローよりもサイドキックを勧めるだろう。
だけど相澤は成長を促すと言った事から否定的なだけではないが、ヒーローとしての成長と言うよりは教育者として積ませようという気がする。
そういった経験は役立つ事もあるも合理主義の相澤がそちらをメインに鍛えるとは思えない。
「アイツを教員にするつもりかよ?お前らしくねぇんじゃねぇか」
「教員なら転校を進めている。アイツはヒーロー科だ。ヒーローとして成長しなければ居る意味がない。それこそ合理的じゃないからな」
「ならどうしてだ?」
小さくため息を零したかと思えば少しばかり黙り込む。
言いたくない事なのかと眉を潜めるもそうではなかったらしく、いつも通りの表情でこちらに見上げる。
「扇動に必要なのは意識改善だ。今日の授業のようなままでは駄目だ」
「今日のまま…ねぇ」
ふぅんと話を聞きながらひょいっと本日のヒーロー基礎学の評価を書き込んだ書類を手に取り、勝手に取った事で抗議の視線を受けるもお構いなしに捲っては目的の扇動の欄に目を走らせる。
内容を見るや納得すると同時に“らしいな”と微笑むも、相澤の辛辣な評価を書き込んでいた意味も理解した。
そして相澤が去年同様に退学を言い渡していない所を見ると、まだ期待してはいるらしい事が解かり、山田は困ったようにまた苦笑する。
●おまけ:大きく偏る欲望か僅かな理性か
ヒーロー基礎学が終わるとA組の面々は更衣室へと向かう。
それぞれコスチュームから学生服へと着替えながらも今回の反省点を口にする。
向上心の高さが伺える中で、別の熱量を持つ者が一人。
―――峰田 実。
彼の直感が壁に張られたポスターに違和感を訴えかける。
内容は「熱中症に気を付けましょう」というさしあたりの無いもので、内容的にも位置的にも何かおかしいという点も見受けられない。
普通に見ればであるが…。
峰田は見逃さなかった。
四つ角をシールで止めている中で、何度も張り直されたらしい右上のシール。
薄っすらと左上から右下へポスターを横断する折った痕跡。
何より折った跡にほど近い一点についた皺。
彼の洞察力と直感は刑事ドラマの主人公並みに働き、もしやと思ってポスターを捲ればそこには穴が空いていた…。
これは遺産である。
過酷な訓練に励みながらヒーローを目指していた諸先輩方が残した負の遺産。
なにせ壁の方向からして穴の先には女子更衣室に繋がっているのは明白。
八百万のヤオヨオッパイ!!
芦戸の腰つき!!
葉隠の浮かぶ下着!!
麗日のうららかボディ!!
蛙吹の意外オッパイ!!
想像するだけで涎が零れそうだ。
しかし脳内が性欲に満たされつつある峰田であった、微かに残っている理性が待ったをかける。
この理性というのは脳内で天使と悪魔が囁き合っているというものではない。
そもそも峰田の脳内に巣くう存在なのだから、対なる存在だとしてもエロスに関してはどちらも肯定するに決まっているのだから…。
ならばこの理性とは何か?
決断を下す最終防衛戦に立ち塞がるは扇動の姿をしたナニカ。
他のクラスメイトであれば止めようとするだろうけど、扇動の場合は制圧後に通報しそうで怖い。
いや、絶対にすると思う…。
直接ではないが体育祭での一件は記憶に新しい。
ここで危険を賭してでも見るべきか?
もし通報されたらヒーローどころの話ではないが、こんな
仁王立ちする扇動らしいナニカの前に峰田は、GOサインを出す悪魔と天使の囁きを聞きながら悩む。
「なぁ、扇動…お前覗きってどう思う?」
「藪から棒にどうした?」
「い、いやぁ、ちょっと気になっただけだよ…興味あったりとか」
悩んだ結果は“相手を巻き込む”であった。
扇動だって男である。
興味がない訳ではないだろう。
女子の前では語り辛い話でも男子しかいない更衣室ではぶっちゃけて話せることもある。
万が一にでも興味があるなら引き込める可能性も…。
「興味云々関係なく普通に犯罪行為だろう」
「だ、だよなぁ」
「体調でも悪ぃのか?凄い汗掻いてっけど」
「そりゃあ…ヒーロー基礎学の後だから!」
真っ当な返しに冷や汗が零れ落ちる。
不審な目で見られるも何とか誤魔化せたと思う。
まだポスターは剥がし切っていない。
存在を知るのは自分一人。
今は駄目でもまた機会があるかも知れない。
そっと花園へと否がっているであろう扉をひと撫でする。
「そのポスター、何かあるのか?」
ゾッと背筋が凍り付く感じがした。
別段扇動は声を低くしたり、威圧感を放って声を掛けた訳ではない。
ただ単に何してるんだと気になって聞いてみただけ。
しかしながら後ろめたさのある峰田にはそう捉える事は出来なかった。
もはや自分は審判の場に立たされた…。
自身の欲望の赴くままに貫くか、それとも立ち止まって諦めるか。
目の前に夢にまで見た花園が広がっているというのに…。
プルプルと震えながら峰田は扇動に振り向く。
「ここに覗き穴があった…」
ヒーローを目指すだけあって誰もがその言葉に怪訝な顔をして、次の瞬間にはギョッとした顔を晒す。
なにせ文字通り峰田が血涙を流していたのだから。
どれだけの想いで自らの邪念に打ち勝ったのかを物語っている。
素早くセメントスに連絡した扇動は峰田の肩をポンと叩き、ポスターを瀬呂のテープを少し貰って強固に貼り付ける。
「よく教えてくれたな」
「……おう」
ぐしぐしと袖で涙を拭きとるも、峰田の視界は霞んでいたという…。