無個性オリ主が共にヒーロー目指す!   作:チェリオ

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第52話 懐かしむヴィランと懐かしまれるヒーロー候補

 楽しげな鼻唄が耳に障る。

 明るく陽気に跳ねる。

 なんて気持ち良さげに奏でるのだろうか。

 しっとりとした湿気て陰湿とした何処かで、名も顔も知らぬ彼女は歌う。

 綺麗な子なのだろうか?

 可愛い子なのだろうか?

 美しい子なのだろうか?

 見えないからこそ想像は膨らみ、解らないからこそ夢見勝ちな妄想に耽る。

 

 おぞましい考えだ。

 例え彼女が絶世の美女であろうと、可憐な少女であろうが、妖艶な女性であろうが僕は決して見ることはない。

 決して見てはならぬのだ。

 昔話で良くあるだろう。

 見るなと言われて見てしまうお話。

 馬鹿だなぁとか気持ちは解るなんて軽口を叩いていた自分自身にキツく怒鳴り付けたい。

 好奇心は猫をも殺すというのに…。

 

「可愛いねぇ。けど、もっと可愛くなろうよ」

 

 ねっとりと高揚している彼女の声が耳を撫で、細く薄いひりつくような痛みが頬をゆったりと通る。

 痛いというより熱く、恐怖心が心中を駆け巡る。

 助けを呼ぼうにも猿轡で口を塞がれ、目から溢れた涙は目隠しを濡らすばかり。

 例え叫んだところで誰かが来ることはない。

 何年も放置されている廃校。

 古びて危険だと学校でも注意された場所に遊び半分に近づいた結果がこれだ…。

 すでに何ヵ所も切られ、ヒリ付く痛みがあちらこちらからする。

 

「血がいっぱい垂れてるねぇ。知ってる?血の味って人によって大きく異なるって」

 

 カタカタと恐怖心で震えながらも、相手のご機嫌だけは損ねないように顔を振って否定する。

 彼女はその様子があかべこみたいで可愛いなと思ってクスリと笑う。

 

「血液型やその人の体調、直前の食事でも多少違うんだよ。でもでも同じ血液型でもすんごく違う味もするんだよね。なんでかな?」

 

 聞かれても味の違いどころか血を飲むという事がないのだ。

 青年は震えるばかり。

 問いの答えを待つも「それもそうだよね…」とつまらなさそうに、そして寂しそうに呟いた。

 機嫌を損ねたかと思い慌てる青年に変わらぬトーンで語り掛ける。

 

「吸血鬼って知ってる?私の後輩にね詳しい子がいてね、色々な事を聞かせてくれたの」

 

 撃たれようが刺されようがストックしている数多の魂の一だけ死なない吸血鬼や石の仮面を被ると人から吸血鬼になるとか、はたまた首ににんにくや十字架のネックレスを下げ、日光浴をしながら悪霊払いより献血(強制)した血を優雅にワイングラスで飲むなどなど。

 綺麗な声色で、清んだ感情で荒唐無稽な話を語り続ける。

 何が言いたいのだろうか?

 自分は吸血鬼だぞとでも名乗る気でもあるのか…。

 思考しても解らず、さらに首筋にヒヤリとしたナイフを当てられれば、考えている余裕なぞ消し飛んだ。

 

「中でも興味を惹いたのが魂を取り込む話なの」

 

 弾むトーン事態は変わらないが、雰囲気だけは一変した。

 急激に真冬の冷え込みのような寒気に包まれ、心臓を鷲掴みされたかのような恐怖が押し寄せる。

 

「そう、魂。全ての血を取り込むことで相手の魂までも取り込めるって話。さっきの命のストックじゃあなくてね、相手の魂が自分の魂と混ざり合ってひとつになる―――これって素敵だと思わない?」

 

 背し筋が凍り付いたような悪寒に恐怖が限界までに達し、青年の理性は崩壊した…。

 

 

 

 遠くからサイレンが聞こえる。

 自らがここにいると言わんばかりの警告音に少女は笑う。

 思ったより存外に早かったなと思いながら夕暮れに染まる大通りを堂々と歩む。

 犯罪者とは言え未成年という事で個人情報は伏せられ、砂糖の塗されたドーナツを齧りながら闊歩したところで騒ぎになる事は少ない。

 最近お気に入りのフードを被り直し、口元についた砂糖を指で拭う。

 

 隠れ家に使っていた場所に自ら入り込んで来た格好良いというよりは幼さが残る可愛いらしい青年。

 元が良かったのもあって、ナイフで撫でたらもっと可愛らしくなって程よく満足した。

 本当は最もボロボロな方が好みであるが、彼のように遊び半分で誰かが訪れる危険を考えれば長居できる時間も長期で監禁する事も難しい。

 

「メイクもしたらもっと可愛く出来たのに」

 

 特殊メイクの類いは自身の趣向を話した後輩がそれならばとお、色々手配してくれたのでそれなりには自信がある。

 もう少し可愛くしたかったと思う反面で、手離した事に後悔はない。

 あまり執着し過ぎて捕まるのは御免だし、何より後輩に比べて血がそんなに美味しい子でもなかった…。

 

「今日はやけに思い出すなぁ」

 

 長らく会っていない後輩を思い浮かべる。

 吸血鬼云々の話もそうだし、犯人はその場を離れたがるだろうという警察側の心理をついて、近辺に留まってやり過ごした殺人の疑惑を掛けられた名探偵の孫の話などなど、色んな事を知っている変わった子で、一緒に居て楽しく素の自分で振る舞える楽な相手。

 彼との出会いで幾分か心が安らいだ。

 彼の前では周りに合わせる為の鍍金を剥がす事が出来た。

 

 なにより血が物凄く美味しい子だった。

 同い年の筈なのに長年熟成(・・・・)させたような深みがあるのに血液自体は若々しくて飲み易い。

 多くの人から飲んだ今だから言えるが、彼の血が一番だった。

 加えて気兼ねなく飲む事も出来たし…。

 

「あー、久しぶりに飲みたいな…」

 

 思い出すだけで頬が緩む。

 もしも魂を取り込めるとすれば、彼の魂を取り込みたいものだ。

 くつくつと笑って懐かしむ少女は、遠くへ逃げようとしているであろう連続傷害罪の容疑者を逮捕するべく、何人かを事件現場に残して遠ざかるパトカー数台を遠巻きに眺める。

 もう少しこの辺りで時間を潰そうと少女は軽い足取りで、夕日色に染まる路上から路地裏の薄暗さに溶け込んで行く。

 

 

 

 

 

 轟家の食卓は長女の轟 冬美によって支えられていた。

 家政婦が引退してからは料理を担当しており、その腕前は元々の素質もあってかかなりの腕前になっている。

 身体資本の父に食べ盛りの弟達という事もあって量を作らねばならず、彩や栄養面も考えてメニュー被らないように気を配りながら献立を組み、日中は小学校で教師を務めるという忙しい毎日を過ごして居る。

 そんな彼女に最近弟子というか高校生の生徒を持つことになったのだ。

 いや、話友達と言った方がしっくりくるかな。

 

『―――へくちッ』

「大丈夫?風邪?」

『体調管理はしてた筈なんだが…念のために後で風邪薬飲んどきますよ』

「焦凍から聞いたわよ。中々に不健康な生活してるって。若いからって無茶してたら身体がもたなくなるんだから」

『出来得る限り善処しましょう』

「あー、それって絶対聞く気ないでしょ」

 

 ビデオ通話で相手の表情が解かるだけに、嘘っぽく返す様に思わず笑ってしまった。

 通話相手は扇動 無一君。

 轟家の事情を知っていて、色々世話を焼いてくれた弟の焦凍の友人。

 彼も料理は出来るらしいのだけど、焦凍から私の料理の方が美味しかったと事を言われてから、良ければ料理を教えて欲しいと頼まれたのだ。

 焦凍としては何気なく言っただけなのだろうけど、なんて失礼な事を言ったかと思わず電話越しに頭を下げた。

 当の本人は未熟な所を指摘された方が楽だと気にしている様子がなかったから良かったものの。

 

 彼には本当に色々と迷惑を掛けてしまっている…。

 家の事情に焦凍を預かって貰っている件、さらに父への近況報告―――だけでなく父から相談を受けている節も見受けられる。

 この前なんか何をそわそわしているのかと思えば授業参観の事で相談乗って貰ってから落ち着かないとか…。

 まだお知らせも来ていないのに気が早すぎる。

 

「それにしても大変ね。学校と家事の両立なんて」

『何を言ってるんですか。小学校の教諭として教えを説くだけでなく生徒の相手、仕事の付き合いに責任などなど熟している上で家事をなさっている方に比べたら楽なモノですよ』

「でも、指導はしてるんでしょ」

『焦凍からですか?意外に喋ってるようで安心しました』

 

 うーん、訂正した方が良いのだろうか?

 確かに連絡を入れてくれるようになったけど、自分から話してくれることが少ないので私から聞き出したというのが正しいのだけど…。

 

『先生方の協力を仰いでいるので負担は少ないですが』

「もしかして今日もだったの?」

『いえ、今日は参加者側(・・・・)だったもので指導はしてませんよ。どうもA組で放課後に特訓しているのを知ってB組でもという話になったらしく、そこに参加させて貰ったんです』

「もう、ちゃんと休まないとダメよ」

『明日は放課後の予定を開けてますので、気分転換をするように心掛け――』

「掛けるんじゃなくて休みなさい。自分では大丈夫だと思っても疲労やストレスってのは知らずに溜まるんだから」

『…了解です。先生の言う通りにしますよ』

「宜しい――フフッ」

 

 料理に慣れている分、談笑に華を咲かせれる。

 初めて連絡を貰った際は対応や大人びた雰囲気から年上っぽい印象を受けたが、雄英高校での話し合い以降はもう少し砕けて話すようになって、弟の友人というよりは同年代の友達のように接してしまっている。

 情報交換も混じるが大概は他愛のない話だ。

 この前は延々と愚痴を聞いてもらっていた事は後で反省しました…。

 なんにしても気兼ねなく話せる相手がいるというのは嬉しい。

 特にこの家の中では話す相手は限られる。

 私と(炎司)、私と次男(夏雄)なら兎も角、父と次男が居合わせたときなんか空気が重くなり、何か理由が無ければ食事を一緒にする事もないだろう。

 

「もうそろそろかな?」

『良い色合いになりましたね』

「餡も上手くできたし、今からお腹減っちゃったよ」

 

 今日の料理は白身魚の甘酢餡掛け。

 なんでも連続で肉料理が続いて魚料理が食べたいなと思ったところ、一週間前に煮魚や小鉢で酢漬けなどを出して何を作ろうか迷ったらしい。

 そこで白身魚の甘酢餡掛けを提案して、丁度冷蔵庫に白身魚があったのでこちらでもメインにさせてもらう事に。

 カリッとした衣に解れる淡白ながらしっかりとした白身、揚げ物ながらも甘酸っぱくて食べ易く、一緒に野菜類も入っているので栄養もばっちり。

 想像しただけでも涎が出そう…。

 

『すみません。毎度教えて貰って』

「良いのよ。こうして話するの楽しいもの。それに今日は献立考えずに済んで助かったわ」

『そう言って貰えて助かります』

「遠慮しないでね。そうだ。今度餃子の作り方教えましょうか?」

『是非!』

「凄く喰い付いたね…」

『餃子は腕を上げたい料理の一つなので。出来る事ならゴローちゃん(由良 吾郎)が褒めてくれるぐらいの奴を』

 

 学校の友人だろうか?

 あまりに熱意が強いだけに彼の希望に添えられたら良いのだけど。

 そんな事を思っていたら玄関から物音がして、お父さんの声が届いて来た。

 丁度出来上がる頃合いだっただけにベストタイミングだ。

 

「今、帰ったぞ」

「お父さん、お帰り」

「今日は魚か」

「えぇ、白身魚の甘酢餡掛け。扇動君に頼まれてね」

「そうか………ん、扇動…だと」

 

 扇動の名を聞いてビデオ通話していた事に気付いたのだろう。

 携帯画面に映る扇動君にぎろりと睨みを利かし、少し考え込む動作をして私へと神妙な趣で向き直る。

 

「まさかと思うが―――付き合っているのか(※交際/恋人)?」

「え、付き合っているけど(※付き合い/料理)…どうしたの?」

 

 おかしな事を聞くのねと思いながら答えると、目を見開いて驚くと急に俯いた。

 徐々に肩をフルフルと震わせる様から様子がおかしい。

 どうしたの?と声を掛けようとしたところでガバリと顔を上げた。

 

「俺は許さんからな!!」

 

 大声を上げたと思えば懐から携帯電話を手に台所から出て行ってしまった。

 すると画面越しに移る扇動君の着信音が鳴り始め、ビデオ通話している(友人用携帯)のとは違う携帯電話(仕事関係用携帯)を取り出して通話ボタンを押したところでこちらで怒号が響く。

 

「貴様、これは一体何の冗談だ!焦凍の時もそうだが俺を揶揄うな!!」

『五月蠅ッ、鼓膜破る気か?別に冗談言ってねぇ(※俺は何も言ってない)だろうが。飯が冷めるから切るぞ』

「待たんか貴様。冬美!」

「は、はい!?」

「俺は絶対に認めんからな!!」

『あまり怒ってると血圧上がるぞ。カルシウムや亜鉛不足じゃないか?もしくは糖分の摂りすぎとか』

「それ当たってるかも。お父さんってばお昼を菓子パンで済ませるから」

『職場体験中もあんパンとかだったな。動いている分、腹回りには付いてないけど血糖値とか気にしないと』

「ヒーロー職ってアスリートと一緒で身体資本なんでしょ?」

『最前線で活動しているヒーローは基本若いからな。トップ10内をキープしている人もいるが稀だな。基本は年取って引退か育成、または続けるも最前線からは下がるかだ』

「だったら食生活を少しずつでも改善しないとと駄目だよ。今のに慣れてそのまま続けたら―――」

「喧しいわ!!勝手に老後の話を進めるんじゃない!!」

「はいはい、ご飯が冷めるから先に食べようね」

 

 カッカする炎司を宥めながら夕食へと促した冬美であったが、勘違いに気付くにはそう時間は掛からず、寧ろ勘違いを解く方がかなりの時間を有するのであった。

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