蛙吹 梅雨の中学時代は多忙であった。
両親は仕事の都合上出張が多く弟妹の世話や家事などを行いながら、倍率が非常に高い雄英高校入試に向けての勉学に励んだ。
大変だったけれども素敵な生活。
されど自由な時間が取れずに友達を作る事も出来なくて、中学校では一人でいる事が多くなっていた。
そんな中で一人の女生徒が付き纏うようになる。
名前は
首から上が蛇の見た目で睨んだ相手を三秒間弛緩させるという“弛緩”の個性を持つ。
突然個性を使われたり、見つめてきたと思ったら舌なめずりを始めたりと怖かったりもしたが、何となくであるが蛙吹は彼女が何を想っていたのか察していた。
万偶数は友達が欲しかったのだ。
性格や見た目もあってか一人っきりだった彼女は、友達に成りたいと思いつつも勇気が出ずに見つめるばかり。
察した蛙吹が逆に声を掛けた事で友人と成り、その交友は別々の高校に入学した今でも続いている。
互いにヒーロー校に入学した事もあって近況報告などメールする事はあっても、忙しさから会えないというのは寂しいものだ。
高校入学から二か月近くが経った今。
まさか再会出来ると思いもしなかった。
「本日のヒーロー実習は
「「「突然の新キャラ来たぁああああ!!」」」
「…新キャラって…お前ら言い方」
雄英高校のような名門中の名門ではないが、ヒーロー科を有するヒーロー育成機関の一つ“勇学園”。
本当に急に決まった為か説明されるまで誰一人知りはしなかった。
突然の事にハイテンションな盛り上がりを見せるヒーロー科一年A組の面々。
落ち着いているのは扇動に爆豪、轟ぐらいなものだろうか。
他は何処か舞い上がっており、緑谷に至ってはどんな個性を持っているのだろうか、今日の合同訓練は何が行われているのだろうかとワクワクが止まらない様子である。
勇学園より共同訓練に参加するのは男女二名ずつの計四名。
膨よかで何処となく気弱そうな
不遜な態度も体形も対照的で、自己紹介で苗字しか名乗らなかった
四人の中でまとめ役であろう礼儀正しく眼鏡をかけた女子、
そして最後の一人は赤外に隠れるようにして様子を窺っていた万偶数 羽生子。
「ケロッ!?羽生子ちゃん!」
「梅雨ちゃん!」
万偶数と蛙吹の視線が合うと自然と駆け出して再会のハグを行う。
久しぶりの友人との再会。
二人にとって非常に嬉しい再会シーンであるも、
「オイ、万偶数!雄英生
苛立ちの籠った藤見の一言が教室に響き渡った。
誰もが想う事はあれども即座に声に出す事は無かった。
特に説明から自己紹介が行われる短時間の間に女子に異常なほどに興奮を見せた峰田の様に、いきなり赤外に連絡先を聞き出そうとナンパ的行動にでた上鳴など醜態を真っ先に晒したがゆえにそう言われても仕方がないかと思うのも多少なりともあった。
だが、そんな事関係なしに嘗められている、下に見下す発言に即座に苛立ちを露わに反応を示す者が一人。
「今なんつった!雄英以下のクソ学生がっ!!」
「かっちゃん落ち着いて!?」
「テメェは黙ってろ!」
「お前もだ爆豪」
幸いにもここは教室内。
今にも手を出しそうなほどの反応と威嚇を示した爆豪だが、相澤の一喝により渋々ながらも
…ただ雄英・勇学園のどちらも男子の中に爆弾を抱える事は回避不可能であったが…。
男子陣と打って変わって女性陣は蛙吹と万偶数を中心に、更衣室でコスチュームに着替えながら和気藹々と話を交えていた。
「二人は中学校からの友人なんやね」
「えぇ、私達とっても仲が良いのよ」
「そ、そうなんだ……」
本当に仲の良い雰囲気であるもやはりイメージ的にハラハラとしてしまう。
そんな周りに再会で舞い上がっている二人は気付かずに話の輪を広げていく。
「貴方達の事は梅雨ちゃんから色々聞いてるわ」
「へぇ、どんな風に言ったのさ?」
「私も聞きたい聞きたい」
「け、ケロ……恥ずかしいから聞かないで欲しいわ」
「余計に気になる!ねぇねぇ、どんな風に話してくれたの」
楽し気に話す様を眺めながら勇学園ヒーロー科のクラス委員長を務める赤外は、クラスメイトで問題児の藤見が
件の問題児達は壁を隔てた隣の男子更衣室でバチバチと火花を散らしていた。。
当然ながら中心人物はやはり両校で問題児と称されている二人…。
「不良上がりみたいなんでも受かるとは雄英も地に落ちたもんだなぁ?」
「ンだと陰気野郎が!喧嘩売ってんなら言い値で買ってやンよォ……!」
「気に入らねぇんだよ。お前みたいのが雄英に入学しただけで認められるなんてな………俺達の方が上だってことを証明してやるよ………!」
「表出ろや!速攻で格の差を教えてやんよ!!
「お、おい何とかしろって緑谷」
「む、無理だよ。むーくんなら…」
着替えながらも殺気立つ二人にひやひやしている中、緑谷は唯一止めれそうな扇動の名を口にすると自ずと皆の視線が向く。
当の扇動は何か考え事をしながら着替えており、喧騒を耳にするだけと特に思う事はないようだ。
強いて言うならば「あの二人に物間加えたらどうなるんだろうか?」ぐらいの関心しかなかった…。
扇動があてにならない現状、やはり仲裁しようと間に入るのは飯田であるも二人共聞く耳を持たない。
「すみません。藤見君は口はああだけど悪い人じゃないんです」
代わりに謝罪と弁護を口にする多弾に飯田はこちらこそと謝罪を返す。
ただし謝罪だけで在り、悪い人ではないとハッキリ答えれないという考えを口にした為、爆豪は藤見だけでなく飯田にまで声を荒げて男子更衣室は別の意味騒がしかった。
授業開始前から騒々しい生徒一同はヒーロー実習の舞台となる仕切りに囲まれた森林地帯前に集合した。
担当する教員はA組の担任である相澤ともう一人。
「わたしがぁああああああああ―――来た!!」
「「「「――ッ、オールマイト!?」」」」
空高くから降り立ったオールマイトに勇学園生徒は目を輝かせる。
雄英高校ヒーロー科にとってオールマイトが教員として接する回数は日に日に増え、初めての授業の時に見せたような嬉々とした反応は大分薄れてしまっていたが、オールマイトは実力人気共にナンバーワンヒーロー。
自分達も最初はこうだったなと思い返させる反応であった。
先ほどまで爆豪とバチバチに険悪な雰囲気を撒き散らしていた藤見でさえ、目をキラキラと輝かせて高揚と興奮を隠せないでいる。
「さて、今日のヒーロー実習だが―――勇学園合同のサバイバル訓練を行って貰う!」
オールマイトにより説明されるサバイバル訓練の内容は四人一組で六チームを作り、制限時間内生き残る事を目標とする事。
他チームと協力しても良し。
確保テープを巻きつけたら戦闘不能と判定されるので、他チームを倒しても良し。
何をしても良いから生き残る事を重要視する訓練である。
チーム分けについては雄英高校一年A組は21名の為に一組だけは五名となり、チーム分けはランダムなれど初見でチームを組んでも連携が難しいハンデを背負ってしまうので、勇学園は勇学園の生徒でチームを組む事になった。
合計六チームが出来上がり、各チーム別々のスタート地点に移動する前に、相澤は手を挙げて言いたげにしている扇動に視線を向ける。
「なんだ扇動?」
「訓練を開始する前に写真良いですか?」
質問だろうと思っていただけに扇動の問いに険しい表情を浮かべる。
聞きながら勇学園の生徒に視線を向けている事から、彼らとの記念にという事であろう。
蛙吹を始めとした多くが「皆で撮るの良いな【集合写真】」と同意するような視線を向けるも、相澤にとって今する事ではないと切り捨てる。
「授業中でなくとも良いだろう」
「まぁまぁ、良いじゃないか相澤君」
「いえ、そうではなく彼らとオールマイトのです。雄英高校で教鞭を取っているとは言え
「――ッ、是非お願いします!」
「勿論だとも!さぁ、寄って寄って!!」
扇動は八木がオールマイトでいられる制限時間の事をご多忙と称し、後でオールマイトとして一緒に撮れるかどうかわからない事を示唆した。
オールマイトは確かにと納得するよりも先に、一緒に撮りたいという勇学泉の生徒の視線に応えないという選択肢が存在する訳もなく、にっかりと笑って了承しつつ勇学園四名の間に立つ。
嬉しそうながら緊張している面々は携帯のカメラを構える扇動に向かい、カシャリカシャリとフラッシュと共に写真を撮られた事に頬を緩ませる。
「後でデータ送るんで連絡先教えて貰って良いかな?」
「えぇ、良いですよ」
「「ズリィぞ扇動!――――イテェ!?」」
「アンタらは不純な想いからでしょ」
「不純とはなんだ!」
「そうだそうだ!オイラ達は純粋に――」
自然な流れで連絡先を聞き出していた扇動に上鳴と峰田は抗議をするも、これ以上恥を晒すなと言わんばかりに耳郎の
騒がしい様子に相澤はため息を漏らすも、オールマイトがノリノリで撮影を引き受けた事と、理解出来なくもない理由に今は目を瞑る事にした。
自然な流れのまま連絡先を教えて貰って登録していく扇動であるも、藤見だけ苗字での登録となってしまう。
同じ苗字の登録者が居ないとはいえ、被った場合は解かり辛い。
最もらしい
「そう言えば名前聞いてなかったな。良ければ教えて貰っても?」
「あ?―――
「ロメロ?……あぁ、そういう…」
名前を聞いた扇動は小さくも納得したように呟く。
すでにオールマイトと四人並んだものに加えて、ツーショットの写真も撮って貰った事の喜びと興奮から注意散漫となっていた藤見を含めた勇学園の生徒は扇動の様子に気付くことななかった…。
「さっきの写真撮影ってなんだったの?」
各チームがスタート地点について五分後に合図無しでサバイバル訓練が開始される。
その前に気になって仕方なかった葉隠は扇動へと問いかけた。
葉隠と扇動が居るチームは五人編成で、焦凍も口田も尾白も同様に気付いていようといなくとも葉隠の問いに合わせて扇動を見やる。
サバイバル訓練での立ち回りを考え込んでいた扇動はすぐに切り替え、問いに対して眉を潜めて疑問を浮かべる。
「…何か変だったか?」
「変って訳じゃないんだけど、何か考えがあったのかなって」
なんだそんな事かと携帯電話を取り出して、さっき撮ったばかりの画像を見せる。
オールマイトと勇学園の生徒が映った写真。
別段おかしな事もなく、ただ単に撮っただけのように感じる。
思ったことがそれぞれ顔に出ていただけに扇動は説明を口にした。
「情報収集だよ。コスチュームってのは個性や特徴を活かすように作られてっからな」
「相変わらずだなぁ…」
「ちょっとズルくない?」
「評価は任せるよ。俺は俺に取れる選択を行っただけだ」
そう言われると確かにと納得する他なく、何しろ扇動らしいと思うしかない。
また今回の実習がサバイバル訓練である事から戦闘の可能性があり、勇学園もそうだが互いに情報が無い状態で、扇動のように情報収集を行ったものがいるというのはアドバンテージとなる。
だから心強くもあると葉隠と尾白は呆れも少々混じりながら戦闘訓練時のように信頼を寄せているのだ
「多弾は名前とコスチュームに開けられた穴から遠距離系……それも複数攻撃可能だろうな」
「他のは?」
「万偶数は蛇の見た目と目をゴーグルでカバーしていた事から“蛇に睨まれた蛙”―――相手の動きを止めるか威圧。赤外もゴーグルをしていたし名前からも予想して赤外線だろうな」
「あの
入学して間もない戦闘訓練にて扇動と組んだ尾白と葉隠。
あの時に名前による考察を聞いていただけに、軽く予想を立てて見るも押し黙った扇動の様子からハズレだという事は明白だ。
同時にその様子から危惧しているのを察して不安を抱く。
「そんなに不味い相手なのか?」
「俺の予想だが非常に厄介だろう。最悪A組全員で挑んでも全滅する可能性すらあり得る」
そんな馬鹿なと扇動の言葉を否定したかった。
爆豪や焦凍、八百万や扇動などなどクラスメイトには頼りになる仲間がいる。
なのに全滅するなんて…と思うも真剣な表情で告げたのが扇動である事から可能性は高いのだろうと理解させられる。
「苗字から不死身を連想させる超回復などの可能性も考慮していたが、コスチュームの内側から両腕の穴までチューブが繋がっていた事から液体か気体を噴出する個性であると思われる事から違うであろうと模索し奴の名前を聞いたんだ」
「そういえば自己紹介時に苗字しか名乗ってなかったな」
「で、名前から個性解かったの?」
「
ゾンビという答えに戸惑いを浮かべる。
もしも扇動の予想通りの個性であるならば、映画に登場するゾンビに自分達がされかねないどころか、最悪ゾンビとなったクラスメイトと対峙する事になるだろう。
一人ならまだしもクラスメイト全員がそうなった場合は対処仕切れるのか?
不安と疑問がそれぞれ抱くも扇動と焦凍が居るのだから何とかなると信頼と根拠のない自信を胸に奮い立たせる。
頼りにされている焦凍としては恐れるというよりはどう対処すべきかと考えを進めており、当然ながらゾンビだという予想を立てた扇動に投げかける。
「どう対処すれば良いと思う?」
「―――近づけさせない、近づかないのが一番だが…どうなるかな?」
扇動自身困った表情を浮かべる中、五分が経過した事でサバイバル訓練は開始されるのであった…。