入学してから二か月。
個性を含めた今出来る全てを出し切って競い合う雄英体育祭に、プロヒーローの活動を間近で体験させて貰う職場体験。
ヒーローに成る為に経験や知識を得る学校行事が行われてきたが、いくらヒーロー育成機関の名門と言えど学問を疎かにする訳にはいかず、一期末を前に中間テストが待ち構えていた。
どれだけ学びが身に付いたかを計る場。
テスト期間に入れば否応が無しに勉強机と向き合う事になるだろう。
追い込みや復習・確認に励む者。
両親や周りから“良い成績”を求められたり、“勉強せんでええんか?”と圧を掛けられ座る者。
勉強をするかと向かい合うもちょっと掃除をしようとか、たまたま目に付いた漫画が読みたくなったなど、勉学とは異なる事にいつも以上の異様な集中力を発揮してしまう者…。
様々な理由や想いを胸に学生は各々期間を過ごし、ペンの擦れる音が大きく聞こえる程に静かな時間をテスト用紙と向かい合う。
教科ごとに割り振られたテスト時間を乗り越えた学生は、息が詰まりそうな時間に加えて勉学に向き合わせばならないテスト期間もあって、終わりのチャイムが鳴り響くと同時に清々しい程の解放感を味わう事になる。
テストの良し悪しを別として……だが。
「んー、終わったぁ」
「どっちの意味で?」
「……両方…」
思いっきり伸びをしながら呟いた上鳴に、耳郎が問いかけるとそのまま前のめりに机に突っ伏した。
反応から悪かったのだなと何人かが苦笑い、または同様の想いを抱く者もちらほら。
だが、大半が結果も出ていない点数を考えたり、今から不安に対して思い悩むよりも勉強漬けだった鬱憤を晴らしたい。
「帰りにどっか寄らね?」
「お、良いね!」
「私も私も!」
一人が声を掛けた事で次々と参加の声が挙がる。
放課後の特訓は自主参加な上に、テスト明けは皆遊びたいだろうと休みにしていた事もあり、
で、その行き先というのがカラオケ店となり、代表してクラス委員の飯田が―――といきたい所であったが、あまり訪れた事がない為に耳郎や上鳴がシステムなどを説明しながら受付で設定などを行っている。
「楽しみやね」
「う、うん、そうだね…」
笑顔の麗日に対して困ったように緑谷は答える。
正直楽しみというよりも下手だったら、音痴だったらどうしようと内心不安が過ってそれどころではない。
楽しそうな麗日に誘われ、興味津々だった飯田に釣られる形で来ただけで、慣れていない為に余計に不安が募る。
扇動なら何かしら言ってくれたかもしれないが、
「それにしても意外だよなぁ。爆豪が来るとかあり得なくね?」
「アァ!?俺が居ちゃワリィか!!」
「いやいや、そう言うキャラじゃねぇだろ?」
「楽しそうだから俺が誘ったんだ」
「切島のそう言う所すげぇよな…」
聞こえてきた瀬呂との会話に遠巻きにも納得する。
爆豪が来たこともだけど
確かに扇動も
別に見下して上から目線とかではないけれど、何となく目線が
「あれ?むーくんは何処に……」
「そう言えば見ぃひんね」
「あっちで保護者やってたよ」
「保護者?」
会話が耳に入ったのか青山がウインク一つしながら指し示すと、ドリンクサーバーの前で八百万と轟両名の相手をしている扇動の姿が……。
「この機械は使い方覚えてますわ!」
「おう、解かったから落ち着けお嬢」
「ソフトクリームはアイス……だよな?なんで飲み放題に含まれてるんだ?」
「店側が含めたんだから気にするな。それかコーラや珈琲の上に乗せればフロートになって飲み物になるって事で納得しろ」
「ほんまに保護者しとる!?」
二人共
体育祭の後に食べに行った時もそうだったけど、保護者の肩書が定着しつつある事に苦笑を浮かべる。
「受付出来たぞ!」
「じゃ、いこっか」
受付が終わったらしく呼ばれた面々は、大人数の移動は他の客の邪魔になる事から飯田が一列になるように指示を出し、指定された大部屋へと移動して行く。
大部屋とは言えさすがに21人も入ると狭苦しい事は無いが、結構なスペースが埋まる。
入るや否や食入る様にパネルを弄って何を謳おうかと曲を視たり、メニュー表を開いて何か注文しようとするなど様々。
さて、ここで最初の一曲目を謳うと言うのはこれからの流れ的な意味でも重要だ。
一人でなら気にする事も無いのだが、やはり初っ端は勢いづけるにも選曲も重要。
加えるなら最悪歌っている途中に注文されたドリンクや料理を持った店員が入って来る確率が非常に高い。
あと、単純に人数が多いゆえに譲り合いが発生し易い。
そんな中、耳郎がニタリと笑いながら手を挙げた。
「扇動、最初歌いなよ」
この時、何故扇動に振ったのかという疑問を多くが抱くが、耳郎の理由を理解出来た八百万は納得したような視線を向ける。
対して向けられた扇動は眉を潜めるもため息一つ零し、パネルを操作して即座に曲を入れた。
若干目が怪しく笑っていたのを緑谷は見逃さなかった。
「
「勿論知って……え?ちょっと待っ――」
「吹っ掛けたのはそっちなんだ。付き合え」
やられた言わんばかりの顔をするも、言い出したのは自分だと理解しているだけに―――否、それだけでなく
歌ったところなど見た事など無かっただけに、どんな風に歌うんだろう程度に眺めていた緑谷は、歌い始めた二人に圧倒された。
熱の籠り方や歌唱力も高い事ながら、扇動も耳郎も画面に表示される歌詞を一切見ずに完璧に歌い切ったのだ。
これには室内大盛り上がり。
そこからは二人に続けっていう勢いで歌い始める。
「じゃあ、私いっくねー!!」
「この曲どこかで…」
「扇動の着信じゃね?」
芦戸が
扇動は着信音で誰からか分かるように音や曲を変えており、芦戸は自身の着信音にされていたという事で強く印象強く、元々知っている曲だから選曲したのだが、扇動はその理由を一度たりとも口にした事はない。
前世で聞いた歌い手と芦戸の声が
「そういえばこれちょっと梅雨ちゃんに似てるよね?」
「ケロ、羽生子ちゃんにも言われた事あるわ」
前世の記憶がある扇動からすればこの世界の声は聞き覚えがあり過ぎる。
葉隠が
当然こちらで広めた際に蛙吹と出会っていない扇動が、どうして蛙吹の声を真似て歌ったんだろうと耳郎の疑問の視線が突き刺さるが知らんぷり。
続いて切島は
初めての八百万も前に耳郎に勧められたものを、焦凍は
正体を知る耳郎はニンマリと笑みを浮かべる。
「ねぇ、ねぇ、今どんな気持ち?」
「聞くな」
にまぁと笑いながら扇動に絡む耳郎との会話は、歌に紛れて他の耳に入る事はなく掻き消される。
嬉しい反面恥ずかしさから顔が若干赤くなっているも、皆歌に夢中で気付かないのは有難い―――と思った矢先、こちらを見ていた青山と目が合い、さっと
見られた事より妙に青山の反応に気になった扇動だが、助けを求める視線が向けられた事で疑念を後回しにしてしまった。
「緑谷君は歌わないのかい?」
「そうやね。デク君も歌おうよ!」
「――え、僕は……」
ほぼ聞き手に回っていた緑谷は急に振られてどうしようと思考を巡らす。
何を歌うべきか、どういう曲が良いのかと悩み、扇動へと視線を向けると仕方がないと苦笑した。
「仕方ねぇ。一緒に歌うかイズク」
「――ッ、うん!」
「他も混ざれ混ざれ」
選曲されたのは初めて聞いた曲だったが、歌いやすいのと一緒に歌っていてくれた事もあって、心の底から楽しく歌い切れた。
思いっきり歌った事で満足感とちょっとした疲労感が喉にも襲い掛かり、注文したジュースを口にして一息つく。
「この曲って何か思い入れがあるの?」
「……いや、なんで選んだんだ?」
自分で選んだはずなのに何故か解らず扇動は困惑を露わにした。
この曲も自分がこちらへと持ち込んだ事には違いない。
されど耳に残っている、記憶にあれど何で聞いたかは覚えていないというもので、多分アニメか特撮のどちらかだろうと推測は出来ても思い出す事は叶わない。
ただその曲を選んだ時、緑谷の顔が
「デク君、上手かったね!」
「い、いやぁ、そんな事は……」
「一緒に歌おうよ!」
「え、ちょ――」
疑問符を浮かべる扇動より答えが返って来るよりも先に、麗日に誘われるままに二曲目を歌い始める。
楽しいのだけどさすがに連続は喉が多少なりとも疲れ、歌い終わった頃にはマイクを渡してソファに腰かけて大きく凭れた。
「大丈夫かい緑谷君?」
「うん、大丈夫だよ」
…と返しながらも疲れているのは誰の目にも明らか。
ジュースを口にしながら先ほど一緒に歌ったばかりの麗日へと振り向くと、飲み物と共に注文していた料理を本当に美味しそうに口にしていたところであった。
それに当てられて何人か料理を注文し始め、歌うのを楽しみながらも料理に舌鼓を打っては楽しい一時を楽しむ。
自分が歌った曲に皆が歌った曲など聞いている内に興味が湧いて良き、帰りにCDショップに寄ってみようかと話していると耳郎が喰い付いて帰りに皆で寄る事に。
熱が籠り過ぎた事もあって皆熱唱した結果、楽しくも疲れが見え隠れしている。
時間も時間なだけにお開きにしようと思うも、それに待ったを掛ける人物が一人。
「次こそ!」
「もう時間来ちゃうよ」
「ンだと!延長するに決まってんだろうが!!」
「時間的に無理があんだろ。最期に一曲というところだな」
採点機能も使っていて爆豪も結構な高得点ながら、扇動の方が
だけど扇動もそろそろ帰らないと
ゆえに誘導するしかないとため息を漏らす。
「最後に一緒に歌うか?」
「誰がテメェとなんか歌うか!」
「合わせれないか?仕方ない、俺が合わせてやるから――」
「…上等だコラ!少しでもヘマしやがったらぶっ飛ばすからなァ」
うわぁ……と若干周囲から引き気味の声が漏れる中、扇動はパネルを操作して最後に何気なく、爆豪の声からあっちこっちのOPを入れて扇動と爆豪、合いの手に何人かが混じって歌うとカラオケは幕を閉じたのだった。
扇動は焦凍と共に家に帰りながら考え込んでいた。
何故あの曲に対して緑谷の顔が浮かんだのか?
あの青山の反応は一体何だったのか?
今日の晩御飯は何にしようかなど考える事は多くあるが、今一番の悩みは今後の学校行事の事だ。
来月にもなれば七月となる。
夏休みを真っ先に思い浮かべる者も多いが、一期末テストや林間合宿などの学校行事もある。
その中で最も近い学校行事が―――授業参観。
別に爺ちゃんが見に来るのは有難いし、嬉しい事なので自分は問題ない。
問題なのは隣を歩いている焦凍。
つまり轟家の誰に伝えるかである。
親という事を考えれば炎司であるが、エンデヴァー当人はノリノリで参観に来るだろうが、焦凍は正反対に気分はダダ下がりになるのは目に見えている。
「お姉さんが適切な所か……しかし……」
「どうした?何かあったか?」
唸りながら悩む扇動に心配そうに焦凍が声を掛けるも、お前さんの家で悩んでんだと素直にいうのもなんだなと悩み、扇動はしばらくの間は自分だけで悩むのであった……。