今日のヒーロー学はいつもと様子が異なっていた。
当然と言えば当然なのだろう。
本日のヒーロー学には“授業参観”と言う事で、各々の親が訪れているのだから張り切るのも無理ないというもの。
ただ生徒以上に気合が入っている保護者もいるが……。
「やっぱトップヒーローともなると存在感半端ねぇな!」
「圧って言うか気迫凄くない?」
「さすがプロ。常日頃から常在戦場の心構えですのね」
「エンデヴァーもだけど隣の爺さんもなんか凄くね?」
「むーくんのお爺さんだよね!生で見るの初めてだよ!!」
「あ?クソジジイ来てんのか?」
「なんで爆豪は扇動の爺さんに敵意剥き出しなんだ?」
コスチュームは着用していないエンデヴァー…もとい、轟 炎司が腕を組んだ状態で睨みつけるように眺め、隣には直立不動の扇動 流拳が鋭い眼光を向けていた。
炎司は焦凍に、流拳は無一に期待と活躍を見守ろうとガン見しており、無一に至っては流拳の視線だけでなく口にはしないだけで焦凍の抗議の視線まで突き刺さっている。
轟家の事情と焦凍の心情を考慮するならば父親である炎司は呼ぶべきではないだろう。
もし轟家の誰かを呼ぶのであれば姉の冬美であるとは思ったが、万が一にでも炎司の耳に入って来る可能性を考えたら、手を打つ為にも先に話を通しておいた方が得策かと判断したのだ。
だから炎司はかなり釘を刺されている。
焦凍が今までどのような扱いを受けて、どのような感情を抱いているかを淡々と再認識させられ、変に呼びかける事は気を散らすばかりか焦凍にとってはより嫌う行為だから参観中は観戦に徹して声掛けなどは遠慮する様にと
そもそも体育祭で炎司が見せた反応は恥ずかしく、クラスメイトやその保護者の前でやられては溜まったもんじゃないだろう。
約束を守って観るのに徹してくれたのは良いのだが、それはそれで焦凍は気になって仕方はない様子。
横には冬美が何かあった際の制止役としているけれど、その表情は呆れ交じりの困り顔を浮かべていた。
……流拳の場合は安全管理の都合上、撮影が禁止だった事で用意したカメラ類が使用できず、孫の活躍を目に焼き付けるとの事…。
さて、授業参観で行われるヒーロー学は救助訓練。
水難ゾーンで溺れかけている要救助者を救助すると言う内容。
周囲にはキャンプでもしていたのかキャンプ用品が置かれており、救助方法はそれぞれが考えて行うようにとの事だ。
担当教員は担任の相澤と13号の両人。
保護者が見守る中でまず最初に救助する側に選ばれたのは緑谷。
いつも以上に視線が集まる以上に一番手という事もあって緊張の度合いは凄まじいもので、何故か母親の緑谷 引子は心配し過ぎて祈るように見守っていた。
「扇動、溺れ役頼めるか?」
「案山子?それとも
「リアルで」
「了解。梅雨ちゃん、投げ飛ばして貰える?」
「ケロッ!?良いの扇動ちゃん」
短く確認を取った扇動は仮面とロングコートを脱ぐと、蛙吹に頼みながら軽く準備体操を行い始める。
戸惑いながらも確認するも変更はなく、仕方がないと舌を胴に巻きつけると思いっきり投げた。
水に落ちる際は水しぶきがほとんど上がる事ないように入り、浮かんで来た扇動はバシャバシャと必死にもがき始めた。
本当に溺れているかのように…。
「―――ッ、むーくん!?」
訓練と言えど事故は当然起こりえる。
大慌てで飛び込んだ緑谷は少しでも早くと泳ぎ、藻掻いている扇動へと手を伸ばす。
気付いて扇動も手を伸ばしてきたが掴んだのは腕。
それで終わらず次に肩などにしがみ付かれ、上手く身動きの取れない緑谷は態勢を維持できずに引きずり込まれる。
顔が水中に沈みそうになった時、離れた扇動が横合いから片腕で胴を掴んで支え、水面より浮き上がらせた状態で陸地へと引っ張っていく。
救助者と救助される側が入れ替わった事に誰もが驚き、同時に扇動が本当に溺れていたのではなく演技だった事に安堵する。
水から上がった扇動は濡れた髪をかき上げながら小さく息をつき、逆に引き摺り込まれそうになった緑谷は四つん這いで息を荒げていた。
「し、死ぬかと思った…」
「デク君大丈夫!?」
「このように危機的状況に正常な判断は出来ずにパニック状態に陥り、何彼構わずしがみ付こうとしますので、まずは相手を落ち着かせれる様に声掛け、またはロープや浮力のある物を投げるなどして救助しましょう」
「直接救助する場合もあるだろうが、真正面からすると緑谷のように二重事故を起こしかねない」
「“溺れる者は藁をも掴む”という訳ですね」
「――ッ、つまり溺れる役は合法的に抱き付け……」
「アンタに限ってはアウト」
「イタイッ!?」
「参観日ぐらい少しは自重しろよ」
実演した緑谷の行動から指摘と追加のアドバイスされる中、欲望を口から漏らした峰田はツッコミで耳郎のイヤホンジャックを
受けるのであった。
勿論離れた所からも救助できる蛙吹や常闇など個性で救助できるものは個性を使用し、救助に向かない個性持ちは道具を用いての救助などを行って進んでいく。
「やっぱり梅雨ちゃんや常闇君の独壇場だよね」
「ってか、条件に合う個性持ち少なくね?」
「皆、自分に出来る事をしっかりとやろう!」
親が来ているという事で頑張るところを見て欲しいという思いもあって、幾ばくか有利な個性に対して妬みというかどこかネガティブになりがちである。
時に轟は地面から氷結を伸ばして救助しに行くと、引き上げると同時に炎を少しばかり出して要救助者を温めつつ声を掛けたりと、派手で他には出来ないやり方を見せただけに余計にだ。
逆にやる気を見せる切島や皆に呼びかけた飯田みたいに寧ろ対抗心を燃やす者も居る。
保護者達は子供達の授業風景をそれぞれの感想を抱き、授業内容や柔軟な思想や個性の使い方に感心したりしながら眺めていた。
時折掛けられる声援やら反応にちょっとばかし気恥ずかしく思う者もいたが、順調に授業は進んで一通り済んだところで突如轟音が響き渡った。
何事かと視線を向けながらも生徒の脳裏に過ったのは、ヴィラン連合襲撃事件の後に救助訓練にてオールマイトがヴィランに扮して襲ってきた事。
「おいおい、今度は何だよ!?」
「またオールマイト?」
またかと感想を漏らす者が大半。
この中で即座に反応したのは十人にも満たない。
即座に戦闘態勢を取った轟 焦凍と爆豪 勝己。
サポート科の発目に作って貰った偵察用のドローンを放り投げ、腕部のモニターを起動させて状況の把握に努めている。
「オイ、
「教員だ。しかも正面に二人―――エクトプラズム先生とセメントス先生」
「え、なにこれ?訓練の一環で良いの?」
「だろうな。でなければエンデヴァーと
プロヒーロー二人が動く動作をしないと言う事は先に知らされていたのだろう。
他にも誰か居ないかと情報収集を行いながら扇動は相澤先生に対して軽く苦笑した。
授業参観があると説明した際に保護者へ感謝の手紙を書くように言われた。
その時は上鳴が冗談ですよねと口にしていたように、相澤先生にしては“らしく”ないと思っていたが、これがあったからこその感謝の手紙だったのかと感心させられる。
書かされた事で普段以上に保護者への意識が高まり、ほとんどがヴィラン役の教師陣よりも自身の親へ意識が向かっている。
「相澤先生、これも訓練なんですか?」
「あぁ、ヴィランから一般人を護れ。クリア条件は保護者の避難または制限時間内護り切る事。逆に守り切れなければゲームオーバーだ」
「ちなみに私達は居ない者とします。ヴィランを担当する先生方はハンデとして重りを付けていますので」
「……アイツを……護る?」
何の冗談だ?と護衛対象の一人である炎司に焦凍は怪訝な顔を浮かべた。
誰もがエンデヴァーなら護らずとも一人で撃退できるのではと思うも、今回は護衛対象という設定ゆえに考えを放棄する。
中には相澤がため息交じりに説明している事から、多分この訓練を組んだのはオールマイトかなと当たりを付ける者もいるが、今はそれよりも目の前の訓練に集中すべきだ。
ドローンで観察していた扇動は向かってくるエクトプラズムの分身体を確認した。
「数30以上来るな」
「マジかよ!?エクトプラズム先生の個性って幾らでも出るんじゃねぇの!?」
「何度でも出せるけど総数は限られてた筈だよ」
「いやいや、無限に沸くって事だろそれ!?」
「しかも本体はセメントス先生が護っている」
「勝ち目ねぇじゃんそんなの!」
そう口にする気持ちは理解出来る。
相手は一度に出せる数が決まっていようと消されたらまた出して逐次投入が可能な上、コンクリートを自由自在に操れるセメントスが本体を防御しているとなれば防衛も攻撃も難しい。
だから弱気になるのも仕方ないだろう。
されどそんな彼らに爆豪は馬鹿馬鹿しいと言わんばかりに鼻で嗤った。
「本体をブッ飛ばせば終いだろうが!!」
「ちょっと勝己!」
跳び出して行った爆豪に母親の
寧ろそれもそれでありかと扇動辺りが考え始めている。
「間違っては無いんだけどな―――イズク、焦凍。爆豪の援護頼めるか?」
「え?けど守りは……」
「お前ら二人共範囲系だ。最悪保護者を巻き込みかねない」
「確かに攻めならば気にする必要もないか」
「分かったよむーくん」
どの道、持久戦となる防衛線では分が悪い。
本体を叩ければ一番なのは当然だし、彼ら三人が向かう事で
爆豪を追うようにして向かって行く緑谷と焦凍を見送った後、扇動は少し悩んで八百万へと近づく。
「防衛の指揮はお嬢に任せる」
「扇動さんはしないのですか?」
「俺は足止めに回る。それと―――」
「――ッ、スナイプ先生まで!?解りました。こちらは任されましたわ!」
示した方向からは別動隊の役割だろうスナイプが距離はあるが向かってきていた。
理解した八百万は指示を出して保護者を護る体勢を構築しながら、最後に扇動が小声で耳打ちした言葉にも意識を向ける。
「青山と葉隠、付き合ってくれねぇか?」
「……フフッ、勿論良いさ☆」
「OKだよ扇動君!」
扇動に呼びかけられた青山と葉隠は二つ返事で了承し、続いてスナイプへと向かって行った。
●授業参観に向けての職員会議
「……却下です」
「何故!?」
中間テストが終われば授業参観が待っている。
保護者が見に来るのだから折角にとヒーロー科の授業内容は救助訓練と決まった。
しかしながらそれだけで終わると言う事もなく、もう少し踏み込んだものにしようと話が上がったのが事の始まりだ。
別段その事自体に相澤は反対はしていない。
真っ先に提案されたのは保護者を人質役にした救助訓練。
確かに有りとも思ったが発言者がオールマイトこと八木 俊典である事から即座に却下した。
寧ろ何故却下されないと思ったのか……。
呆れ交じりのため息がつい漏れそうになったのを一応抑える。
「何故もないでしょう。また同じことを繰り返すつもりですか?」
「――ウッ……それは、その」
「オールマイトさん、前回やり過ぎちゃいましたからねぇ」
「さすがに保護者の前で前と同じは駄目でしょう」
「特に緑谷君は怪我してましたから」
「それは保護者から苦情が出るでしょう」
ぐうの音も出ない正論。
加えて教員の誰一人として擁護どころか止めを刺さんばかりに畳み掛けてきた。
しょぼんと肩を落とした八木は、最後の希望と言わんばかりに根津校長へ視線を向けるも「君はどうしてもやり過ぎちゃうから駄目なのさ!」と笑いながらも容赦なく止めを刺した。
「でも、面白そうよね」
「保護者が居るのだから人質救出、または防衛訓練とか出来そうですね」
「良いね、良いね!面白そうじゃん!」
「面白そうってお前なぁ……」
「硬い事言うなよイレイザー。考えるだけならタダなんだし」
全くこいつはと頭を抱えるも、プレゼントマイクの発言に賛同する者は多く乗り気であった。
家族が居る状況での訓練というのも彼ら・彼女らの良き経験になるだろう。
しかしながら保護者が参加すると言う事はヴィラン役を担当する教師陣に対しても足枷となる。
声による音波攻撃を広範囲に遠距離で行える個性“ヴォイス”のプレゼントマイク。
個性“眠り香”を周囲に巻く事で吸い込んだ相手を眠らせるミッドナイト。
吸い込んだものを分子レベルで分解する13号の個性“ブラックホール”などなど。
範囲攻撃の類は最悪保護者も巻き込みかねない。
特にオールマイトは威力が高い上に拳の一振りすら範囲攻撃になり、熱が入るとやり過ぎてしまう事から論外。
「そうなって来ると限られるんだよんぁ」
プレゼントマイクの言う通り、皆の視線は自ずとエクトプラズムやセメントス、スナイプにパワーローダーなどに向けられる。
向けられた中でパワーローダーは怪訝な顔をして首を横に振るう。
「遠慮させて貰うよ」
「ヘイヘイ、パワーローダー。どうしたんだよ?」
「A組って事はアイツが居るだろ?何してくるか分からん上に怖いから止めとく」
「あはは、確かに扇動君は何をしてくるか解りませんからボクも怖いですね」
「どれだけ嫌われているんだよアイツ」
乾いた笑みを浮かべながらやんわりと同意する13号は別として、腹部を押さえながら言うパワーローダーは切実な想いが混じっているがゆえに頼み込むのも気が引ける。
対してセメントスやスナイプ、エクトプラズムなどは授業の都合さえつけば担当しても良いと快く返事してくれた。
しかし誰が担当するかによって内容は大きく異なるだろう。
「ヴィラン役やるならどんな方法をとるんだ?」
「そうですね、私なら―――」
ニッコリと穏やかな笑みを浮かべる様子とは異なり、セメントスの口から出たのは教師陣が引くぐらいな難易度鬼畜過ぎてクリアさせる気など微塵もない内容。
さすがにそれはと誰もが表情で物語っている中、根津校長が「良い考えがあるのさ!」と難易度を下げながらも生徒でもクリア
出来るかも知れない案を出し、それが採用されるのであった。
読んで頂きありがとうございます。
今年一年投稿遅れや体調不良が目立ちましたが来年はないように気を付けたいです。
まだまだ寒い日も続きますので皆様も体調お気を付けください。
皆様にとっても良き一年でありますように。