どうぞ今年も宜しくお願い致します。
ヴィラン役としてA組の授業参観に参加しているセメントスとエクトプラズムは、真っ向から向かってくる爆豪達を見て笑みを浮かべた。
前もって相澤より得ていたA組の情報と雄英体育祭で見せた性格から爆豪は間違いなく向かってくるのは予定通り。
他にも幾人も来るだろうと踏んでいたのだけど、向かってきているのはA組内でトップクラスの実力を持つ合計三名のみ。
「ホゥ、少数精鋭デ挑ンデ来ルカ」
「道理と言えば道理ですが入れ知恵か本人の判断か気になるところですね」
良くも悪くも強い個性を持つ三人は広範囲での面攻撃が可能ではあるも、熟練者ならともなく防衛戦では最悪護衛対象にまで被害を与えかねない。
それだけではなく防衛側の負担も減らそうと言う魂胆なのだろう。
時間稼ぎを考えるなら機動力の高い飯田やテープやもぎもぎで捕縛可能な瀬呂や峰田、音による広範囲攻撃で支援できる耳郎などが選ばれるだろうが、面子から考えたら時間稼ぎというよりも撃破を狙っていると推測出来る。
例え倒せずともエクトプラズムは分身の多くを割かねばならず、ハンデのある状態ではセメントス一人だけでも先へ進むと言う事は叶わない。
教員として思いを馳せていた二人に対し、文字通り飛んで来た爆豪は怒号を浴びせる
「―――死ねやッ!!」
爆発によって発生した爆炎を空中より放つ。
複数のエクトプラズムの分身体が飲み込まれて消失する中、本体はセメントスが作り出したコンクリートの壁に防がれて無傷。
炎が周囲に散ったところでセメントスは小さくため息をついた。
「仮にもヒーローを目指す者としてその発言は如何なものか……」
ぼやくような小さな呟きは聞こえているのだが、爆豪は感情のままに返す事無く舌打ちを一つ零す程度で留める。
なにせ自身の攻撃を防がれたばかりか幾重ものコンクリートが捕えようと伸び、反射も込みで必死に回避や迎撃に努めていてその余裕がないのだ。
「ホォ、アレヲ躱ストハ中々」
「将来が楽しみですね」
会話だけはほっこりしつつも互いに手を抜く事は無い。
エクトプラズムの分身体は倒された矢先から増やして数を補強する。
そしてセメントスに至っては大人気ないというより
コンクリートを自在に操って爆豪を誘導し、死角や壊す為に発生させた爆発に紛れさせて伸ばしたりして、複数の手段を用いて絡め取ろうと手を打ち続ける。
授業としてはやり過ぎなように見えるが明確にオールマイトのような怪我が起こる一線は超えないようにきっちり守っている。
逆に言えばそのギリギリまでは攻め込んでいると言えるが、これに関してはそれだけ期待しているという裏返し。
加えて今の内に爆豪を捕えないと後が不味いという現れでもある。
「―――スマァアアアアッシュ!!」
到着した緑谷により殴りつけるような風圧が分身体を吹き飛ばすだけでは飽き足らず、自分達に向かって来た事でコンクリートで遮蔽物を形成。
何枚か砕けるも幾重に重ねたために受ける事はなかった。
しかし注意がそちらに向いてコントロールが緩くなった先に、爆豪は伸びていたコンクリートを爆発で吹き飛ばして脱出。
さらに轟の氷結によって足場ごと凍り付かされてしまう。
「誰が来いっつったよ!」
「えっと、手伝いに来たんだけど……」
「テメェの手助けなんざいらねぇんだよ!!帰れ!!」
「無駄話している場合じゃあねぇぞ。来るぞ!」
気に入らないと言った様子で緑谷に対して睨みと怒声を浴びせる爆豪。
まだ捕縛も出来ていない
「
「仕切ってんじゃあねぇよ半分野郎!!」
「落ち着いてかっちゃん」
「テメェは黙ってろ!!」
チームの相性は悪いように
我先にと突っ込んで来る爆豪の強個性と高い身体能力による突破力は侮れず、昔から
完璧―――には程遠いが中々な連携を見せてくれる。
その上、数で襲うもコンクリートで攻撃を仕掛けるもそれぞれの個性が強力で易々と砕き突破してくる。
「これは厄介……ですが」
「連携ニ粗ガ大キイ」
緑谷がサポートして一応形にはなっているものの、それを気に入らないのが爆豪だ。
苛立ちなどが僅かな隙を生んで、積み重なる事で付け入るには充分過ぎる。
加えて爆豪も轟もサポートよりもメインとして前に出るタイプ。
まだまだ学ぶことが多い学生でサポートする側の経験は圧倒的に少ない。
成長の余地有りの有望な若人を前にエクトプラズムもセメントスも不敵な笑みを浮かべ、我武者羅な生徒に対してヒーローとして蓄積された経験を活かした技術をもって嗜めるのであった。
一方、防衛を担当しているA組の生徒達はヴィラン役の分身体エクトプラズムの猛攻を耐え凌ぎ、護衛対象である保護者に被害を出す事無く守り抜いていた。
エクトプラズムの個性は分身体を出す事での数の暴力であって、単体が強固な力を発する個性を発揮する訳ではない。
つまるところ相手が少数か多くても個性を含めて実力が本体前後の相手には有利でも、
持久戦や相手のスタミナを消費させるなど他にも手はあるが、基本は上記の通りの相性である。
ただ“ヒーローは一芸では務まらん”と相澤が口にしたように個性だけで成り立つ職業ではない。
いくら数を出そうが分身自体が弱ければ意味がない。
個性を使用せずとも単身で相手を倒せるようには当然ながら鍛えている。
プロとしての実績に経験、長年鍛え培ってきた年月というのは早々にひっくり返せれるものではない。
近接戦をメインとする麗日や尾白、砂藤などはさすがに一対一では撃破は難しく、寧ろ向こう側が複数体で一人に襲い掛かろうとする動きすら見せる為に単独での行動は撃破される危険が高い。
そこで峰田のもぎもぎや瀬呂のテーブなどで中距離可能な個性持ちで的確に相手の分断を図りつつ、最低でも二人以上で分身体を倒していく戦法を取らざるを得ない。
約一名ばかりはその限りではないが……。
扇動曰く、対物戦ならいざ知らず対人戦だと個性を酷く制限しなければならないというハンデを背負う人物―――芦戸 三奈。
酸を用いた機動力に合わせて本人の高い身体能力、鉄だろうと即座に溶かしてしまう強力な酸攻撃。
相手が分身である事から本領を発揮している彼女はまさに無双状態。
離れようとも機動力からすぐさま追い付かれ、囲って討ち取ろうとしても酸を纏えば触る事すら叶わない無敵と化し、最早止める事すら叶わない彼女は防衛側の最高戦力と成っている。
「強過ぎない?」
「今ならあの時の扇動ちゃんの気持ちが痛い程解かるわ」
雄英体育祭でトーナメント発表時に、芦戸が相手だと解って酷く項垂れた事があった。
目の前で起こっている事をすでに理解して予想していただけにあの反応だったのかと戦闘の合間に幾人かが思い出しては納得していた。
無論芦戸一人のおかげで防衛がなされている訳ではない。
中でも特筆すべき活躍をしているのは確かではあるが皆の活躍あってこそである。
他にも音による範囲攻撃で足止めをしている耳郎に周囲に気を配ってはサポートに徹している蛙吹、全体を見渡して指示を飛ばしている八百万の活躍も目立つところだ。
八百万の個性は膨大な知識と脂質を消費して発動する。
以前から勉学や知識の収拾に努めてきたつもりだが、扇動はそれらを褒めると同時に新たな課題を与えてきた。
脂質から単純に何が作り出せるかではなく、戦闘の流れや脂質の残量に作り出せる物の最適解など先を見据えたコスト管理。
前面を張れる個性でもある事から戦闘技術を習いながらも、理想的なのは後方との事で戦況把握能力や指揮能力の向上などなど学ぶことは多い。
その中で扇動に自主勉強に勧められたのは“戦略シミュレーションゲーム”。
しかも最も参加人数の多いオンラインタイトル。
リアルタイムで戦況を把握しつつ、自分のコストを考慮しながら指示を出さねばならない事に最初の頃は四苦八苦し、両親にヒーローを目指す為にとその事を話すと渋い顔をされたのは記憶に新しい。
指示と各自の奮戦あって戦い抜いて来た面々は、あからさまに攻めて来る分身体の数が減っている事に気付く。
「数、減ってね?」
「デク君達がやってくれたのかな!?」
「いいや、向こうに集中したようだ」
希望的な麗日の言葉を離れた位置で起こっている音や振舞われている個性などから戦闘は続いていると飯田が否定する。
数が減ったのは緑谷、爆豪、轟の三名の攻撃によってこちらに回せるだけの余力がなくなったという事だろう。
逆にこちらは手透きとなった事で心に余裕が生まれてしまう。
「――っし、なら俺らも行くか!」
「駄目ですよ」
やる気に満ち溢れた切島達が救援に行こうと言い出すが、即座に八百万が待ったを掛ける。
何故という多くの疑問の瞳を皆から向けられるも、意見を決して変えるつもりは一切ない。
「私達の役目は防衛。ここで戦力を分散させてしまっては万が一の時に護れません」
「だけど爆豪達は―――」
「優先すべきは保護者の避難です。なので素早く避難を済ませて救援に向かいます!」
余裕が出来たがゆえに見誤ってしまった。
自分達の未熟さを突くのではなく、目的を再度ハッキリさせる事で再認識した者は、ハッと我に返って反省しながらも八百万の意見が正しいと同意して今のうちに避難させようと行動を開始させる。
この時、八百万に余裕はなかった。
別れ際に扇動に小声で「
何を……と告げられた訳ではない。
ただ単に応援や軽い注意みたいなものだったかも知れないが、ナニカあると警戒するに越した事はないだろう。
避難すべく移動する際には保護者達に気を回しながら、行く手に待ち伏せなどが居ないかを飯田や耳郎に頼んで偵察隊として行って貰ったりと警戒は怠らない。
担任である相澤と救助訓練を担当していた13号はその様子を眺め、口にはしないが採点や色々と想いながら後に続く。
プロヒーローであり雄英高校教員を勤める“スナイプ”。
個性“ホーミング”は600メートル以内の視認した標的に、弾丸だろうと矢であろうと投げた物であろうと当てる事が可能。
デメリットとしては威力は落ちるし、部位は選べないというのがあるが、メリットはその個性ゆえの脅威の命中率だろう。
相手を倒す事だけ考えたなら手榴弾を投げる事だけで事足りる。
なにせ600メートル内なら爆弾でも狙い通りに向かって行くミサイルのような誘導兵器と化すのだから。
三年生担当である事から一年生とはすれ違ったりはあれど、がっつりと関わる事は非常に少ない。
ハッキリと関わったのも前にヴィラン連合の襲撃を受けた際に救援に駆け付けた時ぐらいなので、スナイプの実力と個性を大まかにでも知っているA組の生徒は少ない。
その数少ない一人が扇動である。
緑谷を焚きつけてからは自らを鍛えつつ、プロヒーローの情報や動画を見て勉強や情報収集も行っていた。
大人気であるオールマイトや自身の憧れであるイレイザーヘッドなど印象に強いヒーローは多く、遠距離でトップクラスに入る個性と技術を持つスナイプもその一人。
以前インタビューで答えていたのをしっかり覚えており、ゆえに今の所片手で事足りる少数で相手出来ている。
「反撃行けそうか?」
「うん、無理かな☆」
キラッと輝かんばかりの笑みを浮かべて応える青山に「そうか」とだけ返す。
近接戦闘メインの扇動にとってスナイプとの相性は悪すぎる。
なにせ相手は重りというハンデを付けていても射撃で寄せ付けなければ別段どうにでもなる程度。
現に扇動と青山は近づけずに防戦一方。
さすがに600メートルなんて長距離は無理でも遠距離攻撃可能な個性“ネビルレーザー”を持つ青山は、最初こそ攻撃を仕掛けたが直線的な攻撃は避け易く、カバーする技術を持ち合わせていない事から有効な反撃が出来ないでいる。
そもそもの話、扇動は青山を誘ったのは別にスナイプ先生を倒せとか撃ち合えといった理由で連れて来た訳ではない。
確かに遠距離での支援は期待したが、本音を言うと防衛側から離す必要性があった。
青山の個性“ネビルレーザー”は使えば使う程にお腹の調子が悪くなるというデメリットが存在する。
防衛側では保護者を護りながらの防衛戦を展開せねばならず、遠距離攻撃というのもかなり欲しいところであるも頼り過ぎたり使い過ぎたりして腹を下せば、本来の能力が発揮出来ないどころか足手纏いになりかねない。
経験豊富なプロヒーローならまだしも未熟な身で突然防衛戦力に穴が空いたりすれば対応仕切れるか不明。
ならばとこちらに組み込んだのだ。
無論足手纏になったとしても見捨てる気も囮にする気もさらさらない。
それにしてもと扇動は青山をちらりと視線を向ける。
名は体を表すように、この世界では名と個性の繋がりは強い。
例として
だが、青山 優雅の名にはネビルレーザーや腹痛などを現す言葉は使われていない。
何事にも例外はあると言えば何も言えないのも確かではあるが。
個性を受け継いだ緑谷 出久を除いたとしてもA組には“無重力”の麗日 お茶子、教員には“ヴォイス”の
もしかしたら俺が知らないだけで何かしら繋がりのある名なのかも知れないが…。
軽い考えが浮かぶも今は目の前の事に集中しなければと振り払う。
現在扇動は守りと攻めの両方を担当している。
普段は手鞄のように折り畳み、広げれば防弾盾となるサポートアイテムで防ぎ、ウィザーソードガンで隠れつつ反撃や牽制を行っているのだ。
ちなみに近くに遮蔽物が少ないために青山は扇動を盾にするような形で隠れている。
「大丈夫そうかい?」
「判断は任せる」
「かなり厳しそうだね☆」
「そう見えるんならそうなんだろうな!」
正面から撃ち込まれた弾丸を盾で防いだ所を、射線は外しながらも誘導されるように緩やかに曲がって弾丸が襲って来た。
青山を押して庇えるように立ち位置を変えさせて曲がって来た弾丸も盾で受け止める。
衝撃を逃がすようにはしているつもりだがやはり中々に腕にダメージが蓄積する。
悪態の一つも吐き出したくなるも、大まかな情報ばかりで詳細を知らなかっただけに、体験した事で脅威を認識しつつ安堵した。
「笑ってるけど良い案浮かんだかい」
「いいや、そうじゃなくてな。
「どんなのなんだい?」
「目標に直撃するまでは止まろうが壁にめり込もうがどんなことがあろうと絶対に向かって行く魔弾」
「本当にそうじゃなくて良かったね!」
激しく同意されるも喜んでばかりもいられない。
こちらが不利なのは一向に変わらず。
相手の残弾が切れれば話は別なのだが向こうが切れる前にウィザードガンの残弾の方が先に尽きるだろうし、そこまでの持久戦が出来るかどうかって言うのも怪しい。
せめて手榴弾系が使えれれば良かったけれど、投げたところで撃ち落されるだろうし、最悪投げ返されたらホーミングの個性で付与されて目も当てられない事になるだろう。
焦りと苛立ちを胸に思考を巡らせる扇動に対してスナイプは、顔を覆うマスクで表情を伺う事は出来ないが目を見張るほどに感心していた。
「初見の筈なんだが対策はばっちりという訳か―――厄介な」
「余裕綽々で
「これは生徒に対しての枷ではない。
「―――ッ、それは失礼した。今の失言を撤回させて頂きたい」
当たり前の事だ。
ヒーローと活動するならば制限が掛かる。
例えば頭や心臓と言った急所を狙うと言ったヴィランとは言え殺害しかねない攻撃を行うなど…。
交戦が始まってから足や腕といった戦闘不能にする部位を直接狙うのではなく、掠めるようなギリギリばかりを狙ってきていた。
当然教師としても大怪我させる訳にもいかないので、スナイプは教師としてもヒーローとしても
自分がどれほどまでに冷静ではなかったのか思い知らされた扇動は、撃たれる事を覚悟で深々と頭を下げた。
対してスナイプはリロードを済ませた銃口を向けるも、撃つ事はせずに「構わない」と柔和な様子で答える。
「聞いてた話よりは感情的なんだな」
「……少し想う所がありまして…」
「―――焦りか」
“ヒーロー殺し”ステインの強い意志と執念を見せ付けられ、技術的点においても格の差を想い知らされた。
彼と同じく―――とは決して思わないが、引けを取らないだけの強さを、強く抱ける信念をと想うも成果がなく、皆にはバレないように潜めながら焦燥感が胸の内を焦がしていた。
焦っているのは間違いない。
しかし何故接点もなかったスナイプに見破られたのかが気になって仕方がなかった。
「どうしてって顔をしているな。これでも教師だ。動きからも何となく読み取れたのもあるが」
「そんなに……」
「普段のお前を話でしか知らないが、今のお前は表情にも出ていたぞ」
「俺は――…」
「何に焦って悩んでいるのかは知らんが、一人で考え込んだって堂々巡りするばかりだ。信頼する誰かを頼るのも頭を空っぽにして原点に戻るのも、悠長に思えるかも知れんが時には立ち止まる事が突破口に繋がる事だってあるさ」
ただヴィラン役をやっていただけではなく、しっかりと相手の生徒を見ていた。
決して解決策や答えを見いだせた訳ではないが、少しばかりスッキリした気がした。
ふぅ…と大きく息を吐き出した扇動は再び頭を下げ、盾を構え直して戦闘態勢を取り直す。
「さて、授業を再開するとしよう」
スナイプの言葉に頷き、晴れやかな気持ちで盾を構えながらウィザードガンをスナイプに向け、次の瞬間にはスナイプが放った弾丸がウィザードガンに直撃して砕けた。
呆然と扇動は散らばったパーツと壊れてしまったウィザードガンを交互に眺め、徐々に表情から感情が抜け落ちて行く。
後ろから様子を窺っていた青山はそんな扇動をもろに見てしまい、あまりな表情にゾッとして引いてしまった……。