夏休みに行われる林間合宿。
期末テストで赤点をとった者は学校に残っての補修地獄が待っている。
成績に不安があるものは必死に、余裕がある者でも好成績を取るために勉学に励み、期末テストの一つである筆記試験は終了した。
残るは実技である演習試験のみ。
されど演習試験は通例では入学試験同様に対ロボット戦闘。
B組がその情報を先輩方より掴んでおり、A組へと流してくれたのだ。
全員ロボット相手なら問題ないと余裕満々で迎えた演習試験当日。
広大な雄英敷地内を移動するバスが並ぶバス停に集合した面々の視線は扇動に向いていた。
ここから試験会場に移ると言う事でコスチュームに着替えての集合という話で、皆も着替えているのだけど扇動のコスチュームがいつもと違って物々しいのだ。
扇動が持っているコスチュームは三着。
授業などで扱っているロングコートが特徴的なライダー衣装“ウィザード”。
訓練時にデータ収集を行える計測機器が盛り込まれた“ゼロワン”。
待ちに待っている“グリス”完成の為に試験機として作られ、職場体験時に着用していた“G3”ユニット。
他の二着は兎も角として“G3”は同じ職場体験に行った轟と、制作した発目とサポート科の幾人しか知らないコスチュームだ。
今扇動が着用しているのは起動継続時間の向上など大幅な改良が加えられた改良機“G3‐X”。
本物と違ってAIは搭載していないが、動きによってサポートするシステムは組み込まれているとの事で、データ収集の為に宜しくお願いしますねと発目に渡されたのだ。
嫌いではないけれどコスチュームが完成しましたと呼び出された時は、グリスが完成したのかと浮足立ってしまった俺の気持ちを返せ……と思い出してはため息をつく。
ため息ついでに手にしているサポートアイテムを見て、再度ため息を吐き出した。
“ウィザーソードガン”は仮面ライダーウィザードが使用していた武器の再現アイテムである。
銃にもなるし剣にもなる機能を持つ。
再現と言っても弾に魔力が籠っている訳でも銀の弾丸でもなくゴム弾で、ソードモードは切れ味のある刃物ではなくスタンロッドに近い。
要は実用性がある自己満足なサポートアイテムである。
だからこそ改良の余地があった訳だ。
単発から連射可能にして制圧能力を上げ、弾数を八発程度だったのをマガジンを大きいものに変更して30発に変更。
威力と飛距離を伸ばす為に本体を大型化して、近接戦闘機能が弱いという事で小型チャーンソーを下部に装着。
さらに単発からバースト、連射機能に切り替え可能。
改造したと聞いて見せられた銃がこれだ。
……もう別物じゃあねぇか!怒鳴りたい気持ちを抑えるのには必死だった。
なにせ実戦を考慮するなら性能面を考慮している発目の方が正しいので、銃は別物として褒めておいてウィザーソードガンを新たに作ってくれと注文しておくに留めた。
性能面は良くても持ち運ぶのに不便なんだよこれ……
見た目チェーンソーが付いたアサルトライフル。まんま危険物で、ヴィランの前に俺が警察官に逮捕か職質かけられる。
その点、ウィザーソードガンはハンドガンより少し大きい程度なのでコート内に隠し易いし、コートでなくてもバックとかに潜ませるなど持ち運びが楽だ。
後、一番はやはり気分が乗るから。
「なぁ、扇動。装備厳つ過ぎねぇか?」
「何と戦う気なん?」
「新装備及びサポートアイテムのデータ収集」
「あー、確かにロボット相手ならそういうのも良さそうだよな」
クラスメイト達に自身の装備の事を聞かれ、説明していく。取り敢えず気分を切り替えよう。
対ロボット戦闘のデータ収集で、このデータは先で活かされるだろうし、グリスの開発が早まると思えば。
そう考え方を変えて先生の到着を待っていた所で教員達が姿を現した。
全員、相澤先生が着たら試験会場に移動と思っていただけに、スナイプ先生やミッドナイト先生、はたまた根津校長などなど計10名もの教員が並んだのには面食らった。
同時にこの事態に対して勘の良い者は何かあると察する。
ひょこっとマフラーのように巻いている相澤の捕縛布の間より出ている根津校長が話し出した。
「これから諸君らには二人一組のペアでここに居る教師一人と演習をしてもらう」
まさかの内容に誰しもが騒めいた。
理由としてはロボットとの戦闘は実戦形式とは言い難く、現状ヴィラン連合やヒーロー殺しに
教員側にはハンデとしてサポート科が開発した腕輪状の重りを付けたとはいえ実力・経験共に格上の存在。
二対一とは言え勝利するのは難しい試験内容。
ただ教員に勝つのだけが勝利条件ではない。
実際の状況では勝ち目のない相手とぶつかることも当然ある。
なので勝利条件は腕輪状のハンドカフスを教員に取り付ける事での捕縛判定にするか、救援を呼ぶと言う事で一人でもフィールドに設けられた扉よりの脱出の二択。
状況に応じての判断が試される事になっている。
「やってやろうぜ皆!」
「たりめぇだ。オールマイトだろうがブッ飛ばしてやんよ」
「やる気に溢れているのは大いに結構なんだけど、物騒過ぎないかい爆豪少年?」
燃え上がる切島にビシビシとやる気というか殺意が溢れている爆豪、当てられて冷や汗を流すオールマイト。
誰も彼もが彼らの様に闘争心に火が付いている者ばかりではない。
授業参観の事の引き摺っている八百万や対戦相手が対戦相手なだけに卑屈になっている緑谷など弱腰になっている面々も当然ながら居る。
「開始は順番に行われる。それまではペアで作戦を組むんだり、好きにすると良い」
ペアの発表と担当教員を告げた教員達はそれぞれのバスに散っていった。
早速と作戦を練るペアもあれば各々好きに過ごすところもある。
扇動としては作戦会議をしたい所であるが、担当の教員の個性は知っていてもどの程度の物なのかが不明で作戦が取れない。
そもそも実戦での活躍を知らない事もあって対策も立てようがないと言うのが実情だ。
だとしてもやるからには本気で取り組もう。
つい最近、梅雨ちゃんに言われたばっかりだからな。
人の成長を考える前に生徒として全力で挑まなければ。
意気込みを抱いてどうするかなと頭を悩ます扇動に駆け寄る者が二人。
「扇動、頼りにしてるよ!」
「俺任せにされても困るんだが?ペアでの勝利が一番なんだから。あと俺が無個性だってことを忘れてないか?」
「分かってるって。でもお前が一緒でちょっと安心してるんだ。なぁ?」
駆け寄って来た芦戸と上鳴。
A組は21名という人数から一組三人が出来る。
前から思っていたが俺が三人組に入ることが多くないかと首を傾げる。
いや、今考えるのはそこではない。
寧ろハンデがある中で三人を相手取るだけのナニカがあると言う事。
「………気を引き締めて行くぞ」
「え、どうしたの?やる気満々じゃん」
「相手根津校長でしょ?言っちゃ悪いけど楽な相手じゃない?」
「追い込めるかどうかは知らんが“窮鼠猫を噛む”という言葉は昔から存在するし、ただでさえ
「マジで言ってる……よな?」
「大マジだよ。気を抜いて居ると狩られるぞ」
嫌な予感を感じ取りながら注意するも二人がどの程度、理解してくれたかは解らない。
そもそも扇動自身が理解出来ていないので言い過ぎの可能性もあり得るが、希望的観測よりも最悪を想定して動くに越した事はない。
不安を抱きながら扇動は芦戸と上鳴の二人と共に移動用のバスに乗り込んだ。
「んー、何か話でもするかい?」
何十人も乗れるバスの中。
前の方に座っていたオールマイトは振り返りながら問いかけるも返って来たのは沈黙のみ。
反応の薄さと車内の空気に苦笑いを浮かべつつ前に向き直す事しか出来ず、どうしたものかと頭を悩ませる。
それにしてもか出発前から空気が重くて仕方がない。
ハンデ用の腕輪を複数付ける事になって物理的に重たいと感じるも、この精神的に重たいのに比べれば些細なものだ。
このバスにはオールマイトを相手にする事になったペアが搭乗している。
緑谷 出久と爆豪 勝己。
ペアと担当教員の選定はそれどれの課題から選ばれている。
砂藤・切島は攻撃力防御力共に高いが、持久力に問題ありとして、攻めも守りも行えて長時間戦闘が可能なセメントス。
動物達を声により言う事を聞かせる口田と、音を収集する事での索敵能力や音を放つことで攻撃が可能な耳郎は、音による広範囲長距離攻撃を行えるプレゼント・マイク。
そんな中で緑谷と爆豪が選ばれたのは単純に仲の悪さ。
知っていたとは言え三人しか乗っていないバスの中で肌身で感じさせられるなど堪ったものではない。
(もしかして二人の成長を願ってだけでなく、私に対して想う所があったのだろうか…)
戦闘面において強力な二人をペアにした場合、誰が相手をするかという事でオールマイトが選ばれた訳だが、開始前から精神が重苦しい空気に寄りガリガリ削られて行く事から変に勘ぐってしまう。
訓練でヴィラン役を演じた際にやり過ぎた事だろうか?
勇学園との共同授業で「大丈夫大丈夫、もし何かあったら私が何とかする」と豪語しておいて、結局時間切れで何も出来なかった事だろうか?
他にも――――…。
考え出したら心当たりがあり過ぎてオールマイトまでどんよりとし始めた。
いかんいかん、私まで重くなってどうする。
頭に浮かんでいた考えを振り払い……いや、後で相澤君に飲みにでも誘って聞くと言う事で片隅に置いて、今は試験の事について意識を向けよう。
緑谷少年も爆豪少年も相性は最悪。
どちらも上昇志向の強いので、多少であれば互いに切磋琢磨する良いスパイスとなったであろうが、今のままでは協力する事すら困難。
先の事を考えるなら仲良く―――は難しくても妥協点を見出して行かなければならない。
雄英で共に学ぶ事を考えてもここいらが分岐点……か。
考え付く自身の方針は一つ。
二人が互いに協力せざる得ない状況を創り出す事。
爆豪少年は緑谷少年と協力する事を毛嫌いしながら単独で真っ向から挑んで来るだろう。
緑谷少年は分析能力と臆病さから脱出する事を選ぶだろうか。
ここでまた一つ気が重くなる。
「アンタはいつもやり過ぎる!」とすでに釘を刺されてしまったというのに、試験で行う内容はそれを完全に無視することになってしまう。
後で叱られる事は確定しようともやらねばならぬ。
挑んで来る爆豪少年だけではどうしようもない程に叩きのめし、一人では脱出する事は叶わないと緑谷少年に教え込む、
要はやり過ぎなければならない…。
後継を、そして未来のヒーローの育成の為とは言え心が痛いな。
そこまで思ったところでふと扇動の事を思い浮かべる。
会議で一番困ったのは扇動を何処に入れるかだった。
生徒を選ぶ基準は個性。
その個性の弱点と特徴から選び出す。
だが無個性である扇動はその条件から外れる。
体術が得意という点から近接戦も行える相澤の名も挙がったが、すでに轟と八百万を担当する所に扇動を入れるとなると、どうなるか分からないと却下。
ならば格闘術が通用しない長距離から広範囲攻撃できるプレゼント・マイクが次に挙がるも、アイツなら自分ではなく他のメンバーを活かす策で突破するだろうという声が出て却下。
なら私がと扇動少年の策略を突破し、体術で来るなら真正面から受け止めようとオールマイトが壁として名乗り出た。
しかし緑谷と爆豪を仲の悪さで組ませ、オールマイトが相手をすると決まっている状態の所に扇動を入れれば、緩衝材になって連携を取れるように形を作るのは必定。
あーでもないこーでもないと職員会議で悩んだ末、リカバリーガールの提案が採用される事になった。
「彼が知恵と体術を得意とするならば、手も足も出ない遠くから知恵には知恵で捻じ伏せればいいのさ!」
そうして扇動を担当するのは根津校長となったのだ。
確かに確かにと納得はした。
けれど強い不安が残る。
ただその不安は根津校長を案じるというものではなく、寧ろ扇動少年を案じるもの。
根津校長を推した事から彼が克服すべき所を知っているリカバリーガール。
担当すると根津校長が言った瞬間、目を細めた相澤君。
怪しい笑みを浮かべる根津校長。
絶対何かあるだろう。
彼の身を案じながらもこの試験が彼の成長に繋がる事を祈り、オールマイトは停車したバスより試験会場に降り立った。
●試験前に訪れた、静寂のち嵐
今日の開発工房は静かだ。
語弊があってはならないので正確に言うと五月蠅い。
カンカンコンコンとサポート科の生徒が様々なアイテムを創ろうと切磋琢磨し、機材を使用しているので騒がしい事この上ない。
パワーローダーが言っているのはそう言った作業音ではなく、いつになく黙って作業している発目の事である。
興味惹かれるままに行動して本人もだが、良くアイテムを暴走や爆発させるので半径何メートル単位で騒がしい子。
それが静かに黙々と爆発や暴走させる事無く、作業を淡々と行っているのだ。
いつも奇抜な行動とアイテムによる被害に苦しんでいたパワーローダーとしては有難い事だ。
なにせ手を患う事がないのだから。
周囲の者も巻き込まれる心配がないから伸び伸びと自身の作品に取り組めるもの。
以前から思い描いていた日々が訪れたのだ。
嬉しいに決まっている。
これで桃太郎のきび団子並みに所持していた胃薬ともおさらば出来るかな?
―――…なんて思えたのは束の間。
何故あんなに静かなのか?
求めていた事だけど今度は逆にそれが不気味さを漂わせる。
生徒達も異変に気付いて遠巻きに気にし始めて手が止まる始末。
嵐の前の静けさと言うが、まさかその類ではないだろうか?
嫌な考えが過る。
そんなまさかなと笑い飛ばそうとするも、より不安感は強まっていく一方。
これだけ何もないのだから開発工房が吹き飛ぶような事が起きたりしないよ…な?
いやいや、待てよ。
黙々と作業する程の超絶危険な代物を思案しているのではないか?
そうなると次にあるのは検証という名の実験。
最悪怪我人どころか死人が出るのでは…。
嫌な考えが際限なく沸き起こり、ゴクリと胃が痛むのを感じながら近づく。
「発目、どうしたんだ?」
「あ、先生…」
ヤバイ…。
いつもの発目と違って覇気がない。
これは本当に不味い奴なのでは?
ブワリと汗が出たのを腕で拭う。
「いつものお前らしくないじゃないか。相談ぐらいだったら幾らでも聞くぞ?」
真正面から問い質すのではなくちょっと変化球気味に聞いてみる。
何を創ろうとしているのか知らないが、いきなり馬鹿正直に受け止めるのは危ういと判断した。
物によっては俺の胃が悲鳴――もとい絶叫を挙げる事になるだろう。
だからゆっくりと咀嚼して呑み込めるように心の準備が出来るよう回り込む。
「実は扇動さんに――」
アイツが原因か。
問題児の一人であるアイツが頼むとすれば、コスチュームが主流だが時にサポートアイテムを頼む時がある。
比較的まともそうに見えても奴も発目よりのぶっ飛んだ人間。
どんな無茶難題を突き付けたんだ!?
「――怒られまして」
「そうかそうか……ん、怒られた?」
予想外の話に首を傾げずにはいられない。
扇動が怒ったのかというよりは、発目が人に怒られた事を気にするんだなという感想が大きかった。
「はい、はっきりとは口にしませんでしたが、一瞬凄い怒気で……」
「詳しく話して見ろ」
聞いた話によれば勝手に扇動のサポートアイテムを良かれと思って改造したところ、気に入らなかったのかとてつもない怒気を放ったとの事。
そして気に入らないのか解らず、口にしなかったので何に怒ったのかもわからないとの事だった。
「私に何か不備があったのでしょうか………?」
「んー、機能面じゃないとは思うぞ。お前さんの実物を見た訳ではないが、扇動ならそう言う理由なら指摘するだろう」
「…では、彼は何に怒ったのでしょう?」
「普通に勝手に改造された事とかじゃないか。なんか思い入れあったようだし」
たまに整備で持ってくる際に大事そうにしていたのを思い出す。
「そういうものですか?」と不満げな発目も、開発していた物を誰かに勝手に改造されたりしたら嫌だろうと言ったら納得してくれた。
何はともあれ、最初に抱いていたような危機でなくて本当に良かった。
「それで頼まれたアイテムを作っていたのか」
「はい、頼まれましたので」
「…予定に無かった機能なんかは?」
「………付けてませんよ」
今の間が怪しかったが付けてないならセーフとしておこう。
「ま、兎も角今度謝っておくことだな。もしかしたら奴とは卒業しても関わる事もあるだそうし」
「そうですね!」
「あとはそうだな。奴が喜びそうなアイテムを作って提供するとかか?」
前に見た奴のアイデアノートに合ったアイテムの一つ二つ作ってやったら機嫌も直るだろう。
そんな考えで呟いたアドバイスだったのだが、それが呼ばれても無かった嵐を召喚するきっかけになるとは思いもしなかった。
アドバイスに納得した発目はやる気に溢れて、いつもの調子を取り戻した。
そして以前から温めていたコスチューム“G3”ユニットの改良に取り掛かり、早速開発工房内で爆発・暴走事故が多発するのだった……。