意見が対立するのは当然であった。
こればかりは互いをどう思っているかは関係ない。
平和の象徴と謳われ、圧倒的なまでの力で道理とヴィランを捻じ伏せてきたオールマイト。
ヒーローと括るには絶大過ぎて、最早生きる伝説と化した
人々は彼の活躍と存在に尊敬や安心を抱き、ヴィランは疎ましさに恐怖を抱く。
たった一人にして万の軍勢にも勝る
まさに
誰もが彼の偉大さと強さを知っている。
だから彼が実技試験とは言え障壁と立ち塞がった時、片や乗り越える為にぶつかる事を決め、片や絶対に勝てないと思い込んで逃げを選択した。
どちらかが間違っている訳では決してない。
ヒーローを目指すのであれば先人となる彼を越えようと真正面から挑む事も、力量を理解して合理的に行動する事も正解なのだ。
……ただ悪い点があるとすればどちらも雑念を含んでいた事か。
「さぁ、君達の脅威が来たよ」
緑谷の事が気に入らず怒鳴って邪険にする爆豪。
作戦を提案しても怒鳴られて話にならない事に怒鳴り返す緑谷。
そんな二人を襲ったのは吹き飛ばされそうなほどの風圧。
実技試験場はビル街を模しており、強風の発生源に目を向けると上から降り立ったオールマイトと衝撃の余波で被害を被った建造物。
オールマイトはガチであった。
教育者として日も浅く、経験も実績も少ない彼であるが、二人の事は良く観ていた。
言葉だけで諭すようなやり方は自分には出来ない。
だからこそ自分のやり方―――ちょっとの言葉と真正面から
今のオールマイトは救助訓練でヴィラン役を演じた時とは異なり、遊びはなく纏うは身を竦ませるような威圧感。
びりびりと伝わる圧に怒鳴り合っていた爆豪も緑谷も足が止まる。
「不味いよかっちゃん!ここは一旦逃げ――」
「俺に命令すンじゃあねぇよクソデクが!!」
真っ直ぐに突っ込んで来るオールマイトに爆豪は逃げではなく攻めを選ぶ。
とは言っても真正面から受け止めれるなんて思ってはいない。
口は荒く、苛立っていても分析は行えている。
自身と相手のスペック。
例え負けているからと言って逃げるなんて選択肢は端から存在すらしちゃいない。
まずは目潰しと言わんばかりに合わせた両手より技名:
如何に強者と言えど目を潰されれば動きは鈍る。
「君ならそう来ると思っていた!」
眼を潰して突っ込んだ爆豪だったが、オールマイトは腕で閃光を防いでおり、そのまま爆豪の頭を片手で鷲掴みにした。
これで爆豪の自由は抑えた。
そう思った矢先、爆豪は掴んで来た手を剥がす事など全くもって考えず、爆破による連撃を浴びせる。
戦術的撤退を選択していた緑谷もその
けれどその程度で止まる様なオールマイトではない。
「本気で私を倒す気でしかないようだが、そんな弱連打ではどうにもならない!」
「――カハッ!?」
激しい爆破の連発もオールマイトによっては然程ダメージにはならず。
掴んだまま地面に叩きつけた事で爆豪はうめき声をあげる。
「で、仲間を置いて逃げるのかな?――緑谷少年!」
(――ッ、ここは距離を取って……)
叩きつけると振り返ることなく、一瞬で緑谷へと距離を詰めたオールマイト。
放たれる圧からヒーロー殺しを思い浮かべたが、即座に近づかれた事に危機感をもって後ろへ飛ぶ。
その行動はオールマイトを倒そうと立ち上がって飛んで来た爆豪の進行方向とも知らずに……。
「え、かっちゃ――」
「クソ、邪魔だ!」
「はっはっはっ、君達二人共冷静さを欠き過ぎさ!」
空中で激突してしまった二人。
そこで跳び上がったオールマイトの追撃。
拳が腹部に突き刺さる。
あまりの衝撃に胃の内容物を嘔吐しながら地面を転がり回る。
解かり切っていた実力差。
「爆豪少年、君は焦り過ぎだ。元々個性を持って来た君と、最近になってゼロから個性を鍛え始めた緑谷少年。スタート地点が違うんだ。君だってまだまだ成長する事は―――」
焦り。
急成長する緑谷に対して爆豪は焦っていた。
オールマイトが言うようにスタート地点が異なる。
ゲームでも低レベルの時は容易にレベルを上げる事は出来るが、高レベルになると求められる経験値も多くなって中々に成長する事が出来ない。
それがさらに緑谷に対してイラつかせる要因。
「うるせぇよオールマイト……アイツに……アイツの力を借りるなんざぁ―――負けた方がマシなんだよ」
プツンと切れた。
痛みを忘れて跳び出した勢いに、振り被った拳が爆豪に直撃した。
「君が!負けた方がマシなんていうな!!」
拳はオールマイトではなく緑谷。
殴られて吹っ飛びそうになった爆豪をそのまま抱えて距離をとる。
逃げている様でこれは逃げではない。
時間が必要なのだ。
「僕は勝てない。オールマイトに勝つ事も逃げ切る事も思いつかない!」
「テメェの事なんざ知るかっ!!放せやクソがッ!!」
「諦める前に僕を使うぐらいの事をして見せろよ!君が勝ちを諦めるなんて“らしく”ないじゃないか…」
小さい頃から爆豪を見てきた。
例え相手が年上だろうと決して自分を曲げず、衝突しては勝ちに拘って決して諦める事はなかった。
オールマイトが平和の象徴ならば、緑谷にとっての爆豪は決して諦める事なく、勝利を収めようとする凄い奴なのだ。
重りというハンデがあるからか、それとも時間を作ってくれているのかオールマイトを撒いた二人はビル陰に潜む。
相変わらずイライラしているが勝つ為に緑谷を使うと判断したからか、一人で突っ込む事は止めた。
「使えって言ったのはテメェだ……」
「わ、解かってるよ。だから――」
「ならまず
何を言われたのか呆けた顔を向けるとイラついたままに胸倉を掴まれた。
「か、かっちゃん!?」
「テメェを俺は気に喰わねぇ」
「う、うん……」
「勝つのを諦めんなって言ったからには、テメェも勝つ気でいやがれ!オールマイトだからって
緑谷も爆豪も小さい頃からオールマイトに強い想いを抱いていた。
憧れや尊敬。
それが今の緑谷には足枷になっていた。
最高のヒーローを目指す為には越えなきゃいけないと解っていても、心の奥底で超える事なんて出来る訳が無いと思ってしまっていた。
これこそが合理的に逃げを判断した裏にあった想い。
勝つ為にそんな考え棄てやがれと言っているのだろうけど、どこか口荒く諭してくれたようにも思えてならない。
勝手な考えなのかも知れないがクスリと頬が緩んでしまった。
「あ?なに笑ってやがる」
「ご、ごめん!でもなんだかむーくんみたいな事を言うなって思って」
「――後でぶっ殺す…」
本気の怒気を纏っての一言に引いてしまう緑谷。
これは試験中も試験後も大変だなぁと思いながらも、二人は早速勝つ為の行動に動く。
二人を見失ってしまったオールマイトは出入り口へと向かっていた。
この実技試験のクリア方法は教員にハンドカフスを取り付けて捕縛するか、試験エリアを脱出するかの二択。
姿が見えなくなった以上は出入り口に向かったと見るべきだろう。
重りのせいでトップギアではないがそれでも生徒に劣りはしない。
今まで以上に速度を出して一気に駆け抜ける。
授業で観てきた二人の速度を優に超す勢いで迫り、軽く追い付く―――予定であった。
(……いない?)
出口が見える程近くに来たというのに二人共姿が見えない。
脱出したならブザーで知らせが入る筈。
聞いた覚えもない事から何処にと………その答えは背後より迫って来た。
響き渡る爆発音と迫る気配。
「逃げずに戦う事を選んだのかい爆豪少ねんんん!?」
振り返った先に映るは靴底。
ワン・フォー・オールを全身に巡らしたフルカウル状態で、緑色に輝く電気のようなものを纏った緑谷 出久の跳び蹴り。
予想外だった。
まさか緑谷がこうまで攻撃に転じるとは思いもしなかった。
だが、まだまだ甘い。
身体を逸らす事で蹴りを躱し切り、地面にちょっとしたクレーターを作って着地した所へ拳を振るう。
眼があった緑谷少年は震えながらも笑っていた。
「痛タタタッ!?」
距離がありながらも爆豪による爆破を用いた遠距離攻撃が背中に着弾する。
先ほどの弱連打と違って威力は中々。
(って言うかこれ、緑谷少年を囮にしていないかい!?)
その認識は正しかった。
爆豪が爆破の音を響かせる事で自分だと認識させる一方、緑谷の奇襲で注目を集めさせた矢先に遠距離攻撃を振り注ぐ。
位置取りでオールマイトが盾に成った感じだが、下手すれば同士討ちもあり得る。
「ごめんなさいオールマイト!!」
件の緑谷と言えば左手に取り付けた爆豪のグレネード型の籠手からピンを引き抜いた。
中に溜まっている爆豪の汗が発火して、出口である一点目掛けて噴射する。
直線状に居るオールマイトは驚きと共に直撃を許してしまう。
逆に反動で肩にダメージを負った緑谷はこれを平気な顔をして扱い切っていた爆豪に「凄いや」と感想を抱く。
「これでぇえええ!!」
「させると思うかい!」
背後に迫った爆豪がピンを抜こうと右手の籠手へと伸ばそうとした矢先、裏拳で籠手を粉砕して破壊した。
これで爆豪の最大出力は撃てやしない。
左の裏拳に続いて右のストレートを振り向きざまに放つ。
ゼロからの緑谷に対して爆豪の成長は高い分遅い。
けれど成長していない訳では決してないのだ。
伸ばされる拳の側面に掌を滑り込ませ、爆破を使って向けられた拳を加速させると同時に僅かながらに逸らした。
それだけではなく、反動を活かして身体を捻るようにして回り込む。
「成長が遅いつったなオールマイト!」
「君という奴は……」
相手の動きを流して攻撃に利用、または作った隙を突く。
どちらも爆豪が職場体験で向かった“流拳”の
懐に潜り込めんでがら空きの脇腹に最大火力を叩き込む。
ダメージが自身にも響くだろうが、そんな事を考えては勝ちは取れねぇ。
諦めずに勝ちへの執着はオールマイトにクリティカルヒットと相成った。
偶然にもそこはあるヴィランとの戦闘で言える事のない古傷をあった部位。
威力以上のダメージがオールマイトを貫く。
「グッ……まだ!」
「ガハッ!?」
痛みから顔を歪みそうになるのを堪えて、オールマイトは無理に右腕を振るい。
直撃を受けた爆豪は吹っ飛んだ。
「かっちゃん!」
「人の心配をしている場合かい?」
「――不味ッ」
咄嗟に拳を振るうも呆気なく受け止められ、勝ち上げられてしまう。
そこへ跳んだオールマイトが振るった拳の風圧を利用して空中移動する“ニューハンプシャースマッシュ”を行って、強烈過ぎるヒップアタックが緑谷の腰へと直撃する。
あまりの痛みで意識が飛び掛け、地面を何度も転がされた。
脳裏に浮かぶはやはり勝てないのかという弱音。
それを爆豪が許す筈がなかった。
「行きやがれクソナード!」
「か……ちゃん」
「スッキリしねぇが
衝撃で多少ゴール近くに転がっている。
爆豪は緑谷にゴールへ向かえと言って自ら時間を稼ぐためにもオールマイトに挑む。
実力差は明らかでどれだけ殴られ、打ちのめされ、殴り合いで勝ち目が無かろうとも諦める事無く勝ちへとしがみ付く。
今出来る勝ちの為にゴールへ向かって走り出す。
本当にそれで良いのか?
脳裏にそんな言葉が過る。
ヘドロ事件の際に考え無しに突っ込んだ事を怒られたけど、扇動は最後は“らしく”て良いと褒めてくれた。
思い出すのはそれだけではない。
個性がなくともヒーローを目指そうと決めたあの日。
弱々しくも誓ったんだ。
―――なんて
何処か意地が悪そうに嗤いながら問いかける幼い扇動。
あの時は勢い任せにもはっきりと答えた。
オールマイトのように誰かを救えるヒーローに!
「退いて下さいオールマイト!!」
「――ッ、緑谷少年…」
ゴールに向かっていた足を急停止させて踏ん張り、地面を蹴ってオールマイトへ弾丸のようにして突っ込む。
誰かを助けようとする意志の下、振るわれた鋭い拳はオールマイトの頬を打ち抜いた。
危機的状況にも関わらず心を奮い立たせ、笑みを浮かべている緑谷の顔に魅入ってしまい、タイミング的にも避ける事は難しかったろう。
無論その動きを見て動けぬように妨害に入った爆豪の活躍もあってだ。
よろめいたオールマイトに殴った本人は驚きつつも爆豪に目線を向ける。
「見下ろしてんじゃあねぇぞクソデク!」
「ちょ、いきなり!?」
気に入らないだろう。
緑谷が自分を助けようと戻ってきた事が。
舐め腐る意味合いでは決してないが、物理的に見下ろされた事を。
自分を曲げて緑谷と協力しなければならない自身の不甲斐なさ
何より実力差が解っているからこそオールマイトを倒して勝利を掴むという正攻法で勝てない点に。
何発も殴られ弱り切っていた爆豪は最後の力を振り絞って大爆発を起こし、緑谷目掛けてぶつかりに行った。
ビックリしながら受け止めた緑谷に身体を支えさせ、爆破を使ってゴールへとさらに加速を掛ける。
「着地合わせろや!!」
「分かったよかっちゃん!!」
ゴールを抜けた先で再度爆破で減速させて、緑谷が着地を担当したのだけど、タイミングが合わずに二人共地面を転がり合う事に。
合わせろって言っただろうが!!と怒声を遠巻きに聞きながら、オールマイトは脇腹を左手で抑えながら、殴られた事で唇から垂れる血を拭いながら、見事だと内心褒めながら二人の少年を眺める。
「あんたは加減ってもんを知らないのかい!!」
「いえ、その、あの、申し訳ありませんでした…」
「謝んならそっちの二人にだろう!」
モニタールーム兼救護室に緑谷と爆豪を連れてきたオールマイトは深々と頭を下げていた。
教育的指導と言えば聞こえは良いのかも知れないが、物事には限度というものがある。
熱が入った事もあって二人は他に比べて怪我の具合が酷い。
一番ヤバいのが緑谷の腰で、最悪オールマイトのヒップアタックで背骨が折れる可能性があるほどであった…。
動けない二人に変わってリカバリーガールによる説教でガタイが大きい筈のオールマイトが縮こまってしまっている。
そんなやり取りを眺めながら緑谷も爆豪もモニターを眺める。
順序各試験が執り行われており、相澤と戦った轟は個性を完全に抑えられて不利に陥るも、八百万が策を用いて何とか捕縛する事に成功。
サポート型の蛙吹とダークシャドウが強かろうと自身が弱点となってしまっている常闇ペアはエクトプラズムの物量に何とか対抗するも巨大な分身に取り込まれた。
機転を利かせた蛙吹が使えなくされる前に飲み込んだハンドカフスを用いて、動けたダークシャドウが隙を突いて取り付けて勝利。
試験を終えて治療や観戦する為に徐々に増える中、全員が次の試験に驚きを隠せず見守っていた。
「まさかあんなに容易く……」
「負けるんですの……」
轟と八百万の戸惑いの声が漏れるように、同じ思いの者の方が多い。
心配そうに見守る中、爆豪だけは先の試験以上に苛立っていた。
「……ふざけんなよ……!?俺以外の奴に負ける事なんざ許さねぇぞ!!」
睨みつける視線の先―――モニターに映り込むは呆気なく追い詰められ、すでに諦めかけている扇動 無一の姿であった……。