PCの不調から始まり、動く度に痛んだりヒヤッとする程に腰を痛め、花粉症で目と鼻と喉と思考能力をやられておりました…。
現在、芦戸 三奈は扇動 無一に押し倒されていた。
縮こまるように身を寄せ、覆い被さるように四つん這いの扇動と向かい合う距離は非常に近い。
仮面越しとは言え触れ合いそうな程ともなれば、ドキドキしてもおかしくなかったが、状況が状況なだけに戸惑いはしてもそこまでの余裕はない。
期末試験の実技試験は教員との模擬戦。
相手は根津校長。
鼠であったが個性ハイスペックを発現した事で、人間並かそれ以上の知能を持つ。
パワー系でも戦闘系でもない個性と言う事と、ペアが他は二人をなところが三人で、しかも扇動がいる事で舐めていたのは否めない。
だからと言ってこれはないでしょ…。
実技試験が始まって十五分。
やったことと言えば逃げ惑うことぐらい。
確かに根津校長は戦闘系の個性ではなかったものの、その知能の高さをもって一方的な攻撃を繰り返してきた。
会場は工業地帯を模した場所で、それっぽいパイプや施設が入り乱れ、入り組んだ造りが広がっている。
扇動がサポート科に作って貰ったドローンで、上からの地図情報をリアルタイムで受信していた所を、建物などが波及するように崩れて一直線に向かって来たのだ。
事故の類ではなく人為的なものは誰の目にも明らかだった。
なにせ一直線に倒壊してくる流れから逃げたのに、別方向から同様に倒壊が波及して来たのだから理解出来ない訳が無い。
逃げ惑う中で高い煙突が倒れ込み、ドローンは巻き込まれて破損。
偶然や確率では決してない。
空の目を潰す為の倒壊…。
刻々と変わる地形情報を手に居られない上に、崩れて来る瓦礫群を対処する手段もない為に、逃げ場がない状況では体力を無駄に消費するだけと言う事で、扇動の指示で崩れて来る瓦礫の一部に酸を浴びせて
勿論振って来る瓦礫を見極めて避け切って潜るなんて芸当は出来ない。
コスチュームによる防御力の高い扇動が二人を庇う形で押し倒し、酸で薄くなった瓦礫を背で受けたのだ。
心配するも「
クラスで成績は下から数えた方が良い私達ではこれだけの事をやってのけた根津校長を出し抜くのは難しい。
だから頼りになる扇動に任せるのが一番だと思った。
「棄権するか」
熟考した挙句に出て来たのはそんな一言。
一瞬理解出来ずに思考が認識を拒否する程に“ありえない”と脳がバグる。
自分達が勝てない相手だろうといつも挑むように戦っていたのを見てきた。
特に芦戸は入試から見てきたのだ。
「えぇ!?どうしたのさ。扇動らしくないよ」
「俺らしくないか……しかし危険が大き過ぎる。通常訓練や模擬戦というのは実践形式でも大怪我を負わせないようにするもんだ。だがこれはそうじゃない。降り注ぐ瓦礫が頭部にでも直撃してみろ。大怪我どころか死ぬ可能性すらある。ったく、いつから日本は
この時、芦戸も上鳴も勘違いをしていた。
今まで扇動は自分のステータスと策の両方から勝てる、もしくはヴィラン連合襲撃時のように状況から最善と至った方法を行って来たに過ぎず、ヒーローみたく諦めない心を持っての行動ではない。
気持ち的に負けたくないと挑んだのは体育祭での爆豪との試合ぐらいなものだろう。
芦戸も上鳴も扇動の答えを聞いて危険性は理解する。
理解するが諦めたくないと思考を巡らす。
「……だったら逃げるのはどう?」
「ゲートに逃げちまえば良いわけだもんな!」
「俺も考えたが迫って来る瓦礫に対する手段がない上に、地形は根津校長の思うがまま。袋小路に追い込まれるのは目に見えている」
「じゃあ先生を捕まえるのはどうかな?」
「そもそも捕縛が難しすぎる。元が鼠なだけに小さく小回りもあって、移動速度も高い。瓦礫に紛れられたら見つけようがない。見つけたとしてもどうやって捕縛用の手錠を付ける?サイズ的に咄嗟には出来ねぇぞ」
「ならさ、俺の放電の個性で痺れさせれば行けんじゃね?ほら、範囲ごとやればなんとか」
「対人や対物ならまだしも鼠の場合はどれぐらいで感電死するか分かるか?」
「うっ、それは……」
「芦戸の酸は当然として、非殺傷のゴム弾もつかえないからなぁ」
次々に否定される。
クリアする道を閉ざされるというよりは、
「でも……でも!」
言葉が詰まり、仮面越しではあるが扇動の瞳が透けて薄っすらと見える。
戸惑い、驚き、感心と言った感情を瞳に浮かべてこちらを見つめていた。
何故と逆に困惑する芦戸に扇動は逆に問いかけた。
「これは訓練だ。しかもハイリスク過ぎる内容のだ。なのにどうしてそこまで拘る?無茶をして大怪我を負ったらヒーローどころか将来にも支障が出るかも知れん。何がそこまで奮起させる?」
「―――だって、悔しいじゃん!!」
諦めるのも負けを認めるのも悔しい。
そりゃあ林間学校に行けずに学校で居残りで補修に成るのは嫌なのもあるけど、何より全力を出し切らずに逃げるのなんて悔し過ぎる。
感情がぐちゃぐちゃだったのもあって、駄々を捏ねるように言い放った結果、扇動は思いっきり噴き出した。
「―――プッ、アッハッハッハッハッ!!」
「なに……そんなに可笑しい?」
「いや、すまん。そうだよな、
「扇動?」
笑っていた。
今までも笑う事自体はあったがそれは微笑みの類が多かった。
純粋に嬉しそうに笑っている顔と言うのは初めて見た気がする。
「そう言う事なら全力で付き合おう」
「付き合おうって言っても勝てないんだろ?」
「一つだけ勝ち筋はあるが絶対なんて保証はないし危険なのは変わらねぇ。それでも伸るか反るか―――どうする?」
先ほどの笑顔は消え去り、試すような顔。
忠告された危険性が脳裏を過って不安に煽られて今更震える。
心境を読み取ってかいつも通り微笑みかけて来る。
「好きな方を選ぶと良い。諦めたくない道を選ぶのなら、俺は全力で力を貸そう」
「――ッ、私は諦めないよ!」
眼を見て言い放った。
対して扇動は目を閉じ「そうか」とだけ満足そうに呟く。
覚悟の決まった芦戸と扇動は別として、何をするかも分かっていない上鳴は覚悟する為に納得を求める。
「で、俺達三人でどうするんだよ?」
「違うぞ上鳴。俺達は
「へ?四人って……」
「そもそも俺がこれから提示する勝機なんて四人目任せの力技なんだからな」
四人目を口にした扇動はコスチュームに目を向けて二人に説明を行う。
それは作戦と呼ぶにはあまりにも馬鹿馬鹿しく単純なものに、二人は呆然とした後に笑うしかなかった。
試験で負傷した生徒をすぐに治療・受け入れれるように用意されたモニタールーム。
周囲に用意されたカメラから送られる映像は公平性から試験を担当している教員とは共有されていない。
根津校長が担当している試験会場は最初っから倒壊させる予定だっただけに、カメラを設置しても壊れる為に扇動が扱っているのとは別のドローンで高度を上げて状況を収めている。
それも最初っから全てを送信してきている。
実技試験の会場となるフィールドに入っては警戒と索敵を行いながら進み、入り込んだところで建造物の連鎖倒壊が始まって襲い掛かると同時に退路を断った。
映像からでも芦戸と上鳴の驚きは相当であったのは見て取れた。
差はあれど扇動も驚きはしたであろうが、即座に二人を誘導して退避行動に入った。
なにせ真っ直ぐ向かってくるのだから横にずれれば回避は可能。
だが、その退避位置を読んだかのように第二波、第三波と続けて襲い掛かって来る。
上から見ていただけに全体の動きが鮮明であり、建物などで先が塞がれた現場の三人は気付かない事まで気付いてしまう。
圧倒的な不利。
対抗策の一つも打てる間もなく追い込まれる様は驚愕で、根津校長の圧倒的差を見せ付けられる。
扇動が自ら埋もれたシーンもばっちり収められており、そこから十分ほども動かない事から根津校長の一方的な攻撃をどう対処するのだろうかと期待混じりに眺めていた生徒達は、全くもって動きを見せない様から驚愕をもって見つめていた。
最初こそ気を狙っているのだろうと考察していたりもしたが、こうも動かずにじっとしているだけ。
勿論動けないのであれば救助に向かわねばならないけど、リカバリーガール
ならば何故ずっと動かない。
緑谷はその答えに気付いたけれど信じたくないと否定。
爆豪も緑谷より先に辿り着くも認めないと睨んで怒気を向ける。
そして前々から見てきた扇動から薄っすらと答えを読んでしまった……。
冷静に戦況分析と個々の能力の把握。
どちらも扇動より与えられた課題。
勝機がない事に気付いてしまったのだ。
轟を含めた誰もが否定しようとするも、緑谷と爆豪の両者共否定する事はしない。
リカバリーガールとてそうだ。
この中では緑谷よりも昔っから扇動の事を知ってはいた。
というのもバトルジャンキーだった若かりし頃の無一の祖父である流拳は怪我が耐えず、何かしらあれば治療系の個性を持つリカバリーガールの元に顔を出す事が多かったのが縁の始まりだ。
掠り怪我程度なら放置するが腕を折ったりなんかしたら「戦えねぇからすぐ治してくれ」とケロっと現れるもんだから嫌でも記憶に残る。
怪我をしなくとも治療師に向かった先で顔を合わす事も多く、他愛ない話もするようになって相談に乗る様な仲になった。
末の子供との経緯やその子に子供が出来たなど話は聞いており、中学生になったその子を連れて来た時は心の底から驚いたもんだ。
若い癖に賢過ぎる――否、賢しいガキだった。
頭が良いとか勉強が出来るという意味ではなく、若さからくる無謀さを一切排除して自身のスペックを把握した、諦め混じりの合理的解答。
正直気持ちが悪かったが、別の意味でイカレではあったけれど、戦闘狂のジジイと比べて随分とまともな子じゃないかという驚きの方が大きかった。
見知った子を雄英の入試で見つけた時は時が経つのは早いと感じると同時に、肉体的成長は見られても精神的成長が見られない事に肩を落とした。
自分の能力を把握して出来ない事に手を伸ばすより可能な範囲で行うというのは合理的だ。
寧ろ自身の能力を過信して大怪我を負う者や道を断たれる者も見て来たがゆえに、扇動 無一の考え方が正しいと理解も納得も出来る。
把握して出来る事を出来るだけやる。
これは凄い事であるも同時に危険を孕んでいる。
前々から抱いていた懸念はヴィラン連合襲撃時に証明された。
誰かを救う為に後先考えず我が身を犠牲にする奴はいる。
そこに損得勘定はなく咄嗟に身体が動いた、目の前の誰かを救う為にと言うのが大半だ。
だけど扇動は敵を分析して自分では役に立たないと判断し、まだ勝機がある轟と緑谷を生かす為に自身を棄てようとした。
合理的に考えれば決して悪い事ではない。
――けどヒーローとしては物足りない。
相澤自身合理的でその利点を解っているだけに、自分は良くて人には駄目など口には出来ない。
流拳は孫に対する負い目と甘さ、好きなようにやれば良いという放任的な考えから注意すらしていない。
オールマイトは危険性を察していても諭し方を知らない。
なので個性“ハイスペック”の根津校長が示すしかないのだ。
なにより出来ないと判断をしてしまって、可能性を排除してセーブしている節がある。
「さて、賢しいあの子はどうでるか……」
思考の果てに棄権するか。
それとも―――…。
リカバリーガールは目を細めて見守る。
前々から見知った子供がどのような答えに見せるのか……と。
試験を終えたクラスメイトに扇動の本質を見抜いた教師達、試験官で期待しながら様子を伺う根津校長など、多くの視線を集めている扇動達の実技試験も大詰め。
制限時間は半分を過ぎており、このまま何もしないのであれば時間切れで終わってしまう。
本当に諦めてしまったのかと誰もが思い始めた矢先、崩れていた瓦礫が煙のように埃を纏いながら舞い上がり、姿を消してからは動きの無かった扇動達の姿が現れた。
扇動が芦戸と上鳴を左右に背負った状態で…。
不思議な光景であった。
特に背負っている扇動ではなく、扇動のコスチュームより伸びており配線を加えている上鳴がである。
「
「ああ、それで構わねぇ!良し―――行くか」
「思いっきりやっちゃってよ扇動!!」
「―――“さぁ、振り切るぜ”」
扇動はそう口にするとG3‐Xのリミッターとアシスト機能の一部を解除した。
発目が作った“G3”ユニットはコスチュームというよりはパワードスーツの類。
組み込んだシステムや機器によるアシストによって、単純に攻撃力を上げるパワーアシストや重量を多少なりともカバーする補助が行われている。
人が装着するものという
職場体験で着用した“G3”ユニットは保須市に現れた脳無に対して、扇動の技術込みで一対一で戦えるほどの性能を持たせる事に成功したが、長期戦を行うには電力不足で戦闘出力を維持できるのは短時間。
改良型である“G3‐X”は稼働時間に及び、性能も向上してはいるがまだまだ長時間に渡っての性能を発揮するには至っていない。
扇動が解除したのはそんなG3‐Xが装備者に悪影響を与えてしまわぬように設けられた出力制限と、パワーアシスト機能を除く補助システムの数々。
電力に問題があるのなら上鳴に中から引っ張り出した配線を加えるなどして接続して貰い補充すると同時に、必要なパワーアシスト機能以外のシステムを停止させて他に回す電力消費を抑える事にしたのだ。
重量を多少支えていた補助システムも
G3もだが発揮出来る性能を優先して、プラスになるのなら自身への負担を掛けてくれれば構わないと告げた事から、扇動の身体能力を情報として集めた上で負担を強いている。
(やはりキツイな。だが耐えれない程ではない……か)
加重によって気を抜いたら前のめりに倒れ込みそうになるが、今まで鍛え上げてきた肉体を力ませて耐え切る。
そして一歩踏み出した扇動は前へ前へと
G3‐Xの機能に速度上昇などという機能は存在しない。
単純に扇動がパワーアシストを用いて地面を蹴って前に跳んでいるだけという話。
簡単そうだがタイミングをミスれば減速や転倒に繋がり、角度を間違えれば上へと跳ぶだけで速度を殺しかねない。
何より一歩蹴り出す度に加重も支えている脚に負担が掛かる。
それでもこれぐらいしか勝機が無いのでやるしかない。
分の悪すぎる賭けだと扇動は内心で嗤う。
何より仮面ライダーのコスチュームでありながら、やっている事はほぼ
早くバイクの免許とマシンが欲しい、内心ごちる扇動。
個性通常使用時の飯田よりも早く、レシプロバーストよりは遅い速度で移動する扇動は、工場地帯を模しているフィールドゆえに即座に建物に接近した。
「芦戸、正面頼んだ!」
「本当に良いの!?」
「危険は覚悟の上だろ?」
「あー、もう!」
建物にぶつからないように減速すると芦戸が壁に向かって酸を放出する。
ロボットも溶かす強力な酸だが、今回は完全に溶かすだけの量も時間もかけれないので、ある程度溶かして脆くするだけ。
「身を隠せ!それと――」
「とっくに準備できてるよ!!」
正面から見て覗いていた顔や手を出来る限り引っ込めた二人に対し、扇動はまだ殺し切れていない速度に加速を加えて加速して突っ込む。
速度と重量、G3‐Xの強度に物を言わせた突進が脆くなった壁をぶち破る。
多少酸が付着するがこの程度ならまだ問題ない。
それよりは減速から再加速時の足の負担が半端ではない事の方が問題だ。
壁を抜けた先にはシャッターがあった為に、厚みを薄めるのではなく上部を溶かす事で切断に近い形で崩して通り抜ける。
扇動達の作戦は馬鹿馬鹿しい程に単純なものだった。
上鳴に電力補充を行って貰いながら、壁など遮るものは芦戸の酸で弱め、後はG3‐Xを用いて最短コースで出口まで向かうというもの。
電力的な意味でも試験時間の意味でも短時間でクリアするにはこれしか選択肢が無かった。
否、いつもの扇動であるならば選ぶ事のない選択肢だった。
二人への危険に不確実性が多過ぎる。
脱出口までG3‐Xが戦闘出力を発揮できるのか、補助をカットした状態で負荷に耐えれるのか、その時は耐えれても脱出まで持つのか、相手である根津校長に通ずるかなどなど。
勝機は少なく不安定要素は多く、大怪我を負う可能性が高い。
自分は何事にも天秤にかけてしまう。
訓練だから試験だからと棄権を提案するも、どうしてもああいう目に弱い。
そうだ、そうだよな。
俺のクラスメイトは誰かを救う
彼ら彼女らを支える―――今回ばかりは違うな。
自らは
全くもって自分らしくない。
身体に掛かる負荷に寄り苦しくなっては来るが、気分は悪くないどころか良いぐらいだ。
今回ばかりは無茶をしてでも勝たせてもらう。
例え届かなくとも全力をもって挑んでやる。
ギラリと目を輝かせる扇動だったが、四件目の建物を抜けた先で視界に入ったのは自分達へ迫る倒壊の波であった。
この作戦の回答者がオールマイトであったなら根津校長でも最早打つ手なしだっただろう。
だが扇動達は彼と違って空中移動は出来ず、押し寄せる倒壊の波を防ぐ手段を持ち合わせていない。
なによりこんな馬鹿みたいな回答を見過ごす程に根津校長も甘くはない。
真っ直ぐ出口までの最短コースを進んでいると言ってもまだ距離はある。
移動速度を目測で測りつつ、二度に渡る倒壊の波によってタイミングは掴んだ。
タイミングが早ければ瓦礫が残るばかりで、遅ければ妨害にすらならない。
四件目の建物を抜けた先で扇動を待ち受けるのは直前に迫っている瓦礫の波。
解り切っていた。
それぐらい容易に熟せる頭脳を持った相手だという事に。
浅知恵だとは理解している。
だからこそ相手を一度だけ惑わせる為と、身体への負荷軽減のために押さえていた余力を出し切った。
さらに加速した
結構、洒落にならん。
下手したら罅が入ったんじゃないかと思う程に激痛が響き渡る。
(割に合わねぇ……やっぱり“らしく”ない事はするもんじゃあねぇな)
ギリギリ。
迫る瓦礫の波が触れる直前に範囲外に抜けれたが次々に倒壊の波は迫る。
下手な鉄砲も数打ちゃ当たるというが、これはそもそもの一発一発精度が良く、随時情報を更新して細かな修正を入れて来やがる。
しかも高度な頭脳を活かすばかりではなく、誘い惑わせ周りから囲もうと搦手を織り交ぜて来る辺り、良い性格をしていると純粋に尊敬を抱く。
「ちょ!?もう次が迫ってるって!!」
「マジでやべぇって!!」
「危険は承知の上だろ?」
「待て待て待てってぇえええええええ!!」
「しっかりしがみ付いて、歯ぁ食いしばれよ!!」
もうゴールは近い。
地面を力強く蹴って跳ぶと同時にSスラスターを吹かす。
これもまた発目のおかげだ。
G3‐Xには飛行能力は存在しないが、スラスターと呼ばれる推進機構が備わっている。
用途としては補助動作や降下時の減速などを想定されたもので、容量や噴射の威力としては大したものではない。
正直な話をすると着地時の衝撃を抑える為に使いたかったが、形振り構っていられない上に最悪着地は自分を下にして、飛行機が不時着するかのようにすればいいとまで判断し、距離を稼ぐのにスラスターを噴出させたがやはり足りなかった。
脱出口のゲートを超えるには飛距離が足りず、その手前に降下する形となってしまった。
(あ………これは無理だ)
着地地点に広がるはすでに倒壊して出来た瓦礫の海。
スラスターは使っていなかったというのに、外見の機構から判断したのはまだ理解もしよう。
しかし測り切れていない推進力による移動地点の割り出しなど出来るものなのか?
瓦礫の海と称した通りに、振動を与えられでもしたらしく瓦礫が揺れている。
この高さと重量からそのまま落ちれば沼にハマるように完全に身動きが取れなくなるだろう。
―――詰んだ。
ギリィと音が漏れる程に食い縛った。
「上鳴!」
「
「コートを放せ!耐えろ!そして受け止めろ!!」
「はぁ!?何をおおおおおおぉ!?」
何をするきか聞く前に出入り口へと上鳴は放り投げられた。
届く程度に威力を抑えて、頭からではなく転がるように向きを調整して投げられた上鳴は痛みはあれど、大怪我もなく出入り口を転がり抜けた。
掠り傷や打ち身はあれど、軽傷ばかりで無事と言える事に安堵するのも束の間。
扇動の受け止めろという言葉が引っ掛かる。
「おまっ、マジカ!?」
嫌な予感に従って見上げるとこちらに向かって放り投げられた芦戸の姿が…。
咄嗟に受け止めるも扇動のように衝撃を受け流す事など出来ず、受け止めた衝撃のままに揃って転がる羽目に。
「痛たたたた……」
「――重ぇ」
「今重いって言った!」
「違っ、いや、それより扇動は?」
急ぎ起き上がった二人は視線を背後になった試験会場に目を向けると、瓦礫に埋まる仮面や籠手と言ったG3‐Xが見受けられた……。
あの瓦礫の中に巻き込まれたと、戻って助けようと動こうとした二人の背後でどさりと音がした。
揃って振り返った先には装備を何一つ身に着けておらずに、倒れ込んでいた扇動がそこに居た。
「よう、無事だったか?」
「「
「まぁな……ほんと、“らしく”ない事なんてするもんじゃあねぇな」
最後は賭けだった。
二人を正直片方を投げた時点で勝利条件は満たしていたが、当てられてしまったがゆえか負けたくねぇと欲を掻いてしまった。
芦戸も放り投げると発目に対して罪悪感を抱きながらG3‐Xのパージ機能を使用して、身軽になるのと同時に反動を利用して少しでも前へと進む。
角度調整して一つ一つパージしていくも足りず、最後は発目が改造しまくってアサルトライフルにした銃の反動すら使った。
おかげでギリギリ届きそうだったが身体の不調を感じて、下部に取り付けてあったチェーンソーを出入り口の看板に引っ掛けて無理に減速。
終いには手の力が緩んで予想外の転がり方をしてしまったので、受け身は半端となって体中が痛くて仕方ない。
乾いた笑みを浮かべる扇動は一歩も動く事出来ず、上鳴と芦戸に支えられる形でリカバリーガールの下へと運ばれ、ジト目を向けられるリカバリーガールより診察内容を告げられる。
「全身のダメージも酷過ぎるけど右足は骨折しているね」
「あー、やっぱり?」
「アンタはもっと自分を大切にしな!」
「ハッハッハッハッ」
「笑って誤魔化すんじゃないよ!クソジジイの真似は止めな」
「え、爺ちゃんに似てた?」
「嬉しそうな顔をするんじゃないよ!褒めちゃあいないってのに……」
説教どころかため息を漏らされる。
こうしてリカバリーガールが居るモニタールームに三つ目のベットが埋まり、怪我人三名が横たわる事に成ったのである。
横になって落ち着けるところで扇動は少し不思議に思う。
諦めた要因に自身が負荷に耐えれるのかなどの不覚的要素に、芦戸と上鳴に及ぼす危険性と将来の事を考えたメリットとデメリット、そしてなにより根津校長の個性による思考能力の高さを思い知ったからだ。
今思ってもなぜ勝てたのかと疑問が残る。
本気で策を巡らされていたら
眉を潜めて考え込む扇動は「あぁ、そう言う事か」と一つの答えを見つける。
これは実技試験だ。
だから本気で試験官は務めるが、絶対に攻略出来ない試験ではなく、生徒のスペックからギリギリ越えれないぐらいの壁を設定し、その難易度という枷の中で本気で挑んでいたのだろう。
知能に重りではハンデにはならず、そう言う所でハンデを付けたという訳か。
ただ逃げるのに必死になって考えるのを放棄したら一気にムリゲーになる訳だが…。
そう言う事かよと悔しくもちょっぴりすっきした扇動はクスリと笑うと、被せるように爆豪は鼻で嗤って来た。
「随分とボロボロじゃあねぇか?逃げ回るだけでそんなかよ」
「なんだ、心配してくれてんのか?あんがとな」
「してねぇわ!!どんな耳してンだテメェは!!」
爆豪の怒鳴りを耳にしながらも、扇動は内心どうしようかと焦っていた。
勢いよく落下して瓦礫の海に激突し、呑み込まれ、揉みくちゃにされて全損&紛失してしまったコスチューム“G3‐X”。
最早別物になってしまったが最後に活躍したチェーンソー付きアサルトライフルは、減速しようと看板に引っ掛けた際にバキリと音を立てて破損したのは確認している。
渡された直後にコスチュームとサポートアイテムの損壊。
さて、どう謝罪すべきだろうか……。
目下の悩みはその一つであった。