無個性オリ主が共にヒーロー目指す!   作:チェリオ

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第65話 予期せぬ接敵

 ヴィラン連合は世間で大々的に取り上げられている。

 ただそれはヒーロー殺しの協力関係にあったという事でだ。

 前代未聞だった雄英高校襲撃事件は日も経った事もあって薄れ、“ヒーロー殺し”として名の知れていたステインが暴れていた保須市にて、同日同時に脳無を数対放っての襲撃を行って被害を広め、関係性が世間で報じられるもヒーロー殺し逮捕の報と彼が語る理念に注目が集まっている。

 メディアでは保須市の件もあってメディアで取り上げられるが、それはヒーロー殺しがメインであり、ヴィラン連合は関係性があると思われている単なる付属品としてである。

 

 今回の報道のされ方も保須市での件も雄英襲撃時も含めて死柄木 弔は気に入らなかった。

 ヒーロー育成機関の名門中の名門たる雄英高校の名を貶めた事と、公式にはされていないが“平和の象徴”オールマイトを始めプロヒーロー数名の負傷させた事は襲撃は大成功したと言っても過言ではないだろう。

 されど本人はそう捉えてはいない。

 

 勝ったのではなく敗北。

 タダ同然に集めたチンピラヴィランが全滅したのはどうでも良い。

 対オールマイト用に改良が施された特別製の脳無に保須市で複数体の脳無の損失に、雄英高校襲撃事件では主犯である死柄木の負傷。

 加えるなら目的だったオールマイトの殺害どころか生徒の一人も殺せなかった。

 ゲーム(・・・)と言うのは勝つか負けるか。

 勝利条件をクリア出来なければ勝利(WIN)はなく、敗北(LOSE)と表記されるのが決まり。

 逃げ追うせた事でコンティニュー、もとい次の機会は得れたが失敗した事実は消え去らない。

 

 さて、ここでヴィラン連合に必要なモノとはなんだろうか?

 力か?

 それは当然だ。

 相手は個でありながら群でも軍でも相手取れるバケモノ(オールマイト)

 一国の平和を背負う異常者なのだから、それこそ一人で国を崩せるようなチートが欲しいところだ。

 

 ならば戦力や資金か?

 どちらも正解だ。

 特に戦力は欲しいところだが、この前のような数だけで低品質の雑魚ではお話にもならない。

 

 ヴィラン連合を名乗る死柄木 弔と黒霧の二人が拠点としているバー(BAR)に客人が訪れた。

 いいや、この場合でこの表現は適切ではない。

 バー(BAR)を訪れた客人であるが彼は仲介人。

 ヴィラン専門の仲介人で武器やサポートアイテム、人などを扱う裏の商人であり、そう言う意味では客はヴィラン連合の方だ。

 

 裏の大物ブローカーである義爛(ギラン)は煙草を吹かしながら二人の男女を連れて来た。

 一人はやけに燥いでいる女子高生“トガ ヒミコ”。

 明るくニッコニコと笑い、制服を着用している事から普通に学生のように見えるが、その実は連続殺人未遂(・・)事件の犯人だという。

 ただし、18歳未満と言う事でメディアに詳細などはしっかりと守られ、追われているも公にはされていない。

 

 もう一人は白いシャツに黒いズボンに上着とラフな格好をした青年“荼毘(ダビ)”。

 こっちはトガとは違って見た目が異様だった。

 足首や首元、手の甲などなど至る箇所が焼け爛れており、焼け爛れた皮膚と正常な皮膚を縫い合わせている。

 

 使えるかどうか以前に死柄木はこの二人の自己紹介の時点で苛立って仕方が無かった。

 ステインが好きで、ステインに成りたく、ステインを殺したいとか口走るイカレたガキ(トガ)に、本名も名乗らずに一方的にヒーロー殺しの意志を引き継ぐとか言いだす礼儀知らず(荼毘)

 

「どいつもこいつも―――俺は気分が良くないんだ。ダメだなお前らは」

 

 ゾワリと身を震わせる悪意と殺気が解き放たれる。

 危機感を感じ取った二人と別の意味で焦る黒霧の行動は早かった。

 

 五指が触れると崩壊させる死柄木の手。

 青い炎を掌で燻ぶらせた荼毘。

 急所目掛けて抜き出したナイフを振り被るトガ。

 三者の手が相手に伸びる中に展開された黒霧のワープゲートにより、一触即発の状況は最悪の事態だけは回避された。

 

「落ち着いて下さい死柄木 弔!貴方が望むままを叶える為には組織の拡大は必須です」

 

 癇癪にも取れる行動ながら死柄木は一定数冷静ではあった。

 黒霧が口にする意味は理解出来ている。

 ヴィラン連合も知名度は高いが、メディアに取り上げられた事でヒーロー殺しの方が注目度や影響力は大きい。

 保須市での件があってステインとヴィラン連合が繋がっていると思われているのは、奴の名を使っての勢力拡大は容易いという利点と機会。

 死柄木にとっては気に入らないのは変わりないが……。

 

 ワープゲートより手を引くと、死柄木は出入り口へと歩き出す。

 知性と感情は別物だ。

 少し考える時間は必要だと察して黒霧は止めはしなかった。

 

「あ、そうだ弔くん!」 

「……ぁんだよ――ッ…」

 

 そこへ声を掛けたのがトガ ヒミコ。

 呼びかけられ足を止めた死柄木にトガはふらりと歩み寄った。

 気軽で何気ない自然の動作。

 顔には人当たりの良い笑みが浮かべられ、殺気の一つも微塵も見当たらない。

 誰も彼女の行動を不審に捉えれなかった。

 例えポケットから携帯電話を取り出すような感じでナイフを手にしていても、死柄木ですら刃を首筋に充てられるまで気付きもしなかった。

 

「死柄k――!」

 

 黒霧の動きを死柄木は制止し、

 

「雄英を襲撃したんですよね。だったらこの子(・・・)知ってますか?」

 

 もう片手で見せるは死柄木にとって見覚えのある少年。

 顔に手を張り付かせているも、覗いている所から表情が曇った事で察せれる事は大きい。

 トガはまさにそれを察して満面の笑みを浮かべる。

 

「知ってるんですね♪」

「だったらなんだよ…」

「彼は私の獲物(・・)なのです。だから手出し無用でお願いしたいんですよ」

 

 顔は笑っているが瞳は笑っていない。

 気持ちが悪い。

 面倒臭く苛立たしさを込めた重く深いため息を死柄木は漏らす。

 

「勝手にしろ」

「やったー!ありがとう弔くん!!」

 

 誰も確約してねぇってのに目出度い奴だ。口には出さずそう悪態をトガヒミコにつく死柄木

 首元からナイフが離れ、何事も無かったように死柄木は出入り口へと歩み、扉を開けて何処かへと去ってしまった……。

 

 

 

 

 

 どんでん返しと言えば良いのか期末試験で全員合格した筆記と異なり、三名の不合格者が出た実技試験。

 相澤は言った。

 不合格者が林間合宿に連れて行かず、学校での補修地獄が待っていると。

 されど相澤はやる気を出さすための合理的虚偽であったと伝え、補修はあるが林間合宿に連れては行く旨を実技試験翌日に合否と共に発表した。

 仲間外れで追いて行かれると思った不合格者に負い目を感じ始めていた合格者どちらも安堵する事が出来たが、実技試験はある意味で散々な結果と相成ってしまった事は悔やまれる。

 

 21名中不合格者三名というのは合格率から見てかなり高いと言えよう。

 問題とされるのは合否ではなく負傷者・怪我人の数の方だ。

 

 プレゼントマイクのヴォイスによって耳をやられて出血した耳郎に、ペアの口田は虫嫌いであるが勇気を出して虫に命令をして反撃した結果、同じく虫嫌いのプレゼントマイクは足元からムカデにクモにアリなどの昆虫の大群が身体へと這い上がって来たことで泡を吹いて失神。

 麗日と青山ペアは13号のブラックホールに手も足も出ず、吸い込まれないように耐えるのが精いっぱいであったが、デク君ならと考えた麗日の思考を察した青山が「緑谷に好意を持っているのか?」と問い、照れた麗日は危うくブラックホールに飲まれて塵になる所だった。

 結果的には逆に焦った13号が個性を止めた隙に、ガンヘッド直伝の格闘術で組み伏せて勝利する事は出来たが、ある意味で他の生徒以上に命の危険があった瞬間であった。

 緑谷に爆豪、扇動を含めても学校の試験としては怪我人と命の危険がいくら何でも多過ぎる。

 

 翌日の放課後に扇動がさすがにと猛抗議――主にオールマイトと根津校長に――に行ったとか……。

 

 ちなみに不合格者はセメントスと対峙する事になった切島と砂藤と、峰田とペアを組んでいた瀬呂である。

 持久力を上げた切島と砂藤であったが、それでも限度を超えるセメントスの持久戦には敵わず敗退し、ミッドナイトの眠り香に呆気なく瀬呂は眠らされてしまった。

 ここで逆に凄かったのが峰田の活躍である。

 眠り香に対して息を止め、瀬呂を救出するどころかミッドナイトを個性のもぎもぎで拘束し、尚且つ個性を用いて移動力を引き上げて試験エリアより脱出を決めたのだ。

 この間、眠らされ続けた瀬呂は何も出来ていないと不合格を授かる事に。

 逆に脱出は出来なかったがパワーローダーの罠の数々を突破し、尾白の脱出の為に自らを犠牲にした飯田は合格する事が出来た。

 ……クリアする瞬間は地面に首から下が埋まっていて締まらない終わりではあったが…。

 

 

 などと実技試験を乗り越え、結果発表を受けた一年A組のほとんどが林間合宿に向けて買い物をしようと、県内最大店舗数を誇る木椰区ショッピングモールへと出向いていた。

 居ない面子はとっくに準備を終えて買い物に行く事もない爆豪と母親のお見舞いの日にちと被った轟の二名。

 

 一緒に来たのは良いがキャリーバックを靴をと買い物がそれぞれ異なり、結局はほとんどが別行動をとる事に。

 解説とも説明とも取れる木椰区ショッピングモールへの考察をぶつぶつと呟いていた緑谷は完全に出遅れ、様子を眺めて声を掛けた麗日は実技試験での青山の指摘を思い出してしまい、顔を真っ赤にして慌てて何処かに行ってしまう。

 

「お、雄英の人じゃん。スゲェ!」

 

 一人広間に残る緑谷に声を掛けるは一般客。

 雄英体育祭で活躍した事で度々声を掛けてくれる人が少なからずいた為に、警戒よりも知られている嬉しさと気恥ずかしさが混ざった様子で反応してしまった。

 

「──なぁ、サインくれよ」

 

 だからこの時もまた(・・)そうなんだと当たりを付けてしまっていた。

 何度も同じような事があった事で慣れて、無警戒にも勝手に誤解してしまった。

 足元からフードまで黒一色の人物は、馴れ馴れしい様子で肩を組んで来る。

 サインを求められるまでは恥ずかしいながらも嬉しかったが、フードより覗いた顔が覗けたことで抱いていた感情は消え去る。

 

 雄英高校に幾人ものヴィランを引き連れて襲撃してきたヴィラン連合主犯格―――“死柄木 弔”。

 驚愕と共に肩に回してきた手が喉に四指(・・)触れている事で焦りよりも恐怖が襲って来る。

 

「まったり話そうじゃないか?」

 

 ニタリと嗤う死柄木に緑谷は震えを隠せず、ジッと見つめ返してしまう。

 どうするべきかと脳裏に過るが瞬時に両案は浮かばず、寧ろ困惑によって思考能力が妨害されているようだ。

 

 「なら俺も混ぜて貰えっかな?」

 

 冷や汗を流し沈黙した緑谷に有利な状況を得て余裕を得ていた死柄木は、割り込んで来た声の主へと視線を向ける。

 そこに立っていたのは右足をギプスの用途を兼ね揃えるように改良された“キックホッパー”を装着している扇動 無一だった。

 

 

 

 

 

 

 緑谷 出久は扇動 無一に対して困惑を禁じ得ない。

 突然現れたヴィラン連合のリーダー格と思わしき死柄木 弔の接触もそうだが、割り込んだ扇動 無一の対応がいかんせん納得できなかった。

 二人掛かりなら取り押さえる事も出来る。

 死柄木と解った時点で警察に通報する事も出来た。

 されど扇動は手段を講じるのではなく、話をする為に店に入ろうと誘ったのだ。

 それも人目に付き辛い奥の席な上に、万が一の事態には死柄木が動き易いに席を誘導した。

 何故、どうしてと疑問が過る。

 

「……最近のガキは礼儀ってのを知らねぇな。目上の人間より先に座るか普通?」

「礼儀作法なら知ってんよ。上座を進めたうえで座り易いように椅子を引いてやっても良かったが、俺らに不用意に背中は見せたくはねぇだろ?」

「口も悪ぃガキだ。ヒーローが聞いて呆れる」

「品行方正なヒーローの方が珍しいだろ?寧ろあの手この手を使う犯罪者(・・・)と対峙するんだ。多少捻くれているぐらいが良い事もあるのさ」

「……ハッ、面白い奴だなお前」

 

 こうやって二人クツクツと嗤いながら会話しているのも不思議で仕方がない。

 一人どうしようと悩む緑谷に扇動は気付いて笑いかける。

 

「なにか言いたいようだな?」

「………どうしてむーくんは……」

「取り押さえなかったのか――か?」

 

 言葉を先取りして困ったように笑う。

 ジッと見つめて答えを待つと、後頭部を軽く掻いて答え始めた。

 

「答えは簡単だ。人が多過ぎる。もしも奴が大声で自分はヴィランと正体を明かして見ろ。ショッピングモール内はパニックだ。パニックと言うのは厄介でな、人から人へと伝播し感染して行く。慌て逃げ出した大勢の人をどう止める?その間にも倒れた人や子供などは巻き込まれ―――後は言わずも解んだろ?」

「……だったらヒーローか警察に連絡して……」

「仮にも襲撃事件を行った主犯格だぞ。バレないように一般市民の避難をしながら、包囲網を築けると思うか?それ以外にも情報も足りなければ時間を掛けれるかもわからない。最悪失敗すれば周囲の何人かが確実に殺される。俺やイズクは無事であっても一般人に被害が出る」

「―――ッ!」

「お前はそれを許容するのか?」

「二十人か三十人はいけるだろうな」

 

 それは絶対に許容出来ない。

 あぁ――冷静じゃなかったのはボクの方だったと理解した。

 前提として死柄木は一人なのかと言う疑問もある。

 ヴィラン連合を名乗り、あれだけの事件を起こした主犯格が一人のこのこ出歩くものなのか?

 もしかしたら周囲に警護役のヴィランが紛れているかもしれない。

 

 確かに。

 むーくんは危険を前にして最善に動こうとしているのだ。

 誰かを巻き込まぬように……と。

 

 などと理解したつもりであった緑谷の前に爆弾(・・)が落とされる。

 

「捕縛でなくて殺すなら話は別だがな」

「――え?」

「へぇ……試して見るか?ヒーロー」

「ちょちょちょ、ちょっと!?」

 

 狡猾な笑みを浮かべて周りに悟られないように構える二人に対して本気で焦る緑谷。

 大慌ての緑谷に対して店内の視線が集まり、扇動も死柄木もほぼ同時に構えを解いて笑い合う。

 この二人は本当に初対面なんだろうかと若干疑ってしまう。

 

「可笑しいと思わないか?何でアイツらは笑っていられるんだろうな」

 

 視線の先には外と店内を隔てるガラス。

 否、ガラスの向こうで行き交っている人々に向けられていた。

 友達と、家族で、恋人と、一人で訪れている人々の多くが笑みを浮かべながら、賑やかで騒がしく歩き回っている。

 平和な光景だ。

 自分達が座っている席とは打って変わり。

 

「いつ誰が個性を振りかざすかもわからないっていうのに何故笑って居られる?なぁ、どうしてだろうな?」

「そりゃあ基本善意に依存(・・・・・)してるからだろ」

 

 言葉に詰まる緑谷と違って扇動は呆気からんと返す。

 その返しに死柄木は小さく関心の吐息を漏らした。

 

「道徳の授業でも習うだろ?自分がされて嫌な事は人にしてはいけませんって。法律は違反を起こしたは罰するという懲罰と抑止であるように、人の生活は人々の善意で成り立っている。ゆえに悪意に弱く、簡単に搔き乱される」

「そうだ。誰もがする訳がない。起こる筈も無いと思い込んでいやがる。実際そんな事もないのにな」

「現代の社会システムの限界だな。全てを解決するには多大な資金と技術と時間、それと個人の自由とプライバシーを無視しなければ完成しないから手も出せない」

「だから俺はこうしていられる訳だ」

 

 意気投合しているのか意見が合うだけなのか言葉を交わす二人を眺めながら飲み物を口にする。

 重く苦々しい空気が辛くも甘味が多少なりとも落ち着かせてくれる。

 扇動も死柄木も同じく飲み物に口を付けるが、喉や口内を潤わすのが目的であった。

 ことんとカップを置いた所で死柄木の視線が扇動ではなく緑谷に向く。

 

「なぁ、なんで世間は俺ら(ヴィラン連合)を注目しないんだろうな?」

 雄英襲撃に保須市で脳無を放って襲撃させた。だが、世間が今注目してんのは“ヒーロー殺し”だ。俺らがした事なんて無かったように喰いやがって(・・・・・・)。御大層な能書き足れようがやってることは気に入らないモノを壊しているだけだろう?俺と何が違うと思う?―――緑谷、扇動」

 

 ヒーロー殺しとヴィラン連合との違い。

 納得も共感も出来ないけれどもヒーロー殺しには確かな信念があった。 

 始まりは自分も憧れたオールマイト。

 ゆえに理解は出来たのかも知れない。

 決して正しい方法ではなかったけれども、理想の為に己が信念の為に生きようとしていた。

 好き勝手に壊したくて、遊び半分のように投げ出す事もなく……。

 

 気圧されながら自分の考えを伝えたところ、目を見開いて死柄木は納得を示した。

 

「あー、点と点が繋がったわ。

 なんでヒーロー殺しがムカツクか。なんでお前らが鬱陶しいか―――全部オールマイトだ」

 

 死柄木が笑った。

 いや、扇動との会話で多少笑みを零していたが、心底笑った彼が酷く恐ろしいものに見えた。

 視覚的にと言う意味ではない。

 感覚的に恐怖や危険を含んだ恐ろしさを振り撒くような……。

 ゾワリと身体中が悪寒で震える。

 

 青白くなる緑谷と打って変わり、死柄木がご満悦な様子で続ける。

 

「そうだ。そうだよ。結局全てはそこに辿り着くんだ。こいつら(市民)がヘラヘラ笑っていられるのも救えなかった人間など居なかったようにオールマイトがヘラヘラ笑ってるからだよなぁ」

 

 興奮している事は見て取れる。

 かなり危険な状態であるのも察せられて余計に気が気でいられない。

 今の死柄木は何を仕出かすか全く読めない。

 周囲の客もそんな危なげな雰囲気を微かに感じ取ったのかそわそわとしている者も居る。

 

「何でもいいがコップを灰にすんなよ。悪目立ちする」

 

 感情の昂るままにグッとカップを握り締めている死柄木に扇動が忠告を入れておく。

 それぐらいで収まる様な興奮状態ではないが、ほんの僅かながらでも落ち着きを見せる。

 圧が弱まった事でふぅ……と吐息を漏らして安堵した緑谷は、先程と打って変わって鋭い視線を向け

 

「今口にした“救えなかった人間などいなかったように”というのは救われなかった者の言い分だ。

 誰も助けて貰えずに虐げられて感情を欠如させた少年はある男と出会った。少年はその男に“弱肉強食”の原理と生き方を教わり、考えに反して弱者を救おうとする敵対者に似たような言葉をぶつけた。何故あの時に守ってくれなかったんだ――と」

 

 死柄木の奥底を覗き込むように瞳を見つめ、立ち上がって前のめりに顔を寄せて行く。

 

「誰だ、お前にとっての志々雄 真(・・・・・)は?」

 

 緑谷も死柄木も扇動が口にした人物が誰かなんて解りはしない。

 けれど意図を察して死柄木は忌々しそうに睨み返し、緑谷はハラハラといつでも動けるように心構えだけして見守る。

 瞳を覗き込んでいた扇動は突然ニカリと笑い、席に座り直すと珈琲を口にした。

 

「お前、やっぱり嫌いだな」

「俺は結構気に入ったけどな。楽しいお話の時間はここまでかな?」

「あぁ――そう言う事だ」

 

 何処か名残惜しそうに扇動は立ちあがったまま店を出て行く死柄木を見送っていた。

 少しその横顔にあり得ないと思いながら(・・・・・・・・・・・)不安を覚える。

 相手はヴィランだ。

 だけどむーくんにとってあんまり関係が無い気がする。

 会話している様子を見て先の発言は冗談の類ではなく、本気で気に入っているんだとは思う。

 店を出て行ったのを眺める扇動に対して緑谷は問いを口にしようとする。

 

「………むーくんは……」

「良し、指紋と音声(声紋)ゲット。思考や目的の一端も知れたし収穫としてはまぁまぁか。あー、もしもし塚内(・・)さん?突然すみません。実は―――…」

 

 恐る恐る振り向いた先で扇動はICレコーダーを取り出し、死柄木が触ったカップを回収すると警察へと連絡を行う。

 あまりの手際の良さに呆気に取られている間に、連絡を終えた扇動は緑谷が何か言いかけていた事を気にしたが、懸念はもう晴れているので緑谷は何でもないよと苦笑いを浮かべ、警察の到着まで扇動と一緒に待機する事に。

 

 

 

 

 

 

●おまけ:注文は―――ですか?

 

 死柄木は怪訝そうな視線で扇動を睨んでいた。

 雄英への襲撃時に不意打ちで蹴り落とされた事もあって警戒を強めていた。

 何か動きを見せた場合には即座に行動に出れるように…。

 

 ショッピングモール内の珈琲店に入ると、連れられるように注文口へと向かう。

 喫茶店なら兎も角珈琲専門店など死柄木も緑谷も初入店。

 豊富過ぎる珈琲の種類にトッピング、読み方の分からないサイズなどで脳内で混乱が起きていた。

 多すぎる文字欄に面倒になり、どうでも良いかと投げやりになる。

 そもそも注文しなくても良いかと思った矢先、前に立っていた扇動が振り返る。

 

「えっと、なにを注文する?」

 

 問いかけられた死柄木はキョトンとした後に眉間に皺を寄せた。

 何処か馴れ馴れしく片眉を上げて笑う様がこちらを試しているように伺え、なんで今日会う連中は礼儀がなっちゃいない奴ばっかりなんだと内心悪態を付く。

 苛立ち混じりに小さく息を吐いては睨みつけ、緑谷の首を掴んでいる手を視えるように力を籠める。

 

「妙な真似したら解ってんだろうな?」

「勿論、だけど何も注文しないのって目立つだろ。そこら辺のベンチでもそっちは悪目立ちしそうだし」

 

 それはそうだ。

 パニックになるのは構わないが今がこいつらと話をしたい。

 自分の中にある何かに問いを求める為にも。

 

「奢るからさ」

「……任せる」

「んー、だったら“ホワイトチョコモカフレペチーノのグランデ、キャラメルソース、ヘーゼルナッツシロップ、チョコレートチップエキストラ(エクストラ)ホイップのエスプレッソのショートいっぱいで”一つ」

「「は?」」

 

 人質にしている緑谷と同じく困惑の声を漏らしてしまった。

 一体何を注文したのか全くもって解らない。

 メニュー欄から調べようと思っても何と言ったのかさえ聞き取れていない。

 

「今アイツなんて言った?」

「ボクも良く聞き取れなかったんです……けど……」

 

 暗号かなにかかと疑うも、扇動も承った店員もそんな素振りを一切見せない。

 珈琲屋ではこれが普通の注文何だろうかと眉を潜める。

 

「イズクは?」

「ぼ、ボクもお任せで……」

 

 死柄木に続いて聞かれた緑谷も任せると口にした。

 どうせ同じ注文だろうと決め掛かった死柄木は耳を疑う事になる。

 

「ん、なら“ノンファットミルクピスタチオディープモカディップクリームフラパチーノwithチョコソースのミ―ディアメニーメニーホイップ”を一つ」

「お前のお友達は魔法使いかなんかか?」

 

 先程よりは多少短かったが全くの別物である事だけは理解した。

 ただ注文と言うよりは最早詠唱や呪文の類にしか聞こえない事に、問いかけられた緑谷は否定する事は出来なかった。

 店員も二種類の呪文を口にして確認を行う。

 そして最後に扇動の注文が行われる。

 

「あと、オススメ一つ」

 

 お前の注文は普通なのかよ!と自分達に比べて簡略化された注文に心の中で二人がツッコんだ瞬間であった。

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