待ちに待った夏休み。
入学してから慣れない高校生活から覚える事の多いヒーロー学、雄英体育祭にプロヒーローへの職場体験などのイベントが続き、襲撃事件を始めとした予期せぬ事件に見舞われたヒーロー科一年A組。
騒がしくも忙しない一学期を終えての長期の休み。
遊びも含めて色々な予定を組んでいたことだろう。
例に上げるなら八百万は両親と共に海外へ旅行する筈だった。
しかし夏休み前にショッピングモールで買い物中の緑谷と扇動に、ヴィラン連合の死柄木 弔から不意な接触があり、怪我どころか襲われる事もなく無事に済んだとは言え、生徒の安全面を考慮して雄英は遠出の外出については制限を設けることに。
これによりヴィラン連合は雄英高校や保須市の襲撃事件以外に、雄英高校の学生達より個人的恨みを向けられるのであった。
夏の暑い日差しが昼注ぐ日中。
ばしゃりばしゃりと水飛沫とビーチボールが舞い上がり、同時に楽しげな女子の声が耳に届く。
「そぉれっ!」
「ナイス、パス」
楽しそうにプールを満喫しながら遊ぶ女子。
出来ればカメラと望遠鏡をもってずっと眺めていたいと切実に願う峰田は、プール上で揺れと風圧に必死に耐えながら声を上げる。
「どうしてこうなったぁあああああああああああ!?」
雄英高校は安全面を考慮して遠出を制限したのなら、逆に安全を確保できれば遠出でも問題ないと言う事。
その点で言えば襲撃を受けて警備システムをさらに強化して、夏休みでもプロヒーローが少なくとも在中している雄英高校はまさに安全を確保できる施設。
言われるがままに家に籠って夏休みを満喫しないなんて選択肢はなく、クラスで女子が遊びに行く算段をしていたのを耳にした峰田は日にちを合わせてプールの使用申請書類を提出したのだ。
本来の目的である“女子の水着鑑賞”とは記載出来ず、担任である相澤先生の許可が居り易いように“体力強化”と使用理由欄に記入した。
思っていた通りに許可はすんなり下り、意気揚々とプールに訪れた峰田を待っていたのは使用欄に記載した通りの体力強化であった…。
自分一人では絶対に怪しまれる事から使用者を一年A組男子にして、眺める時の隠れ蓑として実際に男子に声を掛けたのだけど、不純な動機とは知らずに素直に申請通りに受け取った飯田は、放課後に訓練を見ている扇動に何か体力強化に良いトレーニングを知らないだろうかと尋ね、聞かれただけに素直にトレーニングメニューを答えたそうだ。
扇動が伝えたトレーニングメニューとは手首足首に重りのバンドを取り付け、手には水搔きグローブを装着して水を掻き分けながら、人を一人背負った状態で水中ダッシュを行うというもの。
さすがに峰田が人を背負うのは難しいので背負われる側なのだが、背負っているのが飯田 天哉なのだ。
切島や瀬呂、尾白などやる気満々でメニューを熟す一方、水中であろうが走りで自分が引けを取る訳にはいかないと全速疾走の飯田。
結果的に競争にまで発展して何度も揺れに耐える事に。
「どうしてってお前が体力強化で申請したからだろう」
「だってそうでもしないと許可が下りないと思ったんだよ!」
走っていた訳ではないがしがみ付いて落ちないように必死だった峰田は、走り切った飯田より降ろされるとがっくりと肩を落とす。
本来の目的を知っていた上鳴からの指摘は痛い程突き刺さる。
なにせ女子のプールの申請理由は“日光浴”。
だから遊んでいても文句は言われない。
「って言うか扇動はどうしたんだよ!アイツはメニューしないのかよ!!」
「無茶言うなって。扇動は骨折してんだから」
「でもリカバリーガールに治して貰ったって聞いたぞ!」
「それでも無茶は出来ないって」
恨み辛みをメニューを提案した扇動に向けるも、当の本人は雄英高校に訪れているがプールには顔を出しただけで参加はしていない。
確かに扇動は期末の実技試験にて骨折はしたが、リカバリーガールの個性により完治に近い程回復は進んでいる。
大怪我を負っても一瞬で治す事も可能である治療系個性であるものの、対象者の体力を消費して治癒能力を向上させるという性質上、限界を超えて消費させてしまうと対象者を死なせてしまう。
ゆえに最初は歩ける程度に回復させたのだが、昔から鍛えていただけに体力は多い扇動は数日後に蓄えた上でもう一度個性を使っての使用を頼み、完治または完治にほど近い状態まで治して貰ったのだ。
それでも念のために無理はしないようにと注意はされて。
言い返せない峰田はため息を吐き出し、プールへと視線を向ける。
男子とは反対側のレーンで遊んでいる女子達。
視線を向けているとそこを爆豪が横切って行く。
来るとは思っていなかったが一応誘ったところ、切島が誘った事もあってあっさりと参加したのだ。
それも一番熱心にメニューを熟していると言えるほどに。
「なんでアイツはやる気満々なんだよ」
「切島、なんか知ってる?」
「いいや。なんか誘った時からあんな感じだったぞ」
「あぁ、あれじゃないか。扇動の家に行くからじゃないか?」
「扇動の家に?」
わざわざ爆豪が扇動の家に遊びに行く様子が想像出来ずに首を傾げてしまう。
だがこれは轟の言葉足らずで、そこに事情を知っている緑谷が付け足す。
「むーくんの家と言うよりはお爺さんの家だよ」
「扇動の爺さん家ってこっから近いの?」
「ううん、ちょっと遠いかな」
「はぁ?遠出は駄目なんじゃねぇの!?」
「馬鹿かテメェは。安全が確保できりゃあ問題ねぇだろうが」
なんで扇動だけ許可が下りるんだよと不満を口にすると、通り過ぎ様に爆豪が答えて行った。
それでもはっきりと理解出来なかった峰田と上鳴に緑谷は追加として扇動の祖父である流拳がプロヒーローで、流拳の自宅がある敷地内には彼のヒーロー事務所があり、サイドキックも含めてヒーロー資格保有者が多く在中していて安全は確保できるという。
「遠出の許可が下りた理由は解かったけど、それでなんで爆豪がやる気満々なんだ?」
「――あれ?なんでだろう?」
そこで緑谷も首を傾げた。
理由は簡単。
職場体験でのリベンジマッチ。
つまり扇動 流拳と戦える一点にある。
流拳も流拳で爆豪の事を気に入っており、戦いがっている事もあっての事だ。
「緑谷も行くんだろ?」
「うん、流拳さんに会ってみたいのもあるし」
「お前もかよ!」
「なんだなんだ?」
「遊びに行く話か?」
扇動の祖父の家に遊びに行くことが広がって、面白そうと反応する面々が増えると当然ながら俺・私も行っても良いかな?と話がさらに膨らんで行く。
最終的に同居している轟が聞いてみる事で話は落ち着く。
「扇動なら問題ないって」
「お前、さっきまで扇動に不満漏らしてなかったか?」
「ソンナ訳ナイジャナイカ」
「ロボットみたいになってんぞ」
はっはっはっと笑いながら俺も行ってみたいと表明した峰田は、先ほどまでの事を無かった事にしてご満悦な様子であった。
爆豪や緑谷は二泊三日で泊りがけの予定だった事から、皆でお泊り会と葉隠や芦戸辺りが口にしていた事から、泊りならと妄想を一人膨らませているのが原因であった。
当然話を聞いたら真っ先に警備を強化されるとも知らずに…。
扇動はよからぬ気配を感じ取ってブルリと震え、周囲を見渡すが目の前に広がる光景以上に悪い事もないだろうと気のせいで片す。
隣に居たパワーローダーはその様子に気付いて心配そうに顔を向ける。
「夏風邪でも引いたか?」
「体調管理はばっちりと思ったんですが……念のために帰ったら風邪薬飲んどきます」
「そうしておいた方が良い。治すのに体力をガッツリ使って身体が弱ってるかも知れないんだから」
「確かに。なるべく安静にしておきますよ」
言葉を交わした二人だったが、ずっと目の前の現実から目を背ける訳にもいかないのでため息交じりに直視する。
二人は現在サポートアイテムの動作確認の為に体育館を借り、その様子を眺めていたのだけれど起こったのは暴走事故。
辺りに散らばるサポートアイテムの残骸に破片。
ぶつかった衝撃で壊れた壊れたデータ収集用の機材。
爆発によって焦げた体育館の一部。
そして「やってしまいました」と振り返る制作者の発目 明を始めとする開発チーム一同。
夏休みでも開発工房で作業していた面々は、扇動が来ると言う事で動作確認に誘ったのだ。
誕生日を過ぎたのもあって休みを利用してバイクの免許を取得。
バイクに乗れるという事で早速サポート科が開発したバイクを見せる事に。
形状は扇動のノートにあった仮面ライダー一号・仮面ライダー二号のサイクロン号。
目の前に再現されたバイクを見て感嘆の声を上げた扇動をさらに驚かせようと一行はとある仕掛けを見せ付ける。
取り付けられていた六気筒が稼働して下向きとなり、ブースターとしてバイクを宙に浮かせたのだ。
まさかの仕掛けに驚く中で異変が現れ始めた。
ブースターの出力が思ったより高く、体制が保てずに崩れ始めたのだ。
最初は緩やかとだったが、体制を立て直そうとするとより激しくなり、最終的にはガメラを連想させるような高速回転を始めて機材やそこらへんにぶつかりまくり、終いには大破炎上に至った。
せめてもの救いとしては遠隔の動作確認で誰も登場しておらず、念のためにと離れていたのが功を成して怪我人が一人も居なかった事だろうか。
「後片付け大変そうですね」
「言うな。すでに俺の胃が痛いんだから」
大きいため息を零すパワーローダーは常備している胃薬の瓶を取り出して、お湯を求めて給水所に向かって歩いて行く。
多くのサポート科が片づけと反省会を同時並行で行う中、扇動は壁を背もたれにしてぼんやりと眺めつつ、自分の手荷物から一枚のチケットを取り出す。
本日、雄英高校に訪れたのは遠出の申請を通す為である。
長期の休みである夏休み中に祖父の家に帰省する事はすでに許可を取っていたが、手にしているチケットに関してはまだだったので申請しに訪れたのだ。
―――“I・エキスポ”への招待ペアチケット。
“I・エキスポ”とは“I・アイランド”で行われる個性技術博覧会だ。
そもそもI・アイランドというのは世界各国の関連企業が出資し、世界屈指の技術者による個性研究やらサポートアイテムを含む発明が行われている人口島・海上都市で、警備は最高峰のシステムを誇る監獄“タルタロス”に相当するという。
島での生活が困らないように必要なインフラから娯楽施設までしっかりと充実しており、出来ない事と言えば技術者への保護プログラムにより旅行が出来ないということぐらい。
そのI・エキスポに扇動は招待されたのだが、正直言って悩みの種でしかない。
行きたくないと言う訳ではなく、世界屈指の技術に触れれる機会なので寧ろ行きたいまであるのだけど、問題となっているのはこれがペアチケットであると言う事。
しかも二枚。
一枚は雄英体育祭一年の部で優勝者した景品として送られ、もう一枚は祖父が出資企業の一つと言う事で伝手を使って手に入れて「友達と行って来ると良い」とプレゼントされたのだ。
I・エキスポのチケットを二枚持っていてもしょうがないので、一枚はすでに切島に待たしてある。
正確に言うと爆豪にもこういった機会に触れた方が良いと思い、切島に誰からとかを伏せて誘って貰う事にした。
ただでさえ自分が誘ったところで怪訝な反応する上に今回は、
もう一枚は自分ともう一人、イズクを誘おうと思ったのだけど先約が居たようだ。
ならば誰を誘うか。
I・エキスポのチケットとなると人気も高く、父親が出資企業という事で三人分のチケットを貰ったお嬢も、クラスの女子を誘おうと声を掛けた際に、体育祭並みに熱意のあるじゃんけんが繰り広げられたのを思い出す。
もしもクラスの男子に声を掛けたらそれ以上の騒ぎになるのは必須。
だからと言って誰かを指名するべきか悩む。
いっそのことペア券だけど一人で良いかと過るも勿体ないような気もする。
事を大きくしたくないなら同居人である轟を誘えば良いのだけど、エンデヴァーからチケットを貰っているというし、どうしたものかと頭を大いに悩ませる。
プールに全員居るのであれば騒ぎ覚悟で、ペアの相方をレースか何かの景品としてしまえば悩む必要もなくなる。
あまりに騒ぎ過ぎたら学校に居る相澤先生に睨まれる可能性が非常に高いが……。
チケットをひらひら揺らしながら考え込んでいると、片付け&反省会をしていた発目がこちらを凝視していた。
かなりの距離が空いていたが個性“ズーム”を使用した発目の前では、文字と認識出来ない程の黒染み羅列を読み取るなど容易である。
瞬間移動でもしたかと思う様な速度で近づいた発目はがっしりと扇動の肩を掴む。
「私、凄く、気になります!!」
「お、おう……」
思わず扇動が後ずさる様な圧。
何事!?と反省会を開いていた他のメンバーと、胃薬を飲んで戻って来たパワーローダーの視線を集める。
ふむ、と少し考える。
サポート科の生徒としては気になる所であるだろう。
発目には色々と作って貰っている恩と、これからも様々な頼みごとをする事になる。
ここは感謝を表すのも含めて彼女を誘うべきだな。
「I・エキスポのペア券なんだけど一緒に行くか?」
「是非!」
強く即答した発目にそうだと扇動はある事に気付く。
「パーティとかあるんだけどドレスとか持ってるか?」
「持ってませんね!制服では駄目でしょうか?」
「制服も礼服だから問題ねぇとは思うが、俺のスーツ仕立てに行くついでにドレスも仕立てるか」
「高いのでは?」
「
「そうですか!ありがとうございます!代わりに手続きとかしておきますね!!」
「外出の手続きなら―――」
「I・エキスポでは様々なアトラクションもあるそうです。中には戦闘系もあるのでコスチュームとか入用になるかと」
「あー…なら頼めるか」
「勿論です!」
扇動はドレスの事もあってこの後に用事があるかを聞き、店に予約するのもあって時間と集合場所だけ決めて何処かに行ってしまった。
早速コスチュームを校外に持ち出す書類を求める発目だったが、二枚要求された事にパワーローダーは嫌な予感がしてならない。
何故二着も必要とするのか。
本当に発目をI・エキスポに行かして問題とか起こさないか。
不安が過るも全部扇動に任せる事にして、パワーローダーは何も見なかったことにしたのだった……。