I・アイランドで開かれているI・エキスポには数々の個性と技術を活かした作品や施設が多数存在する。
鑑賞するだけでなく体験出来るものや遊べるものと用途も多岐に渡って楽しめるだろう。
緑谷 出久はオールマイトに連れられI・アイランドへ訪れ、今は様々なサポートアイテムが展示されているパビリオンをメリッサの案内の下で見て回っていた。
並んでいる全ての品々がヒーローや人々の生活を支えているもので、自分の知らない技術力の世界に圧倒されまくる。
「どれも凄い!」
「ほとんどがパパの特許を元にした作品なんだ」
満面の笑みで自分の事のように誇らしげにメリッサは語る。
デヴィット・シールド博士。
メリッサの父親でアメリカで活躍していた頃のオールマイトの相棒で、コスチューム製作や様々なサポートアイテムを開発しては支え、科学者として活躍する今でも彼の発明の数々は多くの人々とヒーローを救っている。
科学者であれば知らぬ者もおらず、オールマイトオタクの緑谷 出久が知らぬ筈がない。
オールマイトが親友と呼び、メリッサの父親であるデヴィット・シールドとは先程対面して来たばかりだ。
本物のデヴィット・シールド博士に会えた興奮から、オールマイトの紹介を遮って知っている知識を総動員し、本人を前に【デヴィット・シールドがどれだけ凄い人なのか】とオタトークをガンガンと語ってしまった。
結果、勢いと口早に自身が如何に偉大であるかを語られた博士は、照れとも苦笑とも取れる笑みを浮かべ、失礼なことをしたと後悔する事に。
けれど緑谷自身が語ったことは決して嘘ではない。
それは嬉々として語り、並ぶアイテムの数々を説明してくれたメリッサも同様の念を抱いている。
―――父のような科学者に成りたい。
彼女は道中にそうも語ってくれた。
自分にはオールマイトと血縁関係は無いが、偉大な人に憧れ追うと言う事に共感を抱いてしまう。
「
「は、はしゃぎすぎでしたか?」
「ううん、案内や説明し甲斐があって楽しいの」
「――そ、そうですか」
クスリと微笑みを向けられ後頭部を掻きながら目を反らしてしまう。
話題を変えようと何かないかと考え始めたところ、久々の再会から積もる話があると言っていた
ただ話題を変えるよりも先に遮られる事になるが。
「楽しそうやねデク君」
背後から呼ばれてビクンと肩が跳ねる。
メリッサには博士の研究室からパビリオンの道中で、ヒーロー名を教えたので知っているが、他に
振り返った先にはやはり麗日 お茶子がそこに居た。
そればかりか隣にはイヤホンジャックを弄る耳朗、どこか申し訳なさそうな八百万の姿もある。
「麗日さん!?それに耳朗さんに八百万さんまで!」
「楽しそうやね」
「二回も言った!」
「楽しそうですわね」
「緑谷、聞いちゃった」
「恐るべし耳朗さんのイヤホンジャック!」
麗日達クラスメイトとの遭遇には驚いたが、それ以上に何か勘違いされているような方が問題だ。
同時に突然緑谷の知り合いらしき人達が現れたとしか分からず、話的に置いてけぼりを食らってしまっているメリッサにも説明をしなければならない。
「お友達?」
「学校のクラスメイトで何か誤解を…えっと、僕はメリッサさんに案内をして貰っていただけで」
「初めまして、メリッサ・シールドです。デク君とは私のパパとマイトおじ様が……」
「わわわっ!?」
大慌てで言葉を遮る。
I・アイランドにオールマイトの同伴で訪れている事は秘密にしたい。
自分が後継である事は秘密であり、そうでないにしてもオールマイトに誘われてとなると一人の生徒を贔屓していると問題になるのでそれも非常に不味い。
理由全てを語れなくともメリッサは焦りながら言わないでと頼む緑谷に分かったと笑みで答えた。
「良かったらカフェでお茶にしません?」
唐突な提案ながら受け入れられ、一行でパビリオン近くのオープンカフェに向かう。
どう誤解を解こうかと思案していた緑谷だったが、メリッサのおかげであっさりと解かれるばかりか、話題が変わって雄英高校の話で盛り上がっている。
雄英生からしたら普段の日常だったりする話も、生徒ではないメリッサから未知の話。
テーブル席について職場体験でヒーローの活動を体験した話なんかは、少し照れ臭いが興味を持って聞いてくれる分、楽しそうに談笑に華を咲かせていた。
これに関してはメリッサが聞き上手というのもあると思われる。
一つしか変わらないというのに落ち着きがあって、少女らしさを持ち合わせながら別の大人っぽさを持つ。
私が私がと自身が話す事に夢中になることなく、興味を持って相手の話を聞く側になっている事から話す側としても話し易いだろう。
なんにしてもホッと安堵で胸を撫で下ろした緑谷に、店員が注文したドリンクを運んで来た。
「お待たせしました」
「ありがとうござ―――って、上鳴君に峰田君!?」
「よぉ、緑谷!」
まさか麗日さんに続いて上鳴君達に会うとは思わず声を挙げた。
出会ったこともそうだが二人はカフェの店員用の制服を着ていた事にも驚かされる。
「二人共どうしたの?」
「バイトだよバイト」
「エキスポ開催中のバイト募集があってさ。バイト代も入るし休憩時間にはパビリオン見れると思って応募したんだよ」
「それに~」
そういう手段もあるんだと感心していると二人の視線はメリッサさんを捉え、耳元へ口を近づけてひそひそと話しかけて来た。
「何処で知り合ったんだ、あんな美女」
「紹介しろよ紹介」
感心が一瞬で消え去り苦笑いを浮かべてしまう。
これに関しては緑谷だけではなく、二人の様子から察した耳郎は呆れ、麗日は緑谷同様に苦笑を浮かべて八百万は「またですか?」と怪訝な顔をする。
対して視線を向けられたメリッサは少し首を傾げるも微笑を浮かべたままだ。
「彼らも雄英生?」
「――そうです」
「ヒーロー志望です」
「表情の切り替え速いなぁ」
パッとメリッサに答える二人の表情はキリっとして、声色もかなり格好良くなっている。
ここまで来ると呆れよりも感心してしまう。
なんて思っていると遠くから風切り音を纏った足音が耳を打つ。
「君達!なにをバイト中に油を売っているんだ!労働に励みたまえ!」
「飯田君!?」
駆け抜ける勢いで駆けよって来た勢いと圧に峰田と上鳴は短く悲鳴を上げるが、それ以上に他のお客さんに迷惑じゃないかなと声に出さず思ってしまう。
「飯田君も来てたんやね?」
「家はヒーロー一家だからね。I・エキスポから招待状を頂いて、だけど兄さんはリハビリに励んでいたりと家族は用事があって来たのは俺一人だが。君達は?」
「私はお父様がI・エキスポのスポンサー企業でして、招待券を頂きましたの」
「それで招待状が二枚余っているから厳正な抽選の結果、うちらが一緒に来たって訳」
「女子の皆も来てるから明日の一般公開で一緒に周るんだ」
「確か男子も全員来ているんだったな。なら皆で回るか―――っと、そう言えば扇動君は知らないな」
「むーくんも来てるよ。お爺さんがスポンサー企業だから招待状貰ったらしいよ」
「へぇ、そうなんやね」
「良かったら私が案内しましょうか?」
「良いんですか?」
「「俺達も!」」
喰い付くように反応した峰田と上鳴であるが、いくらプレオープン前といえバイト中のみ。
友人が居たからと言って他のお客もいる中で騒いでいて言い訳も無く、カフェのオーナーから険しい視線を受けて焦りつつ仕事に戻る。
その様にクスリと苦笑いを一つ浮かべたところで、「そうだ!」とメリッサが手を叩く。
「今度はアクション系のアトラクション行ってみない?」
「アクション系ですか?」
「うん、ロボットをヴィランに見立ててのタイムアタックなんだけど」
緑谷の脳裏を過ったのは雄英入試試験で行われて実技テスト。
あの頃より格段と成長した自分を試して見たいのと同時に面白そうとも思ってしまう。
注文したジュースを飲み干した緑谷にメリッサ、それと飯田と麗日達を合わせた一行は、道中向かっている施設から響く爆発音を耳にしながら向かうのであった。
連続して爆発音が響き渡る。
扇動 無一はI・エキスポのパビリオンを発目と一緒に見て回り、昼食や間食を挟んでやってきたのが“ヴィランアタック”というアトラクション。
I・アイランドは日本と違って個性の使用が自由な為、個性有りきのアトラクションや施設も存在する。
まさにこのヴィランアタックが良い例だろう。
山岳地帯をイメージした外観に観客席が囲む中心には岩山のステージが立ち、所々にヴィラン役のロボットが配置されている。
参加者たるチャレンジャーは個性や身体能力を発揮して、岩肌を昇りロボットを破壊して時間を競い合うタイムアタック。
いくら使用が自由だとしても好き勝手に使える訳ではない。
下手に使って物を壊せば器物破損、人を傷つければ傷害罪と当たり前だが法の裁きを受ける。
だからこそこうやって思いっきり個性を使えるのは面白く、物珍しさもあるだろう。
―――雄英ヒーロー科の入試を受けた連中には既視感しかないだろうがな…。
あれから半年も経ってないんだよなぁとしみじみ思いながらぼんやりと眺める。
タイムアタックのスコアボードには次々と記録が刻まれ、上位はほとんど雄英生が叩き出していた。
扇動に頼まれて爆豪を誘って訪れていた切島も挑戦は33秒で八位を叩き出したら、続いて爆豪が
八位だった切島が数分もしない内に11位にまで下がる事に。
切島達が来るよりも先に挑戦していた扇動は、張り合う事無く飯田や麗日など他の面子が挑戦するのを眺めるばかり。
ちなみに元々の順位でトップ十位にすら入っていない。
趣旨タイムアタックであったが複数のカメラで動きを追っているのに注目し、ライダーコスチュームの宣伝しようと思ったのか発目が「無料動画サイトにアップしましょう」と誘ったのが理由なので、どちらかというと時間を気にしつつも見栄え重視で実戦よりはショーに近く、それほど高タイムは出せなかった訳だ。
当然ながら挑戦する際に許可は取っている。
それにしてもとステージから視線を隣に移す。
隣の席には発目が座っているのだが、彼女の興味はすでにステージやアクションには存在しない。
今、興味の対象は緑谷を案内していたというメリッサ・シールドという少女。
このアトラクションに訪れた緑谷から紹介され、シールド姓から有名なデヴィット・シールド博士を連想していると、実際に博士のご息女だったのには驚かされた。
とは言っても名や経歴の一部を知っている程度で、関わるどころか会った事すらないので知らなかったのだが。
そのメリッサ・シールドは発目と和気藹々と言った様子ながら、専門的な技術的談義を展開して内容に関しては周囲の誰も寄せ付けない感じ。
本当に出会って短い時間でほとんど喋っても居ないのだけど、扇動はメリッサに対して好印象を抱いている。
自身の
話した感じと雰囲気から大人びた落ち着きと
開発自体が趣味となってぶっ飛んだ発想と技術を扱う発目はいわば荒々しい原石だ。
俺は実験台を行う事で問題点を示す役割を担っているに過ぎない。
開発工房では発目に協力する生徒も増えたがそれらも技術力も経験もまだまだ未熟な原石側。
原石を磨く研磨役というピースが不足している。
ついでにパワーローダー先生を支える抑え役というか常識枠も欲しいところだ。
熱が籠った会話を続けながらも私が私がと話すのではなく、聞き手に回って理路整然と発目と上手く話しを進めている【改造案を練っている】。
(彼女、
勿論だが彼女は彼女でしたい事があるだろうし、相手の意思が伴わない無茶な勧誘なんてする気も無いが、その技術力如何では研磨役、発目を高め合う仲間として
なんて考えたのを感じ取ったのか発目はピクリと身体を震わせ、シュバッと風を切る様な勢いでこちらを向いた。
「今、何を考えてましたか?」
「いや、別段口にするようなことは……」
「少し話しただけですけど、彼女は結構な技術を持っています!」
「うん?」
「ですが扇動さん!私も負けておりませんし、先に
「お、おう」
一見いつものように笑顔で詰め寄っている様で目が笑ってねぇし圧が強い。
圧されながらも返事を返すととりあえず満足したのか会話に戻って行く。
何だったんだ今のは……と後から疑問を抱くも、発目がI・アイランドに持ち込んだ
“個性”は持っているのが当たり前の時代。
少数派である個性を持たない無個性は稀有であり、時にはその違いから苛めや周囲と馴染めないという話を耳にする。
私は周囲の人達に恵まれていたと思う。
パパは無個性と診断されて自分の個性も大したことは無いからと慰めてくれた。
友人達は気遣ってくれるも決して仲間外れにする事はなかった。
けれど個性有りきの社会ゆえに疎外感というのはどうしても感じてしまう。
何より“無個性”と言い渡された自分は―――ヒーローを目指してはいけない――そう、告げられた気がした…。
けれど私には夢が出来た。
マイトおじさまは
そんなマイトおじさまはパパの事をヒーローと呼ぶ。
パパでしか出来ない事、作れないサポートアイテムが支え、十分の活躍が出来ていると。
ヒーローの形も一つじゃない。
無個性の私も成るんだと日々研鑽を詰む。
いつの日かマイトおじさまのようなヒーローを支え、誰かのヒーローになろう。
懐かしく今も色褪せない
クスリと微笑んでしまう。
今年に入ってよく意識するようになった。
日本ではビッグイベントとされる雄英体育祭。
こっちでも中継で放送されたりはしたけれども私は見なかった。
ついつい研究に没頭しちゃって。
だから目に付いたのもニュースで騒がれていたからだ。
“無個性”ながら同年代の強個性持ちを破って優勝した少年。
聞いた最初は疑いの方が大きかった。
ニュースやネットではハイライトシーンが流れ、思い込みを抜きにして客観的に一人の科学者の卵として観た。
身体つきや運動量にスタミナからして相当に鍛え上げられているは勿論、一番に注目したのが身体能力や戦闘能力に頼り切る訳ではなく、彼が技術や知恵をも駆使していた点。
無個性でもヒーローを目指せる。
観た時は凄いなぁって感心しちゃった。
他にもサポート科の生徒の試合にも魅入ちゃったし、これならハイライトでなくて中継を見ればよかったと後悔したっけ。
そして今日。
I・エキスポに招待したマイトおじさまが同伴で連れて来たデク君。
オーソドックスなコスチュームに、ヴィランアタックで見せた高い能力と強い個性。
彼は目を見張るほど強く映ったのだけど、逆に身体に残る傷や様子から身体の方が個性に耐え兼ねていたのは一目瞭然。
パーティ前にアカデミーの研究室に寄った私は置いていたサポートアイテムを手に取る。
以前マイトおじさまの全力にも三発は耐えたガントレット。
通常時は腕輪と変わらないけど起動させたら指先から肘の辺りまでを覆う仕組みとなっている。
これなら個性に耐え切れてないデク君をサポート出来るだろう。
「私も夢に近づけれるかな」
色褪せない気持ちと思い出が溢れる。
デク君は私が無個性としって暗く、何処か
ガントレットを渡すと彼はそんな、と遠慮するも最後は嬉しそうに受け取ってくれた。
これで私も夢に一歩でも近づけれたら良いな。
なんて思っていると寄り道していた分、合流時間を過ぎてしまっていた。
デク君には悪いけど一人先に行って貰って、急いでパーティの準備をしなきゃ。