無個性オリ主が共にヒーロー目指す!   作:チェリオ

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第07話 無個性と元無個性の体力テスト 前編

 ヒーローの育成機関として名を馳せ、名門中の名門である雄英高校正門前。

 新たな一年生を迎える初日という事で扇動 無一は祖父の扇動 流拳と共に訪れていた。

 腕時計の針は朝の六時を指しており、早すぎる登校である。

 本日よりヒーロー科でヒーローへの第一歩を踏み出すという事で、気分が高まって早めに訪れた―――なんて浮かれた理由ではない。

 無一は知らなかったのだが、どうも雄英高校では入学式を執り行わないようなのだ。

 合格通知と共に送付された資料には無かったのだけど、雄英の入学式についての記載がなかった流拳が連絡を入れたところ、“相澤”という教師がしないと答えたのだ。

 俺の高校生活初日となる入学式での様子をビデオカメラで録画しようと思っていた祖父はがっくりと肩を落とし、あからさまに落胆していると弟子の連中伝手に聞き、なら入学初日に校門前で写真を撮らないかと言ってみたところ、瞬く間に復活して今に至るという訳だ。

 本来ならばこの時間は軽くランニングなどを行っている筈ではあるが、慣れた俺ならば兎も角初見の学生が強面の祖父を校門前で見てしまえば、通り難くなる事間違いなしだろう。

 周りの迷惑と祖父に精神的ダメージが及ばないようにと考えて、まだ学生の大半が登校していないこの時間帯に来ることに。

 

 いつになく微笑を浮かべて流拳と並んで写真を撮る。

 チカッとフラッシュが焚かれて、カシャリと言う音が三脚に乗せられたカメラより発せられる。

 もう二桁を超えて繰り返された撮影を終え、流拳は今撮られた写真を確認して大きく頷く。

 

 「よし、良く撮れとるぞ」

 「後で写真貰える?」

 「勿論じゃとも。今日の夜には用意しておく」

 

 祝いに豪華な飯じゃぞと俺以上にルンルン気分で笑みを浮かべていた流拳は、校舎に視線を向けるとむっと険しい表情を浮かべる。

 “むっと”などと可愛らしい表記をしたが、それは慣れ親しんだ無一から見てそう見えるだけで、傍から見れ仇でも睨んでいるような剣幕が漂っている風に感じるほど険しい顔をしている。

 

 「それにしてもなってないのぅ」

 「入学式の事?」 

 「いや、情報の伝達じゃよ。聞かなければ門前で困惑しとったぞ」

 「確かに送られた奴には式の説明みたいのあったのにな。それにしても情報伝達がなってないのは確かか」

 「“情報の命は速さだ”というのに」

 「あ、俺が教えた言葉覚えてくれてたんだ」

 「無論じゃとも。確か諜報機関の…ファットマン(太った男)という者の言葉だったかの?」

 「いや、ブックマン(学者)ね。体形的には間違ってはいないけどさ」

 

 こちらの世界では前世で嗜んでいたアニメや漫画、特撮がないために話題にする事も共感する事も出来ない。

 なので気に入っている“台詞”や考えを口にしたりしているのだけど、こうやって覚えて他の人が口にしてくれるというのは中々嬉しいものがあるな。

 嬉しそうに笑っていると三脚を片付け、カメラを大事そうにバックにしまった流拳は軽く片手をあげる。

 

 「ヒーローを目指すのが第一じゃろうが、青春は今しか味わえんのじゃ。存分に高校生活楽しむんじゃぞ」

 「善処…いいや、了解したよ」

 「そういえば無一はこの後どうする?何処かで時間を潰すか?」

 「あー、まだ内部構造理解してないし、校内を見て回るよ。これだけ大きな敷地を持ってるんだから暇潰しにはなるでしょ」

 「そうか。なら儂は帰るぞ」

 

 カッカッカッと朗らかに笑いながら流拳が飛んだ(・・・)

 年老いても高過ぎる身体能力による跳躍と、個性による補助を用いて建物の踏み台に跳び、数度建物より高く飛翔すると視界から完全に消え去ってしまった。

 俺もあそこまでに至れるのだろうか。

 否、至らねばヒーローなんて続けられないと再認識し、ヒーローへと至るべくこれから三年間を過ごすであろう雄英高校の門を潜る。

 

 

 

 

 

 

 朝会を済ませた職員室では、職員たちがそれぞれ動き始める。

 クラスの担任達は教室に向かい始め、クラスは持たないが教科を担当する職員や校長などは本日行われる入学式の準備の為に動き始める。

 

 ヒーロー科1-A組を担当する相澤 消太は気怠そうに席を立ち、教室へ向かうべく準備を始めるのだが、その第一歩が寝袋を用意するという変わった行動を取る。

 彼は自身が持つ“合理性”に重きを置く。

 食事は手早く栄養が取れる栄養補給ゼリー飲料で済まし、無駄だと思う事を省いて有効だと判断した事を行う。

 今もまた教室へ移動した後の僅かな時間を有効に使うべく、寝袋で寝て休むという彼なりの合理的判断に基づいている。

 

 「Hey!イレイザー!」

 

 自分を呼ぶマイク(プレゼント・マイク)に手を止めて顔を向けると、男子生徒を連れて出入り口で手を振っていた。

 その生徒は自分が担当する生徒の一人である扇動 無一であった。

 

 「どうせ寝袋被って教室に向かうつもりなんだろ。だったらついでに持って(荷物を)行って貰えって」

 

 雄英で共に学生時代を過ごしてきた長い付き合いだけあって、マイクの予想は大きく当たっていた。

 確かにこれから教室に向かうであろう扇動に荷物を持たせるのもまた合理的だ。

 本日行われる入学式を時間の無駄(・・)と判断して、グラウンドで授業を行おうと考えている相澤は、用意されている新品の体操着へ視線を向ける。

 しかし持って行くという行為そのものが非合理的と判断する。

 

 「いや、別にいい」

 

 断りながら視線を寝袋に戻し、ジッパーを空ける。

 そしてちらりと無一に視線を向けた。

 

 扇動 無一。

 実技試験での戦闘技術に的確な救助活動を目撃した相澤は、軽くであるが調べ上げた。

 両親はヒーロー活動中にヴィランに襲われて死亡。

 その後は親戚中をたらい回しにされ、祖父である扇動家当主の扇動 流拳に引き取られる。

 学校での成績は上の上で、個性禁止の体力テストでは全国一位をキープ。

 HUCのバイトを熟して救助に関する知識と経験を積み、中学時代にはそれが役立ち人命救助を行い表彰された事もある。

 転々と渡った小学校や中学校の担任に電話で話を聞けば、口が多少悪い以外に悪い話は一切なく、寧ろ担任からも生徒からも好感を得ていた高評される。

 基本的な(・・・・)人間性も戦闘技術も救助能力も優れている生徒だけに、試験官を務めた職員の大半が彼の合格に納得し、これからの彼に大きな期待を抱いた。

 その大半に含まれない一名…。

 相澤だけが彼の入学に否定的であった。 

 

 確かに扇動は同年代、いや、多くの上級生と比較しても基礎能力で秀でているだろう。

 しかしそれは純粋な身体能力や身に着けた経験と知識によるもの。

 “個性”があるならば“個性”と共に鍛える為に大きな伸びしろもあるが奴にはそれがない。

 個性にも身体能力にも個人差があれど限界が存在する。

 伸ばせる個性を持たず、すでにかなり鍛え込まれている身体能力を持つ扇動に、どれほどの伸びしろがあるというのか。

 寧ろ他の学生に比べて限界が近いのではないかと思う程。

 雄英で三年間で学べる知識はあれども鍛え上げれる部分が無いのであれば、正直に雄英に通うというのは無駄(・・)に思えて仕方がない。

 だから俺はヒーロー科の定員から弾くように校長に進言した。

 すると他の職員との意見を合わせて、俺が担当するクラスを2()名にしたのだ。

 ヒーロー科の定員は40名。

 A組B組それぞれに20名ずつなので、これは完全に定員オーバーであるも、雄英の“自由”な校風が売り文句。

 特例として21名とするも良し。

 俺の判断で21名以下にする(・・・・・)も良し。

 そう言われてしまえば返す言葉はない。

 つまり俺は俺が否定した生徒を合理的(・・・)に判断しなければいけなくなったのだ。

 

 そんな事とは露とも知らない扇動は、プレゼント・マイクが“イレイザー”と呼んだ事が気になり、相澤をじっくりと観察するように見つめた。

 

 「イレイザーってイレイザー・ヘッド?」

 「お、メディアあんまり出てないのによく知ってんじゃん」

 「えぇ、憧れのヒーローなので」

 「「「憧れ…」」」

 

 プレゼント・マイクにミッドナイト、それと何となく眺めていた八木 俊典(オールマイト)は“憧れ”を抱かれているイレイザー・ヘッドこと相澤 消太に視線を向ける。

 

 整えられていないぼさぼさの長髪に生やしっぱなしの髭、やる気が一切見られない弛んだ様子…。

 憧れを向ける対象がこれでは酷いと三人とも思ってしまう。

 例えるなら純粋な子供が好きなキャラクターの着ぐるみの頭が外れて中身が出てしまったような、特撮ヒーローのピンクの中身がおじさんだったのを偶然目撃してしまったりしたような感じ…。

 残念そうな視線を受ける相澤は気にせず、扇動はそんな視線から意図を察して微笑む。

 

 「大丈夫ですよ。イレイザー・ヘッドの戦い方や戦闘技術に憧れを抱いているだけで、別に誰もが抱くヒーロー像みたいな人間性は求めていないので」

 「意外と言うわね…」

 

 本人を前にハッキリ言うなと誰もが思い、扇動は「但し、周囲に害をなさない程度は求めますが」と付け加えて、俺が手にしていた体操服を取り上げる。

 

 「…何をする?」

 「逆に問います。何をしてるんです?」

 「入れて(・・・)持って行く。それが合理的だろう」

 

 ついでに持って行かさずとも、寝袋に入れて運べば手が空くのでゼリー飲料を食べながら移動も出来る。

 無駄を省いてこその合理的だ。

 

 「寝袋に入れて運べば効率的なのに、君は意外と(・・・)合理性を欠くね」

 「先生は合理的というよりは単なる横着者のようですね。失礼ですがおいくつですか?」

 「30だが」

 「担任とは言え初めて会った三十路の男性と共に包まれて運ばれた衣類に対し、年頃の少女を含めたクラスメイトの反応は凡そ嫌悪でしょう。下手したら好感度の低下どころか保護者からクレーム来ますよ。合理的というならいらん面倒事を増やさないためにも後を視野に入れないと」

 「ふむ、そういうものか」

 「そういうものです。というか無頓着に過ぎるでしょう」

 

 面倒なのは確かだと納得し体操着を渡すと、腰に提げているポーチより紐を取り出して体操着を一括りに結んで机の上に置き、寝袋を被ってジッパーを上げた俺を背負う。

 右手で支えながら左手で体操着を結んだ紐を掴む。

 

 「じゃあ持って行きますね」

 「おいおい、イレイザーごとかよ」

 「ついでです」

 

 担がれて職員室を出る俺は眠気眼のまま扇動を見据える。

 努力は認めよう。

 それも並大抵のものではない。

 だからこそ思うのだ。

 こいつは…無個性である扇動はヒーローという危うげで無茶な道でなくとも別の道があっただろうと。

 

 「お前は本当に合理性を欠いている。無個性でヒーローなんて無謀もいいところだ。別の道もあっただろうに…」

 「分かってますよンな(そんな)ことは。けど決めちまったら仕方ないでしょうに」

 「決めた…か」

 「友達を煽った責任、餓鬼の我侭に快く付き合ってくれた爺ちゃんの優しさ、ヒーローになる夢を応援してくれた先輩に応える為にも。そしてあるヴィランを俺の手で捕まえる為にもなるんだ」

 「…親の復讐か?」

 

 頭に過ったのは扇動の両親を殺害した犯人。

 ヴィランにより殺害された以外の情報は知る事が出来ず(・・・)、その事件を起こしたヴィランの生死や逮捕されているか以前に名前すら不明。

 ヒーローとして危険に身を晒す以上、何かしら自身を奮い立たせる精神を支える柱が必要だ。

 だからと言って復讐とはな…。

 俺の問いに扇動は首を横に振るった。

 

 「それは別。捕まえたいヴィランには恨みも辛みも抱いていません。寧ろ……いや、違うな」

 

 何か言おうとした口を閉ざして考え込む。

 その横顔には何処か懐かしみ、穏やかな笑みすら浮かべていた。

 対して追求も問いかけもせず、ただただ「そうか」とだけ口にしてこの話を締めくくる。

 話もほどほどにヒーロー科1-A組の教室に到着し、扉が開かれた教室内の喧騒が廊下にまで響き渡っていた。

 開けっ放しの出入り口を塞ぐように緑谷 出久に麗日 お茶子が話し込んでおり、教室内では机に脚を乗せる爆豪 勝己に注意する飯田 天哉が騒いでいた。

 

 「(わり)ぃが道を空けてくれるか?」

 「むー…く…ん?」

 「あ!“よーこそー”の人だ!」

 「はいはい、よーこそーの人ですよ。」

 

 それぞれの反応を示す中、緑谷だけが戸惑いの表情を浮かべる。

 扇動と小学校が一緒だったことで顔見知りという事もあったのだろう。

 パァと顔を輝かせると同時に、背に俺が居る事で何度か見比べて困惑の色を濃くする。

 そしてその困惑はクラス中に広がっていく。

 

 「おはようイズク」

 「おは…よう?…えっと、後ろの人は…」

 「(グレート)(ティーチャー)(鬼塚)ならぬGT(相澤)。もしくは現状芋虫」

 「先生って事だよね!?」

 「…そうだ」

 

 チャイムが鳴り響くと仕事に入る為、小さく返事をして背中より降りる。

 直立した状態で寝袋のジッパーを下げ、顎をしゃくって扇動に持たせた体操服を教卓に置くように示す。

 騒ぎも扇動と俺の登場で静まったのは黙らせる手間が省けて丁度良い。

 

 「担任の相澤 消太だ、よろしくね。早速だけどこれ着て(体操服)グラウンドに出ろ」

 

 簡単な自己紹介を済また相澤は、有限である時間を無駄にしない為と彼ら・彼女らにヒーローの素質があるか否かを見極める為にも、事によっては無意味になる(・・・・・・)入学式やガイダンスなどを無視してグラウンドに向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 ソフトボール投げ、立ち幅跳び、50メートル走、持久走、握力測定、反復横跳び、上体起こし、長座体前屈。

 どれも小学校や中学校で行われる体力テストで用いられる種目だ。

 無論許可なく個性の使用を禁じられ個々人の身体能力を測定するので、測定内容は超人社会以前の個性を含まないものとなっている。

 超人社会となった現在では身体能力の把握のみで、個性の扱い認識には適用されない。

 俺は個人ごとに異なる個性に合わせたテストを用意するなど不可能と思いなんとも思わないが、合理的に重きを置く相澤先生は国の怠慢であり非合理的だと批判する。

 入学式もガイダンスもすっ飛ばしてグラウンドに集めたのは、その個性禁止の体力テストで個性を含めた自身の現状を把握させようというのだ。

 

 「扇動――いや、爆豪。中学の時のソフトボール投げの記録何メートルだった?」

 「6()メートル」

 「個性使ってやってみろ」

 

 呼ばれた爆豪が白線で描かれた円の中に立ち、投げ渡されたボールを手で投げる体勢を取って思いっきり踏み込んだ。

 

 「――――死ねぇええええええ!!」

  (………死ね?)

 

 手からボールが離れる瞬間に爆破の個性を用いて遠くまで吹き飛ばす。

 掛け声に俺を含めた何人かが疑問符を抱きながら、爆破によって起こった風を肌身で受ける。

 ボールには計測機器が仕込まれていたようで、相澤先生の端末に“707.5(・・・・・)”という驚くべき記録が表示される。

 

 「まず自分の最大限を知る。それがヒーローの基礎を形成する合理的手段」

 「なんだこれ!!(すげ)面白そう(・・・・)!」

 

 記録に驚き騒ぐ声の中、面白そう(・・・・)と言った生徒の言葉に相澤先生が反応する。

 それは酷く残念そうで怒りすら伺える。

 沈黙した先生は冷たい視線で向けて口を開いた。

 

 「面白そう…そんな浮ついた腹積もりでヒーローになる三年間過ごすつもりかい?…よし、トータル成績最下位の者は見込み無しと判断し除籍処分にしよう」

 

 入学初日。

 まさかの除籍の危機に皆が理不尽だと不満を口々に騒ぐも、相澤先生は鼻で嗤って言葉を続ける。

 

 「自然災害に大事故、身勝手なヴィラン達…ヒーローとはそう言った理不尽を覆すものだ。放課後をお友達と談笑したかったのならお生憎様。これから三年間雄英は全力で君達に苦難を与え続ける―――“Plus Urtra(更に向こうへ)”。全力で乗り越えて来い」

 

 挑発するように告げる相澤先生に対して、除籍されるかもと不安を募らせる者、強烈な洗礼を受け入れる者、獰猛な笑みを浮かべる者と様々な反応を見せる。

 中でもイズクのビビり様は相当なものであった。

 

 「焦り過ぎんなイズク。出来る事を出来るだけやんぞ」

 

 通り様にニカリと笑いながら背を叩いて言葉をかけておくも、こればかりはイズクを励ますというより自身に言い聞かせるが正しい。

 俺は何の個性も持たない無個性。 

 除籍という言葉に不安を覚えない訳がなかった。

 平静を装いながら軽く身体を解し、全力を尽くして種目に挑むもやはり個性の壁は非常に高い。

 50メートル走では“エンジン”の個性を持つ飯田 天哉が3.04秒で駆け抜け、握力測定では障子 目蔵が個性“複製腕”により腕を複製して540キロを記録し、立幅跳びでは掌で“爆破”を起こした爆豪 勝己とへそからレーザーを放つ“ネビルレーザー”の個性を持つ青山 優雅が着地用の砂場を軽く超え、反復横跳びでは“もぎもぎ”という頭のボール状の物質の弾力を利用して峰田 実が残像が残る速度で反復を繰り返す。

 

 越えられない壁…。

 だけど独学に爺ちゃんやプロヒーローと鍛えた身体能力は、前世では考えられないほどの記録を叩き出して何とか上位陣に食い込んでいた。

 やはりこの世界での身体能力の向上幅は異様なようだ。

 そう噛み締めながらボール投げで個性不使用の爆豪の記録を超える飛距離を出し、クラスメイトの様子を伺う。

 さすが雄英を受けただけあって、個性がこの体力測定に合わない者も中々いい記録を出している。

 

 ボール投げの記録は爆豪の記録がトップかと思いきや、麗日 お茶子の個性“無重力”によって無限()なんていう馬鹿げた表記で追い越された。

 まったく個性ってのはなんでもありだな。

 

 「全種目で上位に食い込むとはさすがだな扇動君」

 「そっちこそ大した記録じゃないか」

 

 クラスメイトの個性と身体能力を“情報”として頭に入れていると、近づいてきた飯田 天哉に声を掛けられ、視線は逸らさずに会話を続ける。

 なにせ視線の先には瞳が小刻みに動き、呼吸があからさまに荒く、焦りで顔が青ざめているイズクがいるのだ。

 同じ無個性(・・・)であり、各種記録も伸び悩んでいる現状を鑑みれば、除籍される最下位は間違いなくイズクだろう。

 どちらに転ぶか分からぬが、見届けなければならない。

 それに少し気になる。

 無個性である筈なのだが、イズクの瞳は死ぬどころか何かを狙っているような想いが感じ取れる。 

 

 「む、緑谷君はこのままだと不味いな」

 「ったりめーだ!無個性の雑魚だぞ!!」

 

 俺の視線を辿ってボール投げに挑むイズクを飯田は心配するが、嘲笑かのように爆豪が言う。

 雑魚かどうかは置いておいて、確かにこのままでは難しいのは確かだ。

 爆豪の言葉に反応した飯田は注意するでもなく、疑問符を浮かべて首を傾げた。

 

 「無個性?彼が実技試験で何を成したのか知らないのか?」

 「あ?」

 

 不可解な返しに爆豪よりも先に怪訝な表情を晒してしまった。

 それはまるでイズクが個性を持っているかのような…。

 個性の発現は四歳までというのが一般常識だ。

 勿論大多数のデータを元にした常識なので、漏れや特例が存在する事もある。

 

 僅かだが飯田の発言に気を取られ、視線を外した隙にイズクはボールを投げており、記録は49(・・)メートルを記録した。

 記録に不満や絶望を抱くのではなく、信じられない(・・・・・・)と言った様子で視線を己の手に向けるイズクに、眠たげだった眼をこじ開けてイズクを睨み続けている相澤先生の様子。

 相澤先生―――否、抹消ヒーローの名を持つイレイザー・ヘッドの個性を抹消する個性を使用したと見える。

 つまりイズクは何かしらの個性を持っている…。

 

 「天哉。その話詳しく聞かせて貰えるか?」

 「構わないとも」

 

 イズクが相澤先生に詰め寄られ何やら注意をされている間、俺はイズクと同じ試験会場だった飯田と麗日 お茶子から話を聞くと、なんでもあの巨大な0P仮想敵の頭部まで跳躍して拳一撃で撃破したという。

 その際に両足と殴った右腕を骨折したとの事。

 個性が発現して使い慣れずに制御が出来ないか、または何かしらの制限がある超強化系…。

 思考を働かせながら相澤先生が離れた事で、一つも見逃さないように動きを注視する。

 

 構えは先ほどと変わらない。

 はっきりとした理由は解らないが個性を抹消したのは、個性を使って骨折という大怪我を許容しなかったからと推測される。

 自爆覚悟の個性の使用は出来ず、かといってそのまま投げれば最下位確定で除籍。

 絶望的な状況だ。 

 なのにイズクの瞳は曇らず、輝きを灯したままだった。

 足に前に踏み込み、振り上げた腕を全力で振るう。

 手からボールが離れる刹那、人差し指がピシリと小さく電気を纏ったように輝き、不格好ながらも力強いフォームから放たれるボールは速く高く飛び、受信した端末には709.5という爆豪を超える数値が浮かび上がる。

 

 「…先生!まだ動けますっ!!」

 

 人差し指は痣どころか色がどす黒く変色し、涙が流れるほどの痛みに苛まれるイズクは、歯を食いしばりながらも笑ってそう言い放った。

 

 「あぁ、良い…。凄く良い」

 

 自然と口から漏れ出してしまった。

 湧き上がる高揚感が胸中で溢れかえり、頬が思いっきり緩んでしまう。

 自己の犠牲を厭わず臆せず今出来得る事を最大限生かして壁を超えた。

 まるでアニメや漫画に出てくる英雄(ヒーロー)のようで格好良いじゃないか。

 俺だけでない筈だ。

 目を見開いて口角が上がっている相澤先生も、隠れているつもりだろうがまっ黄色の目立つスーツにその巨体が隠れ切れずに満面の笑みを浮かべるオールマイト。

 現役のプロヒーローの心を震わせる友人が誇らしく、非常に輝いて見える。

 これは煽った身としてはこのままでは終われないな。

 とりあえずあの骨折しているであろう指の応急手当でもしてやるか。

 

 心躍る光景に興奮気味の扇動は、納得できずに襲い掛かろうとして相澤に捕縛された爆豪をスルーしてイズクの下へ駆け寄るのであった。




 情報の命は速さだ。
 敵より一秒遅ければ味方を見殺しにし、一秒先んずれば命を救う。
 【ヨルムンガンド】ブックマンことジョージ・ブラックより


 扇動 無一(15)
 Birthday  :7/17
 Height   :175cm(センチ)
 好きなもの&好きな事
       :前世の記憶にある台詞を口にする事
 仕事&バイト:原型師
        HUC
        作曲・作詞

 前世の記憶を持つ無個性の少年。
 複数の理由からヒーローを目指して高い身体能力を得たが、個性が無いゆえの限界を察している為、何かしらの装備品やパワードスーツを欲している。
 出来れば仮面ライダーみたいな。
 ヒロアカの知識は持っていない。
 もしくは削除された。
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