オールマイトは暗い顔を向ける。
親友デイブことデヴィット・シールドとの出会いはアメリカへ留学した頃に遡る。
大学内で実験中に事故が発生して数人が取り残されておると聞き、救助しなければと飛び込んで救助したのが最初の出会いだったと記憶している。
当時の私はコスチュームではなく私服しか持っておらず、頑丈を売り文句にしている物もワン・フォー・オールの力を振るって耐えきれる程ではなく、救助した際に耐え切れなくなった上着が破れ落ちた事で彼が丈夫な素材でコスチュームを作ってくれてから相棒として行動を共にするようになる。
改良されていくコスチュームに様々なアイテムでサポートしてくれて大いに支えて貰い、事件が発生する度に駆け付ける私に苦笑いを浮かべながらも付き合ってくれる日々。
結果的にデイブを巻き込んで何度も授業に遅刻させてしまい、単位が危うい状況に追いやってしまうなど申し訳ない事をしてしまったものだ。
その後、私は日本に帰国してヒーロー活動に従事し、デイブはアメリカを拠点に科学者として活躍していった。
互いに忙しいのもあって学生の頃のように気軽に会う事は少なくなったが、親友としての関係は依然と変わらないと自負している。
今日、メリッサから仕事をひと段落付けたデイヴへのサプライズを兼ねて、I・エキスポへの招待券を頂いて久しぶりの再会は驚きもありながらも喜んでくれたようで何よりだ。
私も久々の再会は嬉しい。
だから君にそんな思いつめたような顔をさせてしまい申し訳なく思う。
「これはどういう事なんだ?」
メリッサに連れられ緑谷少年と共にデイブの研究室に訪れ、やはりというかデイブの知識も豊富に持っていた緑谷少年には紹介するよりも、興奮気味に説明というか解説を入れてデイブを戸惑わせていたが、その間にも活動限界を迎えそうだった私に気付き、メリッサに緑谷少年をエキスポの案内をしてあげるようにと提案し、助手らしい人物へやんわりながら人払いをしてくれた。
私を労わりながら前回よりも調子が悪くなっている事を察して、すぐさま検査をしようと研究室奥の検査室へ通され、デイブが動揺しているのはその検査結果。
彼はオール・フォー・ワンとの戦いで負傷している事を伝えており、徐々に衰えているのも検査もして貰っているので当然知っている。
「急激に
「無茶をしてきたからね。身体にガタが来ているんだよ。それに私も歳だからね」
個性も身体能力の一部である事から歳を重ねれば老いていくこともある。
嘘――…ではないと誤魔化しつつ。真実も語ってはいない。
しかし、デイブが観ている検査結果はそんな生易しいものでは決してない。
個性数値とは人体にある“個性因子”と呼ばれる個性を発動させる基盤の量を数値化したもの。
負傷してから何度も健康面を見る為にもデータを取っており、今まで個性数値をグラフ化すると緩やかに下降して減少はしていたが、本日測定したデータには今年の間に急激すぎる降下が表されている。
緩やかな斜面から崖底に落ちたようなグラフに戸惑わぬ筈がない。
原因は明らかに緑谷少年にワン・フォー・オールを譲渡した事だろう。
だが、これだけは親友でも――…いいや、親友だからこそ話す訳にはいかない。
話してしまえばデイブやメリッサをオール・フォー・ワンとの戦いに巻き込んでしまうかも知れないのだから。
「このままでは“平和の象徴”が失われてしまう……君がアメリカに残ってくれたらと、どれ程思った事か」
ヒーローとしてだけでなく、親友として想い心配してくれるのが表情や言葉の節々に見られる感情から伝わって来る。
「大丈夫さ。優秀なプロヒーローも居るし若手も育ってきている。それに君のようにサポートしてくれる方もいる。私だって一日数時間だけだけどヒーロー活動は出来る」
「しかし――…」
不安に思うのも解る。
だけど大丈夫さ。
経験と実戦を詰んだベテランヒーローだけでなく、シンリンカムイのように若手のプロヒーローも実力と経験を得て活躍を増し、教員として接している雄英生達などヒーローの卵も日々成長を見せている。
それに跡を託せる緑谷少年の存在もある。
悲観するばかりでは決してない。
安堵させるようにニカリと笑いかけるも完全に払拭された様子はない。
検査の後には研究室に戻っては話題を変えて色々語り合い、空は青空からオレンジ色に染まる夕刻に差し掛かる。
プレオープン前のI・エキスポ招待券には、レセプションパーティへの招待状も兼ねていて、出席するにあたって多少は準備せねばと研究室を後にしようとする。
「コホッ、じゃあデイブ―――パーティ会場で会おう!」
八木に戻ってある程度休めたのもあって、意気揚々とオールマイトの姿になって去ろうとする。
「トシ!」
「ん――どうした?」
「……いや、何でもないよ。パーティで」
急に大きな声で呼び止められた事に首を傾げるも、デイブは何でもないと小さく微笑む。
何だったんだろうと疑問を抱くもあまり気にする事もなく、再び背を向けて歩き出してしまった。
オールマイトは気付かない。
その背に縋るように手を伸ばし、助けを求めるようなデヴィット・シールドの眼差しに……。
セントラルタワーの七番ロビー。
I・アイランドで行われるI・エキスポ開催を先駆け、一日早く招待した客を歓迎するレセプションパーティが行われる建物のロビーの一つで、せっかくなので皆で行こうと招待チケットを持つ雄英生の集合場所に指定された。
メリッサが個性が身体に合っていないとサポートアイテムを取りに寄り道した事もあって、集合時間である十八時三十分に遅れてしまった緑谷は細い縦のストライプが入ったスーツ姿で大急ぎで到着するも人数が少ない。
集合場所と時間を決めた飯田を始めに轟に扇動、そして上鳴と峰田の男子。
上鳴と峰田はバイトで会場内に合法的に入れただけなので、レセプションパーティの招待券は持っていなかったが、メリッサが招待券を余らせていたのとバイトが忙しくなるのを見越して、今日だけは楽しんでねとプレゼントしてくれたのだ。
そんな二人は大喜びしたが元々参加する予定で無かった為、スーツ姿ではなくベストやシャツなどバイトの制服で使用していた
服装である。
今自分が到着した事で男子は爆豪と切島を除いて集まった訳だが女性陣の姿は一切ない。
「遅刻だぞ緑谷君!」
「ごめん……って、あれ、他の皆は?」
「声は駆けたんだが爆豪君と切島君に繋がらなくてな」
「ごめーん、遅刻してもうた」
疑問に答えている最中、緑谷の後から麗日が到着して振り返る緑谷は目を見開いてしまった。
肩や鎖骨の辺りが露出した桃色のふんわりとしたドレスに身を包んだ麗日に魅入ってしまったのだ。
続いて落ち着いた薄い黄緑色の肩や腕に胸元などを露出したドレス姿の八百万に、濃い桃色のバルーンスカートに上に黒半袖を羽織り、ドレス姿が恥ずかしいようで八百万に隠れるようにしている耳郎は現れる。
「ウチ、こんな衣装初めてって言うか、恥ずかしいって言うか……」
「馬子にも衣裳って奴だな」
「女の殺し屋みてぇ―――ぎゃあ!?」
「イッテェ!?」
「黙れ」
恥ずかしそうに照れていたのが二人の言葉で消え去り、ツッコミのイヤホンジャックが二人を襲う。
倒れ込む峰田と違って上鳴は納得いかねぇと立ち上がる。
「俺、褒めたじゃんか!」
「褒めてない」
「お前ら……なんでそんな言葉が出て来るんだよ。似合ってるし可愛らしいだろうガッ!?」
「アンタは言わなくて良いの!素で恥ずかしくなるから!」
「どっちみちやられたんだ……」
冗談や慰めではなく抱いた感想をそのまま口にした扇動も、言わせるものかとすでに少々恥ずかしがっている耳郎のイヤホンジャックを受けて、緑谷は困惑混じりにその様子を眺める。
「デク君達、まだここに居たの?パーティ始まってるわよ」
「おー!真打登場だぜ!!」
「俺、どうにかなっちゃいそう…」
次に現れたのはメリッサだったが眼鏡はコンタクトに、髪はふわりと自然にさせたのを後ろで束ねて見た目がガラリと変え、大人っぽいドレス姿のお目見えにイヤホンジャックでダメージを負った峰田と上鳴が即座に復活。
大興奮・大歓喜から滝のような涙を流して喜び、その様にはさすがに引いてしまう…。
「ドレスなんて初めてだよ。八百万さんに借りたんやけど」
「に、似合ってるよ。そのぉ、凄く似合ってる」
「デク君ったらぁ~、お世辞なんて良いって」
やけに二人が騒がしいのを気にするより、照れ臭そうに麗日に話しかけるも緑谷もまた素直に返し、それがまた若干頬を赤らめながら言うものだから、褒められたのに加えてさらに照れてしまって照れ隠しにわたわたと腕を振るう
突然の行動に困惑するのは緑谷と遠巻きに目撃した飯田ぐらいで、他の面々は褒められて満更でもなさそうな麗日の様子に微笑ましさを感じて微笑む。
「お待たせしました!」
麗日がわたわたとしている所でようやく発目が姿を現した。
いつもは作業着や作業に熱中して熱いからか薄着である事が多い彼女も、ドレスコードを済ませて頭に付けているゴーグルも見当たらない。
元々スタイルも良く、
峰田も上鳴も八百万やメリッサのドレス姿を拝見した時みたく、興奮しながら歓声を上げるもすぐさま鎮火した……。
これは二人だけではなくその場の全員がそうである。
困惑した視線の先にはドレス姿ではあるが、その背には成人男性一人程入りそうな箱型の背負いカバンに、大きなアタッシュケースを両手に持っているというちぐはぐな様相。
重たくないのかという疑問には床にまで伸びているローラー付きの支えが解決してくれるも、何故そんな大荷物を持ち込んでいるかの答えには一切辿り着けない。
なんで?と呆然とする中で、問いを投げかけたのはまさかの発目の方であった。
「なんでスーツ姿なんですか扇動さん」
「いや、パーティには正装でと招待券に書いてあっただろ」
「はい。このドレスも仕立てて貰いましたから勿論覚えてます!」
「ならその大荷物はなんなんだよ?」
「正装ですよ、扇動さんの」
「あ?―――ちょっと待て。中身見せてみろ」
まさかと怪訝な顔をした扇動がズカズカと近づいて、発目が持ち込んだ荷物を確認するとあからさまに大きなため息をついた。
反応から何が入っているんだろうという興味から恐る恐る覗いてみると、中に納まっていたのは様々なパーツが詰められているものの、それがヒーローコスチュームの一種だというのには早々に理解出来た。
けれど色合いや形状からどう見ても今まで扇動が着用した事のない物。
「発目君、これは一体…」
「新作のライダー用のコスチュームです!正装でという事で新作お披露目にはもってこいと思いまして!」
「あの…申し上げにくいのですが、パーティ会場でコスチュームを着て良いのは招かれたプロヒーローだけかと」
「それは知りませんでした!」
「なんか荷物が多いと思ったらそう言う事だったのか」
「その時点で普通気付くだろ?」
どう見ても手荷物というレベルではない。
空港の荷物検査で引っ掛からなかったのだろうかと不思議に思う程の大荷物。
寧ろここまでよく運んだなと感心半分呆れ半分で見てしまう。
「なに持って来てんだか……今更持ち帰らせる訳にもいかんし」
「どうするの?」
「このホテルの責任者に話を通して部屋を借りて置いとくしかないだろう。さすがに廊下に転がして良いものでもないしな」
パーティ前から疲れたような雰囲気を出す扇動が携帯電話を内ポケットより取り出そうとしていると、背後でけたたましい物音がして緑谷は振り返る。
外の様子が眺めれたガラスはシャッターが下り、ホテルの出入り口には隔壁が居りて塞がれた。
一体何が起こったのかと視線を扇動の方へ戻すも、真っ先に視界に映ったのは“圏外”と表示されている扇動の携帯電話の画面であった……。。
ズカズカと招かれざる客達はホテル内を闊歩する。
世で言うヴィランにカテゴリーされる彼らの人数は十人強程度。
決してホテルを制圧し切るだけの人数は有していない。
出来たとしてもフロア一つがやっとだろう。
通常の手段を用いるならばだが…。
このI・アイランドの警備機能は多くのヴィランを閉じ込めている監獄“タルタロス”に相当する世界最高レベルを誇る。
正面切って打ち破るにはオールマイトでも無ければ不可能だ。
だが、ここは監獄ではなく研究員などを保護する島であると言う点が彼らの味方をする。
監獄であれば外にもだが、それ以上に厄介な者を施設内に収容している為に通常内部に目が向かう。
それが防衛を主目的にしているとなれば逆に内部より外部を警戒するのは当たり前。
ゆえに内部からの手引きや工作に対しては隙があるのだ。
地位、もしくは技術のある者が内部より強力してくれているからこそ自分達のような不埒者があっさりと警備の高いI・アイランドに堂々と入り込み、武器である銃器類の類に顔を覆う仮面や装備品はどうやって持ち込め、警備システムの要であるセキュリティルームが存在するホテル内の情報を入手し出来た。
しかも今まで襲われた事が無かった事から平和ボケも激しく、システムに頼り切っている性質から警備の人間は十にも満たない為体。
おかげで楽に警備もコントロールルームの制圧も難なく熟せた訳だが。
「システムの掌握は?」
『もう少し』
「急げよ。脱出経路の確保は?」
『予定通り。問題なしです』
「計画は順調。後は――…」
進む先はI・エキスポのプレオープン前に招待され、パーティを楽しんでいるであろうI・アイランドの乗客に、招かれて油断しているだろうプロヒーロー共。
まさか実行当日にオールマイトが来訪するというアクシデントこそあれど、さして問題はないと先頭を行く男は嗤う。
『システムの完全掌握完了。これでこの島の警備システムは俺らの思うがままです』
「そうか、そうか。――さて、始めるぞ!」
後ろに続く部下達が勢いよく返事を返し、I・アイランドにて前代未聞のヴィラン事件が発生しようとしていた。