無個性オリ主が共にヒーロー目指す!   作:チェリオ

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第70話 占拠されたタワーをヒーローの卵が行く

 レセプションパーティー会場では招待された著名人や出資企業関係者、プロヒーローなど集まり、提供された料理やお酒を口にしながら会話を楽しみ、勿論その中にはオールマイトとデヴィット・シールドの姿もあった。

 

 『ご来場の皆様、I・エキスポのレセプションパーティにようこそおいで下さいました。乾杯の音頭とご挨拶は来賓でお越し頂いたナンバーワンヒーロー、オールマイトさんにお願いしたいと思います。皆さま、盛大なる拍手を』

 

 来賓からの視線と拍手を受けるオールマイトはニッコリ笑っているものの、表情の端々で若干困っているのが伺える。

 壇上の司会者により指名を受けたのだが事前に話は一切なく、普通に来賓として親友との会話を楽しんでいただけに急な不意打ちに面食らったところである。

 それを察したデヴィットはクスリと笑う。

 

「君が来たんならそうなるさ」

「あぁ、行ってくるよ」

 

 アドリブになるがこういう機会が全くなかったという訳ではない。

 仕方ないと壇上に上がって早速挨拶を口にしようとしたオールマイトを遮ったのは、管理システムからの通達と警報であった。

 

「――ッ!?」

「なんだ!?」

 

 騒めきながら耳を傾けるとI・エキスポ内に爆発物を確認した為に厳重警戒態勢に移行した旨と、これから十分後より外出していた者は捕縛・連行するという。

 警報と警告に動揺が広がる中、パーティー会場入口より仮面で顔を隠し、銃器で武装した集団が入って来た。

 先頭を歩くリーダー格の男の不敵な笑みが周囲に向けられる。

 

「という事でこの島の警備システムは俺達の手中にある。抵抗しようとなどと想うなよ?」

 

 会場内のモニターに映し出される街の様子には、市民を監視するように配置された警備ロボット達。

 これではオールマイトと言え手出しが出来ない。

 パーティ会場に入って来た武装したヴィランは十名前後で、それだけを無力化するだけなら何とか出来るが、警備室を押えるまでに人質に被害が出かねない。

 タルタロスにも相当する警備システムが今や彼らの味方であり、I・アイランドに居る全ての人々を人質にしているのだ。

 

「この島の全員が人質だ。勿論、お前らもだ」

 

 セキュリティ捕縛装置が起動し、本来なら捉える筈のヴィランではなくヒーローを次々に捕縛して行く。

 当然オールマイトも捕縛装置によって捕縛されるも、引き千切れない程の強度では決してない。

 力を込めて破ろうとすると一発の銃弾が天井に向けて放たれた。

 

「一歩でも動けば人質が死ぬ事になるが―――良いのかオールマイト?」

 

 もはや動く事さえ出来ない。

 “大の虫を生かして小の虫を殺す”という言葉があるが、オールマイトの信念は例え自分を犠牲にしても全員を助ける。

 従うしかなかった。

 何も出来ない自分とオールマイトで居続ける為のタイムリミットが迫る事に大いに焦る。

 しかし自分が動けば何の罪もない市民が襲われてしまう。

 どうする、どうすれば―――と思考するも有効な手段を浮かばず、時間にすれば数分という時が何十分にも長く感じていると、あろう事にヴィランは親友のデイブと彼の助手であるサミュエル・エイブラハムが連れ去られてしまった。

 

 以前に比べて劣る身体。

 人質に取られた島の人々。

 会場のヴィランに警備システムを元に戻す。

 難し過ぎる内容であったがやらねばならない。

 何故ならば自分は“平和の象徴”なのだからと意を決しようとした時、天井より一筋の光が刺した。

 

 会場の天井はガラス張りとなっており、壁沿いにある足場よりパーティ会場を見下ろせるようになっている。

 視線を向ければその二階よりこちらを見つめる緑谷少年の姿が……。

 

 

 

 

 

 

 状況はオールマイトから耳郎のイヤホンジャックの収音能力によって把握した。

 現在セントラルタワーは隔壁とシャッターにより内外は隔離され、ヴィランにパーティ会場とI・アイランドの警備システムを司るセキュリティルームを占拠された事で、会場に集まっていた来賓やヒーローだけでなく島全体に居る人々全員が人質となってしまっている。

 唯一見つからずにホテル内で動けるのはパーティに遅れてしまったメリッサを含んだ面々のみ。

 しかし、I・アイランドでの個性の使用は自由でも、こちらからのヴィランに攻撃したり誘発させる行為はヒーロー資格も持たぬ学生には許可されていない。

 ゆえに外からの救援を待つという選択肢は正しい。

 これを口にした飯田は職場体験時に受け入れ先などに迷惑を掛けた実体験があるだけにより強い想いを抱いている。

 緑谷もその場にいただけに理解はしているが、だからと言って助けに行かない選択肢は存在しない。

 

「それでもボクは助けに行くよ」

「緑谷、マジでヤバいって」

「考えてるんだ。ヴィランと戦わずに皆を助ける方法を」

「気持ちは分かる。僕だって助けに行きたい。だが―――扇動君もそう思う……だろ?」

 

 飯田も緑谷同様に助けたいと想っている。

 だからと言って勝手な行動をとる訳にはいかないと必死に理性で押さえつけようとしているのだ。

 合理的な意見を出せるだろうと扇動に話を振ったが、ひと目見た瞬間に緑谷側である事を認識して言葉を詰まらせた。

 

 上着を脱いで発目が持ち込んだコスチュームに着替え終えて戦闘態勢ばっちりの扇動がそこに居た。

 ただそれをコスチュームと呼んでいいのか甚だ疑問が残るが…。

 

 ヒーロー基礎学などの授業で着用している“ウィザード”に自身のデータ収集用の“ゼロワン”、職場体験や期末で着用したコスチュームというよりはパワードスーツと呼ぶ方が相応しい“G3”系統。

 現在着用しているのはG3同様のパワードスーツ系で、“仮面ライダーカブト”に登場した“マスクドフォーム”をモデルとしたコスチューム。 

 無個性である扇動は機械的なサポートを組み込んだコスチュームを求めているがエネルギー量の問題が大きく難航している。

 単純にエネルギー容量を増やせば重量が増え、支える為のシステムからの補助が求められ、さらにエネルギーを喰らうシステムが組まれると言う堂々巡り。

 一種の解決法のエネルギータンクを装甲版に仕込んで覆えば良いやという思い付きから出来たのがこの一着。

 稼働時間こそ増えているものの機動力は落ちて、原作よりも足回りまでも装甲が付与されて重厚感を増してしまっている。

 

 状況説明を耳にしながら話し合いに参加せずに、淡々と着替えていた扇動は意見を求められて振り返った。

 

「緑谷一人行かす訳にはいかねぇだろ」

「君まで何を言い出すんだい。ヒーローでもないのにヴィランを倒す事は―――」

「間違ってんぞ飯田。占拠したヴィランを全滅させる事が助ける唯一の手段って訳じゃない」

「そうなんだよ飯田君。向こうは警備システムを利用しているんだ。だから警備システムを元に戻す事が出来れば人質は解放されるし、オールマイトを始めとしたプロヒーロー達も動ける」

「元々警備システムを利用する事を念頭に置いていただけに、セントラルタワーを占拠しても全階層に配置するだけの余力はないと見た」

「最低限ならパーティ会場とセキュリティルーム……かな?」

「あー、もう一か所(・・・)あるが今は気にしなくて良いだろう。それと戦闘は避けるように努めるのは絶対条件としても、戦闘をしてはいけないと言う事はないんだ」

「待ちたまえ!いくら個性の使用が自由なI・アイランドと言えども人に使う事は禁じられている!」

「頭が硬ぇな。こちらから仕掛けたり誘発させる行為は普通にアウトでも正当防衛があんだろ」

 

 言っている事や考えている事は似ている様で意味合いはズレて異なっている。

 しかしこれで助ける為の手段が提示された事で助けに行きたがっている面々の瞳に光が宿る。

 

「デク君、行こう!私達に出来る事があるのにしないなんて嫌だ!そんなのヒーローになるならない以前の問題だと思う」

「うん!困っている人たちを助けよう」

 

 麗日に続くように次々と同意すると共に「これ以上は無理だ」と判断したら引き返すという条件付きで飯田も案に乗る事に。

 皆で助けに行こうと口々にする中でもう一人が声を挙げる。

 

「私も付いて行くわ」

「えっと、メリッサさんはここに―――」

「そもそもこの中に警備システムの変更が出来る人は居るの?」

「それは……」

 

 この救出作戦の要はセキュリティルームを奪還する事ではなく、警備システムを正常な状態に戻すことにある。

 抜け落ちていたピースに気付いて戸惑い、システムを変更できそうな面子に視線を向けるも誰もが首を横に振るう。

 

「ハッキリというぞ。護ってやれる保証はないぞ」

「扇動さん!?」

「最上階までは足手纏いかも知れないけど、私にも皆を護らせて」

「メリッサさんも!」

 

 人の事は言えないがヒーロー科でもない生徒を巻き込む事に戸惑いはあるど、彼女が言っている事は正しい。

 何より一般人のカテゴリに当たる自分達が、ルールのギリギリをせめて助けに行こうとするに、人には駄目という権利など存在しないのだから。

 

「俺達が行動に移ればバレるのは時間の問題だ。その際には他にも居るかもとホテル内を捜索される可能性があり、万が一にも見つかったら関係を疑われて尋問や人質にされる可能性すらあるんだ。連れて行くしかない所を自らの意思で行こうってんだから寧ろ有難いさ。

 なによりこの状況下でヒーローの芽(・・・・・・)を摘むのは無粋ってもんだろ?」

 

 異論はないどころかメリッサは目を見開いて驚く素振りさえ見せた。

 それに気付いていないのか扇動は着込んだコスチュームのチェックをしている発目に視線を向ける。

 

「アシスト機能を切ってくれ」

「結構な重量がありますけど大丈夫ですか?」

「必要な時にエネルギー切れになったら困るだろ」

「その為にエネルギー総量を増やしたんです!」

「補給可能な状態か半永久的に動くんだったら考えてやるよ」

「なら次は容易にエネルギーを補充できるように考えますね」

「頼りにしてるよ」

 

 扇動の言った通りにアシスト機能を切った事で体勢が一瞬崩れかけるも、維持して元の体制に戻ると一通り動かして調子を見ているようだが、普段の動きに比べて悪いのは明らか。

 相当重たいのは容易に想像がつく。

 

「それでセキュリティルームは何回にあるんだ?」

「最上階の二百階よ」

「に、二百階!?」

「エレベーターは使っても?」

「使ったら相手にバレると思うから非常階段……かな」

「マジか…」

 

 階段で二百階まで移動する事に驚き、峰田が絶望したと言わんかぎりの顔色を晒すも、階数を聞いた瞬間から考え込んだ扇動は、八百万に背を向けてしゃがみ込む。

 意図している事は察せれても何故という疑問が浮かぶ。

 

「えっと、扇動さん?それはどういう事でしょう」

「お嬢。夕食に何か食ったか?」

「いえ、パーティに参加する予定でしたので軽く軽食は口にしましたがそれ以外は」

「なら補給は十分でないし、これから補給する当てはない。戦闘はしないにしても様々な状況で使えるんだから、下手にカロリーを消費させる訳にはいかんだろうが」

「―――ッ、そ、それは解りましたが背負われますと…」

「……そう言う事か。すまん、配慮が足りんかった」

 

 言われればその通りであるも背負われて階段を上るとなれば今のドレス姿では非常に不味い。

 特に下となる後ろからの視線とか……。

 これに関して理解が早かった峰田の期待の眼差しに対して、速攻で耳郎が呆れ果てたと言わんばかりの視線を向けながら、先程より音質を上げたイヤホンジャックを叩き込んでダウンさせた。

 悩んだ末に背負う体勢からお姫様抱っこする方向へ変わったのは、それはそれで恥ずかしいと表情に出すも、僅かと言えど無駄にする訳にはいかないとの扇動に根負けしてお姫様抱っこで運ばれる事に。

 

「理由は理解出来たけど扇動がしないといけないの?」

「今の状態では機動力に欠けて戦力にならない。緑谷に飯田、焦凍は何かあった際の即時戦力で抱えさせるわけにはいかないし、峰田は別の意味で預けれないだろ」

「それには同意ね」

「耳郎は索敵で先行して貰う可能性があるし、範囲攻撃メインの上鳴は最悪巻き込んでしまうし、個性もだけど高い近接戦闘能力を有する麗日も無駄に体力は消費させられん。で俺はこの面子の中で体力一番多く、アシスト機能で補助を受けられるからごり押しは出来る訳だ」

 

 半分興味本位の耳郎の問いかけに答えた扇動は、忘れてたと冷やかな表情を浮かべて告げる。

 

「一応忠告しとくが、わざわざ横並びになってお嬢を覗こうとした場合は―――解ってるよな峰田」

「すすす、する訳ないって……」

「そうか。なら過ぎた忠告だった

 

 などと笑顔で返したが、冷や汗ダラダラで否定していた峰田は確実に考えていただろうと誰もが苦笑した。

 コスチュームの改良案をすでに考え始めている発目を除いてだが…。

 

 

 

 緑谷が視線とジェスチャーによって二階より自分達が助けるからとオールマイトに伝えた後、全員はセキュリティルームを目指して最上階に目指す訳だが、さすがに二百階まであるという精神的辛く、二十階を超えれば肉体的にも疲労感が現れ始める。

 大なり小なり個体差はあれど思考能力が低下している中で、隔壁にて非常階段は塞がれていて行く手を阻まれており、先に進めない一向に対して峰田が通常の通路を通れば良いのではと扉を開けてしまい、ヴィランに自分達という相手が把握していない者達がいる事を知らしてしまった。

 知られたからには急ぐしかなく、逆に邪魔をさせたくないヴィランは隔壁を降ろして閉じ込めようする。

 奥から次々と閉鎖されていくのに焦りつつ、少し先に何処かは知らないが部屋に続く扉を発見し、そこまでの道のりを遮ろうと降りかけた隔壁を轟の氷結が止め、駆け抜ける飯田が個性を用いて扉を無理やり破壊した事で通路に閉じ込められるという最悪の事態だけは逃れる事が出来た。

 

 八十階の植物プラントには多くの木々や花が植えられており、中央にはエレベーターが存在した。

 勿論エレベーターを使用する訳にはいかず、自ずと反対側の通路に続く扉か木々が生える事を考慮して高く作られ、天井近くに存在する足場へと視線が向かう。

 

「リラクゼーション施設か何かか?」

「違うわ。個性を受けた植物の研究をしているの」

「さすが研究熱心な島だな」

「待って!エレベーターが上がって来てる!」

「――ッ、ヴィランだよな。仕方ない、隠れるぞ」

 

 植物が多い事から隠れる場所には事欠かず、それぞれが隠れつつエレベーターを注視する。

 息を殺して潜んでいるとエレベーターが止まって二人の男が出て来た。

 服装に装備からパーティ会場を制圧していたヴィランの仲間と緑谷が断定した事で、より緊張感を持って見つからないように祈りつつやり過ごす―――前にある人物が視界に入った事で扇動すら戸惑いの表情を浮かべてしまう。

 

「見つけたぞクソガキ共!」

「――あぁ?今なんつったンだテメェ」

 

 正装姿でこの八十階をうろついていた爆豪と切島に、口に出さずとも心の中で「なんでここに居るの!?」と誰もが突っ込まずにはいられなかった。

 思い返せばパーティ会場に爆豪も切島は居らず、電話に出なくて何処にいるか解らなかったとはいえ、普通はパーティへの参加は強制でもないので自室でゆっくりしているものだろうと思いはしても、まさかパーティに参加せずにこんなところを出歩いているなどと思いはしない。

 

「お前らこんなところで何してる?」

「ンなこと俺が聞きてぇわ!」

「ここは俺に任せろって―――いやぁ、俺達迷子になっちゃいまして。レセプションパーティ会場にはどうやったら―――」

 

 クソガキと言われたり、高圧的な態度で話しかけられた事でイラついている爆豪を制止して、切島が説明しているがそれはないだろうとヴィランでなくとも思うだろう。

 なにせレセプション会場は二階であり、何度も表記するがここは八十階。

 どうやったらここまで上がって来るというのだろうか。

 

 緑谷達にとっては疑問で済む話だが、ヴィランにとっては解り易い嘘と捉えられ、あからさまに苛立っているのが見て取れる。

 

「見え透いた嘘をついてんじゃあねぇよ!!」

 

 距離は開けていたが大きく手を振り被ると空間を何かが走った事から個性を使ったのは明らか。

 相手をヴィランと認識していない切島も爆豪も面食らい即座には動けない。

 唯一動けたのは氷結で壁を形成して防いだ轟ただ一人。

 

「この個性は――」

 

 見覚えのある個性に爆豪と切島が発生源に視線を向けている間にも、ヴィラン達は氷の壁を壊そうと攻撃しているらしく音が響く。

 

「ここは俺()で抑えるから上に行く道を探せ!」

 

 氷結が隠れていた全員の足元へと伸びて、持ち上げるように長く巨大な氷柱が形成されると天井近くの足場まで上げられる。

 驚きながらもそれしかないと足場へと渡って捜索を開始する緑谷達は良いとして、事態が理解出来ない爆豪と切島は轟の方へと駆け寄る。

 

「どういうことだよコレ」

「放送を聞いてないのか。タワーがヴィランに占拠されたんだ」

「なに!?」

「ガキどもが調子に乗ってんじゃあねぇぞ!!」

 

 大雑把な説明を受けている最中に、氷の壁に穴を空けて通過したヴィランが通り抜け、片方のヴィランは肌が身体が紫色に変色しながら一回り程巨大化して跳びかかって来た。

 説明を聞いていた最中だけに切島は即座に避けられなかったが、咄嗟に左腕を硬化させて向かって来る拳を受け止めると同時に力は受け流し、伸びきった相手の肘に硬化した右の拳を叩き込んでしまった。

 ビキリと骨折はしていないだろうが骨が軋む音と、苦悶に歪む相手に切島はしまったと慌てる。

 放課後の訓練では様々な事を教わっており、その一環で習った返し技を思わず使ってしまい申し訳なく思う一方で、不完全な出来に扇動が見てたらなんていうだろうと引き攣ってしまう。

 

「あ、悪ぃ――…って謝ってる場合じゃねぇな」

「な、なんなんだこのガキは!」

 

 すでに戦闘態勢を取っている爆豪と切島。

 反撃を受けるとは思っていなかったヴィラン側には動揺が走る。

 そこにつけ込むように爆豪が飛んで爆発を浴びせ、もう一方に轟の氷結が襲い掛かった。

 巨大化したヴィランはもろに食らってダメージを受けてはいたがダウンする事はなく立って敵意を向けており、もう一人は向かって来た氷結に対して腕を大きく振るうと空間が削り取られるように遮られて止められてしまう。

 

「テメェら何モンだ!?」

「誰が言うかクソヴィランが!」

「名乗るほどの者でもねぇよ」

 

 二対三と数の有利はあれど仲間を心配しつつ、託されたからには無事を信じながら緑谷達は急ぎ上へと続く道がないかと探す。

 

 

 

 決して弱い相手では無かった。

 ヴィランとして修羅場を潜っていただけに戦闘経験も技術も有しており、高い身体能力からもかなり鍛えこまれていた事が伺え、個性とて片や“空間を抉り取る(・・・・・・・)”片や“肉体強化系”と強い部類のもの。

 もしも彼らクラスのヴィランが雄英襲撃時に参加していれば、結果はもっと悲惨なものになっていただろう。

 

「油断するな!こいつらただのガキじゃねぇぞ!」

「んな事、解ってんだよ!!」

 

 肉体強化により肥大化した肉体と力を振るおうと子供二人倒せない事実に大いに苛立つ。

 一人は防御系の個性で硬化により鉄壁の防御力を受けない上に、その硬さを鈍器のように武器にしてくるので攻守ともに優秀。

 付け加えて攻撃を流す技術を使ってくるので攻撃がまともに当たらず、強烈な反撃によって逆にダメージが増えて行く。

 それだけでも厄介だというのにもう一人は個性による爆破によって攻撃力と機動力を活かした高速戦闘を仕掛けて、威力も高い事ながらこちらも攻撃を流しやがる。

 寧ろ前者よりも流す技術は高く、早くてそもそも捉えるのも難しい。

 

「こっちを手伝いやがれ!!」

「無理を言うな。こっちのガキも厄介なんだよ!!」

 

 もう一人のヴィランは空間を抉る攻撃を仕掛けるも、相手は足裏辺りに氷を連続で生み出す事でかなりの速度で移動し、氷結による面攻撃を放って来て反撃の威力も範囲も大きい。

 避けるので精いっぱいな状況で援護など出来る筈もない。

 

「役に立たねぇな!なら先にテメェを片付けてやる!!」

 

 硬化する方は速度はそれほど早くない事に目を付け、距離を離すように動いてもう一人に襲い掛かる。

 二対一から一対一の状況に作り替え、これならと思うヴィランだがそれは悪手でしかなかった。

 

 なにせそちらは二対一の状況ゆえに手加減をしていたのだから。

 そして言い放った一言は彼の怒りにガソリンをぶち込む行為そのもの。

 名立たるヴィランも裸足で逃げ出すような形相を浮かべた少年にヴィランの脚は竦んだ。

 

「俺一人なら片付けられるだぁ――――舐めてんのかテメェ!!」

 

 距離がありつつも伸ばされた掌。

 爆破の攻撃にしても距離があって喰らわないと判断するも、放たされたのは爆発ではなく鋭い閃光【スタングレネード】。

 激しい光に目が眩む。

 

「眼がッ、眼がぁあああ!?」

「ウルセェンだよ、クソヴィランが!」

 

 今度は耳元で爆発によって甲高い音を立てられ、鼓膜がキィイイイインと耳鳴りによって苛まれる。

 眼も耳も上手く機能しないばかりか、耳をやられた事で平衡感覚すら怪しい。

 それよりも何処から来るか解らない相手に苦し紛れに腕を振り回して大暴れするも、相手からすれば大振りで隙だらけの行動。

 

ハウザー(榴弾砲)―――――――インパクト(着弾)!!!」

 

 聞こえ辛い耳が捉えた咆哮と共に身体を襲う大爆発を受けたヴィランは、ダメージから意識が飛んで肉体強化も解けて床に転がった。

 

 「クソッ、よくも―――ッ、煙幕か!?いや、これは……霧?」

 

 仲間がやられた事でもう一人のヴィランは激昂して爆豪に矛先を変更しようとした矢先、ふわりと視界を遮るように急に霧が立ち込める。

 屋外なら兎も角室内でこれはおかしい。

 個性によるものと判断して空間を抉って視界を確保しようとするも、自分の周りに湿気を集めただけで次から次へと流れる霧は晴れる事は無かった。

 濃霧に撒かれたヴィランは次の瞬間には前後左右、さらに頭上から迫る何本もの氷結に息を呑んだ。

 

「これは――ッ、ガキが!」

 

 即座に回避しようとするがすでに濡れた床が凍り付いて靴が張り付いて動けず、空間を抉り取る事で対処しようとするがさすがに全方向からの氷結を防げるほどの力は持ち合わせておらず、必死の抵抗も虚しく迫って来る氷結が触れると身体を覆い始めて首から下は全くもって身動きが取れなくなってしまう。

 せめてと手を動かそうとしてもピクリとも動かせず、無駄と理解したヴィランは悪態を付きながら大人しくなった。

 

 

 

 ふぅ……と轟は一息つきながら、左の指先から噴き出すように灯る青い炎(・・・)を弱め、青から赤へと変色させる(温度を下げる)て火を消すとすぐさま右手の氷結で熱を冷ます。

 霧を発生させる為に周囲に発生させた氷を溶かし蒸発させるのに使用したが、コントロールも不安定で長時間の使用は難しいので実戦での使用はまだまだ先だなと評価を下す。

 何はともあれどちらもヴィランを片付けた事で切島が轟に駆け寄って来る。

 

「スゲェなソレ!霧作ってたろ!」

「ん、あぁ、扇動に霧や雨の中の方が氷結は有利だって言われてたんでな」

「その青の炎って前から使ってたか?それとも扇動に教わったのか?」

「毎日風呂沸かしている(炎のコントロール)成果だ」

 

 最後の一言に切島は首を傾げるも、扇動から轟への専用の特訓だと納得する。

 ヴィランを戦闘不能に追い込んだ事で安堵する二人とは違い、爆豪はどこかつまらなさそうに鼻を鳴らす。

 

「ハッ、口ほどにも無かったな」

 

 職場体験で何度も手合わせした流拳や期末の実技テストのオールマイトと戦っただけあって、今の爆豪にとって物足りない相手だったのかも知れない。

 ヴィランを単独で撃破した二人に対して、最後は援護も出来なかった切島は自虐的に笑う。

 

「俺の出番無かったな」

 

 それに対して背を向けた爆豪は小さく呟く。

 

「ケッ―――甘ぇが良い反撃してるじゃあねぇか」

「褒めてくれんのか!ありがとな!」

「褒めてねぇわ!まだ甘いって言ってんだろうが!!」

 

 微笑ましくも思える光景に水を差すように遠くより円柱に複数本のローラー付きの脚が生えたロボット―――警備ロボットが押し寄せてくるのが視界に入る。

 ヴィランが出たからという訳ではなく、自分達に敵対して向かって来ているのは明白。

 

「なんかいっぱい出て来たな」

「丁度良い。暴れたりねぇと思ってたところだ」 

「速攻で片付けて追うぞ!」

「俺に命令してんじゃあねぇ!!」

  

 襲い掛かって来る火の粉を払い、早く先行した緑谷達に追い付こうと三人は警備ロボットの群れに突っ込む。

 ロボット相手とは言え無双状態の三人を目撃した凍らされて動けないヴィランは、そんな子供達の相手までする事になった自分達の不運を恨むのであった。

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