無個性オリ主が共にヒーロー目指す!   作:チェリオ

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 ふと日間ランキングで気になる話ないかなぁと見ていたら“無個性オリ主が共にヒーロー目指す!”があって驚き、平均評価が赤に入っていた事で一瞬思考が停止しました。
 皆さま、ありがとうございます。
 そして前回に引き続き遅くなった事、申し訳ありませんでした。


第09話 お嬢とトカゲとホラーとコスチューム

 子供らしからぬ子供。

 それが彼―――扇動 無一に抱いた八百万 百の第一印象であった。

 企業の社長や議員などが集まるパーティには、次代を担うであろう子供達の姿もある。

 会場にておいた(・・・)をしないように教育が施されてはいたが、遊び盛りの子供達が感情を押し殺してジッとしていられるのも限度があり、騒いだり暴れたりは無くとも退屈などの感情を表情に出してしまう。

 が、中学生一年の彼は連れてきた扇動家当主扇動 流拳よりも堂々とし、飽きて態度に出していた少年少女が居れば話しかけて多少なり払拭させ、呼ばれたは良いがパーティ慣れしていないプロヒーローの世話を焼いたりと下手な大人よりしっかりしていた。

 子供らしからぬ様子に興味が惹かれ、声を掛けたのがきっかけ。

 最初こそ穏やかで物腰柔らかな対応であったが、ヒーローとのやり取りを目撃してからはガラリと変わった。

 各界の著名人やその子息と会話する際とは異なり、荒っぽくラフな感じで振舞う彼こそ素だったのだろう。

 周りの大人たちは“出来過ぎた子供”と認識していた彼の本性には戸惑いを見せたものの、自分の周りに居ないタイプが物珍しく、自分が知らない様々な知識を持っていたりするので、パーティで会う度にお話しするようになった。

 その頃からだろうか。

 彼が名前ではなく“お嬢”と呼ぶようになったのは。

 

 クスリと微笑み懐かしい思い出に慕っていた八百万は、雄英高校へ向かう家からの送迎車から歩道を駆け足で進んでいる件の扇動を見つけ、窓を開けて声を掛ける。

 

 「おはようございます扇動さん」

 「……んぁ?ああ、おはようさんお嬢」

 「ですから――ってどうしたのですか?」

 

 振り返りながらまたもお嬢呼びする扇動にムッとしながら言い返そうとするも、口元どころか顔の下半分を覆う大きなマスクをしている様子から、体調不良かと心配を顔に浮かべる。

 こちらの表情に一瞬戸惑いを見せたが、意図を察して否定するように首を振る。

 

 「風邪とかじゃねぇから。これトレーニング」 

 「トレーニングですか?」

 「そう。酸素を薄くして高地トレーニング同様にスタミナアップさせるマスクトレーニング」

 「個性把握テスト(個性使用有体力テスト)であれだけの結果を出されたのにさすがですわ」

 「逆だよお嬢。あんな(・・・)結果で満足出来るほど驕れねぇってだけだ」

 

 個性把握テストで八百万は総合一位を獲得した。

 個性“創造”は分子レベルまで構造を理解し、対象の大きさに比例した脂質を消費する事で無機物を創り出す事が出来る。

 握力測定では万力、跳躍と長座体前屈では鉄棒、ボール投げでは大砲、上体起こしでは補助となる健康器具、持久走では原動付きバイクを創造して高い記録を出してトップに躍り出る事が出来た。

 だけど決して満足してはいない。

 一見万能そうな個性だがその分膨大な知識を必要とするので、十全に扱うべく昔から多くの知識を得るように努めてきた。

 けれど身体能力は平凡に近いものがあり、距離の短い50メートル走や反復横跳びでは自身の知識不足もあって創造する物が浮かばず、個性抜きの身体能力で挑んだところ多くのクラスメイトに後れを取る結果となってしまった。

 個性が合わなかったからなどただの言い訳にしかならない。

 何故ならそんな事知った事かと言わんばかりに、扇動さんが身体能力のみで総合二位を獲得したのだから。

 

 見たところ大きな変化や飛びぬけた記録が無かった事から、種目には合わない“個性”だったのでしょう。

 もしかしたら何かしら私みたいに条件のある個性だったのかも知れませんが、それでも倍率300倍という狭き門を潜った生徒達と競って、総合二位という結果を出すというのは凄い事だと思います。

 されどそれに胡坐をかく事無く、努力を怠ることなく更なる高みへ向けて邁進する。

 私も総合一位となりましたが慢心することなく努力精進して行こうと思っておきながら、扇動さんと比べるとなんて為体。

 汗顔の至りとはまさにこのことですわ。

 

 思い立った八百万は運転手にここまででと告げて停車させ、カバンを手にして送迎車より降りて駆け足で並ぶ。

 

 「おいおい、送迎は良いのか?」

 「私も満足出来ないので」

 「そりゃあ良い。プロ目指すんなら尚更な」

 

 ニカリと朗らかに笑う扇動さんは、少しばかり速度を落として並走する。

 それでもペースが速いのでなるべく合わせるようにするも、表情に出さないようにしている筈なのに理解して合わせようと速度を調節して下さる。

 いらぬ気を使わせて鍛錬のお邪魔をしてしまったと後悔して、想いを口にすると今度は鼻で嗤われた。

 

 「なら次は合わされないようにするこった」

 「確かに…次回はそうするよう努力いたしますわ」

 「意外と負けん気が強いよなお嬢」

 「テストの結果に納得することなく努力する貴方にそっくりそのままお返し致します」

 「おぉ、ブーメランだったか」

 

 他愛ない会話をしながら駆け足をするというのは意外に肺に負担が掛かる。

 それをマスクを付けたまま何事も無いように会話をしている扇動さんの努力は相当なものなのだろうと、昨日の個性把握テストの様子も相まって感心する。

 

 「そういや昨日個性を使う度に体調悪そうにしてたけど大丈夫か?」

 「えぇ、私の個性は創造するのに脂質を消費しまして、昨日は少々作り過ぎただけですので体調は問題ありません」

 「脂質かぁ。何となくデメリットがあるんだろうなとは思っていたがそうか。謎が解けたよありがとさん」

 「考察していたのですか?」

 「先の体育祭考えたら必須だろ」

 「さすがと言うべきでしょうか?」

 「表情が呆れたって言ってんぞ」

 

 言われている通り呆れてはいた。

 けど同時に感服もしている。

 彼の目には目の前の事だけではなく、先の事態を見据えてすでに動き出している。

 圧倒的なまでの意識の違いを見せ付けられ、八百万は自身もまだ未熟なのだと理解する。

 

 「いえ、私も負けてはいられませんと思っただけですわ!」

 「ならまず弱点を克服しろよ」

 「…私の弱点」

 「気になんなら今度教えてやんよ」

 「宜しいのですか?弱点を克服すればより強く成りますわよ」

 「―――あ?仲間が強くなるのに宜しいも宜しくないもねぇだろ」

 

 本当に変わっている。

 体育祭の事を視野に入れて闘志を燃やし、情報収集や鍛錬で準備を始めている言動をしておきながら、仲間が強く成るのは別として捉えているのだから。

 

 「変わった事を聞くんだなお嬢は」

 「またその呼び方…もう、良いですわ」

 

 直す気はないのだろうとため息交じりに諦める。

 少しだけムッとしながらも話題を変えようと、個性把握テストで緑谷さんの指の治療をしていた事を思い出す。

 

 「そう言えば扇動さんは何処で応急治療などを習われたのですか?」

 「HUC(フック)って知ってっか?要救助者を演じる仕事で、怪我や治療などを詳しく理解してないといけないんだ。そう言った知識と経験も得られるからそこでバイトさせて貰ってたんだ。ぶっちゃけバイト代も良いし」

 「緑谷さんの応急治療をなさっている時の手際の良さも納得です」

 「知識も大事だけど経験は大きいから」

 「ですから去年(・・)事件(・・)でも速やかな対応が行えたのですね」

 

 パーティで色々お話はしてきたが、扇動 無一個人の話を聞いたことはそうなかった。

 物は試しとインターネットで調べてみると意外に関連の記事が簡単に見つかり、主なものは爆豪さんや緑谷さんも関わっている“ヘドロ事件”と、去年に多くのメディアにより大々的に挙げられたとある事件(・・・・・)の二つ。

 その二つの内、着目したのは後者。

 事件の内容は卒業式を迎えたある中学校にて、女学生が男子学生を刺したというのが大まかな話。

 扇動さんは刺された学生を発見後、的確な応急処置を施しながら騒ぎに集まった学生に指示を出して、素早い処置もあって負傷した学生は命に別状なく、助けたことで警察から表彰を受けたのだ。

 

 褒めたつもりで話題に挙げたのだが一瞬ペースが乱れ、表情が曇ったのを見逃さなかった。

 それもほんの僅かな間だけですぐ元のペースに戻して苦笑いを浮かべる。

 

 「まぁ、調べれば出るわな。けど学校で話題に出さんといてくれよ。あんま好きじゃないんだあの事件」

 

 重たい口調からハッと思い至る。

 当時中学二年生だった彼は、訓練などで知識や経験は詰めたとしても、大怪我を負った人を目の当たりにするのは初めてだっただろう。

 心に大きなトラウマを抱えてもおかしくは無い。

 

 「すみません。私ったら配慮が足らず…」

 「あー…そういうのじゃないから気にしなさんな―――救えなかった(・・・・・・)俺が悪いんだから…

 

 再び予想に反する反応と僅かながら聞こえた小さな言葉に疑問符を浮かべるも、扇動さんはカラカラと何事も無かったように笑う。

 道中他愛のない談笑を交えながら雄英高校へと到着した頃には、談笑しながら駆け足だったのが祟ったのか肺が痛く、肩で息を切らしていた。

 ペース配分を任せていただけに少しだけ(・・・・)恨めしく睨むも、きつくないと意味がないだろうと軽くいなされてしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 雄英高校一年の推薦枠は四つあり、そのうちの一つを勝ち取った取蔭 切奈(トカゲ セツナ)は、クラスメイトの鉄哲 徹鐵と共に大食堂に訪れていた。

 別に食事に誘った訳でも誘われた訳でもない。

 来た理由は鉄哲を呼び出した相手に興味が湧いたからだ。

 

 鉄哲曰く、当日出会った四人と五分に満たない僅かな打ち合わせをしただけで、四人の個性をしっかりと把握してあの巨大な0P仮想(ヴィラン)を短時間で撃破できる策を考え付いた人物―――扇動 無一。

 知ったのは偶然ながら鉄哲達の会話が耳に入った事がきっかけだ。

 実技試験はどうだったとか言う内容だったが、正直推薦枠の面々は試験内容が大きく違う為に共感する事は出来ず、そうなんだと相槌を打つばかり。

 その中で無駄に声のデカイ鉄哲は、共に闘った戦友(・・)が凄いんだと誇らしげに語っていた。

 

 話を聞けば聞くほど興味が湧いてくる。

 詳しく聞けば短時間で個性を把握した以外に、複数の策を案として出した時点で相当頭が良い。

 しかも単に賢しい(・・・)だけではなく、鉄哲とのメールのやり取りで入試一位通過(・・・・・・)で入学初日に行われた個性把握テストとやらでは総合二位を勝ち取るほどの実力を持っているらしい。

 A組にも推薦枠で入った者が二人は居り、確実にそのどちらかより上回る能力を誇っている。

 そして本人は否定しているが“不向きだから”と撃破してもポイントにならないと説明されていた0P仮想敵との戦闘を任せ(・・)、音に反応して集まったポイントになる仮想敵を独占(・・)した。

 これが意図したものならその狡猾さに感心する。

 そうでなくとも出会ったばかりの四人を戦わせる気にさせ、意図しなかったポイントの稼ぎを謝罪して埋め合わせなどフォローを行う辺り大したものだろう。

 

 興味を抱きながら待ち合わせ場所に指定された大食堂に到着すると、昼食を食べようと多くの学生と僅かに教員が詰めかけており、食券の販売機前には長蛇の列が出来上がっていた。

 並ぶの面倒と顔に出していると突然鉄哲がぶんぶんと手を振り始めた。

 

 「おう扇動!待たせたな!!

 「相変わらず声がでけぇ…」

 

 片目を吊り上げて苦笑する彼が、鉄哲が言っていた“扇動”なのだろう。

 サッと視線を走らせて、身長はやや高めで特徴と言えば青い瞳に癖のある髪ぐらいかと軽く観察する。

 特に変わった様子はなく、向こうも不思議そうにこちらを眺める。

  

 「悪いな呼び付けちまって」

 「構わねぇって!」

 「ってか昨日のメールだと男子が同行者じゃなかったっけ?」

 「あー…物間なら来れなくなってね(物理的に)

 

 鉄哲が扇動の話をした際に誰が調べたのか入学以前から結構な有名人だったらしく、目立っている事も含めて(・・・)何故か対抗心を燃やした物間 寧人(モノマ ネイト)が同行すると言い出したのだ。

 ただ当日である今日になって可笑しなテンションで危うい雰囲気が漂っていた為、同クラスメイトの拳藤 一佳の説得(手刀)により教室で待機(気絶)となったのである。

 

 「変わりというか鉄哲から話を聞いて少し聞きたい事があってね……。取蔭 切奈って言うんだ宜しくね」

 「どんな話をしたのか気になるがこちらこそよろしく。扇動 無一だ」

 

 軽く挨拶を交わしながらも向こうからも同様に軽い観察が入ったのを視線で察する。

 ただ向こうに関しては隠す気配がない。

 こちらの視線に気付いてのお返しなのか、気にしない性格なのか…。

 

 「立ち話も何だし飯食いながらにしようか。趣味(・・)に合うか解らんが俺と同じもん買っておいた。一応驕りだ」

 「お!良いのか!!」

 「俺が勝手に選んで買っただけだからな。それで金払えってのはおかしな話だろ」

 

 扇動は鉄哲だけではなく、こちらにも単品で数枚(・・)の食券を渡して来た。

 礼を口にしようとするも、食券に書かれた品々に一瞬固まってしまう。

 タケノコご飯にアサリの味噌汁、いんげんの卵とじに鰹のたたき。

 決して悪いという気はないが、どれも好んで選ぶことは今まで無かった品々…。

 

 「若者らしくないって思ったろ?」

 「…いやぁ、普通カレーとか当たり障りないもの選ばない?」

 「日本は四季折々を楽しめ、味わえる稀有な国だ。ならその旬の物を食べるべきだろう」

 「本当に若者とは思えないんだけど」

 「そりゃあ二度目ともなればな」

 「…二度目?」

 「こっちの話」

 

 首を捻りながら食券を手に扇動に続いて並んで料理を受け取る。

 料理名を見た時以上に実物がトレイに置かれると余計にらしく(・・・)ないなぁと苦笑いを浮かべる。

 席に着いた扇動と鉄哲はまず用件を済ませようと食べながら話し込む。

 今回鉄哲を呼び出しや理由というのが、入学初日に行われた入学式とガイダンスの話を聞きたいという事だった。

 入学式が始まった時はヒーロー科A組が居ない事に他の一年生は疑問符を浮かべていたが、先生方は別段気にすることなく進行していき、事の詳細を知ったのは昼休みに鉄哲に届いたメールだった。

 A組の担任の意向により式に参加せず、個性把握テストを行っていたとの事。

 一応カリキュラムの紙だけは貰ったらしいけど、式で行われた諸々の説明や話を聞いときたいという事で鉄哲に話が来たのだ。

 二人が話している間、補足は多少入れるが割り込む気はないので自然と料理に箸を伸ばす。

 

 汁椀を口元に寄せてアサリのお味噌汁を啜ると、味噌の味もするがそれ以上に濃厚な貝の旨味が味覚に主張し、潮の香りが鼻孔を擽る。

 貝の風味は独特だ。

 人に寄っては臭みに感じて嫌う人もいる。

 小さい頃はそこまで好きという訳でもなかったが、こうして飲んでみるとこの独特の風味がスッと身体に入り込む。

 箸で摘まんだアサリを咥えてふっくらとした身を殻より取り出す。

 味噌汁に出汁として旨味が出ているものの、噛めばしっかりとしたアサリの風味が残っている。

 こんなに美味しかったっけと思いながら、汁物で口を湿らせると次にタケノコご飯に箸を伸ばす。

 こちらも旬を考えてタケノコをふんだんに使っており、箸で一口含むと醤油とみりんの甘じょっぱさと共にシャクシャクとタケノコの小気味いい歯応えが広がる。

 米もふっくらと焚かれており、食感の違うタケノコと混ざって面白い。

 いんげんの卵とじは下準備がしっかりされていて、いんげんの青臭さはかなり抑えられている。

 そこに卵の滑らかさに沁み込んだ出汁が合わさる。

 不思議と箸が進み、量が多いと思っていたのに見る見るうちに減っていった。

 メインのおかずである鰹のたたきは春鰹が使われており、脂身は少なく引き締まった身はさっぱりとしていて食べ易い。

 さらにそこにおろし生姜とポン酢、玉葱と一緒に食べる事でよりさっぱりとする上、元々たたきにした事で薄れていた生臭さはほぼ皆無。

 これならいくらでも食べらそうだと箸が進み、その減り具合を面白そうに眺めている扇動の視線に気付くのが遅れてしまった。

 

 「食材の活かし方が上手い。さすが“クックヒーロー”ランチラッシュが務めているだけある。しかも安いと来れば通わぬ理由がないな」

 「だな!」

 「んんッ!話に移っても!?」

 

 満足そうに食べていた様子を見られていた事に恥ずかしさもあり、グイッとお茶を一気に飲み干して、くつくつと可笑しそうに笑う扇動を睨む。

 どうぞと手で示され、コホンと咳を挟んで口を開く。

 

 「実技試験での話なんだけど少し聞いただけで個性を把握したってマジ?サーチ系の個性だったりするの?それとも…」

 「本人の説明と予想によるものだ」

 「予想って初見でしょ。鉄哲も実技試験で出会ったって言ってたよね?」

 「おう、そうだぜ!」

 「全てではないが見た目と名前から推測できる者も多い」

 「なら私の個性はなんだと予想する?」

 

 問いに対して扇動はスッと目を細めてこちらを眺める。

 30秒に満たない沈黙の後、お茶を一口飲むと一息つく。

 

 「自身の意思で身体を切り離し、高い再生力を持って切断した部位を再生出来る…とか?」

 

 完全な正解―――ではなかったが、個性の一部を確かに当てられた事に驚きを隠せない。

 鉄哲からかとも思ったが同じように驚いている様子から違うのだろう。

 

 扇動曰く理由は不明だが個性はその者の名に影響を齎し、個性による特徴が身体に現れる事もあるという。

 まず着目したのが苗字。

 とかげ(取蔭)である事から蜥蜴(トカゲ)に関する個性だと断定し、容姿と名前の追加要素からさらに補足・分析・予測を立てる。

 歯は鋭く、顔立ちは何処か爬虫類を連想させるので蜥蜴である事は間違いない。

 しかし尻尾が生えていたり、表皮に鱗のような特徴は見受けられない事から“異形型”を外し、Mt.レディのような“変形型”かイレイザーヘッドのような“発動型”のどちらか。

 残る判断材料は名前。

 せつな(・・・)に真っ先に思い浮かんだ刹那(せつな)を含めた漢字を当て嵌めていくと、ことわざにもなっている蜥蜴に備わっている機能と重なった。

 

 ――“蜥蜴のしっぽ切り”。

 外敵から身を護る為、僅かながら動き回る尻尾を切り離して(自切)注意を逸らす。

 せつな(切奈)の“せつ”が“切”であるならば自切の可能性が高いを判断し、自切を行える生物は高い再生能力を保有している事から再生能力も答えに含んだのだ。

 

 取蔭 切奈の個性は扇動の予想通り“蜥蜴のしっぽ切り”。

 自切も再生能力も正解であるが、付け加えて切り離した部位を思い通りに動かせる。

 

 返答の理由を述べ、正解を示された扇動は切り離した部位が僅かにでも動く事から“思い通りに動かせる”にまで考えが至らなかった事を悔やんでいるようだ。

 先ほど恥ずかしい想いをした身としては、それを見て多少満足した。 

 

 「個性がサーチ系でないなら強化系か」

 「あ?俺、無個性だけど」

 「「はぁ!?」」

 

 まさかの言葉に鉄哲共に声を上げてしまった。

 倍率300という狭き門である雄英高校ヒーロー科を一位で通過し、個性把握テストでは総合二位という高順位を出した者が無個性とは考えもしなかった。

 それに入試の実技試験と違い、個性把握テストではA組に二人いる推薦組の内一人を負かしている事になる。

 推薦組で一般入試組とは別で実技試験を受けて、他の推薦を受けに来た受験生の強個性を目撃した身としては信じられない。

 

 「マジ?」

 「マジもマジ。大マジだ」

 「(すげ)ぇな!つまり個性無しで身体能力のみで勝ち上がったんか!!」

 「“無いもん強請りしている程ヒマじゃねぇ。あるもんで最強の戦い方探ってんだよ。一生な”。俺が好きなアメフト選手の言葉だ。まさにその通りだろ?」

 

 正直に感心した。

 鉄哲より実技試験内容を聞いてはいたが、身体能力と知恵だけで突破できるものなのか?

 早々出来る事ではない。

 もしも出来たとしても個性による戦闘能力の差が容易に埋まる訳ではない。

 それを埋めたとなればその研鑽は並大抵のものではないだろう。

 だからこそ思わずにはいられない。

 個性があったらどうだったんだろう―――と…。

 

 すでに割り切った本人はカラカラと笑いながら、そのアメフト選手の言葉を口にする。

 

 「アメフト好きなのか?」

 「アメフトがって訳でもねぇんだがな」

 「ストイックに鍛えたとかいうんじゃないんだ」

 「さすがに鍛錬のみの生活はきついだろ。合間合間に趣味ごとは挟んでいるよ。フィギュア作りやアニメに漫画、映画鑑賞とかな」

 「アクション系なら俺も見るぜ!」

 「俺は雑食だな。SFもファンタジーも好きだしホラーも結構…」

 

 話が趣味に移って話し始めた矢先、扇動が眉間にしわを寄せたまま固まった。

 どうしたのかと目線の先を辿って背後へ振り返ると、後ろの席で食事をしていたのであろう同クラスの柳 レイ子(ヤナギ レイコ)が目を大きく開いて凝視していたのだ。

 真後ろだっただけにマジでビビった。

 

 「ちょ!?びっくりしたじゃん柳!!」

 「ホラー映画…好きなの?」

 「おお、凄い食いつきの良いのが釣れたんだがB組の子か?まるでスタンド(ジョジョ)のように寄り添っていたけど」

 「ザ・スタンド(ホラー)?シャイニングとかミザリーとかの…」

 「そっち(ホラー)に行ったか。キャリーやペット・セメタリーも観たぞ」

 

 入学して二日目である為、まだそこまで仲良くはなっていなかったが、教室内で見た雰囲気が一変して嬉しそうに食い気味に興奮しているのが見て取れる。

 正直ついて行けないぐらいに…。

 

 「内容分かる?」

 「いや、聞いたことはあるけどよくは解んね」

 

 流れ的にホラー映画の話に突入したらしいのだが、そこまでホラーに詳しい訳ではなく、同じくカヤの外となった鉄哲に問えば同様の反応であった。

 とりあえず柳が興奮気味に食いついたが為、話す空気が変わってしまって入り辛いし、あの楽しそうな様子を断つのも可哀そうだ。

 一応どんな奴なのかは知れたのでここらで退散するとしよう。

 でもその前に聞いてみたい事が増えたのでそれだけ片して行こう。

 

 「最後に一つ―――私の個性を持っていたとしたらどう使う?」

 

 嫌な顔一つせず柳のホラー談議を受けていた扇動は話を区切り、少し悩む様な仕草を見せてから答えた。

 

 「バラバラになる(キャラ)は何人か知っている。幾らかは扱い方は頭にあるが、俺だったらメインは(・・・・)近接戦闘(・・・・)用に仕上げるかな。」

 

 その回答がピンとこず、生返事を返して一足先に教室に戻る。

 また今度、別の機会に聞くこととしよう。

 

 

 取蔭 切奈が退散した事でカヤの外だった鉄哲も引き上げ、扇動は昼休み終了ギリギリまで人が少なくなった大食堂で柳のホラー談議に付き合うのであった…。

 

 

 

 

 

 

 午後の授業開始ギリギリに教室に戻った扇動 無一は、急ぎ足で自分の席についてため息をつく。

 まさかあんなに話し込むとは思いもしなかった。

 この超人社会が当たり前の世界では、前世で楽しんでいたアニメや漫画、特撮ヒーローなどは無かったりするも、何故か洋画系はそのまんま存在したりして、プロヒーローの中にはタイトルをヒーロー名にしていたりする。

 グラントリノやイレイザーヘッドとか。

 …相澤先生(イレイザーヘッド)らしくないけど、ホラー映画(イレイザーヘッド)好きなんだろうか?

 

 一番びっくりしたのが前世でも有名だった喜劇王がこちらでも活躍し、名前を残しているのを知った時だ。

 こっちにも居るんだと驚くのと同時に、もしかしたら前世で好きだった特撮もあるのかと期待したのを今でも覚えている。

 …まぁ、期待はあっさり裏切られたのだけどな…。

 

 だから前世の記憶に強く残っていたホラー映画の話で盛り上がったのもあって油断した(・・・・)

 洋画はそのまんまでも邦画はそうでも無かったりする。

 日本のホラー映画の話をした途端キョトンとされたよ。

 そして興味から怒涛の質問攻め…。

 今度詳しく教えるからと約束しなかったら遅刻する所だった…。

 

 再びため息を漏らすと頬をパチンと叩き、気合を入れると同時に気持ちを入れ替える。

 午前は雄英高校で教鞭をとっているプロヒーローにより通常授業だったが午後は“ヒーロー基礎学”。

 自己流で拾い集めた知識ではなく、現場や実戦で培われたヒーローの経験から生み出される学問。

 理由がどうであれヒーローを目指すからにはそう言った知識は宝であり、過去の事例や想定される事態に対処すべく行われる訓練は自身の血肉となる事だろう。

 

 「わーたーしーがー!!

 

 昼休みの鉄哲で大声が可愛く感じれる程、廊下を大音量の声が響き渡って来る。

 教室内が声の主であるオールマイトに反応してきょろきょろと視線を扉へと向けた。

 

 「普通にドアから来た!!

 

 ナンバーワンヒーローであるオールマイトが登場した事で、テンションが爆上がりする緑谷を始めとした皆が湧きたった。

 興奮に包まれる中、オールマイトは黒板の前に立つ。

 

 「ヒーロー基礎学!ヒーローの素地を作る為の様々な訓練を行う科目!!早速だが今日はコレ―――戦闘訓練!!

 「戦闘訓練!」

 「嬉しそうだねぇ爆豪…」

 

 ギラギラと闘志を燃やす爆豪の様子に、暑苦しさと喧しい程の大音量に苦笑いを浮かべながら扇動はぼそりと呟く。

 

 「そして訓練に伴い入学前に送ってもらった個性届と要望に沿ってあつらえた戦闘服(コスチューム)!!

 

 オールマイトが示すと壁から収納棚が現れ、中に番号が書かれたケースが並べられていた。

 要望していた戦闘服を前に再度湧き上がり、オールマイトは着替えたらグラウンド・βに集合と言い残して行ってしまった。

 すると皆が我先にと棚に群がり、ケースを手にして更衣室へと向かう。

 人が少なくなったところで出席番号である“14”と書かれたケースを取り、ゆっくりと更衣室へと歩く。

 到着した時にはすでに着替えた生徒が先に出ており、思っていた通り結構空いていた。

  

 戦闘服(コスチューム)が収まったケースを開けて、中身を確認して添付されていた説明書に目を通す。

 無茶な要望(・・・・・)はやはり弾かれたようだけど、求めていた凡その装備と機能は持たせてくれたらしい。

 多少の満足を得ながら完全(・・)に至れなかったのを悔やみ、用意された戦闘服を装備する。

 踏み抜き防止と蹴りの威力を上げるべく鉄板を仕込んだブーツ。

 胸部に真っ赤なプロテクターが取り付けられ、高い耐久性と消音効果を持つ特殊素材を用いられた黒のレザースーツ。

 レザースーツ同様に胸部辺りには真っ赤なプロテクター、白銀ショルダーアーマー(肩鎧)に火災などを想定して高い耐熱性を持つ膝まで届くロングコート。

 ロングコートの上から腰に巻かれたベルトには複数の大きめの指輪が提げられていた。

 真正面はメタリックレッドのミラーガラスで視界を確保し、他は黒色の後頭部以外は白銀で彩られたフルフェイスマスク。

 フルフェイスマスクに使用されているミラーガラスは強度を上げ、さらにあまり視界を遮らないように細い補強がXを描くように通っている。

 着心地も視界も良好だなと確認しながら、要望しといたサポートアイテムをコートで隠すように仕込む。

 着替えを終えると置いてあった姿見に視線を向けると、そこには“仮面ライダーウィザード”が立っていた。

 

 ヒーローとして戦闘服を着るならと前世で好きだった特撮ヒーローから選んだのだけど、作品を知っている俺が見るとどうしてもコスプレ感が拭えない。

 けどこちらでは誰も知らない。

 俺の活躍如何によってこの姿での評価にも繋がると認識すると、好きだったゆえに無様は出来ないなと自身に言い聞かせてグラウンド・βへ向かうのだった。




 ないもんねだりしているほどヒマじゃねぇ。あるもんで最強の戦い方探ってんだよ。一生な
 【アイシールド21】蛭魔 妖一より


 
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