Act.01 翔ける輝光の導き
「ふうっ、やれやれ」
構えていたソードの剣先を地面に下げながら、ジーナは大きくため息をついて辺りを見回す。普段は風と共に楽しげに揺れている中央エアリオの草花も、今日はどことなく騒がしい。
彼女の周りに転がっているのは、敵性存在である"ドールズ"の小型が4体。身の丈ほどあるソードの重い斬撃でまとめて斬り伏せられたのであろう。”フワン”と名の付くそのドールズは、ほどなくして赤い光に包まれてその姿を消した。
「ちっ、まだいるか……!」
ソードを構え直して前方を見据え、一気に駆け出す。その先に待つのは、増援とおぼしき人型のドールズ”ペダス・ソード”。3体が横並びになっており、その体躯と巨大な剣は対象に威圧感を与えるのに十分すぎるほどだ。
ダッシュで間合いを詰めるジーナ。対するペダス・ソードは右腕の大剣を大きく振りかぶり、正面へと突きつけた。柔らかな組成の右腕は一瞬で数十メートルほどまで伸び、対峙するジーナを刺し穿とうとする。
「くぅっ!」
体内に満ちるフォトンを放出しつつ、3体の刺突をソード1本で受けきる。受けた攻撃はやはり重たく、ジーナの身体が数メートルほど押し返された。それでも、すぐさまペダス・ソードに詰め寄って次の攻撃につなげていく。伸びた腕が戻り切るまでの間には、少しだけ隙が生まれる。
「ったく、目障りだっての!」
走る勢いに乗せて大きくソードを回転させ、ペダス・ソードを次々と切り刻んだ。派手な破裂音と共に腹部が破壊され、ドールズたちの弱点でもある黄色いコアがあらわになる。
ジーナは着地して体勢を整え、もう一度ペダス・ソードの方へ向き直る。だが、連戦の疲れからか、彼女の動作には遅れが出始めていた。振り向いたときにはすでに、最前列のペダス・ソードが大剣を一思いに振り下ろそうとしている最中であった。中腰の姿勢のまま、ジーナはソードを前に出してガードの構えをとる。
「うわっ!?」
瞬間、眩い閃光と強烈な電撃が3体のペダス・ソードを襲った。身体の奥底に響く放電音とあまりの眩しさに思わず目を閉じたジーナが数秒後に目を見開いたときには、ドールズたちの姿は跡形もなくなっていた。
中央エアリオ一帯に、ようやく静寂が訪れた。一連の戦闘がようやく終わったのだと感じ、ジーナはソードを放り出し、大の字になって足元の草むらに寝転んだ。肩まで伸びた金色のウェーブヘアーが横に大きく広がり、腰に滴る汗が
「ごめん、遅くなった」
後方から誰かの声が聴こえてくる。ジーナが仰向けになったまま首だけを声の主へ向けてみると、ロッドを携えた柔和な顔の青年が傍らに立っていた。
「びっくりさせるなよ、フリント。それに、いつものお前ならもっと早く片付くだろ?」
「はは、あいにく今日はいつも通りじゃなかったみたいだ」
「今日はっていうか、最近ずっとこんな感じだよな?」
「まぁ、ね」
ジーナとは別方面で戦っていた青年、フリントもすぐ近くの草むらに腰掛ける。やや憂いを帯びた面持ちで、彼は話を続けた。
「僕自身の腕は全然鈍ってないさ。近頃ドールズの出現報告も増えてきて、殲滅するのも一苦労だしね」
「エアリオリージョン全体、あちこちでたくさん出現してるって話だろ?いくら倒してもきりがない」
めんどくさそうな顔をするジーナだったが、少しして普段の力強い表情にもどった。
「それでも諦めずに戦って、この星――ハルファに平和を取り戻す。それが私たちアークスの使命だろ?」
すっと身を起こして、ジーナは前のめり気味にフリントを見つめる。
「私にとって、アークスは英雄。ドールズからハルファを守るってのが英雄みたいでかっこいいから、私はアークスになりたかったんだ。今更引き返さないからな!」
「ホントに気が強いな。僕も弱気になってる場合じゃない」
ふと、2人は空を見上げた。雲一つない透き通った空は、日没前の美しい橙色に染まっている。敵性存在の消えた中央エアリオに、”テイムズ”たちの穏やかな鳴き声と草木のささやきだけが響いていた。
「さて、そろそろ日も沈むし、セントラルシティまで戻ろうか」
フリントはおもむろに立ち上がると、後ろにあるリューカーデバイスに足を向けた。それには目もくれず、ジーナは再び寝転んで空を眺めはじめた。
「少ししたら私もいく。ちょっと疲れた」
「わかった、ちょっと休んだらシティで落ち合おう」
リューカーデバイスの方へ歩みを進めるフリント。しかし、何かを思い出したようにジーナの方を向き、声をかけた。
「日が落ちたら”アルターズ”が暴れだすから、暗くなる前に帰りなよ?」
「心配するなっての」
今頃何をと言わんばかりに、ジーナは不満そうな表情を浮かべていた。
橙色の夕焼け空は徐々に紫色へと変わり、数多の恒星が顔をのぞかせる。輝くフォトンのように蒼く光った流れ星が、ハルファの空を西から東へ横断していく。
「……ん?あれ?落ちてくる……?」
素早く立ち上がり、流れ星の行方を見つめる。宇宙の彼方へ通り過ぎるはずの流れ星が、だんだんと大きく見えてきた。彗星や小惑星の類が惑星ハルファに落ちるとなれば、めったにない異常事態である。
(何なんだ!?)
ジーナはダッシュで流れ星の後を追う。草原にたたずむテイムズたちの群れをかき分け、ひたすら走る。そして時々空を見上げ、流れ星の位置を確認する。走り始めたときよりも流れ星は大きくなっているように思えた。
無我夢中で追いかけているうちに、草原から岩場へと差し掛かる。岩壁から突き出た岩の足場を頼りに、上へ上へと登る。平坦な山道へ差し掛かったころ、とてつもない轟音と共に地面が大きく揺さぶられた。
「わあああ!」
思わず大声を出してよろめくも、すぐにバランスを取り直す。改めて上空を確認すると、流れ星の姿はどこにもなく、発していた蒼い光も消えていた。その代わり、ジーナのいる山の方で土煙のようなものが上がっている。
(思ったより近いな。この上か?)
さらに先へ、軽やかな身のこなしで山を登る。流れ星の墜落地点にジーナが到達するころにはもう日が暮れており、周りもかなり暗くなっていた。
「……!」
言葉を失い、眼前の光景をただ茫然と見ているしかできない。ジーナの視界に入ってきたのは、見たこともない不思議な機械の残骸と脱出ポッドのような装置が一つ。そして……傷ついて横たわる少女の姿。ようやく我に返ったジーナは、うつ伏せに倒れる少女を起こし、必死に呼びかける。
「おい!生きてるか!?」
少女からの返事はない。しかしながら、身体からはわずかな温かみが感じられる。ワインレッドのマッシュウルフに、ジーナと同じようなショートパンツ。活動しやすそうな服装のチョイスに、ジーナは少し親近感を覚えていた。
「ともかく、セントラルシティに連れて帰らないとな」
一度少女を地面に下ろし、崖側からふもとの様子を確かめる。ペダス・ソードをはじめとする中型のドールズだけでなく、狂暴な原生生物や夜間に狂暴化するアルターズなど、多くの敵性存在がうろついている。けが人を抱えながら敵の群れをかいくぐり、セントラルシティへたどり着くのは相当厳しい。
「うわぁ~……どうすりゃいいかな、これ」
ジーナは右手で髪をかき回しながら、星々のまたたく夜空を見上げていた。