堕姫と妓夫太郎の家族であることすら否定するような罵り合いに心を痛めた炭治郎は、そっと妓夫太郎の口を塞いで悲しそうな表情で仲裁した。
炭治郎「嘘だよ、本当はそんなこと思ってないよ。全部嘘だよ。仲良くしよう、この世でたった二人の兄妹なんだから。君たちのしたことは誰も許してくれない。殺してきたたくさんの人に恨まれ憎まれ罵倒される。味方してくれる人なんていない。だからせめて二人だけは、お互いを罵り合ったら駄目だ。」
炭治郎の優しく怒る言葉を聞いた堕姫は、大声で泣いて当たっていた。
堕姫「うわあああん!うるさいんだよぉ!!私たちに説教すんじゃないわよ!糞ガキが!向こう行けぇ!どっか行けぇ!!悔しいよう!悔しいよう!何とかしてよぉお兄ちゃあん!!死にたくないよぉ!お兄ちゃん・・!!」ボロボロ
堕姫は妓夫太郎よりも先に灰になって亡くなったのだった。それを見た妓夫太郎は今まで忘れていた妹の本当の名を言った。
妓夫太郎「梅!!」(そうだ。俺の妹の名前は"梅"だった。"堕姫"じゃねぇ。酷い名前だ。いや・・梅も酷かったなぁ、お前の名前は。)
堕姫が人間だった時の名前、梅を思い出した妓夫太郎は、人間時代の記憶が次々と蘇って来るのだった。
―――"梅"という名前は、二人の母親を死に至らしめた病名からつけられたものだった。二人は遊郭で働いていた遊女から生まれた。"羅生門河岸"という遊郭の最下層で生まれたために、ろくに稼げていなかった彼らの母親にとっては、飯代がかかるだけの迷惑な存在程度にしか思われず、妓夫太郎は日々殺されるのではと思うほどの虐待を受け続けてきていた。家に居場所などなく、外に出ても「ムシケラ」「ボンクラ」「のろまの腑抜け」「役立たず」と罵倒を浴びせられ、醜い声や容貌を嘲られ汚いと石を投げつけられていた。それは当時幼かった妓夫太郎の心を抉るには十分すぎることだった。入浴することも出来ず、ご飯を食べることも許されず、垢まみれフケまみれで異臭を放ち、沢山の蚤に住み着かれていた。そして空腹になったら鼠や虫しか食べるものがなく、栄養が不十分でなんとか食い繋いでいる状態であった。美貌が全ての価値基準である遊郭では殊更忌み嫌われ、怪物と呼ばれていた。そんな妓夫太郎の遊び道具は、遊郭の客が忘れて帰った鎌のみという残酷な人生を歩んできていたのだ。しかし、自分をも嫌っていた妓夫太郎であったが、そんな彼が変わり始めたのは妹の梅が生まれてきてからだった。梅は幼少期から大人がたじろぐほど綺麗で美しい顔をしていた。そのため、彼女は当然と言わんばかりに遊郭に売りに出された。妓夫太郎は、自分が喧嘩に強いことに気づいて取り立ての仕事を始めていた。誰もが彼を気味悪がって恐れていたが、妹の梅がいただけでその劣等感は吹き飛ばされていた。しかし二人にとって光が見えた矢先に、またしても辛い現実が襲いかかった。
二人が十三の年になったとき、梅が遊郭の客である侍の目玉を簪で突いて失明させたのだ。その報復として梅は縛り上げられて生きたまま焼かれた。
梅「ギャアア!!熱い゛熱い゛熱い゛ィィィ!!」
その痛みや苦しみは、子供に限らず大人でも"地獄"の二文字では片付けきれないほどの苦痛であった。妓夫太郎が仕事から帰ると、梅は既に丸焦げになって虫の息だった。梅を抱き抱えて妓夫太郎は叫んだ。
妓夫太郎「わあああああ!!やめろやめろやめろ!!俺から取り立てるな!!何も与えなかったくせに取り立てやがるのか!!許さねえ!!許さねえ!!元に戻せ!!俺の妹を!!でなけりゃ神も仏もみんな殺してやる!!」
ザン!
当時は血の気が多い武士が普通に存在していた時代である。そのためほとんどの大人が子供の煽りにすら耐性を持たずに、痛め付けたり、最悪斬り殺す者すらいた。このときの妓夫太郎も例に漏れず、叫んだところを背後から武士に刀で斬られた。
妓夫太郎「・・!!」ドッ
侍「こいつで間違いないか?」
遊女「はい!そうでございます。感謝致します。厄介払いができて良かった。本当に凶暴でねぇ。取り立て先で大怪我させたり最近ではもう歯止めが効かなくて・・梅のことは残念でしたけど、可愛い子を見つけたらまた紹介しますので。あの、お金の方を・・」
侍「まぁ待て。止めを刺してからだ。」ジャキ
遊女と侍の言葉を聞いて、怒りが最高点に達した妓夫太郎は、侍が止めを刺す前に鎌を掴んで顔を斬りつけた。
ビュウ ザシュ!
侍「ギャッ!!」
妓夫太郎「お前、いい着物だなぁ。清潔で肌艶もいい。たらふく飯を食って綺麗な布団で寝てんだなぁ。生まれた時からそうなんだろう?雨風凌げる家で暮らして・・いいなあ、いいいなああああ!!そんな奴が目玉一個失くしたぐらいでピーピーギャアギャアと、騒ぐんじゃねぇ!!」ズシャア!
持っている二本の鎌で、侍の体を真っ二つにしてその勢いのまま遊女の頚を跳ねた。今まで痛め付けたことはあったものの、殺したのはこれが初めてだった。更に追い討ちをかけるように、新雪が降り始めた。服にも乏しい二人にとっては、体力と体温を奪う絶望の雪だった。妓夫太郎は完全に自分の運命を呪っていた。誰だって助けてくれない。どんな時も自分達には一切の容赦がない。そんな現実に怒りを燃やしながら、遂に妓夫太郎は力尽きて地面へと倒れてしまった。
妓夫太郎(どうしてだ?"禍福は糾える縄のごとし"だろ?いいことも悪いことも代わる代わる来いよ・・)
童磨「どうしたどうした?可哀想に。」
そこへ現れたのは、金色の髪と血を被ったような模様が頭頂部にあり、宗教の服を着ていて虹色の瞳に"上弦、陸"二文字が入った十二鬼月である。彼は当時上弦の陸ながら、現上弦の弐である万世極楽教の教祖である鬼"童磨"だった。その両手には既に事切れた女性の頚と片足を持って、感情がない笑みを浮かべて立っていた。
童磨「俺は優しいから放っておけないぜ。その娘、まもなく死ぬだろう?お前らに血をやるよ、二人共だ。"あの方"に選ばれれば鬼となれる。命というのは尊いものだ、大切にしなければ。さぁ、お前らは鬼となり俺のように、十二鬼月・・上弦へと上がって来れるかな?」
人間の時の梅と妓夫太郎を助けたのは、人間ではなく人喰い鬼だったのだ。妓夫太郎に鬼になったことに対して後悔はなかった。それどころか、来世というものがあったのなら、再び鬼になって幸せそうな人間を襲って奪って取り立てようと考えていた。ただ、彼は妹を巻き込んでしまったことに罪悪感を覚えていた。彼女の元々の性格は周りに染まりやすい素直なものだったのだ。"もっといい店にいたなら真っ当な花魁に""普通の親元に生まれていたのなら普通の娘に""良家に生まれていたなら上品な娘に"なっていたのではないかと妹の梅の事だけが、唯一の心残りだった。
気がつくと、辺り一面暗闇の所に妓夫太郎は立っていた。
妓夫太郎「!」(なんだぁ?ここは?地獄か?)
梅「お兄ちゃあん!!」
妓夫太郎の名前を呼んだのは上弦の鬼の堕姫の姿ではなく着物を着た人間の姿になった梅だった。それを見た妓夫太郎は、妹は自分とは別の場所に行く事を確信し、心の中で安堵していた。
梅「嫌だ!ここ嫌い!どこなの?出たいよ!何とかして!」
妓夫太郎「お前その姿・・・・」スッ
梅「!そっちが出口?」
妓夫太郎「お前はもう俺についてくるんじゃねぇ。」
梅「なっなんで?待ってよ私・・」
妓夫太郎「ついて来るんじゃねぇ!!」
梅「!」ビクッ
妓夫太郎が梅を拒絶した理由は、自分は妹の分の罪も背負って地獄へ行って、妹には自分とは違って天国で過ごして欲しいと思っていたからなのだが、そんな兄の思いを知らない梅は、拒絶した理由を先程の口喧嘩で怒ったからだと勘違いして目に涙を浮かべた。
梅「さっきの事怒ったの?謝るから許してよぉ!お兄ちゃんのこと醜いなんて思ってないよォ!!悔しかったの!負けて悔しかったの!私のせいで負けたって認めたくなかったの!ごめんなさい!うまく立ち回れなくって・・私がもっとちゃんと役に立ってたら負けなかったのに!いつも足引っ張ってごめんなさい!ねぇお兄ちゃん!」
妓夫太郎「・・そんなことは心底どうでもいい。お前とはもう兄妹でも何でもない。俺はこっちに行くからお前は反対の明るい方へ行け。」
その妓夫太郎の言葉に、梅は自分に幸せになって欲しいと思われていることを実感する。しかし、梅は駆け出して妓夫太郎の背中に飛び付いた。
ガバッ
妓夫太郎「!おい!!」
梅「嫌だ!嫌だ!離れない!!絶対離れないから!!ずっと一緒にいるんだから!!何回生まれ変わっても私はお兄ちゃんの妹になる絶対に!!私を嫌わないで!!叱らないで!!一人にしないで!!置いてったら許さないわよ!わぁぁあん!ずっと一緒にいるんだもん!ひどいひどい!約束したの覚えてないの!?忘れちゃったのォ!!?」
梅と妓夫太郎が交わした約束、それは二人がまだ人間だった頃。雪が降りしきる中、家がない二人は藁で覆って寒さを凌いでいるときに妓夫太郎が言った言葉である。
妓夫太郎「俺達は二人なら最強だ。寒いのも腹ペコなのも全然へっちゃら、約束する。ずっと一緒だ、絶対離れない。ほらもう何も怖くないだろ?」
当時生まれてから自分達へ降りかかる厳しい現実に耐えきれず、泣いていた梅にとって、このときの妓夫太郎の言葉は他の何よりも自分を救ってくれるものだった。この言葉をずっと覚えていたのだ。そしてそれを思い出した妓夫太郎は、泣きじゃくる梅の足を抱えて背負うと、地獄の業の炎が燃え盛る方へ歩いていくのだった。
―――
現実世界では完全に灰になった二人を見て、炭治郎と禰豆子とブロリーは同時に空を見上げた。
炭治郎「仲直りできたかな?」
ブロリー「さぁな。奴らのその後を見ていないのだからわかるはずがないだろう。だが、鬼だった時から彼奴らの兄妹の絆は本物だったからな。黄泉でもうまくやっている気はする、それで良いのではないか?」
禰豆子「ム!」コクリ
炭治郎「師範・・はい、そうですよね。彼等なら仲直りもできますよね。終わったな・・疲れた・・」
一方その頃、三人の嫁に囲まれて倒れこんでいるのを、蛇柱、伊黒小芭内がネチネチと言葉攻めしていた。
小芭内「ふぅんそうか、ふぅん。陸ね、一番下だ上弦の。陸とは言え上弦を倒したわけだ、実にめでたいことだな、陸だがな。褒めてやってもいい。」ネチネチ
雛鶴「・・・・」
須磨「・・・・」ムカムカ
まきを「・・・・」イライラ
天元「いや、お前から褒められても別に・・」
須磨「そうですよ!!」ギャワーッ
まきを「随分遅かったですね?」ネチ
須磨「おっおっ遅いんですよ!そもそも来るのが!!おっそいの!!」
須磨が小芭内に食って掛かった時、小芭内の相棒である蛇の鏑丸が威嚇した。
鏑丸「シャーッ」
須磨「ギャアアッ!!!」ギュウ
天元「イデデデ!」
雛鶴「こら!」
小芭内「その程度の傷で倒れこんでてどうする?たかが上弦の陸との戦いで、そんなかすり傷程度で倒れこむな。お前が復帰するまでの間に誰が穴埋めをするんだ?まさかこのまま引退するとは言わないよな?」ネチネチ
天元「引退はしねえよ。俺は五体満足だ、少し休めばまた柱として復帰するに決まってるだろ。」
小芭内「ふん、続けるのならばいい。ただでさえ若手が育たず死にすぎてるから、柱は煉獄が抜けたあと空席のまま。」
天元「いいや。若手は育ってるぜ確実にな。お前の大嫌いな若手がな。」
小芭内「・・おいまさか、生き残ったのか?この戦いで奴が、竈門炭治郎が。」
小芭内は炭治郎が生き残ったことに驚き、若手が生き残って良かったような大嫌いな奴が生き残って残念なような複雑な表情を浮かべていた。
一方、鬼殺隊の本部産屋敷邸には既にブロリーや天元達が上弦の鬼を倒した朗報が来ていた。亭主である耀哉は鬼舞辻の呪いの影響で、体の至るところに火傷の跡のような爛れが広がっていた。呪いが進行していて、今は寝たきりの状態になっている。それでも布団から身を乗り出すように、鎹鴉の報告に釘付けになっていた。
耀哉「そうか!またブロリー達は上弦をやってくれたんだね!よくやった天元!ブロリー!炭治郎!禰豆子!善逸!伊之助・・!」ゴホッ ゲホゲホッ ビジャ
六人の名前を呼んで祝言を言った直後に、激しく咳き込んで吐血した。そんな耀哉を妻である"産屋敷あまね"は慌てて手ぬぐいを彼の口に当てて血を拭き取る。
あまね「耀哉様!」ふきふき
耀哉「あまね!」
あまね「はい。」
耀哉「今運命は大きく変わっている!ブロリーが我が鬼殺隊に入ってから、全てがいい方向へと流れている!一年も経たないうちに上弦を二体も倒した、更に彼はまだ負傷していなければ引退もしていない!上弦よりも強い鬼狩りが現れたんだ!わかるか?これは完全に"流れ"に乗っている。この"流れ"は止まることはないだろう。周囲を巻き込んででも進み、やがてはあの男の元へ届く。鬼舞辻無惨!お前は必ず私たちが、私たちの代で倒す!我が一族唯一の汚点であるお前は・・!!」ゴホッゴホッ ガハッ!!
再び咳き込んで吐血した耀哉に、息子の"産屋敷輝利哉"を始め、かなた達も心配して周りに集まってくる。
輝利哉「父上!!」
かなた「父上!」
あまね「お前たち、湯を沸かしなさい!それから薬と手拭いを!早く!!」
あまねは息子達に的確に素早く指示を出して、苦しそうに息をしている耀哉の症状を少しでもやわらげるために薬を飲ませるのだった。
数刻後、薬の効果で咳は収まったものの、それでも相当苦しいのか布団に寝たきりの状態の耀哉がいた。先程の興奮もいくらか落ち着き、今はおしとやかな産屋敷邸の当主の姿がそこにはあった。
耀哉「・・あまね。薬のお陰で少し楽になったよ・・心配をかけて済まないね・・」
あまね「いいえ。私はあなた様と共に歩む道がどんなに険しい獣道だったとしても、ついていくと決めましたので。あなた様の病の治療をすることは苦ではありませんよ。」
耀哉「ありがとうあまね。そう言ってくれて嬉しいよ。・・本当はすぐにでも緊急柱合会議を開きたいところなんだけど、生憎私はこの有り様だ。四ヶ月程前までのように自力で立ち上がることも、娘達に手を引かれてでも歩くことすらできなくなってしまったようだ・・だからせめてでも、私が寝たきりだったとしても、彼と・・ブロリーと話し合いをしたいんだ。」
あまね「話し合い・・ですか?」
耀哉「そうだ。彼が勤める任務には、死傷者が限りなく少ないんだ。それだけすごい活躍をしているんだ。その日頃の感謝の気持ちを伝えたい。歴代最強の隊士である彼にね。」
あまね「わかりました。近々ブロリー様をこの産屋敷邸へとお招きしますよう手配しておきます。」
耀哉「本当に何から何まで済まないね、あまね。輝利哉とかなたも心配かけたね。」
輝利哉・かなた「「父上・・」」
布団に入ったまま耀哉は息子達に優しい笑顔を向けるが、輝利哉とかなたは不安の表情を浮かべて父親を弱々しく呼ぶのだった。
そして遊郭の任務から数日経ったある日、ブロリーの住む破壊屋敷へ産屋敷の鎹鴉が飛んできて窓辺に止まり、伝達を口にした。
鎹鴉「カァーッカァーッ!破壊柱ブロリー!至急オ館様ノ所へ急行セヨ!繰リ返ス!破壊柱ブロリー!オ館様ノ所へ行ケ!カァーッ!カァーッ!」
炭治郎「!?しっ師範!!お館様から呼び出されるって何かしたんですか!?」
ブロリー「炭治郎、お前は少し失礼ではないか?何故俺が呼び出されることが何かをやらかした事を前提になるんだぁ?」
炭治郎「あっすみません!ですが、何の前触れもなくいきなりお館様に呼び出されるって何かしたんじゃないかって思ってしまいますよ!?」
ブロリー「知らん。俺は耀哉とは杏寿郎やお前達と共に行った無限列車以来顔を合わせていないぞ。そこまで大した理由ではないと思うがな。別に行かなくてもいいだろう。」
炭治郎「いや、駄目ですよ!お館様からの呼び出しですよ!?行かないとそれこそ不死川さんから何をされるか分かりませんよ。」
ブロリー「どうでもいいだろう。クズから何をされたとしても返り討ちにすればいいだけだぁ!」
炭治郎「・・クズ・・ふふっ・・師範、クズはやめてあげてください。」
ブロリー「あいつはクズだろう?罪もない禰豆子を刺したんだ、クズと呼ばずに何て呼ぶ?それより俺にとって用は無いのだから、行かなくては駄目か?」
炭治郎「駄目です!お願いですから早く行って下さい!」グイグイ
ブロリー「わかったから押すな、炭治郎。」
炭治郎は、遊郭の任務が終わってから数日で目を覚まし、今ではブロリーと共に鍛練に励んでいた。そして鎹鴉により呼び出されて、行くことを渋るブロリーに炭治郎が急かして背中を押していた。そしてようやく出発するのだった。普通の剣士や柱は、産屋敷邸に行くときは隠に耳栓や目隠しをされておぶられて行くのだが、ブロリーの場合は炭治郎が柱合裁判にかけられたときにこっそり空から道順をみていたので、覚えてしまったのだ。そのため、鎹鴉の飛んでいく後を着けるように飛んでいくことが移動手段となっていた。
数刻後、産屋敷邸にたどり着いたブロリーは庭に来ると、閉まっている襖の奥に声をかけた。
ブロリー「耀哉、鴉に呼ばれて着たぞ。誰かいないのか?」
ブロリーの声に反応した輝利哉が、襖を開けて出てくると挨拶する。
輝利哉「ブロリー様、本日はご多忙の中足を運んでくださってありがとうございます。お館様が部屋でお待ちです。どうぞ御上がりください。」
ブロリー「わかった、邪魔するぞ。」
ブロリーは縁側に上がると、輝利哉に着いていく。そして耀哉の待っている部屋の前に着くと振り返り、ブロリーに向き合った。
輝利哉「こちらでお館様がお待ちしています。どうぞお入りください。」
輝利哉は部屋の襖を丁寧に両手で開けると、ブロリーが入ったのを確認してから自分も入り、再度丁寧に襖を閉めた。ブロリーが部屋で見たもの、それは妻のあまねと、娘である"ひなき、にちか、くいな、かなた"に囲まれて布団で横になっている耀哉の姿だった。ブロリーを連れてきた輝利哉が耀哉に報告する。
輝利哉「父上、ブロリー様をお連れしました。」
耀哉「ご苦労だったね輝利哉。ブロリー、今日は来てくれてありがとう。わざわざ来てくれたのにこんな格好ですまないね。」
ブロリー「構わん。だが耀哉が俺を呼ぶとは珍しいな。何かあったのか?」
耀哉「特別なことはないよ。ただ君に感謝の気持ちを伝えたかったんだ。上弦を二体も倒したのにまだ引退していない私の子供は初めてなんだ。それに君が鬼殺隊に入ってから、他の剣士や一般人の死傷者が大幅に減ったんだ。君は既に沢山の人の命を助けているんだ。だからブロリー、鬼殺隊に入ってくれて本当にありがとう。君は私の誇りだ。」
ブロリー「そうか、俺も耀哉が禰豆子を認めてくれたお陰であの時は禰豆子が殺されずにすんだ、もし殺されていたら俺はこの星を破壊し尽くしていて取り返しがつかないことをしていただろう。だから礼を言うのは俺の方だ。感謝する。」
耀哉「そう言ってくれると私も禰豆子を容認した甲斐があったものだよ。君がしてくれたことと比べたら、私のしたことは大したことな・・!」ゲホッゲホッ ゴホッガハッ
ブロリー「!?おい!大丈夫か!?」
あまね「耀哉様!!」
輝利哉・かなた「「父上!!」」
ひなき・にちか・くいな「「「お館様!!」」」
鬼舞辻の呪いによって咳が再発した耀哉の周りをブロリーを含める七人が取り囲んだ。
耀哉「ゴホッゴホッ。・・すまないねブロリー。見苦しいところを見せたね。もう大丈夫だから離れていいよ。」
ブロリー「・・耀哉、前から気になっていたんだが、その焼けた跡のような皮膚の爛れはなんなんだ?初めてあったときよりもそれが広がっているように見えるが?」
耀哉「そうか・・ブロリーにはまだ言ってなかったね。これは私たち一族の生まれつきの病なんだ。産屋敷の血を引く男性のみがかかる鬼舞辻による呪いだよ。それのせいで今の私たちは二十五までしか生きられない病弱な体なんだ。」
ブロリー「それは苦しいのか?」
耀哉「そうだね・・柱や他の剣士達の前では気丈に振る舞ってるけど、本当はとても辛くて苦しいんだ・・何時からか目も全く見えなくなってしまってね・・今私が見ているのは完全な暗闇だ・・私はあと長くても一年もたないだろう・・」
あまね「耀哉様・・」
輝利哉「父上・・」
ひなき・にちか・くいな・かなた「「「「・・・・ッ」」」」
その言葉に、あまねをはじめとする耀哉と本当に血の繋がっている子供達は辛そうな顔をする。
ブロリー「鬼舞辻無惨とやらのムシケラのせいでお前達も散々な目に合ってきたんだな。ならば・・今、楽にしてやる!」バッ
耀哉「えっ?」
「「「「「!?」」」」」
ブロリーは掌を耀哉に向けると、自分の溢れ出る気を送り込む。緑色の気が耀哉の体を包み込んだ。すると、呪いによって爛れた部分がみるみると修復していくのだ。これには側で見ているあまね達も驚きを隠せない。
ポワワワワワワ
輝利哉「の・・呪いが・・!!」
ひなき「治っていく・・!!」
にちか「す・・凄い・・!!」
くいな「凄い・・綺麗な肌に・・!!」
かなた「戻っていってる・・!!」
あまね「治る・・?治るの・・!?」
耀哉(あぁ・・暖かい・・まるで・・母上に抱かれているような・・)
ブロリーが気を与え終えると、爛れたような部分が完全に消滅し、目を瞑っていた耀哉が目を開ける。今までの耀哉は、呪いの影響で目が見えず、開けていても瞑っていても、視界にあるのは暗闇だけだった。しかし今の耀哉は、状況を理解すると目から涙を流した。
耀哉「見える・・!目が見える・・!少しも辛くない・・!苦しくもない・・!」
あまね「まさか・・!耀哉様・・!」
耀哉は、再び目に光を取り戻して目が見えるようになったのだ。あまねもそれを察したのか、耀哉の顔を覗き込む。それに気づいた耀哉も体を布団から起こすとあまねや子供達が座っている方へ顔を向ける、そして涙を流したまま微笑んだ。
耀哉「あぁ・・!あまね・・!まさかもう一度我が妻の顔が見れる日が来るとは・・!輝利哉、ひなき、にちか、くいな、かなた・・私の目が見えなくなっている間に随分と大きくなったんだね・・」
あまね「耀哉様・・!」ポロポロ
輝利哉「父上・・!」グスッ ポロポロ
かなた「父上~・・!」ひっく グスン
ひなき「お館様・・!」ポロポロ
にちか「お館様・・!」ひっく グスッ
くいな「お館様~・・!」グスッ ポロポロ
自分達の父の目が見えるようになり、鬼舞辻の呪い苦から完全に解放されたことを実感した息子や娘達は目から大粒の涙を流して号泣し、耀哉に抱きついた。そのままブロリーそっちのけで産屋敷一家は互いに抱き締めて号泣した。
数分後、ブロリーの目の前で泣いていたことに気づいて我に返り、全員が顔を真っ赤に染めて俯いていた。家族を代表するかのように耀哉が謝罪した。
耀哉「ブロリー、目の前で見苦しい事をしてしまってすまなかった・・///でも君のお陰で私はまた妻や息子達の顔を見ることができたんだ。感謝してもしきれない。本当にありがとう、ブロリー。」
あまね「ブロリー様、耀哉様の呪いを治してくださってありがとうございます!」ペコリ
輝利哉・ひなき・にちか・くいな・にちか「「「「「ありがとうございます!!」」」」」ペコリ
妻であるあまねの感謝の言葉を筆頭に、子供達も続いてブロリーに礼を言った。しかし、それまで目の前の暖かい光景に無意識に緩んだ顔をしていたブロリーだったが"治した"という発言に反応し、再び引き締まった表情を浮かべて耀哉を指差した。そして忠告する。
ブロリー「貴様ら勘違いするな。俺は治していないからな。」
ひなき「!?でッですが、お館様から呪いが消えましたよ!」
ブロリー「それは呪いの苦しみから少しの間解放しただけに過ぎない。おい耀哉、その呪いが出始めたのはいつ頃だ?」
耀哉「えっと・・確か私がちょうど二十歳になったとき、つまり今から約三年前ぐらいだね。」
ブロリー「そうか。ならば今から約二十年経つとさっきまでの状態に戻るからな。俺は医者ではないから治すことは出来ない。それはただのその場しのぎ程度だ。」
あまね・ひなき「「・・・・っ」」
ブロリーに完全に治ってないと言われて、二十年後には再び先程の状態に戻ってしまうとわかり、あまねとひなきは悲しそうに顔を俯かせた。それでも耀哉はブロリーに微笑んでいた。
耀哉「治ってなかったとしても私がブロリーに感謝することには変わり無いよ。本来なら私はもうじき黄泉の国へと逝くところだったんだ。延命だとしても、それはつまり鬼舞辻を倒すために与えられた時間が倍以上に増えたってことだからね。それにもう見ることはないと思っていた家族の事を視力を取り戻して再び見ることができたんだ。これ程嬉しいことはない。これ以上何かを求めてしまうと、天罰が下ってしまうよ。」
あまね・ひなき「「!!」」ペコリ
耀哉の言葉を聞いて心を動かされたあまねとひなきは、再びブロリーに向けて頭を下げた。
ブロリー「解ったならばいい。それにこれは二十年経った後でも再びやればまた寿命が伸びるからな。だが、俺は今後こんなことは絶対にしない。」
あまね・輝利哉・ひなき・にちか・くいな・かなた「「「「「「っ!!」」」」」」
耀哉「・・どうしてだいブロリー?理由を聞いても?」
ブロリー「なぜなら俺が二十年経つ前に鬼舞辻というムシケラを殺すんだからな。」
あまね「・・なるほど、そういうことですか。」
輝利哉「母上?」
あまね「つまりそれまでに鬼舞辻を倒すから、次に耀哉様にかかっている鬼舞辻の呪いをまた戻す必要はないと彼は言ってるのよ。」
ブロリー「そういうことだ。」
あまねの推測にブロリーは肯定し、その理由を聞いた耀哉は嬉しそうに微笑んだ。
耀哉「そうか・・そうか・・こんなに強くて優しい隊士を獲得できて、私は幸せ者だよ。本当にありがとうブロリー。」
ブロリー「ふん、お互い様だろう?」
耀哉「そうだね、ブロリー。」
自身の気の力によって耀哉の寿命を延命させたブロリー。お礼としてそのまま産屋敷一家に最上級のおもてなしをされて、日が暮れるまで話し合いに花を咲かせるのだった。
やっと遊郭編終わりました。原作でもかなり長かったので大変でした笑。次からも頑張りますので応援よろしくお願いします。それではまた次回。