伝説の超鬼殺隊員   作:ツキリョー

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第四十二話です。この度この"伝説のスーパー鬼殺隊員"は連載二周年を迎えました。皆様のおかげです。本当にありがとうございます。これからもこの小説の応援いただけると嬉しいです。それでは本編どうぞ。


黒死牟の衝撃の過去!日の呼吸を超える破壊の呼吸!

黒死牟との戦いで『スーパーサイヤ人4フルパワー』の姿になったブロリーは気を放出した。そのブロリーと対峙している黒死牟は"透き通る世界"でブロリーの肉体構造を見た。

 

黒死牟(なんだこいつは?肉体だけなら岩の柱を上回る。非の打ち所がない素晴らしい完成形だ。だが、こいつの周りには緑の得体の知れない気配が常時放たれている。初見なり、面白い。)「お前は・・あの方が・・警戒なされていた・・鬼狩りか・・名は・・何という・・」

 

ブロリー「ブロリーです。」

 

黒死牟「そうか・・月の呼吸、壱の型、闇月・宵の宮。」ガキン

 

黒死牟はブロリーの名前を聞くと、呼吸でブロリーに斬りかかった。しかし、ブロリーも腕を出して金の籠手に刀が当たってつばぜり合いになった。

 

黒死牟「見事な・・反射神経だ・・」

 

ブロリー「フフフ!かかってきた割には随分軽かったぞ。これが本気ではないだろう?」

 

黒死牟「無論・・今のはただの・・挨拶代わりだ・・」

 

ブロリー「そう来なくっちゃ面白くない。」

 

お互いに距離を取って離れると、黒死牟は再び斬り込もうと構える。ブロリーも拳を握って力を込めると不敵に笑う。次の瞬間、二人の姿が消える。

 

ガガガガガガ

 

激しい攻防が始まったのだ。実弥達は姿は勿論、残像すら残らない程の俊敏な動きで全く見ることが出来ない。視界に捉えることが出来るのは、ぶつかり合ったときに散る火花だけであった。凄く激しい戦いを見た実弥達は、息を飲んで冷や汗を垂らしながら見ていた。

 

実弥(見えねぇ!サイヤ人も鬼も速すぎて見えねぇ!さっきまで俺と戦っていた時に鬼は手加減していたというのが丸分かりだ!腹立たしいが加勢できねぇ!)

 

無一郎(今の俺達だとブロリーさんにとって足手まといにしかならないことが嫌でもわからされる。悔しい・・!柱なのに何も出来ないなんて・・!悔しい・・!)

 

玄弥「兄貴!時透さん!何してんだ!早くブロリーさんに加勢しねぇと!」

 

無一郎「!玄弥!駄目!」グイッ

 

ブロリーと黒死牟の猛攻に飛び込もうとした玄弥の腕を無一郎が掴んで止めた。

 

玄弥「!時透さん、何で止めるんだ?」

 

無一郎「玄弥、俺達は加勢しないんじゃない、出来ないんだ。今行ってもブロリーさんの邪魔になるだけ、それどころか良くて無駄死に悪くて全滅されかねないんだよ。」

 

無一郎は心底悔しそうに顔を歪めて拳の握りしめてワナワナと震えていた。震える無一郎を見た玄弥は彼の心情を察して引き下がった。

 

玄弥(時透さん、本当は悔しいんだ・・本当は今すぐにでもブロリーさんに加勢したいんだ。)

 

ブロリーと黒死牟の猛攻はやがてお互いに距離を取って収まる。そこには疲弊している黒死牟と、全く息を乱してないブロリーがいた。

 

黒死牟「何故お前は・・私の剣撃が・・一切・・効かんのだ?再生している・・訳ではない・・刃が・・お前の体を・・通らぬ。」

 

ブロリー「そんな刀で俺を倒せると思っていたのか?」

 

無一郎(!猛攻が止まった!隙を突くなら今だ!)「霞の呼吸、弐の型、八重霞!」

 

実弥「風の呼吸、壱の型、塵旋風・削ぎ!」

 

行冥「岩の呼吸、壱の型、蛇紋岩・双極。」

 

無一郎達が黒死牟の動きが止まったのを見てチャンスと言わんばかりに斬りかかる。黒死牟はよけるが、着物が裂かれて上半身を露出した。

 

行冥「まだだっ!!畳み掛けろ!!頚を!頚を斬るまでは!!」

 

黒死牟「そうだ、その通り。」バッ

 

ビチャッ

 

行冥、実弥、無一郎、玄弥の四人の全身から再び血が噴き出した。黒死牟との距離は随分離れていてとても刀が届く範囲ではないのにも関わらず攻撃が届いた。そのことに行冥は動揺した。

 

行冥(馬鹿な・・斬られただと!?この間合いで攻撃が届くのか!奴は一体何をした!!)

 

黒死牟が構えていたのは、一本のとても長い刀にいくつもの刃がついている凶器だった。

 

黒死牟「着物を裂かれた程度では・・赤子でも死なぬ・・貴様らは痣が出ていない・・ブロリーさえ倒せば・・後は容易く済みそうだ・・月の呼吸、漆の型、厄鏡・月映え。」ドドド ガキン

 

ブロリーに向かって斬撃を放って当たるが、切断するどころかかすり傷一つすらブロリーの体にはつかない。それでも黒死牟は次々と呼吸を使って攻撃した。

 

黒死牟「月の呼吸、捌の型、月龍輪尾。」

 

刀が大きくなったことで攻撃範囲が倍以上に伸びて、実弥達は避けることに精一杯だった。ブロリーに向けられた広範囲の技を避け続け、気づけばブロリーの位置より後ろにいた。

 

実弥(頚を狙えねぇ近づけねぇ!!速すぎてやべぇ!!攻撃を避けることだけに渾身の力を使ってる!!そしてブロリーの後ろにまで下がっちまった!!)

 

黒死牟「月の呼吸、玖の型、降り月・連面。」

黒死牟「月の呼吸、拾の型、穿面斬・蘿月。」

 

黒死牟の技は全てブロリーに当たるが、それでもやはり効いている様子は全くない。現にブロリーは涼しそうな表情をしていたからである。黒死牟は段々と苛立ちが募っていった。

 

黒死牟「・・有り得ぬ・・何故刀が通らぬのだ・・並みの人間ならば・・とっくに跡形もなく・・切り刻まれてるはず・・」

 

ブロリー「とっておきはもう終わりか?じゃあ今度は俺の番だなぁ。」

 

黒死牟「お前は・・何なんだ?お前は・・一体・・何者なのだ・・」

 

ブロリー「俺はサイヤ人だ。」

 

二人は同時に動き出して、それぞれ刀と腕がつばぜり合う。攻防は激しさを増して行き、再び二人の姿が見えなくなく程の猛攻になっていた。

 

黒死牟「月の呼吸、拾陸の型、月虹・片割れ月。」

 

ブロリー「フン!こんなもの!」ビュオオ

 

上弦の壱程の強力な攻撃であっても『スーパーサイヤ人4フルパワー』に覚醒したブロリーには、当たったとしても痛くも痒くもない。だからこそブロリーは、黒死牟の技を避けることなく真っ正面から突っ込んだのだ。

 

ブロリー「デヤァッ!!」ドゴォ!

 

黒死牟「!ぬぅぅ!」

 

そして間合いに入って黒死牟の腹を蹴り飛ばしたのた。吹っ飛んだ黒死牟は体制を整えるが、蹴られた腹を片手で抑えていた。

 

黒死牟(なんだこれは?腹を蹴られただけだと言うのに細胞が内側から粉々に破壊されるような激痛が。しかも治まる気配も再生する気配もない。体術の一撃でも致命的な攻撃になる。童磨が怯えるはずだ。こいつは鬼にとって脅威だ。)

 

ブロリーによる攻撃を少しでも受けると上弦の鬼であっても致命傷になる。それを理解した黒死牟は焦った。

―――この時の黒死牟は、ある出来事を思い出していた。それは遡ること四百年前

 

黒死牟(鳩尾から旋毛まで突き抜けるような焦燥!生命が脅かされ体の芯が凍りつく!平静が足下から瓦解する感覚、忌むべきそして懐かしき感覚!四百年前のあの日赤い月の夜、私は信じられぬものを見た。)

 

黒死牟が見たもの、それは老いさらばえた弟の姿があったからである。その名は"継国縁壱"、黒死牟が人間だったとき"継国巌勝"の双子の弟である。この時代の鬼殺隊の殆どの剣士は"痣"というものが出ていた。それは更に剣術を極めた者だけが辿り着ける物であった。全集中の呼吸と組み合わせれば上弦の鬼にも匹敵するほどの力を誇れるが、これは寿命の前借であった。痣が出たものは二十五歳までに亡くなってしまうのだ。しかし、目の前に現れた縁壱は違った。痣があるにも関わらず、八十歳を超えても生きていたのだ。黒死牟は六つある目を見開いて驚いた。

 

黒死牟「・・有り得ぬ、何故生きている?皆死ぬはずだ、二十五になる前に。何故お前は・・何故お前だけが・・」

 

縁壱「お労しや、兄上。」

 

かつて双子だった二人だが、最後に会ってからもう既に六十年以上の月日が流れていた。その間、人間だったときも鬼になってからも縁壱が感情を表したところを黒死牟は一度も見たことがなかった。そんな弟が涙を流して憐れまれて自身に込み上げる感情があった。しかし

 

縁壱「参る。」ズァア

 

縁壱が刀に手を掛けた瞬間に威圧感で空気の重さが増した。黒死牟も同じように刀に手をかけるが鞘から抜くよりも前に頚から血が噴き出した。かつては鬼舞辻無惨を後一歩のところまで追い詰めたこともある縁壱。老いても全盛期と変わらない強さを縁壱は持っていた。黒死牟は間一髪生き延びたものの、焦燥と敗北感で憎悪の感情を向けていた。

 

黒死牟(何故いつもお前だけが特別なのだ!何故いつもお前だけがこの世の理の外にいる!神々の寵愛を一身に受けて生きている!お前が憎い、殺したい!)

 

この時の黒死牟には次の一撃で自分は確実に頚を斬り落とされると、心のどこかでそんな確信を持っていた。しかし、刀を構えて俯いたまま二度と動くことはなかった。寿命が来てしまい、直立したまま亡くなっていたのだ。

 

黒死牟(縁壱、お前はまたしても私の前に現れ、理さえ超越した存在であると見せつけた上、寿命で死亡し勝ち逃げた。誰も・・あの方でも、お前に勝つことは出来なかった。誰一人として縁壱に傷をつけることすら叶わなかった。何故だ?何故いつもお前は私に惨めな思いをさせるのだ?憎い、憎い!!)ズバッ ドシャ

 

あともう一息あれば自分は負けていた。それを理解した黒死牟は、死体となった縁壱の肉体を切り刻んだ。

―――そんな出来事があってから、黒死牟は"もう誰にも負けない""このような醜い姿になってでも勝ち続ける"そう決心して今に至るのだ。しかし、縁壱と最後に会ってから実に四百年、今度はその縁壱を圧倒的に凌ぐブロリーという隊士が現れたのだ。今の黒死牟は顔中の血管を浮かび上がらせて、ブロリーを敵意と憎悪の混じった表情で睨み付けた。

 

黒死牟「全てのしがらみから・・縁壱から・・解放されたというのに・・!今度は・・お前が・・!私に惨めな思いをさせるのか・・!」

 

ブロリー「縁壱?誰だそれはぁ?」ビュオオ ガキン

 

ブロリーは一直線に飛んで黒死牟を殴り飛ばそうとするが、黒死牟は刀で受け止めると押し返そうと力を込めた。しかしパワーではブロリーの方が上であるため、彼が少し力を込めただけで刀が折れて攻撃を諸に食らった。

 

ブロリー「フン!」ドゴォ!

 

黒死牟「ッ!ぐぬぅ!」

 

ブロリーの拳は黒死牟の胸部に当たり、そのまま弾き飛ばされる。致命傷となる攻撃を複数回受けた黒死牟は、あることに気づいた。

 

黒死牟(刀の討伐は、人間にも鬼にも効く。縁壱でさえ鬼の攻撃は避けていた。なのにこいつは喰らってもまるで効いてない。痣も透き通る世界も修得してない奴なんかに私が追い詰められてる。縁壱以上に神々の寵愛を一身に受けて生きている。縁壱以上にこの世の理の外にいる。何故お前はそこまでのことが出来るのだ!?何故無一郎と鬼擬きを治癒できる不思議な力を使うことが出来るのだ!?何故異次元の強さを誇れるのだ!?これならば縁壱の方がまだマシではないか!)

 

黒死牟がブロリーに対して抱いた感情、それは骨まで焼き尽くされるほどの嫉妬心であった。ブロリーは痣を出していないので二十五までに死ぬこともない。透き通る世界を修得していなくてもそれを上回るスピードで追い詰めることが出来る。更には空をも飛ぶことが出来て気で傷や病を治すことも出来る。これらの人間離れした技を使えるブロリーは、縁壱以上の化け物だと黒死牟に実感させたのだ。

 

黒死牟「っ・・化け物め・・!」

 

ブロリー「俺が化け物?違う、俺は悪魔だ!フハハハハハ!!」

 

ブロリーは自分で訂正して高笑いしていると、黒死牟が次の技で斬りかかる。

 

黒死牟「月の呼吸、拾肆の型、兇変・天満繊月。」

 

ブロリー「無駄なことを、今楽にしてやる。破壊の呼吸、拾捌の型、ギガンティックスタンプ!」ガッ ドゴォ!

 

黒死牟「!ぐぅ!」グシャッ

 

黒死牟の攻撃を喰らうがやはり傷をつけることすら叶わず、ブロリー自身もまるで意に介しておらずに膝蹴りを決めると、そのまま動物を踏み砕いた。この時の黒死牟は、人間時代に言われた縁壱の言葉が走馬灯のように思い出していた。

―――当時の黒死牟もとい"月の呼吸"の使い手巌勝と"始まりの呼吸"の使い手である縁壱は、鬼殺隊の柱の中でも格別の強さをもつ2トップであった。水の呼吸や風の呼吸等の後継者はいたが、月の呼吸と日の呼吸の後継者がいまだに現れてなかった。巌勝は同等の実力をもつ若手が育たないことを危惧していたのだ。縁壱にそのことを言った。

 

巌勝「後継をどうするつもりだ?我らに匹敵する実力者がいない。呼吸の継承が絶望的だ。極めた技が途絶えてしまうぞ。」

 

縁壱「兄上、私たちはそれ程大そうなものではない。長い長い人の歴史のほんの一欠片。私たちの才覚を凌ぐ者が、今この瞬間にも産声を上げている。彼らがまた同じ場所まで辿り着くだろう。何の心配もいらぬ。私たちは、いつでも安心して人生の幕を引けば良い。浮き立つような気持ちになりませぬか?兄上、これから生まれてくる子供たちが、私たちを超えて更なる高みへと登りつめてゆきます。」

 

縁壱はこれからの未来を心底楽しみにして、安心したかのように微笑んでいた。だが、巌勝はそれを面白く思っていなかった。

―――黒死牟は当時言われたことを度々思い出しても未だに共感出来てなかった。

 

黒死牟(縁壱、お前はこの事を言ってたのか?お前の才覚を凌ぐ者はこのブロリーだとでも言うのか?)

 

縁壱の言っていたことが本当だったとしても、黒死牟は浮き立つような気持ちにはならなかった。それどころかそれを想像すると吐き気と憎悪が込み上げた。

 

黒死牟(縁壱、お前が笑うときいつも俺は、気味が悪くて仕方がなかった。それぞれの呼吸の後継がいないという話をしていた時もお前は、突如奇妙な楽観視をし始めて、笑った。"特別なのは自分たちの世代だけなのだ"と慢心していた私は、気味の悪さと苛立ちで吐き気がした。何が面白いと言うのだ。人間が傷を再生させて強靭な肉体を持ち、更には致命傷となる攻撃をされる。そんな未来を想像して何が面白い。己が負けることなど考えただけで腸が煮え返る。)

 

黒死牟は、鬼殺隊最強の剣士は縁壱だと思っていた。そしてその至高の剣士がいなくなり、自分は誰にも負けるわけにはいかないと鬼になってでも呼吸を極める道を選んだのだ。

 

黒死牟(俺はもう二度と敗北しない。そうだ、例え頚を砕かれようとも。体は崩れていない、まだ再生できる、まだ死なぬ。そして私は頚の切断からの死を克服する。)メキメキ

 

そして黒死牟は、強い執念でブロリーに潰された頭を再生して克服してしまったのだった。それは、口元に沢山の牙がついて額からは鋭利な角が飛び出し、身体中から刺のような刃が生えている完全に人間離れした姿だった。

 

実弥「頭を再生しやがったあの野郎!!糞が!!畜生がァァ!!」

 

無一郎「・・ッ!」

 

玄弥「そんな・・もうどうすることも出来ないのか・・?」

 

行冥「・・・・」(私はブロリーが勝つと信じるぞ。)

 

黒死牟(克服した・・これでどんな攻撃も無意味・・太陽の光以外は・・これで私は・・誰にも負けることはない・・)

 

実弥達は頚を再生されたことを忌々しそうに叫び、黒死牟も克服に成功して"誰にも負けることはない"と強い自信を覗かせた。しかし、黒死牟の姿を見たブロリーは嘲笑った。

 

ブロリー「なんだお前、その姿は?更にムシケラっぽい見た目になったな。そんなので俺を倒すつもりか?」

 

黒死牟「私は・・何者にも・・負けない・・一番強い侍に・・なる・・」

 

ブロリー「自分自身の姿を確認してから言うんだな。」ジャキン

 

ブロリーは鞘から自分の刀を抜くと、光沢がある緑色の部分を黒死牟に見せた。刀に映った自分の姿を見た黒死牟は絶句した。

 

黒死牟(何だこの、醜い姿は・・侍の姿か?これが・・これが本当に俺の望みだったのか?こんな醜い姿になってまで・・)

 

黒死牟は膝をついて肩を震わせながら今までの自分の信念を思い返していた。

 

黒死牟(頚を落とされ、徹底的に追い詰められて、それでも負けを認めぬ醜さ、""生き恥""。こんなことの為に私は何百年も生きてきたのか?負けたくなかったのか?醜い化け物になっても・・強くなりたかったのか?人を喰らっても・・死にたくなかったのか?こんな惨めな生き物に成り下がってまで・・違う私は・・私はただ・・縁壱、お前になりたかったのだ。)

 

黒死牟は自分自身の本当の思いに気づいて人間時代だったときの記憶が一気に流れてくるのだった。

―――黒死牟もとい"継国巌勝"が生まれたのは戦国時代のことであった。当時は双子で生まれると跡目争いの原因とされるため不吉とされていた。弟である"継国縁壱"は、生まれつき痣もあって父親が"弟を殺す"と言った。それを聞いた母親が烈火のごとく怒り狂って手がつけられなくなり、十歳に寺へ出家させる手筈となった。巌勝から見た縁壱は、常に母親の左脇にぴたりとくっついていた。それを見た巌勝は可哀想だと思ったのだ。父親の目を盗んで縁壱の部屋に遊びに行き、笛を作って渡したこともあった。縁壱は全く笑わず、全くしゃべらないので耳も聞こえないのだと思われていた。ある日、巌勝が庭で素振りをしていると、縁壱は松の木の陰に立っていた。

 

縁壱「兄上の夢はこの国で一番強い侍になることですか?俺も兄上のようになりたいです。俺はこの国で二番目に強い侍になります。」

 

突然口を開いたかと思えば、流暢に話しかけられて巌勝は手から木刀を落とすほど驚いた。そして"自分も侍になる"と言って笑った縁壱を、巌勝は"十になったら寺へ追いやられる。侍ではなく僧侶になると決まっている。それをわかっていないのか?"と思い、表情には出さないが気味悪がっていた。それどころか"母親を見てすぐにしがみつきに行くような者がなれるはずもない"とすら思っていた。しかし、縁壱はその日以降教えてほしいとうろちょろするようになった。そして巌勝に剣技を教えていた父親の輩下が戯れに竹刀を持たせた。持ち方と構え方を軽く伝えただけで"打ち込んでみよ"と構えたのだ。

 

スゥゥウウ ガガガガガ

 

だが、戯れだったはずなのに巌勝がどれだけ頑張っても一撃を入れられなかった輩下を、縁壱はいとも簡単に打ち取ってしまったのだ。輩下は骨などには異常はなかったものの、打ち込まれた箇所が拳程の大きさに腫れ上がっていたのだった。縁壱はその後、侍になりたいとは言わなくなった。彼にとって人を打ち付ける感触がとても不快なものだったからだ。しかし、兄である巌勝は縁壱の強さの秘密をどうしても知りたくて食い下がって問い詰めた。すると

 

縁壱「打ち込んでくる前に肺が大きく動く。骨の向きや筋肉の収縮、血の流れをよく見れば良い。」

 

この時の巌勝は、縁壱が何を言ってるのかさっぱり理解出来ていなかった。生き物の体が透けて見えていると理解するまで時間がかかった。生まれつきの痣と同じように生まれつきの特別な視覚、そしてそれに即応できる身体能力を持っている。巌勝が今まで哀れんでいた者は、自分よりも遥かに優れていた。

 

縁壱「剣の話をするよりも俺は、兄上と双六や凧揚げがしたいです。」

 

縁壱は、剣技よりも他の遊びをする方が好きだった。しかし、巌勝は剣技を極めたいと思っていた。巌勝もかなりの才能を持った逸材であった。父親から才覚が認められていて努力すればそれに応じて力をつけていく。縁壱は更に優れていたのだ。しかし、神々に寵愛を受ける程の才能を持っていても本人にその気がなければ意味はない。縁壱にとって剣の話はとてもつまらなそうだったのだ。

その日の夜、巌勝は"父の輩下は縁壱のことを報告するはず""家を継ぐのは縁壱だ""自分は物置同然の部屋へ閉じ込められて三年後に寺に追われる""侍になる夢は叶わない"そんな不安で一睡も出来てなかった。そんな時、縁壱が部屋の前で自分を呼んだ。

 

縁壱「兄上。」

 

巌勝「・・何だ?」

 

縁壱「母上が身罷られました。」

 

巌勝「何だと?何故突然そのような、何があった?」

 

突然二人の母親が亡くなったのだ。巌勝にとってもそれは衝撃的なことであり、詳細を縁壱に聞くが縁壱は答えなかった。

 

縁壱「申し訳ありません。仔細は側務めの"いと"にお聞きください。俺はこのまま寺へ発ちます。」

 

巌勝「発つ?今からか?」

 

縁壱「はい、別れの挨拶だけさせていただきたく。この笛を。」

 

巌勝「笛?」

 

縁壱が懐から取り出したのは、かつて縁壱が閉じ込められてた時に巌勝が作って渡した小さな笛であった。縁壱はそれを宝物のように大切に扱って笑っていた。

 

縁壱「いただいたこの笛を兄上だと思い、どれだけ離れていても挫けず、日々精進致します。」

 

巌勝「・・・・」

 

縁壱は満足したように笑って頭を深々と下げたが、巌勝は言葉こそ返さなかったが、縁壱とは全く違う思いを抱いていた。この笛は正確に調節して作ったわけではないため、吹いても外れた音しか出ず、本人はがらくた程度にしか思っていなかった。とっくに捨てられてるものだと思ったそれを、笑いながら大切にする。そんな縁壱を見て、巌勝は気味が悪いと思っていた。

そしてそのまま荷物も殆ど持たずに早々に屋敷を去っていったのだ。巌勝はその後、母親の日記を見た。そこには縁壱は自分が跡継ぎになると気づいていて予定よりも早く家を発つことにしたこと、母親自身の病も死期も左半身の不自由に気づいていたことが書かれていた。縁壱は母親にしがみついていたのではなく、弱っていた母親を支えていたのだ。それに気づいた巌勝は、全身が焼き付くす程の嫉妬心を覚え、縁壱を心の底から憎悪したのだ。

 

巌勝(頼むから死んでくれ。お前のような者は生まれてさえ来ないでくれ。お前が存在しているとこの世の理が狂うのだ。)

 

巌勝はその後縁壱を全力で嫌悪するようになった。父が縁壱を連れ戻そうとしたときも、叶うならば全力で抗議したかった。しかし、寺へ来てみれば縁壱はそこへ来ておらず、忽然と消息を絶った。何が起きたのかは理解できなかったが、願いが叶ったことに安堵していた。

縁壱が影も形も無くなってから実に十年。成人になった巌勝は、充実した日々を送っていた。妻をもらい子供も生まれ、のどやかでどこか退屈した毎日だった。しかし、野営していた所を鬼に襲われて仲間が全滅し、絶体絶命の時に鬼の頚が跳ねられる。鬼を倒したのは長く顔も見ていない縁壱だった。幼少期とは比べ物にならない程に剣の技術は極められ、人外の者も容易く倒した。呆然としている巌勝に縁壱は声をかけた。

 

縁壱「申し訳ございません。兄上。」

 

縁壱は自分の到着が遅れて巌勝の配下が死んだことを詫びた。強くて非の打ち所がない人格者となっていたのだ。鬼を狩る組織があると知った巌勝は、縁壱の技術と強さをどうしても自分の力としたいと思い、妻と子供を捨てて鬼殺隊に入る道を選んだ。縁壱は誰にでも呼吸を教えて派生のものが次々と出来上がった。しかし、誰一人として縁壱と同じ"日の呼吸"が使えるものは現れなかった。巌勝が使える"月の呼吸"も"日の呼吸"の派生のものだった。そして巌勝にも痣が出る。それでも"日の呼吸"を使えることはなかった。"もっと鍛練を重ねれば縁壱に追いつけるのだろうか?"悔しい思いでいっぱいだったとき、痣者が次々と亡くなったのだ。"寿命の前借りに過ぎない、未来も時間も残されてない"その事実に巌勝は絶望していた。そんな時、巌勝は無惨と出会った。

 

無惨「ならば鬼になれば良いではないか。鬼となれば無限の時を生きられる。お前は技を極めたい、私は呼吸とやらを使える剣士を鬼にしてみたい、どうだ?お前は選ぶことが出来るのだ。他の剣士とは違う。」

 

無惨の提案は巌勝が心底願って欲していたものを与えた。そして黒死牟という鬼としての名を使うようになり、今に至るのだ。

―――縁壱の実力に追いつくという目的はいつか、どれだけやられても再生して敗北を認めないというものに変わっていた。往生際が悪い今の自分は恥を晒しているということに気づいた黒死牟は、消え入りそうな声でブロリーに言った。

 

黒死牟「頼む・・私を・・残酷に・・殺してくれ・・これ以上・・生き恥を・・晒したく・・ないのだ・・」

 

ブロリー「それは別に良いが、何故残酷な死に方を求めるんだぁ?」

 

黒死牟「今までの・・私自身に・・対する・・けじめ・・そして・・せめて・・お前には・・どうしても・・敵わなかったと・・名誉ある・・死が・・欲しいのだ・・」

 

ブロリー「良いだろう。破壊の呼吸、拾玖の型、ギガンティックジェノサイド!」ポゥ グッ ドゴォ!! デデーン

 

ブロリーは左手に緑色の気を貯めて握り締めると、そのまま黒死牟を殴り飛ばした。その衝撃で黒死牟の肉体は粉砕され、飛び散った肉片は灰になっていった。

黒死牟は気がつくと辺りが真っ暗な空間へと立っていた。しかし、生気を体に感じることはなかった。その点から黒死牟は理解した。

 

黒死牟(体に生気を感じない。そうか、ブロリーはやってくれたのだな。結局、私は何も手に入れることが出来なかった。妻も子も捨て、人間であることを捨て、侍であることも捨てたというのに、ここまでしても駄目なのか?道を極めたものが行き着く場所は同じだとお前は言った。しかし私は辿り着けなかった、お前と同じ世界を見ることが出来なかった。日の呼吸の型を知る剣士も、お前の死後あの方と私で徹底的に殺し尽くした。それなのに何故お前の呼吸は残っている?何故私は何も残せない?何故私は何者にもなれない?何故私とお前はこれ程違う?私は一体何の為に生まれてきたのだ・・教えてくれ、縁壱。)

 

黒死牟は、今までの人生と鬼生で全てにおいて縁壱よりも劣っていたと振り返って打ちのめされていた。そんな時、背後から聞き覚えのある声がした。

 

縁壱「兄上。」

 

その声に反応して黒死牟はゆっくりと振り返る。そこにはかつて見るだけで吐き気と苛立ちを感じた実の弟、縁壱の姿だった。しかし、もう死んだからなのか憎かったはずなのに今はもうなんとも思わなくなっていた。

 

黒死牟「縁壱・・」

 

縁壱「兄上、私はずっと貴方を待っておりました。鬼になった兄上の頚を切り損ねてから後悔と未練でずっと心痛しておりました。ブロリー殿のおかげで、ようやく兄上をお迎えにあがれました。」

 

黒死牟「縁壱、教えてくれ。かつてあの方をも追い詰めたお前は奴に、ブロリーに勝てるか?」

 

縁壱「・・おそらく、いえ、絶対に倒せないでしょう。ずっと見守っていましたが、彼は鬼の血鬼術に加え、日輪刀ですらそもそもとして効きませぬ。透き通る世界で行動を先読みしても彼自身が持つ速さがそれを上回ります。私では瞬く間に手も足も出ずにやられることでしょう。ブロリー殿が鬼ではないことに、心底安堵しております。」

 

縁壱は安心した表情で淡々とブロリーについて評価していた。自分では絶対に倒せないと言いきった縁壱。それだけでなく鬼ではないことをホッと胸を撫で下ろしている様子に、黒死牟は驚いたのか、六つある目を全て見開いていた。

 

黒死牟(縁壱・・まさかお前がそこまで弱気な発言をするとはな。あの方をも追い詰め、この世の理の外にいると見せつけたお前が敗北宣言をするとはな。お前も、人間だったということか。)

 

縁壱が不安に思っていたところを見て、黒死牟は自身に乗っていた重りのようなものがストンと落ちたような感じがして気が随分と楽になったことを実感した。そして黒死牟は、炎が燃え盛っている方へ向けてゆっくりと歩きだした。その時に、鬼の姿から人間の姿へと戻っていた。

 

縁壱「兄上、どちらへ行かれるのですか?」

 

巌勝「私は醜い生き物に成り下がって沢山の人を喰らって殺してきた。お前と同じ方向へは行けぬ。」

 

縁壱「兄上・・お供します。」

 

縁壱は巌勝と共に地獄へ行くと言い出して音もなく一瞬で巌勝の横に並んだ。それを見た巌勝は驚愕の顔で縁壱を見た。

 

巌勝「何を馬鹿なことを・・!」

 

縁壱「兄上が鬼となって沢山の人々を喰らったことの一因は私にもあります。私が鬼舞辻を惨殺できなかったから、兄上を倒せずに私が寿命尽きてしまったから。兄上の大罪を増やしてしまった。なのでこれは私なりのけじめです。」

 

巌勝「縁壱・・好きにしろ。」

 

縁壱「!ありがとうございます。兄上、全ての罪を償い終えてまた来世でも兄弟になったのなら、兄上と双六や凧揚げがしたいです。」

 

巌勝「・・兄弟で生まれ変わったのなら、考えておこう。」

 

巌勝と縁壱は並んで炎の方へと歩いていき、やがて包まれて消えていくのだった。

―――現実世界では、ブロリーが黒死牟を倒したと確信するや否や玄弥たちに囲まれた。無一郎に至っては後ろから飛び付いていた。

 

玄弥「破壊柱様、また助けられちまったな。」

 

行冥「南無・・死人を出さずに上弦の壱を倒した、実に素晴らしいことだ。この快挙は君でしか成し遂げられなかった。本当によくやった。」

 

無一郎「ブロリーさーん!助けてくれてありがとう!」

 

ブロリー「お前達も俺が来るまでよく耐えたと誉めてやりたいところだぁ!」

 

そんな中、実弥が最後にブロリーに声をかけた。それに反応してブロリーはゆっくりと振り返る。

 

実弥「おい、サイヤ人。」

 

ブロリー「なんだぁ?」

 

実弥「・・お前が玄弥の傷を治して助けてくれたんだろォ?・・その事については感謝してるぜぇ。だから・・ありがとな!!ブロリー!!お前を認める!」

 

実弥は恥ずかしいのか顔を真っ赤にしながら吐き捨てるように礼を述べた。行冥や無一郎は、今まで散々ブロリーのことを毛嫌いしていた実弥の感謝の言葉には、声もでないほど驚いていた。

 

ブロリー「フフフ!そうか。お前の兄弟を助けられたことはよかったな。仲良くしてやれよ。」

 

実弥「言われるまでもねェ。」

 

実弥とブロリーはお互いに拳同士で軽く突いて健闘を称えあった。そしてブロリーは、まだ残っている鬼の元へ向かって飛んでいったのだった。




今回は黒死牟が少し救われるような感じで終わらせてみました。次回は獪岳編や鳴女編を書く予定です。今回も最後まで読んでくださってありがとうございました。それではまた次回。
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