エルリック兄弟を引き連れてショウ・タッカー氏の家までやってきた。留守では困るので念のためとマスタングさんに電話で確認を取ったのでアポイントは大丈夫である。扉の横に設置されている紐を引きベルを鳴らしていると茂みから飛び出した大きな犬にエドワード君がのしかかられていた。それとほぼ同じタイミングで家の中からタッカー氏とその娘さんが出てきた。
「こらだめだよアレキサンダー」
「ふむ、なかなかに立派な犬だね。アレキサンダーと言うのか君は」
「犬好きなんですかフューム中将」
「軍犬の様に厳つくなければね」
とりあえず完全に潰れる前にエドワード君を助け出すとタッカー氏に案内されるまま家の中に入って行く。家の中は物が積み重なり、ほこりや蜘蛛の巣で一杯だった。話を聞くと
「あらためて初めまして、フューム中将にエドワード君、『綴命の錬金術師』ショウ・タッカーです」
「ああ、よろしく頼む。知ってるか分からないが私は他の国家錬金術師の査察を任されていてな。研究の進み具合や生活環境などを拝見させていただく、エドワード君はその手伝いとして着いてきた形だ」
私は軍から渡されている査察に関する書類のコピーを渡し、私の立場とエドワード君の立ち位置に着いて説明する。書類を一通りみたタッカー氏は書類を返却し、頷いた。
「なるほど、そう言った制度もあるんですね。査察の件は分かりました。査察に関する全権を持っている様に書かれていたので理解しましたが、普段から他の錬金術師の手伝いなどは在るのですか?それとエドワード君は『鋼の錬金術師』としての立場がありますが、そちらの鎧のアルフォンス君に関しては部外者に近いと思うのですが?」
なるほど、確かにその点に関しては疑問を覚えるのに納得だ。事実として今までに手伝いを頼んだことは無いし、別の目的があってきている身だ。そして軍に忠誠を誓う国家錬金術師のエドワード君は未だしも、アルフォンス君は一般市民だ。一研究者として、また一錬金術師としては不用意に研究を見せるのは不安だろう。私はエドワード君に視線を送り、事前に用意していた設定を話す事にした。
「話す予定でいたのですが少し事情がありまして、エドワード君良いかい?」
「ああ」
嘘は言っていない、何かしら突っ込まれた場合にはこのように話すと決めていた。エドワード君はその場で上着を脱いで見せるとそこには機械鎧となった右腕が露わになった。
「なるほどそれで『鋼の錬金術師』と、しかし事情とは」
「彼の右腕、そして左足は機械鎧となっています。私もマスタング大佐からそれとなく聞いていたのですがあの東部の内乱に巻き込まれて失ったそうです。彼は失われた腕と足を取り戻すのを目指し錬金術の研究を行っています。弟のアルフォンス君はその手伝いです。そのため生体錬成、合成獣の権威とも言われているショウ・タッカー氏の研究は彼等の目的に通じているのではと思い、査察の手伝いと言う名目で連れてきたのは軍への説明の為ですね」
私は以前に子飼いの国家錬金術師に着いて尋ねた際には戦渦に巻き込まれた少年と言う話をそれとなく聞いていた。聞いた話を伝えているだけなので嘘ではない。肉体を取り戻すために頑張っているし、弟アルフォンス君はそれを手伝っている。嘘は一つもない。
「そう言う事でしたか、幼くして戦渦に巻き込まれたとは辛かったね。役に立てるかどうかはわかりませんが私の研究室を見てもらいましょう」
「ありがとうございます」
家の奥へと進んでいくと研究の材料や副産物だと思われる動物や合成獣が檻などに収められていた。思わず声を上げたエドワード君は悪くは無いだろう。
「いやお恥ずかしい。先ほどもフューム中将に言われましたが、巷で合成獣の権威と言われてるけど実際のところそんなにうまくは言ってないんだ」
「おや、査察である私の前でそのような事を言って良いのですか?」
「隠していてもしょうがないでしょう。事実を見つめる事も錬金術師には必要な事です。着きました、此処が資料室になります」
開けられた部屋の中には並べられた多くの本棚とその中にびっしりと納められた研究資料の数々だった。私は似たような光景を見慣れているのだが、エドワード君は感嘆の声を上げている。
「自由に見てていい私は研究室の方にいるから」
「よーしオレはこっちの棚から」
「じゃあボクはあっちから」
「私は査察に関して研究室でタッカー氏と話をしてくる。業務上研究資料は私も確認するから後で合流する。ああ、それと夕方には帰るからね」
アルフォンス君は私の話が聞こえた様だが既に資料に夢中になっているエドワード君には声が届いていない様だった。
「すごい集中力ですねあの子もう周りの声が聞こえていない」
「ええ……あの年で国家錬金術師になる位ですからね、ハンパ者じゃないのでしょう」
「いるんですよね。『天才』ってやつは」
彼らの様子を見るに放っておいても問題は無いので、研究室まで向かって仕事として『綴命の錬金術師』について話を聞くとしよう。私が見るのは『ショウ・タッカー』と言う個人ではなく、『国家錬金術師』と言う特権者足り得る存在かを測るために向き直る。
「それで、先ほどもお聞きしましたが研究の進捗の方は」
「言った通りで、あまり進んでいないのが現状です」
「提出された資料は見ましたが、最近の研究のまとめなどがあるようでしたら拝見させていただきたいのですが」
「分かりました。えっと……これですね」
ふむ、掛け合わせた生物による検証例、知能レベルの引き上げを目的とした錬成陣、そして完成した場合の運用方法、どれも一般の錬金術師と比べればそこそこだが、国家錬金術師のレベルかと言われれば頷く事は出来ない。これで有能性が認められれば事前に
「研究自体はしっかりと行っているようなので査察としてとりあえずは問題は無さそうです」
「そうですか、いやぁ問題が無くて良かった。ニーナの為にも国家錬金術師を辞める訳にはいきませんから」
「可愛らしい娘さんが研究の秘訣ですか?それでは私は合成獣の確認をしてから資料室の方に向かわせていただきます」
軽く礼をしてから部屋を後にする。資料に載っている合成獣の確認と錬成陣について自分の目で見た内容を記してから兄弟の方へ合流する。既に16時を過ぎており、結構な時間である。こちらの進捗はどうだろうと思いながら扉を開くとニーナとアレキサンダーと楽しそうに遊んでいる兄弟の姿が見えた。
「ふむ、ジャマをしない方が良いかな。向こうで資料をみるとしよう」
しばらくして日がもう落ちきろうとする頃にマスタングさんの部下のハボック少尉がやってきた。何やら話があるので私に東方司令部に顔を出してほしいという事と最近物騒なのでエドワード君の護衛だそうだ。
「よぉ大将迎えに来たぞ………何やってんだ?」
あれからずっと遊んでいたのか最初に家を訪れた時の様にアレキサンダーの下敷きになりながらうめき声を上げている。ハボック少尉も少し呆れた様子だ。
「いや、これは資料検索の合間の息抜きと言うかなんと言うか!」
「でいい資料はみつかったかい?」
「・・・・・・」
「・・・・・・また明日来るといいよ」
タッカー氏の質問に対して何も答えられないエドワード君に何とも言えない空気が漂うが、また来て言いと提案されフラフラとした足取りで変える準備を始めた。
「ああタッカーさん、大佐からの伝言が。『もうすぐ査定の日ですお忘れなく』だそうです」
「……ええわかっております」
マスタングさんからの伝言を聞き、やはり研究の調子は悪いのだろうか少し暗い口調で返していた。
「で結果はどうだった?
「タッカーと言いましたカ。あれの妻は生きていないようでス」
「そうか……他には?」
「例の
「傷の男か、あれも気にはなっている。が、とりあえず明日だ。お前なら私より良く見れるだろ」
「なるほど、分かりましタ」
路地の陰から現れた細身で背の高い男、この国の出身ではないためやはり訛りが多少ある。スーと呼んだ彼は私の協力者で非常に優秀な情報収集役だ。私の練丹術の師匠でもあり、私では勝てない特技を持っている。
「タッカーとニーナ、それとアレキサンダーの気が乱れたら合図を」
「了解しましタ」
鎌をかけるだけでも何とかなるだろうが、出来る限り証拠はあった方が良い。段取りを確認し終えたので分かれて東方司令部へと向かう。
「あっそうダ。使い切ったので食事代を下さイ」
「……はい」
「ありがとうございまス」
これが無ければ手放しで褒められるのにとため息を一つ吐いて少しの間スーの消えていった方を見つめて、今度こそ彼が街の陰に消えて行ったのを確認して東方司令部を目指した。
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昼間はエルリック兄弟の付き添いでお邪魔していたタッカー氏の家を屋根の上から静かに見つめていた。既に辺りは結構暗くなっているというより、もう少し時間が経てば日付も変わる頃だろう。
「動いたか」
少し離れた位置から足元に向けて小さな錬成反応が素早く2回起こった。錬成反応に気付かれない様に自分が通れるだけの小さい穴を開けて家の中に侵入する。これだけ近づけば私にも分かるので相手の位置を確認しながら様子を伺う。
明かりもつけず、暗いままの家の中を歩くタッカー氏。彼は最初に部屋の中にニーナを運び、次にアレキサンダーを運び込むと片膝を着いて床に錬成陣を描き始めた。それは研究書にも載ってた彼が合成獣を作り出す際に使用している錬成陣、そしてそこに人を意味する言葉と犬を意味する言葉が付け加えられている。
「ごめんな。もうこれしか無いんだ」
そう言って眠っているニーナの頭を撫でるタッカー氏を見据える。合成獣に人を用いるという人道に反する行いの証拠である錬成陣の確認は出来た。隠れる必要性は無くなったので陰から出て彼の背後に立つ。
「それが貴方の本性ですか?」
表情に驚きを隠せてはいないが予想よりも落ち着いている様で騒ぎ立てる事はしなかった。なぜだという疑問よりも先に落胆や諦めが心を埋め尽くしたのか、私の姿を見た瞬間にため息を一つ吐いて座り込んだ。
「……私の事を見張っていたのか?」
「査察の相手については調査することにしているんです。それと中央にいた頃に目を通した2年前に提出された記録にある錬成陣と確認された合成獣のデータに違和感がありました。そして貴方の奥さんは消息不明となれば答えは1つですよ」
「……君のような勘のいいガキは嫌いだよ。それと『天才』という存在もね」
消される前に錬成陣の写真を取り、タッカーの身柄を拘束する。ニーナとアレキサンダーはクスリか何かで眠らされているようだが命に別状はないだろう。マスタングさんの所に連絡を入れタッカーを引き渡す。
「はあ、また仕事が増えた。事が事だし中央から人が来るだろうし、憂鬱だ」
「相変わらずですね。まあ、国家錬金術師の評判はさらに落ち込むのは確実ですからね。我々としても面倒ではあるでしょうが未然に防げたんですから良しとしてくださいよ」
「
「はて、何のことですかね」
そう言って煙に巻くがマスタングさんの視線は途切れる様子は無い。全くこの人は過保護が過ぎるんじゃないかと常々思いますね。
「怪しいと睨んでいた場所に連れ出したことは彼らに直接謝罪しますよ。ですが結果的に利用した形になりましたが、そう言った意図はありませんでしたよ」
「彼等にはどう伝えるつもりで」
「そうですね。こうなってしまったからにはショウ・タッカーの研究資料は押収対象ですしこれ以上の閲覧は不可能ですね。何故そうなったのかを黙っていても彼等なら調べることでしょうし、何をしたのかをそのまま伝えますよ」
そこまで言い切るとマスタングさんとの話は切り上げた。納得いかない所は在るようだが、何も言わせない。大人ぶっている彼等には大人というものを知る機会が必要だろう。
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エドSIDE
「タッカーさんが捕まった?!」
「はい。昨日の夜に」
急に告げられたタッカーさんの資料を見れなくなったという情報に驚いてどうしてなのかを訊くと更に驚きの情報が告げられた。
「査察の前に対象に着いて調べる事にしていたのだけど、彼の奥さんは消息不明になっていたよ。それと彼が国家錬金術師に成った際の資料もおかしい所があって張り込んでいたら尻尾を出した」
「タッカーさんは何をしたんだ?」
「彼は二年前に自分の奥さんを使って合成獣を作りだしたの」
「「!?」」
人間を材料にして合成獣を作ったという聞くだけなら単純だが想像するのは難しい。いや、信じられない信じたくない事実であった。
「そして彼は今年の査定の為に今度はニーナとアレキサンダーを材料にしようとしたのでそれを私が止めた。証拠の錬成陣の写真があるけど見たい?君たちなら理解できると思うけど」
怖いもの見たさなのか、信じたくなかったのか、その時の心情は自分でもよくわからなかったが、オレは中将の言葉に頷きを返し、写真を見た。合成獣については詳しくは無いが、人を組み込んでいる事は理解できてしまった。
「それと、今回はごめんなさい」
中将と言う地位にいる人が俺達に向かって頭を下げた。何の事を謝っているのか、冷静じゃない頭ではすぐには分からなかった。
「私は事前に調査したと言った通り
説明を聞いても分かったような、分からないような。どうにも頭が上手く働かず直ぐに言葉が口から出てこない。だけど
「けど、行くと決めたのはオレ等だ。二日しか見れなかったのは残念だけどな」
「あの……ニーナとアレキサンダーはどうなったんですか?」
黙っていたアルはずっとニーナとアレキサンダーの事が気になっていたようでオレと中将の話が終わるとすぐに訊いた。
「無事に保護されていて、今は薬を盛られた事から念のため病院で検査を行っているよ……という事よりニーナとアレキサンダーが今後どうなるかと言った話かな、気になっているのは」
「はい」
「奥さんは殺されているし、ニーナと奥さんの実家は面識もないようなんだ。タッカーの家族はもういない様だし、軍の方でもどうするべきなのかと悩んでいるよ。それと父親の件について伝えるべきなのかとかも未だに決まっていないんだ。まあ、何処か軍の伝手から養子に出せればいい方だろうね」
「そうですか、タッカーさんは」
「彼は現在自宅待機の命令が出されている。今後については私もまだ知らない。気になるようなら明日にでもマスタングさんやその部下の人にでも訊くといい。ちなみに一般人は立ち入り禁止だが今回の件に関わっている君なら会えると思うが、オススメはしない」
昨日までそれなりに話をしたり、色々とお世話になっていた人のそんな姿を見たらどうにかなってしまう気がする。他に訊きたい事がないと告げると最後にもう一度謝罪を告げて中将は部屋を出て行った。
「なあアル、錬金術って何なんだろうな」
「……たぶん誰にも分からないよ」
「……そうか」
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暗く曇った空から落ち続ける雨の中、ショウ・タッカーを逃がさないために憲兵が家の前に待機していると褐色の肌に大きな傷が目立つ男が近寄った。
「む……タッカー氏に用事か?一般人は立ち入り禁止になっている用件があれば……」
「通る」
降りやまない雨の中にゴロゴロと雷鳴が混じり始めた。自分以外誰も居なくなった部屋の中で1人佇む影。
「なんで誰もわかってくれないんだろうなぁ」
「ショウ・タッカーだな?」
いきなり部屋に現れた男に驚くよりも先に疑問が湧いた。
「誰だ君は、私になんの用だ。軍の者…ではないな」
明らかに軍の人間ではない姿と立ち振る舞いを見て異変に気付く。
「どうやって入ってきた。表に憲兵がいたはずだ……」
「神の道に背きし錬金術師滅ぶべし!!」
ショウ・タッカーの顔を右手で掴むと体中から血を噴きだしてその体は倒れた。