「これでよし」
「おっ良い感じですさすがピナコ先生」
男は付けられている義足の調子を確かめるべく立って足を延ばしたり確認をしている。その様子を見守るのは背の低い丸メガネの婆さんである。
「どうだいおもいきって機械鎧にしてみないかい?」
「はは…冗談でしょう?たしかに便利かもしれませんが手術後の痛みとリハビリが大変だと言うじゃありませんか」
「いい年して何をビビってんだい右手と左足をいっぺんに機械鎧にしたガキいるってのに」
「私にそんな勇気はありませんよ、じゃあ」
客を見送って煙管を銜えて煙を吐き出していると、近くで横になっていた犬が立ち上がり、わうっと声を上げた。
「ん?なんだいデン――おや来たね。ウィンリィ!上客が来たよ!ウィンリィ!」
家の中で作業をしている孫娘に声を上げて知らせるとデンと呼ばれた犬を連れてこちらへと歩いてくる昔から知ってる小僧の顔を確認する。
「ふん…元気そうじゃないか」
「よう、ピナコばっちゃんまたたのむよ」
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SIDE:エドワード
「こちらアームストロング少佐」
「ピナコ・ロックベルだよ」
一応世話になっているので紹介する。対格差の凄い2人が握手をしているのは中々に面白い構図に見える。そんな中で動けないアルの奴はデンと戯れている。
「しかし、しばらく見ないうちに…エドはちっさくなったねぇ」
「誰がちっさいって!?このミニマムばば!!」
「言ったねドちび!!」
「豆つぶばば!!」
「マイクロちび!!」
「ミジンコばば!!」
対比物がこの筋肉少佐とはいえ小さくなるわけがねえだろ!!年で小さくなりつつある自分と一緒にするんじゃねえぞ。言い合いを続けている所為でドカドカと言う音に気付けなかった。
「こらー!!エド!!」
「ごふ!!!」
「メンテナンスに来る時は先に電話の一本でも入れるようにいってあるでしょーーー!!」
いきなり飛んできたレンチがガインと音を立て、頭にたんこぶが作られ、出血している。確かに連絡を入れなかったのオレも悪いのかもしれないがガチで死ぬぞ。
「てめーウィンリィ!!殺す気か!!」
「あはは!おかえり!」
「おう!」
さて、家に入って早速機械鎧についてみてもらうとするか。
「んなーーーーーーーっ!!」
「おお悪ィぶっ壊れた」
「ぶっ壊れたってあんたちょっと!!あたしが丹精こめて作った最高級機械鎧をどんな使い方したら壊れるって言うのよ!!」
「いやそれがもう粉々のバラバラに」
「バ……」
見せた途端にやっぱり叫び声を上げられた。この機械鎧馬鹿とでも言うような奴にとっては受け入れがたい現実だったようだ。よろよろと震えたかと思うと先ほど投げつけられたレンチが頭に振り落とされた。
「でなに?アルも壊れちゃってるわけ?あんたらいったいどんな生活してんのよ」
「いやぁ」
アルとウィンリィはオレが頭から血を流し続けてるのに目もくれずに会話を続けている。オレの扱いが軽すぎると思うんだが、落ち着いてから事情を話して機械鎧を見てもらった。足の方も調整が必要らしい。
「足の方は元があるから良いとして腕は一から作り直さなきゃならんから…」
「ええ?一週間くらいかかるかな」
機械鎧については全然分からないがオレはもしかしてと予想の期間を言うとピナコばっちゃんは煙管かを銜えこんで吐き出しながら言った。
「なめんじゃないよ。三日だ」
椅子に座って調整が必要な機械鎧の足を外した。
「とりあえず三日間はスペアでがまんしてくれ」
「うん。と……やっぱ慣れてない足は歩きにくいな」
スペアが無ければ歩けないので仕方ないが自分用に調整されている物と比べるとやっぱり動き以前にバランスとかも厳しい所がある。
「削り出しから組み立て、微調整、接続、仕上げと…うわカンペキ徹夜だわ」
「悪いな無理言って」
「一日でも早く
こういった辺りは本当にこいつに敵わねえな。
「その代わり特急料金がっぽり払ってもらうからね!」
とは言っても慣れてない足だという事を忘れて全力で叩いたりと抜けてると言うか、どうしようもない部分には常々呆れる。
「そういやおばさんとおじさんは?」
「あー、母さんたちは診察に出てて夕方には帰るって言ってた」
なら夜には会えるだろうけど今は挨拶出来ないのか。3日と言うのは結構長く感じるが、足も腕も万全じゃない所為で出来る事が限られてるから余計に長く感じる。
「……とりあえずやる事が無いとなると本当にヒマだな」
「ここしばらくハードだったからたまにはヒマもいいんじゃない?」
「~~~~ヒマなのは性に合わねぇ!!」
「そうだそんなにヒマなら母さんの墓参りに行っといでよ」
「墓参りか…でもおまえそんなナリじゃ行けないじゃん」
いいアイデアに聞こえるがオレだけ行くのもなんじゃねえか?
「少佐に担いで行ってもらうのも悪いからボクは留守番してるよ。機械鎧治ったらすぐ中央に行くんだろ?だったらヒマなうちにさ」
「そーだな…ちょこっと行って来るか……」
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SIDE:アームストロング少佐
目の前にあるマキに対して真っすぐに拳を振り下ろす事で綺麗に割る。目の前ので薪割の仕事は終わりであるので報告に向かう。
「マキ割り終わりましたぞピナコ殿」
「ああすまないね」
「そう言えばエドワード・エルリックの姿が見えませんな」
「母親の墓参りだとさ」
なるほど、故郷にいるうちにやっておきたいと言う心理は理解できるが、いささか無防備では無いだろうか。
「一人で出歩くのは危険だといっておるのに……!」
「大丈夫だよ」
かかかと笑いながら大丈夫と言い切ったピナコ殿に理由を尋ねる。
「優秀な護衛がついとる」
なるほど、どのような護衛かは分からないが独りでないのであれば安心かと納得する。
「少佐……あの子らは毎日平穏無事に過ごしているだろうか」
その言葉に直ぐに頷くことは出来なかった。国家錬金術師と言う立場に居るからこそ事件に巻き込まれ今回の負傷を受ける事になった。楽しそうに過ごしているが、それが心の底までそうかは分からない。
「なんせこんな田舎だ。都会の情報はあまり入って来ないし、あの子らもあの子らで手紙のひとつもよこさないからあたしゃ心配でね」
安心させられるか分からないが、器用でない我輩では嘘をつけないので自分の感じたままに彼らの事を話す事しか出来ない。
「”エルリック兄弟”……とりわけ兄の”鋼の錬金術師”と言えば中央でも名が通っておりましてな。もっともそれゆえにトラブルにも巻き込まれるようですが…大丈夫ですよ、あの兄弟は強い」
「強い…かい」
我輩が強いと言った瞬間に何かを思い出すように少し顔に哀愁が漂う。
「そうだね…4年前自分の腕と引き換えに弟の魂を錬成した時も、軍の狗となる事を決めた時も、大人でさえ悲鳴をあげる機械鎧の手術に耐えた時も……あんな小さな身体のどこにあれほどの強さがあるのかと思ったよ。そしてそこまで強いからこそどこかで何かの拍子にくじけてしまった時、立ち直れるだろうかと心配になる」
「ピナコ殿にとっては孫みたいなものですか」
「ああ、あの二人が生まれた時からずっと成長を見てきたよ。なんせあたしゃあ、あの子らの父親とは昔っからの酒飲み仲間でね……奴め、妻も子供も置いてこの街を出て行ったきり今はどこをほっつき歩いているのやら…生きてるのか死んでるのかもわからん」
なるほど、他に家族が居ない彼らはロックベル家に助けられながらも基本的には兄弟だけで生きてきたのだろう。
「父親と言えばウィンリィの両親は…?」
「ああ、夫婦そろって医者をやってるんだが今は診察で患者の家に出向いてるよ」
「医者ですか、家系全員が専門的な職に就いているとは、凄いですな」
「まあ、そう言って貰えると嬉しいがね。あいつらは優秀で医者としての信念も強いが、イシュヴァ―ルに向かった時だけは気が気じゃ無かったね」
イシュヴァ―ル、思い出すのも憚られる。
「……ひどい……戦いでした」
「ああひどい戦いだった。だがその戦いで怪我をした人や手足を失った人が医者や義肢装具師を必要とする。皮肉なものさ、人を助けるための技術が戦と言う救いようもない物の所為で役に立ってるんだからね。あたしらはそう言った被害者のおかげで飯にありつけているんだよ」
誰かの為にと思っても認められない。戦いなんて物は無くなるべきだ。
「おっと、飯と言えばそろそろ夕飯の支度をしなくちゃねいけないね。あんた沢山たべそうだから作りごたえがあるよ」
「いえそこまでお世話になる訳には…」
「遠慮するこたぁ無い。飯は皆で食べた方が美味いだろ。寝床も患者用のベッドが空いてるから使うといい。どうせあの兄弟も泊まる所が無いんだ。2人泊まるのも3人泊まるのも一緒だよ」
豪快な口調で我輩まで受け入れてくれるピナコ殿の懐の深さには感服の思いで一杯だが、一つ気になるワードがあった。
「泊まる所が無いとは…兄弟の故郷と言うなら彼らの家があるのでは?」
「無いよ。あの子らには帰る家が無い。エドが国家資格を取って旅立つ日にあの子、自分の家を跡形もなく焼いてしまった。あたしには錬金術はよくわからんがあの子らのやろうとしている事が生半な事でないというのはわかる。あの子らは帰る家を失くす事で自分達の道を後戻り出来んようにしたんだろうよ」
ピナコ殿も言っていたがあの体の何処にそれだけの覚悟が詰まっているのか、肝心な時に動く事もままならない我輩とは大いに違う。少しではあるが兄弟の助けと慣れるよう心に刻みなおし、帰りを一緒に待った。
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SIDE:エドワード
「「ただいま」」
墓参りを終えてウィンリィの家に戻り、夕飯までの時間をグダグダ過ごしていると玄関の方から声が聞こえた。段々と足音も近づいてきた。
「あら、エド君にアル君も。こっちに帰って来てたのね」
「おや、驚いたねぇ。って機械鎧は無いし、アルフォンス君はボロボロじゃないか!?」
「はは…ご無沙汰してます」
「おばさんもおじさんも久しぶり!!」
「おや、ウィンリィ殿のご両親ですな。我輩はアレックス・ルイ・アームストロングと申します。現在は兄弟の護衛を務めております」
「どうもご丁寧にユーリ・ロックベルと」
「サラ・ロックベルです」
まず、オレらの姿を見て驚き、次にオレらの惨状を見て驚き、何があったのか聞く最中に少佐がやって来て自己紹介を始めた。
「服装から見るに軍人さんでしょうか?」
「ああ、中央で少佐を、それと兄弟と同じく国家錬金術師でもあります」
「へぇ、少佐さんですか」
「国家錬金術師でもあるんですか?」
2人共、戦場に残り続けるだけの度胸が備わっている為か、少佐のインパクトに臆さず挨拶と世間話をしている。
「帰ってきたんなら荷物を置いてきな。話は食事の片手間にも出来るだろう」
「そうだね。色々と聞くのはその時にしようか」
「お義母さんの言うとおりね。また後ほど」
「うむ、また後で話をさせて頂くとしよう。それと何か手伝える事はありますかピナコ殿?」
「そうだね。それじゃ机に料理を並べるのをやってくれるかい?張り切って色々作り過ぎちまってね」
騒がしい空気を残したままその場は解散となり、顔を見合わせたオレも少佐に続いてばっちゃんの手伝いに向かった。そしてほどなくして全員揃って夕飯の時間となった。
「なるほどねぇ。それでようやく元の身体に戻る手がかりを掴んだのかい?」
「それは良いけど毎回そんなにボロボロになられても困るわよ」
「まあまあ、ウィンリィ。2人も頑張ってるんだしね。最近はどんな事をしたのかしら?」
「はい、兄さんが錬金術を悪用している教主を倒したり、炭鉱の権利を笠に炭鉱夫相手に好き勝手してる軍人を騙したり、列車ジャックを一緒に倒して、後見になってくれてるマスタング大佐や部下の皆さんとも会えました」
「その後で中央のヒューズ中佐や出会ったって言うなら少佐もそうだし、それと列車ジャックの時には凄い錬金術師の
「あんたらが凄いって言うんだから結構凄い人なの?ってどうしたの父さん?それと母さんまで」
オレの話を聞いていたおじさんとおばさんが顔を少し顰めて固まった。動きを完全に止めた両親の異変に直ぐに気づいたウィンリィが声をかけるがすぐには戻って来なかった。
「その人のフルネームはフューム・ヴィガ・ラテジストで会っているかい?」
「ああ、確か、そうだよなアル?」
「うん、フルネームで紹介された事は無いけど、大佐がラテジスト中将って呼んでたから合ってると思うよ」
「ヒューム中将の事知ってるの?おばさんとおじさん」
「ああ、私たちがあった時は大佐だったが、イシュヴァ―ルの内乱の時、まだ15だと言う彼女と会っているよ」
「私達が治療所にしていた場所にやってきた時は驚いたわ。怪我をしているとはいえイシュヴァ―ルの人たちが大勢いる場所に軍服を身に纏って国家錬金術師だと言い放って堂々とやってきたんだから」
その時のことを事細かに思い出しているのか、当時の事はそう多くは語らないおじさん達にしては珍しく遠くを見るような目でその時のことを思い出している様だった。
「へぇ、でもその時は内乱の真最中だったわけだけど、フューム中将は何しに来たの?」
「……彼女は僕たちに帰国要請、その最終勧告をしに来たんだ。国軍からしたら僕たちは邪魔でしか無かっただろうからね。事実命令を受けていた彼女に私たちは殺されかけた」
「「えっ!?」」
「その前に目が覚めて錯乱したイシュヴァ―ルの人に襲われそうになったところを助けて貰ったりもしたのだけど、帰国要請を断った次の瞬間には煙管をその手に持ってこちらを攻撃して来たわ。立場が打って変わって今度は錯乱していたイシュヴァ―ルの人が庇ってくれたから助かったけどね」
「既に国家錬金術師が戦争に投入されてる時だったからね。その人の傷も酷くて、額に大きな傷が出来ていてね」
「
「いや、でも、そんな、あるのかそんな事!?」
あの時は落ち着いて聞いてられなかったけど確かにフューム中将と
「結局は患者を守るためにもその場にいた国家錬金術師、彼女を入れた2人に連れられて病院を離れる事になったよ」
「その間に彼らが少しでも逃げられたのであれば良いのだけど」
どう考えたら良いのか分からない話が舞い込んで来たオレの頭の中は真っ白になっていた。中将と同じく、イシュヴァ―ルに居たと言う少佐も険しい顔のまま固まってしまっている。結局はせっかくピナコばっちゃんが作ってくれた料理の味もよく分からない内に夕食の時間は終わった。
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SIDE:フューム
中央には要件が無い限りは立ち寄らないようにしているんですが、手続きや説得などを含めるとどうしても時間が掛かってしまった。だけど、結果的には受け入れてもらい、全て丸く収まった事だろう。
「では急なお願いを聞いて貰って申し訳ありませんね。ヒューズ中佐もグレイシアさんもありがとうございます」
「いやまあ、最初に聞かされた時は驚いたが、まあ今となっては悪くは無いと思ってるよ。色々と含めてな」
「私も驚きましたが、エリシアのお姉さんになってくれるでしょうからニーナちゃんは家で預かり、きちんと育てていきますね。それとアレキサンダーも二人の良い遊び相手になってくれそうです」
そう、私が最初に思いついたニーナとアレキサンダーの預かり先と言うのがヒューズ家だった。年がそうは慣れていないであろう娘がいると言う点と軍の関係者であり、それなりの地位にいる私の推薦で、同じく中央でそこそこの地位にいるマース・ヒューズ中佐が預かるという事で経過観察を含め、文句を言わせない方向で話を進めた。
「よろしくお願いします。以前食事に招待させて頂いた際に温かさを感じたこの家であればと思い無理にお願いしてしまいました。出来る限り私も協力させて頂きますし、養育費などはこちらからも多めに払わせて頂きます」
「おいおい、これでもオレは中央で結構な賃金貰ってんだぜ?」
「それ以上にオーバーワークな日常でしょう?これは私の仕事の不備の後始末も含まれてますので貰っていただけないと困るので受け取ってください」
そこまで言ってようやく金を受け取ると言ってくれた。こちらは貴方以上の地位に居て、休みも殆どないくらい働いていて無駄に金だけは持っているんですから遠慮しないで欲しいですね。
「ううん、フュームお姉ちゃん?」
「おや、起きましたか?緊張してあまり寝れていない様でしたし、無理に来なくても良いんですが」
「ありがとう、またね!」
「!?いえ、こちらこそありがとうございます。必ず来ますね。もちろんお二人が許してくれればですが?」
「いつでも来てくれ、な?グレイシア」
「ふふ、ええ。いつでも来てください」
まだ寝ているエリシアちゃんにもよろしくと伝えてもらって、ヒューズ家を後にした。ちなみに、数日後にはヒューズ家に慣れたニーナとお姉ちゃんが出来て喜んだエリシアの可愛らしい姿が見られ、自慢の電話が連日マスタング大佐に鳴り響いたそうだ。
「さて、メッセンジャー経由で連絡は入れたし、北に向かうとしますか」
互いに古くから続く家のため関わり合いも多く、多少は知ってる事もあり、伝言程度であれば秘密裏に届けるくらいは訳は無い。それでも、向こうには煙たがれる事間違いないだろうが、それはもう諦めるしかないだろう。
イシュヴァ―ルの描写についてはエドがホークアイ中尉に聞く際に入れるか、エドが直接フューム中将に当時の事を訊くかで悩んでます。まあ、どちらにせよ詳細は後日に書く予定です。
ニーナを生かした時に引き取り先を考えると、ヒューズ家が妥当かなぁと最初に生かすと決めた時から考えていました。娘がいて軍の関係者で信頼が出来て、タッカーの事件にも関わってる、これ以上の条件がそろう相手はいない。
次でエドは腕が治って中央に、中将は北の怖い少将の所に向かう予定です。
読んでくれている方々に多大なる感謝を。