Re:上から目線の魔術師の異世界生活 作:npd writer
書きおわりましたので投稿します
ストレンジは第一次世界大戦、ドイツ帝国、ロシア帝国についての概要を大雑把に解説したのち、タンネンベルクの戦いについて、詳しい情報を室内にいる人々に聞かせていた。
「ーー戦いの際、ドイツ帝国の戦力はロシア帝国の2分の1だった。しかし、諜報戦と鉄道を使用した迅速な移動により、ヒンデンブルク総司令率いるドイツ帝国軍は、劣勢を跳ね除けロシア帝国軍を蹂躙する事に成功した。その結果、ロシア帝国軍を領内へと撤退させ、ドイツ帝国の東部戦線における優位を築くことができたんだ。今回、魔獣の大集団という規模が未知数な敵に対して、我々は少数で挑まなければならない。つまり戦況は極めて酷似しており、そうなればこの作戦と同じ手法が通じるのではないか。と、私は考えている」
一通り説明を終えたストレンジは、呼吸を置くとテーブルに置かれた水を飲み、力説し枯れた喉を潤す。
そして室内を見渡し反応を窺うが、誰も彼もが同じような状況に陥っていた。
「ドイツ帝国、ロシア帝国、第一次世界大戦……。今、ドクターが話した内容だけでも、中々情報が多量であり整理するのも儘ならない。この中で、言葉の真意を理解している者がどれだけいようか」
「うぅ〜もう!フェリちゃんは全く分かりません!ドクター、何が言いたいの!?それにチョウホウセンとかテツドウとかどういう仕組みなの?」
クルシュは顎に手を添えてひたすらストレンジの言葉を復唱してはその意味を取り込もうと必死になり、フェリスは既にオーバーヒートしているのか、頭を抱えて悶えている。
ヴィルヘルムやファリックスの部下も、ルグニカ王国には存在しない知識をベラベラ喋るストレンジについていけず、殆どの者が放心状態だった。
しかしただ一人、ストレンジの話を食い入るように聞いていた人物がいた。
「なるほど。兵站の確保と人員の素早い移動により、敵を包囲し補給切れを起こさせることで圧倒的戦力差をひっくり返す。私も似たような構想を練ったことはあるが、所詮は竜車。大勢を乗せて迅速な移動など出来ないので諦めていた。そのヒンデンブルク公なる人物が指揮を執るドイツ帝国軍は非常に戦況を正しく把握し、どの作戦指令が効果的か最も熟知されていますね。とても有能な方だ」
この館の主であり、ファリックス領の治める若き秀才、ファリックスだけはその真意を理解し同時にこの作戦にゴーサインを出したヒンデンブルクらの決断力に脱帽する。
「しかし大量の兵の移動を敵に発見されずに行い、更に敵の出現予定地を見つけるのいうのはやはり難しいです。一見すれば夢物語のような話だが……ドクター殿、貴殿は虚構を現実に変えるような能力をお持ちなのではないですか?
「お前は本当に飲み込みが早くて助かるなファリックス子爵。その柔軟な考え方はニック・フューリーあたりが欲しそうな人材になりそうだ……失礼、話が脱線したな」
ストレンジは腰にかけられた金色の道具を指に嵌めながら言った。
「私の魔術には先程使用したように、行きたい場所を念じることで、その場所に自由自在に移動できるものがある。長時間かかる移動を短縮できるこれは、戦闘において奇襲をかけるのに最適なものとなるだろうな。或いは迅速な撤退にも使えるとも」
ストレンジの左手に嵌められた、スリング・リング。
以前、フェリスを異空間に落としたそれに秘められている力に、フェリスは驚愕するファリックス陣営に苦笑を禁じ得ない。
「ドクター・ストレンジという人物は最早、我々の常識では捉えられない存在ということがよくわかるであろう、ファリックス。私も初めて、彼と会った時はその力に驚きが止まらなかったものだ」
「……クルシュ様がドクター殿を高く買ってらっしゃる理由が大変よく分かりますね。確かに彼の力は、我々が不可能と思っていたことを次々に可能にしてしまう凄まじい力です。それも、まだほんの一角。真の力を解放したらこの世界はどうなってしまうのでしょうか」
「おいおい、人をまるで世界を滅ぼすような厄災と捉えるのは勘弁してくれ。これでも、私は永遠の命に駆られるイカれた奴らに何度も殺される経験をしている。私が世界を滅ぼすような力を持っていたら、今頃この世界は神龍ボルカニカのような力を持った敵に支配されているはずだ」
ストレンジの冗談めいた発言に静まる室内。何か変なことを言ったか?と言わんばかりにストレンジが怪訝そうに見渡せば、半ば放心状態のファリックスの声がやたらと室内にこだました。
「神龍ボルカニカの力を持った敵だと……。はは……通りであなたの力は、常識を超えた強さを持っているわけだ。そんな敵が出現しない事を願いたいものですね……」
作戦会議は小休憩を挟んで再開された。魔獣を奇襲する戦法については、ストレンジのスリング・リングを使った魔術で行うものと決定されたが、問題はどのように敵の位置を把握するかである。兵員の迅速な移動が可能になったとはいえ、位置不明で何処から現れるかも分からない敵を奇襲することは、素早い兵の移動をもってしても不可能だ。
しかし偵察を出そうものなら、先に潜伏する敵に見つかり、こちらの奇襲は失敗となるどころか準備が整い終わらないまま、敵の奇襲を受ける危険性すらあった。
「そっちの問題にも解決方法はある」
そんな疑問を1mmも感じていないと言わんばかりに手を挙げたのは、またもやストレンジ。最早、彼には未来が見えているのではないか、と呆気に取られている人々は再び彼を見る。次に彼がどんな魔術を披露しても驚かないという謎の自信が、室内の人間に共通の意識として芽生えてすらあった。驚く素振りを見せない彼らを横目に見つつ、再び語る。
「フェリスやクルシュには言ったが、私の魔術の中にはアストラル体という現実世界に干渉する力を持たない存在を体外へ解き放つものがある。君らにも分かりやすく説明するとしたら、魂というべきだろうか。そいつを体外に押し出し、現実世界の影響を与えないという長所を利用して、この周辺を飛び回れば敵に見つからず、敵の様子を丸裸にできるというわけだ」
「確かに卿はそのような事を言っていたな。実に現実的でない話で私も耳を疑ったとも。
ー諸君も理解してきたと思う、彼の魔術の実力は本物だ。しかし、諸君も面識のない魔術師に、術をかけられるのは心残りだろう」
クルシュの疑問は的を得ていた。ストレンジの実力が確かなことと、彼の魔術を信用するかは別問題だった。ストレンジの力が強かろうと、クルシュ陣営に身を置く人物であろうとも、正体不明の魔術を信用するほど彼らはお人好しではなかった。
「諸君らの不安が拭えぬのも分かるが、敵は待ってはくれぬ。ならば誰かが先陣を切って実行するしかない。
ーー偵察は私が行おう」
「ク、クルシュ様!?」
そんな他の動揺や心配を他所にドクターを真っ直ぐ見据えるクルシュの目には、彼への信頼があった。
ーー彼になら、自らの魂を預けてもいい。不安は残りながらも彼を頼りにしている目だった。
彼女の覚悟を尊重し、ストレンジは彼女の身体に手を置こうとするがーー、
「いや、ここはクルシュ様よりこの地をより詳しく知る私が行きましょう」
もう一人、立候補する人物がいた。声の方を見れば、ファリックスが手を軽く挙げている。
「ここはこの地を治める私にそのお役目、引き受けさせていただきたいと思います。今回の事態は我がファリックス領内に起こった出来事であり、クルシュ様はあくまでも救援部隊。ここは私が責任をもって行きます」
「うむ。この地を良く把握している卿に頼む方が、より詳しい情報を入手できるだろう。
分かった。この任、卿に任せる」
クルシュに代わり志願したファリックスがストレンジの前に立つ。室内の全員が注目する中、ストレンジはファリックスの胸に手を当てると、彼の身体を軽く押した。
彼を押すと同時にストレンジ自らも身体からアストラル体を弾き出す。
ストレンジとファリックスのアストラル体は、アストラル次元と呼ばれる肉体を離れた精神や魂が存在する次元へと転移する。そこは時間の流れが現実世界と比べて非常に低速であり、倒れかける彼らの身体の動きを抑えられるのではないかと錯覚するほどである。
「これは……」
「無事、アストラル体になっても行動できているようで安心した。どうだ?初めて、身体から魂を解き放った感覚は」
「何とも不思議な感覚だ。身体は半透明でモノに触れることができず、時の進みはゆっくりとしている。なんとも形容し難い気持ちだこれは」
宙に浮くファリックスは初めての感覚に戸惑いを隠せないでいる。
精神のみとなっても会話や移動はできるものの、移動は意識するだけで行える。一方、精神体という幽霊の一種に近い存在になったことで現実世界に干渉することができず、物体に触ろうとしてもすり抜けてしまう。
奇妙な感覚に襲われていたファリックスだったが、窓の方へ移動していくストレンジを見て慌てて、彼の方へ向かった。
窓をすり抜け邸宅外に飛び出したストレンジとファリックスのアストラル体は、上空を飛翔し被害が出た村周辺に到達する。
「ここが、直近で襲われた村か。随分と酷く荒らされているものだ」
「荒らされているという程度ではない。これは、もう一度人々が住むためには早くて半年はかかる。それに魔獣対策も今まで以上に万全にしなくてはならない。王戦で忙しいこの時期に全く余計な事をしてくれる」
村上空を旋回していたストレンジは、木々が薙ぎ倒されている森の合間を見つけた。
ファリックスと共にその道を下っていくストレンジとファリックスは、やがて川沿いに群がる大量の魔獣を見つけた。
大小問わず様々な魔獣が群がるその様はまさに
「この数は……こんな事があってたまるか……!
間違いない、こいつらが私の領地を荒らし周り、人々の平穏な日常を奪った憎き魔獣どもだ!」
魔獣を見つけたファリックスは歯軋りし、怒りのあまり口調を荒げその魂を震わせている。強く握りしめるその拳は、圧倒的暴力に抗えず散っていた命へのやるせない気持ちと、魔獣への怒りという純粋な想いがある。
「許せないか?」
「振るい上げた拳をここで下ろせと?こいつらさえ来なければ、領民たちは普段と変わらない生活を送る事ができたのだ。それを、こうも力によって無残に破壊されたことに、怒りを感じないことの方がおかしいというものだ!」
ファリックスの言葉に沈黙を守りつつ、耳を傾けるストレンジ。
しかしファリックスを見つめる彼の目は、何処か悲しみを含んでいる。その事にファリックスが気付いたのは、その数分後だった。
「お前の天才的なその脳は、今怒りという純粋で実に短絡的な感情に支配されている。その感情に身を任せて、乱暴になるのも結構だが、幾ら怒ろうと嘆こうと失った命は戻ってはこないことを忘れるな。寧ろ、怒りという短絡的な感情は、冷静な感覚を麻痺させ、更に多くの命が失われる事になる。戦場において興奮と怒りは必要だが、冷静さも必要だ」
ストレンジの言葉にファリックス目を見開き、湧いて出ていた怒りの感情を押し殺した。直前まで彼を支配していた怒りの感情は、心によって冷やされ今は、普段の冷静さが戻ってきている。
「すまない、ドクター殿。私としたことが、我を忘れていた。ドクター殿の言うとおり、戦場においては冷静さを保ちつつ、恐れない心持ちが重要だ。魔獣たちの居場所は突き止められた。あとは、こいつらをどう駆逐するかだが」
「それについてはこれよりアストラル体をそれぞれの身体に戻す。その上で、記憶と地図の場所を照らし合わせ、奴らが現在どの位置にいるのか、これからの進路を予想し作戦を立案するのが手取り早いだろう」
その後、アストラル体をそれぞれの身体に戻したファリックスとストレンジ。突然、両者の身体が倒れたと思えば、その直後にすぐに起き上がった奇怪な行動は、アストラル次元を経験していないクルシュやフェリス、ヴィルヘルムを始め多くの者を困惑させたという。
集められたピースを一つにまとめ、空いているスペースに、入手した最後のピースを当てはめ、遂に作戦図は完成する。
魔獣の位置、これからの予想進路、こちらの人員、加護、ストレンジの魔術。
全てのピースが揃ったパズルは遂にその姿を見せた。
室内の全員に作戦の全てを解説したストレンジは簡単な質疑応答の後、明日の作戦の準備を始める。
それはクルシュやヴィルヘルムら、別動隊も変わりなくそれぞれが明日行われる作戦に向けて準備を整えていった。
翌早朝、ファリックス邸正面に集まった魔獣討伐隊はストレンジを待っていた。それぞれが鎧や剣を携えており、士気は十分である。やがてマントを羽織ったストレンジが飛来し着地すると、彼は昨晩完成した作戦図を魔術で空中に展開した。
「それではこれより「operation-Avenge」を開始する。クルシュ、ヴィルヘルムは魔獣の後方及び右翼から、奇襲攻撃をかけてくれ。合図は昨日伝えたとおり、私の大規模攻撃に呼応する形で実行してほしい」
「了解した」
「御意」
「フェリス、お前はクルシュについてやれ。恐らく敵は後方を取られまいと必死の抵抗をするだろう。その際に回復役のお前は頼みの綱となる。しっかりとその役目を果たしてくれ」
「了解!クルシュ様、しっかりお守りしますからねぇ〜!」
「ファリックスとその配下の兵士たちは私と共に魔獣を正面から迎え撃つ、間抜けな役を演じてもらう。しかし、ショーの開演は私の魔術の合図まで待て」
「ふふ、間抜けらしく派手に暴れてみせよう。そのお役目しっかりと受けさせていただく」
笑みを浮かべるファリックスに、笑みで返すストレンジ。彼から見ても、ファリックスの精神状態はこの上なく、良好のものとなっていた。無論、怒りもあるがそれ以上に昨晩彼に諭されたのか、非常に落ち着いた心持ちとなっている。
「それではこれからクルシュとヴィルヘルムをそれぞれの地点に送る。賽は投げられた、あとは天命に委ねるのみだ。
ーでは、討伐隊の諸君。健闘を祈るぞ!」
次回、いよいよ対魔獣戦です。
偶然にも現在のリゼロと似たような展開になっていると自分で書いていて思いました笑
今回のリゼロもまた良かったなぁ……特にラムの歌は特に良かった