Re:上から目線の魔術師の異世界生活   作:npd writer

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今回、今後の展開に重要になる話題が出てきます。

それと皆様、新年度おめでとうございます。未だ、コロナが猛威を振るっておりますが頑張っていきましょう!


十四話 終局

無事、エルザとメィリィ、それに魔獣の大群を駆逐したストレンジやクルシュらは屋敷へ帰還後、今回の討伐に関わった全ての人の慰労と戦勝を記念してささやかな祝賀会を開いていた。

ファリックス邸の大ホールにて立食パーティー形式で行われ、出席者にはクルシュやストレンジらカルステン家関係者もいる。

 

「此度の魔獣による蹂躙は歴史上稀に見る甚大なものだった。諸君らの中にも家族や友人を失った者も数多くいるだろう。にも関わらず、共に戦ってくれた諸君に私は敬意を表する。

そして、カルステン公爵家の助力により此度の危機は乗り切ることができた。クルシュ様、多大なるご支援に感謝申し上げます」

 

冒頭、舞台に立って挨拶を述べたのはパーティー用の正装に身を包んだファリックス。舞台袖にはワイングラス片手に、軍服に身を包んだクルシュや水色を基調とした可愛らしい衣装のフェリスらがおり、ヴィルヘルムはウェイターとしてホールを仕切っていた。

そしてパーティー用の燕尾服に身を包んだストレンジは、マントと共に舞台から一歩引いた壁際に寄りかかり、ワイングラスを持ちながら舞台を見ていた。

 

「ーー今回の魔獣による騒乱の責任は全て領主である私にある。私の至らぬ力のせいで多くの民の命が失われた事実も正面から受け止める覚悟でいる。諸君らの叱責や怒りも全て、私一人が負おう。残された者の生活は、私が全力をもって支える事もここに誓う。

此度の諸君らの活躍、そしてカルステン家の助力に心からの感謝を」

 

舞台に立つファリックスが深々と頭を下げれば、彼を見つめていた多くの人が拍手で彼に応えた。何度もホールの全員に頭を下げたファリックスは舞台袖に控えるクルシュと数分言葉を交わした後、集まった人々と言葉を交わしていく。

 

「ドクター、卿にはこのような場は好まないか?」

 

人の群れには近づかず、ただ食事を楽しむストレンジに声をかけたのはクルシュだった。

ファリックスの挨拶の後、多くの人が彼に集まっては談笑しているのに対してストレンジはその様子を一歩引いた場所から見つめるのみであり、その様子を気にかけたクルシュが彼の様子を見に来ていた。

 

「いや、単純に人が多いからな。後で彼に挨拶しようとしていただけだ」

 

「ーー卿から嘘の風が吹いているぞ」

 

前を向いたまま答えたストレンジに、クルシュは彼のみに聞こえるような声で彼に言った。

 

「ーーこのような人が多い場所はあまり好きじゃない。日頃の疲れを吹っ飛ばしてはっちゃけるのは結構なことだが生憎、学生の頃からパーティー人達とは距離をとっていてな。そのせいか、こういった場に慣れていないんだ」

 

「卿にも苦手な事があるんだな。配慮を欠き無理に誘ってしまってすまなかった。もうすぐファリックスが挨拶に来るだろう。それが済んだらしばらく外で涼むといい。私はまだこの場にいる。何か困ったことがあれば私かファリックスを頼ってほしい」

 

クルシュはそのままホールの中心へと戻っていき、ファリックスや招かれた来賓との対談した。

ストレンジは近くのテーブルに置かれた焼かれた肉の切り身数個を取ると、パーティーの様子を見ながら黙々と食した。

挨拶が一段落したファリックスがストレンジを訪れたのはそれから暫くしてからだった。

 

「ドクター殿。気分が優れないようだが、無理をさせてしまっていないか?」

 

「先程、クルシュにも同じことを言われた。私の顔はそんなに青ざめているのか?」

 

「青ざめてはいないが……。ふむ、やはり少し顔色が悪いように見える。気分が優れなければテラスで休んでもらっても構わないが」

 

ファリックスも功労者であるストレンジが対談の輪の中心にならず、隅で一人食していることを気にして声をかけたのだ。

 

「私はこういう場はあまり好きじゃない。同じ人が集まる場所でも学会の発表会はこれまで得た実績を周りのボンクラの医者に示すことができるが、パーティーは酒を飲むだけ。参加するだけ時間の無駄になるから参加することはほとんどなかった」

 

「こういった場には苦手意識を持っているんだな。しかしあれだけ大きな魔獣の軍団を押し返すという偉業を成した以上、慰労のためにも祝賀会を催すのは習慣なのだ。そして功労者も出席するのは当然の事なんだが……負担をかけてすまなかった。私の配慮が欠けていた」

 

「お前が謝るほどではないさ」

 

皿の料理が無くなってしまったストレンジは、皿を置くとグラス片手に酒を注ぐ。丁度、酒が切れていたファリックスにも同じ酒を注ぐとファリックスは静かに話した。

 

「ドクター殿、この後時間はあるか?」

 

「あることにはあるが……身体の更なる治療か?それとも心理ケアか?」

 

「怪我ならフェリスと貴方に治療されて完治している。

ーー個人的に話したいことがあってな。会の後、私の執務室に来てほしい」

 

「分かった。適当な時間に行くとしよう」

 

言葉を交わし終えたファリックスは、再び大勢の人の下へ戻っていき、談笑を再開させた。

一方、ストレンジは酔いを醒すのも兼ねてバルコニーに出て、グラス片手に椅子に座った。

窓から漏れる灯りや隙間から聞こえる音楽や話し声をBGMに、椅子に座ったストレンジは夜空の月を見上げて、物思いに耽っていく。

彼を気遣い、室内にいたクルシュやファリックスが彼に声をかけたり、彼を呼びにバルコニーに来ることはなかった。

 

 

 

 

 

パーティーはその後も続いたが、夜半を迎える前には、ファリックスによりお開きとなった。

閉会の際には外に出ていたストレンジも室内に戻り、夜風に当たった感想を含めて、フェリスと言葉を交わした。

そしてパーティーが終わり夜が更に更けた頃、ストレンジは約束通り一人で執務室を訪れる。

室内のテーブルには作戦用の地図や、目印として置かれていた旗印や騎士を模した小さな人形がそのまま放置されており、椅子には丸められた台紙が放置されていた。作戦前夜まで試行錯誤していた事が窺える室内を見渡して、ファリックスがテラスにいることを確認したストレンジはそこに向かった。

 

「よく来てくれた。室内の散らかり具合には、貴方に有益な情報を渡すことの対価として目を瞑ってくれ」

 

「あの散らかり様は酷いぞ。早く片付けろ。作戦の為に献身したのは認めるがあれでは空気が悪くなるし、何より衛生環境が悪くなる」

 

「手厳しい助言に感謝する」

 

苦笑しながら、ファリックスの対面に座るように勧められたストレンジは着席すると、彼の手元に置かれたグラスに酒を注いだ。

 

「今宵は夜風が心地良い。魔獣を退けた達成感がそう感じさせているのかもしれないが、それでも普段より心に優しい。それに月もまた綺麗だな」

 

「おっと、口説いているのか?それが通じるのは文化人、それも日本人限定だろう」

 

「口説く?何を言っているんだ?」

 

「かの夏目漱石は、日本人が好意を伝える際に直接的には言えない人柄故、このように周りくどい言い方で伝えると言ったそうだ。それ以来、「月が綺麗」という言葉は好意を伝える言葉になったらしい」

 

「べ、別に私は敬意こそ抱いてはいるが好意は寄せていない!」

 

「冗談だ。男である君が私に好意を抱くわけがないだろう。忘れてくれ」

 

「いや、恋愛感情は無いが好意を全く抱いていないわけではなく……」

 

ストレンジの言葉に振り回されたファリックスは顔を真っ赤に染めながら、年相応に反応する。その様子を揶揄って笑うストレンジは酒を口に運ぶと夜空を見上げた。

 

「それで話というのは?」

 

「あ、ああ……ゴホン、ドクター殿は強力な魔術師であるが故、恐らく強大な敵からこの世界を守るという任務を行なっているとみた」

 

ファリックスの言葉にストレンジは頷いた。彼の言葉の中にはストレンジ本来の任務も含まれており、否定もしない。

 

「ならば話が早い。実は耳に入れてほしい話がある。

ーーここ1.2ヶ月の間、ルグニカ王国やカララギ都市国家群にて空間が歪む様な現象が数度確認されているとの報告が入った」

 

ファリックスの言葉にストレンジは思わず目を見開いた。それはストレンジがこの世界に来て初めて耳にした空間変異の兆候。元の世界に戻る為に重要なキーとなるその出来事の詳細を聞き逃さぬよう、彼は耳を立てた。

 

「発生場所に規則性は確認されていない。が、未確認情報ではあるがグステコ聖王国やヴォラキア帝国でも同様の現象が確認されているとのことだ。つまり、世界中で起こっている現象だ」

 

酒で喉を潤したファリックスはストレンジの方を一瞥すると、グラスの水面を眺めながら呟いた。

 

「その歪んだ空間を見た者は数少ないが皆口を揃えて言うそうだ。

ーー「空間の向こう側、そこには暗黒の空間と無数の星々が永遠に広がっていた」と。竜歴石に刻まれていない出来事だが、被害がないことを理由として、賢人会は予定通りに王選を開始するらしい。私自身は何か不吉な兆候ではないかと考えており、王選開始には懐疑的だ」

 

水面に写るファリックスの顔は厳しさも滲み出ている。

子爵の立場であるが故、王政の直接的関与はカルステイン家や他の公爵、侯爵家と比べると小さいものの、古くから王国に仕えているファリックス家は幅広い情報網を敷いていた。

そしてフォリア・ファリックスは軍師として名を挙げているが、その所以は彼の持つ直感の鋭さだ。その直感が彼に危険を伝えているのである。

 

「この情報はルグニカ王国の最上層と極一部の情報収集屋が知っているが、その実全容を把握している者は誰もいまい。故に、ドクター・ストレンジの知恵を借りに、ここに酒を置いて呼んだということだ」

 

「ーー少ない情報だな。察するにその現象を止めることは、少なくとも今の私では不可能だろう。が、その空間の歪みとそこから見えるとされる別次元の可能性については大変興味を持ったさ。その現象については耳に留めておくことにしよう。クルシュはこの事を?」

 

「クルシュ様やフェリス騎士、ヴィルヘルム殿の耳にも入っているはず。まあ、ドクター殿が調査をする過程で今知ろうが知らないだろうが、必ず耳には入るだろうが」

 

「そうだな。とにかく混乱を招かぬ様、情報の管理は徹底することにしよう。それと、ファリックスも十分用心するよう忠告しておく」

 

そう言い酒を飲み干したストレンジは、席を立ちテラスから出て行った。

一人取り残されたファリックスは、手元のグラスに浮かぶ氷の塊を見て呟いた。

 

「近い将来、ルグニカ王国に天変地異が起きるかもしれない。そうなった時、貴方の力はこの国を救う大きな力となるだろうな。ドクター・ストレンジ」

 

 

 

 

 

一方、客室に戻ったストレンジはベッドに仰向けに寝転がると天井を見つめながら黙考していた。

 

(謎の空間の歪みは、恐らく別次元に通ずるゲートのようなものだろう。証言の内容が正しいとすれば暗黒の世界と無数の星々は、宇宙の事だろう。単なる自然現象で別次元に通ずるゲートが開いたとは考えにくい。何か大きな力の作用か、もしくは人為的に開けられたものなのか……。

ールグニカ王国を救うためのチームを結成する必要があるな)

 

かつてニック・フューリーが計画し、凍結された「アベンジャーズ計画」。強大な力を持った者たちを集め、より大きな力にし強大な敵に立ち向かうそのチームは2012年のニューヨーク決戦時に絶望する人々の前に集まり、世界を救ったヒーローとなった。しかし2015年のソコヴィアでの一件では逆に人類滅亡へのトリガーとなり、翌年のソコヴィア協定に端を発した、シビル・ウォーによりアベンジャーズは解散。トニーとキャプテンは決裂し、二人とも大きな傷を負った。そしてソコヴィア協定に反対したキャプテン一派は忽然と姿を消し、その後如何なる国家機関や国際機関の情報網にもキャッチされていない。

 

今、2012年のニューヨークを彷彿とさせる異次元への扉が各地で出現している。

もしもそれが通じる向こう側がストレンジの世界ならば彼が帰還できる可能性が上がる。しかしそれは奴の標的にされることにもなる。

 

(メンバーの人選、始めるか……)

 

ベッドの上で悩むストレンジはそのまま寝落ちし、翌朝マントによって叩き起こされていた。

 

 

 

 

 

ストレンジを客室に戻したファリックスは、やり残した執務を就寝までのわずかな時間を使い執り行っていた。いつも側に居て助言を行う執事は現在、祝賀会の後片付けを行っており、到底助言は頼めない。無論、無理を言って来させることはできるが、それは行うことはしない。

 

お酒の入ったグラスをテーブルに置き、羽ペンを使って書領地の運営に関しての書類にサインし、王都への文章の作成していく。何枚かの書類に手をつけ、一呼吸置こうと酒を口にした時ーー、

 

 

「ファッハッハッハッハッハ!」

 

突然脳内に響く不気味で邪悪な笑い声。思わず顔を上げるが、執務室やバルコニーには誰もいない。

 

「誰かいるのか?」

 

「「誰か」だと?この俺を忘れたのか?」

 

彼にとっては聞き覚えのある声にファリックスは立ち上がり、室内に見渡していく。

 

「この声……まさか」

 

「冗談はよせよ、たった一人のお前の理解者じゃないか」

 

声が何処から聞こえてくるかは定かではない。天井、壁にかけられた絵画、彫刻、床。ありとあらゆる方向に耳を傾けても聞こえてくる声に導かれるように室内のある一点に向かい歩く。

 

「お前は一人ではない、俺はずっとお前を見続けてきたぞ」

 

「ーー何処にいる?」

 

「さあな。俺は何処からでもお前を見つけられる。だが、お前は俺を見つけられない。そうやって部屋を歩き回るのは、俺を見つけられていないからだろう?違うか?」

 

部屋の絵画に視線を次々と向けていく。

 

「俺はここだ!」

 

「ーーまさか、こんなことが」

 

部屋にかけられた唯一の鏡。そこに写っていたのはフォリア・ファリックスに瓜二つな顔を持った青年。だが、その顔に浮かぶ笑みに優しさや愛はなく、邪悪で狂気じみている。加えて瞳に映る感情にも邪悪で凶暴な感情が浮かんでおり、まるでフォリア・ファリックスという好青年を真逆にしたような人物がそこにいた。

 

「兄さん、なのか……?」

 

「久しぶりだな、我が弟よ。先のエルザとの一件、お前の領民を思う偽善じみた振る舞いは喜劇のようで面白かったぞ。だがそんなことをしても俺との決別にはならないさ。何せ、俺はお前、お前は俺なのだからな」

 

「……私は私自身の意志で行動している。兄さんのような邪悪な領主にはならないと決めたから」

 

ゆっくりと歩み寄る両者。グラス片手にフォリアを煽るように身を揺らす“兄さん”と呼ばれた彼に瓜二つの存在は、グラスを遠くに投げた。

 

「いいや、お前は俺の影から逃れようとその偽善じみた寒気がするような演技をしている。お前はそれを自分のと決めつけているが、それは違う。その姿は俺が作り上げたのだ。俺はお前の永遠に縛り続ける縄だ。俺を意識する限り、俺からは逃れられない。お前の目指す改革には、血を流す覚悟が必要だからな。邪悪にならなければなし得ないぞ」

 

「それを言うためだけに態々出てきたのか?だとしたらご苦労なことだ。いずれ、兄さんの影からは抜け出す。私は私自身の手で邪悪に染まらずに成し遂げる」

 

「まさか。俺が出てきたのは訳がある。喜べ弟よ、俺たちが望む混沌の世界が間もなくやってくるぞ」

 

テーブルに置かれた二枚の書類。そこにはストレンジについて書かれたものと、先程ストレンジに述べた時空の裂け目についての詳細が記されたもの。その2枚を見ろと言わんばかりに首を振る兄に促され、その書類を手に取る。

 

「ドクター・ストレンジ、時空の裂け目……」

 

「そうだ。その二つがこの世界を混沌に、そして地獄に叩き落とすのさ。彼は愚かにも運命に争い、その結果この世界をより混沌に導く。そっとしておけばいいものに余計に手をつけることで、この世界は本来の理を越え未知なる混沌に支配される」

 

「……嘘だな、ドクター殿がそんなことをするはずがない」

 

「信じるも信じないのもお前の勝手だ、弟よ。だが、俺は神がこの世に混沌にもたらすために生み出した産物だ。その産物はその責務を果たす前に命が尽きたが、意志は受け継がれる。例え、お前が逃れようとも運命は変えられない。お前が運命を受け入れなくても、誰かが神の意志を受け継ぎこの世界に混沌をもたらすだろう。

 

ーー喜べ、弟よ。焦らずとも混沌はやってくる。全てを押し流す波のようにその混沌は全てを巻き込む地獄と化しこの国を、この世界を巻き込む戦火となる。取り返しのつかない代償を支払うことになるだろう。その時こそ、俺たちが望む国の変革ができるな。そして忘れるな。これを他人に、特にドクター・ストレンジ、クルシュ・カルステンに話すな。話せば世界がどうなるか分からない。俺も世界の消滅は望んでいないからな」

 

ゆっくりと歩み寄る兄に対して、その狂気に押され後退りするフォリア。弟の怯えた感情を見据え、兄は邪悪な笑みを浮かべたまま姿を消した。

 

 

 

ストレンジが悩みファリックスが兄の亡霊に苦しんだ翌日、今回の討伐隊が王都に帰還することになった。ファリックス邸には大量の竜車が並べられ、次々に人員や物資が乗せられていく。屋敷外には多くの領民が押しかけ、別れを惜しんだ。

各々が最後の言葉を交わす中、ストレンジやクルシュもファリックスと言葉を交わしていた。

 

「今回の討伐にご協力いただき本当に感謝します。クルシュ様のご尽力が無ければ我々は恐らく敗れていたでしょう。昨夜の祝賀会で述べさせていただきましたが、改めて感謝を」

 

「卿のその領民を思う気持ちがあったからこそ、更なる被害を防ぐことができたのだ。今後もその心構え、忘れるでないぞ」

 

「ま、その心構えを失っちゃった時点で領主として失格だよネぇ〜。逆に、しっかりと心を持っていれば次起きてもきっと大丈夫。それに今後の復興も大事だヨ!頑張ってネ!」

 

ファリックスとクルシュ、フェリスが別れを惜しむ中、ストレンジは行きの時同様、ポータルをクルシュ邸に開け、ファリックス領と繋げていた。

その作業はほんの一瞬で終わり、空中で行っていたストレンジはゆっくりと地上に降りてくる。

 

「ドクター殿、どうかお達者で。今回の功労者はあなたと言っても過言ではないことはここにいる全員が認めていることだ。その力によりどれだけ我々が助けられたことか。改めて感謝を。ドクター・ストレンジ」

 

昨晩の兄の亡霊から放たれた言葉は告げず、真実を隠したままファリックスは言葉を続けた。

 

「お前に残されたのはまだまだある。何より領民の生活の復興は急務だろう。魔獣討伐は終わったが、復興が成されるまで真の終わりとはならない。それまで気を抜くことなく、続けてほしい」

 

「有益な忠告、感謝しよう。それとクルシュ様、ドクター殿にも例の件を話させていただきました」

 

「うむ。例の一件に関しては我々よりもドクターが適切に対応できるだろう。卿の判断は正しかったと私は思う」

 

クルシュの言葉に一礼したファリックスは最後、竜車の準備をしていたヴィルヘルムにも声をかける。

 

「ヴィルヘルム殿、今回の助力感謝申し上げる。此度の戦いにおいて、未だその剣技が失われず輝き続けていることに私は感激しました。どうか貴方の悲願が叶いますよう、祈っています」

 

「私の悲願達成まで、私は自らの剣技を更に高めるつもりです。妻の命を奪った奴を私は絶対に許さない。命を枯らすその日まで私は剣を握り続け、必ずや奴を地獄に送ります」

 

復讐の炎に命を燃やすその姿は初老の男性には見えず、威圧感が尋常ではない。

ファリックスやクルシュは怒りに燃える彼のオーラに当てられ、思わず冷や汗を垂らす。その事に気づいたヴィルヘルムは炎を鎮めると、一言謝罪し準備を再開した。

 

準備が完了した竜車から次々にポータルを潜っていき、クルシュ邸に帰還する。

皆、疲労が浮かんではいるものの清々しい笑顔で去っていく。別れを惜しみファリックス邸に集まっていた多くの人も涙を流しながら彼らを見送っていた。

最後、クルシュの乗る竜車と浮かび上がったストレンジがポータルを潜る際には、大きかった歓声が更に大きくなった。

笑顔で手を振るファリックスの目尻に、涙が浮かんでいたのをストレンジは見逃さなかった。手を振るファリックスにストレンジも軽く手を上げて答える。

全員の移送完了を受け、ポータルを潜ったストレンジは別れを惜しみつつポータルを閉じた。

 

 

 

 

 

 

その後、討伐隊は解散となり各々は特別給与として一人金貨30枚を報酬として受け取った。

魔獣討伐の給与にしては多額の為、多くの人が歓喜したのは言うまでもない。

ストレンジはクルシュ邸に戻り、謎の現象の調査を開始し、クルシュやフェリスも王選への動きを加速させる。

 

そんなある日、いつも通りに図書館に向かおうとするストレンジの元をクルシュが訪れた。

彼女は今回カルステン家が引き受けた任の詳細を伝えに来たのだった。

 

「実はフェリスが王都の使者として他の王選候補者の下へ向かうことになった。卿にはその護衛をヴィルヘルムと共に務めてほしい」

 

「分かった。他の王選候補者の顔を見ておきたったからな。行き先は?」

 

「卿が興味を持っていた事柄だと思うぞ。

ーールグニカ王国宮廷筆頭魔術師、ロズワール・L・メイザース辺境伯。及び彼が支援する王選候補者、エミリアの所だ」




今回をもって第二章は完結です。
完全にオリジナル展開でしたが如何だったでしょうか?
本章ではストレンジとクルシュたちの交流を深め、信頼関係を構築するような構成としました。そしてエルザとメィリィが今回のヴィランとして登場しましたが、彼女たちは復活します(笑)!

そして次回からは第三章に突入します!
いよいよストレンジとエミリア陣営が接触し停滞していた原作が動き出します。

是非感想をお寄せいただけると幸いですし、何かアイデアがありましたら同じように送っていただけると嬉しいです(笑)。(あと高評価していただけると幸いです)←厚かましい

最後になりますが、これまで11人の方にご投票いただき、更にありがたいことに140名以上の方にお気に入り登録をしていただきました。
感謝申し上げます!
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