Re:上から目線の魔術師の異世界生活   作:npd writer

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いよいよロズワール邸に到着し、そこの面々との顔合わせをするドクター。果たしてルグニカ王国宮廷筆頭魔術師の称号を持つあの方とは上手くやれるのか……。

世間では再びコロナが広まっています。皆様、体調管理にはくれぐれもお気をつけて。


十六話 変人と変人

ルグニカ王国王都を抜け、リーファウス街道を走り、平原を走り、森を抜け、何時間も竜車に導かれて移動する一行。やがて森を抜けた先に現れたのは趣を感じさせる西洋風の巨大な屋敷。

クルシュ邸に引けをとらないその巨大な屋敷の庭には、大きな噴水のある池や、色とりどりの美しい花、様々な形を模したトピアリーが理路整然に並んでおり、観光地でしかこのようなものを見たことのなかったストレンジは思わず目を奪われた。

 

「ここがメイザース邸か……」

 

「そうだヨ。ここがメイザース領にある別荘の一つ。他にも沢山のお屋敷を持っているみたいだけど、クルシュ様には及ばないネ」

 

「屋敷はその人物の力の大きさを測る物差しになり得るからな。公爵家と辺境伯家ではやはり財力に差があるが故、そのように感じることもあるだろう。しかし辺境伯の屋敷と聞いていたからてっきり、ガチガチに固められた要塞のような邸宅と想像していたが……」

 

「そんにゃ防御の硬い要塞みたいな邸宅は、城塞都市ぐらいしかないヨ。それにロズワール辺境伯はその力故、屋敷を要塞化しなくても敵を簡単に倒せちゃうから問題ないみたい」

 

ストレンジとフェリスが窓からの光景を見続けながら言うと同時に、竜車が速度を落とし、玄関前で停車した。

ストレンジは予測した通り、脳裏に言葉に表せない嫌な予感が浮かんだ。この大豪邸を別荘とするとはそれだけ財力があるということ。「嫉妬の魔女」と容姿が似ているエミリアを王選に担ぎ出すということは、亜人趣味や番狂わせを狙うというより、何か裏の意図が存在していると感じざるを得ない。兎に角、それは領主であるロズワール・L・メイザースに会ってみなければ分からないが。

停車した後、ヴィルヘルムによって戸が開かれ、ストレンジとフェリスは降り立つ。降り立った先には二人のメイドが寸分違わぬ姿勢で彼らを出迎えていた。

 

メイド二人はそれぞれ水色と桃色の髪の毛を持っている。ボブカットの髪型から顔立ちまで何もかもがそっくりな彼女達は恐らく姉妹であり、違いを挙げるとすれば髪と目の色の違いぐらい。二人の目は主人への絶対的忠誠を違う鉄の意志を感じさせ、仕立ての良いメイド服に身を包む彼女たちはこの華美な屋敷にぴったりだった。

 

「「ようこそロズワール邸へ。お待ちしておりましたフェリス様」」

 

「お久しぶりだネ〜、レムちゃんとラムちゃん。連絡は届いていると思うけど、今日は宣戦布告に来たんじゃにゃい。王都からの王選に関する連絡を持って来たってわけだから、そう緊張しなくて大丈夫だヨ〜」

 

「心得ています、フェリス様。ーそちらの方は?」

 

二人組のメイドのうち、桃色の髪の毛を持つメイドが一礼すると、ストレンジの方へ向く。赤髪メイドから見ればお客人とはいえ、敵方に属しているかもしれない人物であり、警戒するのは無理もなかった。

一方、ストレンジは桃髪メイドの潜在能力に密かに驚いていた。彼女の潜在的強さは今まで出会った誰よりも強く、彼の世界では強さだけを見ればキャップを凌ぐものであることを察した。

どういうわけか、彼女はマナ不足でありその理由にもストレンジは興味を持ったが、やはりそれ以上にその潜在能力には目を見張るものがある。

 

(彼女……常にマナ不足に陥っているのか、倦怠感が常に彼女を蝕んでいる。しかし、もしマナ不足が解消されれば、彼女の能力は今とは比べ物にならないほど強力になるだろう。私の考案する「ニアアベンジャーズ計画」に必要な人材であることに間違いない。

ー彼女のマナ不足を私の魔術で補うことは可能なのだろうか?)

 

ストレンジが黙考する中、フェリスは勝手に挨拶を進める。

 

「ん?ああ、隣にいるこの人はストレンジっていう魔術師。実力はあるけれど性格に難を持つ、訳あり元医者だヨ」

 

「おい猫耳獣野郎、説明を省くな。私が言う」

 

あまりに省いたフェリスを睨みながらストレンジは一歩踏み出すと、警戒する姉妹のメイドに高らかに宣言する。

 

「はじめまして。メイザース家のメイドたち。私はドクター・スティーブン・ストレンジ。「至高の魔術師」の称号を持つ最強の魔術師だ。今は訳あってクルシュ邸に厄介になっている。よろしく頼む」

 

「「……」」

 

「ねえドクター。フェリちゃんの気のせいかもしれないけどォ〜、なんか滑ってにゃい?」

 

「そんなはずないだろう。そうだろ?」

 

「ええ、使者様にはなんの問題もないわ。少しばかり使者様のお言葉にイタいところがあるけども、なんの問題もないわ」

 

「姉様はすごい人です!他人に言えない事をやってのける!レムは感激しました!!」

 

「……」

 

傲岸不遜な桃髪メイドの辛辣な毒舌の後、慇懃無礼なレムと名乗る水色の髪を持つメイドが、桃髪の彼女を絶賛する。

ふんと、胸を張る「姉様」とレムは姉妹、それも血縁がかなり酷似している双子である事にストレンジが気づかないわけはない。

辛辣な二人のコメントに黙ったストレンジを、フェリスは横腹を肘で突きながらおちょくる。

 

「ありゃりゃドクター。随分と酷な評価だネ〜。フェリちゃんが慰めてあげようか?」

 

「必要ない」

 

「ハイハイ、相変わらずドクターは頑固だねえ。偶には、フェリちゃんに甘えてもいいんだヨ〜?」

 

「勘弁してくれ。野郎に甘えるとか誰得だ」

 

「少なくともクルシュ様は「ふむ。そうやって仲を深めるやり方もあったのか。卿らの仲がそれで深められるのならば遠慮なくやってほしい」とか言いそうだし、多分許可ももらえるからフェリちゃんはいつでもうぇるかむ、だヨ!」

 

ストレンジの挨拶に関するところから、すっかり話が脱線してしまった一行。ようやく話が一段落したのは、あまりにも話が弾んだ事を注意するヴィルヘルムの咳だったとか。

 

「とにかくだ、我々は面白い話をしに来たんじゃない。王都からの言伝を伝えに来たのだ。早速、王選立候補者であるエミリア女史と、彼女の支援者であるロズワール・L・メイザース辺境伯へお目通り願いたい」

 

「ロズワール様は現在お屋敷にいらっしゃいますが、エミリア様は所用で席を外しております」

 

「暫くすれば帰ってきますのでお待ちいただくことになりますが、よろしいでしょうか?」

 

「それで構わないヨ〜。ま、エミリア様が帰ってくるまでは私たちも帰れないからねぇー」

 

「ではレム、お客様を来賓室に」

「はい、姉様」

 

ロズワール邸に到着して数十分。玄関先で駄弁っていたストレンジとフェリスは、レムに案内され屋敷の一角にある来賓室にようやく案内される。

屋敷の内装も外観に恥じぬ立派さで、外から見るよりも広く感じる。真紅の絨毯が引かれた長い廊下を歩いている途中も会話は続いていた。

 

「どう?初めてロズワール邸に入った感想は」

 

「この屋敷内に外部からの侵入者を防ぐ様々な仕掛けが為されていることは分かった。用心深いのか小心者なのか知らないが。

ーーそういえば、半月ほど前にメイザース辺境伯領では魔獣による事件が起きていたそうだな」

 

「ウン。ファリックス領で起こった魔獣騒動の何か関係があるってドクターは睨んでいたよネ。クルシュ様が相手した魔獣使いが何か関係しているのかもしれにゃいけれど、情報が足りなくて結論は出せないのが実情なの」

 

「エルザと一緒にいたメィリィという魔獣使いか。確かに彼女の実力は幼児のそれではなかった。メイザース領で起こった騒動があの魔獣使いによって引き起こされた可能性がある以上、王選を潰したい何者かがいる可能性もある。癪な野郎だ」

 

「或いは王選候補者に恨みを持った者の仕業というのもあり得るネ」

 

「私は見たことがないが、龍歴石とやらに王選に関する記述が書かれた以上、利権に群がる連中も数多くいるだろうな。現候補者を支援している貴族連中にそのような連中がいてもおかしくない。可能性としてはあり得るかもな」

 

(最もこれは第三者による妨害と仮定した場合だ。仮に何処かの陣営に属する有力者が引き起こしている場合、事の周到さもそうだが徹底的に証拠を残していない点を鑑みると、相当な上流階級か手慣れのプロの犯行か……。何れにせよ、厄介な事極まりない)

 

「……」

 

そして何やら物騒な事を話す客人たちの話を先を歩くレムが聞き逃すはずもなく、聞いていないふりをしながらもガッツリ聞き入っていた。

 

 

 

 

 

やがて一行は長い廊下の突き当たりに辿り着いた。先にあるのはこの屋敷の他の扉よりも装飾が華美で、大きい両開きの扉が設置されている。レムが両手で扉を開けると、中の装束品が明らかとなる。上質なソファに、木製の上等な机、靴底が埋まりそうなほどふかふかなクッションに、高価な置物。

窓辺からは日光が心地よく差し込んでおり、耳をすませば鳥の囀りも聞こえてくる。

 

「では使者様方、こちらで暫くお待ちください」

 

レムは深々と一礼すると、扉を閉じて退出する。ソファに深く腰を下ろしたストレンジは室内をぐるりと見回すと、窓辺から外の景色を眺めた。

周辺を森で覆われた自然溢れる光景はヨーロッパの田園地帯を連想させる。暖かい陽光がほどよく室内を照らしており、眩しさは感じない。

 

ストレンジが一通り室内を見て周り、ソファに座りしばらくすると再び扉が叩かれる。ストレンジが席を戻ると同時に扉が開かれ、レムの他にもう一人、背の高い高身長の美男が現れる。

 

「よーぅこそ、王都からの使者様方。遠路遥々当家にお越しいーただき、まことにありがたぁーく存じまぁーす」

 

扉を開けた先に立っていた男の容姿にストレンジは思わず、口をあんぐり開けてしまった。

長身痩躯、藍色の長髪に、青と黄のオッドアイ。悪趣味な道化じみた服と、ピエロメイクという奇抜な風貌は、とてもルグニカ王国に代々仕えてきた魔導の名門メイザース家の当主とは想像できない。

様々な人から変わり者と聞かされていたとはいえ、想像を絶するその見た目と話し方に動揺する彼の変貌に隣のフェリスは笑いを隠せない。

言葉を失うストレンジを余所に、ロズワールはスタスタと歩み寄ってくる。

 

「これはこーれは、フェリス様。態々、当家にまでご足労いただき、誠にありがとうございまぁーすとも。では早速お話を、といいたいところでぇーすが、そちらの方のご紹介をお願いでえーきますでしょうか?」

 

妙に気抜けした口調に態度。真意をひた隠すそれは、道化という言葉がぴったりな人物だった。 

だがストレンジを見つめる彼の目には好奇心と歓喜が滲み出ている。

 

「それは彼から直接聞いてあげてほしいにゃ〜、色々こだわりがあるらしいからねェ〜」

 

「一言余計だ、お喋り野郎。

初めましてだな、ロズワール・L・メイザース辺境伯。私はドクター・スティーブン・ストレンジ。『至高の魔術師(ソーサラー・スプリーム)』の称号を、受け継ぐ魔術師だ。今は訳あってクルシュ邸に厄介になっている。会うのを楽しみにしていた」

 

ストレンジがいつものように挨拶すると、着席していたロズワールは興味津々にストレンジの方を向き、その瞳を怪しく輝かせた。

 

「おぉ、あなたも魔術師!つまり、わーたしと同じというわーけですねぇ!では改めて名乗りましょう。

私はロズワール・L・メイザースと申しまーす。筆頭宮廷魔導士に任じられていまーすとも。私もあなたに会うのもとてもとーても心待ちにしていましたよ」

 

「私に?」

 

「ええ。ストレンジ殿の噂は聞いておりまぁーすとも。「ファリックス子爵領にておこった魔獣騒動を、解決に導いた未知の魔術師」、「ルグニカ王国に突如として現れた稀代の策士」、「カルステン家の切り札」などなど、色々なお噂が立っている有名人物でぇーすからねぇ」

 

「どれもこれも好意的な異名だな。しっかりと人を見る目があるようで安心した」

 

「まーるで、自分にとっては妥当だと言うような口調でーすね。ますます興味が、わーきましたとも。

そうそう、私共にもあなたと同じように厄介になっている使用人がいましてーね。彼は器用なんですが、どーも性格が難しくて。とにかく面白い子なので、良かったら挨拶させてやりたかったーのですが、生憎今は席を外しておりまぁーして」

 

何やらロズワールは、この屋敷の使用人の一人にストレンジを重ねているようだった。ロズワールほどの変人に目をつけられるということは彼も相当の変人なのか、それとも単にロズワールの趣向なのか。

道化の口調を崩さない今では分からない真意を持つロズワール。教養豊かなその動作とは真逆の道化師めいた口調と格好に、ストレンジは後に厄介事に巻き込まれそうな感じがしてならなかった。




ロズワールは、ストレンジの活躍を耳にして以来、彼に興味を抱いていました。全く未知の魔術を使う彼に会うのを密かに楽しみにしており、普段以上にルンルン気分になっています。
またストレンジの魔術が、自らの悲願に繋がる可能性があるとも思っていたりしています。

因みにそれを見た禁書庫の司書からは、「気色悪いかしら」と一蹴されています。
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