Re:上から目線の魔術師の異世界生活   作:npd writer

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なんとこの作品がランキング入りすることができていました!

もう本当にありがたい限りです!
この作品をご愛読してくださっている全ての皆様に、只々感謝申し上げます!


十七話 憧れと羨望

「そうそう、私共にもあなたと同じように厄介になっている使用人がいましてーね。彼は器用なんですが、どーも性格が難しくて。とにかく面白い子なので、良かったら挨拶させてやりたかったーのですが、生憎今は席を外しておりまぁーして」

 

「ほう。お前はその使用人に余程ご執心のようだな」

 

「あはぁ、そうですとーも。彼は私達の命の恩人ですからねーえ。エミリア様を二度もお助けし、村の危機を救った彼は、最早英雄。そーんな彼を手厚く迎える他にどーんなお返しがありますかぁーね?」

 

ストレンジとフェリスがロズワール邸に入って数十分が経過する頃、当主であるロズワールと面会したストレンジは彼の放つ異様なオーラに引きつつも、彼の話に耳を傾けていた。

どうもこのピエロ当主は現在、とある使用人にご執心のようであり、言葉の端々からも読み取れる。

 

「そういえばロズワール様の領地でも魔獣による騒動があったみたいじゃにゃい?無事解決したから良かったけど対応を間違えちゃうと〜、いつか痛い目に遭うヨ?」

 

「フェリス様、ご忠告感謝しますとーも。なーにせ、今回の出来事は明らかに人為的なものでしたからねーえ。何者かが手を引ーいていたことは分かっていますとーも。カルステイン家でも同様の被害を受ーけたと報告を受けていますが?」

 

「それは我々が対応し、無事撃退した。当事者であるファリックス子爵からも大変感謝されたぞ」

 

「なーるほど。どおりであなたの噂が広まるわーけですね?しーかし、お互い色々面倒事を抱えているように感じまぁーすが?」

 

向かい合って座るストレンジ、フェリスとロズワール。お互い、先の魔獣被害に関して情報交換を行いつつ、本日の主役であるエミリアの到着を待っている。因みに現在、ヴィルヘルムは屋敷正面玄関前にて竜車の掃除と地竜のケアを行っていた。

 

「わーたしはストレンジ殿の活躍を聞いてとてもとーても驚きましたよ。しーかし、まさか「腸狩り」と魔獣を操る少女がそーの事件の黒幕だったとは、こんな偶然もあるのでしょーか?」

 

「偶然だと?どう言うことだ、メイザース辺境伯。それと、私の名前はドクター・ストレンジだ。私を呼ぶ時はドクターと呼んでほしい」

 

ストレンジの場所が変わらずとも続けるこだわり。本来であるならば敵本拠地である辺境伯の眼前でもそれは変わらない。

名前を指定するという無礼に近い真似をロズワールは、面白そうに笑う。

 

「良いですとーも。どうも先程、ストレンジ殿と呼んだ時、心なしか不満そうな表情でしたかーらねぇ。あなたが指名した呼び名を使うことにしましょーか。

そして先程の話に戻りまーすが何を隠そう、私の使用人はその「腸狩り」によって傷つけらーれ、私の屋敷に運ばれてきーたのですから」

 

ロズワールの使用人とファリックス領を襲った下手人が同じエルザだったという人物。更にロズワールは続けて爆弾を落とす。

 

「その時、エミリア様をお助けしたのーも、使用人である彼ですけどねーえ」

 

ストレンジにとっては聞き逃せない情報をさらりと言ったロズワール。

彼の言葉通りなら、エルザはクルシュを襲う前に、同じ王選候補者であるエミリアを襲っていたことになる。そしてそれにはロズワール領内にて起こった魔獣襲撃と同じ使用人が関与していた。まるで仕組まれたような一連の出来事にストレンジは言いようのない嫌悪感に襲われる。それはまるで出来事を裏から操られ、さも自らのシナリオ通りに動かされている事への不快感に近い。

 

「ふーん、そんな偶然もあるんだネ?」

 

「まーったくですとーも」

 

ストレンジが考えに集中して無口になるので、繋ぎとしてロズワールと言葉を交わすフェリス。急に黙ってしまった彼を見て、ロズワールは面白い人物だと笑みを浮かべニヤニヤしているが、フェリスはどうしたものかと心配げになるがすぐにその気を晴らす。ストレンジと一緒にいる時、彼は突然別行動を取ることが多いからだ。

やがて室内にティーセットを運んできたラムが現れたことでその空気は切り替えられた。彼女によって机の上に淹れたての紅茶が()()()用意される。

ロズワールは安心させるためか、自ら紅茶を手に取り飲もうとするが、ストレンジはほぼ同時に手に取り、彼よりも先に飲み始める。

 

「お気に召していたーだけたでしょーか?」

 

「ふん。中々上品と言える味だと言えるな。何処かの悪趣味実業家が作った三流菓子よりはマシだ」

 

「それってドクターの故郷の話?多分、話しても分からにゃいと思うヨ?それにしても、ラムちゃんの淹れてくれる紅茶は凄く美味しいよネ〜。いつも淹れてもらってるから分かるヨ〜」

 

「フェリス様。申し訳ありませんが、この紅茶はレムが淹れました」

 

ラムの言葉に「あ、そうにゃの?」と返すフェリス。この間にもストレンジとロズワールは視線を交わし続けていた。何もかも見透かそうとする好奇心の目と、真意を悟らせない冷静な目が交わり合う。ロズワールはお茶を置いたところで次なる局面へと進む。

 

「とーころで、手紙で話は聞いていまーす。王選についておー聞かせ願いませんでしょーか?」

 

「それは特使であるフェリちゃんから説明させてーって思ったんだけど、エミリア様がいにゃいヨ?」

 

「そーれは心配無用でぇーすとも」

 

ロズワールの言葉通り、その僅か数秒後扉が開かれる。

ラムによって扉が開かれると先に姿を表したのは妹のレム。

 

「ロズワール様、お客様。エミリア様がいらっしゃいました」

 

レムがゆっくりと傍に寄り深々と一礼すると、彼女の背後より様子を窺うように一人の美少女が現れる。

長髪の銀髪を靡かせ、フェリスとはまた違う短く尖った耳。紫紺の瞳の奥には、彼女の肉体年齢には不相応なほどの幼い感情が見え隠れする。クルシュと真逆な自信なさげなオーラを抑えられていない彼女は何か大きな力を持った存在に寄り掛からなければ生きていけないような儚い印象をストレンジに植え付けた。世間知らずの箱入り娘という言葉がこれほどぴったり当てはまる人物がいるのだろうかという思いとともに。

ーーロズワール辺境伯が支援する王選候補者の一人、エミリアがそこにいた。

 

「あ、あの……。遅れちゃって、ごめんなさいっ!!」

 

開幕初手に勢いよく頭を下げる美少女。申し訳なさそうな表情を顔に浮かべたエミリアは、おずおずと顔を上げ、フェリスやストレンジの反応を伺う。

 

「大丈夫ですヨ〜、エミリア様。我々も今し方到着したところですからネ」

 

「突然の来訪だ。遊びに行っていたとしても咎められるものではないだろうな」

 

「ふーむ、ドクター殿はエミリア様を前にしーても、一才の嫌悪感を抱きまぁーせんでしたねぇ」

 

「私を容姿のみで判断するような下賤な輩と一括りにしないでもらいたいな、メイザース辺境伯。世間がどう感じてようが、彼女はエミリアだ。色眼鏡で彼女は見ないぞ」

 

ストレンジは申し訳なさそうに佇むエミリアに、着席するよう促す。当事者であるエミリアの到着により関係者が全て揃った。遂に今回の来訪の目的である王選についての詳しい情報を話すことができる。

 

「そーの前に、エミリア様には是非ともこちらにいらっしゃるドクター殿に挨拶をおー願いしたいと思うのですがよろしいでしょーか?」

 

「あ、そ、そうね。ロズワール。

ーーえっと、初めまして。私はエミリア。ただのエミリアです。よろしくお願いします!」

 

「エミリア……エミリアだけ?アデルみたいに?もしくはアリストテレス、ドレイク、ボノ、エミネム……あぁ、ビヨンセだな?」

 

お得意のジョークをぶちかますストレンジ。以前ウォンと同じようなやり取りをした際には、彼に冷たい目線で見られ、挙げ句の果てには脅迫まがいな言葉を投げつけられていたのだが、同じジョークでも異世界住人のそれに対する反応はーー

 

「「「……」」」

 

「……ヘクチ」

 

暖かいはずの室内には妙に寒い風が吹き抜け、ラムは思わず可愛らしいくしゃみを漏らす。ロズワールはにやにやと笑みを浮かべ続け、フェリスは苦笑し、レムは真顔でじっとストレンジを見続けている。

そんな中、困り顔のエミリアは苦笑まじりにストレンジのジョークに応える。

 

「え、えっと。その、ありすとてれす、とか、びよんせ、とかよく分からないんですけど……。

私の名前はエミリア。それだけ、です」

 

「いや、こちらも失礼したなエミリア。先程の言葉は忘れてくれ。

ーー敬語が苦手なら、砕いてもらっても構わないが」

 

「忘れてくれって……あれはかなりの印象だヨ?忘れる方が無理な話にゃ〜」

 

「お前は隙あらば口を挟もうとするな。

こちらのバカが失礼したな。私はドクター・スティーブン・ストレンジだ。『至高の魔術師』を受け継ぐ魔術師だが、今はカルステン家に厄介になっている」

 

「クルシュさんの所に?ーーそう、あなただったのね。クルシュさんのお友達の、フォリアさんのところで起こった魔獣騒動を鎮圧した魔術師っていうのは」

 

エミリアは真っ直ぐにストレンジを見つめる。敵意や羨望の視線なら山ほど受けたストレンジも、一切の穢れがない純粋な敬意のみの視線を受けた経験はなくそれ故、こそばゆい感覚に襲われる。

 

「私、すごーくあなたに会いたかったの。みんなが困っている時に手を差し伸べる事ができて、どんな敵を前にしても、決して怖気付くことなく自分を押し通して戦う。私もいつかはそんな風に色々な人を助けられたらって思ってて。ーーさっきので大分印象変わっちゃったけど」

 

「エミリア様は、ドクター殿に憧れていーるんですよぉ?ス……使用人はそれに嫉妬しちゃって大変でぇーしたけど」

 

「ち、ちょっと!ロズワール!」

 

「や〜ん、ドクターってばモテモテだねェ〜。フェリちゃん、ちょっと妬けちゃうかにゃ〜?」

 

「勝手に妬けとけ」

 

自分に憧れているらしいエミリアの発言に、図らずも気分が高揚するストレンジ。かつて医者時代には「神の手」を駆使し、難手術を次々に解決した際にも、同僚や学会の同業者からも同じような言葉をかけられたことがあった。しかし、当時はその言葉はかけられて当たり前、賞賛など心には響いたことはない。

しかし、たった一人の少女の純粋なる敬意と、面と向かって言われた称賛の言葉にストレンジは、人生で久しぶりに照れるという感情を実感していた。

 

 

 

 

 

時はエミリアが来賓室に足を踏み入れた時まで遡る。

王都からと使者が来たとの報告を受けたエミリアは急いで初めて来賓室まで向かい、タイミングを窺うように静かに入ろうとする。

そして室内を見回した時、フェリスとともに対面に座る謎の男について、色々な意味で初めてな人間だと感じていた。

あの子と同じ黒髪に、アイスグレーの瞳、口元の丁寧に整えられた髭。

それに加えて高身長という美形の容姿は、どこかロズワールと近いものを感じる。

見たことのない服の上には赤いマントを羽織っており、手元には()()()()()()()()両手を覆う手袋。そして何より、エミリアはその人物に溢れんばかりに存在するマナの量と、それを操るゲートの大きさに驚いていた。

自分では到底操り切ることができない量を操る技量を持った人物の存在。至高の領域に立つ大きな存在に、エミリアの心はざわめき立っていた。

 

「そーの前に、エミリア様には是非ともこちらにいらっしゃるドクター殿に挨拶をおー願いしたいと思うのですがよろしいでしょーか?」

 

着席したエミリアは、ロズワールの言葉に促され、エミリアは自然と立ち上がり、その人物に頭を下げる。

 

「あ、そ、そうね。ロズワール。

ーーえっと、初めまして。私はエミリア。ただのエミリアです。よろしくお願いします!」

 

「エミリア……エミリアだけ?アデルみたいに?もしくはアリストテレス、ドレイク、ボノ、エミネム……あぁ、ビヨンセだな?」

 

初対面ながら変な言葉を次々発する目の前の男。ちゃんとして聞く男の声は聞きやすく、何処か傲慢にも聞こえる。

どう返せばいいか困惑するがしかし、嫌悪感を抱くことはなかったエミリア。

 

「え、えっと。その、ありすとてれす、とか、びよんせ、とかよく分からないんですけど……。

私の名前はエミリア。それだけ、です」

 

「いや、こちらも失礼したなエミリア。先程の言葉は忘れてくれ。

ーー敬語が苦手なら、砕いてもらっても構わないが」

 

「忘れてくれって……あれはかなりの印象だヨ?忘れる方が無理な話にゃ〜」

 

本当にこの男とフェリスは仲がよろしいようで、微笑ましく感じるエミリア。それと同時に何処か羨ましくもあった。遠慮なく言葉をぶつけ合える「友人」という存在を持っていなかったエミリアにとって、男とフェリスのやり取りは彼女が思い描く「友人」としての理想の形だった。

父同然の精霊との仲が彼らとのやりとりに最も近いものの、何処かそれは親子に近い関係。最近出会った使用人はやたら自分に言葉を投げかけてくれるものの、彼の心情を把握できていないエミリアにとってはどのように応答すれば良いか分からなくなる時がある。

エミリアが何処か羨ましそうな思いを抱く中で、男が再び口を開く。

 

「お前は隙あらば口を挟もうとするな。

こちらのバカが失礼したな。私はドクター・スティーブン・ストレンジだ。『至高の魔術師』を受け継ぐ魔術師だが、今はカルステン家に厄介になっている」

 

その名にエミリアも聞き覚えがあった。

以前、アーラム村で発生した魔獣による子供たち誘拐事件。それを解決したのはレム、ラム、そして彼。

が、その一件の後、今度はファリックス領で同様の魔獣による被害が発生したとの報告が入った。

アーラム村を襲った魔獣とは比べものにならないほどの数の大群に加え、以前王都で自らを襲ったことのある「腸狩り」がファリックス領を襲ったという事実は、エミリアを驚愕させると共に恐怖心を植え付けた。

ーーもしも自分が領主であり、同じような状況に接した時、自分ならば領民を背にして戦えるだろうか。大勢の領民たちを背に一人で大群を相手に戦えるのか。「嫉妬の魔女」と同じ容姿の自分が戦っても誰が喜ぶのだろうかーー

 

見えない敵に自信を無くすエミリア。しかし、その大群を撃退した魔術師がいた。その魔術師はまだカルステン家に身を寄せてから数ヶ月しか経っていなかったが、自ら義勇軍に加わり大勢の村人たちを背に、膨大な数の敵を次々と倒したそう。

見たことのない魔術を次々と駆使して魔獣を葬り、「腸狩り」との一戦では優秀な剣士の助力があったとはいえ、彼女と互角に戦うなど武術も優れた人物。結果として多くの人の命を救ったその魔術師にエミリアは憧れと尊敬を抱く。いつかその魔術師のように多くの人の命を救う存在になりたい、出来ればその人物と会ってみたいーー。

同じ魔法を扱う者として憧れを抱いた人物の名こそ、ドクター・スティーブン・ストレンジ。

ーーそう、ドクター・ストレンジだ。

 

「クルシュさんの所に?ーーそう、あなただったのね。クルシュさんのお友達の、フォリアさんのところで起こった魔獣騒動を鎮圧した魔術師っていうのは」

 

隠しきれていないであろうが問題はない。寧ろ見せつけてやろうではないか。自分が如何に彼に憧れているのかを。

エミリアは真っ直ぐに彼を見つめた。ただ、憧れと尊敬を胸に。

 

「私、すごーくあなたに会いたかったの。みんなが困っている時に手を差し伸べる事ができて、どんな敵を前にしても、決して怖気付くことなく自分を押し通して戦う。私もいつかはそんな風に色々な人を助けられたらって思ってて。ーーさっきので大分印象変わっちゃったけど」

 

「エミリア様は、ドクター殿に憧れていーるんですよぉ?ス……使用人はそれに嫉妬しちゃって大変でぇーしたけど」

 

「ち、ちょっと!ロズワール!」

 

「や〜ん、ドクターってばモテモテだねェ〜。フェリちゃん、ちょっと妬けちゃうかにゃ〜?」

 

「勝手に妬けとけ」

 

ストレンジはフェリスに、自分はロズワールにそれぞれ茶化される。

時々変なことを言う人物だが、それでもエミリアは彼に敬意を抱き続けていた。

 




エミリアにとってストレンジは、色眼鏡で自分を見ない数少ない人物だったからこそ、ストレンジを特別な人と思っています。尚且つファリックス領での一件から、彼方からずっと会いたいと感じていました。

因みに憧れと尊敬の気持ちを直に聞かされた使用人の少年は、未だ見ぬストレンジに敵意を持っています笑


P.S
このエピソードで分かりにくいとのご指摘をいただきましたので補足説明させていただきます。
このエピソードでは前半をストレンジから見たエミリア、後半をエミリアから見たストレンジ、として表現しています。その為、同じセリフが2回続いているようになっています。
かえって見にくくなっていましたら誠に申し訳ありません。次回からの改善点とさせていただきます。
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