Re:上から目線の魔術師の異世界生活   作:npd writer

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皆様、お久しぶりでございます!

久しぶりに時間ができたので投稿できるようになりました。
大変長らくお待たせしました!


二十六話 傲慢の化身

クルシュの演説の熱が冷めない中、緊迫感のみなぎる広間に投げ込まれた爆弾のような発言。バルカンの火薬庫よろしく、危険な空間で火遊びするも同然の言葉に、誰もが息を呑んで事態を見守る。もはやその失言を誰が口にしたのかは問題ではなく、それによって引き起こされる事態に注目が集まる。

固唾を呑み、全員の視線が中央のプリシラへと向けられた。畏怖まじりの視線を全身に浴びながら、プリシラは声がした方へちらと目を向け、

 

「くだらん上につまらん芸のない罵声じゃ。妾に嫉妬する低俗の羨望なぞ、聞き慣れ過ぎて子守唄にもならん。もう少し芯のある言を発せられる面白き下衆はおらんのか?」

 

停滞が支配しかけた広間を、プリシラは心の底から退屈げな声で躊躇なく割った。その声音には周囲の不安を慮り、配慮したような気配は微塵もない。心底純粋に、今の傲慢な台詞こそが彼女の内心の全てであると全員に伝わる。

 

ストレンジに引けを取らぬ傲岸不遜な佇まいに、クルシュとは別の意味で凡人とは一線を画す次元に立つ身であるのだと、しみじみ感じさせられるスバル。

罵倒や侮蔑に近い単語に近い先程の言い方ーー、『血色の花嫁』とは穏やかでない呼び名だが、否定されることもなかったそれがどんな意味を持つ単語なのだろうか。

 

「では改めまして、従者含めてお名前をお聞かせ願えますかな」

 

場の空気が悪くなる前に本題へと移行するマイクロトフ。自分よりはるかに年少の相手に対し、装いに感じない敬意を払った態度をとれるあたり、彼の老練された政治手腕が見え隠れする。

彼のその穏便な振舞いの意味がわからないわけではなく、プリシラも無礼な一言など忘れたように素直に頷いた。

 

「よいじゃろう。余命僅かな老骨の、残り少ない時間を削るのも酷といえる。妾の寛大な心に感謝するがいい」

 

いらない一言を付け加えた彼女は居丈高に豊かな胸を張り、

 

「これより名乗る、妾の名を今生の終わりまで忘れず刻みつけておけ。妾の名はプリシラ――プリシラ……はて、今はなんじゃったか」

 

威勢よく走り出した序盤と正反対の後半の失速ぶりは興味がなさそうに聞いていたストレンジの気をも彼女の方へ引かせた。既にずっこけかけているスバルが、かろうじて周囲のシリアスな雰囲気を堪える中、彼女の発言は一種の微妙な温さをもたらす。

彼女は幾度か首をひねると、隣に立つアルを見上げてその横腹を突き、

 

「アル。妾が困っておるぞ、早く助力せい」

 

「いや、スタート地点で転ばれるとは思わねぇって。自分の紹介ターンをドキドキして待ってたオレの高鳴りをどうしてくれんだい、姫さん」

 

「貴様の胸の高鳴りなぞ、妾の知ったことか。ほれ」

 

「まさか、家名のバーリエルが出てこねぇって話じゃねぇよな?」

 

「――おお、それじゃ」

 

おそるおそると差し出した手をしっかり握り返され、アルは自分の主の頭の残念さに天を仰いで掌を額に当てた。その嘆きのポーズを隠しもしない従者を置いていき、プリシラは改めて前を向き、壇上の賢人会へと不敵に笑う。

 

「妾はプリシラ・バーリエルである。次代の王じゃ、敬え」

 

 

 

 

 

傲慢たるその性格が少なくとも、真に王になりたい人間の口にする演説ではないと、下から見上げていたストレンジは思案した。先のクルシュと違って彼女は、一行発言で全てを語り尽くしたとばかりに満足げに耽っており、傲慢な彼女を何故王候補として選んだのか、龍歴石の調査を個人的に行いたいという欲求すら彼は持ち始めている始末だった。

 

「バーリエル……というと、ライプ・バーリエル殿の?そういえばライプ殿の姿が見えませんが、彼は……?」

 

「あの好色ジジイならば、半年前に不慮の事故で重傷を負って、そのまま意識も戻らず、先日に死んだ」

 

「なんと、ライプ殿が。そうなると、ライプ殿とプリシラ様のご関係は……?」

 

「妾にとっては亡き夫ということになるじゃろう。指先さえ触れておらんのじゃから、本当の意味で名前だけの関係ということになる」

 

彼女の発言の後、広間には再び静寂が訪れた。プリシラという女性は、伴侶の死を退屈そうに吐き捨てたということになるが、それは死から生まれる感情を覆い隠すためか、それとも本当に気にしていないのか。

 

「姫さん、いくらなんでもその言い方だと哀れすぎねぇ?」

 

周囲を見渡したアルがひそやかにプリシラに耳打ちするが、彼女はそのアルの配慮すらあっさりと切り捨て、

 

「事実を事実と話すのに飾る必要がどこにあるというのじゃ。あのジジイは妾を娶り、分不相応な野心を燃やした挙句、無関係な事故に巻き込まれ、火種を大火にする前に勝手に燃え尽きたのじゃ。これが笑い話でないとしてなんとするんじゃ?まぁ、命まで張ったわりには笑えん話で、つくづく無価値な老骨であったがの」

 

言葉の刃ですでに斬られた故人をさらに何度も滅多切りにするプリシラ。ストレンジからすれば知らない人物であるため、哀れみの感情しか浮かんでこないが、その人物を知っているらしきマイクロトフなど高官たちの表情は沈痛な面持ちを隠せない。

そんなマイクロトフの表情の変化に気付いているのかいないのか、プリシラは変わらない態度のままで橙色の髪をかき上げ、

 

「唯一、あの老骨に意味があったとすれば、溜め込んでいた全てを妾にそのまま譲渡したことじゃな。妾とジジイは夫婦であった故、跡取りのいない……つまり、バーリエル家は妾のものである」

 

乱暴な結論を導き出したプリシラは周囲にいる不満そうな貴族たちを見渡す。その視線を受け、不服の感情が高まるが、それを具体的な形にして示すものは現れない。クルシュやファリックスに抗弁したリッケルトでさえも、彼の人物も顔に不満を浮かべながらも口を閉ざしている。

 

「ふぅむ、お話はわかりました。長年の知己故、ライプ殿の訃報には少しばかり驚くところがありましたが……プリシラ様の話は筋が通っております。バーリエル家の当主が御身であることは確かに」

 

「当然じゃな」

 

「さらに詳しいお話が聞きたいところではありますが、そちらの騎士は?」

 

悠然と頷くプリシラに、マイクロトフが今度は隣に立つ従者、アルに水を向けた。

 

「あふ……あ、オレ?」

 

明らかに欠伸を噛み殺そうとしていた声で返事して、主ともどもマイペースの権化であることを証明してみせたアル。

 

「そう、御身です。変わった格好ですが、近衛騎士団では見ない顔……兜ですな」

 

「お、わかるかい?この兜は南のヴォラキア帝国製でさ、持ち出すのに苦労してんだよ。丈夫で長持ち、あと見た目かっこいいから重用してるってことね」

 

「ヴォラキア帝国の……では、御身は近衛騎士団の所属ではなく」

 

「騎士なんてハイカラな呼ばれ方されるとむず痒いぜ。実際、オレはほら、あれだよ。流れの傭兵的な、所謂風来坊ってもんだぜ」

 

アルは隻腕で己を示し、くぐもった声で素姓を堂々と暴露する。からからと笑ってみせる動きに兜が金属音を立て、それがまた無闇矢鱈に周囲を煽っていく。事実、その振舞いに青筋を立てたのは近衛騎士陣営だった。

 

「なんという無礼な態度!ここがどこだかわかっていないのか!?」

 

「野卑な蛮人に騎士としての振舞いを求めるのは酷なことといえ、今の態度は黙認できない」

 

「そもそも、賢人会の皆様の前で素顔を隠しているのは何事だ。それも帝国製の兜でなどと……不敬にも程があるぞ!」

 

「へいへーい、あんましギャンギャン怒るなっての。ナイーブなオレのハートがプレッシャーでズタズタになっちゃうって」

 

騎士たちの怒りの声に対し、あくまでアルは涼しげな態度を崩さない。彼は兜の表面を指でなぞりながら、

 

「ま、あんたらの意見が的外れだとは思わねぇよ。お偉いさんの前で顔を隠してるなんて、不審者扱いされてもおかしくねぇし」

 

「貴様が不審者然としておらねば、妾の目には適わなかったぞ、アル」

 

「それはゾッとしねぇ話だ。とはいえ、顔を隠す無礼は許してほしいね。なにせ」

 

賢人会を見上げ、アルはその兜の隙間に指を入れると、ほんのわずかだけ持ち上げて隠された顔の一部を外に見せつけた。首下が持ち上がり、顎から鼻下までが外気にさらされ――、

 

「う――――」

 

その痛ましい顔の傷跡に、老人の誰かが小さくあげたうめき声が響く。

そのままアルはぐるりとその場で回り、同じ状態を広間の全体に向かって見せつけた。先程まで怒声をあげていた騎士たちは黙ってしまい、黙って見ていたストレンジでさえもその顔面には目を見張った。

 

アルの顔面は見えた部分だけでも、火傷や裂傷、様々な傷跡が積み重なった歴戦が刻み込まれていた。

周囲の反応が思惑通りだったのか、指を外して兜を被り直したアルは笑い、

 

「とまぁ、「至高の魔術師」さえも驚くような見苦しい顔してるわけで、こうして顔を隠して皆様と向かい合う失礼も許していただけると幸いってこと」

 

「こちらこそ、部下が失礼をいたしました」

 

お茶を濁した発言をするアルに、マーコスが頭を下げて謝罪。それから彼は巌の表情を固くしながら、

 

「重ねて失礼をいたしますが、帝国の出身でその傷跡……剣奴の経験者では?」

 

「へぇ、さっすが騎士団長様。秘密主義国家の帝国の後ろ暗い部分のことなんてよくご存知だな。確かに剣奴経験者だ。十数年ばかしのベテランのね」

 

ふと、何かに気づいたように再びアルは口を開いた。

 

「あ、名前を名乗ってなかったわな。ヴォラキアとも縁が切れて、今は流れの風来坊――アルって呼んでくれや。姫さんにうまく召し抱えられて、えっちらおっちらやらせてもらってるとこ」

 

相変わらずとぼけた態度でマーコスに笑いかけるアル。その姿勢は主と同様、周囲にすごまれたことなど欠片も気にした様子がない。反対に先ほどまで彼を糾弾していた騎士陣営の方こそが、彼の身に刻み込まれた傷跡のすさまじさに言葉を失ってしまっている始末だった。

片腕がないことを含めて、彼の歩いてきた道のりが平坦なものでなかったことがはっきりと周知されたからである。

 

何やらアルと自らの姿を重ねて、自分の未来の姿でも想像しているのか、身を震わせるスバルを横目に王選の議事は進行を続いていく。

 

「ヴォラキア帝国出身ならば、プリシラ様とはどのような縁で? あの国は情報だけに限らず、人も物も外に出さない、一種の別世界ですが」

 

「どこにでも抜け道裏道回り道ってのはあるもんさ。時期を見て、帝国からは逃げ出させてもらってだけ。そんでもってオレが姫さんとこいる理由だが……」

 

「妾の余興の結果じゃ」

 

 それまで黙り込んでいたプリシラが、突如として彼らの会話に割って入る。マイクロトフの質問に割り込んで答えた彼女は、自分の指を飾る色とりどりの装飾品をいじりながら、

 

「妾が王となるのは天意同然。ならば従者など誰でも同じこと。故に妾は妾の従者に妾の気に入ったものを選んだ。その結果がそこの男というわけじゃ」

 

「なるほど。では、その選び方とは?」

 

下手に反論せず、傲岸不遜な部分には触れずに、マイクロトフは彼女の自尊心を満たしつつ先を促す。

その計らいに彼女は機嫌良さそうな顔で、爪に息を吹きかけ、

 

「なに、知れたことよ。――目に適ったものを従者に加える条件で、妾の領地に腕自慢を集めて競わせた。それなりに楽しめる余興じゃったな」

 

「つまり、その大会の優勝者が彼ということに……」

 

「いや、優勝はしてねぇよ?」

 

てっきりその大会に優勝したことで彼女の目にとまったものだと考えていた老人たちの顔を愉快そうに肩を揺らしてアルは眺め、

 

「片手の奴が腕自慢連中の中から抜け出られるほど人生甘くねぇよ。勝ち上がりで上位四人に残っただけでも、くじ運が冴え渡ってたね」

 

「ではなぜ、プリシラ様は彼を従者に……?」

 

「言ったはずじゃ。妾は妾の気に入る相手を選んだと」

 

問いかけにプリシラは胸を張り、隣に立つアルの背中を力任せに叩く。渇いた破裂音が鳴りアルが悲鳴を上げるのを聞きながら、

 

「そも、腕自慢という頭の悪い触れ込みで集まる程度に自信過剰で、奇異の目にさらされてなおこの奇体を偽らぬ。そしてなにより、ヴォラキア帝国に滞在しておった上に出身を『大瀑布』の向こうなどと大法螺を吹いたものは他におらなんだ。まあ、つい最近にも似たような法螺を吹いた男が現れたが」

 

プリシラの微笑みはその深みを増し、赤い双眸が爛々と愉悦に輝き始める。語り口が早回しになり、彼女は衆目を集めんと音高くその場で足を踏み鳴らした。

 

「故に、妾は従者にアルを選んだ。妾にアルを選ばせたのも、妾が王たる道を歩むことも、いずれも妾を輝かせんとする天意である」

 

世界に己が祝福されていると、臆面もなく言い切るプリシラ。一片の躊躇も疑念も存在しない、空恐ろしいほどの自信だけが満ちているその姿は、まるでアイアンマンになる前のトニー・スターク、そして何より医師として名を馳せていた昔の己に近い、とストレンジはそう考えざるを得ない。 

発言内容の突飛さを除けば、その頂点に立たんとする姿勢はまさしく他者を従える上位者のみが持つカリスマそのものだが、肝心の中身が心をひかないので無意味にしかならない。

 

「お二人の関係性はわかりました。ですが、疑問なのは、プリシラ様が龍の巫女であると知れたのはどういった理由からだったのでしょうか。騎士が見つけたわけでないとすると……」

 

プリシラの断言に言葉もない面々と違い、マイクロトフにはそれを受け止めるだけの度量がある。彼は彼女の言を受けた上で、次なる疑問点に着手――老人の口にした内容は、疑問に上げるに相応しい内容であった。

 

各陣営を見れば、分かるが候補者はそれぞれ、近衛騎士団が徽章を握らせて該当者を探した上、その見つけた騎士が候補者の従者として付いている形がほとんどである。

クルシュに対してフェリス。フェルトに対してラインハルト。そしてアナスタシアに対してユリウス。

となると、自然と浮き上がるのがプリシラ組と、

 

「エミリアたんの場合は……」

 

スバルが属しているエミリア陣営である。彼女の陣営はロズワールが推薦人、という形になるのが近い。

あくまでパトロンという形でエミリアを支援しているのがロズワールの立場であり、彼女を見出した騎士らしき人物には現在までスバルは顔を合わせていなかった。ロズワールの領地にいなかったどころか、王都のこの場にいない以上はそんな人物は存在しないことは、スバルですらも想像できた。

唯一例外といえば、クルシュ陣営に身を置くストレンジであるが、彼はあくまでも魔術師であり騎士の身分ではない。そもそも彼が騎士服を身に纏って剣を振るう姿がどうもスバルには想像できなかった。寧ろ、今の道着にマントを掛けたその姿の方がしっくり来ている。それにクルシュには既にフェリスという騎士がおり、ストレンジも特にそれを気にする素振りは見せてはいない。

スバルはエミリアは場の雰囲気から孤立してしまいそうな状況にも関わらず、スバルの内心はそんな騎士が姿を見せなかったことにある種の安堵感を覚えていた。

 

「賢人会の皆様、その疑問の答えは騎士団の方で確認されております」

 

と、マイクロトフの疑問に「恐れながら」と前に出たのはマーコスだ。彼は巌の表情の中でかすかに眉を寄せると、

 

「亡くなったライプ様が先王とそのご親族が亡くなられた際に、いち早く竜歴石の条文に気付き、候補者の獲得を急いだという経緯がございます。もともと、竜歴石の管理はライプ様の担当であり、条文の内容が報告されるまでに数日の開きがあったのでは、という報告も」

 

言いづらそうに故人の行動の不審さを語るマーコス。そのマーコスの言葉にマイクロトフは思い当たるところがあるのか、目を覆い隠しそうな長い眉に指で触れ、

 

「なるほど、野心の強い方でしたからな。龍の巫女探しにも力が入ろうというものです」

 

次代の王の後見人――プリシラを妻とする人物であるが故、権力志向が強い人物だったことは窺える。

 

「しかし、肝心の巫女を見つけてきても、ご本人が不幸に遭われたとあってはなんとも皮肉な話になってしまいましたな」

 

「話のひとつも心踊らぬ老骨じゃったからな。最後の最期で振り絞ったゆーもあ、というやつがこの様じゃ。つくづく、失笑の似合う末期であったの」

 

くすりともせずに評価を下し、亡夫に赤点の烙印を押すプリシラ。知己があんまりな評価を受けたことにマイクロトフは苦笑以外のリアクションができない。

 

「すでに死んだ老害の話など不要。妾は妾のみで立つ。それ以外の理由など、全ては触れる必要すらない些事じゃ。気兼ねなく、貴様らは妾を王と崇めよ」

 

自信満々に、プリシラはこの短時間で幾度も達した結論を通告する。広間の誰もが彼女の態度に言葉を継げない中、彼女の隣に立つ漆黒の兜だけが彼女の方をしっかりと見据え、

 

「姫さんよ、それをした見返りは? なにがもらえる?」

 

「簡単な話じゃ。――妾とくれば、それはそのまま勝者となる権利を得よう」

 

笑い、プリシラは息を継いで、

 

「王選が争いである以上、至上の目的は勝利することじゃろう。故に、妾を選ぶことがそのまま答えとなる。故に、妾に従うのが貴様らの正道である」

 

「天が、自分を選んでいると……」

 

「当然じゃ。なにせこの世界、妾の都合の良いことしか起こらない」

 

 故にこそ、

 

「妾こそ王たるに相応しい。否、妾以外にはそれは務まらん。語るべきことはなにもない。ただ貴様らは、眼前に立つ妾の威光に目を輝かせておればよい」

 

橙色の髪をかき上げ、大胆に宙に流してプリシラは悠然と振り返る。語るべきことは語り終えた、とその姿は示しており、そのまま彼女は壇上の賢人会に背を向けたまま中央へ歩を進める。

 

その戻る背中に従いながら、漆黒の兜が最後に壇上を見上げ、

 

「言い方はアレだが、うちの姫さんの言うことはオール事実だぜ。姫さんとこにくれば、それが姫さんの意に反さない限り、絶対に報われる――天が姫さんを、プリシラを選んでるのさ」

 

言い切り、アルはぐるりと広間の中を視線を一周させた。そのアルの目に見つめられたものは全員が息を呑み、それを見届けて隻腕の男は片方だけの腕を軽く振り、

 

「ま、いつ姫さんの下につくかは好きにすればいいさ。どうせなら早い内に勝ち馬に乗っとくべきだってオレは思うがね」

 

主従揃ってどれだけ自信があるのか、謙虚さなんてものはとうの昔に捨ててきたような二人。

 

「全く、とんでもない女性が出てきたものだな」

 

プリシラに聞かれると厄介事に巻き込まれかねないことは分かっているものの、どうも吐かないと気分が落ち着かないストレンジは、小さい声で呟いた。

 

「あれ、ドクターってああいうタイプが好きだと思ったんだけどにゃ〜。同族は嫌いってコト?」

 

「私をあの女と同じ部類に入れるな。それにしても、あのデカいエゴがよくあの小さな身体に収まっている。あれを私の国でやれば、一躍YouTubeで有名になるだろう。視聴者の興味を惹くために公園で馬鹿騒ぎする迷惑系YouTuberよろしく、炎上してな」

 

ストレンジの一言を聞き逃さなかったフェリスは彼を突いて、彼の真意を探るべくちょっかいをかける。

 

「ドクターの言ってること、よく分かんにゃいけど確かにアレは人の目を集めることは間違いにゃいヨネ〜。あれだけ尊大な態度、注目を集めない方がおかしいもん」

 

「あれは相当長生きするタイプだな。暗殺しようにも彼女の強運が返り討ちするだろう。彼女には発展途上国での政治家の道も天職だ。あれだけの傲慢さ、あっという間に国一つ飲み込むだろう。彼女が望む、専制君主独裁王国が築けるだろうな」

 

そんなプリシラに関係するストレンジとフェリスの会話を、彼女が聞き逃す訳はない。列に戻る傍ら、彼らの会話はしっかり彼女の脳裏にしっかり記憶された。プリシラの傲慢な目線はストレンジをしっかりと録音しており、笑みとも怒りとも取れない複雑な感情を彼に向けた。それがどのような運命をもたらすのか、現時点では誰も分からない。

 

彼女らが候補者の列に戻ると、自然と張り詰めていた空気が軽く弛緩、どうにか一息つけそうな雰囲気が漂い始めた。

 

それまでヒヤヒヤしていたスバルも、呼吸にすら神経を遣わされた時間が過ぎて一安心と、不必要だった緊張をどうにかほぐす。

 

「なんで俺がこんなハラハラドキドキしなきゃだよ……」

 

スバルは筋違いの怒りを込めて、列に戻った彼女らの背を睨んだ。と、ふいに振り返るプリシラと予期せぬタイミングで目が合う。

スバルと視線が絡み、彼女は意味ありげに微笑むと、愛嬌をふりまくかのようにこちらにウィンク。その仕草は過剰なほど艶めかしく、耐性のないスバルなどはあっさりと動揺させられてしまった。

そんな最中にも、王選は淡々と進行の兆しを見せている。

 

「では次に、アナスタシア様。そして騎士、ユリウス・ユークリウス! 前へ!」

 

「はいな」

 

「出番だね」

 

はんなりと、紫髪の少女が応じ、ユリウスが悠然と片手を天に掲げると、振り下ろす動きで制服の袖を高らかに鳴らした。

渇いた破裂音が響き渡り、否応にもそれまでの空気を一新した。その計らいにアナスタシアが「おおきに」と微笑みながら前へ。

その彼女の隣に、なんら気負う様子もなく並び立つユリウス。

 

――こうして、この王選でもっとも主従らしさにおいて先を行く二人が出揃った。




プリシラ、プリシラ、プリシラ回!でございました。

んあー!早く白鯨戦でストレンジを早く暴れさせたーい!
ていうわけで、早く白鯨戦いけるように頑張ります!


『What If……?』のストレンジ回、見ました!
バッドエンドすぎて見るの辛かったです泣まさかストレンジがあんなに愛が重い人だったとは思わなかったので、見ててびっくりしました
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