Re:上から目線の魔術師の異世界生活   作:npd writer

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今回は短めの作品です。

皆様、今日はクリスマス・イブですね。いかがお過ごしでしょうか?
因みに、私は今日『劇場版 呪術廻戦』を観に行く予定です笑


三十四話 時の逆行

スバルがカルステン邸を出立するのを応接室の窓から眺めていたストレンジの心境は、厄介者が消えたことによる安堵感と、エミリア陣営に降りかかるであろう厄災への同情だった。

仮に彼らがアベンジャーズやカマー・タージの一員であれば、あるいは次元を超越する脅威に晒されていれば、それはストレンジが対処する部類に入り彼も全力で力を貸す。

しかし、こと今回はエミリアという特殊な人物が作り出した事態であり、ストレンジが協力するメリットはない。彼らの引き起こした事態は、彼らによってケリをつける、ある種の自己責任論を持つストレンジは、故に手を貸さなかった。

 

その後はいつも通り、図書館に篭り蔵書を読み漁る毎日の復活だ。スバルが消えたことで彼は好きな時間にカルステン邸に戻る事ができるようになり、彼の時間はより自由なものになった。

 

また、知識を蓄えることに全力を注ぐストレンジと時同じく、クルシュ陣営の悲願も近づきつつあった。

ーー白鯨討伐戦。クルシュがかねてから計画していたものであり、ヴィルヘルムにとっては自分の妻を死地に追いやった仇である、空を縦横無尽に駆け巡る伝説の魔獣。一度その霧に呑み込まれた生き物は、存在そのものが消滅するというとんでもない力を持ち、これまで幾度の討伐隊が編成されたものの、その全てで返り討ちにあっていた。

今回、その魔獣を討伐する為の部隊が編成され王都に続々と集結しつつある。

そして、白鯨討伐のためにカルステン家の財力にものを言わせ、様々な物資や武器が購入されるため、カルステン邸は物資を運び入れる竜車の列でごった返ししている。

 

討伐隊の人数200名。本来であるならばこれでも心許ない編成であるのだが、クルシュには白鯨に勝てる見込みがあった。

言わずもがな、それはドクター・ストレンジの存在だ。ルグニカには存在しない魔術を次々と披露し、「至高の魔術師」を名乗る彼の存在は、この白鯨戦において重要な鍵を握る。ストレンジが動く理由となる「次元を超越する脅威」に白鯨がなり得るかは正直微妙の域を出ない。しかし、消滅の霧によって甚大な影響を及ぼす白鯨は、十分に「次元を超越する脅威」になり得るとストレンジは判断し、白鯨戦に参加することを快諾している。

クルシュらは、より現実味を帯びてきた白鯨討伐に自然に心を昂らせた。

 

 

 

 

 

スバルとレムが屋敷を出て数日、既に彼らのことを気にかけている人物が少数になり、人々の記憶からも消えつつあったある日の夜。

今日のストレンジはいつもと違い、図書館には向かわず、カルステン邸の庭で魔術の修練を行っていた。

 

「卿もこの風が好きか?」

 

ベランダで夕涼みするストレンジの耳に届く、クルシュの声。声のする方へ顔を向ければ、そこにはウィスキー入りの瓶を持った彼女が執務用に着る軍服ではない、女性らしい軽い装いで立っていた。

 

「この風はニューヨークのものとは違う、澄んだ風だ。浴びていて嫌悪感を感じることすらない」

 

「ふむ、卿が過ごしていたそのニューヨークなる所がどんなところか是非とも見てみたいな。一体どんな気候で、どんな食べ物があって、どんな人物がいるのか……私はとても興味がある」

 

「クルシュが想像する以上に、ニューヨークはとんでもない場所だ。ある時は宇宙人の標的にされ、ある時は世界的テロ集団の無差別殺戮の標的になり、ある時は魔術師集団にサンクタムを壊され、ある時は蜘蛛の能力を持つ少年が「親愛なる隣人」として事件を解決する、そんな魑魅魍魎な場所に行きたいと?」

 

「そのような様々な出来事が頻発している場所に興味が湧かないほうがおかしいというものだ。それに、そんな大事件を解決した存在に、私は大きな注目を寄せている。

 

 

……卿のいうアベンジャーズなるものに、な」

 

アベンジャーズ。ヒーロー達が集結したそのチームは、2012年に起きた「ニューヨーク決戦」で地球に侵攻したチタウリと呼ばれる軍隊の大群を相手に、たった7人で立ち向かった伝説のヒーローチーム。今や、世界にその名を轟かし、英雄となった存在だ。

後に「ファースト・アッセンブル」と語られた彼らの集結は、その後の地球に絶大な影響を及ぼすようになった。良い意味が大半であるが、残念なことに悪い意味でも同様だ。2015年のソコヴィアで起きた事件で、ウルトロンは危うく地球を滅ぼしかけたのだが、そのウルトロンを生み出したのは誰であろうアベンジャーズの一員であるアイアンマンこと、トニー・スタークだ。つまり、アベンジャーズが間接的に地球を滅ぼしそうになったということもできる。

 

「己の命を削り、多くの人を救うことを主なる目的とする……多くの人々から英雄と讃えられているのだろう。私もそのような場面に出くわせば、恐らく同じ感情を抱くはずだ」

 

クルシュはカクテルグラスに少しばかり注ぎ、酒瓶を近くのテーブルに置くと、くいっと飲み干す。

 

「彼らは私が目指す王の姿に近い。国や世界を守る時に何か大きな力に頼るのではなく、個々の力を用いる。現在のルグニカは竜との盟約によって国こそ守られているが、その分他者に寄りかかっている危険な状態だ。到底看過できない。

 

だからこそこの国は、独り立ちする必要があるのだ。竜との盟約に縛られない、自らが行く末を決めることが」

 

「随分と高く彼らを買っているようだが、あそこほどダークで気難しい場所はない。世界を地獄に陥れようとした闇組織に乗っ取られそうになったこともあれば、一人の成金野郎のお陰で世界を滅ぼしかけたこともある。アベンジャーズは、想像するような綺麗な組織ではない」

 

ストレンジの暗い言葉を隣にいるクルシュは、果たしてどんな気持ちで受け取ったのか。前を向いたストレンジにとってそれはわからず、それを知るのは彼女のみである。

 

「ところで、クルシュがここに来たのは何の目的だ?まさか、酒を飲み交わすためだけに来たわけではないだろう。

 

ーー白鯨に関する新たな情報か?」

 

「やはり卿と話していると、随分すんなりと会話が進むようで助かる。が、心を見透かされているようで、少し不気味に思えてくることもあるな」

 

クルシュが語った内容。それは、白鯨のいる地点はリーファウス街道上の中間地点であること、武器の搬入は殆どが完了しているが、武器の質・量に不安材料があること、今回の討伐隊には王国の近衛騎士団は加わらないため、戦力としては心許ない部分もあること、討伐隊の面々の中では最強であろうストレンジの魔術が戦況を左右するであろうこと、そして白鯨の霧には注意すること、などだ。

 

「私の力が、多くの人の命を左右するか。実にプレッシャーがかかるな。全く、この前地球を暗黒から救ってやったばかりだというのに」

 

「ほお、ドクターにしては随分と弱気だな。卿がそんな弱気でどうするーー、と言いたいが私もこれほど緊張したことはない。400年間、誰もが討ち取ることができずにいる空を駆ける魔獣……失敗すればその存在を消される危険性を孕む任務だ。

 

しかしーー、」

 

体の向きを変えたクルシュは、ストレンジを堂々と見据える。顔のみを向けるストレンジは、身体を向ける

 

「恐れてはならない。これまで多くの同士が戦い、命を落とした。彼らの仇を討つため、そしてこれ以上の犠牲を生まないためにも、ここで決着をつける。何を犠牲にしても(Whatever it takes)。」

 

彼女を覚悟を決めた表情に、ストレンジは頷き返す。しっかりと覚悟を決めた彼女に、ストレンジのこれ以上の言葉は厄介になるが故、それ以上は語らない。

酒を飲み交わした両者は、月明かりの下しばらく語り合い、夜を過ごした。

 

 

 

 

 

翌朝、白鯨討伐を翌日に控えストレンジも準備を始めていた。魔術の用意や、スリング・リングの確認、そして万が一に使うことになるであろうタイム・ストーンを納めた「アガモットの目」がしっかり起動するかを確認する。

 

図書館には行かず、カルステン邸で準備を整えるストレンジ。

魔術の修練を中断し、クルシュやフェリスと朝食を摂ろうと食堂に入ろうとしたその時ーー、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突如として全てが止まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、ストレンジは何が起きたのか、状況を把握することすらできなかった。いつも通り、食堂で朝食を摂ろうと、席に着こうとした瞬間、それまで聞こえていた鳥の囀りが消えたのである。それだけではない、外の人の話す雑音も、空気が流れる時に発する音も、木々が揺れる時に鳴る葉同士が触れる音も、フェリスのクルシュに悪戯す時の声も、クルシュのそれを嗜める声も、全て。

加えて全てが動かない。窓から差し込む日の光も、木々の揺れも、宙を舞う埃も、料理を運ぼうと部屋に入ってきたヴィルヘルムも、そしてストレンジ自身も。

意識はしっかりしている、それでも動けない。身体が言うことを聞かない。

いや、身体は言うことは聞いてる。しかし、時間が止まっているため、身体が動かせないのだ。 

 

驚愕するストレンジを他所に、今度は全てが逆行し始める。アガモットの目が開いたわけではない。それは本人が最も自覚しており、現に開眼した際には鮮やかな緑色が迸るのだが、それは起こっていない。つまり、インフィニティ・ストーンに頼らない時間操作を何者かが行なっているということ。

 

全てが戻る。ありとあらゆる物が戻っていく。呼吸が全て反転し、吸った空気が吐かれ、吐いた空気が吸われていく。食した食べ物が胃から駆け上がり、口の中で形を取り戻したかと思えば、口から出される。口から出された言葉は口へと戻っていき、入った言葉は耳から出ていく。

 

王都の景色が、図書館で過ごした日常が、クルシュとの昨晩の会話が、フェリスとの悪戯みえた戯れが、全てが逆行していく。

全てが逆戻りしていくのを、ストレンジはただ見ることしかできない。

 

かつて、初めてカマー・タージを訪れた際にエンシェント・ワンにかけられた魔術とは比べ物にならないほどの衝撃を彼は味わう。

声にならない叫びを挙げながら、ストレンジの時間はどんどん戻っていき、

 

 

 

王選開幕を告げたあの日の翌日の、図書館で過ごした時間にその身体が移ることになった。

 




ドラマ『ホークアイ』が終わって数時間後……

なんと、『ドクター・ストレンジ マルチバース・オブ・マッドネス』の特報が流れるなんて!信じられない!


ストレンジ先生のアガモットの目のデザインが変わった!?ウォンの衣装が変わった!?モルド久しぶり!ワンダおかえり!アメリカ・チャベスいらっしゃい!

そして最後……「まったく手に負えないな」
まさかの闇落ちストレンジの登場!?どうなるんだ!?
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