Re:上から目線の魔術師の異世界生活 作:npd writer
お正月は皆さん、どうお過ごしになられましたか?
そして今日は、いよいよ3週間の遅れの後、スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホームの公開日です!観に行かれましたか?
その感想は後書きに書こうと思います
レムとスバルが予定よりも早く治療を切り上げて、屋敷に戻ってからカルステン邸に安定と平穏が戻ってきたわけではなかった。
以前はよく図書館に篭っていたストレンジが頻繁に屋敷にいることが多くなり、しかも庭先に出ては大掛かりな魔術を行っていることが多くなった。
「ドクターは、今日も魔術の実験を?」
「ですネ。どんな魔術を使っているのか、聞いてみたんですけど、「邪魔するな。静かに」って言われちゃって〜。フェリちゃん、邪険に扱われてとてもかにゃしいです〜」
執務の間のお茶の時間で執務室から、外の様子を眺めていたクルシュは、隣で優雅にお茶をするフェリスにストレンジの近況を尋ねる。
フェリス自身もストレンジのピリピリした雰囲気に踏み込んで質問できず、彼から特に何も情報を聞き出せずにいた。
「今度は、何やら謎の文字が刻まれた複数の魔術の輪を展開しているな。盾のような魔術にも同じような魔術が……」
庭を半ば占拠して行なっているストレンジの様子は、スバルの様子がイカれ始め屋敷を去ってからというもの、どうもおかしくなっていた。
まるで何か懸念を抱いている時のような深刻な表情を浮かべ、持っている本を漁っては、魔術を展開するのの繰り返し。時折何やら独り言をブツブツ言ったり、夜半に使用人がストレンジの部屋を通りかかると半霊化したストレンジが本を読み耽っているのが見えたりと、以前に増して奇怪な行動が目立っている。
「フェリス、どう思う?」
「そうですネ〜。スパルきゅんが帰ってから、ドクターの様子がおかしくなった。まるで何か大きな異変が起こることにドクターは対処しようとしている感じにフェリちゃんは見えます。あれだけ真剣な様子で魔術を展開するなんて、ファリックス領で起きたあの一件以来ですヨ」
「しかし、王都や王国全体の様子を見れば、特に異常は見られない。ドクターが動く事態が起こっているのなら、既に近衛師団が動いているはずだ」
「ですネ。騎士団の方に入ってくるのは魔女教の情報だけ。たくさん入ってきていますが、結局それはいつものこと。どれが本物でどれが偽物か、分かったものじゃないです」
「ドクターが言う別次元からの脅威であれば、我々が感知できなくても無理はないが……。しかし、それは非常に厄介な問題だな」
ストレンジがあれほど懸念したような顔を見せている、それは自分達では感知できないような存在が攻撃を加えようとしているのか。それからルグニカを守るために彼は一人で戦う気なのか。
「もしも、我々の手が届かぬ脅威がこの国を脅かし、それをドクター一人で対処しようとしているのであればこれほど無力感を味わうことはない」
「クルシュ様のそのお心遣い、フェリちゃんにはずきゅん!ってきます〜。きっと、ドクターもクルシュ様のお心遣いはありがたいって思うんじゃないかにゃいでしょうか?
それにこの手の専門分野ですヨ、ドクターは。にゃら、彼に任せるしかにゃいと思います」
(異次元からの脅威を感知する魔術に反応なし。次は探知範囲をさらに拡大して調査するか?いや、そもそも異次元からの脅威でなければこの魔術自体意味はなさない。だとすれば、この次元に限定した探知魔術をかけるべきか?)
大掛かりな装置を用意し、特殊な道具や本を用いる魔術を繰り返しては、効果がなく失敗を繰り返すストレンジ。
彼の足元には魔術に関する本が大量に積み上げられ、時折彼の魔術によって生じた念力によって持ち上げられている。
念力で浮いた特殊な台に特殊な粉を投入し、特殊な魔法陣を浮かべている様子はとても奇妙で近寄り難いオーラを出している。
時折、ヴィルヘルムが休憩用のお茶と菓子を持ってきてはいるが、ストレンジはそれに手をつけずひたすら魔術を繰り返している。
(邪魔する奴がいないおかげで、魔術に集中できる。手元が狂うだけで、失敗することも多いのが魔術だからな。静かな環境で行えることは、嬉しい限りだ)
しかし、誰も邪魔しない最高の環境下でも、彼の魔術は失敗するか、成功しても効果はない様子で、何らかの結果を得ることはできなかった。その様子をクルシュやフェリスは静かに上階から見下ろすだけで、特に介入はせずただ見守るのみ。
ストレンジの魔術による調査は日が落ちるまで続けられるも、その成果は芳しくなく、その日は心なしか沈んだ彼の顔が見られていた。
ストレンジが迫る危険に気付いたのは、魔術による調査を続けてから3日後、つまり前回の逆行が起こった日の早朝だった。
異様な空気の流れと、吹き込むマナの嵐に気が付いたストレンジはクルシュたちには訳を話さず屋敷を飛び出し、外へ確認に行く。
ロズワール邸のある方角から吹き込む不気味で荒々しい風。そして降り始める雪。昨日までは快晴だった空はその姿を消し、厚い雲が接近する様子は嵐の予感を彼に抱かせた。
「これは……」
周囲を見渡していたストレンジは、すぐに屋敷に戻ると身支度を整え始めていたクルシュ、まだ眠っていたフェリス、朝食の支度を始めていたヴィルヘルムを含めた屋敷全ての住人を一箇所に集めた。
「これで全員だな。すまないが、しばらくここに待機していてくれ。異論は認めないが、訳は必ず後で話そう。緊急事態故の措置だ、理解してほしい」
「待て。確かに空気の流れが昨晩とは違うのは確かだが、我々としても状況が掴めていない。少しの説明くらい欲しいものだな」
屋敷全体に保護魔術をかけるよりも、一箇所に集中したほうが魔術の精度、強度、持続度が上がるため、使用人たちを一部屋に集めたストレンジに対し、彼の事情を知らない殆が理解できずに困惑し、何か良からぬことが起きそうであることを察したクルシュでも、正確な事態の把握はできず、この場で唯一理解しているストレンジに、手身近に説明を促す。
「卿は何が起きているのか、理解しているのだろう。だからこそ、迅速に動いた。どうか、詳しい説明をしてはくれないだろうか?」
「……まずい状況になった。ロズワール邸の方角から、異様な空気の流れと吹き荒れるマナの嵐を確認している。威力・速度が落ちなければあと数時間でここにも嵐が来る。それは、とてつもないほどの吹雪の嵐だ」
ストレンジの告げた内容に室内にどよめきが起きる。眠そうに目を擦っていたフェリスは完全に覚醒し、ヴィルヘルムはその厳しい表情を更に深める。
「防ぐことは可能か?」
「この屋敷のみを守るのであればまだ簡単だ。が、王都全域を守るとなると、事態への対処との兼ね合いで難しい。王都を守るか、この現象を引き起こした犯人を止めるか。私は後者を選ぶ」
「……王都の民を見殺しに?」
「今、この現象を止めなければ被害は王都に止まらない。やがてこの嵐は国全体、いや隣国にまでその脅威を広げるだろう。そうなれば最悪、我々は滅ぼされかねない。勿論、王都への被害を防ぐためにベストは尽くすが、より多くの命を救うための多少の犠牲はやむを得ない」
「それはちょっと冷たいんじゃにゃいの?」
納得できない様子のクルシュの代わりにフェリスが代弁する。
「ドクターって、『至高の魔術師』なんでしょ?なら、王都を守りつつ攻撃できることもできるんじゃにゃい?助けられる命なんでしょ?」
「他に方法がない。最良の方法を選んだんだ」
「でもドクター!」
「私だって万能じゃない!神ではないんだ!!」
反論するフェリスを遮るように、ストレンジは怒声で叫ぶ。滅多に出さない彼の心からの声に、それまで騒ついていた面々も押し黙る。
「私だって出来ることなら、国全体を守りつつ攻撃を行いたい。しかし、私の力では王都全域を魔術で守りつつ、この嵐の張本人を倒すことはできない。この嵐を引き起こした犯人は、世界を揺るがすほどの力を持っている。生半可は力では恐らく私でも押し負けるだろう。だからこそ全力で挑まなければならない」
「理解してくれ」と、訴えるストレンジにフェリスはそれ以上何も言うことなく押し黙った。
「…… 卿の決断を尊重する。これ以上、決断に口は出さない。が、我々の力不足で卿に非情で辛い決断も強いたのは確かだ。私もその責任を共に負おう」
「背負うのは私一人で十分だ」
短く告げたストレンジは、保護魔術を屋敷の執務室を中心にかける。部屋全体を覆うようにして橙色の魔術が展開され、それが屋敷を覆うように拡大していく。
「これで魔術の展開は終わった。嵐が来たのちは何があろうとも屋敷の玄関扉を開けてはいけない。開けた瞬間、魔術の効果は途切れる。そこだけは注意してほしい」
それだけ言うとストレンジは部屋を後にし、正面玄関先の庭に向かう。
そこでポータルを開き、嵐の中心地であるメイザース辺境伯領へと足を踏み入れた。
ポータルの先に彼を待ち受けていたのは、極寒の寒さと吹き付ける大量の雪だった。
かつてエンシェント・ワンによって放り出されたエベレストの山頂ほどの過酷さはないものの、常人であれば1時間ともたない気候にメイザース辺境伯領は様変わりしていた。かつて訪れた際の温暖な気候はすっかり消え失せており、まるで別世界のようだ。
大きな魔術の盾を展開して、吹き付ける雪と風を防ぎつつゆっくりと歩みを進めていくストレンジ。見通しの悪い森林を通り抜け小さな村らしき場所へ出ると、雪によって覆い隠されつつあるが人が住んでいたと思われる住居に、積み重なり山のようになった何か。
近づいて雪をどかせば、そこにあったのは酷い傷のついた遺体の数々。それが幾つも重なって山を作っていたのだ。老若男女問わず、無造作に放置された遺体の扱いに、ストレンジは思わず胸糞が悪くなる。
地獄絵図を通り抜け、ストレンジはさらに強まる嵐の中を進んでいく。向かう先は嵐の中心地、ロズワール邸だ。
開きかけていた門を強引に開け、中に進むとより一層嵐は強まる。まるで来る者全てを拒むかのように。
大気まで凍結するような、白い霧がかった冷気が支配する世界。
凍てつく森は風が吹くたびに割れ砕け、マナを強制的に搾り取られた景色は存在を維持することができずに塵に還る。木々が、街並みが、生き物が、世界が、吹き付ける風に白い結晶となって粉々に散らされ、白む終焉が世界をゆっくりと侵していく。
『ーー遅かったじゃないか、至高の魔術師』
低い、大気を鳴動させる声が、納得の響きを乗せて轟いた。
平たく整地された凍てついた森林地帯、その破壊をもたらした原因は見上げるほどの巨躯を持つ四足の獣で、灰色の体毛を伸ばす猫科と思しき生き物だった。
「私を知っているのか?」
『知っているさ。君のことはずっとリアの水晶越しに見てきた。その力を世の為に使うこと無く、怠惰に過ごしていたこともな!!』
獣から発せられるエネルギーは更に強さを増し、ストレンジ諸共吹き飛ばそうとする。
その瞬間、ストレンジの横目には首から上がない膝まづく死体と、その死体に大事そうに抱えられる一回り小さい死体の二つが映った。
獣の息吹で雪が少し払われ、中がジャージを来た男性と、メイド服を着た青髪の少女の遺体。
「彼らを殺したのか?」
『直接手を下したわけじゃない。それに遅かれ早かれ彼らは殺される運命だったんだ。あの子のいない世界など、存在する価値すらない。あの子を守れないこの身も、あの男も、同罪だーー』
「死にたいのならば死ねばいい。勝手に傷心に浸るのも結構だ。だが、世界を巻き込むな。そのエゴに世界を振り回すな」
『エゴの塊が何を言う。それに君が阻に来ることは分かっていた。こうすることがこの身の誓いだ』
獣は口に収まり切らない牙を向け、剣のような歯の隙間から白い息を吐きながら、爛々と光る金色の瞳を正面へ向ける。
「世界を滅ぼすことが、彼女との契約に?」
『契約は命に変えられない、彼女とのボクを結ぶ最後の糸だ。彼女との契約を果たし、世界を滅ぼす。これがボクに残された最後の役割だ』
「だからといって、その感情を世界にぶつけることの正当化にはならないぞ。お前の行いはこの世界を滅ぼす。世界を守るため役目を担った身として、許容できない」
獣が世界を滅ぼすことが最後の主に対する奉公というのであれば、それを阻止するのがストレンジの責務だ。故に、両者は一歩も引かないし引くことはできない。
「彼女ーー、エミリアを亡くした無念は分からなくもない。だが、それで世界を滅ぼすのであれば、私が相手をする」
ストレンジは両拳にエルドリッチ・ライトを展開し、それを獣へ向ける。
『君如きが
「そうだ。こう見えても私は最強の魔術師だ。暴れた猫の世話ぐらいなんとでもなるさ、精霊パック。いや、エミリアのーーー」
『ッ!?調子にのるなよ、魔術師如きが!!』
屋敷を破壊するほど巨大化したパックの牙と、マントの力で飛び上がったストレンジが展開した魔術が衝突するーー、
その時、再び始まる。時間の逆行が。
ありとあらゆる者の意思を無視し、物理法則を超越する全ての物事が逆行する力が、再び牙を剥いた。
ストレンジを再び巻き込みながら、時間は再び逆行を始める。
一度目のループから今日に至るまでの過程を逆行していくストレンジは、再び何もできずに流されることしかできない。
そして彼は再び図書館に戻る。以前と同じ日の同じ場所に。
ノー・ウェイ・ホーム……もうね、最高でした。
自分は都内の劇場で見たんですが、シーンごとに笑いが出たり、拍手が起こったり、啜り泣く音が聞こえたり……。2022年のスタートダッシュとして最高でした!もうこれ以上の言葉は必要ありません。
ネタバレになるので詳しいことは言えませんし言いません!笑
この作品だけは劇場で見ないと!
まだ見ていない人は、今週末にも是非劇場で!
ーー全ての運命を見届けろ。
With great power comes great responsibility.