Re:上から目線の魔術師の異世界生活   作:npd writer

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今回はドクターとフェリちゃんのメイン回です。


四話 魔術師の過去

フェリスを異空間へ落としたストレンジは、ユリウスと共に近衛騎士団詰所近くにある大きな空き地に場所を移した。

 

目の前でフェリスが突然消えるという、前代未聞の魔術を見せつけられ呆然としていた受付の騎士は、完全に二人に放置されたままになっている。今頃、奥から出てくる同僚に介抱されている頃だと、ストレンジは勝手に考察していた。

 

「ドクター殿、態々此処まで来たということは、フェリスをこちらに戻すための魔術を?」

 

「ああ。といってもやり方はシンプルだ。コツを掴めばユリウスでも可能だ」

 

ストレンジはスリング・リングを嵌めた右手を斜め上に上げ、左手も同じくらいの高さに上げた。

ユリウスがじっと見守る中、ストレンジは左手を円を描くように回すと、突然前方の上空に先程と同じような光の輪が現れた。

それと同時に下向きに開けられていた穴から絶賛絶叫中のフェリスが落ちてくる。叫びながら落下してきたフェリスは勢いよく地面にぶつかるも多少、騎士服が汚れたのみで大した怪我もなくすぐに起き上がる。

 

「フェリス、大丈夫か!」

 

「アイタタ……ユリウス、私は大丈夫。心配しなくていいから……それよりも」

 

フェリスは起き上がると同時に目の前に立つ魔術師を見上げる。

 

正直、フェリス自身はストレンジについて好印象は抱いていなかった。無一文の旅人と名乗っておきながら突然、自らの主人に面会を申し出るという愚挙に出る。不満を抱えつつも応対すれば上から目線な口調で話し、しかも自らと同じ医師だと名乗った。

現在の彼はどういう訳か医師ではないようだが、それでも王国一の治癒術師である自分の目の前で「国一の名医」と名乗ったのだ。今は亡き殿下よりその力を認められたフェリスにとっては、ストレンジのとった一連の行動は主人第一主義で動くフェリスの医師としてのプライドを傷つける行為そのものであった。それ故、フェリスはストレンジを嫌悪し、ユリウスが介入したとしても押し除け、さっさとお引き取り願う考えでいた。

 

しかし、ストレンジは全く未知な魔術を操り、この国では極小数である空間転移の魔術をも容易くこなしてしまった。最早疑う余地はなく、「至高」の称号に相応しき実力の持ち主である事は確定的となったのである。このことはフェリスにとって認めたくなくても認めざるを得ない事実として確立された。

この国の転移魔法は膨大なマナを消費し、また発動時間も遅い。使用できる者は魔法に対して完全適性を持った者か、大精霊のような存在でなくてはならない。しかし目の前の魔術師は容易くこなしてしまったではないか。

それだけでも魔術師としては一芸秀でている。彼は他にも隠している様々な魔術を変幻自在に扱うのだろう。しかも未知の魔術だけにその力は未知数であり、自らの物差しでは正確に技量を測れない段階まで彼は達していた。彼をカルステイン家に招くことによって主人の念願である、()()()()の達成に大きく近づくことが可能かもしれない。

 

千載一遇のチャンスを逃す事を可とする心構え、自己中心的な発想はフェリスの中から消え失せた。

 

「ドクター・ストレンジ、あなたの力は理解できた。確かにあなたの力は強い、悔しいけど私の目ではあなたの正確な力を測ることはできないと思う。だからあなたをクルシュ様にお会いさせる事を認めてあげてもいい。だけど一つ遵守してもらいたい事があるの。あなたの身の保証と支援を交換材料として、当家の()()()()に協力してほしい。それがクルシュ様にお会いするための、最低限の条件だと思って。それが無理だというならば、申し訳ないけど当家は諦めてほしいの」

 

「フェリス……それは、彼に厳しくはないだろうか。()()()()は生死を賭けたものであり、犠牲者の数も予測が付かない。先代剣聖も刃を届かせる事ができなかった存在だ。我が国に詳しくない彼を充てることは適材適所ではないと思う」

 

「事の重大さを分かっていないってユリウスは言っているの?そんな事ぐらい私はもう心に刻んでいる。クルシュ様が命を賭けると私に話してくださった時から、私は覚悟は決めてるの。だからこそ、彼にも同様に命を賭ける覚悟を持って欲しい。生半可な気持ちで挑まれるのは、絶対に嫌」

 

ユリウスの心配に、状況を正確に把握できず若干困惑するストレンジだったが、彼にとってはある程度予想できた流れだった。

()()()()という単語が気になるが、ユリウスやフェリスの反応から見るにこの魔術は未知のものであり、上手く活用することによって交渉において大きな切り札になることは確実だった。加えて()()()()に協力する事で自らの名声を高める事も可能になるようだった。ストレンジにとって同じように転移者がいないか探ろうとしている中、この提案は断る理由もない良案となる。

 

「いいだろう、フェリス。ふざけた口調をしているお前がそこまで熱意と信念を持っている計画だ、私に反対するつもりはない。それに無一文の私は、厄介になる支援者に最大限報いることは必要だと考えているからな。それで、カルステイン家に協力してもらうというその計画とは?」

 

「それは私ではなく、その耳でクルシュ様から伺ってほしいな〜。フェリちゃんから言えるのはここまで。あとはクルシュ様のご判断次第ということ。分かった?ドクター・ストレンジさん?」

 

「先程の覚悟を聞いて多少評価は上がったのだか、また下がったぞ。その話し方に多少の文句はあるが。

ーー分かった、是非とも腹を割って話し合わせてもらおう」

 

ようやく意見が一致し、双方が笑みを浮かべる光景を見たユリウスは安堵の気持ちを抱くと共に、ストレンジという優秀な魔術師を自らの家に招くことができないことに少し残念な思いを抱いていた。

 

しかし、彼が()()()()に参加するなら、今後も王国に深く関わってくるに違いない。そうなればあの組織の壊滅の鍵にも、なりえるかもしれない。

 

ー歴史の歯車が動き始めた音を、確かにユリウスは聞いた。

 

 

 

 

ユリウスはこの後にも職務があるため詰所に戻って行き、空き地にはフェリスとストレンジの二人が残った。

ユリウスという緩衝材が居なくなったことで二人の間には、再び気まずい雰囲気が漂っているように側から見ればそのように受け取れるかもしれない。

 

しかしそのような思いを抱いていたのはフェリスのみのようでストレンジはさっさと次のステップへ移行しようとする。

 

「さて、騎士であるお前の許可も頂けたことだし、次はいよいよクルシュ・カルステン公爵に会わせてもらおうか」

 

「はいはい、せっかちすぎだヨ。えーと、クルシュ様がお過ごしになっている別邸は貴族街にあるからここから少し歩くことになるけどいい?」

 

ストレンジは一瞬、スリング・リングを使った瞬間移動を行おうと考えたが、よくこの街を観察したいという考えが浮かんだ事で、瞬間移動を愚策と捉え、フェリスの跡をついて行く事に決めた。

 

 

 

 

「ドクター、一つ質問したいんだけどいい?」

 

「何だ?藪から棒に」

 

「ドクターは、以前自分は医者だって語っていたけど、今は医者じゃないんでしょ?なんで医者を辞めたのかなぁ〜って、フェリちゃんはすんごい気になるな〜?」

 

カルステン家別邸に向かうため、大通りを歩いていくストレンジとフェリス。会話を通して少しでもドクター・ストレンジという人物を知っておきたいフェリスはストレンジが医師だったことに着目し何故、国一番の名医と自己主張する彼が医師を辞めたのか、その理由を横を歩くストレンジに聞いた。

 

フェリスの言葉に、暫く歩きながら考えていたストレンジは途中で立ち止まると、右手の手袋を外した。

 

「ドクター、その手……」

 

「これが私が医師を続けられない根拠だ。この状況では、精密な手術など行えないだろう?」

 

手袋を外したストレンジの手は、小刻みに震えており、手の甲には無数の傷跡がついている。痛々しく、そして小刻みに震えるその手はかつての「神の手」と呼ばれたものと同一とは思えないほどの変わりぶりだった。

 

フェリスはストレンジの震える手を一目見ると、驚いた表情で彼を見た。

 

「酷い有様だネ。確かにこれじゃ、通常の医療じゃ修復不可能となるのも分かるヨ。けどどうして、こんな状態に?」

 

「お前の国には馬車のような乗り物があるだろう。私はかつてあのような乗り物に乗っていて、それで落下事故を起こしてしまった。事故当時は速い速度で崖を走っていたのだが、それが災いの元で、私は高速に進む乗り物を制御できずに崖から落下した。命こそ無事だったが、両手の複雑骨折、靭帯損傷と神経断絶の症状は酷く、様々な手術を行うも効果は無かった。こうして、「神の手」と言わしめた私の手はこのような状態になったのだ。笑われるのは心外だが、笑われても仕方のないストーリーだ」

 

フェリスが想像していなかった、ストレンジが医師を辞めざるを得なかった理由。 

自業自得の事故とはいえ、「神の手」を失った時のストレンジの絶望は計り知れなかっただろう。ましては国一の名医だったのなら尚更だ。

実際、事故の直後からストレンジの生活は荒れ始めていた。認可・非認可問わず、国内外のありとあらゆる治療を行い、その為に湯水の如く資産を費やし遂には自らのコレクションであった高級時計やグランドピアノまで売り払った。僅かな可能性に縋りついていたストレンジは治療を行いまくったが、それでもストレンジの手が戻ることはなかった。絶望の淵にあったストレンジに追い討ちをかけるように、遂には住んでいた高級アパートを追い出され、元恋人であるクリスティーンに強く当たってしまったことで彼女からも見放された。

 

そんな過去を知ってか知らずか、初めてフェリスはストレンジに対して同情の念を持った。

フェリスはストレンジの傷跡を見て、痛々しく思い彼の手を治してあげようと半ば無意識的に手を伸ばす。しかし、ストレンジはすっと手を引っ込めると手袋をし直し再び歩き始めてしまった。慌ててフェリスも後を追い、ストレンジに問うた。

 

「どうしてそのまま傷を放っておくの?私だったらそんな傷は治せるけど」

 

「医師であるお前が傷をほっとけないのは分かるつもりだ。

だが、この傷を見ることで傲慢だった自らの意識を改めることができるという考えにはならないか?

それに今の魔術師としての私はこの傷を負ったが故になれたものだ。この傷を治してしまっては私は再び医師の道へ戻ってしまうかもしれない。私は魔術師として人々を救うという使命を師より授かった、己への戒めとして残しておきたいのだ」

 

「でも日常生活とか不便じゃない?フェリちゃん、あれほどの傷だったらすぐに治せるけどいいの?」

 

「王国一の治癒術師が私の深い傷を治せるのかは気になるが、日常生活には支障はない。あくまでも医師が持つべき精密な動きができないということだけだ。気にする程ではない」

 

前を向いて歩くストレンジの表情を伺うことはできないが、彼が自らの過去と決別し、魔術師のドクター・ストレンジとして再出発したことはフェリスでも感じる事ができた。

ストレンジも苦悩してきた筈だ。皆が羨む栄光と絶対的な未来が保証されていたはずの過去と決別するのは、そう簡単な事ではない。まして、傲慢さが傷の彼では状況の呑み込みさえ、その一歩を踏み込む事ができないはずだ。それでも彼はもう一度、前へ進み出した。

今は亡き、師匠の言葉を胸にーー。

 

ストレンジが想像以上に師匠を尊敬していること、そしてストレンジの覚悟を横で聞いていたフェリスは、今まで感じていた印象を密かに変えた。

 

「ふーん。前から思ってて確信したことがあるヨ。随分変わってるネ、ドクターって」

 

「女装を好むお前には言われたくない言葉だな」

 

 

 

 

フェリスに観光を兼ねて街を廻らせ、探索終了後にようやく貴族街に到着したストレンジとフェリスは、とある屋敷の門前まで歩いてきていた。王国の、それも王都に屋敷を構えられるほどの権力を持っている公爵家ということもあり、その迫力にストレンジは気圧される。

 

「ここだヨ、目的地であるクルシュ様の別邸は」

 

「流石、公爵家に相応しい広さと豪華を兼ね備えた屋敷だ。私の国でもこれほどの広さを持つ屋敷は滅多になかったぞ。ーーその分多くの富を吸い上げていそうだが」

 

ストレンジの言葉に隣にいたフェリスは顔色を変え、彼を睨み付けた。まるで禁句を口にした愚か者を叱るような目つきをして。

 

「最後の言葉、フェリちゃんはちょーっと聞き逃せないかなぁ〜。クルシュ様の前でそんな言葉、絶対に口から出さないで。

ところで、ドクターって国一の名医だったんでしょ?それならこれくらいのお屋敷は行ったことはあるんじゃなにゃい?」

 

「生憎、私は国王や大……宰相の治療を請け負ったことはない。それに私の専門分野は神経外科であり、そこらの三流外科医が行っていた治療は専門ではない」

 

「ふーん、やっぱりドクターは、失った自分の仕事にもプライドを持ってるんだネ」

 

フェリスに問いに対してストレンジは答えなかった。かつて医師時代に培われた「自分の仕事にプライドを持つ」という意識、これは多くのプライドと傲慢さを捨てたストレンジにとって職業が変ろうとも譲れない、唯一のプライドだった。だからこそ今でもこうして「ドクター」と呼称するように要求している。

 

「それじゃ行こうか。ここで止まってちゃ、前に進めないからネ」

 

フェリスが手で合図すると、クルシュ邸の前に立っていた鋼鉄の門が上に上がり、庭園へと続く道が通じた。

フェリスの案内により、彼のすぐ後ろを歩くストレンジは以前、休暇時にポツダムに赴いた際に訪れた、サンスーシ宮殿にも劣らぬ広大な庭園に圧倒される。花々が咲き乱れ、木々に対する手入れが行き届いている綺麗な庭園を進み屋敷の玄関先まで歩いていたストレンジは、目の前の馬車らしき乗り物を掃除する執事らしい老紳士を発見した。

老紳士は掃除する手を止め、こちらに目線を向ける。

 

「お帰りなさい。フェリス、今日は随分と長くかかりましたな」

 

「ただいま、ヴィル爺。今日は事務整理だったこともあって色々な手続きする必要があったし、何より急な来訪があったから」

 

「来訪……と言いますと、そちらの方が?」

 

ヴィル爺と呼ばれた老紳士は、フェリスの後ろに立つストレンジに目線を向けた。歳を召してはいるもののその目に宿る鋭い眼光は衰える事を知らず、目つきの鋭さと執事服に包まれながらも顕になっている逞しい筋肉質な体つきはストレンジをしても思わず、目を見張るものがあった。

歳を取っていながら全く衰えない厳かな佇まい、獲物を決して逃すまいとする鋭い目つき、この国が誇る歴戦の剣士であることをストレンジは見抜く。

 

「そうにゃの。えーと、あ、自分で紹介してヨ。どうせ、私が言っても「ドクター」ガー、とかアレガチガウー、とか色々言うでしょ?フェリちゃん、そういうのは面倒くさいかな〜?」

 

「面倒ならば最初から私に任せておけばいいものを。

ーーお初にお目にかかる。私の名はドクター・スティーブン・ストレンジ。魔術師集団、マスターズ・オブ・ミスティック・アーツに所属している魔術師の一人だ」

 

「ふむ。ご丁寧なご挨拶に感謝申し上げます。私は当家にて執事の身分を与えられております、ヴィルヘルム・トリアスと申します。以後、お見知りおきを。ストレンジ殿」

 

かつて、自分の人生を剣に捧げ遂には「剣聖」から剣を落とさせた「剣鬼」と、「至高の魔術師」として魔術師の道を歩んだ元医者の2人は静かに微笑み、互いの手を固く握った。

 

「早速だがトリアス殿。私の事はドクター・ストレンジ、もしくはドクターと呼んでほしい」

 

「この老骨、名前の呼び方を指定をされるのは久しぶりの事ですな。分かりました、ご要望に添いドクター殿とお呼びしましょう。私の方もヴィルヘルムと呼んでいただければ幸いでございます」

 

呼び方に注文をつける、ここでもストレンジの注文は収まることがなかった。

 

 




フェリちゃんがストレンジ先生の過去を知った回でした。

書いてて思うのが、やっぱりとトニーとドクターは似た者同士であるということです。
かつては傲慢
トニー→大企業の社長 ドクター→全米一の脳神経外科医
ある事故・事件で全てが変わる
トニー→テン・リングスに拉致される ドクター→交通事故で医師生命を絶たれる
自らを変えてくれた人を目の前で亡くす
トニー→インセン博士 ドクター→エンシェント・ワン
自己を犠牲にしてでも世界を救うヒーローとして目覚める
トニー→アイアンマン ドクター→ドクター・ストレンジ
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