Re:上から目線の魔術師の異世界生活   作:npd writer

40 / 51
みなさま、お久しぶりです。

今週は一年で最も寒いといわれる大寒があった日なので、今年一番の体に堪える寒さですね。

さて、世間ではNWHの勢いが止まりませんが、こちらもそれに乗っかっていきらますよ〜!


三十八話 幼人からの成長

その瞬間、世界は色合いを取り戻し、世界に明るさが戻る。スバルの身体から出現していた黒い手は、スバルの覚醒と共にその姿を彼の内に隠し彼を呪縛から解放する。

 

「はっ!?はぁ、はぁ……」

 

異様な汗をかきながら荒く息をするスバルに、ストレンジは魔術を展開し再びあの存在が出現しないか警戒しながら、ゆっくりとスバルへ近づく。

あまつさえ、無数の黒い手がミラー・ディメンションとはいえ空間内の建物に干渉し、たった一振りで彼の操る建物群を破壊したのだ。ダーク・ディメンションから力を得ていたカエシリウスやエンシェント・ワンといった魔術師たちは、あくまで建物を操ることに特化しており、破壊には重きを置いていなかった。

魔術師界でも存在しない「化け物」、そしてそれを体内に有しているスバルもストレンジの警戒度を上げるには十分すぎた。

 

「さっきの黒い手は、お前が持つ能力の一部か?」

 

「どう……して……それを……、あれは、俺だけが、感知できるはず……そうか、ドクター・ストレンジさんは俺の能力を知ってるもんな。見えてても不思議じゃないってか」

 

大きく深呼吸して息切れを整えながら、ストレンジの質問に答えていくスバル。彼が自身の体内に潜む正体をよく分かっていないことを答えの端々から推測したストレンジは、改めてその危険性を説く。

 

「実に危険な力だ。破壊が難しいミラー・ディメンションの構造物を()()()()()()で破壊する力を持っている。ディメンション内の空間に干渉できる時点で、既に私と互角の強さを持っているはずだ。しかもあれはまだ全力ではない。全盛期の力を取り戻せば、今の私でも押し負けるだろう」

 

「そんなに強い力なのかよ、これって……。チート級転移特典でも、もうちょいまともなやつが欲しかったぜ……。でも、今「今の私」ってことはドクター・ストレンジさんにも勝つ見込みがあるってこと?」

 

「ああ、可能性はある」

 

「……嘘だろ。それこそチートじゃん」

 

頷きながら肯定するストレンジに、スバルは今までの自分がとんでもない人物に喧嘩を売っていたことを自覚した。自身が震えるあの恐怖を真正面に受けても、勝てる可能性があると言えるだけで、相当な自信が彼にはあることが否応でもスバルには分かる。

彼が誇らしげに語る「至高の魔術師(ソーサラー・スプリーム)」の称号は伊達ではなく、その名に相応しい実力を持っていることが。

スバルの脳裏に以前のやり取りが浮かぶ。

 

『ドクターは強い。しかも、その強さは人の尺度で測れるものじゃにゃいくらい強大なの。多分だけど、ラインハルトにも片膝つかせることはできるんじゃにゃいかな?』

 

『は?何それ。あんな胡散臭い人がそんな強いわけないじゃん。大体、俺あの人嫌いだし。傲慢で、上から目線で、話面倒臭いし』

 

『にゃははは。スバルきゅんもそう思う?確かに、あの人は傲慢で妙に上から目線で説教すること多いんだよネ〜。フェリちゃんも最初は、何処の馬の骨か分からないドクターをクルシュ様のお側に置くのに反対だった。だけど、彼と話して共に戦って、それで分かったの。

 

ーーあの人は、魔術師の中の魔術師。生まれながらの天才、だってネ』

 

カルステン邸で治療を受けていた時、フェリスが彼のことについて語っていたことを思い出した。その時は嫌いな人の話など聞きたくもなくスルーしていたが、今となってはその話が真実であることを実感できる。

これまで戦ってきたエルザや、ウルガルム、ユリウス、そして()()()()()、その全てよりも目の前の魔術師は断然強い。

 

よく今まで生かされていたと、今更ながら実感しているスバルの態度は急におっかなびっくりになる。マルチバースとはいえ、同じ地球にこれほど強い存在がいたとは。

空間を操ってしまうこれだけの強さ。つまり、エミリアを助けるには絶対に重要な人物であるということをスバルは確信した。今まではヴィルヘルムを借り受けられれば、事足りると考えていたが彼以上に、目の前の魔術師の戦力は必須だ。

今まで高飛車に振る舞っていた自分の態度を改める必要性を理解したスバルは、口をモゴモゴさせながら彼に謝ろうとする。

 

「あ、あのドクター・ストレンジさん」

 

「長いだろう、ドクターでいい。あと“さん”付も不要だ。マルチバース出身とはいえ、同じ地球の出身だ。礼儀正しいのは感心するがね」

 

「……ドクター、その、なんというか……ああちくしょう。こんなこと言いたいわけじゃないのに。俺だってあのとき……」

 

額に手を当ててどうにかスバルは理知的な言葉を口に出そうとするも出てこない。非力な自分にとって、エミリアを助けるには絶対に彼の力は必要になる。以前は癇癪を起こしてしまい、彼との仲は最悪からのスタートになってしまい、あれほど彼とぶつかったのだ。それをもう一度起こしてしまっては今度こそ、本当に見捨てられてしまう。ストレンジであれば、スバルの考えることの一歩二歩先まで読んで行動し、決して彼が「死に戻り」しない未来を描くと思うが、そこに自分の姿はないだろう。

彼の心情を悪くしないように、しかし彼をこの事態に巻き込むためには自ら頭を下げて協力を仰ぐべきだ。なのに自分のプライドがそれを許さない。折角、同郷の転移者を見つけられた場面で、ここは謝罪すべきなのに。

 

「だあああ!!もう!腹を決めろ、俺!言うって決めたんだろ!」

 

「どうした?気が動転して頭のネジでも外れたか?」

 

「そういうわけじゃなくて……その、あの時は俺が、悪かった。生意気な口聞いて、すいませんでした」

 

自分の無礼な行い、非礼な言葉を投げかけてしまったことへの謝罪を絞り出すように口にし、深々とではない、小さくではあるがスバルはストレンジに頭を下げた。

その謝罪を黙って聞いていたストレンジは、一呼吸置くと展開していた魔術を解いた。

 

「少しはまともな考えをするようになったな、少年。だが、謝ったところで根本的な問題は何一つ解決していない。一つ質問だが、もしも私が止めなかったらお前は何をしようとしていた?」

 

「何って……。俺には、エミリアを助けなきゃいけなくて。でも、俺一人じゃ大した戦力にならない。強大な相手だから、お世話になっているクルシュさんの力を借りようと思って……それで奴らを……」

 

「甘いな。日頃世話になっていて、情も生まれている彼女なら協力するだろうと本気で思っているのか?単なる善意で、なんの見返りもなく人助けをしてくれると本気で?性善説もここまでくると、拍手を送りたくなるね」

 

「そんなこと……あるわけーー!」

 

「あるんだ」

 

思わずカッとなって反論しようとしたスバルを、ストレンジが強い言葉で遮る。以前の単なる傲慢だけの言い分でない、一足先に人生の道を歩む先輩として、まるで先生のように続けられる彼の言葉に、スバルは出かけていた反論の言葉を押し戻した。

 

「善意で人助け。報酬なしのボランティアで敵陣営を救う。助け出された方は喜びで涙を流し、その夜にはみんなで和睦のパーティーを開いて仲良しこよしの手繋ぎ。そして、次の日には何事もなかったように、敵として王選を共に戦おうと?

いいか、お前の考えは自己中心的で甘すぎる。今まで人の善意だけで生きてきただけで分からないのだろうが、そう上手く物事は進まない。王選は政治だ、なんの見返りもなしに動く政治家をお前は見たことがあるのか?」

 

「でも俺には奴らが……魔女教がやってくる未来が分かるんだよ!魔女教がやってくれば、エミリアやラム、アーラム村の人たちは殺される。しかも無惨に!彼らが殺されることを知ってて止めないのは悪だ。それは、人命を重んじるドクターなら分かるだろ?ドクターが説得さえしてくれれば状況は動く。俺に協力してくれ!魔女教を倒すのに力を貸してくれよ!」

 

「ならば、その要件は私ではなくロズワール・L・メイザース辺境伯に頼むべきだ。エミリアの後見人は彼であるわけだし、アーラム村は辺境伯領にあったはずだ。統治者として事態の収束は、彼が行うべきでは?」

 

「……ロズワールでもダメなんだ。魔女教は数で攻めてくる。戦力が、数が欲しいんだ」

 

「では聞くが、お前はそれをどうやって証明するんだ?」

 

「何って……それはドクターの口からもクルシュさんに動くよう働きかけをーー」

 

未だに人に寄りかかることしか考えていないスバルにストレンジは頭を痛めながらも根気強く彼に説明する。最早、彼らは運命共同体。スバルがストレンジならば自分がいない未来を作り出すと考えているのに対し、ストレンジは否応でも彼を助けなければ永遠に時間の牢獄に閉じ込められることになると考えていた。ストレンジもそうはなりたくないので、協力せざるを得ないがその手段がよろしくない。

 

「いいか、私の言葉があったところで状況は変わらない。私やクルシュ陣営が態々敵陣営の領内まで押し入って、敵を片付けるメリットがないからだ」

 

「メリットはある……だろ……。例えば、クルシュさんはウチに借を作れるとか」

 

「ではその借を返す代償として、エミリアの王選からの撤退を突きつけられた場合はどうする?Yesと答えた瞬間、お前の一存で彼女の意思は踏み躙られることになる。彼女が生きる目標でもある王への道を、お前の簡単な一存で閉ざしてしまうことへの覚悟が、彼女から別れを切り出される位でへこむお前にあるのか?」

 

ストレンジの口にした言葉の重い内容にスバルは、思わず怯んだ。エミリアを王にすると王城であれだけ言い切ったのに、自らその道を彼女の意思を無視して閉ざすという現実は、彼にはとても重すぎる。

だが、ストレンジ、ヴィルヘルムといった猛者が揃っているクルシュ陣営の力が無ければ、待っているのは魔女教による大虐殺だ。命の天秤が揺らされ、スバルの脳は痛みと軋みが襲う。歯を食いしばりながらしばらく考えた後、決意を固めたスバルはゆっくりと言葉を口にした。

 

「それは……それでも仕方ないだろ。命まで失っちまったら、全てお終いなんだから。俺はその要求を呑む」

 

肩を落とし、落胆と失望を隠せないままスバルは応えた。

頭を下げて屈辱に塗れようとも、彼女が生きていればそれでいいと。しかし、ストレンジに彼の葛藤など気にする必要はなく、容赦ない攻撃は続く。

 

「働かない頭を必死に動かして考えたようだが不合格だ。その条件では魔女教がエミリアを殺害することでも達成されてしまう。つまり、他陣営が手を貸すまでもなくエミリア陣営は滅ぶということだ。我々が手を貸すメリットはない」

 

「だから、知ってて見逃すのは悪なんじゃ……!?」

 

「まずクルシュの考えを察すれば、領地を守れないエミリアに王が務まるはずがないと一蹴されるだろう。

私の考えだが、確かにお前は魔女教がやってくる()()を知っている。しかし、()()を生きる彼女たちに魔女教がやってくることをどうやって証明する?まさか「僕には未来予知能力があって、それを見たら魔女教に襲われた未来が見えたんです〜」とでも言うつもりか?狂人と言われるのがオチだ」

 

「それは……!だから、ドクターの力で証明して……!」

 

「いつまで他人頼りの人生で生き続ける。お前は甘えれば、他人が何でもお膳立てしてくれると勘違いしているようだが、相手は王選に出るような辣腕者揃いだ。お前の甘えが簡単に通ると思っているのなら、それは甘えた考えだ。大きな間違いだぞ。そんな考えでは誰も動かないし、誰も救えない。何よりお前はエミリアの隣に立てる人間ではないと自ら証明するようなものだ。冷静に考えてみろ。誰が、他人頼りの人物を自分の騎士に置こうとする?

 

 

ーーそれに想い人を助けたいと口にしない男を、私は本心から手を貸したいと思わない」

 

高校生だろうと一切の遠慮がないストレンジは、スバルの心に突き刺さる言葉を連発する。それでスバルが壊れるものなら、一層のことエミリアから離れて遠くで暮らしたほうがいい、とストレンジは本気で考えていた。いつまで経っても他人に寄りかかりっぱなしの人生を送るスバルに、大人になれと忠告したのも、彼女を本気で助けたいのであればその頭を動かすしかないことを自覚させるためだ。

 

「そんな……じゃ、どうすればいいんだよ!?エミリアを助けられない!助けようと思っても俺だけじゃ非力だ!誰かに助けを求めても誰も応じてくれない!こうして右往左往している今にも、魔女教はやってきてエミリアや村の人たちを殺す!なんとかしなきゃいけないのに!

ーーでも、俺は誰かに寄りかかることしか知らない!俺はその程度の男なんだ!いつだって口先だけは偉そうに!自分じゃ何もできねえくせに、文句だけは一人前だ!

 

……空っぽなんだよ、俺の中身は。俺は今まで何もしてこなかった……!そうやって生きてきたから、その結果が今のこの様だ……!!俺の無力も、無能も、全部が俺の腐った性根が理由だ……」

 

スバルはストレンジの言葉と、今までの自分の生き方のツケの代償が来たことを嫌と言うほど思い知らされ、思わず泣き崩れてしまう。膝から崩れ落ちるようにへたり込んだスバルは、先程までのイキっていた様子はなく絶望に打ちひしがれた子犬のようだ。

 

「……本当は、分かってたさ。全部俺が悪いってことぐらい。

 

 

 

俺は、最低だ。……俺は、俺が大嫌いだ」

 

泣き崩れ、大声で叫ぶスバルをストレンジは何もすることなく黙って聞いていた。一見すると冷たい様にも見えるが、スバルが自分の欠点を認め誤った道から正しい道に戻る用意ができたことは、彼がようやく第一歩を踏み出す準備ができたということを示している。

本人が自分の欠点を認識できただけでも、今は万々歳だ。だとすれば、次は彼を立ち直らせる存在が必要だ。幸いにも、彼にはその人物に心当たりがある。彼女ならば、現在進行形で泣いているスバルを立ち直らせることができるだろう。

 

未だにへたり込むスバルをそのままにしたまま、ストレンジはレムの目の前にポータルを開ける。

王都の大通りにいたレムの目の前に開かれたポータルに驚くレムは、先程からずっとスバルの行方を探していたのか、衣服や髪が少しばかり乱れており、息も荒い。

突然出てきたストレンジよりも、彼のマントに引きづられるようにして出てきたスバルを見つけ、レムはすぐに崩れ落ちそうな彼を支える。

 

「ドクター・ストレンジ様……これは一体?スバルくんはどうしてこんな状態に……?」

 

「こことは違う次元で、二人っきりで話をしていた。今後の人生や価値観について深くな。私の話を聞いていくうちに、途中でどうも現実に打ちのめされたらしく泣き崩れたらしい。後の世話は任せるぞ。

 

ーー彼を立ち直せることができるのは、お前の専売特権らしいからな」

 

ストレンジはスバルをレムに押し付けるように引き渡すと、その場から去っていく。

彼女ならばスバルを叩き直してマシな男にするだろうという、彼らしからぬ直感というひどく曖昧な根拠の下、レムに託したのだ。

 

ストレンジの思惑などいざ知らず、どういうことか未だに状況が掴めていないレムは、取り敢えずスバルを立たせると見晴らしの良い王都の高台に連れて行った。

 

 




3回目のNWH観賞、今度は吹き替えで見てきました。
いやあ〜、やっぱいいですね〜!ネタバレになるので言えませんが、字幕版と吹き替え版、どちらも最高だったのは保証します笑

皆さんはもうご覧になったかは分かりませんが、次のMCU作品としては3月放送開始のドラマ『ムーンナイト』が控えていますよ〜!1月から約2ヶ月はMCU作品がないので辛いですが、5月にはMOMもあるのでそこに向けて突っ走りましょう!


あの感動の場面はやはり、ストレンジではなくレムにしなくては笑
当初はレムとスバルのあの感動のシーンを、ストレンジとスバルに置き換えようとも考えていましたが、やっぱりレムじゃないといけないと思い、ストレンジとレムの半分半分でスバルを立ち直らせることにしました。


ベネ様か吹き替え担当の三上哲さんが歌う『Wishing』をバックに、ストレンジが「ここから始めよう。一から、いや、ゼロから」って言うあのシーンを再現したら、もはやそれはネタ枠にしか見えないので笑
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。