Re:上から目線の魔術師の異世界生活   作:npd writer

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今日はバレンタインデー!皆様、どうお過ごしでしょうか?
え?もう日付変わりそう?

ーはい、自らの怠惰を反省しておりますデス。
お許しを!お許しを!お許しを!お許しを!

ストレンジとクルシュ陣営の皆さんがお送りするバレンタインデー物語です。

物語的にはストレンジがクルシュ邸に来て暫く経った後のお話です。本編よりも少し先の話になっているかもしれません(すぐに追い付かせますのでどうか今暫く!)


幕間 バレンタインデー

2月14日。

地球で通称、「バレンタインデー」と称されるこの日は地球に住む男性・女性達が落ち着きを失う日である。自分の好きな女性、若しくは男性からチョコレートや贈り物を貰いハッスルする者もいれば、義理チョコやサンクスカードを受け取り朗らかな笑みを浮かべる者、チョコレートはおろか贈り物一つすら受け取れず涙する者など、多くの人間の感情が錯綜する日となるのが「バレンタインデー」の性である。

 

古くはローマ帝国時代の司教バレンタインが結婚を禁じられていた兵士たちの結婚式を密かに行なっていた事が露呈し、処刑されたのが2月14日であり、彼の名を取って「バレンタインデー」が作られたのが始まり。殉教の日が恋人の日に変わった背景として、ジェフリー・チョーサーの「Parlement of Foules」の詩の一節が影響しているのは有名な話である。

 

日本では女性から男性にチョコや贈り物を渡すが、ストレンジのいたアメリカでは全く逆である。

男性から女性に花束や宝石を贈る事が一般的で、ディナーにはレストランを予約し、恋人や妻と共に二人っきりのディナーを楽しむのが「バレンタインデー」の過ごし方であった。また、親しい人にもプレゼントを送る習慣があるアメリカでは、家族や同性同士のプレゼントのやり取りも行われる。

加えて、日頃からお世話になっている人への感謝を伝えるためにサンクスカードを送る事も習慣として定着していた。

 

 

「バレンタインデー」は当然、ストレンジの勤務するメトロポリタン総合病院にもやって来るわけで、病院結婚した男性医師が女性看護師に巨大なバラの花束を贈っていたり、看護師同士でカードのやり取りを行う光景があちこちで見られる。が、メトロポリタン総合病院に勤務していた頃のストレンジは、「バレンタインデー」なぞ知ったこっちゃないと言わんばかりに高難易度の外科手術を行っているか、学会に向けての論文の作成を行っている事が一般的だった。サンクスカードを渡そうと、彼の仕事場を訪れた女性看護師を軽くあしらったストレンジが翌日、クリスティーンにきつくお叱りを受ける事があったとか、なかったとか。

 

時が経ち、魔術師としてカマー・タージに住居を構えて以降のストレンジは、以前の傲慢さが影を潜めた代わりに、「バレンタインデー」を忘れる事が多くなってしまった。地球を守る使命を託された自分が「バレンタインデー」などに浮かれている場合ではないと自らに言い聞かせている事で、自然と彼から2月14日が「バレンタインデー」という意識が抜けていたのである。

カマー・タージにも女性魔術師は多数在籍しており、ストレンジに対して好意を抱いている女性は彼の視界に入っていないだけで、意外とその数はいた。淡い期待を抱く女性魔術師達は2月14日の「バレンタインデー」にストレンジへの贈り物を届けるが、彼が忘れている事もあり贈り物の受け取りを遠慮されたり、自分の意図していない意味で受け取られたりと、女性たちが期待を打ち砕かれ、凹む光景が偶に見られるらしい。

 

 

 

そして、異世界の暦を地球暦に当てはめると、明日がその「バレンタインデー」である事にストレンジが気づいたのは、「バレンタインデー」前日の昼間だった。

 

「そうか……明日は「バレンタインデー」なのか。医師時代にはクリスティーンや何人かの看護師から、サンクスカードを貰っていた事があったか。だが、魔術師になってからは、全く「バレンタインデー」に全く贈り物を受け取ってこなかったから、すっかり意識が抜けていた」

 

その日、朝からやたら彼の肩を叩いたり動き回るなど、マントが巫山戯たような動きを繰り返していたのを叱っていたストレンジであったが、マントがカレンダーのある日を指し続けている事に気づき、その日が地球の暦に当てはめると2月14日にあたっていた事で、ようやくマントの動きの訳を得心したのだった。

 

「これを機に私も、「バレンタインデー」に贈り物を贈ってみるという、趣深い習慣に乗っかるのもいいかもな」

 

日頃ストレンジの後ろ盾として動いてくれているクルシュに、感謝を込めてプレゼントを贈る事を決めたストレンジは、その材料購入のため王都の商い通りへ向かうことを決めた。

部屋を出て玄関ホールへ向かうと、そこには玄関先にて雑談するフェリスとヴィルヘルムの二人がいる。上階から降りてきたストレンジに、フェリスは少し魂消たがすぐに気を取り直し、突然降りて来た彼に話しかけた。

 

「あれ〜?ドクター、出掛けるの?」

 

「あぁ。ちょっとした買い物をな。何でも明日は「バレンタインデー」だからな」

 

「「ばれんたいんでー」?」

 

疑問を浮かべるフェリスにストレンジは自らが不心得であった事に気付き、フェリスとヴィルヘルムに「バレンタインデー」の概要とその日に人々が何をするかを、詳しく説明した。

 

「なるほどなるほど……って!それ、とて〜も大事な行事じゃにゃい!ドクターがいたネパール国やアメリカ国では、その「バレンタインデー」には男性から愛する女性に贈り物を贈るって事でしょ!?ならフェリちゃんが、クルシュ様に贈り物を贈らない事があったらいけにゃい!」

 

ストレンジの説明の内、男性から愛する女性にプレゼントを贈るという部分に、過敏に反応するフェリス。クルシュ様ゾッコンの彼にとっては、「バレンタインデー」は何よりの関心ごとらしくすぐにそれは行動にも現れる。

 

「ドクター!もし、商い通りに行くなら私も行く!クルシュ様に最高の贈り物をお届けするためなら、私は何でもするヨ!」

 

「別に私はどちらでも構わなかったからな。お前がついて行きたいなら、それでいい。ヴィルヘルムは?」

 

もう一人、男性であるヴィルヘルムにも同様に声をかける。

 

「そうですな。私目もクルシュ様には大変お世話になっており、お返しとして感謝の意を送ることは大変良い考えだと思います。日頃の御恩に少しでも報いる事が出来るのでしたら、私も喜んで同行するとしましょう」

 

ヴィルヘルムも珍しく関心を示し、彼らに同行する事にした。フェリスは兎も角、ストレンジはヴィルヘルムが異世界の事情に関心を示すとは思っていなかったので、彼の行動には素直に驚いていた。

 

「ヴィル爺。ドクターの話では、贈り物を送るみたい。種類は決まってなくてお菓子とか、花束とか何でもいいんだって」

 

「ー花、ですか」

 

ほんの刹那、ヴィルヘルムの動きが止まる。普段と変わらぬ眼光の深淵に、僅かに過去を懐かしむような変化と共に。

 

「ふむ。それはとても良い案ではと存じます。しかしフェリス、クルシュ様への贈り物は一つだけという制限も無かった筈です。

ー資金のことでしたらお任せあれ。多少の無理も今日限りは大丈夫な筈です」

 

 

 

 

こうして3人で王都の商い通りへ出掛けようとしたが、ストレンジは野暮用を先に片付けてから直ぐに合流しようと提案し、外出直後から別行動となる。

フェリスは嫌味を言いながらもヴィルヘルムと共に彼を見送り、ヴィルヘルムと2人で通りへと向かった。一方、ストレンジは2人の姿が見えなくなるとクルシュ邸に戻り、クルシュの気配がある執務室へと向かった。

 

「失礼する、クルシュ」

 

「ドクター。どうした?何か困り事でも?」

 

「いや、ちょっとした悪戯を仕掛けようと考えついてね。クルシュにはその仕掛け人としてある人物をビックリさせてほしくてね」

 

「ほぉ、それは中々に興味深いな。それで?卿が思い付いたその悪戯はどのような物なのだ?」

 

クルシュに問われたストレンジは、今日の「バレンタインデー」について説明した。しかし、ストレンジはフェリスに話したアメリカ文化のみではなく、女子から男子へチョコをあげるという全く逆のパターンもセットで教えた。

 

「ふむ、その「バレンタインデー」という文化は国毎に違い、そのニホンという国では男性に女性が贈り物を渡す文化があるのか」

 

「そうだ。因みにこの事はフェリスには話していない。彼はクルシュに贈り物を渡すことしか考えられない単純思考のマシーンになってるからな。そこで不意を打つ形で、クルシュからも彼に贈り物を贈るというサプライズはどうかと思ってね。いきなりクルシュから贈り物を受け取ったら、彼も大喜びするだろう」

 

「卿によれば「バレンタインデー」には「チョコレート」なる菓子を意中の男性に渡すと言う。申し訳ないが私はその「チョコレート」を知らないし、作り方も分からない。どうすれば良いだろうか?」

 

「別にチョコに拘る必要はない。彼ならクルシュがあげたものは何でも喜ぶこと間違いないなしだ。それこそ宝石や花束でもいい。私ならある程度は用意できるが……」

 

ストレンジの提案をクルシュは有り難く思いつつも、その提案は拒否した。本人曰く、「「愛を伝える日」であるならば他人の力を借りずに、己の力で集めたい」だそうである。

必要な事を言ったストレンジは執務室を退出するとスリング・リングを使い、フェリスとヴィルヘルムの背後へワープした。突然、背後に移動してきたストレンジを見て、唖然とするフェリスとヴィルヘルム。

兎も角、合流した3人は商い通りで必要な食材や材料を購入し廻り、重くなった荷物を運びながら夕方になる前までに帰宅した。

 

そしてその夜は各々が仕込みやプレゼントの最終確認を行い、来たる「愛の日」への準備を進めていった。

 

 

 

 

翌日、つまり2月14日。

 

「クルシュ様!!これ、私からの感謝と大好きの気持ちを込めた贈り物です!本当ならフェリちゃんの思いはこんなちっぽけな贈り物では収まらないんですけど、それでも思いを込めて!最大限の感謝を込めて作りました!クルシュ様のこと、フェリちゃんは大好きです!是非、受け取ってくださいにゃ!」

 

いつも通りの朝食を摂るクルシュとフェリス、ストレンジであったが朝食を終えた直後にフェリスは席を立ってしまった。居ても立っても居られなくなったのか、彼が退出してその直後、クルシュの下に、両手にプレゼントを抱えたフェリスがヨロヨロしながら現れた。

 

テーブルの上に沢山の箱や花束がドサッと置かれ、早口になりながらも昨日購入した食材や素材で作り上げたプレゼントを渡していくフェリス。

 

「新しい羽根ペンに菓子、髪留めに花束か。因みにこの花はルグニカでは見られない種ではないか?」

 

「これはドクターのいたネパール国に咲くと言う「バラ」という花です。真っ赤に染まるその花、クルシュ様が喜ばれると思って、ドクターに奮発してもらっちゃいました♪」

 

「花言葉は「あなたを愛する」。正にフェリスからクルシュへの贈り物にピッタリじゃないか」

 

ストレンジの解説に顔を真っ赤に染めながらも満面の笑みを浮かべるフェリス。彼が贈った薔薇の本数は11本。「最愛。パートナーに感謝の気持ちを込めて。」という意味が込められており、ストレンジがバラを召喚する際、贈る際の参考としてフェリスに教えていた。その真意はクルシュには伝わっていないだろうが、フェリスはそれでも愛しい主人に思いを届けられた事だけで心が満たされるような感覚を覚えた。

 

「ふふ、こうして面と向かって好意をぶつけられると少し恥ずかしい思いもする。だが、心が暖められていくようだ。フェリス、本当にありがとう。私も愛の言葉を送ろう」

 

「ほわぁぁ〜、クルシュ様〜」

 

 

 

「クルシュ様、私目も僭越ながら贈り物を送らせていただきどうございます」

 

続いてヴィルヘルムがクルシュへの贈り物を渡す。ヴィルヘルムが用意しているのは、彼が両手に持っている装飾された小さな箱と執事が数人がかりで運んだ布に覆われた巨大なモノだった。

因みに、先程完全にノックアウトされたフェリスはまるで猫のようにクルシュに甘えており、彼女にスリスリしている。

 

「粗相な物ですが、どうぞお納めください」

 

ヴィルヘルムが巨大なモノを執務机の前に移動し布を取り払うと、そこには真新しい鉄の鎧が立っていた。そしてプレゼント箱を開けると、そこにはガラス質の奇麗なコップが丁寧に収められている。

 

「これは新しい鎧か?」

 

「はい。今後も戦場に駆けていく事が多いクルシュ様にとって、役に立つかと思いまして。それに今の鎧も少々ガタが来ておりました。これを機に新調なされた方が良いと考えまして、贈らせていただいた次第です」

 

「そうか。本当にすまない、ヴィルヘルム。この鎧、私が必ず活かしてみせよう。約束する」

 

「御意」と応えたヴィルヘルムは、一歩下がる。

そして最後に残ったのはストレンジ。彼は手元を器用に動かし、召喚魔術用の複雑な魔法円を展開する。

やがてストレンジの描いた魔法円は机の直上に移動すると、机一杯の巨大な箱が出現した。

 

「ではクルシュ。その頂点にあるリボンを解いてほしい。それが私からの贈り物だ」

 

箱を留めている赤いリボンをクルシュが解くと、箱が自動で開封され中にあるプレゼントが明らかになる。

 

「これは……どれも見た事ないものばかりだ」

 

「ほぉ〜、ドクターってばずいぶん奮発したねぇ〜」

 

箱の中を興味深そうに見つめるクルシュとフェリス。ストレンジのプレゼントボックスの中には、ストレンジ直筆のサンクスカードに、偶々異空間に保管していたイヴァン・ヴァレンティンのチョコレート、白いマーガレット8本を束ねた花束、そして淡い香りを放つ香水が入っていた。

 

「ドクター、この菓子は何だ?」

 

「それは「チョコレート」と言われる菓子だ。カカオ豆を主成分として、カカオバターやミルクを混ぜて作った糖分たっぷりの甘い菓子さ」

 

ストレンジの説明を聞きながら、クルシュはチョコレートの箱を手元で触ったり、揺らしたりして中身を伺っていたが、やがて箱の中に戻した。

こうして全員のプレゼント贈呈が終了した訳だが、机の上に大量に置かれた贈り物を見回した後、クルシュは一息吐き言葉を発した。

 

「皆、今日は本当にありがとう。各々が感謝を込め、私には見合わぬ素敵な贈り物を数多く受け取れた事、主君としてこれほど嬉しいことはない」

 

そう言うと、クルシュは執務机の引き出しの一つを開け、包装された小包を取り出した。

 

「実は「バレンタインデー」には女性から男性に贈り物を贈る文化もあるそうだ。今日、私は多くの素晴らしい贈り物を受け取った訳だが、物を受け取るだけではどうも性に合わないのでな。私なりに思案し、最良のプレゼントを送る事にした。

ーフェリス、これは私からの感謝と愛を込めた贈り物だ」

 

クルシュの手元にある小包が、フェリスへと向かう。

クルシュにとっては常に自分についてくれる感謝と親愛を込めたプレゼントなのだが、クルシュ一筋のフェリスにとって、全く考えていなかった意中の相手からのプレゼントは、彼の頬を歓喜のあまり林檎以上の真紅に染め上げ、目尻には涙を浮かばせた。

 

「常に私を支え、共に手を携え、試練を乗り越えてきた仲だ。これだけでは感謝の意はうまく伝わぬかもしれぬが。フェリス、是非とも君に受け取って欲しい」

 

「ク、クルシュ様ぁ……!私は、こんなにも幸せでいいのでしょうか!ま、まさかクルシュ様より贈り物を頂けるとは、お、思ってもいなかったのでっ!絶対、絶対大切にします! 

ー私からも改めて。クルシュ様、大好きです!!」

 

満面の笑みを浮かべ、クルシュへ愛を叫ぶフェリス。涙を浮かべて号泣するフェリスをそっとクルシュは抱きしめる。室内に入る日光が2人を覆う様は、まるで神聖なオーラが彼等を覆うように見える。

その様子をヴィルヘルムとストレンジはただじっと、静かに見つめていた。

 

 

 

 

その日の夜。

珍しくストレンジから晩酌の誘いを受けたクルシュは、いつも通り、2人で語らっているベランダへ移動した。普段ではクルシュの方から誘うことが一般的であるが、今日は珍しく彼からの誘いである。どんな目的があるのか、関心を寄せてベランダに向かったクルシュは思わず目を見張った。

普段であるならば道着を来たストレンジが黄昏ているのだが、今日の服装は変わっているのである。

紺色のサマーニットに白のチノパンツを履き、黒の長袖テーラードジャケットを上に羽織っている、普段見せることのない姿がそこにあった。

 

「ドクター、か?」

 

「そうか、違う服装を見せるのは今回が初めてか。なに、女性を晩酌を呼び出したのだ。こちらもしっかりとコーディネートしなければ、失礼になるだろう」

 

未だに目を離せられないクルシュを席に案内し、彼女が席についた事を確認したストレンジは、クルシュ邸の酒造から複製した酒をテーブルの上に置いた。

 

「どうだった?今日の「バレンタインデー」は。君たち主従の関係にとってはより仲を深められた日となったんじゃないか?」

 

「そうだな。確かにフェリスとの仲は一段と深まったように思える。昼間は歓喜のあまり泣いていたからな。あの後も暫く私から離れずに甘えていた。だが、私はヴィルヘルムや卿にも感謝している。私にとっては贅沢すぎる贈り物を数多く受け取ったのだ。私から見れば、卿とも親交を深められた思うぞ」

 

「そうか。それは良かった」

 

ストレンジは短く言うが、その言葉に込められた僅かな声色の変化をクルシュ様は見落とすことは無かった。普段のストレンジは、傾聴する事が多く彼女の話を受け身になって聞いている事が多いのだか、今日のストレンジは寧ろ積極的に話を振っているのだ。

 

暫くし酒が進んだ頃、ストレンジは突然召喚魔術を使用してある小箱を取り出し、それを机の上に置いた。

クルシュが錆納戸色の箱を手に取り、そっと開けるとーー

 

「これは?」

 

「なに、昼間の際に渡し忘れていた代物だ。気に入らなければ返してもらっても構わないが」

 

どうも嘘の風が吹き荒れていたストレンジであったが、クルシュはあえてそれを口には出さなかった。

 

箱を開けると、そこには青の光を放つ宝石に、白銀のチェーンが付けられたネックレスが収められていた。青い宝石はクルシュの掌に収まるほどの小さな大きさだが、地球で売られている一般のアクセサリーでは高値で見積もられること間違いなしで、10カラットに等しい輝きを放っている。

 

「ふふ、そう言う事にしておこう。

ー申し訳ないが、付けてくれないだろうか」

 

クルシュの要望に添い、ストレンジは静かにクルシュの後ろへ回ると、首へネックレスをかけた。クルシュの胸に輝く宝石が彼女の魅力を一層引き立てている。

 

「どうだろうか?」

 

「完璧だ。サファイアを選んだ私の目に、狂いは無かったようで安心した」

 

「サファイア?この青い宝石はサファイアというのか」

 

クルシュは改めて輝く宝石を手に取り、興深く見つめた。青色に輝くそれは昼間でも十分に美しいが、星々と夜空と王都の夜景に照らされ、更に美しい輝きを放っている。

 

「クルシュー」

 

ふと名前を呼ばれたクルシュは顔を上げた。正面に座るストレンジはまっすぐクルシュの瞳を見つめている。それに応えてクルシュも彼を真っ直ぐに見返した。

 

 

「この場を借りて改めて言わせてもらおう。

あの日私を救ってくれたこと、本当に感謝している。あなたのお陰で私は今でもこうして生かされているのだ。その暖かい温情に心からのお礼を言わせてもらおう。

ーありがとう」

 

「ふふ、卿がこうして面と向かって私へ感謝の気持ちを述べてるのを直で受けると私も少し照れるな。だがこうして卿が私に気持ちを述べたこと、この上なく嬉しく思っている。卿の感謝の気持ちを、私は決して忘れぬし、卿の恩には必ず報いる事を約束しよう。今日は本当にありがとう」

 

 

 

 

「ぐぬぬ……何かいい感じになって……でもでも〜、あの幸せそうなクルシュ様の表情を見てると、こっちまで癒されるというか〜」

 

バルコニーから離れた廊下。クルシュとストレンジの晩酌もとい、大人の時間を邪魔してはいけない理性と、普段のように今すぐ飛び込みたい欲望が葛藤しているフェリスがいた。そして後ろから、その様子をやや呆れたように見つめるヴィルヘルム。

 

「フェリス。あなたは今日は片時もクルシュ様からお離れになったことはなかったでしょう。少しは融通を効かせ、ドクター殿へも時間を作って差し上げる事こそ、クルシュ様のお隣に立つ騎士として、引いては男の甲斐性ではありませんか」

 

「ぐぬぬ……」

 

ヴィルヘルムに諭されても未だに動かないフェリス。その後も暫く膠着状態が続いていたが、ふとフェリスは何かを思いついたようにヴィルヘルムの方へ振り返った。

 

「そういえば、ヴィル爺ってあの後少し出掛けていたよね?どこに行っていたの?」

 

「ーちょっとした野暮用です。気にする事ではありません」

 

「?」

 

 

 

 

昼間。クルシュへの贈り物贈呈が終わった後、その流れで全員で昼食を摂った。

そして、昼食が終わってからの数時間、其々が用事を済ませる中、ヴィルヘルムは屋敷を出て外出していた。

フェリスや「バレンタインデー」企画の提案者であるストレンジなど屋敷にいた僅かな者が、ヴィルヘルムが暫く外に出ていた事を知ってはいたものの、何処へ行ったのかについては彼らを含めて誰も知らなかった。

 

 

 

屋敷を出たヴィルヘルムはその足で、王都の外れにある旧開発区へと向かった。

昔とは随分その姿を変えてはいたものの、ヴィルヘルムの運命を変えた場所は、偶然にも昔の姿を留めていた。

旧開発区の一角にひっそりと存在する花畑。「剣鬼」がまだ青年だった時代からの姿を留める唯一の場所。そしてヴィルヘルムと彼の最愛の妻であるテレシアを結びつけた運命の場所。

 

 

かつて最愛の女性が座っていた場所は綻びてしまってはいるが、未だに残る区画を区切る段差。

段差に足をかけ、向こう側へ目を向ければ眼下に広がる黄色い花畑。

瞑目すればかつての光景が蘇る幻覚をヴィルヘルムは見る。

テレシアと結ばれる前、2人と出会った最後はお互いにぶつかり合ったあの時のみ。

 

 

走馬灯のように過去の思い出が脳裏を過ぎる中、ふとある言葉が彼の耳の奥深くに届く。

 

 

 

 

 

「花は、好き?」

 

 

ささやかな微笑みを作ったあの少女の声。ヴィルヘルムははっとして目を開けるもそこには唯、花畑が広がるのみ。

自分が愛した女性はこの世にはいないはず。だが、彼の耳には確かに声が届いていた。

思わず、彼の頬に一滴の水滴が流れる。

 

「お前は花が好きだったな。今日は「バレンタインデー」と言い、男性が愛する女性へ贈り物をする日らしい。

ここで最初に出会った時、私は花が嫌いだと言った。だが、今ではその花を愛でることも自分の楽しみだ」

 

ヴィルヘルムは区画の段差にストレンジから貰い受けた向日葵を99本束ねた花束をそっと置く。

 

 

「テレシア、私はーー

 

 

 

ーー必ず、お前の仇をー」

 

 

花畑を前にヴィルヘルムはほおを伝う物を拭い、剣を抜くと高く掲げる。妻を奪った圧倒的な不条理に1人の男として立ち上がる覚悟を、改めて妻と出会った最初のこの場所で強固に盤石にした事を知るのはヴィルヘルムの他に誰もいなかった。

ーそして彼が不条理に打ち勝つのは、まだ先の話の物語である。

 




番外編ではありますが、明らかに本編よりも話が長くなりました笑

勢いで書いたのでかなり誤字・脱字があるかもしれません。大変申し訳なく思います。


話は変わりますが『鬼滅の刃 遊郭編』の制作がついに決定しましたね!いやぁ、楽しみで仕方がないです!
実は『鬼滅の刃』のクロスオーバー作品も構成が浮かんでいます笑こちらの余裕が出てきましたら、そちらの方も書いていきたいと考えています。
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