Re:上から目線の魔術師の異世界生活   作:npd writer

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お待たせいたしました。
最新話の投稿です。

少し遅れ気味となっていること、お詫び申し上げます。


第二章 魔獣騒乱
七話 事態は急転直下に変化する


「領地に帰還する?」

 

ストレンジが屋敷に居候を始めてから3ヶ月ほど経ったある日のこと、いつも通り定刻に食堂へ向かったストレンジはそこで急遽、クルシュが領地へ帰還する旨を聞いた。

スープの香ばしい香りと、卵の甘い香りがストレンジの食欲を唆る中、食を進める彼の手は、クルシュの話に耳を傾けるため止まりがちになる。

 

「本当に突然のことだな。運営する領地で何が争いが起こったという事か?」

 

「その通りだドクター。正確には我がカルステン家が長年支援しているファリックス子爵領にて、魔獣による厄災が起こったとの連絡が入ったのだがな。彼の領土に待機していた傭兵の他、民兵や義勇兵らが事態の収束にあたってはいるが、魔獣による被害は想定を大幅に超えているらしい」

 

「本当、困っちゃいますよネ。つい数週間前にも、ロズワール辺境伯の領地にて「ウムガルム」による被害が出たとの報告もありますし。最近、妙に魔獣による被害が多くて本当、フェリちゃんは嫌になっちゃいますヨ」

 

クルシュの隣に座って朝食を摂るフェリスは、朝にも関わらず不機嫌を隠せないでいる。普段と変わらない猫口調と何も知らない男性が見たら、一発でノックアウトの萌え表情は変わらないが、それでも湧き出る不安を押しとどめるには至ってはいない。

 

「ファリックス子爵直々に救援要請が届いている以上、無視はできまい。我々は早々に人員と装備を集め、整えた後ファリックス子爵の下へ赴く事になる。その後はファリックス子爵と共同で魔獣を駆逐していく事になるだろう。今回は被害が甚大な為、通常の魔獣対策と比べて大規模な人員が展開される事が確実だ」

 

「その言葉から察するに、私も魔獣退治の一躍を担う事になると見ていいか?」

 

ストレンジの問いにクルシュは静かに頷く。遂にこの世界に来て初の実戦か。とストレンジは気を引き締める。

クルシュより「白鯨」や「魔女教」の話を聞いてから、熱心に図書館より書物を引っ張り出してはしらみ潰しに読んでいた彼にとって、常に気にしていた現実が遂に姿を現したのである。

 

「卿には特に被害が甚大な地区を、ヴィルヘルムと共に対処してもらう事になるだろう。卿は大規模な爆発魔術を操ると聞いている。己が力を存分に振るい、魔獣を根絶やしにしてほしい」

 

「待て。私は爆発魔術を使いこなせるとは一言も言っていないはずだ。まして、外部者が私の修行の空間であるミラー・ディメンションの内部を見ることなど、不可能だ」

 

ストレンジは思わず、フォークを動かす手を止めてクルシュを見た。クルシュ邸を訪れてより、魔術の修行を欠かさず行っているストレンジだったが、現実世界への影響を懸念したため、修行はあくまでミラー・ディメンション内にて行っていた。その為、修行内容が外部に漏れる事は絶対に無いはずである。にも関わらず、クルシュはストレンジが聞き逃せぬ情報をサラリと述べたのだ。彼の心中は波をたてる。

 

「それはおかしいな。フェリスによれば卿が爆発魔術を扱えると聞いたのだが」

 

「嫌だにゃァ〜、クルシュ様。私は、あくまで多彩な魔術を扱うドクターなら爆発魔術くらい、容易く扱えるんじゃにゃいかにゃ〜、って言っただけですヨ」

 

下手人の正体は直ぐに現れた。フェリスがストレンジの方を向いたまま、舌を出しながらウィンクしているのが目に入ったからである。

 

「根拠のない情報を与えるのは、見逃す事はできない一件だぞフェリス。何故そんな真似をした?」

 

「んー、私はドクター程の魔術師なら爆発系の魔術も容易く扱うんじゃないかなぁ〜って感じだだけ。だって、「至高の魔術師」が爆発魔法を使えないにゃんて、がっかりにゃ事だヨ」

 

ドクターとフェリスが屋敷に共に住み始めてから早数週間であるが、どうも初日の一件が引きずっているのか二人の仲は思うように修復できていない。

一方、ストレンジが最初に出会い、真面に会話をしたユリウスとは良好な仲を築けており、時より二人で魔術と精霊術について意見を交わしたり、王国騎士団について深く議論を行う事もあった。

その過程で、フェリスとユリウスの紹介によりストレンジは、ルグニカ王国最強の騎士であるラインハルト・ヴァン・アストレアとも言葉を交わす事が出来ていた。

本人曰く、「あの誠実さと信念は何処か超人兵士(スーパー・ソルジャー)と似たような面だ」とか。

 

「んん!とにかく、我々はすぐに出立の準備を行い、明日の夜までには王都を出発したい。「霧」が出なければ一日もかからず、ファリックス子爵領に到着できるだろう。懸念材料は他にもあるがな」

 

 

 

 

 

クルシュから緊急の帰還を言い渡されたその日も、ストレンジはいつも通り王都の図書館に赴き、書物を漁っては読む日であったが、翌日には王都を出立することを聞いていた彼は、閉館時間より早めに退出した。

本来であれば図書館閉館後も街の様子を散策するため、通りを歩いているストレンジだが、今日は真っ直ぐ邸宅のある貴族街に戻った。

 

そしてクルシュ邸に戻ったストレンジは、早めの夕食を済ませ、日課である瞑想の後クルシュとの晩酌を共にする。

 

「今宵は夜風が心地良いな。冷た過ぎる事もなく、また程よい風量だ。正に酒を嗜むには、絶好の頃合いだろう」

 

「クルシュは実に風流がある言い方をするな。貴族の娘であるが故なのか、それとも天性の才か。私は酒に適した気候などは分からないが、今日の気候がベストなものであるならば覚えておくとしよう。

ー本来であるならばフェリスあたりを呼びそうなものだが、今日は私だ。態々晩酌の席まで呼びに来たということは、私に何か伝える事があるというふうに理解して大丈夫か?」

 

「相変わらず、卿はすぐに話を持っていこうとするな。まぁ、こちらとしても話が早い方が助かるのも否定はできない。だが、私は卿にも少しは酒の席を楽しんで欲しいと思っている」

 

寝巻き姿のクルシュは注いだ酒をくいっと呑むと、姿勢を正し本題に入る姿勢を見せる。それを見てストレンジも背筋を整えた。因みに、ストレンジは酒の代わりに、自身の魔術で召喚した蜂蜜入りのお茶を手元に置き、会話の間で飲んでいる。

 

「先に話した魔獣騒動の一件であるが、どうもきな臭い気がしてならない。本来の魔獣騒動であれば、ファリックス子爵程の人物が手こずると思えないのだ」

 

「ファリックス子爵がどのような人物かよく知らないが、クルシュがそこまで言うということは、かなり頭脳明晰とみえるな。

聞きたいのだが、ファリックス子爵とはどのような人物なんだ?」

 

「まず、ファリックス家について話しておこう。ファリックス家は、古くから我がカルステン家に仕えている貴族の一族だ。その歴史は、当家が爵位を与えられし時代からの付き合いであり、古くからの付き合いという簡単な言葉では表せない間柄となっている。また、現当主であるフォリア・ファリックス子爵は戦略家としてルグニカでは有名で、逸話として数少ない軍勢で大国の軍を押し返したと言う話もあるぐらいだ」

 

数少ない自らの手札を巧みに使い状況の逆転を狙う戦法が、まるで諸葛孔明やハンニバルのような辣腕家に似ていると感じたストレンジだが、現実世界での言葉である以上、それは口に出さずクルシュの話に耳を傾け続けた。

 

「軍事面で才能あふれるファリックス子爵程の人物が、たかが魔獣に苦戦するとは思えないと私は言ったが、これがその根拠となる。恐らく、今回の騒動の背後には厄介な事情が孕んでいる可能性が高いと私は考えている。卿には、特に被害が甚大な地区を担当してもらうことになる故、耳に挟んでほしいと思った次第だ。無駄話と思うのならば聞き逃してもらっても構わない」

 

「いや、忠告は素直に聞く性分だ。説明書をよく読まずに危うく存在が消えかけた事があって以来、物事は最後まで把握しようとしているのさ。因みに、今回の一件と、今朝述べていたロズワール辺境伯の領地内で起こった魔獣騒動との関連性は?」

 

「そうだな。言うならば、今回の一件は辺境伯の一件から然程、月日が経っていない。もし、彼の事件が人為的なものであるならば、今回と前回は同一犯の可能性が高いが、未だ証拠が不足しているため断定はできない。

ーーだが、今回の一件には魔獣たちが統率が取れた一つの組織のように行動しているとの情報が入っている。普通、魔獣は群生の生き物であれ統率は成されていない。もしも、魔獣が統率の取れた行動を取っているならば、彼らを従える何者かがおり、そいつが今回と前回を結びつける重要な人物であり、この一連の黒幕であるだろう」

 

ストレンジは、フェリスから拝借していた羽ペンを手に、自らの手帳にクルシュが述べた情報を整理していく。

その上で、以前クルシュ邸の車庫や図書館の書物の情報を擦り合わせ、彼なりの対策プランの作成を行なっていった。

ある程度、記したところで何か思いついたストレンジは書く手を止め、クルシュを見据えた。

 

「クルシュ。これはあくまでも私見であるが、今回の騒動は辺境伯の一件と同一犯による仕業の可能性が極めて高い。時期もさることながら、どうも魔獣が統率の取れているという情報に引っ掛かりを覚える。これは予想以上に厳しい任務になるかもしれない。

ークルシュも明日からの任務には同行するのか?」

 

「当然だ。何も玉座に収まっているだけが当主ではない。無論、危険があることは承知の上ではあるが、臣下の危機に立ち上がらないようでは、王としての器を自ら持っていない、と宣言しているようなものだからな」

 

クルシュの決意にストレンジはただ「そうか」と、一言呟くだけだった。その後はいつも通り男女二人での酒の席ということで、嫉妬心剥き出しのフェリスが乱入し、ヒッチャカメッチャカになることを悟ったストレンジは、場の混乱を避けるため早々に部屋に戻る。

しかし、ストレンジは心に残る不安を拭えずにおり、精神統一のためもう一度瞑想を行なった。

 

 

 

 

翌日早朝、クルシュを指揮官としたフェリス、ヴィルヘルム、ストレンジ以下、魔獣討伐隊100名がクルシュ邸庭先に集まっていた。全員がこの度の討伐に向けて派兵される精鋭兵であり、かつては王国近衛騎士団や民兵に所属していた元騎士・兵士が大半を占めている。

やがて屋敷からクルシュが現れ、辺りを見回し玄関前に設置された簡易的な舞台の上に立った。台の左半分にフェリスとストレンジ、右半分にはヴィルヘルムが控えている形となっている。

鎧に身を包んだクルシュは周りを一瞥した後、深く息を吸い込むと、彼女特有の凛々しい声を発した。

 

「短い招集期間ではあったが、この任務に志願してくれた皆の決断にまずは心からの感謝を述べたい。これより我が部隊は、膨大な数の魔獣の襲撃を受けた、ファリックス子爵領へ救援に向かう。子爵領の魔獣による被害は甚大であり、最早一刻の猶予も許されない。我らの到着が遅れる事は、それ即ち、被害が拡大することを各々は忘れずに任務に遂行してもらいたい。二度と領民が悲しみの涙を流さぬように、全てを終わらせるのだ。諸君らの活躍を心より期待する」

 

クルシュの挨拶が終わり、各々の紹介が始まる。ある意味で世間に初お披露目となるストレンジも周りの流れに沿う形で自己紹介するが、どれもこれも聞き慣れない単語を連発するもので、一同からの反応はイマイチなものであったらしい。隣に立つフェリスから、「もっと分かりやすく言わにゃいと〜。凡人にはドクターの考えている事にゃんて、全然分かんにゃいんだから〜」と言われる始末だったとか。

 

 

「それでは、いざ出陣だ!」

 

全員の自己紹介が終わり、後は出陣のみとなった。そして、クルシュが高らかに声を張り上げると、集まっていた全員が、武器を片手に声を上げる。そして、武器を装備し各自地龍に跨ろうとしたその時、

 

「諸君、少し待ってほしい」

 

流れを阻害するように響くのは、ストレンジの声。各自、今にも出発しようとしていた一行は、思わず足を止めてストレンジの方を振り返る。

突然の行動にクルシュやフェリス、ヴィルヘルムも困惑を隠せない。

 

「ドクター、待ってほしいとはどういうことだ?」

 

「まさか〜、ドクターってば怖気ついちゃった〜?」

 

「お前の煽り性能はいつ見ても関心に値するな、フェリス。一度、私の盟友とラップバトルをしてみるといいだろう。その感性が案外、奴には大ウケするかもな。

ーーさて、クルシュ。私がこの流れに水を差す行動をしたと思っているな」

 

ストレンジの言葉にクルシュ本人は顔に表さないが、周りの反応が彼女の意見を代弁している。現にストレンジに向けられる視線は、どれも良いものではない。

周りから見れば、高揚する気分を阻害するような行いをストレンジがとっているように見られ、その結果がこの有様である。

 

「私にはスリング・リングを使った移動手段がある事を忘れたのか?」

 

いつのまにか、彼の左手には指が通るほどの大きさの穴が二つ空いている、独特の細工を持つ道具が嵌められていた。

そしてここで、転移を使うと言うストレンジ。しかし彼の転移魔術は対象の人物の足元に穴を開け、異空間に放り込む魔術だったはず。

クルシュは心に残る訝しみを残したまま、怪訝そうに彼を見つめる。一方、彼女の視線を受けたストレンジはある行動に出た。

 

マントを靡かせ、上空に浮かび上がったストレンジはクルシュ邸の門前に向けて右手と左手を向ける。

スリング・リングを嵌めた左手を前に向けたまま、右手を反時計回りに動かすとクルシュ邸の正面に異変が生じる。

時空に折り目が生じ、続けて外輪から火花が飛び散る巨大な円が登場した。そして顕になる内輪の姿。そこに広がるのは見慣れた王都の景色ではなく、何処かの地方都市のような長閑な街並み。

 

「これは……間違いない!ファリックス子爵が統治している街だ!」

 

クルシュの言葉がまるで一団の心情を表していると言わんばかりに、思わぬ出来事にただ呆然とする兵団一同。その後、つられるように次々に声が上がっていく。

 

「おぉ!すげぇ!」

 

「間違いねぇ、ファリックス子爵の街だぜありゃ!」

 

「あの魔術師、一体どうやってこんな技を!?」

 

「よくわかんねぇけどこれで移動が便利になるっていうなら、メッチャありがてぇってことだ!」

 

ゲートに見入っている兵団の後ろに先程、ゲートを開けた張本人であるストレンジが静かに着地した。

 

「これで移動が早まるはずだが、大丈夫か?」

 

平然とした顔で問うストレンジに思わず、苦笑いが止まないクルシュ。

 

「全く、卿には何度も驚かされているばかりだな。この魔術があればどんな場所にいても一瞬で目的地に辿り着けるということだな?」

 

「概ねその通りだ。このスリング・リングを使えば、行きたい場所にすぐに行ける。念ずる必要があるがな」

 

「卿の魔術により移動が短縮化できれば、それだけ竜車を調達する手間が省ける。

ーー本当に便利ではあるが、竜者を手配を仕事とする労働者の反感を買いそうな魔術だ」

 

どんな場所にも一瞬で繋げてしまうゲートに、それを容易く操るストレンジ。彼の魔術は利ばかりあるが、その一方の既存の産業を破壊する一面を持っている。巨大なゲートを前にふとクルシュは、ストレンジの魔術によって嘆くことになる竜車業者の未来を憂いるのだった。

 




今週のリゼロは、特に熱かったです!

各々が、自分が別々の敵と戦場で戦う。インフィニティ・ウォーの縮小版のようだと見てて思いました。


そしてこちらはオリジナル展開に入りました。クルシュやドクターがどのような戦いを繰り広げるのか、どうぞご期待ください。
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