Re:上から目線の魔術師の異世界生活 作:npd writer
大変お待たせいたしました。
ストレンジにより開けられたゲートを、恐る恐る通るクルシュ率いる討伐隊。本来であるならば王都を出発してより一日ほどかかる道のりであるのだが、行きたい場所を念じることで空間を操り距離を縮めるという、とんでもない魔術を使う「至高の魔術師」のおかげで、一瞬で到着することができたのだった。
それなりの疲労を覚悟していた討伐隊であったが、ストレンジのおかげで体力万全のまま領内に入ることができたことで、少しばかり物資の余裕ができたという話も、ストレンジの耳に入ったとか入っていないとか。
一方、ファリックス領に住む人々には動揺が広がっていた。
突然街の外れに、外輪が輝く線が現れたと思えばそれが拡大し、巨大な円を形成したのである。外輪が火花が散らす中、内輪に露わになるのはどこかの景色。徐々に顕になっていく発展したその街並みが、王都の光景であることは誰しも容易に想像できた。そして円の向こうの大邸宅の前には、今回の討伐隊の指揮を取るクルシュ・カルステン公爵の姿があるではないか。彼の隣には穴を開けた張本人であろうか、見たことのない服に赤いマントを羽織る謎の人物がいる。穴を開けた向こう側もかなり戸惑っているのか、討伐隊のほぼ全員が呆然としている様子を見せていた。
ゆっくりと輪を通過し進入していく討伐隊が間近に迫った時、呆気に取られていた住人たちは慌てて領主であるフォリア・ファリックス子爵の屋敷に全速力で走っていき、この事態を領主に伝えるため屋敷周辺に群がっていった。
「今朝はやけに領民たちの声が大きい。一体どうしたものか?」
フォリア・ファリックスは先程から困惑していた。執務中に何やら騒がしい領民の声が耳に入ってきたのである。最初は小さかった声が徐々に大きくなり、やがて彼も無視できないほどの大きさに拡大にする。気になった彼が階下を覗けば、玄関に突如として多くの住民が屋敷に集まり、必死に何かを伝えようとしているではないか。
「ファリックス様、如何いたしましょう?」
その様子に女中や執事たちも困惑しており、玄関先に出て、必死に彼らを落ち着かせている。これは自らが出なければならないと考えたファリックスは、大きな溜息を吐きながら玄関へと向かった。
「ファリックス子爵殿!」
玄関ホームへ降りたファリックスは執事に扉を開けさせる。扉を開けた先に待っていたのは口々に何かを訴えようとする領民たちがいた。ファリックスは先頭にいた、この先の街の町長を見つけると彼に問いかけた。
「何事だ?」
「実はこの街の外れに、巨大な穴が開いているのです!」
「ーーそれだけじゃない!クルシュ・カルステン様に率いられた討伐隊が次々に現れている!魔法みたいな不思議な力で開けられた空間から次々と!」
町長を筆頭に発せられる信じ難い内容に思わず笑ってしまうファリックス。
「ーーははは!そんな馬鹿な事があるわけがないだろう。良いか、諸君。ここから王都まではどんなに俊足な地龍を走らせても丸一日はかかる。そして、クルシュ様が出立されるのは今日の朝。如何に天才な魔導師であろうとも、そのような神業を披露できるとは思えない。諸君が見たのは幻術の類、もしくは単なる見間違えだろう」
「嘘じゃねぇ!本当なんだよ!領主様、早くこっちへ!!」
しかし目の前に人々の言葉はとても単なるボヤ騒ぎでは片付けられないオーラを発している。
領民に促され、ファリックスは渋々現場にやって来た。もしもこの騒ぎが領民総出の嘘であるならば、冗談では済む話でない。統治者として、首謀者を住民を扇動した罪で、裁く必要もあるだろう。そしてこの騒動に加わっていた者にも何かしらの処分を与えることも、彼は考えていた。
だが、彼のそんな無知な考えは光り輝く巨大な円を前にあっさり瓦解することとなる。
「こ、これは……何たる事だ!?」
「な!言った通りだろ領主様!!」
ファリックスの眼前に展開されるのは巨大な光り輝く円と、内からぞろぞろ入場してくる討伐隊の面々。彼らの先頭を率いるのは白い地龍に跨る美しく凛々しい女性。普段は下ろした髪型をポニーテールに変え、鎧に身を包んだその姿はまさに戦乙女だった。
それより目を引くのが、彼女の後方を空中移動する謎の男。謎の青い服に赤いマントを羽織ったその姿はロズワール辺境伯とはまた違う印象を受ける。討伐隊の面々が地龍に跨っているのに対し、彼だけは空中を浮きながら移動しているその光景が更に彼の異色さを際立たせていた。
しかし、魔法に疎い彼らでも直感で感じる事があった。彼が持つマナの量が尋常ではないことを。
「ファリックス子爵、突然の来訪誠に申し訳ない。彼らは卿の領地内で発生した魔獣騒動鎮圧のため、集められた精鋭たちだ。
まず、魔獣により命を奪われた多くの民たちに心からの哀悼を申し上げる」
「あ、ああ……そんなバカな……。こんなことが……」
「ファリックス子爵?大丈夫か?」
クルシュを目前にしてもファリックスはただ同じ言葉を繰り返すのみで、ただ目の前の光景に呆然としていた。彼の脳のキャパシティが限界を超えて稼働しているせいなのか。
「クルシュ。このボケっと突っ立っているのが?」
「あ、ああ。彼がこの地を治めるフォリア・ファリックス子爵に違いないのだが、実に妙だな。先程から全く動かず、顔の表情から察するに驚きのあまりに呆然としているようにも見える。普段の彼ならばそんなことはないのだが。疲れているのだろうか」
クルシュの言葉を黙って聞いていたストレンジは、何か思いついたように彼の頭上にゲートを開ける。
クルシュ達もつられて上を見上げると、ストレンジが何やら空中にゲートを開けていた。何が出現すると思えば、大量の水がファリックスに無慈悲に降り注ぐ。
「くぼぼぼぼぼぉぉぉぉぉぉ……!」
大量の水に当てられたファリックスは、ようやく意識が戻ったのか、咳き込んだ。
「こ、これはクルシュ・カルステン公爵閣下。この度は私の領土内の問題に関しての助力を頂けるとのことで、誠に感謝をーー、ゲホッ!ゲホッ!」
クルシュへの挨拶の途中でも咳き込んでしまうファリックス。彼の整えられていた髪は放水の直撃を受け崩れており、貴族服はびしょびしょに濡れている。彼の化粧も水で洗い流されておりその素顔が露わになっている。その有り様は目の前のクルシュでさえ同情心を抱いた。
「ゲホッ!ゲホッ!フファァッックション!!!
ーー失礼しました。カルステン家当主の御前でこのような無礼な真似を。クルシュ様、どうかお許しを」
「そ、そうだな。まぁ、あれだけ大量の水を浴びたのだ。そのような振る舞いが出てしまうのも仕方のないな」
俯いていた顔が上げられ、ストレンジは初めてファリックスを見据えた。見た目は20代前半であろうか。紫がかった短髪を持ち、鮮やかな青色の瞳を持つ青年の顔は、化粧が洗われた事で明らかとなったが、見事なまでな美少年である。地球人であるストレンジから見ても、中性的な身体つきで女性服を着させて女性として振る舞っても違和感すら抱かない。
20代で爵位を持ち、更に自分に領地が任されているその実力、そしてアイドル顔負けの美貌。まさに、ルグニカ王国を率いる次世代の筆頭格であることは容易に想像できた。
「ところで今回の討伐隊には貴方の騎士であられるフェリス様やヴィルヘルム様も参加されるようでありますが、そちらのマントを羽織る紳士も今回の一員で?」
ファリックスが後ろの面々を伺って最も気になったことはストレンジの存在である。以前、クルシュと会談した際には存在していなかった男性。クルシュに取り入ろうとしているのか、それとも単なる彼女のお気に入りとして拾われた存在なのか。
不審感が拭えないファリックスは思わず、じっと見つめてしまう。そしてその視線に気づいたストレンジは彼の前に移動する。
「初めましてだな、ファリックス子爵。私はドクター・スティーブン・ストレンジ。現在は訳あってカルステン家の食客になっている「至高の魔術師」だ。よろしく」
「これはどうも。初めまして、私はこの領地を任されている、フォリア・ファリックスです。どうぞお見知り置きを」
討伐隊は村に設けられた臨時の簡易宿泊所に案内されそこで準備を整える傍ら、クルシュ、フェリス、ヴィルヘルム、そしてストレンジはファリックス邸に設けられた作戦本部に招かれ、そこで被害状況の説明を受けた。
「ーー以上が、この領地で起きた魔獣騒動の概要ですな。
あくまで概要であり、詳細な被害状況はこちらでも確認できていないところです。ただ、魔獣による被害は農作物の被害のみにとどまらず、人的被害にも及んでおり、中には村の半分が死亡したとの未確認情報も入っています」
大テーブルに広げられた地図には被害に遭った村の位置に旗印が置かれているが、その数は実に10を超えており、被害の深刻さを窺い知る事ができる。
「現在は、残りの村の警備を厳重にするよう各村に命じているものの、その結果被害回復が全く進んでいません。加えて、ファリックス邸があるこのハウブスブルクよりそう遠くない地点まで、魔獣の侵攻が進んでいます。このまま手をこまねいておりますと、この都市を放棄しなければならない事態にもなるかと」
部下の一人が示す地図の地点と子爵邸がある都市まではそう離れておらず、このままでは遅からずこの都市も魔獣による被害を受けることが予見された。
「発言していいか?」
ここで地図を見ていたストレンジが挙手し、発言を求めた。室内全員の視線が彼に向けられる中、クルシュが発言を許可した事を確認したストレンジは、地図を一瞥した後、口を開いた。
「まず魔獣による被害は、多少の散見はあるがどの地域も畑が多くある地域に多いだろう。敵は農作物を狙って移動している可能性が高いということだ。そして、被害は日を追うごとに少しずつ南下を繰り返している事にも注目できる。そして南下した先には何があるかーー」
ストレンジの言葉に一同は地図の旗印を目で追う。
「っ!なるほど。連中の狙いはハウブスブルクを干上がらせるつもりということか!」
「そうだ。南下した先にはファリックス邸があるこの都市がある。連中の狙いは食料を生産する地点を重点的に蹂躙し、我々に出血を強要させ弱ったところを築き上げた包囲網で一網打尽というところだろう」
「ですがドクター殿、魔獣による被害は農作物を育てる村のみならず、他の地域にも散見していますが」
地図を黙々と見ていたヴィルヘルムは、ストレンジが一呼吸入れた間に、発言をする。確かに被害は農村部の方が圧倒的に大きい。しかし、件数的に言えば数の大小があるとはいえ、農村部と他の村の被害件数は等しかった。ヴィルヘルム自身は、魔獣が生物の温もりに誘われるようにあちこち行き合ったりばったりで移動しているのではないかと考えていた。
「恐らく、これは敵が我々を撹乱するための囮として襲撃しているのだろう。現に魔獣による被害は農作物を育てている村よりも比較的軽微なものとなっている。無論、これはあくまで一つの仮説に過ぎない。信じるか信じはないかは自由だが」
「ということはこれから狙われるのはーー」
ストレンジは地図のある箇所を、魔術を使って示す。魔法円が照らし出した場所の名前を確認する一同。
「この都市より更に南下した地点にはファリックス領最大の穀倉地帯がある。つまり、この領地の生命線だ。そしてこの場所に行くにはここを通る必要がある。ファリックス子爵、この食糧庫が落ちた場合の被害は?」
「詳しい予測不可能です。仮にここを捨てるような事態に陥った場合、我が領地での税収は大きく減少するのみならず、王国随一の穀倉地帯が落ちる事になる。そうなれば、多くの餓死者が出るのみならず国そのものが揺らぎかねない。
ーーだからこそ、この都市は命に代えてでも守らなければならない。例え、我が身が魔獣により呪い殺されようが、死守する。それがファリックス家に継がれた初代からの家訓であり意志だ」
例え命を失おうとも領地を守る意志を見せるファリックス。何処か、クルシュと似たような心持ちを持つと、ふと思いついたストレンジは軽く頷くと地図を再び示す。
「ファリックス子爵から確固たる決意を聞けて安心した。この危機的状況に尻尾を丸めて逃げる領主では、私も助ける気が湧かなかったからな。
ーーならば、我々が取れる手段はこの都市の防衛しつつ敵を殲滅する、これのみだな」
「しかしドクター殿。敵は未だにその全貌を掴ませていません。悔しいですが、情報収集のために送った先遣隊も壊滅しており、我々だけではとても有効な対策は……。
加えて今回の魔獣たちは集団で効率よく動いており、従来の動きとは一致しておらず従来通りのやり方では通じない可能性があります。全く未知の手法を取る魔獣の殲滅は口で言うには簡単だが、高い壁です」
「戦いにおいて、不測の事態なんてものは付き物だ。問題は如何にして膨大な敵を、少ない人員で押し返せるか、という事になる」
少ない兵力と敵戦力の未知数という圧倒的不利な現状を鑑み、戦況打開の為には、敵の退路を断ち奇襲を仕掛けるしかないとストレンジは判断した。そこで彼が利用したのは、20世紀最初の世界大戦であり、彼の祖国であるアメリカ合衆国も参戦した第一次世界大戦の戦いの一つ。大戦初期に東部戦線にてドイツ帝国とロシア帝国が激突したタンネンベルクの戦いであった。
フォリア・ファリックス
ファリックス領子爵。若干20歳だが、優れた戦略家としての一面持っており、軍師としても知られている。ファリックス家は、カルステン家の忠臣として長年仕えており、彼がクルシュに救援を依頼したのもその縁。
タンネンベルクの戦い
1914年に端を発する第一次世界大戦において、数的劣勢であったドイツ帝国が、東の大国であるロシア帝国を討ち破った戦い。ストレンジの母国、ウィルソン大統領率いるアメリカ合衆国の参戦で敗北した彼の国が、大戦初期とはいえその勇姿をヨーロッパ中に見せつけた戦いであり、後のヴァイマール共和国大統領に就任するヒンデンブルクの名を轟かせた名戦でもある。
リゼロの第二クールもいよいよクライマックスで、それぞれが敵と対峙するストーリー、本当に胸アツ!
最近、知りましたがマーベルスタジオのロゴ、変わっていたんですね!
(しっかりストレンジもいて安心しました笑)