喫茶ステラと死神の蝶と見える人   作:もう何も辛くない

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さて、ここまで私の作品を読んできた方々の中に今作の原作を知っている方はどれだけいるのだろうか…?


プロローグ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつも通りの朝。いつも通りの道。大学へ行く途中、俺はふと掛けていた眼鏡を外した。

 

 今日も今日とて、この目はよく()()()

 

 すれ違う通行人に話しかけながらついていく明らかにこの世にあらざる者。建物の傍で蹲っている肉が腐り落ちた、多分犬。

 

 そして、青い鱗粉を散らしながら飛ぶ()

 

 昔から変わらない、既に見飽きた光景に辟易しながら俺は眼鏡を戻す。レンズを通して視える景色の中に、先程まで見えていたこの世にあらざる存在は見えなくなっていた。

 

 俺がこうして普通に生きていられるのはこの眼鏡のお陰といっていい。もしこの眼鏡がなければ…、精神的に可笑しくなっていたかもしれない。いやマジで。本当にこれをくれたあの人には感謝しかない。

 名前も知らないけど。何なら、会ったの昔過ぎて顔も朧気だけど。覚えてるのは綺麗な女の人だった事くらいだけど。

 

「おーい、千尋ー」

 

 現在朝の8時45分。スマホの時計を眺め、このままのんびり歩いても講義に間に合いそうだと考えたその時、背後から俺、()()()を呼ぶ声がした。

 

「おっす」

 

「ん、おはよう」

 

 振り返る暇もなく、直後俺の隣に立つ男。そいつの顔を見上げながら、俺も挨拶を返す。

 

 草野昭久、それがこいつの名前だ。身長は俺よりも10センチ以上も高く、確か186センチだったはずだ。しかも顔もかなり男らしくイケメン、体つきもがっしりとしたナイスガイ。

 男の俺から見ても格好良いと思えてしまう程。勿論、アッーな意味ではないそんな趣味はない断じてない。

 

「なあ、千尋様?」

 

「…」

 

 隣で歩く昭久がふと表情を苦くしながら話し掛けてくる。それを見た俺は続く言葉を察し、こいつから視線を外して前を見た。

 

「千尋様、此方を見てくれませんでしょうか?」

 

「日本語がおかしい。小学校からやり直せ。課題は見せん」

 

「殺生な!頼む!昨日は彼女がなかなか寝かせてくれなかったせいで課題やる時間無かったんだよぉっ!」

 

「死ね」

 

 先程説明した通り、こいつはかなりイケメン。その上、短いながらもこれまでの会話でこいつのノリの良さは分かって頂けたと思う。しかもこれで他人を思いやれる優しさも持っている。

 天は人に二物を与えずとか言うが、二物どころじゃないくらいこいつに与えられている。そんなこいつがモテない筈もなく、俺がこいつと友達として付き合った二年の間で出来た彼女は知る限りで七人。

 

 頭おかしいんじゃねぇの。何でそんな取っ替え引っ替え出来んの?

 

「頼むよ!今日昼飯おごるからさぁ!」

 

「…夜も追加な」

 

「おっしゃ!サンキューな!」

 

 別に本気で意地が悪い事をしようとしていた訳ではないが、これで課題を写させるのは何度目か。それだけ頼まれたらうんざりもする、見せたくもなくなる。

 しかしこうして何かを報酬として貰い、課題を見せ続けている。まあさっきも言ったが、意地悪をするつもりはないからな。

 

 そうして歩いている間にキャンパスへと着く。目的の講堂に一番近い入り口から建物に入り、階段を上って三階へ。俺と昭久は講堂に着く。

 講堂の中に入り、空いている席に並んで座る。

 

「おい千尋、早く早く」

 

「…」

 

「千尋様、お早くお課題をお見せてください」

 

「お前マジで小学校で敬語学び直した方がいいぞ」

 

 溜め息を吐きながら鞄の中からクリアファイルを取り出し、更にその中からプリントを取り出し昭久に差し出す。

 

「どうもー」

 

 軽く例を言いながらプリントを受け取った昭久は、自身の鞄から取り出した同じプリントを、されど解答欄が空白のそれを机の上に置き、俺の解答を写し始めた。

 

「…?」

 

 昭久がペンを動かし始めて少ししてからだった。講堂に響いていた話し声が突然、少なくなったのは。

 何事かと辺りを見回すと、講堂にいる学生達が、特に男が同じ方を見ている。俺も、その方向に視線を向けると、そこには一組の男女が隣同士で座っていた。

 

「あれ、四季さんじゃん。隣に座ってる奴、誰だ?」

 

 俺と同じく周囲の異変に気付き、男達の視線を追っていた昭久が聞いてくる。

 

 四季ナツメ。この大学でこの名前を知らない男は殆ど居ないだろう。それ程までに、彼女の美貌は際立っている。だからこそ、そんな彼女の隣に座る謎の男が気になって仕方ないのだろう。

 

「千尋、知ってる?」

 

「知らん」

 

 俺達とは違う机ではあるが同じ列に座る二人から視線を外しながら、昭久の再びの問いかけを一蹴する。

 

「いや、マジで珍しいな…。四季さんが男と一緒に講義受けるなんて。…初めてじゃね?」

 

「おい、そろそろやめろよ。失礼だろ」

 

「っと…、そうだな。てか、俺は早く課題写さんと…」

 

 興味深げにまじまじと二人を眺める昭久に注意する。

 昭久は素直に俺の注意を受け入れ、課題に集中し直す。

 

 そんな中、俺は先程注意しておいてあれだが、横目で二人の様子を眺める。昭久ほどあからさまではないが、それでも盗み見るという表現が相応しい今の状況に少し心が痛む。

 

 しかし、罪悪感を押し殺して、俺は眼鏡を外して二人を眺めた。

 

「…やっぱ、気になるな」

 

「ん?何が?」

 

「いや。ちょっと、部屋の鍵掛け忘れたかもしれない」

 

「あー、それな。そんな筈なくても一度気になり出したら止まらないよな」

 

 課題を写す手は止めずに口を動かす昭久と雑談すること数分、講堂に担当の講師が入ってくる。それとほぼ同タイミングで課題を写し終えた昭久が俺にプリントを返してくる。

 

 やって来た講師がノートPCとプロジェクターを起動し、講義が始まる。俺はスクリーンと講師の話に集中した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んーーーーっ、はぁーっ!終わった終わった!さ、飯行こうぜ」

 

「忘れてないよな。奢りだぞ」

 

「あぁ、覚えてるって!」

 

 午前の二コマが終わり、昼休みに入る。背凭れにのしかかりながら背中を伸ばす昭久に釘を刺す。

 今日の昼と夜の飯代は免除。これで浮いた食費は貯金するか、それとも欲しい漫画で使うか、なんて考えながら講義で使った資料を鞄にしまい、昭久と共に教室を出る。

 

「さてと、今日は何食うかなー」

 

「とりあえず、俺はパフェと紅茶は固定な」

 

「お前…、他人の金だと思って…。てか、マジで紅茶中毒だなお前。ここのは不味いんじゃないのか?」

 

「不味い。でも飲む」

 

 昭久が苦笑いしているのが見なくても分かる。仕方ないだろう。確かにお世辞にも学食で出している紅茶は美味しくないが、それでも自販機の紅茶よりはマシだ。

 本当なら美味しい紅茶を出す喫茶店でも行きたい所なのだが…、大学周辺に丁度良い店はない。

 

「──────」

 

 昭久と何を食べるか話しながら学食へ、その途中だった。視界の端、眼鏡のレンズの範囲から外れたそこに、青く煌めく何かを捉えたのは。

 

 咄嗟に立ち止まり、その方向に振り向く。そこにあるのは窓。窓の外に見えるのは中庭。青いそれは移動し、すぐに俺の立ち位置からは見えなくなってしまった。

 

「どうした?」

 

「…いや、野暮用思い出した。昼の奢りはなしでいい」

 

「は?マジで?いや、俺はぶっちゃけ良いけど」

 

「それじゃ」

 

「あ、おい!」

 

 背後から昭久が俺を呼び止める声がするが、無視して廊下を引き返す。

 一番近い出入り口から外へと出た俺はすぐに駆け出す。向かう先は勿論、中庭。

 

 急ぐ俺を時折すれ違う学生が何事かと視線を向けてくるが構わない。とにかく中庭へと急ぐ。

 

「はぁ…はぁ…」

 

 久しぶりの全力疾走に息を切らしながら、中庭へと着いた俺は眼鏡を外して周囲を見回す。

 

「いた」

 

 ポツリと呟く。視線の先には青い羽を煌めかせながら、ひらひらと飛ぶ蝶。俺はその蝶に歩み寄る。

 

「ほら、こっちにおいで」

 

 朝は人の往来だったのと、一講目が控えていたために出来なかったが、今は時間がある。周囲に人はいるが、俺みたいに一人で過ごしている者はおらず、俺の事など意識にない。

 

 俺は蝶を伴い、中庭のベンチに腰を掛ける。

 

「お前の居場所は、ここじゃないだろ?」

 

 努めて笑顔を浮かべながら、蝶に話し掛ける。蝶に向かって人差し指を向ければ、指の先に蝶が止まる。

 

「ここに居ちゃ、ダメなんだ」

 

 優しく語り掛ける。蝶が、俺を見上げている。

 

「お行き。きっと次は良い人生を過ごせるさ」

 

 蝶が止まった指を空に向ける。すると、蝶は指先から飛び立ち、青空へと向かっていく。

 飛び上がった蝶を、見えなくなるまで見送る。きっと、もうあの蝶は大丈夫だろう。輪廻転生なんて信じちゃいないが、あの魂が生まれ変われる事を願って、俺は少しの間目を瞑った。

 

「…さて、どうするか」

 

 外していた眼鏡を掛け直し、これからどうするかを考える。思ったよりも蝶が素直に飛び立ったため、時間がだいぶ余ってしまった。

 昭久にはもう奢りは良いと言ってしまった。今からでも取り消しは効くだろうか?

 

「あ、あの!」

 

 そんな風に考え込んでいると、背後から声がした。距離的に相当近い。…もしかして、俺を呼んでる?

 全く聞き覚えのない声に、そんな筈はないと思いながらも、もしそうだったらという思いが捨てきれずに振り返る。

 

 そこには一人の男が立っていた。身長は俺と同じくらいか、少し高いか?見開いた目は確かにこちらを捉えている。先程の声は、俺を呼んだ声で間違いないらしい。

 

「さ、さっきの!」

 

「…なに?」

 

 何やら焦っている様子。言っている事が要領を得ない。

 さっきの、とは、もしや蝶を送った事だろうか?いや、そんな筈はないだろう。何故なら、あの蝶は常人には見えやしない。

 

 それなら…、あぁ。確かに、蝶が見えないならさっきの俺の行動は奇妙に見えるかもしれない。傍に誰もいない一人の男がベンチに座り、何かを呟きながら天を指差す。

 

 …うっわ、はっず!?恥ずかしすぎる!?何その厨二的行動!くっさ!くっっっっっさ!え、なに?もしかして他の人にも見られてたの!?黒歴史確定じゃねぇか!

 

「蝶!」

 

「は?」

 

「蝶を…、送ってましたよね!?」

 

「…」

 

 思えば、これが運命の分かれ目だったのかもしれない。

 とにもかくにもこの瞬間、この男との出会いが、柳千尋という存在を大きく変える出来事の始まりという事を、今の俺は知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




しばらくこっち中心に活動します。
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