喫茶ステラと死神の蝶と見える人   作:もう何も辛くない

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第十四話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大屋さんから開店の許可を貰った次の日もまた、俺は朝早い時間に目を覚まし…というよりかは、一睡もしていない。昨日から徹夜した状態で店へと出勤する。

 正直眠いが、そこはコーヒーのカフェインパワーと栄養ドリンクの力で乗り切る。

 毎日紅茶を飲む様になってから、初めて朝の紅茶を抜いた記念すべき日となった。

 

 ちなみに、今日の早朝出勤は訓練のためではない。オープンするにあたってその前に、涼音さんが提案したとある事の実行のためである。

 

 オープンできるようになった事はおめでたい事で、有難い事で。だがそこがゴールではない。オープンはスタートであり、本番はここからである。

 たくさんのお客さんに来て貰うにはどうすれば良いか。出来る事は、オープン前の今の段階でもある。

 

 店の前での張り紙、チラシ配り、ホームページ作成と、昨日の段階でSNSのアカウントを作成した。まだ最初の挨拶程度しか投稿していないが、今日から早速、涼音さんが作ったお菓子の写真だったりを投稿していく予定だ。

 

 そしてホームページの作成。これが、俺が昨日から徹夜した理由である。

 いやー、誰にでもあるよね。機械製作とかプログラミングに憧れて、つい本気で勉強しちゃう事。え?ない?俺だけ?

 

 …とにかく、ホームページを作成すべく作業に取り掛かったのは良い。しかし、リンクのレイアウトこそすぐに決まったものの、背景のデザインがいつまで経っても決められず、あれやこれやと試している内に朝になってしまった。

 特にホーム画面の背景はどうすべきか最後まで悩み、最終的には外から撮ったお店の画像を張るというベタな選択に朝まで掛かってしまった。

 

 いや、これが適当に俺個人のホームページを作るんだったならここまで時間は掛からなかったろうが、何なら一時間ちょっとで出来上がっていただろうが。

 これはそれとは全く違う。このホームページ如何によって店の成功、失敗を分ける可能性だってあるのだ。

 

 だからといって、あまりの時間の掛けっぷりに自分でも、ここまで優柔不断だったのかと驚いてしまったが。

 

 店への道中、ノートPCと一緒に鞄に入れていた五本の缶コーヒーの内の一本を取り出す。タブを開けて、一気に中身を呷る。

 

 まずいな。この調子でコーヒー飲み続けたら、相当トイレが近くなりそうだ。今日はチラシ配りのために外に出るのに、大丈夫だろうか。

 

 一抹の不安を抱えながらも店に到着。そしてスマホを取り出し、カメラモードにして様々な角度から構えてみる。

 そして、日の光が差し込み、お店が明るく見える丁度良い角度からシャッターをきる。出来上がった画像は無事にぶれる事なく、完璧に撮れた。

 

 後は、この画像データをPCに送って、ホームページの背景に設定すれば完成である。まあ、それも他の人達の評判次第だが。

 

「おう、おは…どうした。隈凄いぞ」

 

「徹夜は久し振りだからな」

 

 店に入ってすぐ、すでにフロアにいた高嶺がこちらを向いて挨拶を…しようとして、俺の顔を見て驚いたように目を丸くした。

 家を出る前に鏡を見たから当然知ってるが、目の周りの隈が凄い事になっている。時間が経てばマシになっていくだろうが、とりあえず今はその気配はないらしい。

 

「おっ。千尋も遅刻しないでき…ねぇ、あんた大丈夫?ちょっと休憩室で寝てきたら?」

 

 俺と高嶺の話し声が聞こえたか、キッチンから涼音さんが顔を出してこちらを見た。

 そして、高嶺と全く同じ反応をした。その上で俺の気遣いまで、さすがは大人。高嶺と違う。

 

「今、何か失礼な事考えたろ」

 

「いや全然。それと、大丈夫ですよ涼音さん。ただ、マドレーヌを作る前に少し時間が欲しいんですけど」

 

「ん?…少しなら良いけど、何?」

 

「店のホームページの件ですよ」

 

 俺の邪念を感じ取った高嶺はスルー。近くの席に腰を下ろし、テーブルの上にノートPCとケーブルを出す。

 PCを立ち上げてからケーブルを接続し、スマホと繋げる。先程撮った店の外観の画像データをパソコンに送った後、ソフトを起動して、作成途中のホームページのデータを表示する。

 

「「おおぉ~」」

 

 俺の両脇から画面を覗き込んでいた高嶺と涼音さんが同時に声を上げる。

 

「これ、店のホームページ?ふーん…、でも、背景真っ白だけど」

 

「そこをこれから埋めるんですよ」

 

 タッチパッドを操作して、カーソルを動かす。

 パソコンに保存された画像を呼び出し、その中から店の外観のデータを呼び出す。その画像を先程のページの背景に設定。後は、背景に張られた画像のサイズを直せば─────

 

「「おおおおおぉ~!」」

 

「こんな感じで、どう?後は、ここの並んでる文字をクリックすれば住所だったり…メニューだったり…。後は、ここのページにインストへのリンクを張った」

 

「すげぇ…。普通にすげぇ…」

 

「高嶺、語彙力どうした。…後は、メニューのページに張る商品の画像だな」

 

 ほぼ完成といっていい店のホームページだが、まだ足りない部分はある。さっき言ったメニューの画像。すでにメニューの一覧は作ってあるが、文字だけでは味気ない。そこに画像を張れば、ホームページを見に来た人達にそのメニューに対してのイメージもさせられる。

 

「これについて、二人の意見を聞きたいんだが」

 

「意見も何もない」

 

「うん。商品の画像を張ったら、完成で良いと思う」

 

「そうか」

 

 どうやら二人には好評らしい。とりあえず一安心。

 後は明月さんとミカドにも見て貰って、四季さん達が来たら皆にも見て貰って。

 それで好評だったら、このレイアウトでいく事にしよう。

 

 休憩室に移動し、二人には明月さん達を呼んで貰い、やって来た二人にはレイアウトを見て貰う。

 好評価を貰い、ミカドに四季さん達が来たら画面を見せるように言ってから、今度は作業服に着替えて高嶺と共に涼音さんのマドレーヌ作りを手伝う。

 

 このマドレーヌは外での宣伝に使うものだ。この店の味を、今の内から覚えて貰おうという算段だ。そして、その味に好感を持って貰えれば、お店にも来て貰えるという打算もあったり。

 

 そうしてマドレーヌを作っている間に四季さん達の話し声がフロアから聞こえてくる。少し後に、聞こえてきた歓声は、俺が作ったレイアウトへの好評によるものだと信じたい。

 

「うん、こんなものかな?」

 

 そして今、俺達の前には焼き上がった大量のマドレーヌが並んでいた。

 

「美味しそうですね」

 

「美味しそう、じゃなくて、美味しいの」

 

「おぉ…、凄い自信だ…」

 

「自信を持てない物をお客さんに出す訳にはいかんでしょうが」

 

 しかし、本当に良い焼き色をして、香りも堪らない。

 俺と高嶺は何も言わずに涼音さんを見る。その視線から俺達の思いを感じ取ったか、ため息を吐きながら口を開く。

 

「どうぞ。でも、一つだけね」

 

「「あざーっす!」」

 

「熱いから気をつけて」

 

 涼音さんから許可が出たという事で、マドレーヌに手を伸ばす。

 先に触れたのは高嶺だった。指でマドレーヌをつまむ。

 

「あっっっつ!あっあっちちち!」

 

 当然、焼きたてのマドレーヌが熱くないはずがない。高嶺は驚き大声を上げながら、あたふたとマドレーヌをお手玉のごとく掌に跳ねさせる。

 

「はっはっはっ、バカめ。涼音さんに言われたのに何やってんぁああっっっつ!?」

 

「バカはあんたもでしょうが…」

 

 なお、俺も高嶺と同類だった模様。掌でマドレーヌを何度も宙に浮かせ、ある程度熱さに慣れてきたら口の中に入れる。

 

「っふ、あっふ…、ん、うまい」

 

 外はカリッと、中はふんわり。バターの風味と程好い甘さが口の中に広がっていく。

 何の誤魔化しもない、素直な感想が口から出てくる。

 

「そう。でも、冷めてからだとまた結構違ってくるからね。粗熱がとれたら包装していくよ」

 

 涼音さんの言う通り、俺達が食べたのは焼きたてホヤホヤのマドレーヌ。宣伝にて、人の手に渡る頃にはこのマドレーヌは冷めている。

 焼きたてとそうでない時はまた、味が変わってくるのだろう。

 

 しかし、大丈夫だ、と思えるのは、俺が涼音さんの腕を信頼できているからか。

 

 何にしても、涼音さんの指示通り粗熱がとれるのを待つ。

 

 粗熱がとれてからは三人でマドレーヌを丁寧に包装し、準備完了。包装し終えたマドレーヌをプレートに載せて、フロアへと持っていく。

 

「あっ!マドレーヌが出来上がったんですね!」

 

 真っ先に反応したのは火打谷さん。テーブルに置かれた包装されたマドレーヌをキラキラした目で見つめる。

 

「…一つだけね」

 

「やった!」

 

「皆も、たくさん作ったから、一つだけなら味見して良いわよ」

 

 俺達の時と同じ様に、火打谷さんが何も言わずともその視線の意味を察して涼音さんが言う。

 火打谷さんは早速包装を開けてマドレーヌを口の中へと入れる。

 

 火打谷さんだけでなく、涼音さんに許可を貰った四季さん、明月さん、墨染さんも続いてマドレーヌを頬張る。

 何も言わないが、その表情を見れば感想は一目瞭然だ。何とも蕩けた顔をしていらっしゃる。

 

「それじゃあ、配りに行きますか」

 

 マドレーヌを飲み込んだ四季さんが言う。

 善は急げ。チラシとマドレーヌを持って、フロア担当の四人が出かけ─────

 

「え?その格好で行くんですか?」

 

 なかった。そこに火打谷さんが待ったをかける。

 

 格好、といっても四季さんは別におかしな格好をしている訳ではない。いつもの大人っぽい、本人に合った私服だ。

 

 しかし、だ。

 

「勿体なくありません?」

 

「そうですね。お店の宣伝をするなら、相応しい格好をしないと」

 

「…ねぇ、それって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 四季さん達がフロアに戻ってくる。私服から着替えた、制服姿で。

 

「この格好で外に出ろと!?」

 

 着替えてから四季さんが叫ぶ。いや、着替えてから言っても遅いよ四季さん。何で着替えてしまったんだ。

 

「どの道、この服で接客する事になるんですから」

 

「…分かってる。分かってるけど…、やっぱりスカート短くない?」

 

 この店内で接客する事は割り切っていた四季さん。しかし、表に出るのはまた別の話らしい。

 外に行けば不特定多数の通行人に格好を見られる。この店で接客をする時以上の人数に、だ。

 

 だが、私服で宣伝するよりは分かりやすいし、何より効果があるだろう。麗しい女の子が可愛らしい格好をしてお店を宣伝。うん、少なくとも俺と高嶺が正装をして宣伝するよりは絶対に効果がある。

 

 何で比較対象としてそれが頭の中に浮かんだのかは分からないが。

 

「ヘーキですってば。むしろそうやって、モジモジしている方がエロさマシマシな気がします」

 

「そうですねぇ…。ほら、柳さんがナツメさんのエロさに目を奪われてますよ?」

 

「っ!」

 

「奪われてない。適当な事を言うな」

 

 やり取りを見守っていたら何故かこっちに飛び火した。

 明月さんと火打谷さんがニヤニヤした笑みで、四季さんが頬を染めつつ鋭い視線でこちらを見る。

 

「でも、この服装で宣伝した方が良いとは思いますよね?」

 

「…そりゃ、まあ」

 

「ほら。柳さんもこう言ってますよ?」

 

 何で俺が出汁に使われてるの。四季さんも俺が言ったからってその気になる訳じゃないだろうに。

 

「…別に、柳君が言ったから行く訳じゃないから。元々、恥ずかしいってだけで、我慢して行くつもりだったから」

 

「四季さん。それ、本心からだったとしてもツンデレにしか聞こえない」

 

 ほら、明月さん達がニマニマし出す。しかも墨染さんに、涼音さんまで加わった。高嶺は死ね」

 

「何で俺だけ!?」

 

「さあ、俺達もチラシを投函しに行きましょう涼音さん」

 

「無視しないで!」

 

 喚く高嶺を無視して、キッチンスタッフの役割である、近所の住居のポストへのチラシの投函をすべく立ち上がる。

 

「柳君はダメ」

 

 その、はずだった。

 立ち上がった俺に、四季さんがぴしゃりと命を下す。

 

「…はい?」

 

 ダメ、とは、外に出るのがダメという事か?皆は外に出て宣伝しに行くのに、俺だけ留守番しろと?

 

 何故?

 

「明月さんから聞いた。柳君、昨日から寝てないんでしょ?」

 

「…」

 

「だから、今日はもう帰って休んで。寝不足で体調を崩して長引いたりしたら、それこそこっちの迷惑なんだから」

 

「なーんて厳しい事言ってますけど、本当は柳さんの事が心配なんですよねー?」

 

「そ、そんな事…っ、ない訳じゃないけど…」

 

 どうやら、俺が作ったホームページのレイアウトを見せて貰った際に聞いたらしい。

 

「もう眠気はないんだが」

 

「ダメ。柳君、気付いてないの?顔色悪い事」

 

「─────」

 

 自覚は全くなかった。しかし四季さんから見たらかなり体調が悪そうに見えていた様だ。

 

「…」

 

 確かに、そう言われると体が重く感じる、様な気がする。というか、そう思ったら本当に怠くなってきた。

 情けない。高々一徹くらいでここまで疲労するなんて。少し、体力鍛えた方が良いかもしれない。

 

「そうだ。言い忘れてたけど、ホームページの件はあれでいく事にしたから。メニューの画像も、今日の内に出来るだけ撮って送っておくから、体調が戻ったら目を通しておいて」

 

「…もう俺が帰る事になってるし」

 

「上司命令に逆らう気?」

 

「…はぁ。分かったよ。じゃあ、お言葉に甘えて休ませて貰う」

 

 もう、何を言っても四季さんは譲らないだろう。それに、俺を心配して言ってくれているんだ。その厚意を有り難く受ける事にする。

 

「うん、それで良し。それじゃあ、私達は宣伝に行きましょうか」

 

「「「はーい!」」」

 

「昂晴。私達もチラシ持って行くわよ」

 

「はい」

 

 まるで全員が俺が休む事を承諾するのを待っていたかの様に、俺が四季さんの言葉に甘えた途端あっという間に店を出ていってしまった。

 

 すぐに静かになる店内。今、ミカドはここにはいない。フロアには俺一人。

 

「…そんじゃあ、帰るか」

 

 ここにいても仕方ない。ああまでされて、帰らないのも悪い。休憩室に入り、作業服から着替え、店に持ってきた荷物をまとめて俺も店を出る。

 

 行き先は皆と違い、自分の家だが。

 

「…眠い」

 

 体調がおかしくなっていた事を自覚してから、どうも眠くて仕方ない。缶コーヒーを飲もうかと思ったが、これから帰って寝るのにカフェインを摂るのは本末転倒だ。

 ここは家のベッドに辿り着くまで我慢する事にする。

 

「─────」

 

 そうして、歩いている時だった。

 ふと、視線を感じて立ち止まる。

 振り返って後方を確認してみても、誰もいない。

 

 気のせい、だろうか。俺は視線を前に戻して再び歩き出す。

 

 振り返ってから、視線の感じはなくなった。ほんの一瞬だったのだが、もしかしたら本当に気のせいだったのかもしれない。

 

 俺はそう結論付けて、家への道を歩き続ける。

 先程感じた視線を、疲労による勘違いだったと結論付けて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────見つけた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、やっと開店できそうです!
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