喫茶ステラと死神の蝶と見える人   作:もう何も辛くない

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主人公が隠し持った七つの能力のうち一つが解禁されます。
いや七つもないんですけど。
ていうか隠し持った力とかそんな大それたものじゃないんですけど。


第三十二話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日の分の講義が終わり、まだ講義が残ってる昭久達と別れて一人家路につく。今日は店が定休日のためバイトは休み。帰ったら何をしようか考えながら歩いている内に、結局何をするか思い付かないまま部屋に着いてしまう。

 

 荷物を置き、仕方ないから今日出されたレポートを片付けてしまおうと考え、ノートPCの電源を点ける。画面を立ち上げ、マウスを動かしてカーソルをマイクロソフトの表示に合わせようとする。

 

「…あ?」

 

 カーソルが動かない。マウスをどれだけ動かしても反応しない。ここに来てまさかの電池切れ。めんどくさいと思いながらも、テレビ下の棚の中から電池を探す。

 

「…ねぇし」

 

 結果、単四電池を切らしている事が発覚。何という踏んだり蹴ったり。

 正直わざわざそのためだけに外に出たくなんてないし、大体レポートも来週の今日までだから急ぐ必要はない。

 

 それなら何か他の事をするか、と考えを再び巡らせようとした時、ふとある事を思い出す。俺は立ち上がって台所へ、そこで冷蔵庫を開けて中身を見る。

 

 冷蔵庫の中に食材は殆ど入っていなかった。調味料も一部少なくなっている。今日の夕飯は余っているカップ麺で済ませる事は出来るが、明日明後日の事を考えると心許ない。

 時間は空いているんだし、食材の買い足しと、ついでに電池も一緒に買ってこよう。

 

 いや、この際だ。その他にも色々と買いたいと思っていた物を買ってしまおう。先週に発売された気になっていた小説や、一巻から追いかけていた単行本。それらも今日に買ってこよう。

 

 となると、徒歩では少し荷物が多くなりそうだ。俺は壁際の箪笥の上から車のキーをとる。

 

 そう、実は私、柳千尋は普通自動車免許を取得しております。大学入る前から親父から運転免許は早い内にとっとけと言われ、その言葉通り一年の夏休みに合宿を利用して免許を取得してました。

 因みにペーパードライバーではないです。親父のお古の車を譲ってもらって、大分乗り回してます。

 

 最近はほぼ毎日バイトに行っていたのもあって全く乗れていなかったから、久し振りに運転したい気分になってきた。さっき脱いだばかりの上着を再び着て、財布と家の鍵も忘れず、ついでにPCの電源を落とすのも忘れず家を出る。

 アパートのすぐ脇にある駐車場、四台置けるスペースの中にある一台。キーのボタンを押して解錠し、扉を開けて運転席に腰を下ろす。

 

 真冬程ではないが車内は少し冷えていて、上着を着たままシートベルトを締める。キーを挿し込みエンジンを入れ、セレクトレバーをドライブへ。サイドブレーキを下ろしてから車をゆっくり発進させる。アパートの駐車場から車を出し、道路へと移ってから、車を加速させた。

 

 目的地は街中にある大きめのショッピング施設。あそこなら食品も電化製品も本もその施設内で全て買える。一応歩いて行ける距離ではあるが、さっきも言ったが荷物が多くなりそうなのと、しばらく運転していなかったためそういう気分になったのが理由になり、車を走らせた。

 

 目的地に着いたのは車に乗り込んでから約五分後、駐車スペースを探して車を停める。サイドブレーキを上げ、セレクトレバーをパーキングに戻してからエンジンを止めてキーを抜く。

 運転席から出て、忘れず車にロックをかけてから建物内へ。

 

 施設内は今日が平日にも関わらずそれなりに混んでいた。昼過ぎという時間帯のせいか、主婦と思われる女性の姿が多く見られる。俺のような学生と思われる男の姿は逆に殆ど見えない。

 

 まずは簡単に買い物を済ませられる本屋から。この施設内の本屋は確か三階だった。

 入り口からエスカレーターへ、その途中にあった施設内の案内板を見て本当に本屋が三階にある事を確かめてからエスカレーターに乗る。

 

 三階にて気になっていた小説と追い掛けていた漫画の最新刊を購入してからフロアを一個降りて次に家電製品売場で単四電池を買い、またフロアを一個降りて食品売場へ。ほぼ毎日使う卵と食パンはすぐに確保し、どれが安くなってるかを見ながら売場を回る。

 

「…おっも」

 

 結果、両手に大きな荷物を持つ羽目となった。今日ここに車で来たのはただの気分だったのだが、結果的に正解だった。いや、ここまで多めに買ったのは車で来た事を考慮した上でそうしたのだが。

 

 用事は済み、後は買えるだけ。両腕に掛かる荷物の重さに耐えながらゆっくり歩いて出口を目指す。

 

「あっ、おにいちゃん!」

 

 不意に聞き覚えのある声が聞こえてきたのはその時だった。足を止めて声が聞こえてきた方へと視線を向ける。

 そこにはベンチにて座る男女が四人。うち一人は年端もいかない幼い少女だ。そして、一人を除いて全員が見覚えのある人物でもあった。

 

 少女がベンチから降りてこちらに笑顔で駆け寄ってくる。

 

「こんにちは!」

 

「おう。こんにちは、ユイナちゃん」

 

 こちらを見上げて挨拶をしてくる少女、ユイナちゃんに挨拶を返す。

 ユイナちゃんと挨拶を交わしてから、ベンチに座っていた他の三人に近付いていく。

 

「で、二人はなに。デート?」

 

「あははー、面白い冗談ですね。ね、昂晴先輩?」

 

「え、あ、うん。確かにデートではないけど、そんなあっさり冗談として流されると何か傷付く」

 

 ベンチに並んで座ってこちらを見上げているのは、けらけらと笑っている火打谷さんと軽くしょんぼりしている高嶺の二人。

 火打谷さんの言う通り、本気でデートをしているとは思っていない。多分、二人もここに買い物に来て、偶然会ったのだろう。どういう経緯か知らないが、二人で話している内にユイナちゃんと再会した、といったところか。

 

 そして─────

 

「あのー…。もしかして、貴方もこの子が行ったカフェの…」

 

「はい。そこでバイトしています」

 

「その節はお世話になりました」

 

 ユイナちゃんと面影が重なる綺麗な女性、恐らくユイナちゃんのお母さんと思われる女性と挨拶を交わす。

 互いにお辞儀をし合ってから頭を上げると、下の方から服の袖をくいっと引っ張られる。

 

 視線を向けると、こちらに向かって包装された何かを見せながらニコニコ笑うユイナちゃん。

 

「みてみて!これ、パパのおたんじょうびプレゼント!」

 

「お~。これは何を買ったのかな?」

 

「ネクタイ!」

 

「そっか。パパ、喜んでくれると良いな」

 

「うんっ」

 

 今からもう、このプレゼントを渡すのが楽しみで仕方ないんだろう。ユイナちゃんの頭の中では、笑顔でプレゼントを受けとる父親の顔が浮かんでいるに違いない。

 

「…」

 

「?」

 

 すると、ユイナちゃんがキョロキョロと辺りを見回し出した。誰かを探しているんだろうか?不思議に思い、ユイナちゃんに問い掛けようとするが、それよりも先にユイナちゃんが口を開いた。

 

「ねぇおにいちゃん。誘拐犯のおねえちゃんはいないの?」

 

「ぶふぉっ」

 

 ユイナちゃんが俺を見上げてそう聞いてきた直後、吹き出したのは火打谷さん。事情を知らない高嶺とユイナちゃんのお母さんは不思議そうに首を傾げ、俺はつい苦笑いを浮かべる。

 

「あー…。誘拐犯のお姉ちゃんは今はいないんだ」

 

「そうなの?前は一緒にいたのに」

 

「いつも一緒にいる訳じゃないんだよ」

 

 初めて会った時が一緒だったから、俺と四季さんがセットの形で印象に残ってしまったらしい。そして四季さんへの呼び方が“誘拐犯のおねえちゃん”に固定されてしまったらしい。

 

「ユイナちゃん。誘拐犯のおねえちゃんは止めた方がいいんじゃないか?」

 

「?」

 

「あのお姉ちゃんはユイナちゃんを誘拐しなかったんだし、な?」

 

「でも、誘拐犯のおねえちゃんは誘拐犯のおねえちゃんだよ?」

 

 理屈が通じない。いや、このくらいの年の子はこんなもんなのかもしれないが。

 年の割にしっかりしているように見えて、年相応に抜けているところを見せるユイナちゃんについ苦笑い。

 

「ぷふっ…くっ…ふふふ…」

 

「火打谷さん。ねぇ火打谷さん、教えてくれ。何で四季さんは誘拐犯呼ばわりされてるんだ」

 

「い、いや、それはナツメ先輩が怒るので教えられません…。ぷふーっ」

 

 それにしても火打谷さんは笑いすぎである。これは四季さんへ報告案件ではなかろうか。ちょっと忘れないよう気を付けよう。

 火打谷さんよ、震えて眠れ。きっと明日、妖怪記憶置いてけが其方を襲うであろう。

 

「え、えっと…。話が逸れちゃいましたけど、ユイナちゃんのお父さんは何の仕事をしてるんですか?」

 

「逃げたな火打谷さん」

 

 それは高嶺の追求をかわすための口実か。尤もそれは高嶺に見抜かれているようだが。しかし火打谷さんの口振りからすると、俺が現れるまではその話をしていたらしい。

 火打谷さんがそう聞くと、ユイナちゃんが火打谷さんを見上げ、どこか誇らしげに胸を張りながら高らかに告げた。

 

「パパはね、お医者さんなの!」

 

「─────」

 

 ほんの僅かな引っ掛かり。しかしそれを切っ掛けに、俺はある人の顔を思い出した。

 思い出したといっても明確にその人の表情を記憶していた訳ではないが、メガネをかけたスーツ姿の男性客。甘いもの好きにも関わらず、それが口に入らないほどの悩みを抱えた医者の男性。

 

 一瞬まさか、といった考えに至るがすぐに否定する。そんな偶然がある筈がない。そこまで世間も狭くはあるまい。

 

「たくさんの患者さんをなおしてる、すごいお医者さんなんだよ!」

 

「そっかー。ユイナちゃんのパパはスゴいね」

 

 ユイナちゃんの父親自慢を笑顔で聞きながら、火打谷さんが相づちを打つ。

 

 すると、これまで自慢げに笑みを浮かべていたユイナちゃんの表情が曇ってしまう。そして、続くユイナちゃんの台詞に、俺は驚かされる事となる。

 

「でもね、さいきんパパの元気がないの…」

 

 医者である父親の元気がない。その台詞はまたしてもあの男性客と共通するものだった。

 いや、あの男性客が子持ちなのか、はたまた既婚者かどうかすら知らないが、少なくとも医者の男性が元気を失っているという点は共通している。

 

 そして、ユイナちゃんのお母さんが続けて口を開いた。

 

「最近、仕事でミスをしたみたいで…。好きだった甘いものも口を通らなくなる程で…」

 

 きっとそれは、お母さんにとっても深い悩みであるからだろう。返答を期待している訳ではない。しかし、ぽつりと口から溢れその台詞は、以前の男性客と同じく、ただ話を聞いてほしいだけのもの。

 

「仕事で、ミス─────」

 

 高嶺も思い至ったらしい。まあこれだけヒントが出たのだ、思い至っても不思議はない。

 

「あの、お父さんの写真ってありますか!?もしあれば、見せてほしいのですが!」

 

 高嶺がベンチから立ち上がりながら言う。突然大声を上げた高嶺に、そしてその言葉の内容に戸惑いながらも、ユイナちゃんのお母さんは、スマホに保存された画像を見せてくれた。俺と火打谷さんも高嶺と並んでその画像を見る。

 

「あっ、この人って…」

 

「やっぱり…」

 

 その画像は家族写真だった。真ん中にユイナちゃん、そしてユイナちゃんを挟む形でお父さんとお母さんが、今目の前にいる女性と、あの頼んだケーキを食べずに帰ってしまう男性客が映っていた。

 

「世間狭すぎだろ…」

 

 確かにこの偶然の一致に驚きはしたのだが、正直呆れに近い気持ちも大きかった。何しろ俺は、その可能性をそこまで世間は狭くない、と切り捨てたのだから。

 それがまさかこんな結果になるとは予想もしていなかった。世間は個人が思うよりも数倍狭いと考えて良いのかもしれない。

 

「あの…、主人とお知り合いですか?」

 

「もしかして、パパになおしてもらったの?」

 

 俺達が夫を、父を知っている様子を見て疑問に感じたのだろう、親子が俺達に問い掛けた。

 その問いに答えたのは、お父さんの写真を見せてほしいと頼んだ高嶺だった。

 

 最近よく来るお客さんがいると。そのお客さんは来る度に違う種類のケーキを頼むが、いつもそのケーキを食べずに帰ってしまうと。

 その話を聞くと、ユイナちゃんのお母さんは悲しげに表情を曇らせ、やがて俺達に向かって頭を下げた。

 

「そんな事が…。主人に代わって謝罪します。申し訳ありません」

 

「い、いえっ。その…、ユイナちゃんのお父さんが、何かとても悩まれている事はこちらも分かってますから」

 

 店の従業員は誰も不快に思っていないと伝える高嶺。まあ正確には約一名、自分の作ったケーキを食べて貰えず憤慨していた人がいたのだが、今は事情を理解しているので置いておく。

 

 しかし、まさか話がこうも繋がっていたとは。まずはユイナちゃんのケーキを考えようという話だったが、こうなるとまた話は変わってくる。何しろユイナちゃんのお父さんは、今は甘いものを食べられる状態ではないからだ。

 このまま俺達が、というより涼音さんがケーキを作り、二人がプレゼントをしても、食べて貰えない可能性だってある。そうなればきっと、この少女はとても悲しむだろう。

 

「─────」

 

 何とかしてあげたい、が、これは自嘲でも何でもなく、俺にはどうする事も出来ない。何しろこれは家族の問題だ。根本的にあの人の悩みを払拭できるのは、赤の他人の俺ではなく、家族であるユイナちゃんとそのお母さんだけだ。

 

 ただ、その人に対して何も出来なくとも、何かをしようとする人の協力ならば出来る。

 

「あの、すいません。ちょっと提案なんですけど─────」

 

「はい?」

 

 俺はユイナちゃんのお母さんの方を見て話し掛ける。そして、とある提案を持ち掛けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~おまけ~

 

「千尋先輩。荷物重そうですけど大丈夫ですか?手伝いましょうか?」

 

「いや、車で来てるから大丈夫」

 

「車!?え!?運転できるんですか!?」

 

「柳って免許持ってたのか?」

 

「一年の夏休みにな。親父に免許は早めにとっとけって言われて…」

 

「(きらきら)」

 

「…家まで乗るか?高嶺も良ければ送るぞ」

 

「良いんですか!?なら、お言葉に甘えて!」

 

「柳が良いなら、俺も乗せて貰うかな」

 

 そうして、俺は車で二人を家まで送ったのだった。

 ユイナちゃん達と別れてからの一幕である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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