喫茶ステラと死神の蝶と見える人   作:もう何も辛くない

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今回かなり短いです。
いや、文字数としては四千文字あるので丁度いいのか…?


第四十三話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「という事で、二十四日は休みが欲しいんです」

 

 場所はステラの厨房、混雑する時間帯を過ぎ、来客が疎らになってきた頃、俺は涼音さんに話を切り出した。

 その話とは勿論、さっきも言った通りクリスマスイブに休みが欲しいという話だ。昼に起きた事についての話も添えて、涼音さんに休みが欲しいと頼み込む。

 

「…事情は分かった。いいよ、全然。何なら次の日も休んだって構わないけど?」

 

「いや、流石にそれは悪いでしょう。二十五日は普通に店に行きますよ」

 

「ふーん?…ま、その日は休んだり遅刻しても怒らないから安心して」

 

「…何か勘違いしてるみたいですけど、遊びに行くのはカモフラージュのためですから。別にそういう事をする予定はこれっぽっちもありませんから」

 

 涼音さんがニヤニヤと笑う。これはデートではない、と言い張るつもりはない。イブに男女二人で遊びに行く、こんなのデート以外の何物でもないだろう。だが、それ以上の行為をするつもりもない。だから涼音さんの言う通り、次の日の仕事に遅刻するなんてあり得ない。

 

 まあ、普通に寝過ごす可能性もなきにしもあらずなので、絶対ないとは言い切れないのだが。

 

「で?千尋君は女の子をどこに連れていくつもりなのかな?」

 

「その聞き方、厭らしく聞こえるので止めません?…いきなり決まった話なので、正直全く、候補すら思い付きません。考えてはいるんですけど」

 

 今の俺にとって、目下最大の問題はそこである。

 

 四季さんとどこに遊びに行くのか。

 先程言った通り、今のところ全く候補すら思い浮かんでいない。一瞬高嶺と同じ様に遊園地にしようかと考えたが、流石にないと切り捨てた。

 今日の相談に四季さんが来ておらず、且つ四季さんが高嶺と明月さんが遊園地に遊びに行くと知らずにいたならもう少しまともに考えていただろうが…、それでも多分、俺は遊園地に行くという選択はとらなかっただろう、こう、男のプライド的な理由で。

 

 しかし気楽に遊べそうな遊園地が選べないとなると割ときつかったりする。それに、ここから一番近い遊園地はクリスマスパレードが行われるため、デートする場所としてはかなり丁度いい施設なのだ。

 遊園地以外だと、ショッピングモールだろうか。あそこなら映画館などの娯楽施設もあるし、夜にはイルミネーションも行われる筈だ。だが、四季さんはよく買い物でそこに行っているし、何なら俺もよく利用している。

 デートをするにしては少し、何か物足りない気がしてならない。

 

「千尋は車運転できるんだし、近場に拘る必要はないんじゃない?」

 

「…確かに」

 

 そうか、徒歩圏内で考える必要はないのか。俺が免許持ってるって事をすっかり忘れていた。

 だが、それはつまりデートで使えそうなスポットについて調べる量も増大する事を意味する。イブは明後日だ。今日明日中に決められるだろうか。

 

「ちなみに、涼音さんはこの街周辺でやってるイベント知ってます?」

 

「車で二、三十分くらいかな?クリスマス限定のビアガーデンやってるよ」

 

「それアンタが行きたいだけだろ」

 

 涼音さんは頼れない。大体、そこに車で行くのだと分かって言っているんだろうかこの人は。

 やはり自分の力で何とかしなきゃダメなのだろうか。

 

「あと、ビアガーデンの場所とは逆だけど、同じくらい車を走らせた所で結構盛大にイルミネーションやってる所があるよ」

 

 そう思った矢先、涼音さんが別の案を提示してくれる。

 この人、最初からそっちを言ってくれたら素直に年上の大人として尊敬できたのに。ビアガーデンのせいで色々と台無しだよ。

 

 だがイルミネーションを見に行くのはクリスマスデートの王道だ。変に考えを拗らせるより断然いい案ではなかろうか。

 

「…その案貰いますね」

 

「あーい。頑張りな、青少年」

 

 涼音さんのエールを受けながら、イブの予定について整理する。その日は冬休み前の最後の大学の日で、俺の学科の講義は三限まである。講義が終わるまでどうするかは四季さんに任せよう。講義が終わるまで店で仕事をするか、それとも休んで部屋で待つか。

 どちらにしろ、講義が終わって部屋に戻り、荷物を置いたら車で四季さんを迎えに行く。そのまま真っ直ぐイルミネーションへ、というのは少しあっさりし過ぎな気がするから、映画でも見て時間を潰し、それからイルミネーションを見に行く事にしよう。

 

 イルミネーションを見てからはどこかで夕飯を食べて、後は四季さんを家に送って解散。うん、良いんじゃなかろうか。とりあえずこの案を四季さんに伝えて…、いや、こういうのは逆に伝えない方がいいんだろうか?

 

「…四季さんの反応を見て決めるか」

 

 デート計画を伝えるかどうかは四季さんの反応を見ながら決める事にする。どちらにしろ、四季さんにどこか行きたいと思う所があるのか聞くつもりだし、その流れで確かめるとしよう。

 

 後、残る問題は一つ。それについては明日、大学が終わってから一人でゆっくり考えるとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れさまでーす」

 

「うん、お疲れさま」

 

 仕事が終わって店の戸締まりをして、皆で挨拶を交わしてからそれぞれの帰路につく。自然な流れで俺と四季さんは並んで同じ歩道を歩く。

 

「今日は寒いね」

 

「今年一番の冷え込みだって言ってたな」

 

 街灯に照らされる道で、吐息が白く揺れて消えていく。まだ外に出て数分なのに、四季さんの頬が冷えて赤くなっている。

 

「でも、柳君は温かそうね」

 

「ぬくぬくだぞ」

 

「…ぐぬぬ」

 

 四季さんが恨めしげに見上げてくる。理由は間違いなく、俺の首に巻かれたマフラーだろう。ハッキリいって、かなり温かい。四季さんのコートは襟が立っていないタイプで、多分首もとから冷気が中に入り込んでいる。今日の冷え込みはきつい筈だ。

 

「…」

 

 少し考えてから、やっぱり止めようか、と思い止まり、しかしやっぱり放っておけず、俺はマフラーを首から外した。

 

「柳君?」

 

 突然マフラーを外した俺に戸惑う四季さんの首にマフラーを巻いてやる。といっても、軽く首に掛けた程度だが。流石にマフラーをちゃんと巻いてあげる度胸はない。

 

「─────」

 

「…嫌なら返せ」

 

 四季さんが目を丸くしてこちらを見上げる。我ながら臭い行動をしたのは自覚している。嫌でも恥ずかしさが胸の奥から湧いてきて、四季さんの顔を見られない。

 代わりに出てくるのは憎まれ口。

 

 四季さんがどんな顔をしているか分からない。気持ち悪く思われたりしてないだろうか。正直、繰り返しになるが我ながら臭い行動したのは自覚している。だが、四季さんが寒そうにしているのに、俺だけぬくぬく温かくしているのはどうしても我慢できなかった。

 

「うぅん、嫌じゃない。でも、いいの?」

 

「…部屋に着くまでなら」

 

「そっか。なら、お言葉に甘えて…」

 

 そんな俺の不安を他所に、四季さんが首に掛かった俺のマフラーを体の前で巻く。そして、四季さんは微笑みながら俺の顔を見上げて口を開いた。

 

「ありがと。凄くあったかい」

 

「…どう致しまして」

 

 マフラーを外してすぐだからか、俺の方は正直かなり寒く感じてるのだが、今の四季さんの笑顔だけで割に合っていると感じてしまう。こんな寒さを我慢するだけでこの笑顔が俺に向けられるのなら、いくらでも我慢してやろうと思えてしまう。

 どこまでも自分本意だった筈の俺がここまで変えられてしまうとは、相当の重症らしい。

 

「…そうだ。四季さんに聞きたい事があったんだ」

 

「ん?」

 

 胸の奥から涌き出てくる心地好い温もりに浸るのは僅か、我に返った俺は仕事中にて四季さんに聞こうと決めていた質問を思い出す。

 

「明後日の事だけどさ。四季さんはどこか行きたい所とかあるのか?」

 

 そう問い掛けると、四季さんは少しの間俺と目を合わせ、それから斜め上を見上げる。

 そうして、恐らく俺の質問について考えてから、もう一度俺の目と目を合わせて口を開いた。

 

「絶対ここに行きたい、っていう所はないかな…。柳君は?」

 

「俺の行きたい所…っていうか、一応、もう計画は立ててるんだけど…」

 

 四季さんの目が見開く。まあ、今日突然交わした約束だ。こんなにも早く計画が決まるなんて思ってなかったのだろう。

 俺も、下手をすれば当日に四季さんと相談しながら、というのも覚悟していた部分もある。だが、厨房の主、頼れる大人のお姉さんのお陰でその惨劇は免れた。

 

「そうなの?どこに行くつもり?」

 

「それなんだけど…。四季さんはさ、明後日の事について事前に知りたいか?それとも知らないでおいて、とっときたいか?」

 

「…」

 

 四季さんはキョトンとした表情のまま少し間を空けて、やがて口を開く。

 

「私、ドッキリとかあまり好きじゃないのよね」

 

「了解。じゃあ、明後日どうするかだけど─────」

 

 その一言でどうするべきかは悟った。俺は自分が立てた明後日のプランを説明する。

 何か四季さんからこうしたいという要望があればそれを取り入れるつもりだったが、四季さんは説明が終わるまで黙って俺の話に耳を傾けていた。

 といっても、一日中デートする訳でもなく、たった数時間程度のデートで出来る事なんて限られてくるから、そういう要望が出ないのは頷ける。

 

「イルミネーションって、隣街のよね?」

 

「あぁ」

 

 簡単に、一通り説明を終えると、四季さんがそう問い掛けてきた。その質問に頷いて答える。

 

「もしかして、イルミネーションは嫌か?」

 

「うぅん、そうじゃないの。ただ、友達がそこのイルミネーションが凄いって言ってたのを思い出したから。私も行ってみたいなって…、少し思ったし」

 

「…なら、決まりだな」

 

 四季さんから反対の意見は出なかった。という事で、明後日は俺が立てたプランでデートを実行する事となる。

 

 映画を見に行って、イルミネーションを見に行って、帰りに夕飯を食べる。どこも失敗する要素はない、強いていうなら見る映画のチョイスくらいだろうか?上映スケジュールによっては微妙なのを見る羽目になるかもしれないが、不安要素としてはそれだけだ。

 

 だが、俺にとってこれは人生で初めてのデートである。しかも、他の人の意見を取り入れたとはいえ、俺が立てた計画でデートを行うのだ。不安と緊張が胸に押し寄せる。

 

 しかし、それとはまた別に、楽しみでもある。好きな人と、それもクリスマスイブにデートできるのだから、当然といえば当然なのだが。

 

「…」

 

 横目で隣を歩く四季さんを見る。俺のマフラーを巻いた四季さんは、それから一言も寒いと発していない。どうやら、そのマフラーはしっかり役に立っているらしい。

 

 デートは二日後の明後日。不安と楽しみが入り混じった複雑な心境を抱えながら、視線を前へと戻す。

 四季さんはどうなんだろう。楽しみに思ってくれていたら、正直嬉しい。

 

 そんな事を考えながら、四季さんのアパートまでの道をゆっくりと、四季さんの歩調に合わせて歩くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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