喫茶ステラと死神の蝶と見える人   作:もう何も辛くない

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三部で収まるか不安になってきたデート回の二話目です。


第四十六話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 四季さんの要望通り、施設内の喫茶店にてパフェを奢り、四季さんが完食した後すぐに店を出る。

 ちなみに当然だが、パフェはほとんど四季さんが食べた。半分ずつとか、俺もパフェを頼んだという事はしなかった。しかし、四季さんからパフェに乗せられたイチゴを一個だけ貰えた。普通に美味しかった。

 

 喫茶店からエスカレーターで一階へと降り、外に出て駐車場へ。

 まだ六時前だが、日が落ちる時間は随分と早くなってしまい、すっかり辺りは暗くなっていた。

 

 四季さんと車に乗り込み、エンジンを掛ける。シートベルトを締め、四季さんもシートベルトを締めた事を確認してから周囲に人がいない事を確かめ、車を発進させる。

 駐車場から施設の敷地から出て、国道を走る。平日とはいえクリスマスイブ、車通りは多く、思ったよりも車の流れが悪い。これは少し、予定よりも到着が遅れるかもしれない。

 とはいえイルミネーションが終了する時刻まではまだまだ余裕がある。ルートを変更したりと無理して急ぐ必要はない。どうせなら、このままのんびり流れのままこの時間を楽しむ事にしよう。

 

「柳君って、よく車は運転するの?」

 

 さて、どんな話題で話を切り出そうかと考え始めた時、四季さんが先に口を開いた。ハンドルを握りながら一瞬、横目で四季さんを見る。助手席に座る四季さんは運転する俺の顔を見上げていた。

 

「ステラでバイトする前は結構乗り回してたな。連休に一人で泊まり掛けで遠くまで行ってたりもした」

 

「泊まりで?柳君って結構アウトドア派なんだ」

 

 ステラでバイトをするまではかなり車に乗ってる時間は多かった。バイトを始めてからは一気にその時間は減ったが、それでもたまに、無性に遠くまでドライブしたくなる時がある。

 サービス業は普通に祝日も仕事だからな。定休日も平日で、大学がある。半日もない時間でなかなかドライブには踏み切れない。

 

「そういえば、年末年始ってどうするんだ?何日か店を閉じるとは聞いたけど」

 

 休みの日について考えていると、ふと思い出す。クリスマスが終わればすぐ年末だ。四季さんと直接話した訳ではないが、年末年始は数日店を閉じるという話は俺だけでなく皆が知っている。しかし、いつからいつまでという詳しい事まではまだ教えてもらっていない。

 

 その事が気になり、四季さんに問い掛ける。

 

「三十日から休みっていう話になってる。ただ、いつまで休みにするかまでは…」

 

「…一週間くらいか?」

 

「それくらいかなとは思ってるんだけど…。ただ、あんまり長く店を開けないと、お客さんが離れちゃいそうだし…」

 

 開いたばかりの店を預かる責任者として、その心配は自然なものといえよう。実際、年末年始の休みを経て客足が減ったという話は耳にした事がある。

 

「いや、その心配はいらないんじゃないか?」

 

「え?」

 

 しかし、ステラの客足はオープン当初から変わらないどころか、ここまで次第に増えている。早くも常連のお客もついているとも聞いている。俺は厨房にいるせいでフロアの様子は見れないため、話を聞くまで知らなかったが。

 

 ここまで好調なら、長くとりすぎるのはどうかとも思うが、一週間程度なら全然問題ない気もする。

 

「それに、あれだ。うちの親がやってる店は三週間休んでるし」

 

「さ、三週間!?」

 

 四季さんが驚くのも当然だ。イギリスで店を切り盛りしている両親は、毎年年末には日本に帰ってくるのだが、一週間は滞在する。両親が店をオープンしたその年に、一度店は大丈夫なのかと聞いた事がある。

 その時に返ってきた答えが、これだ。

 

『うちの店を好きになってくれた方は、それでも来るよ』

 

 何の疑いもなく、ハッキリとそう言い切っていた。

 まあステラと両親の店は立地の条件がまるで違う。ステラの周辺は多く人が住む土地だが、両親の店はそうじゃない。街と街を繋ぐ国道沿いにポツンと建っている、そんなお店だ。

 

 その事を四季さんに説明してから続ける。

 

「だから、親の方針を真似しろっていう訳じゃないんだが…」

 

「…うん、分かってる」

 

 四季さんに聞いてほしかったのは、俺の質問への両親からの返答。それはステラにもいえる事だ。

 喫茶ステラという店を好きになってくれたなら、また来てくれる。まあ、三週間休みはどうかと思うが。

 

「…そうね。うん。明日、閣下と相談して結論出す」

 

「結論出たら俺にも教えろよ。ホームページに年末年始についての報告あげるから」

 

 この話題について一段落つく頃には、ゆったりだった車の流れは変わり、普通に走れる程度にまでなっていた。

 

「話は変わるけど」

 

「ん?」

 

 スムーズに車を走らせていると、四季さんが再び話し掛けてくる。今度は四季さんの方は見ずに前を見たまま、短い返事を返して続きを促す。

 

「柳君のご両親って、今年も来るの?」

 

「…」

 

「え、何でそんな嫌そうな顔になるの?」

 

 さっき、毎年日本に来ると言ったからか、四季さんにそう問い掛けられ、俺は実感させられる。

 そうか。いつも通りなら、そろそろ来るのか、あの万年新婚気取りバカ夫婦が。

 

「もしかして、ご両親と仲悪い…?ご両親が外国にいるのも…」

 

「あぁいや、そうじゃない。別に親と仲悪い訳じゃないし、俺も親を嫌ってるとかじゃないんだ。ただ…」

 

 むしろ、四季さんが言っている事とは逆だ。俺は両親に感謝している。

 ()()()()()()()()産まれた俺を気味悪がらず育ててくれた。今も、俺の事を心配してたまに連絡をとってくる。そんな親を、嫌いになれる訳がない。

 

 ただ─────

 

「あの二人、何といえばいいのか…。仲が良すぎるというか、バカというか…」

 

「?仲が良いのは良いことじゃない?」

 

 要領を得ない、ハッキリと言葉にできない様子の俺を見て四季さんが首を傾げる。いやまあ言う通り、両親の仲が良いに越した事はないのだが、それが過ぎれば、それは良くない事を起こすのだ。

 

「四季さんには分からないよ。あの部屋で、俺がベッドで寝てるその傍でおっぱじめられそうになった俺の気持ちなんて」

 

「…は?お、おっぱじ…!?」

 

 あぁ、今思い出しても心が死にそうになる。事件はそう、俺が大学に進学してから最初の年末にて起きた。

 両親が俺の様子を見に俺の部屋に来て、一週間ほど滞在したあの時。事件が起きたのは、両親が来てから五日目だった。

 

『ちょっと、ちーちゃんが起きちゃう…』

 

『大丈夫さ。千尋は一度眠ったらそう簡単に起きないから』

 

『もう…。家に帰るまで我慢できないの?』

 

『出来ない』

 

『…バカ』

 

『バカはてめぇらだろ』

 

『『うわぁぁああああああああああああ!!!?』』

 

 あの時は両親への深い感謝の気持ちも忘れ、ひたすらに二人を罵倒した。バカという言葉を今まで生きてきた中で最も多く使った。そして、絶対にこのバカ夫婦の様にはならないと誓った瞬間だった。

 

「えっと…、それは、その…」

 

「その次の年来た時はさ、あれは何日目だったか…。今日はホテルに泊まるから、て連絡来たんだよ。ふざけんな、何で俺はこんな思いをしなきゃいけないんだ。あー今思い出しても鳥肌が─────」

 

 あの生々しさを思い出して寒気が止まらない。車内は暖房で温かいのに何でなんだろうな、ははは。

 

「ごめん。柳君、本当にごめん」

 

「あははは、仲悪いよりはマシだって割り切ってるから大丈夫さ。アハハハ」

 

「分かった。柳君が大変だった事はもう分かったから、戻ってきて…!」

 

 ─────ハッ。

 

 四季さんの必死な呼び掛けが届き我に返る。あれ、俺、何してたんだっけ。確か親の事について話してて、それから…、ソレカラ…。あ、信号が赤だ。

 

「年末といえば、四季さんはどうしてたんだ?実家に帰ったりしてたのか」

 

 車を止め、信号が青になるまで待っている間に今度は俺から四季さんに問い掛ける。

 さっきまでの話はもう続けてはいけない気がしたからここで終了にする。マジで思い出してはいけない気がする。

 

「顔を見せに帰るつもり。でも、そのまま過ごすかは考え中」

 

「四季さんの部屋からは近いんだったか」

 

「うん。だから、たまに私の部屋に来たりもするし」

 

 その距離感だと確かに、実家でそのまま過ごさないという選択肢もあるだろう。しかし、四季さんが悩んでいる理由は、それだけではない気がする。

 

「…あのさ、前々から気になってたんだけど、聞いていいか?」

 

「ん?改まってどうしたの?」

 

「四季さんの親を店に招待しないのか?」

 

 信号が青に変わり、車を発進させる。車を発進させる直前、眼を見開いた四季さんの顔が見えた。

 

「…まー、まだ始めて数ヵ月だし、機会があればその内ね」

 

「…そうか」

 

 理由としては何の変哲もない、特におかしくないものだった。

 しかし、返事をする四季さんの声音が僅かに暗くなったのは気のせいじゃない。

 

 あまり突っ込んじゃいけない話題かもしれない。だけど、放ってはおけない。好きな人が悩んでいるのなら、許される範囲で、少しでも手を差し伸べたいと思うのは、自然な事だろう。

 

「四季さん」

 

「なに?」

 

「余計なお世話かもしれないけど…。手を貸してほしい時は、遠慮なく言っていいからな」

 

 前を見ながら言ったから、四季さんの表情は見えない。数秒、車内に沈黙が流れた後、隣から僅かにシートと何かが擦れる音がした。

 

「余計なお世話じゃ、ない」

 

 直後、四季さんからそんな返事が返ってきた。そして─────

 

「ありがとう」

 

 あのお店にまつわる、四季さん達の話は聞いている。しかし、話を聞いただけでは理解しきれない程に、きっと四季さんの心情は複雑なのだと思う。

 そして、四季さんがそういった胸に抱く気持ちを自分からは語ろうとしない性格だというのは、ここまで付き合ってきて何となく解っている。

 

 だからこそ、素直に俺の言葉を受け入れてくれた事が嬉しくて仕方なかった。四季さんが少しでも、俺に心を開いてくれているのだと実感できて、嬉しかった。

 

「どういたしまして」

 

 だから、微妙に口許がにやけてしまうのは仕方ないんだ。これでも我慢はしている。だが、自分で自覚ができてしまう程に、口許のにやけは止められなかった。

 

 四季さんに気付かれてないといいんだけど。

 

「ちょっと、何を笑ってるの?」

 

 まあ気付かれない筈がなく、すぐに四季さんに口許のにやけを指摘される。

 

「いや、別に?」

 

「…怪しい」

 

「疚しい事なんて思ってないから。ただ─────四季さんが俺の言葉を素直に受け入れてくれた事が嬉しかっただけだ」

 

 何かこのままだと変な誤解をされそうだったため、誤魔化そうとせずに素直に気持ちを伝える事にする。

 恥ずかしいのは恥ずかしいのだが、嫌な誤解のされ方をするよりは万倍マシだと自身に言い聞かせる。

 

「…どうして?」

 

 少し間を空けてから、四季さんがそう聞き返してきた。それに対して、俺はすぐに口を開く。

 

「少し前の四季さんだったら、受け入れなかっただろうから。俺に迷惑を掛けられないとか、そんな風に言って」

 

「…」

 

 思い当たる節があったんだろう。四季さんは黙り込んでしまう。

 そんな四季さんの姿をちらりと横目で見遣る。僅かに唇を尖らせ、少々不満げな表情を浮かべる四季さんが幼く、可愛らしく思えた。

 

「…ぷっ」

 

「っ、ちょっと、今のはどうして笑ったのっ?」

 

「いや…、何でもない」

 

「絶対ウソ。言いなさい、理由を吐きなさいっ」

 

「あ、そんな事よりも四季さん。もうすぐ着くぞ」

 

「逃げるなっ!」

 

 四季さんが子供っぽく見えて微笑ましかったなんて正直に言えば不貞腐れること間違いなしなので、追求を辛うじてかわす。

 いや、かわし切れてない気もするが、強引に話を終わらせる。現に、イルミネーションが行われる市内には入り、あと数分という所まで来ているのだから、嘘は吐いていない。

 

 途中で一度交差点を右折して、そのまま真っ直ぐ車を走らせていると、奥の方から少しずつ、きらびやかな光の群体が見えてくる。

 そこはテーマパーク、レストラン、ホテルが一緒になった複合施設で、冬の間は大規模なイルミネーションが開催される。今回の目的はその冬限定のイルミネーションだ。

 

 施設の傍にある駐車場に車を入れる。涼音さんからここの話を聞いてから少し調べて覚悟はしていたが、かなり混んでいた。停める場所を探して駐車場内を回る、とまではいかないものの、イルミネーション目当てと思われるカップル、家族が多く見られた。

 

 空いてるスペースに車を停めて、エンジンを切ってから俺達も車から降りる。

 直後、冷たい風が吹き荒ぶ。言い忘れていたが、この施設は海沿いに建てられていて、水上のイルミネーションというのがこの時期の目玉になっている。

 とまあそんな説明は置いておいて、海沿いという事で寒い。かなり寒い。

 

「…柳君」

 

「ん?」

 

「このマフラーは何?」

 

 という事で、昨日と同じ様に四季さんの首にマフラーを掛ける。すると、四季さんがじと目で俺を見上げてきた。

 

「寒いだろ」

 

「…寒いけど」

 

「ならいいじゃん」

 

「良くない。柳君が寒いでしょ、それじゃあ」

 

「いいんだよ。こういう時は男に格好つけさせてあげた方がいいぞ」

 

「…それ言ったら全く格好つかないんだけど」

 

 四季さんが大きくため息を吐いた。何を言っても俺の意思は変わらないと悟ったか、或いは諦めたか。俺が掛けたマフラーを体の前で巻く。

 

「ありがとう。お礼にこれあげる」

 

 すると四季さんはコートのポケットの中から白い何かを取り出して、こちらに差し出してきた。

 

「カイロ?」

 

 それはまだ温かくなっていないカイロだった。イルミネーションの立地を考えて持ってきたのだろう。

 しかし─────

 

「いや、これじゃ四季さんの分がなくなるだろ」

 

「大丈夫。私の分も持ってきてるから」

 

「…お礼とは」

 

「そこは気にしないで」

 

 色々と突っ込み所はあるが、四季さんの言う通り気にしない方向でいく事にする。四季さんからの()()()、有り難く受け取っておく。

 

「それじゃ、行こうか」

 

「うん」

 

 四季さんが頷く所を見てから並んで歩き出す。

 足を向けた方、視線の先には、俺達を待っているかの様にイルミネーションの光がたくさん瞬いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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