喫茶ステラと死神の蝶と見える人   作:もう何も辛くない

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何度か心が折れかけましたが何とか書き上げました。
いや、本当に難産でした…。そして疲れた…!


第四十八話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ど、どうぞ…」

 

「…お邪魔します」

 

 緊張気味に四季さんが扉を開けて俺を部屋の中に招く。一言挨拶を口にしてから四季さんが開けた扉を潜って俺は部屋の中に足を踏み入れた。

 

 四季さんが住んでいる部屋は俺と同じワンルーム。玄関から入ってすぐ隣に台所があり、その反対側に組立式のハンガーラックが置かれている。

 その奥にテレビ、そのまた奥にはベッドが置かれ、中央にある丸テーブルを挟んで反対側に小さなソファと木製の箪笥。

 

 女の子の部屋としては少し素っ気ないかもしれない。だがこれも四季さんらしいと思うのは、少々失礼だろうか。

 

「今、お茶淹れるから。そこのソファに座って待ってて」

 

「あ、あぁ…」

 

 四季さんが着ていたコートを脱ぎながら言い、僅かにどもりながら頷いて返事をする俺。

 四季さんはコートをハンガーに掛けてから台所へ。ティーポットを出して水を入れる。

 

 一方の俺、挙動不審。とりあえず、言われた通りにソファに座ったはいいものの、どうすればいいのか分からない。

 いや、ここで待ってればいいのだろうが、何もしないままで本当にいいのだろうか。手伝いとか…は、台所のスペースを考えると逆に邪魔になるだろうし。

 

 手持ち無沙汰な俺は、ただ四季さんの部屋を見回す事しか出来ないでいた。

 静かな部屋、聞こえてくる音は台所を歩く四季さんの足音と、お茶を淹れる作業をしている音だけ。

 その中で、改めて四季さんの部屋を眺める。

 

 本当に失礼かもしれないが、特に特徴のない普通の部屋だ。女の子らしい可愛いぬいぐるみとかクッションとか、そういうものはまるでない。

 強いて挙げるとすれば、ベッドの横にある小さな白い箪笥くらいだろうか。あれは男はあまり選ばない物だと思う。

 

「あまりじろじろ見ないで。恥ずかしいから…」

 

「あ…、悪い」

 

 特徴のない部屋だが、そんなのは関係なかった。ここが四季さんの部屋なんだと感動すら覚えていた。

 そんな中、お茶を淹れ終えた四季さんがティーカップ二つを持ってこちらに来る。

 

 四季さんはティーカップの一つを差し出し、俺が受け取ってから、俺の隣に腰を下ろした。

 

「コート脱がないの?もしかして、寒い?」

 

「は?…あぁ、いや、そうじゃない。忘れてた」

 

 四季さんに指摘されて気付く。今まで緊張のせいで完全に失念していた。

 着たままのコートを、()()()()()()()()注意しながら脱ぐ。

 

 すると、四季さんは持っていたティーカップをテーブルの上に置くと、俺の方に手を伸ばした。

 

「…?なに?」

 

「コート、掛けてあげる」

 

「あぁ…。ありがとう」

 

 お言葉に甘えて四季さんにコートを渡す。

 俺からコートを受け取った四季さんが立ち上がり、ハンガーラックの方へと歩いていき─────途中で立ち止まった。

 

「柳君。何か入ってるけど…」

 

「あ」

 

 四季さんが淹れてくれた紅茶を飲もうとした時、四季さんに言われて思い出す。

 というか、ついさっきそれに気付かれないよう注意してコートを脱いだのに、何故一瞬の間に忘れるのか。

 

 だが、いいタイミングかもしれない。ここまでずっと、どこで渡そうか悩んでいたが、意図せず四季さんの方から切り出してくれた。この流れに乗らない手はない。

 

「出していいよ。それ四季さんに渡すつもりだったし」

 

「私に?…」

 

 コートの内側にあるポケットの中から、四季さんが取り出したのは、紙で包装された何か。

 それは、昨日俺が今日のために買い、先程車から降りる際、グローブボックスからこっそりと持ち出した、四季さんへのプレゼント。

 

 四季さんは包装紙を丁寧に剥がして、露になった中の物を広げる。

 

「マフラー…」

 

 四季さんに渡すプレゼントは何にするか、まだ決め兼ねていた時に、ふと四季さんにマフラーを貸した事を思い出して、直感的にこれにした。

 これから冷え込む日が増えてくるだろう。ネックレス等の装飾品も頭に浮かびはしたが、これの方が気軽に渡せるし、四季さんも使う機会が多いんじゃないか。

 

 そう考えて、俺は今四季さんの手の中にあるマフラーを購入した。

 ちなみに値札は切ってもらった。四季さんはそういう所はあまり気にしなさそうだが、何となく見られたくなかった。

 

「ありがとう。明日から、早速使わせてもらうね」

 

「どういたしまして。そうしてくれると、買った方としても嬉しい」

 

 四季さんが笑顔を浮かべながらお礼を言ってくれる。どうやら、喜んでもらえた様だ。

 その様子を見て、とりあえず一安心。

 

「ちょっと待ってて。私も柳君に渡すものがあるから」

 

 その安心も束の間、四季さんはマフラーをテーブルに置いてから、今日のデートに持ってきていた鞄の中を探り出す。

 そして、その中から、俺が買ったものと比べて小さめの、青色の紙に包装された物を取り出した。

 

「はい」

 

 四季さんから差し出されたそれを受け取り、一度四季さんと顔を見合わせてから、丁寧に包装紙を剥がしていく。

 やがて見えてきたのは、革製の小さな何か。その何かはカバーかケースか、ファスナーが付いていて、開けて中を見てみる。

 

 中は当然空洞、しかし上部に小さな金属製のフックが数個取り付けられていた。

 

「これ…、キーケースか?」

 

「正解」

 

 初めはこれが何か分からず内心首を傾げたが、取り付けられた金属製のフックのお陰で何とか気付けた。

 それでも自信はなかったが。

 

「柳君、車の鍵も家の鍵も別々に持ってたじゃない?だから、一つにまとめられたら便利かなって」

 

 四季さんの言う通り、これは便利だ。これを使えば、たまに起こる、いつもの場所に家の鍵はあるのに車の鍵がない。或いはその逆、という現象がなくなる。

 四季さんからプレゼントをもらったというだけでも充分嬉しいのだが、今の自分にとって便利なものを四季さんが選んでくれたという事実がまたその嬉しさに拍車をかける。

 

「…ありがとう、四季さん。いや、マジで嬉しい」

 

 キーケースを眺めながら言う俺に、四季さんが笑い掛ける。

 そして四季さんは再び俺の隣に戻って腰を下ろすと、そのままこちらに寄り掛かってきた。

 

「─────」

 

「よかった。柳君が喜んでくれて…」

 

 四季さんの頭が、俺の左肩に乗る。左腕が温かく、柔らかい感触に包まれる。

 

「…四季さん」

 

「ん?」

 

「何で俺の腕を触るんだ?」

 

 柔らかい感触に包まれたのは短い間。四季さんは俺の肩から頭を離すと、俺の左腕を触り始めた。

 肩の辺りから二の腕、肘、そして手首。何かを確かめるように入念に、両手で俺の左腕を触る。

 

「えっと…。これが男の人の腕なんだなぁって思って」

 

「…?」

 

「男の人の腕って、結構固いんだなって」

 

「あー」

 

 男皆がそうだとは限らないが、俺の両腕は確かに柔らかいとは言えない。

 他にも俺の近くにいる人でいえば、高嶺も細身だから腕に肉はついてないだろうし、昭久なんかはたまにジムに行っているらしく、腕の筋肉は結構凄い。

 

 俺?俺の腕はどうなんだろ。無駄な肉はないと思う。ただ、特に筋トレをしている訳ではないから、高嶺と同じく細身なだけだと思う。

 

「おっ…と」

 

 そんな事を考えていると、四季さんが再び俺の肩に頭を乗せた。左腕に帰ってきた柔らかな温もりを気にしないよう努めながら、四季さんの方に視線を向ける。

 

「固いんじゃないのか?」

 

「固い。でも位置的に丁度いい」

 

「…そうか」

 

 どこか四季さんの声が蕩けているように聞こえる。俺の肩枕はそんなに心地いいものなのか。そんなに良いものではないと思うのだが。

 

「…」

 

 四季さんに向けていた視線を前へと戻す。その際、動いた頬に四季さんの髪が触れ、柑橘系の香りが鼻腔を擽った。

 その匂いは、この部屋に入った時から感じていた、恐らく─────

 

 思考をカットする。危うく変態に堕ちる所だった。いや、もう時既に遅いかもしれないが。

 

 沈黙が流れる。

 

 会話はない。ただ、帰りの車内にいた時のような、気まずい雰囲気はない。

 この沈黙が心地いい。喋らなくとも、気持ちは通っている。今は何となくそう思えるから。

 今、俺の傍らにいる愛しい人と通じ合っていると思えるから。

 

「─────」

 

 ふと、視線を四季さんの方へ向けた時、目が合う。四季さんもまた、同じタイミングで俺を見上げていた。

 

 視線が交わり、見つめ合う。

 もう一度キスがしたい。その瞬間、強くそう思った。

 

 動いたのは俺だけじゃなく、四季さんもだった。

 四季さんが俺の肩から頭を離し、そして俺も体を僅かに捻って四季さんと向き合う。

 

「ん─────」

 

 初めてキスをしたあの時にも思ったが、柔らかい。女の子の唇は皆そうなのか、それとも四季さんの唇が特別なのか。

 最初にした時と同じく、触れ合うだけのキス。数秒の触れ合いの後、一度唇を離してから、今度はさっきよりも強く唇を押し付け合う。

 

「んん…っ」

 

 唇を通して互いの温もりを確かめ合う。だが、物足りない。唇だけじゃ物足りない。

 

 両腕で四季さんの体を抱き寄せる。直後、驚いたのか、四季さんの体が一瞬震えたが、抵抗せず俺の腕の中に身を委ねてくれる。

 それだけじゃなく、四季さんもまた俺の背中に両腕を回して体を押し付けてくる。

 

 胸に密着する四季さんの体は柔らかくて、温かくて、気持ちよくて。

 その感触が、理性をガリガリと削っていく。

 

「四季さん─────」

 

「あっ…、んっ、ちゅっ…はげ…し…んんっ」

 

 閉じられた四季さんの唇を舌でこじ開ける。反射的に抵抗した四季さんだったが、それは一瞬。俺の要求に応え、小さく唇を開ける。

 

 四季さんの口内に侵入した俺の舌と四季さんの舌が絡み合う。

 それと同時に、互いの吐息の音しかしなかった部屋に、また別の音が響き始める。

 

「はぁ───くちゅ…ちゅっ…ぁ…」

 

 頭がボーッとしてくる。何も考えられなくなってくる。

 それ程に、四季さんとのキスは甘くて、気持ちがいい。

 

「─────」

 

 もっと、この人とくっついていたい。もっと四季さんを感じたい。

 四季さんと唾液を交換しながら、無意識に両腕に力がこもる。

 

「っ…、っ!」

 

 直後、四季さんに胸板を割と強めに叩かれる。

 その瞬間我に返り、四季さんの唇から顔を離して、両腕の力を緩める。

 

「ぷはっ」

 

 たらり、と俺と四季さんの唇の間でアーチが掛かる。

 その時間はほんの僅か、落ちていくアーチには目もくれず、顔を真っ赤にして睨む四季さんを見返す。

 

「痛い」

 

「ごめん」

 

 四季さんの抗議に対してすぐに謝罪する。

 

「でも、四季さんが可愛すぎるのも悪いと思う」

 

「っ…!ちょっ─────」

 

 ただ、あんな風にされたら男は暴走するものである。勿論、四季さんに痛い思いをさせた事は、これから誠意を持って償うつもりだが。

 

「んぁ…、くちゅ…」

 

 もう一度、深いキスを交わす。舌を絡ませ、白い歯をなぞる。

 互いに抱き合い、貪り合う様に激しくキスを繰り返す。

 

「んっ…んん…!ぷはぁっ」

 

 やがて息が続かなくなって唇を離す。

 大きく息を吸って空気を取り込み、乱れた呼吸を整える。

 

「はぁ…はぁ…」

 

「…四季さん」

 

 呼吸を整える間も、俺達は体を抱き合い、至近距離に顔がある位置にいた。

 つまり、すぐ近くに息を整える、顔を真っ赤にした四季さんがいるのだ。瞳を潤ませ、俺から目を離さず、じっと見つめてくる四季さんが。

 

「っ─────」

 

「は…、え…っ、きゃっ」

 

 キスを繰り返している間も削られ続けていた理性が、遂に限界を迎えてしまった。

 四季さんの方に体重を掛け、彼女の体を押し倒す。その際、忘れず四季さんの後頭部に掌を添えて、頭を打たないように気を付ける。

 

「や、柳君…」

 

「ごめん。ちょっと、もう限界」

 

「ま…んむっ」

 

 四季さんが何か言う前に唇を塞ぐ。

 数分か、或いは数十分か、時間の感覚が定かじゃない。四季さんの部屋に来てから何度も繰り返ししてきたキスの感覚は、何度味わっても飽きが来ない。

 それどころか、キスをする度に四季さんに対する気持ちが強くなっていく。もっと、という気持ちが溢れていく。

 

「んぅ…くちゅ…。はむ…」

 

 四季さんを押し倒した体勢のままキスを続ける。続けながら、後頭部に添えていた掌で四季さんの髪を撫でる。

 髪を撫でながら肩へ、二の腕へ、そして、彼女の胸の方へ手を伸ばして─────

 

「んっ、ま、待って!」

 

 四季さんの大声を聞いて、手の動きを止める。

 一旦四季さんから顔を離して口を開く。

 

「嫌だったか?」

 

「い、嫌じゃない。嫌じゃない…けど…」

 

「けど?」

 

 歯切れが悪い四季さんを急かしてしまう。しかし、四季さんには悪いが、正直色々と限界だ。

 下腹部ではまだか、まだかと俺を急かしまくる奴がいる。俺の方も、そう長いこと我慢はできそうにない。

 

「せめて、シャワーを浴びてから…」

 

「うん、無理。我慢できない」

 

「え?ち、ちょっと…!」

 

「ごめん。でも、四季さんが可愛すぎるのが悪い」

 

 言ってから、もう一度四季さんと口付けを交わす。先程までとは違い、軽く触れ合うだけ。

 

 キスをして、顔を離して四季さんの顔を見つめる。

 我慢の限界、とはいえ、四季さんがどうしてもと言うなら引き下がるつもりではいる。こういうのは無理強いしてはいけないと、俺だって分かっている。

 だから、四季さんからの返事を、ここで黙って待つ。

 

「…」

 

「…」

 

「…せめて、ベッドで」

 

 この台詞が止めとなり、本当の意味で理性の糸が切れた瞬間だった。何も言わずに四季さんの体を抱き上げて、ベッドまで連れていく。

 戸惑う四季さんをベッドに倒して、俺も一緒にベッドに乗る。

 

 そして先程と同じ体勢になり、顔を真っ赤にする四季さんと、もう何度目か分からないキスを交わすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~Another View~

 

「ん─────」

 

 その日の目覚めは、体に多少の気怠さを感じながらだった。

 体が重い、というより、腰の辺りが痛い。久々に感じる筋肉痛の感覚に少し懐かしさを覚えながら、隣で未だに寝息を立てている人に顔を向けた。

 

 仰向けになって気持ち良さそうに寝ている人。

 私とたくさん気持ちを通わせ合ったその人は、裸のまま私の部屋のベッドで眠っていた。

 

 …まあ、私も千尋と同じく、何も着ていないのだけれど。

 

 昨日は、その、…うん。たくさんした。最初は痛くて、千尋にも心配掛けて、色々と我慢させてしまったと思う。

 でも、時間が経つ毎に痛みが少しずつ引いていって、代わりに好きな人と繋がっている幸せがどんどん湧いてきて。気付いたら、私の方から二度目、三度目を求めてた。

 

「っ~~~~~~~!!!」

 

 昨日の私の恥ずかしい言動や行為を思い返して、悶絶する。

 あの時の私は正気じゃなかった。千尋と繋がった事が幸せすぎて、正気を失ってた。

 

 恥ずかしい。恥ずかしい、けれど、それ以上に幸せだ。

 好きな人と繋がるのって、こんなにも幸せに感じるものなんだと初めて知った。

 温かくて、気持ちよくて、幸せで、今でも千尋と繋がっていた時の感覚は思い出せる。

 

「…千尋」

 

 眠る彼に向かって名前を呼ぶ。

 昨日の行為を通して私は千尋を下の名前で呼ぶようになった。そして千尋も、私を下の名前で呼ぶようになった。

 

 初めてナツメ、と呼ばれた時はとても嬉しくて、幸せで、もっと千尋を感じたくなって。そして、何度も名前で呼び合った。

 

「…可愛い」

 

 腕を立てて体を起こし、千尋の寝顔を眺める。

 いつもは少し気だるそうでにしている千尋の顔が、今は少し幼く、可愛く見える。

 

 つい衝動にかられて、人差し指でつん、と千尋の頬をつつく。

 千尋からの反応はない。それを良いことに、私は何度も千尋の頬をつついた。

 

 癖になりそうな感触だ。千尋の体は男らしく固いのに、頬は柔らかい。

 そう考えると少し面白くて、ついつつくだけじゃなく、千尋の頬を摘まんでしまう。

 

「…何してんの」

 

 そうしてムニムニと千尋の頬を弄び始めて、少ししてからだった。

 千尋から声をかけられる。

 

「起きた?」

 

「起きたっていうか、起きてた。人の顔でなに遊んでるんだよ」

 

 千尋の頬から手を離すと、千尋は体を起こして大きくアクビをする。

 

「ごめん。何か、楽しくなっちゃって」

 

「何だよそれ」

 

 そう答える私を、千尋が微笑みながら見る。

 

 幸せだ。こうして話すだけで、笑い合うだけで、とても幸せに感じる。

 

「…」

 

 微笑む千尋と無言で見つめ合う。すると、千尋の顔がゆっくり近付いてきた。

 千尋の意図を察して、私は目を瞑って、唇に来る感触を待ち望む。

 

「…?」

 

 しかし、いつまで経ってもその感触は来なかった。

 不思議に思って目を開けて千尋を見上げる。

 

「千尋?」

 

 目を瞑る前よりも近くにまで来ていた千尋の目は、私ではないどこかに向いていた。

 そして、何故か千尋の顔色が青くなっていた。

 

 どうかしたのだろうか、と千尋に呼び掛ける。すると、千尋は視線の位置は変えないまま、ゆっくりと口を開いた。

 

「ナツメ。…ナツメの部屋の時計って、ずれてたりするか」

 

「え?そんな事はないけど…」

 

 千尋が聞いてきたのはあまりに突飛な事だった。

 どうして時計の事なんか、と思いながらも、私は振り返る。

 そういえば、千尋が見てる方に時計が掛けてあるな、なんて呑気な事を考えながら。

 

「─────」

 

 時計が示す時刻を見て、言葉を失った。そして、千尋と同じく血の気が引いた。

 

 ただいまの時刻、八時半を少し過ぎたくらい。さっき言った通り、この時計はずれていない。今日もお店はいつも通りの営業。つまり、完全なる遅刻である。

 

 逃れようのない現実に直面し、さっきまで心を満たしていた幸せはどこかへ吹き飛んでしまった。

 

「「あああああああああああああああああ!!!」」

 

 完全に同じタイミングであげた私達の大声が、部屋中に響き渡った。

 そして何も言わずに急いでベッドから降りて、千尋が床に脱ぎ散らかしていた服を着直して部屋を出た所を見送ってから、私も一度シャワーを浴びるべく、お風呂場へと急ぐのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




本番シーンはなしです。無理です、書けないです。
でもいいよね?普通にR-15指定入るくらいにはイチャイチャさせたから許してくれるよね?
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