喫茶ステラと死神の蝶と見える人   作:もう何も辛くない

50 / 88
第四十九話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「大変申し訳ありませんでした」」

 

 結局、当たり前というか当然の帰結というか、俺もナツメも揃って遅刻した。

 辛うじて開店時間までには間に合ったのだが、俺達が来た頃には仕込みも店内の掃除も済まされていた。

 

 今、俺とナツメはフロアにて全員の前で並んで公開謝罪を行っていた。俺達の前で立つ全員に対して頭を下げて、謝罪の言葉を口にする。

 

「「「「─────」」」」

 

 謝罪をした、のだが、どうも空気がおかしい。

 おかしいといっても、空気が悪いとかそういう訳ではない。俺とナツメが慌てて来た時も、特に皆怒ったり気を悪くしたりという様には見えなかった。

 

 それどころか、明月さんや涼音さんは揃って店に来た俺達を微笑ましそうに見ていた。

 そして、それも気にはなるのだが、墨染さんと火打谷さんはどうして緊張した面持ちでこちらを見ているのだろう。

 高嶺もどこか微妙な表情で俺達を見てるし、明らかに大遅刻した人を迎える空気じゃない。

 

「えっと…。皆、どうしたの…?」

 

 この空気に耐えられなくなったか、四季さんが口を開いた。

 気になって当然だ。四季さんが聞かなかったら俺が聞いていた。

 

 意味が分からない。今日はクリスマス当日。ブッシュ・ド・ノエルを予約したたくさんの人がケーキをとりに来る、混雑が予想される日だ。

 そんな日に遅刻した俺達を、普通は叱責しそうなものなのだが。

 

「いやー…。まさか昨日膨らませまくった想像通りになるなんて、本気で思ってなかったからさー…」

 

「想像?」

 

 どうしたのかと不思議に思っていると、涼音さんが苦笑いしながら言う。

 それに続いて、墨染さんと火打谷さんがうんうんと勢いよく頷く。

 

「想像って何ですか」

 

「おい、もうすぐ開店の時間だぞ。話は仕事が終わってからにしろ」

 

 更に深く聞こうとしたが、ミカドに止められる。

 言われて時計を見上げると、もう開店間近という所まで時間が迫っていた。

 

「そうね、話はお店を閉めた後で。…それと、私達からも色々と聞きたい事があるから」

 

「「…」」

 

 俺とナツメを見る涼音さんの目が光った気がした。何か企んでる様に見えた。

 というか涼音さんだけでなく、それぞれ浮かべる表情は違えど、明月さんに高嶺、墨染さんに火打谷さんも俺達に何か聞きたげな目をしていた。

 

「…ねぇ」

 

「…あぁ」

 

 ナツメが俺に目配せしてくる。ナツメが考えている事は俺にも分かる。というよりは、俺も同じ事を考えていた。

 

 これは、仕事が一段落した後、覚悟しておいた方が良いかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 開店の時間を迎え、常連のお客さんがまず入ってくる。持ち帰りではなく店内で過ごす客が大半の午前中が過ぎると、少しずつブッシュ・ド・ノエルを受け取りに来るお客さんが増えてきた。

 厨房側はいつも通りというか、特に仕事量は変わっていないがフロア側はどうなっているだろう。

 普段と変わらない数の注文を捌きながら、ブッシュ・ド・ノエルを受け取りに来たお客さんの対応も同時に熟さなければならないのだから、相当忙しくなっているだろうが。

 

「オーダー入ります。カルボナーラと、半熟卵のオムライスをお願いします」

 

「了解。それと、もうすぐ三番テーブルのオムライスが出来るから少し待っててくれ」

 

「分かった」

 

「「…」」

 

 お客さんからの注文を伝えに来たナツメにその場で待っててもらう。

 ケチャップライスをオムレツで包み、完成したオムライスを盛り付けた皿をナツメに差し出す。

 

「そっちはどうなってる?」

 

 差し出した皿を受け取ったナツメに聞いてみる。

 厨房からじゃフロアの様子は見れない。お客さんの声はここまで聞こえてくるから、ある程度想像は出来るのだが、それが正しいかどうかもこっちには分からない。

 

「順調。予約分もちゃんと引き取りに来てくれてるから」

 

「そうか。…悪い、時間とらせたな」

 

「うぅん、気にしないで」

 

 どうやらブッシュ・ド・ノエルは順調らしい。ナツメの声が聞こえたようで、涼音さんも作業をしながら安堵の表情を浮かべていた。

 

「あんなに美味しいんだから、そこまで心配しなくていいんじゃ?」

 

「たまにあるのよ。嫌がらせのつもりか知らないけど、大量の予約だけして逃げるっていうのが」

 

「えー…」

 

 高嶺が物凄く微妙な表情を浮かべる。

 

「SNSでたまに見かけるけど、そういうの本当にあるんですね」

 

「まあ、今回はそうじゃなさそうだから良かったよ」

 

 味に自信はあっただろう。食べてくれたお客さんを笑顔にする自信もあっただろう。

 しかし、そういう輩には味なんて関係ない。標的にされれば否応なしにその自信ごと打ち砕かれてしまう。

 

 それが怖かったのだろう、今の涼音さんは本当に心の底から安心している様に見えた。

 

「ほら、そんな事より、カルボナーラとオムライスを準備しなさい」

 

「「はい」」

 

 しかし、切り替えの早さは流石のもの。涼音さんの言う通りに調理を始める。

 俺はカルボナーラを、高嶺はオムライスを。

 

 特に失敗する事なく調理を進め、先にカルボナーラが完成してこれは墨染さんに運ばれ、遅れて完成したオムライスは火打谷さんが運んでいった。

 

「そろそろどっちか休憩とったら?」

 

 涼音さんがそう口にしたのは、次の作業に入ろうとした時だった。

 高嶺と一緒に手が止まり、二人で涼音さんの方へ視線を向ける。

 

「お昼時はもう過ぎたから。何なら、二人一緒に休憩入る?」

 

「いや、それは涼音さんが大変でしょう。柳、先に休憩入っていいぞ」

 

「いやいや、遅刻して朝の仕込みサボった俺が先に休憩に入る訳にはいかんだろ」

 

 ここで休憩の譲合いが始まる。高嶺は純粋な善意から、俺は朝遅刻してしまった後ろめたさから。

 多分、遅刻してなかったら素直に言葉に甘えて休憩に入っていただろう。しかし、ここで二人より先に休憩に入るのはどうなのか。

 痛む良心くらい俺だって持っている。

 

「でも、寝坊しちゃうくらい昨日は夜更かししたって事でしょう?」

 

「─────」

 

 高嶺と譲り合っていると、不意に涼音さんが口を開いた。

 その言葉の矛先は、台詞の内容を見れば分かるだろう、俺だ。

 

「…まあ、そうですね」

 

 内心の動揺を悟られない様に努める。ふざけんな、何を言い出すんだこの人は。

 朝の時も思ったが、まさかバレているのか。この人実は人間じゃなくて覚なんじゃないかとすら思えてくる。

 勘が神懸かりすぎてる。

 

「いや、状況証拠ありすぎだから。前日にイブデートして、翌日に遅刻とか、普通に考えて分かるから」

 

「俺何も言ってないんですけど。マジで涼音さん人の皮かぶった妖怪だろそうなんだろ」

 

 高嶺も頷いてんじゃねぇ。え、そんなに分かりやすいか?

 …いや、分かりやすいわ。もし高嶺が明月さんと同じ風になったら俺もそう思うわ。

 

「ほれ、どうせヤンチャしまくったんでしょ?早めに休んで、その後はバッチリ働いてもらうから」

 

「…あー、もういいです。じゃあ先に休憩入ります」

 

 諦めた。色々と反論するのを諦めた。

 実際、涼音さんの言う通り少し体重いし、気遣いを有り難く受け取っておく事にする。

 

 その気遣いが決して純粋なものでなくとも、有り難いと自分に言い聞かせて、厨房を出て休憩室へと入る。

 

「千尋?」

 

 休憩室に入るとすぐに声をかけられた。

 

 この店で働くメンバーの中で、俺を下の名前で呼ぶ人は限られている。

 一人は涼音さん。あの人は年上という事もあり、最初の段階から俺の事を気軽に名前で呼んでいた。

 もう一人はミカドだ。まあミカドの場合は下の名前というか、フルネームで呼ばれる方が多いのだが。

 

 そして残る一人は─────なんて順序立てて考えなくとも、声を聞いた瞬間から誰に呼ばれたかはもう分かっている。

 この声を聞き間違いようがないし。聞き間違えてはいけない。

 

「ナツメも休憩か?」

 

「うん。その…、皆に気を遣われて…」

 

「…」

 

 恥ずかしげに僅かに頬を染めながら言うナツメを見て、悟る。

 あぁ、ナツメも俺と同じような扱いを受けたんだな、と。

 

「その話は置いといて…、ミカドはどうした?」

 

 気恥ずかしさを抑え、さっきまでの話を忘れて違う事を質問する。

 

 この部屋に入ってきた時から気付いていたし、聞こえていた。ミカドが誰かと電話している。

 聞こえてくる言葉からして、恐らく電話の相手は仕事関係の人ではなさそうだ。

 

「お客さんが忘れ物をして、その確認の電話をしてもらってる。ほら、テーブルの上にある紙袋がそう」

 

 予想通り、なんて考えながら、耳にスマホのスピーカーを当てるミカドを眺める。

 

 今の俺には普通に人間がスピーカーを耳に当てて通話している様には見えているけれど、実際のところ、それはミカドの術でそう見えているだけだ。

 

 ─────待てよ?今なら、眼鏡を外せば見れるんじゃ?

 

「千尋?」

 

 不意に思い立ち、眼鏡を外してみる。

 突然眼鏡をとった俺を不思議に思ったナツメが俺を呼ぶ。が、ここは一旦スルーさせてもらって、少し集中しながらミカドの姿を見る。

 

「…ぷふっ」

 

 すぐに集中を解いて、眼鏡を着け直した。

 

「どうかしたの?」

 

「いや…、何でもない…」

 

 こちらを見上げて聞いてくるナツメに、笑いを堪えながら何とか返事を返す。

 

 本当は、言いたい。

 俺が目にしたミカドの姿を。猫が耳にスピーカーを当てながら電話しているという世にも可笑しな光景をナツメにも教えたい。

 だが、後で面倒な事になりそうなのでやめておく。何しろ、俺が瞳を通して術を破って自身の姿を見た事に、ミカドは気付いているだろうから。

 ここでナツメにそれを教えたら、普通にキレられそうだからやめておく。

 

 そして込み上げてくる笑いとの戦いに打ち勝った時、丁度ミカドが通話を終えた。

 

「取りにいらっしゃるの?」

 

「あぁ。ただし、仕事が忙しくいつになるかは分からないそうだが」

 

「じゃあ、冷蔵庫に入れとくか」

 

「いや、その必要はない。中身は子供へのプレゼントだそうだ」

 

 お客さんの忘れ物と聞いて、ここで買ったケーキだと連想していたがそれは違ったらしい。

 ミカドの制止を受け、厨房に向けた足を止める。

 

「でもそれだと、今日絶対に必要になるわよね。親としては気が気じゃないんじゃ…」

 

「ふむ。千尋、届けに行ってくれないか」

 

 ナツメの言う通り、子供へのプレゼントならば今日必ず必要になる。丁度手が空いている事だし、休憩がてら外に出るのも良いかもいれない。

 

「構わない。その人の仕事先と名前は?」

 

「場所は美和総合病院。このプレゼントを忘れていったのは、以前父親のケーキを頼みに来た、深山結菜という幼女の父親だ」

 

「あー、あの人か」

 

 作業服を脱ぎ、ロッカーにしまいながら思い出す。あの見覚えのあった眼鏡の人だ。その人の顔と一緒に、結菜ちゃんとお母さんの顔も思い出す。

 そうか、もうあれから一月経ったのか。あの子は元気にしてるだろうか。

 

「分かってると思うが…」

 

「あぁ。だから家の場所じゃなく仕事先を聞いただろ?」

 

「それならいい」

 

 ミカドが言いたい事は聞かなくても分かる。俺だってそこまでデリカシーがない訳じゃない。このプレゼントは父親が娘に直接渡すべきものだなんて、言われずとも分かっている。

 だからこそ、ミカドには深山家の場所ではなく、お父さんの仕事場を聞いたのだ。

 

「それじゃあ頼むぞ、千尋」

 

「お願いね?」

 

「あぁ。届けに行くって連絡と、涼音さんにこの事を伝えてくれ」

 

 ナツメとミカドに見送られながら、最後に俺の言葉にミカドが頷いたのを見てから、コートを着てから結菜ちゃんのプレゼントを持ち外に出た。

 

「美和総合病院、か」

 

 裏口から外に出て、歩きながらぽつりと呟く。

 

 美和総合病院。俺のバアちゃんが入院し、そして最期を迎えた場所。俺がこの瞳への失望を一時は決定付けた場所。

 行くのはバアちゃんが亡くなった日以来、十年ぶりだ。大学に進学し、この街に住むようになってから通院は勿論、建物の近くすら通った事もない。

 今でこそ吹っ切ったつもりだが、それまでは苦い思い出があった場所だ。何となく、そこに行くのを避けていたのかもしれない。

 

 そんな俺にとっての苦い場所は、殆ど変わらない外観でそこに建っていた。

 あれから十年、改装をした様子はない。内部の構造も恐らく変わっていないだろう。

 

 表の歩道から病院の敷地内へと足を踏み入れる。

 歩く俺の右側には、来客用の大きな駐車場がある。ふとそっちに視線を向けると、丁度一台の車から降りる家族がいた。

 

 運転席と助手席から降りてくる夫婦と、後部座席から降りてくる子供。

 

「─────」

 

 無意識に、その姿がかつての自分の姿と重なって見えた。

 立ち止まり、子供を真ん中にして建物へと歩いていく家族。

 

 そういえば、バアちゃんをお見舞いに来た時は俺もこんな感じだった。

 ああやって並んで歩いた記憶はないが、ほぼ毎週のようにこの病院にお見舞いに来た。

 たまに、母さんの妹の一家と一緒にお見舞いに来た事もあったか。その時は、面倒を見てやれと大人組から従弟を押し付けられていた。

 

「…っと、物思いに耽ってる場合じゃない」

 

 建物を見上げていた視線の位置を戻し、止めていた足を再び動かす。

 思い出巡りをしにここに来た訳じゃない。大体、そんな事をするつもりはないし、したくもない。

 俺はここに届け物をしに来たのだ。俺が…というより、このプレゼントが届けられるのを待っている人がいる。とっととその人にこいつを届けて店に帰ろう。

 

 胸の中のモヤモヤを、早く振り払いたい。

 

 建物正面の自動扉からロビーへと入る。

 平日ではあるが、風邪やインフルエンザ等が流行る時期だ。受付を待つ人達でそこそこ混んでいた。

 

 これはマスクを着けて来た方が良かったかもしれない、なんて心の中で呟きながら窓口へと向かう。

 

「すみません。この荷物を深山先生に届けに来たのですが」

 

 そう窓口に座る女の人に話し掛けると、すぐに対応してくれた。

 ミカドから連絡も入っていたようで、物の数分程で、受付前の椅子に座って待っていてください、と言われた。深山先生はすぐに来るという。

 

 その言葉に従って、後方に振り返り、空いてる椅子を探して視線を回す。

 

「…ん?」

 

 その途中、気になる物が目に入った。

 それは、俺がこの病院に通っていた時にはなかったもの。

 

「絵、か」

 

 恐らくこの病院に入院している、或いはしていた子供が描いたものだろう。壁にたくさんの絵が貼られていた。

 

 ある所には、ユニフォームを着て野球をしている男の子の絵が。

 ある所には、たくさんの花と人に囲まれている女の子の絵が。

 

 このたくさんの絵の題材は将来の夢、だろうか。この男の子はプロ野球選手で、この女の子は花屋さんか。

 

 いやだが、ケーキをたくさん食べている絵や山に登っている絵もある。

 将来の夢というよりは、退院したら何がしたいか、という方が正しいかもしれない。

 

「…そういえば」

 

 今の今までずっと忘れていた。そういえば、苦い記憶ばかりのこの病院だが、一つだけ心暖まる思い出があったのを思い出した。

 といっても本当にちょっとした、多分相手もすっかり忘れているだろう、その程度の思い出だが。

 

 俺が病院に通っていた頃、当時入院していた子供達が、子供用のレクリエーション部屋、というべきか。そこで絵を描いている所に遭遇した。

 殆どの子供達は思う様に絵を描いていたのだが、一人手を動かさず、真っ白な紙と向き合っている女の子がいた。

 

 何と言ったかは覚えていない。ただ、その子に何か話し掛けた事は覚えている。

 それから─────どうしたんだったか。確か、俺が何か言ってから、その子は絵を描き始めて、それから…、その絵はどんな絵だったか。

 確か、何かの店を営む所を描いていたような…?

 

 思い出そうとしても出来ない。いや、もしかしたらこの中にその絵が飾られているかもしれない。

 そう思い、ゆっくりと絵を見回していく。

 

「─────」

 

 正直、見つかる期待はしていなかった。だからこそ、その絵を見つけて心が跳ねたと同時に、驚きを隠せなかった。

 

「…そうだ、この絵だ。いや、でもこれ─────」

 

 呆然と呟く。その絵から目が離せない。

 その絵は間違いなく、かつて俺と関わった女の子が描いた絵だ。

 

 しかし、その紙に描かれた景色は─────

 

「あの、ステラの方ですか?」

 

 その絵を見つめていた時、傍から声を掛けられた。

 弾かれるように顔を動かし、視線をそちらに向ける。

 

 そこには白衣を纏い、眼鏡を掛けた男性が立っていた。

 

「はい。すみません、ボーッとしていて」

 

「─────」

 

「…あの?」

 

「あ、あぁっ、申し訳ない!こちらこそ、娘のプレゼントをわざわざ届けに来て頂いて…ありがとうございます」

 

 俺に話し掛けてきたのは言うまでもなく、深山先生だった。顔を会わせた直後、一月前に見た誕生日会の光景を思い出すと同時に、深山先生の顔も一緒に思い出す。

 

 しかし、どうしたのだろうか。俺と目を合わせた瞬間、驚いた様に見えた。

 俺の顔に何か付いていたか、または別の理由からか。

 

「これ、忘れ物です」

 

「本当に助かりました。ありがとうございます」

 

 とにかく、まずは忘れ物を深山先生に確かに渡す。結菜ちゃんへのプレゼントが入った袋を受け取ってから、深山先生はもう一度、今度は深く頭を下げながら俺にお礼を言った。

 

 ここまで深く頭を下げられる程の…事かもしれないが、この人にとっては。しかし、ここまでされるとどうも恐縮してしまう。

 すぐに深山先生に頭を上げるよう言おうとして─────

 

「センセー、何やってるの?」

 

 その前に、深山先生の背後から第三者の声がした。

 

 深山先生の背中からひょっこり現れたのは、俺と同年代くらいの女の子。病院着を着ている所を見ると、ここの患者だろうか。

 

「クリスマスプレゼントを置き忘れてしまってね。この人に届けてもらったんだよ」

 

「それはそれは…、お子さんに恨まれる所でしたね…」

 

 深山先生と気軽な様子で話す女の子。もしかして、入院期間が長いのだろうか?

 勿論、会ったばかりの相手にそんな事を聞くつもりはさらさらないが。

 

「先生はしっかりしてる様に見えてどこか抜けてるんですよねぇ。ちゃんとこの人にお礼を─────」

 

「…?」

 

 やれやれ、とでも言いたげな仕草を見せながら、女の子が俺の方を見る。

 そして俺と目が合うと、女の子は目を見開いて固まってしまった。

 

 …何なんだ、深山先生といい、この子といい。深山先生はまあ見覚えがあるし、もしかしたら同じ感覚を俺に覚えたのかもしれないけど、この子には全く既視感はない。会った事はない。

 

「やなぎくん…?」

 

「…何で俺の名前を」

 

 なのにその子は、初対面の筈の俺の名前を口にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




少年時代の千尋と話した女の子って誰なんだー!?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。