喫茶ステラと死神の蝶と見える人   作:もう何も辛くない

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第五十六話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 仕事どころではなくなってしまった。バックルームへと入った俺は、先に来ていたミカドと目を合わせる。

 ミカドは何も言わないまま向こう側の扉、店とは逆、住居の方へ首を振って歩き出す。ついてこい、という事だろうか。

 

 確かにここで蝶関連の話をする訳にもいかないか。ここだといつ涼音さんに墨染さん、火打谷さんの蝶について知らない人達が入ってくるか分からない。最悪、話を聞かれてしまう恐れもある。

 

 ミカドについていって、辿り着いたのはすっかりお馴染みとなってしまった屋根裏部屋だ。部屋に入った直後、ミカドは人間の姿から本来のケット・シーとしての姿に戻り、振り返ってこちらを見る。

 

「聞く迄もないとは思うが…、貴様も見たな?」

 

 何を、と聞き返すまでもない。その質問が、父さんと母さんの周りを飛び回っていた蝶の事を言っているのだと理解しながら俺は頷いた。

 

「では単刀直入に聞くとしよう。あの二人が抱える悩み等に何か心当たりはあるか?」

 

「あったらこんな所に来てない。さっぱり分からない」

 

「…そうか」

 

 俺の返答を聞いたミカドが小さく溜め息を吐いた直後だった。背後の扉がゆっくりと開かれる。

 音に気付いて振り返ったその先には、体半分を覗かせて部屋の中を伺うナツメの姿があった。

 

「ナツメ」

 

「千尋…」

 

 気遣わしげに俺を見るナツメもまた、蝶を見たのだろう。

 ナツメはゆっくりと部屋の中に入ってくる。

 

「仕事は良いのか?」

 

「うん。最初に休憩欲しいってお願いした」

 

「…悪い」

 

「別に謝る事じゃないから」

 

 謝る俺にそう返しながら微笑むナツメの気遣いが嬉しいと同時に、ナツメに心配をかける自分自身に情けなさも感じてしまう。

 

 そんな俺の気持ちはバレバレだったらしく、ナツメに背中を力強く叩かれる。

 バシン、と音が鳴り響いてから、疑問符を浮かべる俺にナツメが口を開く。

 

「彼女が彼氏を支えるのは当然の役目でしょ?」

 

「…」

 

 ナツメの笑顔につられて俺の方もつい微笑みが漏れる。罪悪感で重くなった胸の内が、ナツメの笑顔で少し軽くなる。

 

「それにね。…私、千尋に隠してた事がある」

 

「え?」

 

 その直後にナツメの言葉につい驚きの声を漏らす。

 笑顔を浮かべていたナツメの表情が、今は申し訳なさそうな表情へと変わる。

 

 突然の変かに戸惑いながらもナツメに話の続きを促すと、ナツメは口を開いた。

 

「心当たりがあるの。…千尋の御両親が蝶に魅入られる理由に」

 

 今度は俺だけでなく、ミカドも驚きを露にした。

 

 続いてナツメから語られるのは昨日の話。バイトが終わってからの帰り。ナツメと一緒に俺の部屋に行って、その後の話だ。

 部屋には何故か父さんと母さんがいて、思わぬ形でナツメと俺の親が対面する事になった。そして俺は父さんに頼まれて、三人を置いてコンビニに行った。

 

 ナツメが語ったのは、その時に二人とした話の事。俺の過去について以外で二人がナツメに漏らした、俺が知らない二人の俺に対する想いだった。

 

「─────」

 

 ナツメとミカドの視線が、何も言わない俺に向けられる。

 ナツメの話を聞いてから、俺の中で言葉が全く浮かんでこない。

 

 つまり、二人が蝶に寄り付かれるのは、俺が原因なのか…?

 何も知らなかった。知ろうともしなかった。二人の笑顔を疑わず、ただ呑気な親だとしか思わなかった。

 

 だがその実態は、過去の出来事に囚われ気を病む、以前までの俺と全く同じだった。

 

「…下らねぇ」

 

 俺の反応を見守っていたナツメとミカドが目を丸くする。

 

 あぁ、本当に下らない。下らなすぎて、嫌悪すら湧いてくる。

 その感情の正体がただの同族嫌悪だと気付いているからこそ、なお忌々しい。

 

 ふざけるな。何が俺を傷つけただ、何が罪だ。俺はそんな風に思っていない。俺はあの二人に贖罪して欲しいなんて思った事はない。

 誰もそんな事を頼んだ覚えはない。むしろ、今まで俺に向けられてきたあの笑顔が、贖罪の気持ちから出たものだと考えると反吐が出る。しかし─────

 

 ─────二人をそんな風にさせたのは、俺だ。

 

 二人は何も悪くない。俺が嫌悪を抱く事は全て、元を辿れば原因は俺だという結論に至る。

 俺がこの目を持って産まれてしまったから、二人は傷つき、贖罪などという下らない気持ちを抱いて自身の子供と接しなければならなくなったのだ。

 

「千尋…」

 

 ナツメが遠慮気味に俺の名前を呼ぶ。

 俺の思考全てを分かっているとは思わないが、それでも今の俺がどういう気持ちでいるかは察したのだろう。

 ナツメだけでなく、ミカドもどことなく神妙な面持ちで俺を見ている。

 

 以前までの俺なら、どうしていただろう。バアちゃんを殺しただけに飽きたらず、父さんと母さんを傷つけたという怒りのままに、両目を抉りとろうとしたかもしれない。

 いや、割と冗談抜きで以前までの俺だったら今回の出来事が止めになってた可能性もある。両目を抉ろうとするのも結構当たってるかもしれない。

 

 だが今の俺は違う。この目で人を救える事を知っている。ならば、今度は─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミカドにバイトを早めに上がる許可を貰い、先に一人店を出たのが夕方の五時頃。その道中、家族のグループラインにメッセージを投下、今日は三人で夕飯を食べようと二人に送る。

 

 返信は一分も経たずに返ってきた。送ってきたのは母さんで、その内容は一言で言えば了承。

 吹き出しの中の文はもっと長ったらしく、顔文字や絵文字で満ちていたが面倒なので省略する。

 

 とにかく三人で夕飯を食べる事に決まり、その場所も以前ナツメ達と一緒に行った焼肉店に行く事にして、部屋に帰った俺は二人を迎えに行くべく車のキーと財布を持ってすぐに外へと出た。

 車に乗り込んでから二人にホテルの前で待っているようメッセージを送り、エンジンをかけて車を発進させる。

 

 父さんと母さんが泊まっているホテルは駅から程近く、歩いて五分という所にある。ここから駅まで車で五分ほどなので、ホテルまでも大体それくらいの時間で着くだろう。

 その予想通り五分程でホテルの前に車を止めると、建物の前で立っていた二人の男女が俺が乗る車の方を見てくる。

 

 その二人とは、言うまでもなく父さんと母さんだ。この車は父さんのお下がりなのだから、車種とナンバープレートを見れば俺が運転していると簡単に分かる。

 

 二人は何やらニコニコしながらこちらに近寄り、そして車に乗り込んできた。

 最初に母さんが乗ってきて、次に父さんが母さんの隣に座る。

 

「なに笑ってんだよ」

 

 特に何も言うことなく、普通に車を発進させようと思っていた。しかし、流石に未だににやつかれると気になって仕方がない。

 ルームミラーを通して後部座席の二人を睨みながら話し掛ける。

 

「いや…。千尋が運転する車に乗ってるって思うと、ちょっとな」

 

「…なんだよそれ」

 

 にやにや笑ったまま言う父さんに、俺は一言そう返す事しか出来なかった。何故なら、そんな二人の気持ちが俺にも分かる気がしたから。

 何しろ俺も、二人を後部座席に乗せて運転するというこの時間が何というか、くすぐったいというか、何ともいえない不思議な感覚に陥っているからだ。

 

「とにかく行くぞ。忘れ物とかしてないよな?」

 

 発進する直前に後方の二人にそう問い掛けて、問題がない事を確かめてからいよいよ車を動かす。

 いつもより慎重に、ちょっぴり胸に緊張を抱きながら車を加速させる。

 

 車内で会話はない。初めてナツメを助手席に乗せた時と状況は似ているが、その時の心境とは全く違う。

 さっき言った、両親を車の後部座席に乗せて運転するという今この時間に対して抱く不思議な感覚。父さんも母さんも、特に母さんは落ち着かない様子で外の景色と車内、そして運転する俺の後ろ姿をきょろきょろと見回していた。

 

 目的の店に着いたのはそれから数分後。運転する間会話がないまま店に着き、そのまま店内に入る。

 最初に目が合った店員に席に案内され、三人で腰を下ろす。

 

 案内された席は以前と同じ個室だが、その時と違って大人数用の部屋ではない。畳の上にテーブルと周りに四つの座布団が置かれた四人用の個室だった。

 

 着ていたコートを脱いで、早速メニュー表を開いてどの部位を頼むか考える。

 

「二人は何か食いたいのあるか?」

 

「いや。千尋が好きなの頼んで良いぞ」

 

「…あっそ」

 

 二人に問い掛けると、父さんが代表してそう返事を返してきた。母さんもそれに異存はないらしく何も言わない。

 そうか、それなら俺の好きなように注文させて貰おう。メニュー表を眺めながら俺の食べる肉を決め、テーブルの上に置かれたボタンを押して店員を呼び出す。

 

 時間を置かずにやって来た店員にハラミ、タンを二人前ずつとホルモンの一人前を頼んで一旦注文はここまでにする。

 

「千尋。お前、ホルモン嫌いじゃなかったか?」

 

 店員が部屋を出てから父さんが聞いてくる。母さんも驚いた様子で俺に目を向けていた。

 俺は子供の頃からホルモンが嫌いで、今もそうだと二人は思っていたらしい。いや、まるで今は違うみたいな言い方になってるが、今もホルモンは嫌いだ。

 

 それなら何故ホルモンを注文したか。そんなのは決まってる。

 

「父さんはホルモン好きだろ」

 

「─────」

 

 次は何を頼もうか、メニュー表を眺めながら父さんの質問に答える。

 

「…好きなのを頼めって言ったろ」

 

「俺の好きなように頼んだけど文句あんの」

 

「…ないよ」

 

 注文した肉が届けられ、早速焼いていく。俺がトングを持って、網の上に肉を置く、そうして焼き上がった肉を父さんと母さんが箸で取っていく。んで、俺の皿に肉を置いていく。

 

「おい。何で俺の皿に置く」

 

「え?ちーちゃんが焼いたお肉だから」

 

「…」

 

 まあ、親として子より先に食べ始めるのに少し抵抗があるのかもしれない。それならそれで、こっちもちょっとした強行策に出るとしよう。

 

 身を乗り出して、焼き上がった肉を二人の皿に置いていく。二人は一瞬固まり、それから俺を見る。

 

「良いから食え。そんなガキ扱いしなくて良いから」

 

 そんな二人を見返す事なく、俺は肉を焼く事に集中する。二人に意識を向けていたら最高の焼き加減を逃してしまう。

 網の上に目を光らせ、肉の焼き色のみに意識を集中させる。

 

 二人は何も言ってこなかったが、次に焼き上がった肉を二人の皿に載せる際、先程二人にあげた肉はなくなっていた。

 

「ねぇちーちゃん」

 

 母さんが口を開いたのは、俺もそろそろ肉を食べようとトングを一度空の皿に置いた時だった。

 焼き上がった肉を網から取りながら母さんの方を見る。

 

「ナツメさんと一緒にいなくて良かったの?」

 

「…」

 

 微笑みながらのその問い掛けは、いつもの俺ならばただのからかいだと判断していただろう。彼女出来立ての息子を弄りたいが故の質問、と考えていただろう。

 

 だが、ナツメから話を聞いた今の俺にはこう聞こえてしまう。

 

『私達なんかといるよりも、ナツメさんと一緒にいた方が良い』

 

 だから、俺はこう答えるのだ。

 

「二人は明日帰るんだろ。しばらく会えなくなるんだし、ナツメには悪いけど三人の時間が欲しかった」

 

「─────」

 

 母さんだけじゃなく、父さんも俺の台詞を聞いて目を瞠る。

 

「…何だよ」

 

「あ…えっと…」

 

 母さんと父さんを見遣る。明らかに動揺した二人を見ながら、二人からの返事を待たずに続ける。

 

「俺が三人でいたいって思うのがそんなに意外か?」

 

「っ…」

 

 母さんが息を呑む。驚きに染まっていた顔が、今はどこか苦し気に歪んでいる。

 

 うん、本当は食事が終わって帰り際に切り出そうと思ってたが良いタイミングかもしれない。ここで色々と吐き出してしまおう。

 

「父さんも母さんも、勘違いしてるよ」

 

「…勘違い?」

 

 恐る恐る、といった様子で父さんが聞き返してくる。それに対して一度頷いて返してから、俺は口を開く。

 

「何が俺を傷つけただよ。俺は二人に傷つけられた覚えはないし、贖罪なんて求めたつもりもないぞ」

 

 父さんの手の動きが止まる。母さんの体が大きく震える。

 二人が何かを言う前に、畳み掛けるように二人に言葉を投げ掛ける。

 

「ナツメから聞いたぞ。人の過去を何を勝手に、っていう文句は置いとくさ。それよりも気に入らない事があるから」

 

「ちーちゃん…」

 

「何度でも言うぞ。俺は二人に傷つけられてなんかない。二人からの贖罪なんていらない。…それでももし、二人の気が済まないなら」

 

 ナツメから話を聞いて、色々と考えた。蝶の事を何とかしなければ、二人の誤解を解かなければ、二人が帰る前に解決しなければ。

 ただ一つ、その過程でこれだけは二人に伝えないといけないと思った。

 

「死ぬまで俺の親でいてくれ」

 

 それは、普通の親子であれば極々当たり前の事で、しかし普通ではない俺にとっては大切な事だった。

 

 二人は俺のためだと俺から距離を置こうとしたらしいが、そんなものは俺のためでも何でもない。無論、心の底から俺から離れたいのであれば止めはしないが、もしそうでないのなら。

 

 俺はこの父と母と、親子の関係でいたいのだ。

 

「…」

 

 沈黙が流れる。部屋の中で響くのは真ん中の網の下の火の音だけ。

 

「?」

 

 その中で不意に母さんが立ち上がった。何事かと立ち上がった母さんを見上げると、母さんはゆっくりと俺の方へ歩み寄ってきた。

 

 え、マジで何事?黙ったままだと怖いんだが。

 

「おい、なにを─────」

 

 俺に歩み寄ってきた母さんが隣の座布団に腰を下ろした所で、何をしたいのか未だに分からず口を開こうとして─────俺は母さんに抱き締められた。

 

「ごめんなさい」

 

「…」

 

「ごめんなさい。ごめんなさい…っ」

 

 俺を抱き締めながら謝る母さんの姿は、まるであの時のままだった。あの病室で、今と同じように母さんに抱き締められたあの時と同じだった。

 母さんの両目から流れる涙が肩を濡らす。その上力一杯抱き締められてるせいで少し苦しいが…、今は好きなようにさせる。

 

「いいよ。許す」

 

「…本当?」

 

「ていうか、許すも何もないんだって。俺は二人を嫌ったり、恨んだりもしてないんだから」

 

 母さんの背中を優しく叩きながら、つい笑みが溢れる。

 

 何だこれ、まるで立場が入れ替わったみたいじゃないか。これじゃあ娘をあやす父親みたいだぞ、なんて心の中で思いながら母さんの抱擁を受け続ける。

 

「おい、そこで見てるだけのあんたもだぞ」

 

「うわ、矛先がこっちに来た」

 

「俺はな、二人に感謝こそすれど恨むなんて恩知らずな事思ってないからな。俺みたいな不気味で仕方ない餓鬼をここまで育ててくれたんだからっ!?」

 

 微笑ましそうに俺と母さんを眺めていた父さんにそう言うと、突然母さんが俺の両肩を掴んで体を離す。そして俺と顔を合わせて真っ直ぐ見据えてくる。

 涙で瞳を濡らし、顔をグシャグシャにしながら母さんは口を開く。

 

「そんな風に自分を卑下する事を言わないの!」

 

「お、おう?」

 

「ちーちゃんは普通の子なの!ちょっと他人とは違う事が出来ちゃうだけの普通の子なんだから!」

 

「おう、分かったから落ち着け母さん」

 

 あまりに突然すぎて驚いてしまったが、要するに俺が自分を不気味だと言った事が気に入らないらしい。

 いやしかし、いきなり自分には見えない髪の長い白いワンピースの女の子がいるなんて言い出す子供は普通に不気味ではなかろうか…?

 

「ちーちゃんは嬉しかったら笑って、悲しかったら泣いて、腹が立ったら怒る、普通の子なんだから…!」

 

 母さんが言いながら、また涙を流し始める。

 

「そんな…そんな事に長い間気付けなかったバカな親で…、本当にいいの…?」

 

 ぽろぽろと涙を溢しながら聞いてくる母さん。視線をずらせば、父さんもまた同じ風に思っているらしい。神妙な顔つきで俺の返事を待っているようだった。

 

「…同じ事を何回も言うのは嫌いだ」

 

「っ─────」

 

 またあの台詞を言うのは少し恥ずかしい。だから遠回しな言い方になってしまったが、俺の気持ちは届いたようだ。

 

 母さんの表情が笑顔に変わっていく。ていうか本当に酷いな。涙で顔グシャグシャだし、それでいて笑ってるからもう意味分からない顔になってるぞこの人。

 

「うわぁぁぁぁぁぁん!ちーちゃん、大好きぃぃぃぃぃぃぃ!!」

 

「もういい。もういいから離れろ」

 

「あはん、あはんあはん、あはんあはんあはんあはんあはん」

 

「すっげぇ泣き方」

 

 母さんが号泣する姿を見るのは初めてだが、こんな風に泣くんだなこの人。喉痛くなんないのかねこれ。

 なお一方の父さんは苦笑いしながら勝手に肉を焼いて勝手に食っていた。あぁ、父さんはこれ見るの初めてじゃないんだな。いや、母さんとは三十年以上の付き合いなのだから知ってるのは当たり前なんだろうが。

 

 だからって見てるだけなのはどうなんだろうか。ちょっと助けてくれないか。今こうしてる間も俺に頬ずりしようと力込めてきてるんだが。

 もう本当に良い。抱擁はお腹一杯だから、あっち行ってくれ。

 

「出されたものは食べなきゃでしょぉぉぉぉ…!」

 

「抱擁は食べ物じゃないんで。てかさ父さん、肉の独り占めをやめろ」

 

「ちーちゃんにお肉よりも優先度下げられたぁぁぁぁぁぁ!」

 

「だあああああああ!いい加減離れろおおおおおおお!!」

 

 俺と母さんの闘いはまだまだ続く。そんな中で、一人平和に焼肉を堪能する阿呆親父は一言呟いた。

 

「…俺達が気にしてた事がとんでもなく下らない事に思えてくるよ」

 

 何だかんだ、家族での焼肉は楽しかった。母さんとの乱闘以外は。また家族で焼肉をしたいと思った。また母さんと乱闘する羽目になるのなら御免だが。

 二人をホテルに送ってからの帰りの車内にて、無意識に鼻歌を口ずさむ自分に気付いてその事を自覚したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~Another View~

 

「あ─────」

 

 そろそろ寝ようと部屋の明かりを消して、ベッドに行こうとした時だった。

 体から小さな光が漏れた事に気付いたのは。

 

「─────」

 

 そう、か。分かってはいたけれど、やはりもう時間は残されていないらしい。

 皆と…、昂晴さんと一緒にいられる時間は、もう─────

 

『その日が来たら教えてくれ。見送りくらいはしてやろうじゃないか』

 

 その時ふと、掛けがえない友人の一人が言った言葉を思い出す。

 誰よりも先に自分の異変に気付き、その事を指摘し、そして最後は笑顔でそう言ってくれた友人を。

 

「…柳さん」

 

 でも…彼には悪いが、本当に申し訳ないが、今は彼よりも見送って欲しい人が、最期の時まで二人でいたい人がいる。

 だから、勝手な都合で申し訳ないのだが、その約束を破らせて貰う。きっと、彼は文句を言いつつもそれを笑って許してくれるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ステラの屋根裏部屋にて、明月栞那は夜空に浮かぶ月を見上げながら笑みを溢すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




両親とのお話は一段落
なおシリアスは終わっていない模様
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