喫茶ステラと死神の蝶と見える人   作:もう何も辛くない

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感想、くれてもええんやで?
あ、でも豆腐メンタルをずたずたに切り刻む言葉のナイフは遠慮したいです。


第五話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「話はまとまった様だな」

 

 四季さんの誘いを受け、少し間が空いてからだった。店内に俺と四季さん以外の、第三者の声が響き渡った。

 驚き振り向いて見れば、声がした方で立っていたのは二人の男女…と、一匹の猫。

 

「…盗み聞きは趣味が悪いと思うぞ、三人とも」

 

「いやぁ~。私は止めたんですよ?でも、高嶺さんがどうしても気になるって…」

 

「なっ…、覗いてみようって言ったのは明月さんじゃないか!」

 

「罪の擦り付け合いは止めろ。二人とも有罪だ」

 

「「そんな!?」」

 

 高嶺と明月さんの表情が絶望に染まる。

 残念、ここに神はいない。ここにいるのは俺だ。容赦はない。

 

「支持します」

 

「「四季(ナツメ)さんまで!」」

 

 そしてもう一人、容赦のない人物がいた。二人の口から出た、四季さんである。

 四季さんも俺と同じく盗み聞きの被害者だ。割に合う分だけ二人を嬲る権利はある筈だ。神も許してくれるだろう。

 

「おい。そろそろ馬鹿な事は止めて、真面目になれ」

 

「「大真面目ですが?」」

 

「…貴様ら、随分と仲良くなったな」

 

 ミカドが呆れたように俺達を見てくる。

 仲良くなったって、そんな自覚は全くない。まあ、さっきの会話を通して四季さんに対して遠慮はしなくなったかな。もしかしたら、四季さんも同じなんだろうか。実際のところは知らないが。

 

「おーっと?もしや、恋の予感ですかぁ?にひひ」

 

「「それはない」」

 

「…本当に息ぴったりですね」

 

 おーっと?明月さんまで呆れ始めたぞ?

 ていうか、さっきから随分声が揃うな。真似しないでくれないかな、四季さん。

 

「柳君、真似しないで」

 

「それはこっちの台詞だ」

 

 じと目を向けながら言ってくる四季さんに即答で言い返す。

 台詞だけ聞けば喧嘩腰に思えるが、実際のところ、その口調は完全な棒読み。ただの冗談の言い合いである。

 

「おい、いい加減にしろ。これから柳千尋との契約の話をせねばならんのだ」

 

「…契約」

 

 そうか、契約か。そうだな、ここで働くのなら最初に契約を済ませなければならないな。

 

 でも、まずいな…。

 

「すまん。印鑑持ってきてない」

 

「…は?」

 

「元々断るつもりだったから」

 

 当たり前だ。ここに来るまでは話を断るつもりでいたのだから。印鑑なんて持ってきている訳がない。

 

「…まあ、仕方あるまい。だが、必ず明日に持ってこい。いいな?」

 

「りょーかい」

 

 ミカド、再びの呆れ顔。しかし特に注意される事はなく、その代わりに明日必ず持ってくるよう命令される。

 その指示に素直に返事を返し、頭に印鑑の事を刻み込む。

 

「とにかく…、柳さんも一緒に働くんですよね?」

 

「うん。そうと決めたから」

 

「それでは…。これからよろしくお願いします、柳さん」

 

「よろしく、柳」

 

「…あぁ。これからよろしく。明月さん、高嶺」

 

 明月さんと高嶺が歓迎するように俺に笑みを向ける。俺も、笑みを浮かべて二人に言葉を返した。

 

「それでだな。早速だが、俺から店について話したい事がある」

 

「柳さん…?目が本気なんですけど…」

 

「四季さんから話は聞いてる。高嶺の親父さんが言ってたこの店に対する感想は、俺も同感だ。内装は殺風景で、接客…は、俺は受けてないから何とも言えないが」

 

「柳、落ち着け。落ち着け柳」

 

「俺は落ち着いてる。まあ、上から目線みたいで気に入らないかもしれないが、とりあえず最後まで言わせてくれ」

 

 明月さんと高嶺が戸惑っているが、一旦置いといて最後まで言いたい事を言わせてもらう。

 

「内装はまあ、いつにでも何とかできるから後回しにして…。俺はまず、従業員の数を何とかしなきゃいけないと思ってる」

 

「あぁ、それについては俺の方も考えてた」

 

 自身の考えを言い切ってからすぐ、高嶺が口を開いた。

 

「…高嶺くんも、人手が少ないって思う?」

 

「そりゃ、な。だから、店の外にバイト募集の壁紙を張ったらどうかな、と」

 

「ふむ…。数少ない知り合いに声掛けても全員に断られる可能性が大きいしな。その案、採用」

 

「有り難き幸せ」

 

「何なのそのノリ…」

 

 高嶺も同じ様に考えていたらしい。その上で俺よりも効率の良い考えを持ち出してくれた、これはありがたい。

 俺は知り合いに片っ端から声をかけていく、くらいしか考えてなかった。そうか、張り紙か…。

 

「それと、俺の幼馴染みが皆さえ良ければ働きたいって言ってる」

 

「高嶺君の幼馴染み?」

 

「…男?」

 

「女」

 

 何と、高嶺には女の幼馴染みがいるという。

 

「妄想の中の、とかじゃないだろうな」

 

「希はちゃんと存在する」

 

「…名前までつけてる」

 

「明日連れてくるから、覚えてろよ柳」

 

 高嶺に睨まれてしまった。怖い。

 

「それなら…、明日は高嶺君の幼馴染みさんとの面接で決まりね」

 

「あー…。自分で意気込んどいて何だけど、希に用事があったりして来れなくなったりしたらごめん」

 

「予防線張った?」

 

「柳ぃ!」

 

 高嶺が飛び掛かってきた。ヒラリとかわすと、高嶺は傍の椅子の足に自身の足を引っかけて転んでしまった。

 派手な音を鳴らしながら倒れる高嶺。…これ、からかい過ぎたか?

 

「正直、すまないと思ってる。やり過ぎた」

 

「いや…。分かってくれたならそれで良いよ…」

 

 高嶺に手を貸して起こしてから、高嶺がずらしてしまった椅子やテーブルの位置を元に戻す。

 ていうか高嶺も中々にお人好しだな。痛い思いしてる癖に、あっさりと俺を許してしまった。一発ぶっ叩かれるくらいは覚悟してたのだが。

 

「高嶺君、大丈夫?」

 

「あぁ…。派手に転んだけど、どこか痛めた訳じゃない」

 

「…本当に、すまなかったと思ってる」

 

「いや、もう気にしなくて良いから」

 

 四季さんに安否確認されている高嶺に再度謝罪する。高嶺はすぐに手を振りながら返事を返した。

 マジでお人好しだ、こいつ。尊敬できるレベルで。俺が高嶺の立場なら、相手に晩飯をたかってたところだ。

 

 お人好しの高嶺と四季さん、それに明月さんも雰囲気は二人と同じくお人好しに感じる。ミカドも何だかんだツンデレ気味に感じるし。

 そんな人の好い連中とこれから、この店で働く。勿論、オープンできたら、の話だが。

 

「楽しくなりそうだな」

 

「何か言った?柳君」

 

「いや、何にも」

 

 俺の呟きが耳に入った、しかし聞き取るまでは出来なかった四季さんの問い掛けを流して、俺は四季さん達四人に向き直った。

 

「さて。さっきは色々言ったが、まず諸君らに教えたい事がある」

 

「教えたい事…?」

 

「ていうか、諸君らって…」

 

「四季ナツメ、口調には突っ込まないでほしかった」

 

「フルネーム…」

 

 四季さんがこれ以上ないくらい呆れた顔になる。止めろ、うるさい、分かってる。似合ってない事くらい自分が一番知ってる。

 ちょっと調子に乗っちゃったんだよ、これくらい見逃してくれよ。

 

「それで、教えたい事とは何だ。その諸君らとやらには我輩も入っているのだろう?」

 

「勿論だミカド。今からお前らに…」

 

 俺は少し溜めてから、これから三人と一匹に教える事柄を言い放つ。

 

「紅茶の淹れ方を教えよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 なお、紅茶の淹れ方教授の場面は割愛である。一々書いてたら文字数がヤバい事になるって誰かが言っていた。

 

 …待て。俺は誰に向かって言ってるんだ?てか、文字数って何?誰かって誰?俺は一体どうしたんだ?

 

「柳君。…柳君?」

 

「はっ」

 

 隣から聞こえてきた呼び掛けによって我に返る。

 いや、俺は今まで何を考えていた?何かとても大事な事を誰かに伝えようとしていたんだが…。頭の中が霧掛かったようで思い出せない。

 

「どうしたの?大丈夫?…もしかして、疲れた?」

 

「いや、そんな事はない。むしろ楽しかったし」

 

「…そうね。紅茶の淹れ方を教えてる時の柳君、とてもイキイキしてたし」

 

 四季さんが苦笑いを浮かべる。

 それを見て、ついさっきまでの場面を、紅茶の淹れ方を教えている最中の事を思い出せる。

 

「何か…すまんかった」

 

「ううん。実際、柳君の淹れる紅茶はとても美味しかったから。あの味を再現できる様になったら…、お客さんをたくさん喜ばせる事ができると思う」

 

 何だか今日は謝ってばかりだな。四季さんに謝って、高嶺に謝って、そしてまた四季さんに謝って。

 

 …紅茶仲間を増やせるチャンスだと思ったら、テンションが上がりすぎた。とはいえ、軍隊方式はさすがにやり過ぎた。四季さんだけでなく、高嶺や明月さん、ミカドにも申し訳ない。

 明日、店で謝ろう。

 

「…」

 

「…」

 

 会話が途切れ、沈黙が流れる。気まずい、とまではいかないが、少し居辛さが空気となって流れ始める。

 まずい。このままではコミュ障に思われてしまう。コミュニケーションが得意という訳ではないが、断じてコミュ障ではない所を見せなければ。俺の威厳のためにも。

 

「そういやさ、四季さんってどうしてあの店をオープンさせようって考えたんだ?」

 

「え?どうしたの、急に?」

 

「急にじゃないさ。最初に話を聞いてからずっと疑問に思ってた。だって、まだ学生の身で店の責任者になろうっていうんだから、相応の理由があるんだろ?」

 

「…」

 

 四季さんの口が閉じる。

 その反応を見て、俺は反省の念を覚える。この話題は失敗だったかもしれない。

 

「すまん。言いたくないなら答えなくていい」

 

「あ、ううん。そういう訳じゃないの。ただ、少し長くなるから…。それでも、聞きたい?」

 

 昨日、四季さんと別れた交差点はまだ先だ。それに、あの時は俺が立ち去った形になったため、実際にあそこで四季さんと帰路が分かれるのかも定かじゃない。

 

 それなら…、という言い訳を並べたのは良いが、実際はその話に興味があるだけだ。四季さんがあの店をオープンさせようと思ったその理由に、興味があるだけ。

 その欲望を隠すことなく、四季さんの問い掛けに頷いて答えた。

 

 四季さんはゆっくりと話し始める。

 まずは店をオープンさせると決める前、明月さんとミカドとの出会いの話。自分の魂が蝶となって零れ落ちそうになるのを防ぐために明月さんとミカドがやって来て、何か執着できるものを聞かれたという。

 その思いが、魂が蝶となるのを防ぐのだという。

 

 二人に問われ、考え、そして出てきたのがあの店の事だった。

 

「…あの店は、四季さんと何か関係があったのか?」

 

「うん。…以前にあの店を借りてたのは、私の両親なの」

 

「え?つまり、四季さんの両親があの店を経営してたのか?」

 

「…正確には、お店を開店しようとしてた」

 

「…」

 

 息を呑んだ。四季さんの言い方だと、それはつまり─────

 

「お店を開店させる直前に、私が入院しちゃってね。二人はお店の開店を諦めた」

 

 淡々と語る四季さん。外から見れば特に何も思ってないように見えるが、その内心はどうなっているのか。何を思い、何を考えているのか。

 

 そして、もう一つ気になる事が浮かぶ。四季さんには申し訳ないが、勿論全部四季さんの責任だという訳ではないが、四季さんの両親が開店を諦めた理由の一端は四季さんにある。

 その事で、四季さんは責められたりしたのだろうか。もし、そうなら─────

 

「安心して。その事で責められたりなんてしてないから」

 

「…バレた?」

 

「顔に出てた」

 

「鋭い観察眼ですな」

 

「柳君がわかりやすいだけじゃない?」

 

 澄ました顔で言う四季さんを見て、つい悔しさを覚える。

 別に勝ち負けを争っていた訳ではないのだが、四季さんに負けた気がしてならない。

 

「それで?つまり、四季さんは両親の意志を継いで、あの店をオープンさせようとしてる訳だ」

 

「…うん。そう」

 

「…四季さん、それは「そう、だった」え?」

 

「昨日までは、そうだった。でも、今は違う」

 

 俺の言葉を遮って、四季さんは前を見据えて続けた。

 

「今の私は、あの店をオープンさせたいって思ってる」

 

「…」

 

「お父さんとお母さんが楽しそうにカフェについて話してるのを聞いて…、あのお店は、私にとっても夢になったから」

 

 夢。そうだ、どうして忘れていたんだろう。四季さんが言ってたじゃないか。お店をオープンさせる事は、自分の夢なんだと。

 

「…両親のためにお店をオープンさせようとしてる、って考えたでしょ」

 

「…」

 

「図星だ」

 

 ちくしょう、また負けた。いや、勝ち負けとかないのだが。負けた気がして仕方ない。

 そんな風に笑うな。勝ち誇ったみたいに笑うな。くそう。

 

「だから、心配しないで。私がそうしたいから、そうするの」

 

「いや、心配とかしてないし」

 

「そう?なら、これから言う事は私の勝手な勘違いという事で」

 

「?」

 

 言ってる意味が分からない。首を傾げながら四季さんの方を見ると、四季さんが微笑みながらこちらを見上げていた。

 

「心配してくれてありがとう」

 

「─────いや、だから」

 

「はいはい。さっきも言ったけど、私の勝手な勘違いだから」

 

「…」

 

 この時が、俺にとっての四季ナツメという人物の印象が固まった瞬間だった。

 

 四季ナツメという女は、今まで出会った人の中でもとびっきり、いっちばん狡い女だ。

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