喫茶ステラと死神の蝶と見える人   作:もう何も辛くない

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久しぶりにランキングに載ってました。
ありがとうございます。


第六十六話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 辺りはすっかり暗くなり、帰宅する学生や社会人が多く見られる時間帯。

 俺もまた、その一人として大通りを歩いていた。

 

 ただ、俺は一人じゃないし、第一にまだ帰ろうとしている訳ではないのだが。

 

「よっしゃぁ、今日は飲むぞごらぁっ!」

 

「柳の奢りだし遠慮しねぇぞおらぁっ!」

 

「いつ俺の奢りになったんだよ」

 

「「今!」」

 

 今俺の傍にいるのはナツメではなくいつもの友人達。元気に肩を組んで前を歩く二人に呆れてくる。

 もしかしてもう酔ってんのかこいつら。

 

「いいだろ、そんくらい。俺等に幸せのお裾分けしてくれたってよ」

 

「おい草野。それは彼女がいない寂しい俺達の台詞であって幸せ溢れる彼女持ちのお前の台詞では断じてない」

 

「そうだぞ草野。お裾分けを受けるべきなのはお前じゃない、俺達だ」

 

「「って、誰が寂しい男共だブッ殺すぞ!」」

 

「言ってない言ってない」

 

 いや酔ってる、こいつら酔ってる。じゃなきゃこんな下らんノリ突っ込みしな─────いや待て。するな、こいつらなら素面でも。あ、するわ。別に酔ってなんかないわ。

 でも素面でこれって、酔ったらどうなるんだ。あー、今から面倒臭くなってきた。帰っていいかな?…ダメだろうな。

 

「千尋、こりゃ覚悟した方がいいぞ」

 

「全部お前に押し付けて俺は帰る」

 

「逃がさんぞ。お前、俺に借りがあるの忘れてないだろうな」

 

「…」

 

 奢ってやるんだし二人の世話くらい押し付けたっていいだろう、そう思っていたのだが返しの昭久の一言に押し黙る。

 

 そう、俺はこいつに借りがある。ナツメとの関係についての悩み相談に乗ってもらった事がある。

 といっても、ろくな答えは返ってこなかったが。何か自分で考えろとか言われた気がするが。

 

 あれ?相談に乗ってもらったって何だ?俺は本当にこいつに相談に乗ってもらったのか?借りなんてないんじゃないのか?

 

「何してんだよ二人とも、早く行くぞ!」

 

 前を歩く二人が振り返り、その片方に呼ばれて思考が途切れる。

 

 まあいいか。結局、話を聞いてもらったのは確かだし、話を聞いてもらうだけでも割と楽になったし。

 そう無理矢理結論付けて、前の二人を追って俺達も昭久達が予約したという居酒屋へ足を急がせる。

 

 行き着いたお店はまあ別に気取った感じのない普通の居酒屋。以前ナツメと行ったバーとは真逆の賑やかな店内に足を踏み入れ、予約された個室の席に案内される。

 俺がハイボール、昭久はレモンサワー、残り二人はビール、後は焼き鳥やら芋餅やら食べ物を適当に頼んでとりあえず一度目の注文を終える。

 

「なあ柳。結局お前俺達についてきてるけどよ、良かったのか?」

 

「─────」

 

 すぐに俺達が頼んだ四本の飲み物が届き、乾杯をして一口目を口付けている時、ふとそう言われる。

 

「何だよ今更」

 

「いや、今になって気になってきた」

 

「変に気を使うのやめろ気持ち悪い」

 

 ちょっと寒気がしたのは言わない。

 俺の言い様に文句たらたらな友人に構わずジョッキを置いてから口を開く。

 

「ナツメも今日は友達と一緒に飲みに行ってるから、本当に気にしなくていいぞ」

 

「四季さんも?」

 

 そう、友達と飲みに行ってるのは俺だけじゃない。ナツメもまた、今日は友人に誘われて食事に行っている。

 多分、細かい違いはあれど俺と似た経緯と理由で。

 

「なら今日は好きに飲めるな!」

 

「明日も講義だぞ」

 

「そんなものは忘れました」

 

 あ、ハイライトが消えた。

 

「どうなっても知らんぞ」

 

「うるせー!今日はもうとことん飲むって決めてんだよ!あと色々と聞かせてもらうからな柳!」

 

「はいはい、答えられる範囲で答えてやるから」

 

 そんな釘を刺されなくとも根掘り葉掘り聞かれる覚悟はしている。根掘り葉掘り答えるつもりはないが。

 さっきも言ったが、答えられる範囲でしか答える気はないが。

 

「じゃあさ、早速聞いていいか?」

 

「…なんだよ」

 

 すると早速昭久が口を開いた。

 一抹の不安を感じながら聞き返すと、昭久は笑顔のままブッ込んできた。

 

「四季さんとヤった?」

 

「─────」

 

 絶句。

 

 まあ聞かれるとは思っていたさ。まず間違いなく聞かれるだろうなと予想していたさ。

 だからってこんないきなり、最初から聞かれるなんて思わないだろ普通。

 

「うぉい草野いきなりブッ込むなよ!」

 

「だが、気になる。おい柳、ヤったのか!?」

 

 答えられる範囲で、とは言った。俺的にはこの質問は答えられる範囲を越えている。しかしこの感じ、答えずに逃げられる気がしない。絶対に逃がしてくれない。俺が本当の事を言うまで食い下がってくる。

 

「…した」

 

「があああああああああああてめぇええええええええええええ!!!」

 

「あ、涙出てきそう」

 

「あっはっは」

 

 まあ言うしかないですよね。これあれだもん、RPGゲームでたまに出てくる二択が両方()()とかいう理不尽仕様状態だもん。

 

 ふざけんなよ。

 

「何回、何回だ!」

 

「お前らをそこまで駆り立てるのは何なんだ」

 

「うるせぇとっとと答えろ!」

 

「知るか、覚えてないわ」

 

「覚えられないくらいヤってんのか!?」

 

「違う、そうじゃない」

 

 面倒臭い、マジで面倒臭いぞこいつら。今からでも帰るべきなのか、まだ飲み始めてすぐ、素面の状態でこれだぞ。

 酔いが進んだらどうなるんだこれ。

 

「なーなー、千尋は四季さんといつから付き合い出したんだ?」

 

「話が急に変わったな」

 

「俺の予想ではイブなんだけど合ってる?ちなみに二人が初めてヤったのもその日の夜と予想してるんだけど合ってる?」

 

「…」

 

「その沈黙は肯定と受け取るぞ」

 

 ニヤリと昭久が笑う。残る二人の目がギラリと光る。

 

 あぁ、もう嫌だ。帰りたい、助けてナツメ。俺にこいつらの相手は荷が重かったんだ。いや、こいつらと友人付き合いを始めたのが間違いだったんだ。

 今から過去に戻って当時の俺に言ってやりたい。草野昭久という男と関わるのはやめておけと、後で後悔するぞと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なお、今のナツメも千尋よりかなりマシとはいえ、似た状況であるのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~Another View~

 

 千尋が昭久達に厳しい追求をされるその一方で、ナツメの方は比較的平和な飲み会が催されていた。

 追求をされない訳ではないが、恥ずかしい質問を答えさせられたりもしたが、その代わりというのも変だが参考になるアドバイスも貰えた。

 

 そのアドバイスの詳細を聞かれるのはナツメ的に少し恥ずかしい部類にはなるが。

 

「四季さんは彼氏と何かプレイとかした?」

 

「ぶっ」

 

 危うく口の中の物を吹き出すところだった。

 突然…という訳ではないのだが、それでもこんなにいきなり質問の先が向くとは思わなかった。

 

 ちなみに今彼女達の間で話されている話題は言うまでもないだろう。先程のナツメへの質問が答である。

 

「し、してないっ」

 

「ふーん、そうなんだ」

 

 ナツメと同じ席に座っているのは三人。当然、三人とも女性である。

 その内のナツメへ質問をした一人が少々つまらなそうな表情をしながら相槌を打つ。

 

 初めは平和だった。彼氏とはいつ、どこで出会ったのかとか、どこを好きになったとか、どちらから告白をしたのかとか、キスはしたのかとか。

 キスはしたかという質問の次、ナツメは処女なのかという切り込みからちょっとおかしくなった。ナツメに集中していた質問は少なくなり、四人全体に話題が行き交い、一旦ナツメへの質問責めは途切れたと思われた。

 

 そう思われた直後の、先程の質問である。ナツメの動揺は致し方ないものがあるだろう。

 

「まあ付き合い初めてまだ一月も経ってないもんね。四季さんも彼氏にゾッコンみたいだし、マンネリするのはまだまだ先か」

 

「─────」

 

 いきなり何を、という動揺の中でナツメは続いた言葉の中で気になる単語を耳にした。

 

「…やっぱり、マンネリってするものなの?」

 

 カップルのマンネリ化。デート先や行動がワンパターンになり、互いに新鮮さを感じなくなってしまう事。

 ナツメと千尋はまだ付き合い出して間もない。気にする必要はないと分かってはいるのだが、それでもどうしても気になってしまった。

 

「まあ、するよね。私も前の彼氏とはマンネリ化したのが原因で別れちゃったし」

 

「…」

 

 マンネリ化は決して珍しいものじゃない。世の中のカップルの殆どは経験がある筈だ。

 それを解消して更に仲を深めるか、それとも解消できず別れてしまうか、どちらが多いかは現代の少子化を鑑みれば明らかだ。

 

 そして、それはナツメと千尋とて例外ではない。今でこそマンネリ化など考えられなくとも、一年後二年後、下手をすればもっと早くそれに襲われる事だってあり得るのだ。

 

「あー…、ごめんね四季さん。こんな話しちゃって」

 

「え?あっ、気にしないで。大丈夫だから」

 

 一抹の不安が広がっていく様が表情に出ていたらしい。マンネリ化の話題を出した一人が申し訳なさそうに謝罪をしてきた。

 すぐにナツメは頭を振りながら返事を返すが、その表情は晴れない。

 

「ねぇ、マンネリってどういう風になるものなの?」

 

 そこで口を開いたのはやや背が小さめの幼い外見をした一人だった。この四人の中で唯一の少女だというのはこの場にいるナツメ達だけの秘密である。

 彼氏もいた事がなく、マンネリ化について気になってしまったらしい。

 

「んー。マンネリ化する有名な三つの理由が確か…」

 

 その問いかけに、マンネリ化の話題を出した一人が視線を斜め上に向け、記憶を呼び起こしながら答えていく。

 

「一緒に過ごす時間が長すぎる事と」

 

「…」

 

 千尋と一緒に過ごす時間、考えてみれば長過ぎやしないだろうか。

 大学の学科が違うため講義の時間こそ別れて過ごしているが、それ以外の時間は一緒と言ってもいい。一緒の職場で働き、一緒に帰路を共にして、どちらかのアパートの部屋に泊まって一緒に朝を迎えて、そして一緒に大学に行く。

 

 一つ目の理由は完全に当てはまる。今は全く気にならないが、後々響いてくるかもしれない。

 

「短期間で一気に関係が進んじゃう事と」

 

「…」

 

 千尋との関係、そういえば短期間で一気に進んでいる。

 イブに告白をされて付き合い、その日の内に繋がって、それから半同棲─────いや、ほぼ同棲といっていい状態になっている。

 

 二つ目の理由も当てはまってしまった。ナツメの表情が分かりやすく気分と同じく暗く沈んでいく。

 

「ちょっ、ちょっとアンタ」

 

「後は会話が少ない…え、なに?」

 

「四季さんが…」

 

「ん?…あっ」

 

 ナツメの様子に他の三人が気付き、微妙な空気になる。

 ナツメと千尋の関係がマンネリ化する理由の殆どに当てはまっている事にも気付いたのだろう。

 特にマンネリ化の理由を語っていた一人の表情は引きつっていた。

 

「だ、大丈夫よ四季さん!四季さんはまだ付き合い初めて間もないんだし、今から対策しとけばマンネリ化なんてしないしない!」

 

「対策…?」

 

「そう、対策!」

 

 ナツメが食いついた事に勢い付いたか、更に勢い増して語り続ける。

 

「マンネリ化するのは互いが相手に新鮮さを感じなくなっちゃうから。つまり、常に相手に少しでも新鮮さを覚えさせればマンネリ化はしないのよ!」

 

「新鮮さ…」

 

 まさにその通りである。互いが新鮮さを覚えつつ付き合い続ければマンネリ化はしない。

 

 しかし、だ。

 

「でも、どうすれば…」

 

 そう、問題はそこである。どうやって相手に、ナツメにとっては千尋に新鮮さを覚えさせ続ければ良いのか。その方法が皆目見当つかない。

 

「ふっふっふ…。そこは私に任せなさい」

 

 だがそれはまだ恋愛経験の浅いナツメだからこその問題。恋愛経験が深い女性ともなれば─────

 

「今からカップルがマンネリ化しない方法を、この私がっ、伝授してあげるわ!」

 

 マンネリ化させない事など、容易いのである─────!

 

「アンタさっき前の彼氏とマンネリ化して別れたって言ってたじゃない…」

 

「黙りなさい」

 

 容易いと言ったら容易いのである。

 

「…どうしたらいいと思う?」

 

 先程のやり取りを聞いて不安は覚える。しかしこのまま一人で考えても埒が明かない。

 

 そう考えたナツメは少しの間の後、口を開いて問いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここで聞いた方法をナツメが実行した結果、千尋が色々な意味で駄目になる事になるのだが、それはまだ誰も知る由もない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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