やっと今まで出てきてないヒロインの一人を出せました
といっても、主人公とろくに会話してませんが(笑)
全員揃うまで後何話かかるのやら…(汗)
「やーなーぎー?」
「ちーひーろー?」
「くーん」
「…ナズェミテルンディス?」
今日の分の講義は二講目から。という事で、講義が始まる五分前に教室に着いた…のだが。
俺を待っていたのは、血走った目をした友人達だった。
あれ、俺、知らない間に何かやらかした?いや、そんな筈はない。少なくとも昨日までは普通だったから、やらかしたとすれば昨日。しかし昨日はこいつらとは殆ど話さなかった。やらかし様がないのだ。
しかし血走った目は変わらない。断じて逃がすものかという決意が伝わってくる。
いや、ホントに何でだ。
「千尋さー。昨日は結局、四季さんと何してたんだ?」
「…あ」
この時叫ばなかった俺を誉めてやりたい。
他の三人とは違って面白そうに笑いながら問い掛けてきた昭久。そしてその質問を聞き、思い出す。
そういや俺、こいつらから逃げたんだった。四季さんとの話について追求されたくなくて。めんどくさくて。
急がなければならなかったのはそうだが、一応四季さんには遅れるかもしれないと伝えていた。これは、昨日の内に話しておくべきだったかもしれない。
今更になって、後悔の念が押し寄せた。
「さあ、話してもらおうか柳」
「昨日、四季さんとどこかで会ってたんだろ?その理由は?その時の会話の内容は?」
「…お前ら、落ち着け。別にお前らが勘繰ってるような感じじゃないから。ちょっと頼まれ事をされただけだ」
「頼まれ事をされるくらいに親しくなってるのか」
「
「何でだよ」
無情にも有罪判決を受けてしまう。別に男女の仲とかじゃないと説明したのに。というか、そこまでじゃない事くらいこいつらだって簡単に分かる筈なのに。
「いやいや、あの四季さんと普通に会話できてる時点でスゴい事だろ」
「…あー」
戸惑う俺を見て苦笑いしながら昭久が言う。
そう言われて俺も思い出す。そういえば四季さんって、孤高の撃墜王とか呼ばれてるんだっけ。そんな男を寄せ付けない様な人が突然男と会話し始めたらそりゃ…。
「いや、こうはならんだろ」
危ない、流されかけた。いや、確かに驚かれるのは仕方ないと思うし、昨日何があったのか気になる気持ちも理解できなくもない。
「だからって、有罪判決は不当だ。控訴する」
「却下」
「ふざけんな」
頑なに追求の手を止めようとしない三人。だが、本当に浮いた話なんてない。まあ、一緒の職場でバイトする事になったのは浮いた話、といえなくもないかもしれないが。
それをこいつらに話す訳にはいかない。もし話せばきっと、その噂は大学中に広まり、四季さん目当てのバイト応募が殺到するだろう。そんな戦力になりそうにない人手はいらない。いない方がマシなまである。
せめてオープンするまで、すぐに人手が欲しいという今の状況から脱するまでは、断じて四季さんと同じ職場で働いている現状を話してはいけない。
「悪いけど、本当に聞いて面白い話はない」
「まずさ、お前四季さんとどういう経緯で知り合ったんだよ」
「無視すんなや」
俺の話をガン無視して質問してくる阿呆共。他人の話を聞きなさい。
「おーい、そのくらいにしとかないと教授来るぞー」
「おっと、もうそんな時間か…。おい柳、昼休みは学食で話の続きだからな」
「…いいけど、バイトあるから早めに抜けさせてもらうぞ」
「あ?柳、バイトやってたっけ?」
「あぁ。最近始めた。コンビニ」
「へぇ。どこ?帰りにちょっかいかけに行ってやるよ」
「悪いな。お前らが講義終わるのとほぼ同時にシフトが終わる」
「…くっそ。俺も一、二年の間に出来るだけ単位とっとくんだった」
「後悔先に立たずってやつだ」
昭久達の言葉に嘘を交えて返事を返す。店は大学から近いし、オープンしたら噂になってすぐ嘘がバレるだろうが、今本当の事を話すよりはマシだ。
そうして話しているとチャイムが鳴り、音と同時に担当講師が室内に入ってくる。室内の話し声が止み、講師が講義の準備を進める。
その間に、俺は鞄の中から筆記用具と先週に出された課題のプリントを取り出した。
今日の講義は二講目のみ。この後も残る昭久達を見ていると、本当に一、二年の内に単位とりまくっといて良かった。
当時は先に帰っていく昭久達を恨めしく思ったが、今では残る昭久達を見て優越感を感じている。この気分を去年までの昭久達は感じていたのか。…ふふふ、いいものだ。
ちょっぴりご機嫌になりながら店へと急ぐ。
「おはようございます」
住宅街に建つ店の中に入る。その際に挨拶は忘れずに。
挨拶は大事。しかも今日が俺の初出勤なのだ。あまり畏まらなくても良い程度には親しくなったつもりだが、そこら辺の公私はつけなければ。
「「…」」
そう思っていたのだが。俺よりも先に来ていた…というより、その内の一人はこの店を間借りしているのだが、とにかく店内に既にいた二人、四季さんと明月さんは目を丸くして俺の方を見ていた。
「…あ、えっと。おはようございます?」
「お、おはようございます」
「…やり直していい?店に入るところから」
おかしいな。どうして二人は苦笑いしてるんだろう。俺が畏まるのはそんなに可笑しかったのだろうか。
千尋は 心にダメージを 受けた!
「ご、ごめんなさい。ただ、さっきの柳君が印象と掛け離れてて…」
確かに昨日は大分はっちゃけてしまった自覚はあるが、そんなにか。
四季さんの台詞に、明月さんがブンブンと頷いて全力で同意している。
そこまでか。
「もういいよ。ちょっとショックだったけど」
「…ちくりと言葉で刺すのやめてほしいです」
余り気にしすぎるのも小さく思われるので、スルーしてあげる事にする。とはいえ失礼な事を言われたのは事実。少しくらいの仕返しは許されるべきだろう。
「それで?高嶺はまだか?」
「高嶺君なら、言ってた通り幼馴染みの子を連れてくるって。授業が終わった後だから、まだ時間が掛かると思う」
「ふーん」
高嶺の幼馴染みはJKか。好きな奴にはとことん刺さりそうな特性だな、幼馴染みJKとか。
しかし、授業が終わってからとなると、四季さんの言う通りまだ大分時間がある。
「それなら、高嶺達が来るまでどうする?やるべき事は色々とあるけど」
店の内装について、メニューの種類について、紅茶の淹れ方について。高嶺達が来る間に考えられる事はたくさんある。
「ていうか紅茶だ。紅茶を淹れる練習をしよう。目下最優先事項はそれだ」
「柳さん、目が欲望で血走ってます…」
「最優先事項って、柳君がしたいだけでしょ…。いや、確かに紅茶の事も練習しなきゃいけないけど」
二人の言う事も一理ある。紅茶仲間が増えるのが嬉しくなるのは紅茶好きとして仕方のない事なのだ。
「そんな呆れた顔をしないでくれ」
うん、仕方ない事なんだよ。だからさ二人とも、そんな冷めた目でこっちを見ないで。
分かった。分かったから、もう言わないから。
「…はぁ。でも、ナツメさんの言う通り、紅茶を淹れる練習もしなくちゃいけないですよね」
「…いや、普通に二人が淹れる紅茶は美味いし。そんなしなくちゃいけない、て程じゃないだろ。昨日、練習を強制させた俺が言うのもあれだけど」
本当に、昨日あんなに調子に乗りまくった俺が言うのはあれなんだけど。四季さん達が淹れる紅茶は本当に美味かった。相当に練習したのがあの味からは窺えた。
だから、明月さんが言うような、練習をしなくてはいけないという程ではないと本気で思ってる。
「でも、柳君の味には敵わない」
「…」
「ほら、そこは否定できない」
まあ、四季さんの言う通りでもある。自慢のようで嫌だが、俺が淹れた紅茶の方が正直美味い。だから昨日、あんなに練習させたのだ。
大体、教える方がまずい紅茶を淹れるのは駄目だろう。
「だから、柳君」
「…分かったよ」
根負けする結果となった。四季さんだけでなく、明月さんもその気でいるらしい。これで一対二、食い下がっても押し切られるだけだろう。
まず第一、二人がその気なのなら俺にとっても好都合。紅茶の教授が、今の俺にとって最もしたい事なのだから。
カウンターにて紅茶を淹れる過程を熟す二人の姿を見続ける。お湯を沸かす時間、カップとポットを温める時間、茶葉を蒸らす時間。目を光らせて二人の作業を見つめる。
時折二人に改善点を指摘しながら、だが手出しはせず、二人の紅茶が出来上がるのを待つ。
「…美味しい、けど」
「やっぱり、柳さんの淹れた紅茶の方が美味しいです」
「年季が違うんだよ。そんな簡単に再現されて堪るか」
不満そうな顔をしている二人だが、入った紅茶は昨日よりも断然美味かった。これならば、オープンする頃には紅茶の完成度は相当高くなるだろう。
俺が淹れる紅茶には敵わないだろうが。そこは絶対に譲れない。すぐに追い付かれそうとか不安に感じてたりなんかしてないからな。
「…そろそろ来ても良い頃か」
そうして何度か紅茶を淹れる練習をしている内に、高嶺が幼馴染みを連れて来ていてもいい時間になっていた。
窓からは紅の陽射しが差し込み、もうすぐに外は暗くなり始めるだろう。
「そうですね。もう授業も終わっているでしょうし…」
俺の後に明月さんが口を開いた時だった。入り口の扉が開き、来客を報せるベルの音が鳴り響く。
高嶺達が来たか、と、俺は思っていた。四季さんと明月さんもそう考えていただろう。しかし、扉の所に立っていたのは予想とは違った人物であった。
「失礼しまーす…」
遠慮がちに店内に入ってきたのは一人の少女。学生服を着ているため、恐らく高校生。
もしや、この子が高嶺の幼馴染みか?一緒に来ると言ってた筈なのだが。
「えっと…。大変申し訳ありません。まだオープンしていないんですが…」
「あ、そのお客として来たんじゃなくて…。表の張り紙を見て、応募させてもらえたらと思って」
「…」
表の張り紙を見て、という事は、高嶺の幼馴染みではないらしい。もし高嶺の幼馴染みであれば、バイト応募の経緯は高嶺から聞いた、と答えるはずだ。
「え、あれ?応募、してるんですよね…?」
「あ、ごめんなさい。昨日の今日で来るとは思ってなくて…」
呆気にとられていた四季さんを見て、少女が不安そうに目尻を下げる。慌てて四季さんが取り繕う。
正直、俺も驚いた。四季さんと同じで、昨日張ったばかりで、まさか今日来るとは思っていなかった。
「それじゃあ、えっと…。早速だけど、面接をしたいのだけど、大丈夫?」
「はいっ、大丈夫です」
四季さんの問い掛けにニッコリと笑いながら答える少女。ふむ、笑顔は良しだな。自然に笑えているし、初めて会う四季さんとの会話の仕方を見る限り、接客も大丈夫そうだ。
会ったばかりだし、断定は出来ないが。
「面接か…。さすがに一対三はないよな」
「そうね…。どうしようか」
「んー…。とりあえず、ナツメさんは確定として、私と柳さんのどちらかが入るか、それともナツメさん一人で担当するか…」
「その、こういうの初めてだから、どちらかには居て欲しいかな…」
「ふむ…。あ、そういやまだ俺、契約書にサインしてないんだった」
「あぁ、それなら私が残りますね。閣下は今裏にいらっしゃいますから、柳さんはそちらで契約の方を」
「了解。それじゃ、面接の方はよろしく」
二人に向かって軽く手を上げてからその場を立ち去り、バックルームへと入る。そこには明月さんの言う通り、ミカドがいた。
肉球で何か資料と思われる紙を器用に握り、そこに書かれた文字とにらめっこしていた。
「おーいミカド~。印鑑持ってきたぞ~」
「む、ようやく来たか。それでは、契約書を持ってくるから少し待て」
どうやら俺を待っていたらしい。店に来ていた事は気付いていただろうから、ホールに呼びに来れば良かったのに。
ミカドが何処かに立ち去ってから少しして、契約書やら何やらを持って戻ってくる。ミカドに説明を受けながら、最終的には契約書にサインと判を押して、晴れて俺は喫茶ステラの店員となったのだった。