喫茶ステラと死神の蝶と見える人   作:もう何も辛くない

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こんな奴の話に一話使うなよと思われるかもしれません。
けどまあ、見てやってください。


第八十一話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 切っ掛けはほんの些細な事だった。落とし物を拾い届けて貰った、ただそれだけ。

 けれど、落とし物を手渡された時、正面から見たその人の姿に一目で惹かれてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 小泉雅紀は今でこそ典型的な陽キャ、チャラ男として定着しているが大学に入ってすぐは今とは真反対の性格だった。

 無造作に伸びた髪は整えないままボサボサで、身につける衣服も基本はゆったりとした動きやすさを重視したもの。

 黒縁の眼鏡を掛け、まあ今風に表すとしたら陰キャというのに相応しい風貌。

 

 とはいえ決して孤独という訳ではなく、友人は少ないながらちゃんと作り、休み時間に講堂の中心で男女のグループで騒ぐ人達を眩しく思いながらも今の自分に不満は全く覚えず日々を過ごしていた。

 あの日、あの人と出会うまでは。

 

『ねぇ。これ、落とし物』

 

 そう声を掛けられたのは教室を移動中、友人と談笑しながら歩いている時だった。

 振り返るとそこに立っていたのは自身を見上げながら何かを差し出す女の子。

 

『え?…あっ』

 

 一瞬、女の子の美貌に目を奪われそうになるが小さな掌に乗った鍵を見て我に返る。

 咄嗟にズボンのポケットに両手を突っ込み、中に何もないと確認してからもう一度女の子の掌の上の鍵を見る。

 

 それは大学に通う時に使う自転車の鍵だった。いつもズボンのポケットに入れて歩いているのだが、気付かない内に落としてしまったのをこの子が拾ってくれたのだとすぐに悟る。

 

『あ、ありがとう…』

 

『どういたしまして。次からは気を付けて』

 

 特にその子は笑顔を浮かべた訳でもない。その声が柔らかかった訳でもない。むしろ決して突き放している様ではなかったが、愛想があった訳ではなかった。

 それでも、その言葉には不器用な優しさが込められている様に感じたのだ。

 

『─────』

 

 声に魅せられてしまえばその子の所作全てに目を奪われてしまうのは自然な流れ。

 こちらのお礼に返事を返してから、横目で見流しながら振り返る姿。その際に長い黒髪が揺れる様。前方で立ち止まっていた恐らくその子の友人であろう二人に小走りで駆け寄っていく背中。

 

 その全てに視線が釘付けとなる。そして、直後に悟るのだ。

 今、自分はあの女の子に一目惚れをしたのだと。

 

 しかし一目惚れをしたのはいいものの、今女の子が走っていった方向と自分がこれから向かう教室の方向は逆だ。つまり、少なくとも自分とあの女の子は同じ学部学科ではない。

 それに学年も分からない。もしかしたら先輩の可能性だってある。というより、その可能性の方が高い。

 

 もしそうだとすれば、さっきのであの子との関わりは最後になるかもしれない。そうなる前に少しでもあの子との関わりを繋げたい。

 そうは思うものの、話しかける勇気は出ない。そうこう迷っている内に、あの子の背中は遠く離れてしまった。

 

 結局その女の子との関わりは持てず、それでも関わりを持ったところでと諦めもすぐについた。

 それなのに、ふとした時に目に焼きついたあの子の顔が脳裏を過る。

 

『四季、ナツメ─────』

 

 あの子の名前を知ったのはそれから半年ほど経った後だった。

 クリスマスが近くなり、陽の男共がこぞって彼女をデートに誘い、その全てが断られた事が知れ渡る。

 誰が言ったか、()()()()()()なんて二つ名と一緒に四季ナツメの名前と美貌は学内中に広まった。

 

『…そうか。彼氏はいないんだ』

 

 異性の誘いは全て断った四季ナツメは、クリスマスは同性の友人達と過ごしたという話を聞いた雅紀は内心安堵する。

 そしてそれと同時に、彼女の隣に立ちたいという欲望が湧いて出た。

 

 彼女と会ってから、心を惹かれてから半年。彼女を思わない日はなかった。彼女の事を考えずに過ぎた日なんて一日もなかった。こんなにも誰かを好きになる事なんてなかった。

 こんな自分じゃ彼女と釣り合う筈がない。だけど─────いつか四季ナツメの隣に現れるだろう、彼女と心を通わせる男は自分でありたいと思ってしまった。

 

 初めてファッション雑誌を買った。それに習って、初めて自分で服を買いに行った。

 初めて美容院に行った。ただ邪魔にならないよう短くするだけだった髪型を初めて整えてもらった。

 

 そうやって見た目を明るくしていくと、何故か心もまた明るくなった気がした。自分に対して全く抱く事が出来なかった自信が少しずつ持てるようになった。

 そうして変わっていく雅紀の外見と態度は周りにも伝わり、雅紀の交友関係は次第に広がっていく。そして進級する頃には、以前までは講堂の端でただ眺める事しか出来なかった陽キャグループに混じって話す事が出来るようになっていた。

 

『─────』

 

 二年に進級すれば当然、履修する科目も変わる。様々な科目の中には、他の学科の学生達と合同で講義を受けるものもある。

 

 雅紀は二年前期のとある講義にて、四季ナツメと約一年ぶりの再会を果たす。

 去年までの彼ならば講堂の端でただ眺めるだけだっただろうが─────今の彼は違う。四季ナツメに話しかける人達に混ざり、一緒に話す事が出来る。

 

 彼女が話す姿を、彼女が笑う姿を近くで見る事が出来るのだ。

 

『好きです!付き合ってください!』

 

 人生で初めて告白を受けたのは、二年に進級してすぐの事だった。

 相手は同じ学科の女の子で、雅紀がイメチェンをしてからよく話すようになった相手。

 

 告白は断った。自分には好きな人がいるから、と。相手は一筋の涙を流しながら、それでも笑ってこれからも友達でいてください、と言ってくれた。

 それからもその子とは僅かな気まずさはありながらも友人関係を続けた。自分に好きな人がいるという事を他人に言わなかったのは物凄くありがたかった。

 

 それから数ヶ月経った、夏休み中の日の事。二十歳を迎えた雅紀は数人の男女グループで飲み会に参加し、そして参加者の一人の女性とシた。初体験、つまり童貞を捨てた。

 別にその人が好きだった訳ではない。雅紀の好きな相手は一年前からずっと変わっていない。ただ、二人で酔っぱらい、終電も逃して帰れず近くのホテルで部屋をとり、その流れでヤる事になった。

 それからもその人との曖昧な関係は続いた。明確に恋人関係にある訳ではないが、週に何回かは二人で会ってどちらかの部屋、或いはホテルに行って─────そんな関係。

 

 ふと思う。もしかしたら、今の自分ならばいけるのではないかと。

 ずっと考えていた。あの子と釣り合う男になるためにどうすればいいのか。

 今なら、今の自分なら、四季ナツメと釣り合うのではないか。

 

『ごめんなさい』

 

 流石に告白するのは無謀だと分かっていた。だから、今度どこかに遊びにいかないかと誘ってみた。

 その結果、本当にあっさりと断られてしまった。断ったけど実は、なんてそんな希望も感じさせない一刀両断だった。

 本人にそんなつもりはなかったのかもしれないけれど、雅紀にはそう感じられた。

 

 何がダメなのだろう。どれだけ考えても雅紀には分からなかった。

 一度断られたからといってすぐに引いてしまうのがダメなのだと、雅紀には分からなかった。

 真剣に、何度も、本気で自分の好意をぶつけ続ければ良かったのだ。

 

 しかしその勇気を持てなかった。そこまで図々しくなれなかった。本気で好きだからこそ、しつこく言い寄る事が出来なかった。

 

『ねぇ、私たち付き合わない?』

 

 傷心中の雅紀にそう告白したのは、曖昧な関係を続けていた女性だった。そして、雅紀もその告白を受け入れる。

 正直まだ、心の中には四季ナツメが居続けていた。あんなにあっさりフラれたというのに、もしかして自分はマゾなのではと苦笑しながらも、雅紀は彼女を好きでい続けていた。

 

 付き合い始めたのは良いものの、別に互いに好き合っている訳ではなかった。だから、その実態は自分が思う恋人関係とは違っていた。

 というより、付き合う前と殆ど変わらなかった。変わった事といえば、たまにデートをしに行く様になったくらい。

 

 そんな付き合い方なのだから、雅紀の気持ちは動かない。その女性ともっと恋人らしい事をしていれば雅紀の気持ちがその女性に傾く事もあったのだろうが、他の女性と付き合いながらも雅紀の心は四季ナツメに向けられたままだった。

 

 当然、付き合いは長く続かない。相手の女性も本気で雅紀の事が好きな訳ではないため、いつしか他に想いを寄せる男が現れる。そうなれば当然、雅紀は女性に別れを告げられる。

 雅紀の初めての交際は何の味気もなく終わりを告げたのだった。

 

 以降、雅紀は特定の相手と恋人関係になる事はなかった。いつかの様に流れで誰かと関係を持つ事はあっても、それ以降の関係には至らない。

 そんな生活を続けていく内に、雅紀はふと気付く。四季ナツメにはフラれたが、自分はモテる方なのだと。

 

 だから自信を持って良いのだ。自分はもう以前までの自分とは違う。講堂の端で誰かを眺めるだけだった自分とは違う。

 また断られるかもしれない。でも少なくとも、今の自分には四季ナツメを誘う権利はある筈だ。

 

 そんな権利など、どこにもないというのに。そうやって相手を特別に見上げてしまう事こそ、四季ナツメに一番してはいけない事なのだと気付かないまま。

 

 そうして大学生にて二度目の進級。前期は何も変わらずあっという間に過ぎていき、後期に入る。

 雅紀の想いは未だに四季ナツメに向けられ続けていた。時折講義で一緒になる度に()()()()()()話し掛け、()()()()()遊びに誘う。

 

 怖かったのだ。()()()()()()行かないと、()()()()()誘わないと、断られるのは分かってる感を出さなければ誘えなかった。真剣に誘ってまた断られてしまったら、と考えると怖くて仕方がなかった。

 

『四季ナツメに彼氏が出来た』

 

 そんな噂が流れてきたのは夏の残暑も感じられなくなった秋口の事だった。

 友人に知らない男と四季ナツメが並んで歩いている画像を見せられながらそんな話をされ、本気で驚いた。

 

『彼氏じゃない。普通の男友達だから』

 

 そうしてあっさりと噂は当の本人に否定されたが、今度は別の驚きが広がる。

 ()()()、と四季ナツメは言った。あの学内の高嶺の花が、孤高の撃墜王があの誰とも知れない男を()()()と言ったのだ。

 

 思えばあの画像に写し出された彼女の表情は楽しげだった。あんな綺麗な彼女の笑顔を雅紀は見た事がなかった。

 その笑顔を向けられているのは自分ではなく、画像に写っていた冴えない男だという現実に、小さな怒りが湧いた。

 

 以降、四季ナツメが学内で知らない男と一緒にいるのを見たという話をちょくちょく耳に挟む様になった。

 その知らない男というのが誰なのかは想像するに難くはなかった。

 

 もう怖いなんて言っていられない。雅紀は学食でその男と二人きりで昼食を摂っていた四季ナツメの姿を目にして、限界を迎えた。

 

『あっれ、四季さんじゃーん』

 

 いつもの軽い調子で彼女に話し掛ける。その瞬間、雅紀が現れる直前までは真剣でありながらどこか楽しそうだった四季ナツメの表情が固まる。

 

『なになに、何の話?俺も混ぜてよー』

 

 気付かないふりをして軽い調子で話し続ける。

 

 違う、そうじゃない。

 

 分かっている。こんな感じで話し掛けるのは間違っているのは分かっている。

 恐怖を振り切って話し掛ける事は出来た。それなのに─────

 

『…なに?もしかして、噂通りこいつと付き合ってたりする?』

 

『もしそうだとして、貴方と関係ある?』

 

 どうしてこうなってしまうのだろう。雅紀は自身の失敗を内心で嘆く。だがそれだけではない。

 雅紀はあの噂が流れたその日、聞いたのだ。四季ナツメ本人にあの噂は本当なのか、と。そして噂は違うという答えも聞いた。

 

 その事を、四季ナツメは覚えていないらしい。四季ナツメにとって、自分は覚えるに値しない男らしい。

 

 自分は一体、何をやっているのだろう。

 

『ねぇ君。この人、俺に譲ってくんない?』

 

 違う。

 

『ほら、君と四季さんじゃ釣り合わないというか。君じゃあ手に負えないでしょ』

 

 違う!

 

『安心して、代わりに君ピッタリの女の子を紹介するからさ』

 

 そんな事を言いたいんじゃない!

 

『四季さんを譲る?四季さんは物じゃねぇんだよ。何だよ譲るって。王様気取りか?てめぇの方こそ調子に乗ってんじゃねぇ』

 

 本当にその通りだ。自分がどれだけ愚かか、雅紀には分かっていた。言われずとも、分かっていた。

 

 それをこの男にだけは言われたくなかった。他の誰に言われようとも、この男にだけは。

 

『四季ナツメに彼氏が出来た』

 

 またそんな話が浮上したのは二週間の年末休みが明けた初日だった。誰もがまたか、と思った事だろう。

 しかし、ある一枚の画像を目にして誰もが驚く事になる。

 

 何故ならその画像に写されているのは、以前の噂でも挙げられていたあの男と腕を組み身を寄せる四季ナツメだったのだから。

 

 自分ではない男の傍らで微笑んで、身を寄せて、幸せそうに頬を和らげるその人の姿はどうしようもなく雅紀の胸を痛ませた。

 

『付き合い始めたのはイブの日らしい』

 

 そんな声が聞こえて、雅紀はすぐに心当たりを浮かべた。

 雅紀はイブの直前、勇気を出して四季ナツメをデートに誘った。結果は失敗。雅紀はまたもや言いたい事を口には出せず、更にあの男の割り込みで食い下がる事も出来なかった。

 

 男はその時、クリスマスに彼女は自分と出掛けるのだと言っていた。その言葉に四季さんも同意していたため引き下がったが、実際は自分を引き下がらせるための方便だと考えていた。

 しかしそれは方便ではなく、二人は本当にデートをして、そしてそのデートで想いを通わせた。いや、もしかしたら前から通い合っていた想いを確かめ合ったのか。

 どちらにしても、もう希望はなくなった。それだけは確かだ。四季ナツメは自分ではない誰かのものになった。

 

『…なんで』

 

 全てが終わった。

 

『…なんで』

 

 口から漏れる疑問とは裏腹に、雅紀には分かっていた。自分は間違えたのだと。

 

『俺が先だったのに』

 

 間違えたから、好きな人と心を通わす事は出来なかったのだと。

 

 分かっていたのに、溢れる負の感情は止められないまま─────

 

『良イ憎シミダ』

 

 雅紀は邪心の声に耳を傾けてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バカだろ、お前」

 

 全てを見終えた俺は、どことも知れぬ場所に立っていた。周囲に何がある訳でもない、どこまでも続く闇の中で()()()()()()向かい合って立っていた。

 

「…やっぱ、そうだよな」

 

「ナツメはな、最近のお前みたいなウェイ系は苦手なんだ。外見にあまりに無頓着だったり話するのにどもりまくるとか、そういうのは別として─────大体ナツメはどっちかっていうと陰キャ寄りだからな」

 

「…そうなのか?」

 

「陽キャのノリがうざいって何度も聞かされてる」

 

「…そっか」

 

 どこか憑き物がとれた、そんな穏やかな表情を浮かべてそいつは小さく笑う。

 

「やっぱ、間違えてたんだな」

 

「陽キャと陰キャとどっちがモテるかって言ったらまあ陽キャなんだろうけど…、ナツメにとっては違うって事だな」

 

「いや、俺の場合は陽キャとか陰キャとかそういう問題じゃないだろ。改めて思い返したら屑過ぎる」

 

「…まあ、そうともいう」

 

「フォローなしかよ」

 

 いやだって、実際こいつの言動屑だったし。超屑だったし。フォローのしようがないというか、仕方ないだろ。

 

「…でもさ、怖かったんだよ。ああやって軽い調子で、冗談を装ってないと。本気で向き合って、それでまた断られたらって思うと…、怖かった」

 

「…」

 

「…それが間違いだったんだよな。怖くても踏み出すべきだった。それでもフラれてたかもしれないけど…、こんな風にはならなかったんだろうな」

 

「…後悔、してるか」

 

 笑いながら、だけど震えるその声が語っていた。

 

「してるに決まってんだろ。出来る事ならあの高嶺って奴に頼んで世界を巻き戻してほしいわ。そんでやり直す。やり直して今度こそ四季さんを彼女にする」

 

「やめてくれ」

 

 なんか声のトーンがマジで洒落にならない気がした。本気でやめてほしい。今のこいつが本当に戻れたらマジで四季さんを落としかねない気がするから。

 

「…でも多分、戻ってもダメなんだろうな」

 

「は?なんで?」

 

 本気でそう思ったから、次のこいつの台詞に思わずそう聞き返してしまった。

 

「だって自信ねぇもん。俺が戻って、本気で四季さんと向き合って、それで付き合えたとして─────あんな幸せそうな顔させる自信がねぇ」

 

 俺に問い掛けに笑って、そう答えた。

 

「悔しいけど、本当に悔しいけど。心に満ちる憎しみの中でほんの少しだけ思ったんだ。きっと二人は運命の二人なんだろうなって」

 

「…小泉」

 

「柳。俺はお前を見てるからな。もしお前が四季さんを泣かしたら─────奇蹟を起こしてやる」

 

「やめろ。洒落にならんから。お前消されちゃうから」

 

 洒落にならない脅しに即座にそう返すと、小泉は冗談だよと笑い飛ばす。

 そうして一頻り笑った後、小泉は一つ大きく息を吐いてから俺の方へ視線を向けた。

 

「…今まで、そして今回の事も。悪かった。直接謝れないから…四季さんにも伝えてくれ」

 

「…あぁ」

 

 星詠みの瞳で小泉の魂を覗いた俺はとっくに気付いていたが、小泉自身も気付いていたらしい。

 それも当然か。()()()()()()()()は、自分自身が一番分かる筈だ。

 

 神という強大な存在を宿し続けた小泉の肉体は限界を迎えている。たとえ今すぐに男神が小泉の肉体から離れたとしても、もう死から免れる事はないだろう。

 

「じゃあな。…ありがとう」

 

「─────」

 

 一人の女を愛し、愛するが故に狂ってしまった一人の男の人生の終わりを見届ける。

 同じ女を好きになった男として、好きになった女と心を通じた男として、小泉雅紀の最期を見届ける。

 

 小泉雅紀は笑っていた。きっと、この笑顔が彼の本来の、心の底からの笑顔だったのだろう。

 ナツメが好きそうな、穏やかな笑顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




皆大好きBSSです。
え、好きじゃない?
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