現在、我々人類はヒュージと呼ばれる地球外生命体によって絶滅の危機に瀕しており、そのヒュージを唯一倒す事が出来る決戦兵器「CHARM」に高い適応率を持つのは10代の少女──通称『リリィ』である……とは、以前クラスメイトに見せられた『ワールドリリィグラフィック』の冒頭に書かれていた文章だったか。
……こんな田舎での数少ない娯楽だったから結構面白く見た記憶があって、正直いって彼女達『リリィ』の事など何処か遠い世界での話だと思い『同じ年頃の女の子が凄い持て囃されてるんだなぁ』とか思ったりもしたのだが……。
「……そりゃあ
『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!!』
そんな俺は現在“球体に三本の足がついたバケモノ”──ヒュージから逃げる為に、地元の林道を全速力でダッシュしているのでした……何故こんな事になったのかと言うと、俺が住んでいた甲州の田舎町に突然『ヒュージが来たから避難しましょう』的な避難勧告が出されたのだ。
……まあ、こんなご時世(人類絶滅寸前)だから例えど田舎であっても避難訓練は幼い頃から念入りにやらされているので、俺はクラスメイトと一緒に学校から街が指定した避難区域までスムーズに移動出来て、そこで他の家族の無事を祈りながら大人しく待機していたのだが……。
『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!!』
「まさかヒュージが避難所にエントリィィィィ! してくるのは予想外だったよ!!! しかもコイツ何故か俺を追ってくるしぃ!!!」
なんと、その避難所にまでもヒュージが乗り込んで来たのだ……当然そこを警備していた防衛軍の人達が応戦してくれたが、それであっさり倒せるなら今頃人類は絶滅寸前まで追い込まれてはいない訳で避難所は崩壊、そこに居た人間達は散り散りに逃げる事になってしまったのだ。
……一緒に避難したクラスメイトは無事かなとも少し思ったが、それよりも後ろにいる球野郎から逃げ切る必要があるんだよな……正直さっきから過去の事ばかり思い出すんだが、これってもしかして走馬灯なんじゃ……。
『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!!』
「くそっ! 距離が縮まって来てるな。障害物を利用して逃げるのもそろそろ限界か……?」
これまでは向こうの図体がデカい事を逆手に取り、田舎育ち故の山歩きで鍛えたなんちゃってパルクール擬きで建物や木々の間とかを通ってどうにか凌いでいたんだが、元々の速度が違いすぎるからそろそろ追いつかれそうだな。
……それにクラスメイトから『体力バカ』と言われてる俺でも、この長時間の全力疾走で流石に息が切れて来たし……と考えたその時、背後にいるヒュージから“凄く嫌な気配”を感じ取った俺は慌ててその場を飛び退く。
『……◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!!』
「あっびゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」
その直後、頭上10メートルぐらいまで飛び上がったヒュージが先程まで俺がいた場所に急降下し、そのまま地面を盛大に叩き割った……俺はギリギリで避けていたから直撃こそしなかったものの、ヒュージが地面に激突した際に発生した衝撃によって吹き飛ばされてしまった。
……俺は地面を転がりながらもどうにか体勢が建て直したが、それよりも早くヒュージはこっちに向かって突進して来ていた……ダメだ、彼我のスペックが違いすぎてこの距離だともう逃げ切れない。
「……そこの君! 伏せるんだ!!!」
「ウェイ⁉︎」
『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!?』
……と思ったその時、突然後ろの方からそんな指示が飛んで来たので俺は咄嗟にその場に屈み込んだ……直後、俺のすぐ上を“青色のエネルギー波”が通り過ぎ、そのまま俺の眼前まで迫っていたヒュージに当たってあっさりと吹き飛ばしたのだった。
更に続いて後方から跳んで来たらしい『黒い学ランを着てマントを羽織った金髪碧眼の青年』が俺の目の前に舞い降り、手に持った機械で出来たゴツい両刃剣──俺は詳しくないけど多分CEARM──をヒュージに向かって構えながら通信機を使って何処かに連絡を飛ばしていた。
「こちらアルトリウス、ポイントC−57でミドル級ヒュージに追われていた要救助者を一名発見。これより避難民の保護の為にヒュージとの交戦に入る。……そこの君、この先を真っ直ぐに行けばヒュージに会わずに避難所まで行けるはずだ。走れる様なら急いで逃げてくれ」
「あ、はいぃっ!!!」
突然の状況の変化に惚けていた俺だが、彼のその言葉を聞いて慌てて身を翻して全力疾走を再開した……その次の瞬間、背後から何か重い物同士がぶつかる様な轟音がしたが、俺は彼の指示通りに決して振り返る事無く全速力でその場から逃げて行ったのだった。
……ちなみにこの後、俺こと“
──────◇◇◇──────
9月◯日
さて、あの地獄の様な一夜から二日程経ち甲州でのヒュージとの戦闘とかも終結したらしく避難所が落ち着きを見せてきたので、ちょっと自分の気持ちとかを整理する為に日記をつけてみようと思う。
日記なんて付けるのは小学校以来だが、何せ元々田舎な上に急ごしらえの避難所ではろくな娯楽が無いからな。暇つぶしに野山を駆け回るのも迷惑になるし、受験前だから勉強しようにも勉強道具は置いてきてしまったし、避難所の手伝いとかもしてるけど中学生の俺に出来る事はそう多くないしでぶっちゃけ暇なのだ。
……まあ、こんな事を考える事が出来るだけ俺は幸運なのだろうが。あの時襲われた避難所にいたクラスメイトや教師の何人かはヒュージに殺されてしまったのだし……本当に俺の命の恩人である名前も知らない彼には感謝しかないな。
幸いなのは別れて避難していた家族は無事だった事ぐらいか。正直家族と再開した時には凄くホッとした。
……しかし、こんなにあっさり『当たり前の日常』というのは崩れ去ってしまうものなんだな。心の何処かではヒュージもリリィも何処か遠くの世界に話だと思っていたのかもしれないが、別にそんな事も無くそれこそが紛れもなく俺が生きる現実なんだろう。
──────◇◇◇──────
9月△日
……うむ、先日の日記を改めて見直してみると我ながら訳の分からない事を書いているな。特に最後とか厨二感が凄くて思わず悶えてしまうぞう。
まあそれはともかくとして、少し聞いた話だと大体のヒュージは殲滅し終わり甲州の状況も大分落ち着いたが、その殆どが『陥落指定地域』になってしまった様だ……ちなみにこの陥落指定地域は「広域エリアディフェンス装置の機能停止」と「ガーデンの国定守備範囲の維持不可能」などでヒュージに対する防衛が出来なくなった地域の事を言うらしい。手伝いとかで仲良くなった防衛軍のオッチャンに聞いた。
……まあ、それで家を失った人にも国の方から支援と生活の場所が提供されるらしいとも言ってたけど。ヒュージが倒された後もその爪痕は残り続けるらしい。例えば受験予定だった高校が全滅した俺の様にorz。
後、受験に関してなんだが最近うちの一つ下の妹が『あの時助けてくれた黒髪で黄金の剣を持った天使様に会いに行くから、私はリリィになって百合ヶ丘を目指す! これは運命の出会いなの!!!』てな感じの事を言い出したんだが……やっぱりあの一夜は誰の心にも深い傷を与えてしまっている様だ。
まさか普通の田舎娘だったうちの妹が『天使』とか『運命』とか怪しい宗教ぬ嵌ったみたいな感じの事を言い出す程にショックを受けているだなんて……。
確かオッチャンから防衛軍の方で身体や精神を病んだ人の為の健康診断を無料で受けさせてもらえると言っていたし、明日辺り一度連れて行った方がいいかな?
──────◇◇◇──────
9月□日
そんな訳で今日は妹を連れて健康診断を受けに行ってきた……俺も付いて行ったのは、目立った怪我は無いとはいえヒュージに追いかけ回された以上は一度見てもらった方が良いとオッチャンに言われたしな。
……というか『ヒュージに追いかけ回されたんなら手伝いとかせずに真っ先に健康診断を受けに行け!』と両親とオッチャンに怒られた。色々あったし俺自身に目立った怪我が無かったから言うのを忘れてたわ。
ちなみに妹のあの発言は『先日ヒュージから逃げる時に助けてくれた百合ヶ丘女学園のリリィに憧れたので、自分もリリィになって百合ヶ丘に入学する』という意味だったらしい……『憧れのお姉様を追いかける』なんて百合アニメの主人公みたいな事を頭お花畑な表現で言いおって、実妹がいきなりそんな事を言い出す兄の気持ちになれ。昔から同性に好かれるタイプだとは知っていたが。
……と、ちょっと頭ハッピーセットな妹にイラッとしたので『お前以前の健康診断の時のスキラー数値30ぐらいだっただろうが。確かリリィになる為には最低50は必要だからな。……以前名前が『りり』なのにリリィ適正無い事でからかわれたのをもう忘れたのか? ちなみに俺のスキラー数値40はあったぞ』と言って現実を見せて差し上げた。
尚、この『スキラー数値』というのは
更にリリィをリリィ足らしめる決戦兵器CHARM(
……このスキラー数値って健康診断で測られるリリィの適正を表す数値としか知らなかったけど、そういう細かい設定があったのか。
そんな感じで妹には話したのだが『ううう……でも、もしかしたら数値が上がってるかもしれないでしょ⁉︎』と言って女性職員さんに凸しやがったので、仕方なく諦めさせる事も兼ねて当初の予定であった健康診断を受けさせたのだが……この妹、マジでスキラー数値が50になってやがった。
職員さん曰く、昔はスキラー数値が10ぐらいだった人が何かのきっかけで数値が一気に上がって80ぐらいになったという例も過去にはあるのでそこまでおかしくは無いとの事だが……数値が書かれた紙を見せてドヤ顔してくる妹がウザいな。男である俺に勝っても意味ないだろ。
ちょっとイラッとしたので、その後に俺も健康診断受けるついでにスキラー数値を測ってみたら何故か“70”になってた……とりあえず妹には現在値と上昇数値含めて勝ったのでドヤり返しておいたぜ。
女性職員さん曰く、スキラー数値の平均値は十代女性が50〜60、十代男性が20〜30らしいので俺のこの数値はかなり珍しい物の様だ。
まあ、そんなすったもんだあったりしたが妹は数値的に最低限の条件を満たしていたので、これからは百合ヶ丘女学園を目指して頑張るそうだ……ただ、俺が女性職員さんにこっそりと聞いた話だと百合ヶ丘のリリィのスキラー数値の平均は『80代後半』であり、その殆どが中等部からのエスカレーター組か既に実戦経験済みとかの優秀なリリィなのだとか。
……さて、この事実を浮かれている妹に伝えて『少女よ、これが絶望だ……』するべきなのか、悩むところだな。
──────◇◇◇──────
10月◯日
この世界には知らなくても良い事実もあるよね! ……と、“目指せ! 百合ヶ丘女学園合格! ”と書かれたハチマキを頭に巻いて、買い込んだラムネを飲みながら必死に机に齧り付きながら勉強をしている妹を見て俺は思いました。
……うちの妹が思い込んだら一直線な所がある事は知ってたが、今回のコレは今までにないレベルだな。よほど例の『天使様』とやらに会いたいと見える。
まあ、今から受験勉強する事自体は良い事だし態々やる気を削ぐ事を言う必要は無いよな……調べた所によると百合ヶ丘を記念受験する人は結構いるみたいだし、これだけ勉強すれば百合ヶ丘は無理でも他の滑り止めで受けたガーデンには入れる可能性も高いだろうし。
後、家族の方も妹がリリィを目指す事に関しては反対しない方針だ……元々割と放任主義だったし、理由はどうあれ妹がこれだけ本気で何かを成そうとしているのは初めてだから出来る限り応援したいって事らしい。
……それにガーデンって基本的に国や企業がお金出してるから学費が安いんだよね。新しい家とかは用意されたし仕事も続けられてるみたいけど、やっぱりウチの生活は結構厳しいみたいだし……俺もリリィ目指してみるかな。丁度スキラー数値は70あったから条件は満たしてるから。
……こう考える様になったのは、先日『甲州撤退戦』と呼ばれる様になったあの事件の犠牲者の合同葬儀があったからな。この時にクラスメイトや教師を含む多くの人がヒュージの犠牲になったのだと俺は改めて思い知ったんだ。
それに撤退戦でヒュージに追いかけ回されたり、それをリリィに助けられたりもしたから色々と思う所はあるし……何より受験する高校は全滅しちまったしなぁ(一番重要)
……ただ、ガーデンって女子校しか無いイメージだったんだけど男も入れる所ってあるのかね。受ける高校をもう一度探す必要もあるしちょっと調べてみるか。
──────◇◇◇──────
10月△日
アレから調べた所によると、今までリリィの育成機関であるガーデンにはちゃんと男子校もあるらしい……日本だとたった一校だけだったが。
……その名も『私立
他にも紹介文には理事長が『南極戦役』の英雄『風鳴弦十郎』氏で、経営母体はCHARMの製造を始めとする様々な対ヒュージ研究を行なっている『ウェルキンゲトリクス・インダストリー』という事も載っていた……俺はこの辺りの事は詳しくないからどれだけ凄いのかは分からんが。
正直言うと、俺の学力と現在の家の財政的に丁度いい近場の高校が全滅してたからなぁ(泣) ヒュージを倒せば給料まで出るみたいだし、今の俺にとってこの条件は美味しすぎる……!
……勿論、“命を賭けて戦う”というリスク込みでの条件なんだろうけど……妹がやる気なのに俺が怖気付くのは兄としてのプライドもあるし、何より俺も何も無い田舎だったとはいえ故郷を潰されて何とも思っていない訳では無いからな。
とりあえず葛葉高校を受験する方向で両親と相談しつつ、ガーデンやリリィの事についてもう少し調べてみるか……勿論受験勉強をしながらだが。受験がある来年まであまり時間が無いし(泣)
あとがき・各種設定解説
一柳陸:本作主人公
・受験シーズンだったのにヒュージが直撃した所為でこれまでの予定が全て吹っ飛んだ田舎の男子高校生。
・INAKASODATIなのでヒュージから逃げられるだけの体力と運動神経があり、目と勘が良いので背後から襲い来るヒュージの攻撃を躱したりも出来る。
・性格は社交的で避難所の手伝いを積極的にするぐらいには善性だが、妹と比べると結構現実主義な所もある。
テンタクル種オルビア型ミドル級ヒュージ:球体に三本足が付いてるヤツ
・ヒュージの中ではポピュラーな種であり、今日も何処かで
アルトリウス君:颯爽と現れ主人公を助けてくれた珍しい男性のリリィ
・扱い的には原作の夢結さまポジションだが主人公の性癖はノーマルなので、彼からは『感謝はしているし、もし会うことがあったらお礼が言いたいな』ぐらいに思われている程度。
・外見イメージはFateのプロトアーサーを高校生ぐらいにした感じ。
防衛軍の人達:アニメでは描写は無いがちゃんと活躍している
・そもそも避難誘導や避難所の護衛や各種必要資材の運び込みなどは彼等がいなければ成り立たず、“人を守る”という事に関して十分以上に仕事をしている方々。
妹さん:ラムネを飲むと普段の二倍ぐらい勉強が捗るらしい
・もうお分かりだと思うが、彼女は原作『アサルトリリィ』のアニメやゲームで主役を張っている
・やたらハイなのは初めての『ユユニウム』をキメすぎた所為であり、幾らかの時間経過と慣れで耐性が付いてある程度落ち着く模様。
・兄である陸とはたまに軽口を叩き合う事はあるが、基本的に仲は良い方。
私立葛葉高等学校:日本唯一の男子校ガーデン
・日本に男子校のガーデンが一つしか無いのはリリィになれる人の男女間における数と質の差によるもので、世界でも男子校ガーデンはギリギリ二桁に届く程度しか無い。
・日本唯一の男子校ガーデンである事と、理事長と経営母体の総帥が対ヒュージ戦の初期に活躍した『英雄』であるので結構有名。
・ちなみに理事長と経営母体の名前がアレだが、この世界は『アサルトリリィ』ベースなので『歌で起動するトンデモ性能のアーマー』とかは無い。
読了ありがとうございました。
書き終わった後に作者が思った事→百合どころか女性キャラすら出ないアサリ二次小説に意味はあるのだろうか……?