五月上旬のとある日の深夜、葛葉高校の理事長室では『学園周辺で最近起きたきな臭い問題』について、その手の事に関わりがある生徒と教師で話し合い情報を共有する会議……通称『裏会議』が行われていた。
……そして今は特務レギオン『ウシワカマル』の副隊長
「……以上が我々がG.E.H.E.N.A.の研究所で入手した情報になります」
「なんだと……」
「……まさか『ヒュージの幹細胞を培養して人造リリィを作る』計画とは」
「静粛に……それで現実問題として可能なのか、ウェル?」
「んー、
その内容──『ヒュージの幹細胞を用いた人造リリィの製作』を聞いた室内の生徒・教師達は一時騒然となりかけたが、理事長である
……そうして室内が静まった所で、葛葉高校でも最上位の頭脳を持つウェル博士と工廠科二年の葛葉ゲイリンがこの一件に対する自分達の考察を話し始めた。
「ヒュージがこの地球上に存在するあらゆる生物の遺伝子情報を有しているって事はこっちでも突き止めてるし、そこから特定の生物の遺伝子情報のみを取り出して培養する事もおそらく出来るだろうね。……最も、その為には超えなければならないハードルが30個ぐらいある感じだけど」
「俺が研究していた『マギクリスタルフォースによる式神作成』もマギによって生物があらゆる遺伝情報を持つヒュージに変異するならば、その遺伝情報や肉体変化を解析する事で逆にマギを生物の形に出来るのでは? という考えから始めた研究だったからな。……結局はサンプルであるヒュージが足りないとか、そもそも実用性が無くね? という疑問が出てお蔵入りになったがな」
「そもそもヒュージの遺伝情報に関しては“そういう用途”にも使える可能性があると分かっていたから公開しなかった訳だし」
「だから未完成品とはいえ試作式神を盗まれたデータ取られたのは不覚の極みだな。……まあ、この研究データを見るとそこから有用なデータを取ろうとしてたっぽいが、所詮は稼動もしない未完成品だったから大したデータは取れなかったみたいだけど」
そのように二人はこの研究データに関しての自身の考えを色々と話していった……まあ、途中でこの二人ぐらいしか分からない専門的過ぎる話題に逸れる事もあったが、それでも研究データについておおよその部分を参加者に理解させるだけの説明はしっかりとする所はこの二人が優秀な所以なのだろう。
……そうして彼等による『ヒュージから作る人造リリィ』に関する一通りの説明が終わった所で、参加者であったアーサーが手を上げて二人へ質問を放った。
「はーい、ウェル博士気になった事があるので質問です」
「どうぞどうぞ、色々と話し合うのがこの会議の趣旨だしねぇ」
「それでは……もし、その計画で人造リリィが作られた場合、その“彼女”の扱いは『ヒュージ』ですか? それとも『人間』ですか?」
「……ふむ……」
……そのアーサーの質問を聞いた参加者達はウェル博士とゲイリンは、しばらく考えた後に各々の意見を述べ始めた。
「うーん、実際にその“彼女”が産まれてみなければ判断は出来ないが……本人が『人間』であろうとして、その様に行動しているのならば『人間』とみなして良いんじゃないのかな。その『意思』こそが同じマギを扱うヒュージとCHARMユーザーを分ける最大の要素だと僕は思っているからね」
「確か国際条約で『遺伝的に99%人間であれば人間とみなす』ってヤツがあった筈だし、DNA鑑定で『人間』だと出れば人間扱いで良いんじゃないか? ……最も日本はまだ批准してなかったけど。確か今年に批准予定だったか」
「まあ、この研究データから推測するにヒュージ由来の人造リリィが完成するには
「ヒュージから作った人造リリィとか、何か物凄く強くなりそうな響きがするけどね。……こう改造人間的な。G.E.H.E.N.A.滅ぼしてくんないかな」
まあ結局の所『産まれて来た“彼女”がどう有りどう思いどう行動するか』によって人間であるか、そうで無いかが分かれるであろう……と言うのがこの二人の
「……二人って研究者なのに基本的にロマンチストなんですよね」
「ロマンが無ければ研究者や英雄になんてなってないよ、アーサー君。……まあ、真面目に考察するならCHARMユーザーの強化方法って特殊な培養法で変異させてヒュージの幹細胞を植え付けた上で、これまた特殊なマギクリスタルフォースを照射する事で人間の身体をマギを扱いやすいモノ……“マギによって変異した怪物”であるヒュージに近いカタチに変質させるって技術だからね」
アーサーの言葉を軽く流しつつ、ウェル博士──かつて
「まあ此処にいるメンバーなら今更説明する必要は無いかもしれないが、このCHARMユーザーのスキラー数値とマギ容量をあげる為の強化手術の最大の欠点は『施術するとスキラー数値とマギ容量が上がる』って所なんだよ。皮肉な事にね」
「確か俺が以前ギガント級を倒した後に死にかけた際に『リジェネレーター』を付加して貰った時にも言われましたね。……CHARMユーザーは『スキラー数値が100を超えると狂化・暴走する』ので、元々高いスキラー数値を持っていた俺の場合は施術後に定期的な検診を受ける様にと」
「まあそうだね。アーサー君の場合だと元の数値が70ぐらいだったのが施術で90を超えてしまったから割と危なかったし、今後の成長の可能性も踏まえてスキラー数値を下げる必要が出て来る可能性もあったから。……一応『リジェネレーター施術治療』の際にはスキラー数値やマギ容量が上昇し難くなる特殊な方法を実行しているが、それでも限度もあるからねぇ」
……そう、強化手術に於ける最大のデメリットは『強化によってスキラー数値が100を超える事があり、そうなると狂化・暴走してしまう』事なのである。
ちなみに強化無し天然生来のCHARMユーザーではスキラー数値がどれだけ高かろうが、どれだけスキラー数値が成長しようが人間としての無意識の防衛本能、或いは人間としての生態から
「そもそも、この強化手術は
「強化手術は当時その殆どが成人男性で構成されていた世界中の軍隊から『自分達にも決戦兵器であるCHARMを扱える様にしてくれ!』という要望から研究された技術だからな。……この『強化手術』はそんな彼等の協力と犠牲もあって漸く作り出せた物なんだがな……」
そんな凡ゆる試行錯誤がなされていた対ヒュージ戦争の初期の頃を知るウェル博士と理事長は、かつて支払った犠牲と現在の状況を考えながら溜息を吐いたが、直ぐに気をとり直して会議を続行して『この人造リリィにどの様なメリットがあるか』を話し合い始めた。
「まあ兎に角、後付けの強化だと“人間としての防衛本能”が発動し難く、また改造によって人間から離れる事もあってスキラー数値が100を超える狂化のリスクがあるわけだ。……そういう訳で強化手術と言うのは高い資質を持ったCHARMユーザー程成功率が下がる仕組みになっているんだよ。資質が高いと強化時のスキラー数値上昇率が高くなる傾向もあるしね。……そこで『後付けの強化では防衛本能が働かず数値が100を超えるなら、生まれる前の受精卵の段階でヒュージ細胞を投与して“高いマギ資質を持つのが生物として当たり前”となる強化リリィを作ればいい』と考えた者がいたのさ」
「十数年前から始められた計画で、現在では『エレンスゲ』や『ルドビコ』の方でその生まれの強化リリィの存在が確認されていますね。……こちらでも以前『生まれつきのCHARMユーザー』をG.E.H.E.N.A.の違法研究所から保護して、現在は葛葉学園の中等部に通わせていますが……色々な検査の結果、通常の強化CHARMユーザーと比べても遥かに安定している様です」
「最も“実用化”までに時間がかかり過ぎるから現在ではG.E.H.E.N.A.でも下火っぽいけどね」
……この場で強化CHARMユーザーに関して最も詳しいウェル博士の説明を、諜報部隊代表の次郎と魔術的知識に長けたゲイリンが補足する形で説明が続けられていった。
「……だが、この『人造リリィ計画』であればヒュージ細胞から作られたが故に“高いマギ資質を持っているのが生物として当たり前“で、受精卵からなんて言うまどろっこしい事はせずとも“即座に実戦投入出来る年齢で培養”が出来る
「この研究データだけではどう頑張っても推測しか出来ないからな」
「……そうか、今後もG.E.H.E.N.A.の動きには注意しておく事にしよう。他に質問のある者は?」
そうしてウェル博士達の説明が終わった後で理事長が参加者達に確認を取り、他の参加者達も質問は無かったので会議は次の議題に移る事となった。
「では、次の議題は半月後に行われる予定の『幕張奪還戦』及び、その同時期に行われる『ノインヴェルト戦術交流会』についてだ。本来ならこれらの議題は『表』の会議で出す物なのだが、少々面倒な事になったから先にこちらで伝えておく」
「確か陥落した千葉県を奪還する為に関東中の戦力が集められているんだったねぇ。……ですが、鎌倉を守る僕達には声は掛からないんじゃないかい?」
「そもそも俺らって男子校だから、女子校のガーデンが守る地帯に外征とかまず出来ないだろ。甲州撤退戦みたいな俺達に頼まなければならないレベルの非常事態ならともかく」
「“性別が違う”から他校との合同任務とかもほぼ無いしな。撤退戦の時も指揮系統が崩壊していたとは言え遊撃扱いだったし」
「日本のガーデンの中で俺らだけ孤立してるからなぁ」
「百合の間に挟まる男は不要ってはっきり分かるんだね(笑)」
理事長から告げられた幕張奪還戦の情報に対して、その場にいた参加者達は『何故その手の大規模な作戦に関われない男子校なのにその話を?』と思いながら困惑した表情を浮かべながら口を開いていた……大規模な対ヒュージ戦だというのに彼等がそんな反応なのには、彼等“性別差”が理由で通常のガーデンとの合同任務や外征任務を殆ど受けられない事が理由になっているのだ。
……たかがそんな程度の事で? と疑問に思うかもしれないが、昔、対ヒュージ戦の黎明期に共学のガーデンがあった時代、“男女間のアレコレによる色々な問題”があった事や、百合ヶ丘などの幼稚舎がある様なガーデンだと『同年代の男性との接触経験が無いリリィ』というのも結構いる所為で合同任務になると緊張してパフォーマンスが落ちる事があったりするので割と深刻な問題なのだ。
「ああ、幕張奪還戦の方には我々は特に関わらない……が、御台場で行われる『ノインヴェルト戦術交流会』に関しては、我々葛葉高校の一年生にも参加要請が来たのだ」
「「「「「な、なんだってー!!!」」」」」
そんな理由で日本のガーデンでも孤立気味だった葛葉学園の生徒と教導官にとって、理事長が言い放ったその提案はまさに寝耳に水だったので驚愕の声を上げてしまったのだ。
……まあ、参加者の半分以上はノリと勢いでやってるので直ぐに落ち着きを取り戻し、普通に理事長の話の続きを聞く事になったのだが。
「この『ノインヴェルト戦術交流会』にはノインヴェルト戦術を採用しているガーデンの内、御台場を始めとした“作戦に参加しない”関東に居る一年のリリィと鎌倉府などから強豪ガーデンの一年生が招かれている様でな。……そして御台場のリリィは幕張奪還戦に全力を尽くす為に
「……成る程、この戦術交流会の裏の目的は戦力の確保……いや、万が一の時の保険といったところですか。幕張奪還戦に戦力を集中した所為で手薄になる御台場を、交流会を名目に集めた一年を戦力とする事で埋めるのが目的ですか」
「一年を派遣出来るのは短い交流会の期間だけだから、おそらく御台場は作戦の最初に橋頭堡を確保する為に全力を尽くしたいみたいだな」
「孤立気味の我々に声を掛けるぐらいに、彼女達もこの作戦に本気だと言うことだろう。……御台場を無防備にしたくは無いが幕張は奪還したいが為の苦肉の策なのだろう」
そうして続けて話された理事長の情報の意図に即座に気が付いたのは、この葛葉高校に於けるトップクラスのレギオンの隊長を務めている『LGヤマトタケル』の
……その三名の反応を見て、理事長は頷きながら更に話を続けた。
「うむ、おそらくその様な目的と思惑があっての事だろう。……そして、こちらとしては要請を受けても良いと思っている。良い加減に孤立気味な現状を少しはどうにかしたい所だからな」
「まあ良いんじゃ無いでしょうか。実際今の孤立した状況は余り良くありませんし」
「たまに行く外征でも現地のリリィからは遠巻きに眺められてるからなぁ……」
「奪還戦の助けになる分なら何か問題がある訳でも無いですしね」
その後も話し合いが続けられていき参加者全員が『ノインヴェルト戦術交流会』への一年生の派遣に賛成する事になった……まあ、最終的には『表』での通常の会議で決定される案件ので今回は所謂“根回し”の様な物だが。
「この交流会の一件はどの一年生を派遣するかを含めて改めて通常の会議で話し合う事になるだろうが、おそらく葛葉高校の上位レギオンである『LGヤマトタケル』『LGウシワカマル』『LGジークフリート』などの上位レギオンから選ばれる事になるだろう」
「ノインヴェルト戦術についての交流会だから、連携必殺技を使える上位レギオンから選ばざるを得ないですからね。……
「分かりました隊長」
「ウチの一年にも言っとくか……でも、戦闘能力は高いんだが交流会で上手くやれるかなぁ、アイツら」
「特務レギオンのウチは仕事が入るからどうなるかねぇ」
各レギオンの隊長達はそれぞれ自分達の一年生を派遣するかどうかや、肝心の交流会で上手くやれる性格かどうかなどを考えながら話し合っていた……が、夜も更けて会議が終わりの時間に差し掛かったので、正式な事はまた後日の通常会議で決めるという事にして本日は解散と相成った。
「……うむ、それでは今日の『裏会議』はここで終わりとする。……今後もG.E.H.E.N.A.の動きの確認や幕張奪還戦など色々忙しくなるだろうが葛葉学園の、延いてはこの国と人類の為にどうかよろしく頼む」
「「「「「了解」」」」」
……その理事長の言葉に参加者全員が答えたのを最後に、本日の『葛葉高校の裏会議』は終了したのだった。
あとがき・各種設定解説
人造リリィ計画:詳しくはアニメを見よう
・実際、人道とか道徳とか考えず上手くいけばと言う仮定があれば、対ヒュージ戦でガンガン減ってる上に全盛期での活動期間が短過ぎるリリィの補充には非常に有用なのでG.E.H.E.N.A.でも研究が進められていた。
・とは言え、流石に色々と超えなければならない技術的なハードルが多数あるので、
強化手術:賛否両論ある技術
・葛葉高校でも行われてはいるが各種リスクをしっかりと説明した上での完全な立候補制であり、各種成績や素行や人格の審査、念入りな検査による強化手術の適切調査などをクリアした極一部の生徒のみが受ける事になっている。
・また、作中で語った『スキラー数値100越え』の問題がある為、基本的にはスキラー数値50以下のマディックの希望者は受ける事が殆どで50以上の者はまず許可が降りない。
・例外として『リジェネレーター』付与による治療はあるが、手足の欠損レベルの重傷者の中で更に適正がある者にしか行えないので数は少ない。
・更に施術を受けた人間は定期的な検診や調整が義務付けられているので、安定的な運用を行おうとするとランニングコストがかなり嵩む技術であり、これが葛葉高校で極一部の人間しか受けられない理由の一つになっている。
小鳥遊総司:三年生でLGジークフリート隊長
・LGジークフリートは隊員の大半がリジェネレーター施術を受けた者で構成されており、施術を受ける程の重症を負うレベルの戦いを経験したから『自分も仲間も生かす』事を基本理念としている。
・それ故に防御系の戦術やスキル運用を重視して日々厳しい訓練を積んでおり、リジェネレーターと合わせて『不死身のレギオン』の異名を持っている。
・LGヤマトタケルが一年生を入れての立て直し中である現在では実質的に葛葉高校最強のレギオンとしてその穴を埋めており、彼個人としてもレアスキルであるヘリオスフィアを駆使した『葛葉高校最高の防御力』を持つ生徒であると言われている。
葛葉学園とG.E.H.E.N.A.:仲は良くない
・過去に葛葉学園の前身となった『パヴァリア』や『クズノハを始めとする日本の魔法組織』の中で方針に反発した者達がG.E.H.E.N.A.に合流しており、葛葉学園に敵意を抱いているのはそう言った“強硬派”達。
・今回の事件もその“色々あった”当時の恨みを忘れていない一部の強硬派が行ったもので、それをG.E.H.E.N.A.過激系企業派が『上手くいけば自分達のメリットになるから』と黙認した感じ。
・この後、葛葉学園は各種証拠と共にG.E.H.E.N.A.に厳重講義したが、既に強硬派の各種技術を吸収し終わっていたG.E.H.E.N.A.はさっさと強硬派をトカゲの尻尾切りにした模様。
・と言うか、今回の事件は好き勝手やって制御しきれなくなっていた強硬派を邪魔に思ったG.E.H.E.N.A.過激派が、これ以上やらかす前にさっさと切り捨てる為に誘導したのが真相。
・G.E.H.E.N.A.過激派としてはかつての護国組織のコネを受け継いでいるので未だに日本政府に強いパイプがある葛葉学園とはなるべく敵対したくないと言うのが本音だったりする。
・葛葉高校もまさか強硬派がここまで拗らせているとは予想出来ず対応が後手に回り、G.E.H.E.N.A.の裏の目的に気が付いた時には既に切り捨ては終わっていた。
・だが、葛葉学園側も利用されるだけでは無く、ドサクサに紛れていくつかの違法研究所を潰して研究データを奪い取ったり、G.E.H.E.N.A.寄りだった政治家をこちらに引き込んだりとしばらくは暗闘が繰り広げられる模様。
読了ありがとうございました。
次回からは新章『御台場迎撃戦』編をやっていこうかなと思ってるんですが、何分情報が少ないのでwikiとか色々見ながらプロットを作る為に次回更新はかなり先になると思います。