弟の身体にあるほくろの位置を
全て把握しているらしい。
渋谷凛は激怒していた。必ずやかの、自身が溺愛してやまない我が弟にまとわりついているらしい久川某とやらに一言二言三言いってやらねばならぬと決意した。渋谷凛には世間一般の姉弟の距離感などわからぬ。渋谷凛は、トップアイドルである。目つきの悪い、控えめに言っても堅気に見えない
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弟に、渋谷優に変化があったのはつい最近のことだ。少し前までの弟の様子はと言えば、平日は学校に行き、放課後になれば寄り道もせず帰宅するくらいのもので、休みの日にもあまり外に出ることもなかった(もちろん外出するとなれば、後をつけて弟に何か危険が及ばぬようにこっそりと
誤解のないように言っておくと、弟のそんな様子に凛は一切の不満はなかった。どころか、あまり自分のことを語らないその姿は、凛にとって寡黙でクールで魅力的にしか映っていなかった。ふーん、エッチじゃん、である。弟を鑑賞する自身の目には、エロ同人宜しくハートマークが浮かんでいるかもしれない。もっとも、当の弟本人にしてみれば、美人な姉を前に自身のコミュ障がフル稼働してしまうことで緊張してうまく話せないだけなのだが、凛本人はそんなことを知っているはずもなかった。
そもそも、優先事項が10番目くらいまで弟に関することで埋まっているこのブラコンにとっては、弟が元気で凛のそばにいてくれることだけでもはやお腹いっぱいなのである。それ以上を求めることはブラコンとしての自身の美学に反するのだ。一に曰く、弟を以て尊しとなす。二に曰く、篤く三宝を敬へ。三宝とは弟、弟、弟なり。三に曰く...
閑話休題
だがしかし、そんなラブリーマイエンジェルと呼称しても良い弟の様子が、前述したように変化しつつあるのである。
ある日突然、いつもなら学校が終わればすぐに家に帰宅するはずの弟が帰ってこなかったのである。当時の凛はいつも通りの時間に帰ってこない弟の身に何かあったのかと勘違いをし、居ても立ってもいられずに町内を駆け回った苦い思い出があるが、弟の身に何もなかったことを考えれば、その程度のこと何でもなかった。週刊誌に「今をときめくトップアイドル渋谷凛、鬼の形相をして〇〇町内を駆け回る。一体何が...」といった具合で自身の醜態をすっぱ抜かれ、プロデューサーや
そんなこんなで後に弟に話を伺うと、どうやら新しくできた友達とやらと放課後遊びに行っていたようなのである。ふ、ふーん。友達、友達か...
ここでその友達について問い詰めたり、過剰に詮索をしたりしてしまうのは、ブラコンとしてド三流である。弟の幸せは凛の幸せなのである。弟が友達と充実した日々を過ごせるというのであれば、それは凛としても喜ばしいことこの上ないのである。尋問のような行いはご法度だ。しかし気がかりなのは、凛が僅かながらに聞いた情報によればその友達とやらは異性であるということだった。
通常この世界では、男女の友情というものが成立することは非常に稀である。なぜならこの世界の女は狼であり、友情関係が成立する暇があれば、隙を見て既成事実を作り婚姻関係を成立させるものだ。だからこそ凛は優が自分の預かり知らぬところで女に食われていないかと常に不安になるのだが、問題はそれだけではなかった。どういうわけか弟に、男性特有の女性に対する忌避感というものが皆無に等しかったのだ。
いや、そういう男性も世の中に存在しないということもない。稀だが、一定数存在するというのは、凛のプロデューサーを見ればわかる。だが彼らとて、女性に対しては一線を引いている節があるのだ。要は、ある程度の警戒心は持っているということなのだが、弟にはこうした警戒心すらないように見えるのだ。こんなもの、飢えた女性の格好の餌食である。
凛にとっては究極のジレンマである。これまでどうしてか友達が一人もいなかった弟にやっとできた友達を信じ、それを尊重するか。それとも弟に迫る危険因子としてちょっとそこらで
果たして、凛がとったのはその中間だった。
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その日、凛は優の通う中学校の正門が見え、かつあまり人目のつかない場所に身を潜め、優とその友達とやらが出てくるのをじっと待っていた。目立たない服装に着替え、サングラスとマスクを装着して、いつもは下ろしているロングヘアーもアップにして帽子を被り、変装したつもりになっているその姿は、不審者と紙一重というところだが、凛はそんなことに注意を払ってなどいなかった。
通常、凛の通う高校の授業が終わる頃には、中学での授業もとっくに終わっており、帰宅する優達の姿を追うことはできない。そこで凛がとった行動は簡単だ。「仕事で大事な用事があるため止むを得ず早退します」と凛のクラスを担当する教員に物申すだけである。普通ならばこんな意見は通らなかっただろうが、トップアイドル渋谷凛が言うのであれば話は別である。アイドル活動のための大事な用件と教師に思わせることで、なんとか大めに見てもらい、授業のブッチを可能としたのだ。職権濫用じみた行いであるが、凛に躊躇はなかった。
なんにせよ、凛はもう後には引けないのである。ブラコンは、我がアイデンティティなのだ。不審者に思われようがなんだろうが、弟のためならばどんなことでもやってのけるのが渋谷凛である。通りすぎる中学生にどんな目で見られようと構いやしないのだ。
そう、凛が先程のジレンマにおいて取った選択肢は、どちらでもない、「優の友達の見極め」である。自分が実際にかの久川某とやらが優にとって危険であるか否かを見極め、決断を下せば良い、そう考えたのだ。そのために凛は今、中学校前で怪しげな格好をした不審者に成り下がっているのだ。
そのまま待つこと数十分、ついにその時は来た。優の姿を認めるや否や緩んでしまう自身の頬を引き締め、注視する。ちょうど優を真ん中にして両側に陣取っているのが、話していた友達なのだろう。ふむ、なかなかに可愛いではないか。優自身も過去に可愛い言っていて、少しばかりムッとしてしまったが、これなら頷ける。容姿だけ見ても
さあ久川某よ、お前たちが我が弟の友達にふさわしいかどうか、この私直々に見極めてーーー
「ところで優君、昨日はーちゃんとの間で、優くんが誘い受けか否かって言う話題で盛り上がったのですが、実際どうですか?私は誘い受けの方が大いにそそらr..ごほん。ちなみにはーちゃんはガツガツきてくれる方が良いそうですよ。初心ですし。ムッツリですし。おや、なんだかあざといな」
「ちょっ!!だから人のいるところでこんな話しないでって!!!それに私はただ普段寡黙な優君が夜になると男らしくなるっていうギャップにものすごく燃えるっていうかなんというか...ってそうじゃなくて!!!!!」
「わーお、はーちゃんったら大胆ですね。こんな衆目の中で自身の性癖を、しかも本人の前で暴露するなんて、凪には真似できません。我が妹ながら感服しました。にやり」
「わー!!わー!!!わーーー!!!!!違うから!!優君!違うからーーー!!!!!!」
「....うん、そうだね」
ーーーーーーとりあえず、二つ結びの、ムカつくポーズをしながら、弟にセクハラをしている、あのクソガキは、つい最近346プロに入ってきた
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「へ〜、だから凛、今日はそんなに不機嫌なんだ〜」
「ほんとほんと、何事かと思ったよ全く...」
場所は変わって、346プロ本社の談話室である。凛にとっては親友と言っても過言ではない二人、北条加蓮と神谷奈緒は、不機嫌ですと言わんばかりのオーラを隠しもしない凛と雑談をしていた。
加蓮と奈緒が、凛のこうした姿を見るのは初めてであった。いつもであれば、聞いてもいない彼女の弟の自慢話を延々と続けているのだが、今日はそうではなかった。談話室で一人、
誰が見ても穏やかではない凛をどうにか諌めて話を聞くと、どうやら愛しの弟くんに女友達とやらができたそうなのだが、これがまた彼女にとっては許されざることらしいのだ。なんでも弟くんの貞操の危機が迫っているとのことだが、いや、一番危険なのはお前だろうと、この時、加蓮と奈緒は同じことを考えていたのはいうまでもないだろう。
「なら私が先に弟くんの貞操を頂いちゃおっかな〜♪」
「ふふふ、◯すよ?加蓮?」
「冗談だって〜、本気にしないでよ、凛。そんな怖い顔してさぁ..」
「そうだぜ凛、他の子達もめちゃくちゃビビってたし、少し落ち着こう、な?な?」
と言っても、加蓮にとって先の言葉はまるっきり冗談というわけでもなかった。加蓮が凛の弟に会ったのは過去に一度凛の家にお邪魔したときにしかないが、女である加蓮を前に恐れている、と言うより緊張しているように見えた彼の様子は、加蓮にとっては新鮮であり、かつ好ましいものであった。おまけに、凛に会うたびに聞かされる彼の話を聞いているうちに、自然と彼に興味が湧いてきたのも事実だった。やはり加蓮も、一人の
もっとも、彼とお近づきになろうとしても、
「それにしても、女友達かー。どんな奴だったんだ?」
「...双子で、結構可愛い子だったよ。
「双子で、アイドルになれそうなくらい可愛くて、弟くんと同級生で、名前が久川...?ねえ奈緒、それってもしかして...」
「え?奈緒、知ってるの?」
「...ん、あー、えーっと...」
この時、奈緒の脳内は葛藤の嵐だった。先に挙げられた条件に一致している凛の弟の女友達かつ凛にとっての制裁対象というのは、間違いなくつい最近346プロに所属することになった後輩アイドルであるところの久川姉妹以外にはあり得ないだろう。ここで凛に彼女たちのことを明かすのは簡単だが、そうなれば凛がどんな行動を取るのかわかったものではなかった。同じ346プロのアイドル同士だ、これから会う機会などいくらでもあるが故に、揉め事になるのは避けたいところだ。しかし、凛にもう二人の顔は割れてるし、対面してドンパチするのも時間の問題だろう、どうするべきか...
頭を悩ませる奈緒がふと加蓮に助けを求めようと加蓮の方を見ると、目を逸らされてしまった。コイツ、自分から話をふっておいて逃げやがって...
「ねえ、奈緒は知ってるの?私、ちょっと
「ひっ!!!!」
凛が奈緒に迫る。くそ、どうする、どうする。つか怖ええよ凛、あと怖い。ここはひとまず適当に誤魔化しておいて、そして何とか円満に凛と久川姉妹との関係を収める方法を探してーーーーー
「わー!見て見て、なー!ここが談話室だって!すっごい広いねー!」
「ふむ、さすがは天下の346プロ。天晴れですね。おや、あれは...」
ーーーガチャリとドアが開き、今一番入ってきてはいけない二人がやってきてしまった。一周回って加蓮は笑いを堪えるのに必死だった。奈緒ももう、やけくそになっていた。ギロリと、凛が二人を、昔年の恨みだと言わんばかりに睨む。しかしどうやら、当の二人は気づいていないようでーー
「初めまして!!新しくアイドルになりました、久川颯です!こっちは、双子の姉の凪です!よろしくお願いします!!」
「どうも、初めまして。凪は凪です。残像ではありません、ピースピース」
おお...なんていい笑顔だ、眩しいぜちくしょう。立派なアイドルになれるぜ、きっと、うん。後そのムカつくポーズはなんなんだよ。
ーーーーーもう一度言おう。奈緒はもう、やけくそになっていた。
その日、346プロの談話室では、一悶着二悶着あったという...
今回はしぶりん視点でのお話しでした。ちょっとくどかったかもしれませんね、すみません。
それはそうと、評価のところが赤色になっていて超ビビってます、わーおって感じですね、はい。これを励みにこれからも執筆頑張ります。
好評、酷評、いずれもお待ちしております。