貞操逆転世界に男が転生したらしいです   作:銀のイルカ

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鷺沢文香のウワサ①
最近のトレンドはおねショタらしい。


お久しぶりです。今回のお話のあらすじは↓

奏「文香...やるんだな!?今!ここで!」

文香「あぁ!勝負は今!!ここで決める!!」

優「この......ッッ!裏切りモンがアアアァァァァァァァァ!!!!!!!!!!」

....って言うのは冗談です。進撃34巻全裸待機してます。


3

「良いですよ、そこまで言うならやってやりますよ!!私がヘタレじゃないってことを証明して見せますよ!!!ええ、そうですとも!鷺沢文香は()()時は()()女なのですから!!!!」

 

 某日、都内のとある喫茶店にて、鷺沢文香は普段の彼女とは似ても似つかない様子で、同僚のアイドル速水奏に向かって声を荒げていた。

 

 その喫茶店はつい半月前にオープンしたらしく、店内はとても綺麗でかつ落ち着いた雰囲気が心地よいと、訪れた客たちの中で評判だった。速水奏と鷺沢文香はその日、レッスンもなくお互い暇を持て余していたために、その話題の喫茶店に赴き雑談に興じていた。評判に違わず居心地も良く、マスターの淹れるコーヒーも美味と言えた。店内は上品な雰囲気に満ちており、客たちも思い思いに心休まる時間を過ごしていた。

 

 ーーーだからこそ鷺沢文香の怒声は、魂の叫びは、穏やかではない宣言は、店内に響き渡り、その場に居た人達の注目を集めるのには十分だった。

 

 落ち着いた店内、居心地の良い空間、弾む会話、そこまではよかった。ただ、少々調子に乗り過ぎてしまった、それだけの話であった。

 

 この世界において女同士でもっとも盛り上がる話題はといえば、それはもう男性に関すること以外にはあり得なかった。第二次性徴を迎えていよいよ男に、性に目覚め始める女性達は、男のいないところで下品な会話でゲラゲラと盛り上がるなど珍しいことではない。それはちょうど、貞操逆転など起きていない世界において、女の胸やら尻やらで盛り上がる男のそれと同じと言えた。故に、淑女然として落ち着いた雰囲気を持っていたはずの女性が、いざ男性と交際を始めるや否や()になるというのは、よくあるとまでは言えなくともままある話であり、男性にとっては一種のホラーに違いなかった。

 

 当然のことながら、程度の差こそあるものの、速水奏も一人の女に違いなかった

 

 速水奏は346所属のトップアイドルである。彼女がどうしてアイドルになったのかと問われれば、きっかけは単にプロデューサーにスカウトされたからというだけの話ではあったが、それが全てでもなかった。アイドルとして魅力的な存在を目指し、そうした自分を世間にアピールすることで、何か良い出会いの一つや二つ期待できないかしらんと、それとなく考えていた。要は、下心であった。だが、こうした考えは同じく346に所属するアイドルたちの中では、決して珍しいものではなかった。

 

 もっとも彼女の、男を誘惑することに特化したと言わんばかりの艶美な雰囲気を漂わせたアイドル像は、多くの男性にとっては逆に恐怖心を煽ってしまうようなものであった。彼女がそれに気付き、それを知っていた上で黙っていたらしいプロデューサーがしばかれるのはまた先の話になるのだが、しかしその話はここではひとまず置いておこう。

 

 その日、例に漏れず奏と文香は、場所が場所故に控えめではあるが男トークに興じていた。奏が文香と出会って間もない頃、日常の大体において落ち着き払って本に夢中になっている文香がそういう話をして盛り上がるというのは、いくら同じ女とは言え少々意外な事に思えたのだが、しかし彼女の持つ108の性癖と、それらの原点となった聖書(バイブル)であるところの官能小説やら薄い本やらの山を見て、奏は同じ女から見ても文香が控えめに言ってヤベー奴だと確信した。そのおかげか今では自身の性癖から少々危ない妄想までなんでも話せる仲ではあるのだが。

 

 会話も山場、盛り上がってそこそこ高揚しているらしい彼女の口から垂れ流される妄想の数々は、もし男性がそこにいたとすれば鷺沢文香にトラウマを抱えてしまいかねないほどの、聞くに耐えないものに違いなかった。いつか絶対、生意気な○学生をこの手でわからせてやりたいだの何だのと息巻いている彼女に対して、奏が何となく投じた一言が、彼女の自尊心を傷つけ、と同時に、彼女の心にあるつけてはいけない導火線に火をつけた、つけてしまったのだ。

 

ーーーでもあなた、()()()じゃないの。

 

 「......は?よく聞こえませんでした。もう一度お願いします」

 

 「だから、あなたって頭の中では好き放題エグい妄想してるけれど、実際男の人前にしたら喋ることすらままならない()()()じゃないの」

 

 「......」 

 

 「そもそもプロデューサーさんと話すのでさえやっとじゃない。それだって、出会ってからそこそこ時間が経ってようやくって感じでしょう?」

 

 「...........」

 

 

 「この前現場でたまたま男性と話す機会があった時も、あなた顔真っ赤にして俯いていたじゃない。全く、フォローするこちらの身にもなりなさいよ」

 

 

「......................」

 

 

 

 

「あ、そう言えば思い出したわ。あなたが男性に対して全く免疫ないことってファンの間じゃ割と有名な話よ。このご時世に初心な女性は珍しいって、一部の男性からも好意的に見られているらしいわ。面白い皮肉よね、良かったじゃない。プッ...」

 

 

 

 

 

  「............................................................」

 

 

 

 

 

 「ああ、笑ってごめんなさいね、ちょっと言い過ぎたわ。けれどまあそんなもんよねってことよ。悪いことは言わないから、()()()()()()()。」

 

 

 

 

 

 

「...................................やりますよ」

 

 「え?なに?」

 

 文香はボソッと呟き、それから飲みかけのコーヒーをグッと勢いよく飲み干し、空になったコーヒーカップをドンッと派手に置いた。そうしてその勢いそのままに立ち上がり、奏を睨みつけーーー

 

 「やってやろうじゃねえかこの女郎ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!!」 

 

ーーーーそうして、時は冒頭へと戻る。文香のキャラが崩壊してしまっているが、奏はそんなことを気に留める余裕もなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 鷺沢文香の絶叫により注目を浴びてしまった二人は、そそくさと店を後にした。前述の通り二人はトップアイドルである。故に当然、今日も軽く変装をしてお忍びでやって来てはいるのだが、やはり目立つ行動は避けるべきだろう。

 

 このお店には行きづらくなったなぁと、奏は少し残念に思うと同時に、その元凶であるところの文香をジトっとした目で睨む。奏のそんな視線を受けた文香は、しかし反省することも臆することなく逆に睨み返してきたのだからもうなんなのだと言いたくなるものだ。

 

 文香がここまで感情的になっているところを見るのは、奏にとって初めてのことであった。過去に彼女が、お気に入りらしい薄い本のどちゃシコシーンを聞いてもいないのに捲し立ててきたことがあったが、あの時もここまで興奮してはいなかっただろう。

 

 どうやら推してはならないスイッチを押してしまったらしい、奏は遅まきながら悟ったのだ。奏からしてみれば、男湯を覗こうとする不埒な輩を注意するくらいの感覚だったのだが、文香にとってはそうではなかったようだ。面倒なことになりそうだと溜息をつくと同時に、タカが外れた文香がこれからどんな行動を取るのか、少し楽しみにしているのもまた事実だった。

 

 「...はぁ。それで、やってやるって言っていたけれど、一体何をするつもりなの?まさかとは思うけどあなた、()()なんてしないでしょうね?」

 「しませんよ!!私を何だと思ってるんですか!!いくら何でも酷いですよ!!」

 

 ()()()()、ではなく()()である。男が少ないこの世界で、男にとっての不運は、男が基本的には非力であることだった。もちろん例外は存在する。鍛え上げられた逞しい肉体美を誇る男性もごく僅かに存在はするのだ。しかし、例外は例外である。そのほとんどにおいて非力である男性達が、飢えに飢えた女性達に無理矢理性的な暴行をされるという事件は、年に少なくない件数起きているのだ。何をしでかすかわかったものではない文香も、流石にそこまで人をやめていないのだとわかり、奏はホッとすると共に少し罪悪感を感じた。

 

 「...そうね、ごめんなさい。それじゃあ改めて聞くけれど、文香は何をするつもりなの?」

 

 「ふっふっふ、知りたいですか...?」

 

 「...帰るわよ?」

 

 「あぁーっ!ごめんなさい、言います!言いますから!!帰らないでください!というか奏さんも一緒にやりましょう!!」

 

 「私も?というか、だから何をするのよ?」

 

 奏がそう問うと、文香は姿勢を正してドヤ顔で答えた。

 

 「それはズバリ!ナンパです!!!」

 

 「...はぁ?」

 

 「ですからナンパですよ、ナンパ!!これから街に出て、暇そうな男性の方を探しに行きます!!」 

 

 「...」

 

 奏、絶句する。あれだけ啖呵を切っておいてやることがただのナンパだということに正直ガッカリもしたし、それに仮にもアイドルである自分たちがナンパなど確実にやっちゃいけないことだろうし、そもそも男とろくに話せない文香がナンパなどどうやってするのだと言いたいしーーー

 

 などなど、口にしたい不満や疑問点を挙げればそこそこあるのだが、しかし1番気にするべき問題があった。

 

 「ーーーそれから仲良くなっていってあわよくば...じゅるり」

 

 「盛り上がっているところ悪いけれど、あのね、文香」

 

 「...ん、失礼しました。何ですか?」

 

 「...そう運よくあなたの言う暇そうな男性が現れると思ってるの?」

 

 「うっ...そ、それはですね...」

 

 「いたとしても、隣に女性がいるに決まってるでしょう?男性だけで出歩いているなんてそうそうあることじゃないわ」

 

 「ううううーー...」

 

 そう、いくら男女比が2:8の世界とは言え、街中を歩けば男性にお目にかかれないわけではないのだ。だが、そうした男性が出歩くというのは最低限の安全が確保されている状況であり、つまりは横に番人たる、親しいであろう女性がいるということだ。当然、ナンパなどできるはずもない。

 

 そう、いるはずはない。いるはずはないのだ。それはこの世界の常識であるのだから。

 

 「...あ」

 

 ーーーただひとり、そんな常識など知らぬ()()()()()()を除けばだが。

 

 「...どうしましたか、奏さん。もういいですよ、私、帰って薄い本見て寝ますから...」

 

 「...文香、アナタ最高についてるわね...!」

 

 「...え?」

 

 「ほら、あそこ!見なさいよ!!」

 

 「...はっ!か、奏さぁん!!!」

 

 ーーーー二人の視線の先には、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()がいた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 「あ、あにょ!!わ、私達とお茶しませんか?!??!!」

 

 「文香、少し落ち着きなさい。ああ、ごめんなさいね、でも決して怪しいものじゃなくてね...」

 

 「...」

 

 ーーーはっ!

 

 あ...ありのまま今 起こった事を話すぜ!

 

 「おれは ひとりで街中を歩いていたら

  とんでもなく美人な姉ちゃん二人にナンパされた」

 

 ...いや、このネタはよそうか。

 

 私は今日、珍しくひとりで街中を彷徨いていたのだ。久川姉妹も我が過保護な姉もちょうどレッスンで不在である。前者は私がどこかへ出かけようとするとついてくるし、後者に関しては..まあ何も言うまい。そんなわけで、私がひとりになれるのはこの世界にやってきて以降はあまりなかった。これは、前世で万年ぼっちだった私にとってはありえないことであり、少なくないストレスにもなっていたのだ。もちろん、今の暮らしも充実したものであることは間違いないが、しかしたまにはひとりで行動したい、ということである。毎日ステーキ食ってたらたまにお茶漬けも食いたくなる、みたいな感じだ。

 

 さてそういうわけで、何をするでもなくぶらぶらとしている矢先である、私は前世では無縁であったナンパというものをされたのだ。正直それだけであっぷあっぷしているのだが、それ以上に何なんだこの二人...スペック高すぎるだろ...

 

 一人は清楚とはかくや、といった趣の女性だった。丁寧にケアされているであろう彼女の濡羽色の長髪は美しく、また前髪に隠された瞳はぱっちりとしており...いや、彼女の魅力はそれはもう私の貧弱な語彙で表すのは限界があるのでやめておくが、しかし不躾ながらも彼女のその豊かな胸部についつい目線が吸い取られてしまう。これが万()引力の法則か...

 

 ...まあ、しかし、これはこの人が悪いんだよなぁとも言いたくなる。この世界の女性のお召し物は私にとって、もっと言うなら貞操逆転世界に馴染めていない私にとって、彼女達が男性からの性的な視線など気にしていない分刺激的な装いをしていることはよくあることなのだ。オラ!謝れ!清楚系みたいななりをしてるのにエッチでごめんなさいって私に謝れ!!

 

 ...ごほん、もう一人は先程の彼女とは対照的なショートカットがよく似合うこれまた美しい女性であった。全身から色気が滲み出ており、なんていうか数多の男を掌の上で弄ぶどころか殺し合いでもさせてそうな女性だった。...流石に失礼か。

 

 そんなわけでとんでもなく上玉である二人を前にした私はもはや「あっ...あっ...」と発するだけの機械と化していた。

 

 「...えーと、今大丈夫かしら?」

 

 「...あっえっと、はい、だ、大丈夫です」

 

 「ほ、ホントですか!?な、なら私たちと一緒に()()()()しまーーー」

 

 「だから落ち着きなさいよこのおバカ!!!」

 

 「いだっっっ!ぶたないでください!!」

 

 「そういうことばっかり言ってると最悪通報されるのがオチでしょうが!!!」

 

 「そ、そんなこと言ってますけどね!奏さんだって内心期待してるんでしょう??!?このビッグチャンスに!!」

 

 「...あ、あの

 

 「あなたと一緒にしないでくれる?!別に私はただ少し男性と会話ができればと思ってるだけで...」  

 

 「そもそも、みんな知ってるんですからね?!?奏さんって男慣れしている風を装っているだけで、実は全く男性経験のないちょっと痛い処○だってことは!!」

 

 「...もしもーし..

 

 「はぁ!!?あなただって処○でしょうが!!自分のこと棚にあげて何言ってるのよこの拗らせ喪女!!!」

 

 「あーー!!!言っちゃいけない事を言いましたね奏さん!!もう謝っても許しませんよ?!!?」

 

 「こっちのセリフよこのおバカ!!」

 

 ...だめだこの人たち、早くなんとかしないと。

 

ーーーその時、陰キャラに電流走る。

 

 「...ペらり」

 

 「「ぶっ!??!?」」

 

 激しく口論をしている二人は、しかし私の鶴の一声改め()()()()()()()により、おいおい大丈夫かよと言いたくなるくらいに首を瞬時にこちらに曲げ、私の露わになった()()をガン見している。

 

ーーーそう、小悪魔作戦である!今私がやったことはただ一つ、シャツをめくって私のお臍をぴろりんしたのだ!

 

 前世で例えるならば、偏差値35くらいの高校で童貞オタクをからかう経験豊富なギャルである。すなわち、「オタク君さぁ...w」である!私がこれの被害者であったことは言うまでもない!!うっ...頭が....

 

 私の今日の陰キャラファッションはというと、上は普通のシャツに薄いカーディガンを羽織ってきただけの軽装であり、シャツ一枚めくれば私のお腹がぴろりんしてしまうのだ。今まさに、からかい上手の渋谷君が爆誕してしまったのだ。小悪魔ムーブキモチェェェ〜〜〜!!!

 

 それにしても、つい最近まで女の子とろくすっぽ会話もしたことなかった(姉は省く)童貞が、妙齢の女性、しかも超絶別嬪さん相手に何をやっているのだという話である。昔よりも女性に対する免疫がついたとはいえ(雀の涙レベルかもしれない)、陰キャラクソ童貞の私には荷が重いことに違いはなかった。ふえぇ..助けてお姉ちゃん...と言ったら本当にあの姉は来そうなので、冗談でも言わない(真顔)。

 

 けどまあ、やはり貞操逆転が起きている世界でもエロは世を救うのである。エロかなーやっぱw。どんなに険悪な間柄である人たちがいても、昨晩のオカズを共有さえすれば、手を取り合って、いやチ○ポを取り合って心の友になれるというものである、うん。うん?じゃあなんでお前に友達はいなかったんだよって?ほっとけよ。その先は地獄だぞ。

 

 何はともあれ、これでひとまず騒ぎは落ち着いてーーーあの、お客様、おさわりは禁止となっておりまして、、、ああ、お客様!お腹を撫で回さないでください!!シャツをめくりあげないでください!!あの!!!お客様!!!!!お客様ーーーーーッッッッッ!!!!!!!

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 【速報】陰キャラ君、調子に乗った結果無事わからされる

 

 あの後、どうにかして暴走気味の二人を落ち着かせて、近くにあった喫茶店に入った。ここはつい最近できたばかりらしく、我が姉も良い店だったと言っていたため近いうちに行こうと思っていたので、都合が良かった。少し気になるのは、鷺沢さんと速水さんが店長さんから睨まれているような...?二人もなんだかとても気まずそうにしているのだが、何かあったのだろうか?

 

 その件の二人ーー暴走して私にあれこれしようとしていた二人はというと、すっかり反省してものすごい勢いで謝ってくれた。いや、私の行動が軽率すぎた故に起きたと言っても過言ではないし、調子に乗ってやってしまったことなので、謝らせていることに対して罪悪感がすぎょい...でもしょんぼり顔も可愛いですね、はい。

 

 その後は、せっかくなのでコーヒーを堪能しつつ、3人で軽い雑談をしていた。いや、少し語弊があるかもしれない。私がクソザココミュ障野郎なのは言うまでもないが、どうやら鷺沢さんも同類だったらしく、結果として速水さんが一人で会話を回していた。ごめんよ速水さん...ごめんだで...

 それから速水さんの話でわかったことだが、なんと驚くべきことにこの二人も346のアイドルだということだった。いや、私の周りアイドルだらけなのだが、346ってそんなに人抱えているのだろうか...?もしや私はプロデューサーだった...?

 今は丁度、速水さんの同僚の話を聞いていたのだが...

 

 「それでね?私と同じグループにすごい変わった子がいて...あら、ごめんなさい。プロデューサーさんから電話だわ、ちょっと席外すわね」

 

 ...その速水さんが、仕事の電話だろうか?離席してしまった。うーん、困った。何が困るって?

 

 「......」

 

 「......」

 

 この通り、すっかり間が持たなくなった。どうしよう、何を話せばいいのかさっぱり分からん。気まずい。すごい気まずい。例えるならば、なんとなく互いの存在を知っているくらいの、友達の友達みたいな間柄の人と偶然休み時間に一緒に小便をしているような、そんな感じの気まずさだ。

 

 まあ、私の対人経験値の低さを今更嘆いても仕方なかろうというものだ。初対面の鷺沢さん相手に私がうまく立ち回るなど、土台無理な話だろう。このまま速水さんが帰ってくるのを待つのが無難ーーー

 

 「ごめんなさいね渋谷君。なんだか急に仕事の打ち合わせが入っちゃって、今からプロデューサーさんのとこに行くことになっちゃったわ...」

 

 ーーーと思っていた時期が私にもありました。

 

 そんなこんなで、私と鷺沢さんだけがこの場に取り残されてしまった...

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 鷺沢文香は途方に暮れていた。

 自分でもまさかとは思ったが、奏のサポートや、今目の前にいる少年が自分を相手にちっとも嫌な顔をしないことなど、いろんなことが偶然に重なった結果、奇跡的にナンパに成功した。したのは良かったのだが...

 

 「....あ、その、えと、、、、うぅぅ...」

 

 「.......」

  

 そう、全くもって会話が弾まなかった。奏がいた間は良かったのだが、急にいなくなられたらどうすればいいのかわかったものではなかった。奏がいなくなればこうなることなど、当の本人はよーくわかっているはずだから、いくら仕事とはいえ放置して去って行ったことに文句を言いたいくらいだった。実際に奏は、帰り際こちらを憎たらしい顔でニヤニヤとみていたのだ。確信犯である。

 

 しかし、鷺沢文香にも、このヘタレ処女にも、なけなしのプライドはあるのだ。そしてそのプライドは、丁度さっき奏に傷をつけられたばかりだ。このまま黙って引き下がれるものか。先ほど、他ならぬこの場所で、あれだけの啖呵を切ってやったのだ。ここで何もできずにお開きなど、その時こそ本当に鷺沢文香はヘタレ女として、同僚達から鼻で笑われることだろう。

 

 そうだ、私は天下の346アイドル、鷺沢文香なのだ。たった一人の男性を相手に会話すらできなくて、ファンを魅了することなどできようものか?否である!

 

 文香は自問自答をし、覚悟を決める。

  

 そうだ、私はいつまでもヘタレだとか、万年妄想女だとか、拗らせ喪女だとか、仲間内で馬鹿にされて黙っていられるほど間抜けじゃあないのだ。今だ、今この機会しかないのだ。見方を変えれば、奏がいなくなり二人きりになったというこの状況も、好都合というものだ。奏よりも一足先に大人の階段を駆け上がり、あのニヤついた顔を悔しさで歪めてやるのだ!

 

 幸いなことに文香には一つ、渋谷優攻略の糸口とも言えるものがあった。それは渋谷優が、()()()であるかもしれないということだ。

 

 そもそもおかしなことばかりなのである。男性にも関わらず一人で歩いていたり、女性である文香と奏の前で急に自分の腹部を見せつけてきたりと、考えれば考えるほど、目の前の彼が真正のビッチにしか見えなくなってきたのである。だとすると、今彼は女性と話すのが苦手なように振る舞っているが、しかしそれも演技なのではないだろうか?いや演技に違いない!!

 

 ...もしそうだとすると、()()というときに本性を見せ、豹変して襲いかかってくるのだろうか?エロ同人みたいに?私の持ってるエロ同人みたいに!?控えめに言って最高です、ええ!最高ですとも!!!

 

 いや違う!トリップしている場合ではないのだ!とにかく、とにかくだ、まずは確かめねば...

 

 「...あ、あの...渋谷さんは...その、えぇっと....た、単刀直入に言います!!渋谷さんは私と同類(欲求不満)なのですか!!?!?!」

 

 「(同類....?ああ、コミュ障ということだろうか?よし、ここは話を合わせて上手く会話を...)は、はい!僕もそう(コミュ障)ですが...」

 

 やっぱりビッチじゃないか!(歓喜)

 

 だが落ち着くのだ。まだ慌てる時ではない。ここからさらに会話を広げていって...

 

「....け、経験はあるんですか?!?!」

 

「(経験..?経験ってなんだ...?人前で恥を描いた経験なら山ほどあるが...とりあえず頷いとこ)えっと、ありますよ!」

 

 なんとなく予想はついていたが、やはり非童貞か...

 いやしかし!なんら問題はない。むしろこれでいいのだ。これがいいのだ。こういう、やることをやってわかった気でいる男を真の意味でわからせてやるのがたまらなく興奮するのだ。こんなことは薄い本にも書いてあるぞ!すでに予習は済ませてある!何百何千回とな!

 

 「...ええっと、さ、最近はどのくらいシてる(セッ○ス)んですか...?」

 

 「(..したってのは、会話ってことか?うーむ、変わったこと聞くんだなぁ)...えっと、最近友達ができまして、その子達と一応毎日(会話)してます...」

 

 「友達(セ○レ)と毎日(セッ○ス)シてるんですか?!?ほ、本当に!?」

 

 「....?えぇっと、せっかくできた友達ですし、お互いのこととか色々知りたいと思って、はい...」

 

 「お互いのことを?!?色々!!?」

 

 「....??は、はい。僕も(友達なんてできたのは初めてだから)経験なくて不慣れですけど、でも、色々と新鮮で楽しくて..」

 

 ふああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?!?!?お、おちゅちゅけ!!落ち着くのだ!!大当たりだ!これはもう疑いようのないビッチだ!!クソビッチだ!!いや!そんな言葉で片付けられないくらいの、それ以上の逸材じゃあないか!!なんたることだ!!!彼はきっと、私たち喪女が神から賜ったメシアに違いない!!そうじゃなきゃ、説明がつかないだろう!こんなモテない女の妄想が具現化したような男がそうそういてたまるものか!!!

 

 クソッ!!なーにが経験なくて不慣れだッ!!今更カマトトぶっているのか!??完全なヤ○チンじゃあないかッ!!!オラ!謝れ!清楚なふりしてるくせに実はド淫乱でごめんなさいって天と地と私に100回謝れ!!

 

 もう今更何を躊躇うものか!?!言うぞ!今言うぞ!!この鷺沢文香、一世一代の大勝負に出るぞ!!

 

 「..あ、あの!わ、私も渋谷君のお友達(セ○レ)になっても構わないでしょうか!!??」

 

 「(ファ!??ま、マジか...超絶美人の人からお誘い受けちゃったよ...)は、はひ!鷺沢さんのような美人な方と友達になれるなんて、ぼ、僕も嬉しいです!!」

 

 「ーーーーーーーーー」

 

 【速報】鷺沢文香、完全勝利するーー

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 「フーッ...!!フーーッッ.....!!!」

 

 「...あ、あの、鷺沢さん...?どうしかました...???気分でも悪いんですか...???」

 

 なんだ...??なんか急に鷺沢さんの様子がおかしくなってきたんだが...?

 

 まあ多分アレだろう。鷺沢さん、男と会話するのなれてなさそうだしな。自分で言うのもアレだが、というか人のことは言えないが、結構緊張してたんじゃあないだろうか?友達になろうって言うワードを、コミュ障が提案するなんて、同じコミュ障として尊敬するぜ...!

 さすがアイドル!おれたち(コミュ障)にできない事を平然とやってのけるッ そこにシビれる!あこがれるゥ!

 よし、そう言うことなら、俺も勇気を出すぜ!ちょびっとな!

 

 「あ、あの、鷺沢さん。せっかく友達になれたことですし、お互いのためにも、(会話の)練習とかしませんか...??」

 

 「いきなり(セッ○スの)練習ですか!?!?今から!!??」

 

 「...?あ、もしかして実はお忙しかったりしますかね...?」

 

 「い、いいえ!!問題ありません!??むしろ今しか時間取れないくらいです!!ええ!一発()()ましょう!!!」

 

 「そ、そうですか。ならさっそく...」

 

 「は、はい!でしたらどこで(セッ○ス)シますか!??」

 

 「...?えっと、ここじゃだめですか??」

 

 「ここ(喫茶店)で!?ここ(喫茶店)で(セッ○ス)するつもりだったんですか?!?」

 

 「えぇ..!?ま、まずいですかね....??」

 

 「まずいに決まってるでしょう!!何を考えているんですかあなたは!!?(プレイが)ハードすぎますよ??!」

 

 ..な、なんだ??なんか微妙に噛み合っていない気がするんだが...??喫茶店じゃあダメなのだろうか...?というか今も会話しまくってるんだが...

 

 「で、でも、僕はよく友達と放課後に、そこらのファストフード店とかショッピングモールとかでーーー」

 

 「わーー!??そ、そんな場所で(セッ○ス)なんてできるわけないじゃないですか!!!し、渋谷君はそういう(野外プ○イ)のがお好きなんですか!?」

 

 「.....??えぇっと、僕は別に場所なんて気にしませんよ....??落ちついて過ごせるならどこでもOKですが..」

 

 「ほああああぁぁぁぁぁぁーーーーーー!?!?!?!?!?!?!」

 

 い、いやいや本当に鷺沢さんはどうしてこんなにも動転しているんだ???

 

 ...ハッ!も、もしや友達になろうと言うのはただの社交辞令のようなもので、私のさっきの提案は完全なる余計なお世話だったのか???う、迂闊だった...!この渋谷優、こんな初歩的なミスを...!

 

 そうだ、前世でも私は、こういった友好的な素振りを見せて近づいてくる相手に対して、変に勘違いしてなるものかと固く誓っていたではないか...!ぼっちの私などと仲良くなろうなんてするものは、十中八九よからぬ企みをしているものだと、散々学んできたではないかッ!クソッ!!この愚か者め!クラスのDQNにからかわれ、辱めを受けたあの日々をもう忘れたのか!!?

 

 いや、鷺沢さんは悪い人ではないはずだ、それはわかっているのだ。ただ私とどう接すればいいのか分からず、場を濁して適当に解散しようと考えていたんじゃあないだろうか??すまない鷺沢さん、同じコミュ障としてあるまじき過ちをしてしまった。。許してくれ。。。

 

 「...すみません渋谷君。せっかくのお誘いですけど、い、今の私では到底あなたについていけません...また今度誘ってもらってもよろしいですか...?」

 

 「....あ、はい。それは全然...こちらこそ、無理を言ってしまったようで...」 

 

 「いいえ、いいえ、渋谷君は悪くありませんよ。やはり私の覚悟が甘かったのです。奏さんの前でアレほど啖呵を切っておいてこの体たらく...もう顔向けできません...ふ、ふふ。ふふふ、ふふふふふ...」

 

 見ろ、この鷺沢さんの顔を。これはまるで、己の価値観では到底理解できないような、不可思議な、奇怪な存在と遭遇したような、そんな顔をしているじゃあないか。あぁ...姉の同僚相手になんてことを...私はそれほどまでに失礼な対応をしてしまったということか....

 

 結局、そのまま鷺沢さんとは気まずいままに別れてしまった...もうダメだ...おしまいだァ....また今度はーちゃんに慰めてもらうしかーーー

 

 ....い、いや、待て!もしかして久川姉妹も私のことなんて友達ともなんとも思っていないんじゃあないだろうか??馬鹿な!!そ、そんなことあるものか!この前だって一緒にプリクラ撮ったしーーー

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 この後も、疑心暗鬼に陥った渋谷優の面倒臭い自問自答が延々と続くのだが、それを詳らかにするというのは蛇足だろう。

 

 果たして、二人の誤解が解けるのはそう遠くはないーーー

 

 

 

 

 




ジョジョに夢中になっていたら、続きを書く事をすっかり忘れてしまいまして...一月開いちゃいましたね。

でも、春休みが終わって大学が始まればもっと遅くなるかもしれません。それでも待っていただ けるという方がいれば幸いですというか恐縮ですというか...

今回は僕のかなり好きな鷺沢さんメインです。結果、書きたいことを書いてたらそれなりの文字数になってしまいましたね、ダラダラ長すぎるわボケェ!っと思われた方もいるかもしれません。お兄さん許して。。。

好評、酷評、いずれもお待ちしております。

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